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人間社文庫での古部族研究会編『日本原初考』三部作の文庫化、ほか

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『諏訪信仰の発生と展開』古部族研究会編、人間社文庫、2017年12月、本体900円、文庫判並製496頁、ISBN978-4-908627-17-0
『ロバート・キャパ写真集』ICP ロバート・キャパ・アーカイブ編、岩波文庫、2017年12月、本体1,400円、文庫判並製320頁、ISBN978-4-00-335801-6
『リュシス 恋がたき』プラトン著、田中伸司/三嶋輝夫訳、講談社学術文庫、2017年12月、本体700円、A6判並製168頁、ISBN978-4-06-292459-7
『水滸伝(四)』井波律子訳、講談社学術文庫、2017年12月、本体1,850円、A6判並製776頁、ISBN978-4-06-292454-2



★先月発売された文庫新刊からいくつか。名古屋の本屋さん「書物の森」のことは知っていましたが、人間社さんのことは詳しく知りませんでした。その人間社さんが人間社文庫という文庫レーベルを持っていて、その中に「日本の古層」という樹林舎さんが制作しているシリーズがあることをようやく先月、某書店の人文書売場の新刊台で知りました。『諏訪信仰の発生と展開』は「日本の古層」の第4弾。もともとは1978年に刊行された単行本の文庫化です。中沢新一さんが推薦文を寄せておられます。曰く「今日の諏訪信仰研究の隆盛は、すべてこの古部族研究会の活動によって礎が築かれたものである。古代・中世史の研究に前人未到の突破口を開いた名著がここに蘇る」と。本書の中核になっているのは9本の論考と『諏訪祭禮之次第記』の翻刻。守矢早苗さんによる「祖父真幸の日記に見る神長家の神事祭祀」が目を惹きます。本書は古部族研究会が70年代に刊行した『日本原初考』三部作の第3弾。人間社文庫では2017年9月に先行する『古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究』と『古諏訪の祭祀と氏族』が復刊されています。それぞれ山本ひろ子さんと山田宗睦さんの推薦文が帯に記されています。


★『ロバート・キャパ写真集』は帯文によれば「ロバート・キャパが撮影した約7万点のネガから、236点を精選して収録。岩波文庫初の写真集」と。文庫オリジナル編集の写真集のようです。巻頭にICP館長マーク・ルベル氏による序言、巻末に同学芸員シンシア・ヤング氏の解説とロバート・キャパ略年譜が付されています。次にはセバスチャン・サルガドの写真集を文庫化してくれたら嬉しいです。


★講談社学術文庫の『リュシス 恋がたき』は文庫オリジナルの新訳。書名の通り二篇の対話篇を収録しています。翻訳の底本はバーネット版プラトン全集。凡例に寄れば「バーネットとは異なる読みを採る場合には、訳註で説明を加えた」とのことです。訳文の上段にはステパノス版プラトン全集の頁数と段落が銘記されていて、親切です。「リュシス」は友愛を論じ、「恋がたき」は知を愛することすなわち哲学について問います。小さな本ですが、重要です。一方『水滸伝(四)』は全五巻の第四巻。第61回から第82回までを収録。まもなく(1月12日)に第五巻が発売となって新訳完結です。


★次に先月発売の単行本の中から何点か。


『アーレントの二人の師』ハンナ・アーレント著、仲正昌樹訳、明月堂書店、2017年12月、本体1,600円、四六判上製158頁、ISBN978-4-903145-59-4
『フロイト症例論集2――ラットマンとウルフマン』藤山直樹編訳、岩崎学術出版社、2017年11月、本体4,000円、A5判上製264頁、ISBN978-4-7533-1130-9
『批評について――芸術批評の哲学』ノエル・キャロル著、森功次訳、勁草書房、2017年11月、本体3,500円、四六判上製296頁、ISBN978-4-326-85193-5



★『アーレントの二人の師』は巻頭の編集部注記によれば、『暗い時代の人間性について』(情況出版、2002年)と「80歳になったハイデッガー」(『ハンナ・アーレントを読む』情況出版、2001年)を一冊にまとめたもの。再録にあたり、誤字脱字の訂正と表記上の若干の変更(ハイデッガーをハイデガーに、など)を施したとのことです。巻末には仲正さんによる訳者解説「アーレントの二人の師」が収められています。


★『フロイト症例論集2』は2014年の『フロイト技法論集』と同じ監訳者によるフロイトの新訳論集。「強迫神経症の一症例についての覚書(1909)」と「ある幼児神経症の病歴より(1918[1914])を収録。前者がラットマン(鼠男)、後者がウルフマン(狼男)と呼び慣らわされている症例を扱っており、英語標準版を底本として新訳されています。刊行が前後していますが、いずれ『フロイト症例論集1――ドラとハンス』も刊行されるようです。監訳者あとがきによればさらに、「一、二冊、メタサイコロジー論集を刊行し、技法、症例、理論という、フロイト論文のなかで臨床に直接結びつくものについてカバーしたいと思っている」とのことです。ちなみに今月の講談社学術文庫ではフロイトの『メタサイコロジー論』が十川幸司さんの新訳でまもなく発売予定です。



★昨年は2月に注目の芸術論が一気に刊行されました。デイヴィッド・ホックニー/マーティン・ゲイフォード『絵画の歴史――洞窟壁画からiPadまで』青幻舎、アーサー・C・ダントー『芸術の終焉のあと――現代芸術と歴史の境界』三元社、ボリス・グロイス『アート・パワー』現代企画室、ネルソン・グッドマン『芸術の言語』慶應義塾大学出版会。後回しにしているうちに10月には、もう一冊ダントーの『ありふれたものの変容――芸術の哲学』慶應義塾大学出版会が出て、さらに11月には『美術手帖2017年12月号:これからの美術がわかるキーワード100』、そして12月冒頭にはキャロル『批評について――芸術批評の哲学』勁草書房。とてもすべてを追いかけきれるものではないのですが、ひとまずこの中からキャロルを真っ先に選びました。原著は『On Criticism』(Routledge, 2009)です。ノエル・キャロル(Noël Carroll, 1947-)はニューヨーク市立大学大学院センターの哲学プログラム卓越教授で、元アメリカ美学会会長。分析美学を牽引してきた哲学者でそのキャリアの割にはなんと本書が初訳本なのですね。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★このほか最近では以下の書目との出会いがありました。


『イブン・タイミーヤ政治論集』イブン・タイミーヤ著、中田考編訳解説、作品社、2017年12月、本体3,800円、四六判上製338頁、ISBN978-4-86182-674-0
『ビガイルド――欲望のめざめ』トーマス・カリナン著、青柳伸子訳、作品社、2017年12月、本体2,800円、四六判並製432頁、ISBN978-4-86182-676-4
『来者の群像――大江満雄とハンセン病療養所の詩人たち』木村哲也著、編集室水平線、2017年8月、本体1,600円、四六判並製256頁、ISBN978-4-909291-01-1
『遠い声がする――渋谷直人評論集』渋谷直人著、編集室水平線、2017年9月、本体2,000円、四六判並製232頁、ISBN978-4-909291-02-8



★『イブン・タイミーヤ政治論集』は帯文に曰く「イスラーム国法学と政治の一般理論、現代原理主義反体制武装闘争派の革命論に理論的基礎を与えたファトワ―(教義回答)など、現代中東政治を読み解くための最良の古典」と。「シャリーアに基づく政治」「ファトワー:タタール(モンゴル)軍との戦いは義務か?」「イスラームにおける行政監督(ヒスバ)」の翻訳に、訳者解説「何故、今、イブン・タイミーヤなのか?」が付されています。後書によれば、「シャリーアに基づく政治」「ファトワー:タタール(モンゴル)軍との戦いは義務か?」は『イスラーム政治論――イブンタイミーヤ シャリーアによる統治』として1991年に日本サウディアラビア協会から非売品として刊行されていたもので、今回全面的な改訳を施し、「イスラームにおける行政監督」を新たに訳出して加えたもの、とのことです。イブン・タイミーヤ(1263-1328)はシリア生まれ。伝統主義的なハンバリー学派の法学者にして神学者です。本書は中田さんのライフワークともいうべき一書だそうです。


★『ビガイルド――欲望のめざめ』はアメリカの小説家であり脚本家のトーマス・カリナン(Thomas P. Cullinan, 1919-1995)が1966年に上梓した『The Beguiled(惑わされた者たち)』の全訳。南北戦争末期に傷ついた敵兵をかくまうことになった女学園が舞台の物語で、1971年に映画化されたのち、今年にはソフィア・コッポラ監督、ニコール・キッドマン主演、コリン・ファレルほか出演で再映画化され、カンヌ国際映画祭監督賞を受賞しています。同映画は来月、2月23日より日本でも全国公開となるそうです。2段組で400頁を超える長篇。


★木村哲也『来者の群像』と、渋谷直人『遠い声がする』は新刊ではありませんが、昨年の晩夏に創業した「編集室水平線」の新刊2点です。同社は某人文書版元の編集者氏が長崎市で起こした出版社で、今のところ出版物は上記2点。実直な氏らしい、素晴らしい本です。詳細については同社のウェブサイトをご覧ください。現時点では書店での取り扱いはなく、ウェブサイトからの直接注文のみ受け付けているとのことです。


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