★ここ半年ほどの間、ブログで言及しそびれていた文庫本を並べてみます。単行本でもそうした本があるのですが、それはまたの機会に。ではまず講談社学術文庫から。
『永遠の平和のために』イマヌエル・カント著、丘沢静也訳、講談社学術文庫、2022年1月、本体680円、A6判128頁、ISBN978-4-06-526730-1
『方法叙説』ルネ・デカルト著、小泉義之訳、講談社学術文庫、2022年1月、本体650円、A6判112頁、ISBN978-4-06-526729-5
『自然真営道』安藤昌益著、野口武彦抄訳、講談社学術文庫、2021年12月、本体1,600円、A6判496頁、ISBN978-4-06-526513-0
『日本の古式捕鯨』太地五郎作著、中沢新一解説、講談社学術文庫、2021年10月、本体880円、A6判160頁、ISBN978-4-06-524720-4
『新視覚新論』大森荘蔵著、講談社学術文庫、2021年9月、本体1,310円、A6判376頁、ISBN978-4-06-524944-4
『我と汝』マルティン・ブーバー著、野口啓祐訳、講談社学術文庫、2021年8月、本体1,000円、A6判256頁、ISBN978-4-06-524626-9
★カントやデカルトの新訳、安藤昌益や太地五郎作のような日本的思考の再召喚、大森やブーバーなど古典の復刊など、もっとも共感し、心を動かされたのは、講談社学術文庫でした。安藤昌益(あんどう・しょうえき, 1703-1762)の現代語訳が今まで文庫化されていなかったのはただただ不思議ではありましたが、本書をきっかけに再評価がいっそう広がると良いです。管啓次郎さんによる巻頭エッセイ「昌益の道、土の道」に曰く「面食らった。ついで、考えこんだ。この人は只者ではない」。本書から新しい出会いが始まるでしょう。たとえば、エコロジー的思考を考える上で、今回のエントリーで掲出した書目から挙げるなら、安藤昌益『自然真営道』とベイトソン『精神と自然』は一緒に購入した方がいいですし、さらに『日本の古式捕鯨』『世界の調律』『石ノ森章太郎コレクションーーSF傑作選』を加えると、生態環境の捉え方自体をも考える読書になるはずです。
★次に岩波文庫。
『新約聖書外典 ナグ・ハマディ文書抄』荒井献/大貫隆/小林稔/筒井賢治編訳、岩波文庫、2022年1月、本体1,380円、文庫判510頁、ISBN978-4-00-338251-6
『精神と自然――生きた世界の認識論』グレゴリー・ベイトソン著、佐藤良明訳、岩波文庫、2022年1月、本体1,130円、文庫判446頁、ISBN978-4-00-386018-2
『ジンメル宗教論集』ジンメル著、深澤英隆編訳、岩波文庫、2021年12月、本体1,130円、文庫判444頁、ISBN978-4-00-336446-8
『ドガ ダンス デッサン』ポール・ヴァレリー著、塚本昌則訳、岩波文庫、2021年11月、本体1,350円、文庫判318頁、ISBN978-4-00-325606-0
『反啓蒙思想 他二篇』バーリン著、松本礼二編、岩波文庫、2021年11月、本体900円、文庫判312頁、ISBN978-4-00-336842-8
『梵文和訳 華厳経入法界品(下)』梶山雄一/丹治昭義/津田真一/田村智淳/桂紹隆訳注、岩波文庫、2021年10月、本体1,010円、文庫版392頁、ISBN978-4-00-333453-9
『国家と神話(下)』カッシーラー著、熊野純彦訳、岩波文庫、2021年9月、本体1,130円、文庫判448頁、ISBN978-4-00-336737-7
『パサージュ論(五)』ヴァルター・ベンヤミン著、今村仁司/三島憲一/大貫敦子/高橋順一/塚原史/細見和之/村岡晋一/山本尤/横張誠/與謝野文子/吉村和明訳、岩波文庫、2021年8月、本体1,070円、文庫判456頁、ISBN978-4-00-324637-5
『梵文和訳 華厳経入法界品(中)』梶山雄一/丹治昭義/津田真一/田村智淳/桂紹隆訳注、2021年8月、本体1,070円、ISBN978-4-00-333452-2
★なんと言っても、ベイトソンの初文庫化と、『バーリン選集』『ナグ・ハマディ文書』の精選文庫化を喜びたいです。バーリンはまもなく『マキアヴェッリの独創性 他三篇』が発売ですが、現在品切の『ハリネズミと狐――『戦争と平和』の歴史哲学』(河合秀和訳、1997年)も重版していただくのが良いんじゃないでしょうか。ベイトソンは続刊を期待したいです。
★続いて、角川ソフィア文庫と、光文社古典新訳文庫。
『中国名詩鑑賞辞典』山田勝美著、角川ソフィア文庫、2021年8月、本体1,680円、 文庫判784頁、ISBN978-4-04-400621-1
『日蓮の手紙(ビギナーズ 日本の思想)』日蓮著、植木雅俊訳解説、角川ソフィア文庫、2021年7月、本体1,400円、文庫判576頁、ISBN978-4-04-400614-3
『イタリア紀行』上下巻、ゲーテ著、鈴木芳子訳、光文社古典新訳文庫、2021年12月、本体1,620/1,320円、文庫判704/480頁、ISBN978-4-334-75454-9/978-4-334-75455-6
★角川ソフィア文庫は上記のほか、「ビギナーズ 日本の思想」で『三酔人経綸問答』21年12月、「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」で『風土記』21年11月、『吾妻鏡』21年11月、『三十六歌仙』21年10月、『権記』21年9月、無印で五来重『鬼むかし 昔話の世界』21年10月、などを買いそびれてしまったので、書店店頭で後日確認したいと思います。光文社古典新訳文庫は、人文系のものは随時当ブログで言及していると思いますが、それでも再チェックしてみると、21年8月刊『今昔物語集』を買いそびれていたことに気づきました。
★そのほかの文庫を列記します。
『ケインズ 説得論集』ジョン・メイナード・ケインズ著、山岡洋一訳、日経ビジネス人文庫、2021年12月、本体1,300円、A6判344頁、ISBN978-4-532-24014-1
『日本迷信集』今野圓輔著、河出文庫、2021年10月、本体900円、文庫判264頁、ISBN978-4-309-41850-6
『ウィトゲンシュタイン・文法・神』アラン・キートリー著、星川啓慈訳、法藏館文庫、2022年1月、本体1,200円、文庫判293頁、ISBN978-4-8318-2631-2
『新装版 世界の調律――サウンドスケープとはなにか』R・マリー・シェーファー著、鳥越けい子/尾川博司/庄野泰子/田中直子/若尾裕訳、平凡社ライブラリー、2022年1月、本体2,300円、B6変判584頁、ISBN978-4-582-76926-5
『谷崎マンガ――変態アンソロジー』谷崎潤一郎/榎本俊二/今日マチ子/久世番子/近藤聡乃/しりあがり寿/高野文子/中村明日美子/西村ツチカ/古屋兎丸/山口晃/山田参助著、中公文庫、2021年8月、本体700円、文庫判280頁、ISBN978-4-12-207097-4
『石ノ森章太郎コレクション――SF傑作選』石ノ森章太郎著、ちくま文庫、2021年8月、本体800円、文庫判304頁、ISBN978-4-480-43761-7
★毎回思うのですが、人文書版元は法蔵館さんを見習って文庫レーベルに挑戦したらどんなにか素晴らしいだろうと思います。採算から言っていかにそれが、始めるのも持続するのも困難であれ、です。これから大書店はさらに少なくなっていき、高価な人文書はいよいよ店頭では扱われなくなる可能性があります。では300坪以下の店舗に、人文書版元はどう自社商品をアピールするのか。中規模以下の店舗に訴求しうる価格帯のレーベル制作に挑戦することはできないのだろうか。大手の既成文庫と張り合うのではなく、差別化できる商品が作れるはずです。むろんそれは簡単ではない。岩波文庫や講談社学術文庫、角川ソフィア文庫、ちくま学芸文庫、平凡社ライブラリーがそもそも現時点で置かれていない店舗に、人文書の新しい文庫レーベルが並ぶのは困難でしょう。置けば売れるという時代ではもはやない。世の中には書籍以外の魅力的なコンテンツが溢れています。大取次のバラマキ配本自体も見直す必要がある。文庫はどうしても大量販売を前提としています。少部数出版向きの器ではない。少部数限定に振り切ってしまえばあるいは可能かもしれませんが、それでは万民向けの事業ではない。現実を踏まえてそう引き算すると、最初から文庫への挑戦などはなから「無駄」に思えてきます。いまある出版流通や販売の仕組みからいったん離れて、「世の読書子とのうるわしき共同」(岩波茂雄)をゼロから考え直す余地を自ら生み出す必要があります。そうしないかぎり、不可能を可能にはできないでしょう。新世界にはたどり着けないでしょう。我ながら馬鹿なことを言うものだとは思いますが、聞いたことがないような個性的な新しいレーベルが繁茂する見たこともない文庫売場を実現するために、立ち上がる人々がいても良いのではないか。