★まもなく発売となる、ちくま学芸文庫2月新刊5点を列記します。
『(見えない)欲望へ向けて――クィア批評との対話』村山敏勝著、ちくま学芸文庫、2022年2月、本体1,200円、文庫判356頁、ISBN978-4-480-51097-6
『交響する経済学』中村達也著、ちくま学芸文庫、2022年2月、本体1,300円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-51108-9
『言語・真理・論理』A・J・エイヤー著、吉田夏彦訳、ちくま学芸文庫、2022年2月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51060-0
『時間の歴史』ジャック・アタリ著、蔵持不三也訳、ちくま学芸文庫、2022年2月、本体1,600円、文庫判496頁、ISBN978-4-480-51099-0
『大学数学の教則』矢崎成俊著、ちくま学芸文庫、2022年2月、本体1,700円、文庫判544頁、ISBN978-4-480-51109-6
★『(見えない)欲望へ向けて』は、英文学者の村山敏勝(むらやま・としかつ, 1967-2006)さんが2005年に人文書院より上梓した単行本の文庫化。博士論文に「若干の修正を加えたもの」(あとがきより)。帯文に曰く「クィアな読解とは何か。ディケンズ、セジウィックからベルサーニまで。読むことの解放と束縛をも見据えた先駆的名著」と。巻末解説「秘密の在り処」は田崎英明さんがお書きになっています。
★『交響する経済学』は、中央大学名誉教授の中村達也(なかむら・たつや, 1941-)さんが1993年から2022年の約30年刊にわたり各媒体で発表してきた論考を、文庫オリジナルで1冊にまとめたもの。「経済学者たちの処方箋」「戦後経済学のマトリックス」「経済学における中心と周縁」「ライフスタイルと経済」の全4章構成。
★『言語・真理・論理』は、英国の哲学者エイヤー(Alfed Jules Ayer, 1910-1989;「エア」とも表記)の『Language, Truth & Logic』(初版1936年、改訂版1946年)の訳書(岩波書店、1955年)を文庫化。凡例最終項によれば「文庫収録にあたって翻訳著作権者の了解を得て、かなづかいと字形をあらためた」とのことです。巻末解説は、青山拓夫さんによる「彼も形而上学者である」。索引あり。
★『時間の歴史』は、フランスの思想家アタリ(Jacques Attali, 1943-)の『Histoires du temps』(Fayard, 1982/1983)の訳書(原書房、1986年)を文庫化。帯文に曰く「日時計・ゼンマイ・重錘・クオーツ――時間を統御する人類との共謀関係」と。巻頭の凡例には「両底本に異同がある個所は、訳者の判断においていずれかの表現を採用した」とあり、これは親本の表記と変わりありません。文庫版の巻末特記によれば「原書新版に伴う加筆や変更等を反映してある」とのこと。新版というのが1983年版のことなのか2014年の電子版のことなのかは不明。ともあれ新たに付された「文庫版訳者あとがき」によれば本書は改訂版とのことですので、改訳決定版という理解で良いものと思われます。
★『大学数学の教則』は、明治大学教授の矢崎成俊(やざき・しげとし, 1970-)さんが2014年に東京図書より上梓した単行本の文庫化。巻末特記に曰く「大幅に加筆し、修正を施した」とのこと。帯文には「書き下ろし「解答」を大幅増補」とあります。「高校までは「与えられた問題をいかに解くか」〔…〕大学以降では「問題がいかにして作られたか」あるいは「問題をどのように作るのか」〔…〕。本書では〔…〕数千年の歴史を背景にもつ洗練された現代数学を学ぶ上で必要となる考え方やいわゆる作法について学び、「天下り的に享受してきた数学から脱却して、自分でつくって考えるオトナの数学へ進化すること」を目標にする」(はじめに、3頁)。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『人生相談を哲学する』森岡正博著、生きのびるブックス、2022年2月、本体1,800円、四六判並製224頁、ISBN978-4-910790-00-8
『新映画論 ポストシネマ』渡邉大輔著、ゲンロン、2022年2月、本体3,000円、四六判並製480頁、ISBN978-4-907188-44-3
『歴史のなかの朝鮮籍』鄭栄桓著、以文社、2022年2月、本体4,600円、四六判上製512頁、ISBN978-4-7531-0368-3
『個と普遍――レヴィナス哲学の新たな広がり』杉村靖彦/渡名喜庸哲/長坂真澄編、法政大学出版局、2022年1月、本体6,000円、A5判上製422頁、ISBN978-4-588-15122-4
『台湾文学ブックカフェ(2)中篇小説集 バナナの木殺し』呉佩珍/白水紀子/山口守編、池上貞子訳、作品社、2021年1月、本体2,400円、四六判並製268頁、ISBN978-4-86182-878-2
『張赫宙日本語文学選集――仁王洞時代』南富鎭/白川豊編、作品社、2022年1月、本体3,600円、46判上製400頁、ISBN978-4-86182-883-6
★『人生相談を哲学する』は、まもなく発売。昨年10月に設立された出版社「生きのびるブックス」の書籍第一弾で、早稲田大学教授の森岡正博(もりおか・まさひろ, 1958-)さんによる哲学エッセイです。「朝日新聞」での人生相談コーナー「悩みのレッスン」(のちに「生きるレッスン」と改名)の連載をもとに「自分の書いた人生相談の回答そのものを哲学的に振り返って」みたもの(あとがきより)。同社の本を扱いたい書店さんは、トランスビューや八木書店経由で仕入れることが可能です。
★『新映画論』は発売済。ゲンロン叢書の第10弾。跡見学園女子大学准教授で、映画史研究者・批評家の渡邉大輔(わたなべ・だいすけ, 1982-)さんが2016年1月から2018年7月まで、ゲンロンの電子批評誌「ゲンロン観光通信」「ゲンロンβ」で26回にわたり連載された「ポスト・シネマ・クリティーク」を、「テーマごとにあらためて整理し直し、大幅に加筆修正を施したもの」(はじめにより)。版元紹介文に曰く「『新記号論』『新写真論』に続く、新時代のメディア・スタディーズ第3弾」とも。
★『歴史のなかの朝鮮籍』は発売済。明治学院大学教授の鄭栄桓(チョン・ヨンファン, 1980-)さんによる書き下ろし。初出一覧によれば、一部、2011年から2017年に発表した4本の論考には「全面的な加筆修正を加えた上で再構成した」とのことです。帯文に曰く「在日朝鮮人史、外国人登録と出入国管理制度の戦後史、国籍をめぐる日朝関係史から読み解く、「分断状況」を生きる尊厳としての「朝鮮籍」」に迫る、重厚な一書。
★残る3点は先月発売。『個と普遍』は、2019年11月16~17日に早稲田大学で、同年11月30日~12月1日に京都大学で、日本現象学会、レヴィナス協会、京都大学宗教学研究室が共催した国際シンポジウム「個と普遍――エマニュエル・レヴィナスと「極東」の思考」の記録。フランスの国際レヴィナス協会や米国の北米レヴィナス協会が協力し、海外勢の発表も充実。「レヴィナスと「東方/東洋」」「レヴィナスとケアの倫理」「レヴィナスと新たな対話」の三部構成。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★作品社さんの1月新刊から2点。『バナナの木殺し』は「台湾文学ブックカフェ」全3巻の第2回配本。中編小説3本、邱常婷(チウ・チャンティン, 1990-)「バナナの木殺し」2019年、王定国(ワン・ティンクオ, 1954-)「戴美楽嬢の婚礼」2016年、周芬伶(チョウ・フェンリン, 1955-)「ろくでなしの駭雲」2002年、を収録。『張赫宙日本語文学選集』は、『張赫宙日本語作品選』(勉誠出版、2003年)の姉妹編。張赫宙(チャン・ヒョクチュ, 1905-1997)は植民地期朝鮮の日本語作家。本書では代表作「仁王洞時代」を含む11篇の小説と8篇のエッセイを収録。貴重な1冊です。