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注目新刊:東浩紀『哲学の誤配』ゲンロン、ほか

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『哲学の誤配』東浩紀著、ゲンロン、2020年5月、本体1,800円、四六判並製208頁、ISBN978-4-907188-37-5
『創造する心――これからの教育に必要なこと』Marvin Minsky著、Cynthia Solomon/Xiao Xiao編、大島芳樹訳、オライリー・ジャパン発行、オーム社発売、2020年4月、本体2,400円、四六判並製296頁、ISBN978-4-87311-900-7

『ランスへの帰郷』ディディエ・エリボン著、塚原史訳、三島憲一解説、みすず書房、2020年5月、本体3,800円、四六判上製264頁、ISBN978-4-622-08897

『国富論(下)』アダム・スミス著、高哲男訳、講談社学術文庫、2020年5月、本体2,190円、A6判並製704頁、ISBN978-4-06-519093-7

『スーパーナチュラル・ウォー』オーウェン・デイヴィス著、江口之隆訳、ヒカルランド、2020年4月、本体3,200円、四六判上製384頁、ISBN978-4-86471-865-3



★『哲学の誤配』は「ゲンロン叢書」第7弾で、第6弾の『新対話篇――東浩紀対談集』と同時発売。株式会社ゲンロンの創業10周年を記念した出版物です。帯文に曰く「韓国の読者に向けて語った2つのインタビューと、中国・杭州での最新講演を収録。日韓並行出版」。第1の対話「批評から政治思想へ」は2012年6月に、第2の対話「哲学の責務」は2018年8月に、それぞれ東さんの著書の韓国語訳者・安天(アンチョン)氏が聞き手となったもの。安天氏は巻末の「日本語版刊行によせて」も書かれています。付録として2019年11月の中国講演「データベース的動物は政治的動物になりうるか」の草稿を収録。本書の韓国語版(韓国語題は『哲学の態度』)に収められた、批評家パク・カブン氏による解説「東浩紀との出会い」も安天さんによって訳出され日本語版へ併載されています。


★第2の対話では、安天さんの「ポストモダニストたちは主張と実践が乖離しているということでしょうか」という質問に、東さんは次のようにお答えになっています。「そうです。いっていることとやっていることがちがいすぎます。人文学の研究者は一方で国家を批判する。けれども、現実では文学部が危機に瀕し、美術館が閉鎖されかねない状況になると、デモをして国家に支援を要求する。これではつじつまが合わない。自由な知のアソシエーションを唱えながら、他方でそのために国家の支援を欲しがるというのは、子どもでもわかる矛盾です。でもみんなそこは見ないふりをして、それが矛盾でないかのような小むずかしい理屈をつくっている。信頼を失うのは当然だと思います」(100頁)。大学教員ではなく在野の一企業家として活動されている東さんならではの鋭い指摘です。


★このほか後段では、人文学の研究手法が現実の変化に対応できていないのではないか、というやりとりがあります。消費様式の変化や、コンテンツだけでなくコミュニケーション(アーキテクチャ)の仕組みに対し注目することの重要性が語られます。安天さんは東さんの議論の主旨を引き受けつつこう確認します、「人文学が構築してきた方法論自体がコンテンツの読解を目的としているので、コミュニケーションやその仕組みのもつ意味を汲み取れないという傾向があると」。東さんの答えは次の通りです。「そのとおりです。とりわけ新しい情報技術に関する議論では、個々のコンテンツはさほど重要ではないことが多いものです。ユーチューブのすごさは、そこに投稿されている動画にはありません。プラットフォームの革新、仕組みの革新こそが刺激的な部分です。だから、仕組みそのものをおもしろいと思えるかどうか、という感性のちがいが重要になってくる。/この感性のちがいはなかなか深刻です」(112頁)。さらにこの後、次のように東さんは続けます。


★「ぼくは、批評や人文知を復活させるために大事なのは、まずは書き手より読者だと思っています。読者がいなければ書き手も存在しません。いま日本で批評や人文知が苦境に陥っているのは、要は読者が減っているからです。だから、読者こそ再生する必要がある。書き手を養成するのではなく、まずは批評や人文知が好きなひとたちをつくらなければならない。ぼくはそのような考えをもってゲンロンやゲンロンスクールを運営しているのですが、理解してくれるひとがじつに少ない。すごい論文を読みたい、すごいひとが現れてほしい、といったひとばかりで、読者をつくり上げることの重要性を理解しているひとはほとんどいない。このことが人文知の衰退の理由だと思います。人文知の未来について考えたとき、コンテンツからプラットフォームやアーキテクチャのほうへ発想をシフトすることは、理論的にも実践的にもとても重要です」(113頁)。


★読者を育てていない、という危機感に強い共感を覚えます。一部の出版人や書店人はまさにそこに焦点を絞ろうとして日々もがいていますが、もっとどん欲にゲンロンや東さんの活動からヒントを得てマネしていいのではないか。むろん簡単にはマネできないですが、模倣することから自分たちの現場の問題点が浮かび上がってくるはずです。東さんの著書は近年ますます、業界人必読になっています。これは一出版人の媚でもへつらいでもなく、東さんの格闘を他人事とは思えないからです。意識ある業界人や教育者はそう思っているはずだと私は予感しています。


★『創造する心』は『Inventive Minds: Marvin Minsky on Education』(The MIT Press, 2019)の訳書。ミンスキー博士による子供の教育論が、「無限の組み立てキット」「数学を学ぶのはなぜ難しいのか」「年齢別クラスの弊害」「ロール・モデル、メンター、インプリマから学ぶ」「一般教育を問う」「教育と心理学」の6つのエッセイとして収められています。日本語版独自のコンテンツとして、巻頭に静岡大学教授の竹林洋一さんによる「日本語版刊行に寄せて」、巻末に日本語版特別寄稿として日本学術振興会顧問で内閣府人工知能戦略実行会議座長の安西祐一郎さんによる「“創造するこころ”を創造する環境」が収録されています。さらに原書ではミンスキーの第1エッセイ「無限の組み立てキット」へのあとがきとして収められていたアラン・ケイによる文章が、無削除版草稿からの翻訳で、日本語特別版あとがき「マーヴィン・ミンスキーと究極のティンカートイ」として巻末近くに併載されています。元版のあとがきはミンスキー博士の長女マーガレット・ミンスキー氏によるものですが、こちらも訳出されています。


★「インプリマ」についてミンスキーは次のように書いています。「インプリマ(imprimer):インプリマとは、子どもが愛着を持つ対象となった人のことである。子を育てる習性のある動物では、幼い子が持つ愛着が果たす機能は明らかである。子のすぐそばに親がいることによって、栄養を与えることができ、生存に必要な知識を教え、危険から守ることができる。しかし人間においては、子どもの究極的価値基準と目標に影響を及ぼすという、さらなる意味を持つ。インプリマが褒めてくれれば、特別で身震いするような興奮を感じ、現在行っている活動の目標の優先度が上がる。もし恥の感情を持つと、現在の目標は価値が下がる。/あなたが尊敬できる仕事をしている人に会った時は、その人のスキルを獲得したいと思う。しかし、インプリマであれば、スキルだけではなく、その人の価値基準も獲得し、さらに一般的に言えば、その人自身になりたいと思う。〔…〕私たちが教育について考える時には、子どもが持つ愛着について注意深く考える必要がある」(132頁)。


★『ランスへの帰郷』はディディエ・エリボン(Didier Eribon, 1953-)の自伝『Retour à Reims』(Fayard, 2009)の全訳。日本では『ミシェル・フーコー伝』(田村俶訳、新潮社、1991年)や、デュメジル、レヴィ=ストロースへのインタヴュー本(『デュメジルとの対話――言語・神話・叙事詩』松村一男訳、平凡社、1993年;『遠近の回想』竹内信夫訳、みすず書房、1992年、増補新版2008年)などで知られていますが、仏独ベストセラーとなった本作で、日本でもエリボンその人の生きざまと思想に注目が集まるようになることを期待したいです。訳者あとがきで塚原さんは「労働者階級という出自とゲイとしての生き方をご50代半ばで改めて直視するために、あえて「自伝」を書かずにはいられなかった彼の心情が素直に伝わってくる」と評しておられます。なお本書で言及されているエリボンの主著には『ゲイ問題に関する考察』(Réflexions sur la question gay, Fayard, 1999)や『マイノリティのモラル』(Une morale du minoritaire. Variations sur le theme de Jean Genet, Fayard, 2001)などがあります。いずれも未邦訳。


★エリボンは、極右政党を支持していたという2人の弟に言及し、次のように書いています。「社会的地位は基本的には出自の階級に結びついたままであり、元の地位とそれにともなう決定論に制約されている〔…〕。結局、この種の制約は、ます自分の意志で学校に行かなくなることから始まり、学校教育のシステムから排除された者たちに提供される職業や職種の選択が制限される事態へとつながるのだが、教育システムは排除されることを自発的に選んだと、彼らに思い込ませてしまう。/こう考えると、私は次のような問いかけに直面することになる。もし弟たちを気づかっていたら、もし彼らの学校での勉強を援助していたら、もし彼らに読書の楽しみを教えていたら、どうなっていただろうか? というのも、学問を理解する明晰さを身につけたり、本が好きになって読書をしたくなったりすることは、誰にでも最初から備わっている特質ではなくて、むしろ社会的境遇や所属する環境と関連しているのであり、弟たちの場合には、同じ環境で育ったほとんどすべての子どもたち同様、社会的境遇が、私が奇跡的にめざすことになった目標を拒絶する方向へと彼らを向かわせたのだ」(105~106頁)。


★「学校による選抜と排除の過酷な論理」(106頁)を自分が阻止できただろうか、と問いつつ、弟たちの「守護者」になれなかったことにエリボンは罪悪感を抱いていた、と告白します。この自伝ではほかにも様々なエピソードや家族関係の変化が描かれており、部分的な引用がためらわれるほど複雑な側面があります。





★『国富論(下)』は先月発売の上巻に続く新訳全2巻の下巻。底本は1789年の第5版で原著では全3巻のところ訳書では2分冊となっています。下巻では第四編「政治経済学の体系について」の第五章「助成金について」から、第五編「統治者または国家の収入について」の第三章「公債について」まで。巻末には訳者解説と主要事項索引、人名索引が配されています。訳者の高さんは解説でこう述べておられます。「第五編の課題は、「公共の利益」をいかに確保するべきかという問題、つまり、「公共」というものの制度設計をめぐる議論で埋め尽くされている、ということである。ここでは、スミスは「政治」の在り方について分析する経済学者であって、「公共の精度」を、その歴史的発展のプロセスに即して再構成する「制度」の経済学者なのである」(687頁)。高さんは「現代でもなお、いや現代だからこそ、注目すべき「公共の利益」の促進に関する論点と考察」(同)だと評価されています。


★『スーパーナチュラル・ウォー』は『A Supernatural War: Magic, Divination, and Faith During the First World War』(Oxford University Press, 2018)の全訳(索引は一部省略とのこと)。カヴァー表1紹介文に曰く「全世界で死傷者1800万人超――未曾有の大災厄から生まれた無数の伝承・呪物で紡ぎ出す、かつてない〈戦争民俗学/戦争社会史〉の名著」と。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。「超自然信仰と〔信仰〕活動の連続性についていえば、第一次世界大戦は護符とお守りの商業主義化を固めた点で影響があった。さらに魔術的な分野に機械化を組み込んだり、来世観を世俗化したり、心霊分野の心理学化を招くなどしたといえる。戦時下の新聞は、同時代における神的介入や世界の解釈との関連を再形成するうえで重要であった。戦間期の新たな危機と社会発展、とりわけ大恐慌はそれなりの役割を果たしたといえる」(324頁)。著者のオーウェン・デイヴィス(Owen Davis, 1969-)はハートフォードシャー大学歴史学部教授。既訳書には『世界で最も危険な書物――グリモワールの歴史』(宇佐和通訳、柏書房、2010年;著者名の表記は「オーウェン・デイビーズ」;Grimoires: A History of Magic Books, Oxford University Press, 2009)があります。


★なお本書の特設サイトでは購入者特典として、訳者の訳者の江口之隆さん(西洋魔術博物館主宰)による本書の特別解説および関連収蔵品紹介のPDFが、限定公開されています。
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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『不確実性の人類学──デリバティブ金融時代の言語の失敗』アルジュン・アパドゥライ著、中川理/中空萌訳、以文社、2020年5月、本体3,000円、四六判上製カバー装296頁、ISBN978-4-7531-0358-4​
『ハリエット・タブマン――彼女の言葉でたどる生涯』篠森ゆりこ著、法政大学出版局、2020年5月、本体2,800円、四六判並製294頁、ISBN978-4-588-36419-8

『思考の技法』グレアム・ウォーラス著、松本剛史訳、ちくま学芸文庫、2020年5月、本体1,200円、352頁、ISBN978-4-480-09977-8

『フランス革命の政治文化』リン・ハント著、松浦義弘訳、ちくま学芸文庫、2020年5月、本体1,600円、512頁、ISBN978-4-480-09974-7

『民間信仰』桜井徳太郎著、ちくま学芸文庫、2020年5月、本体1,400円、400頁、ISBN978-4-480-09976-1

『古代日本語文法』小田勝著、ちくま学芸文庫、2020年5月、本体1,400円、416頁、ISBN978-4-480-09979-2

『増補 複雑系経済学入門』塩沢由典著、ちくま学芸文庫、2020年5月、本体1,600円、544頁、ISBN978-4-480-09978-5



★『不確実性の人類学』は『Banking on Words: The Failure of Language in the Age of Derivative Finance』(University of Chicago Press, 2015)の訳書。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。第1章「約束型金融の論理」の冒頭にある「論点の要約」の書き出しはこうです。「本書の主な主張は、2007~8年のアメリカの金融システムの失敗は、何よりもまず言語の失敗だったということである。〔…〕このような主張をするためには、いかにして言語が現代金融において新しい役割を担うようになったかを理解する必要がある。〔…〕どのように言語が金融において今日の役割を担うようになったのか理解するには、4つの段階が必要である」(9頁)。アパドゥライ(既訳書ではアパデュライと表記されることもありましたが、アパドゥライの方がより正確なようです)は続けてこう書きます。


★「第一の段階は、どれほどデリバティブが現代金融を特徴づける中心的な技術革新であるかを示すことである。〔…〕第二の段階は、デリバティブは本質的に各種の金融資本の未来における価格に関する書面契約であり、結果として未来にある特定の価格となった場合、合意した金額を負けた方が勝った側に支払うという約束が、その契約の核心であると示すことである。〔…〕第三の段階は、定義上商品価値を表現する最も抽象的な形態である貨幣が金融の世界においてとる特殊な形態を介して、デリバティブが契約の言語的な力をいかに利用しているかを示すことである。最後に来る第四の段階は、デリバティブ市場(とくに住宅ローンの領域における)失敗は、何よりも(オースティンの遂行的発話の分類において最も重要な)失敗した約束、すなわち、時たま起こるその場限りのものではなく、体系的で伝染性があるため金融市場全体を破滅の寸前にまで追いやるタイプの失敗にかかわっていると理解することである」(9~10頁)。


★第一章では「この主張について順を追って図式的に述べ」(10頁)、続く各章では「リスク、儀礼、救済、遂行的発話の失敗、そして分人/個人といった概念を、エミール・デュルケーム、マルセル・モース、そしてマックス・ウェーバーの戦略的な再読を通してより詳しく検討する。〔…第7章から第9章までの〕最後の三つの章は、デリバティブと分人に対する従来と異なるアプローチを用いた政治に関するものであり、現代金融の言語的核心から進歩的な政治的教訓を引き出す方法を示す」(10~11頁)。


★ちなみに「分人(dividual)」というのは、訳者解説での説明を借りると、「人は不可分な個人(individual)ではなく複数の関係性の結節点として存在しており分割可能だ」とする人格概念のこと。「アパドゥライによると、デリバティブは「捕食性分人主義」である。ここでは、分割可能なのはトレーダーたち自身ではなくて、その餌食となる債務者たちだ。〔…〕債務者はまとまりを持った人格ではなく、切り分けられて数値化された一連のデータになる。トレーダーたちは、それらのデータを使って不確実性に賭けたのだ。だから、デリバティブは「少数の(利益獲得による)個人化のために他の多数を分人化」(本書172頁)するものである」(274頁)と訳者は論及しています。


★アパドゥライは捕食性分人主義ではなく、人々が皆、贈与によって豊かさを共有できるような「進歩的分人主義」の可能性を論じます。「グローバル金融から古い考え方(国民国家)を守ろうとするのではなく、それと似た論理を用いながらそれを打ち倒そうとするという「われわれの社会思想の設計のラディカルな変革」(本書180頁)の可能性」(訳者解説、275頁)。本書のユニークな議論に現代人が学べる示唆は多いだろうと感じます。


★『ハリエット・タブマン』は翻訳家の篠森ゆり子さんによる力作評伝。帯文の文言を借りると、タブマンは「奴隷制が敷かれていた19世紀のアメリカで、命をかけて多くの黒人奴隷を救い出し、「黒人のモーセ」と呼ばれた女性」。彼女は「逃亡奴隷を救出する秘密組織「地下鉄道」の車掌として指揮をとり、南北戦争時は北軍のスパイとして活躍し、晩年には女性参政権運動に身を投じた」(版元紹介文より)と言います。篠森さんは「はじめに」でこう書いています。


★「非の打ちどころがない偉人の姿が浮かんでくるけれども、身近な人にとっては決して特別な人間ではなかった。奴隷制廃止運動の仲間のある黒人は、タブマンのことをこう評している。「ごく普通の黒人らしい外見で、読み書きができず、地理もわからず、(病気のせいで)半分は寝ている」。そんな持病のある野育ちの女性が、なぜここまで多くのことをなし遂げられたのか。もちろん彼女が聡明で機略に富み、慎重さと行動力を持ち合わせていたからだが、それだけではなかった。背後には人々の連帯の力があり、それによって彼女の生まれ持った能力が押し出され、最大限に生かされたのである。本書では地下鉄道という連帯の力にも目を向け、掘り下げていきたい」(4~5頁)。


★「本書では、記録に残っている彼女自身の言葉をできるだけ紹介するよう努めた。その言葉を通じて彼女の存在を身近に感じながら一生をたどり、人物像を探っていきたい。そして、生まれつき背負った逆境に負けず、それを克服する生き方を見ていく」(5頁)。「彼女の人間的魅力と壮絶な生きざまは、死後100年以上たった現在でも多くの人々を惹きつけてやまない」(6頁)。


★ちくま学芸文庫の5月新刊は5点。『思考の技法』は文庫のための訳し下ろし。原著はイギリスの政治学者にして社会学者のグレアム・ウォーラス(Graham Wallas, 1858-1932)による1926年の著書『The Art of Thought』です。政治学者の平石耕さんが解説を寄せておられます。アメリカの伝説的広告マンであるジェームス・W・ヤング(James Webb Young, 1886-1973)によるベストセラー『アイデアのつくり方』(今井茂雄訳、TBSブリタニカ、1988年;阪急コミュニケーションズ、2000年;CCCメディアハウス、2015年)の「源泉になった先駆的名著、本邦初訳」と帯文に特記されています。目次は以下の通り。


はしがき
第1章 心理学と思考
第2章 意識と意志
第3章 技法に先立つ思考
第4章 コントロールの諸段階
第5章 思考と情動
第6章 思考と習慣
第7章 努力とエネルギー
第8章 思考のタイプ
第9章 意識の遊離
第10章 教育の技法
第11章 公的教育
第12章 教えと実践
原註
解説(平石耕)
人名索引


★『フランス革命の政治文化』は1989年に平凡社から刊行された単行本の文庫化。原著は『Politics, culture, and class in the French Revolution』(University of California Press, 1984)。文庫化にあたって、著者のリン・ハント(Lynn Avery Hunt, 1945-)さん自身が5頁強に及ぶ「ちくま学芸文庫版へのまえがき」を2020年1月の日付で書き下ろしています。ハントさんは単行本にも「日本語版への序文」を寄せているので、これで2度目の寄稿です。訳者による「ちくま学芸文庫版訳者あとがき」によれば、「この機会に、平凡社のテオリア叢書版の訳文を原文を照合し、不適切と思われる訳語や表記を修正するなどして、日本語としてより自然で読みやすい訳文となるようにつとめた」とのことです。


★『民間信仰』は1966年に塙書房から刊行された単行本の文庫化。著者は2007年に逝去されており、解説「生きた怪異を活写する、それが可能だった時代」を民俗学者の岩本通弥さんが寄せておられます。岩本さん曰く「愛媛県宇和地方(第Ⅰ章)、大分県国東半島(第Ⅱ章)、淡路島(第Ⅲ章)の現地調査に基づいた、1960年代前半に執筆された各論考から、読者が目撃するのは、高度経済成長期以前の、普通の人びとの暮らしの中に、怪異や俗信あるいは信仰が生き生きと蠢いている姿であろう。わずか5、60年前のこの日本に、こうした世界が生きてあったことに、驚嘆する者も少なくないに違いない」。疫病をもたらすハヤリ神、不可視の妖怪ノツゴ、特殊神事ケベス祭、等々、「民衆生活の奥底に息づいている精神」(帯文より)への興味は尽きません。


★『古代日本語文法』は2007年におうふうから刊行された単行本の文庫化。巻頭の「はしがき」によれば、おうふう版は『古典文法読本』(開成出版、2004年)を全面的に改訂した改題新版。「古代語文法の基礎知識」「動詞」「述語の構造」「時間表現」「文の述べかた」「形容詞と連用修飾」「名詞句」「とりたて〔副助詞と係助詞〕」「副文構造」「敬語法」の全10章立て。新たに付された「文庫版あとがき」によれば「若干の字句を修正し、用例のルビを少し多めに増やしたほかは原著のままですが、原著刊行後に見出だされた知見など現時点で補われるべき事項について、若干の補注を新たに加えました」とのことです。「広く日本語文法や日本古典文学に関心を寄せる人々に推奨したい一冊」(カバー裏紹介文より)。


★『増補 複雑系経済学入門』は、1997年に生産性出版より刊行された単行本を増補改訂し文庫化したもの。中核となる4部13章構成のそれそれの題名は変わっていませんが、新たに補章として「『複雑系経済学入門』以後の20年」が加えられ、それに先立つ「読書案内」もアップデートされているようです。著者の塩沢由典(しおざわ・よりのり、1943-)さんは大阪市立大学名誉教授。ご専門は理論経済学です。補章内の節題を以下に列記しておきます。


1. 20年の歩み
2. ブライアン・アーサとサンタフェ研究所の貢献
3. サンタフェ流アプローチへの不満
4. 進化という視点
5. 新しい価値論と経済像
6. 技術進歩と経済発展
7. 金融経済の経済学
8. 一般読者への読書案内


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