『ザッヘル=マゾッホ紹介――冷淡なものと残酷なもの』ジル・ドゥルーズ著、堀千晶訳、河出文庫、2018年1月、本体1,000円、文庫判並製280頁、ISBN978-4-309-46461-9
『呪われた部分――全般経済学試論・蕩尽』ジョルジュ・バタイユ著、酒井健訳、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,300円、文庫判並製384頁、ISBN978-4-480-09840-5
『悪について』エーリッヒ・フロム著、渡会圭子訳、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,000円、文庫判並製240頁、ISBN978-4-480-09841-2
『歓待について――パリ講義の記録』ジャック・デリダ著、アンヌ・デュフールマンテル著、廣瀬浩司訳、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,000円、文庫判並製208頁、ISBN978-4-480-09836-8
『ニーチェ入門』清水真木著、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,100円、文庫判並製272頁、ISBN978-4-480-09830-6
『花鳥・山水画を読み解く――中国絵画の意味』宮崎法子著、ちくま学芸文庫、2018年1月、本体1,200円、文庫判並製304頁、ISBN978-4-480-09838-2
★ドゥルーズ『ザッヘル=マゾッホ紹介』は発売済。原書は『Présentation de Sacher-Masoch: Le froid et le cruel』(Minuit, 1967)で、附録であるマゾッホ『毛皮を着たヴィーナス』のオード・ウィルムによる仏訳は訳出されていません。今回の新訳にあたり、改めて版権が取得されていますので、既訳である蓮實重彦訳『マゾッホとサド』(晶文社、1973年;新装版1998年)は再刊されないということになるかと思われます。蓮實訳がドゥルーズの著書の初訳であったことは周知の通りです。原著刊行から51年目、既訳の出版から数えて45年ぶりの新訳となる今回の文庫版の目次は以下の通りです。
序
サド、マゾッホ、ふたりの言語
描写の役割
サドとマゾッホの相補性はどこまで及ぶのか
マゾッホと三人の女性
父と母
マゾッホの小説的要素
法、ユーモア、アイロニー
契約から儀式へ
精神分析
死の本能とはなにか
サディズムの超自我とマゾヒズムの自我
補遺
Ⅰ 幼年期の記憶と小説についての考察
Ⅱ マゾッホの普通の契約書
Ⅲ ルートヴィヒ二世との情事(ワンダの語るところによる)
原注
訳注
訳者あとがき
★ちくま学芸文庫の今月新刊5点はまもなく発売(10日頃)。バタイユ『呪われた部分』は同文庫では2003年の中山元訳『呪われた部分――有用性の限界』に続く新訳。より正確に言えば、中山訳の底本はガリマール版全集第7巻『有用性の限界――「呪われた部分」の破棄された版の断章』(1976年)であり、「バタイユがほぼ15年間にわたって書き残した『呪われた部分』の草稿、アフォリズム、ノート、構想をまとめたもの」(中山版訳者あとがきより)。今回の酒井訳は1949年にミニュイから刊行された初版本にもとづき、補遺として1933年1月に『社会批評』誌に発表された論考「消費の概念」を併載しています。つまり中山訳と酒井訳は草稿と刊本の関係にあり、酒井訳は生田耕作訳(二見書房版「ジョルジュ・バタイユ著作集」1973年)以来の45年ぶりの刊本版の新訳となります。(より詳しく言うと、生田訳では三種類のテクスト(初版本に加え、バタイユの死後に刊行された1967年の再販本と1971年のプワン叢書版)を「たえず照合して万全を期した。各版にわたって本文の字句の異同はないが、とくに引用文の組み方、行間空白のとりかた等に、かなり違いが見出される」と訳者あとがきで特記されています。)
★フロム『悪について』は文庫オリジナルの新訳。原著は1964年に刊行された『The Heart of Man: Its Genius for Good and Evil』です。既訳には鈴木重吉訳(紀伊國屋書店、1965年)があり、日本でも長く読み継がれてきた名著です。今回の53年ぶりの新訳にあたり、出口剛司さんによる「エーリッヒ・フロム『悪について』の新訳に寄せて」が巻末に付されており、本書を「『自由からの逃走』の続編であると同時に、『愛するということ』と一対をなす書物とフロム自身は位置付けている」と紹介され、「まもなく死語40年を経過しようとしているが、フロムの人気は依然として高く、そのアクチュアリティはいまだ汲み尽くされてはいない」と評価されています。
★デリダ『歓待について』は産業図書より1999年に刊行された単行本(原著は1997年刊)の文庫化。巻末特記によれば「訳文を前面に再検討し、副題を〔「パリのゼミナールの記録」から「パリ講義の記録」に〕改めた」とのことです。文庫版のためのあとがきによれば、訳者の廣瀬さんが文庫化の相談を受けたのは「たまたま『歓待の終焉』と題された書籍を手に取っていたときであった」と言います。『歓待の終焉』はギョーム・ル・ブラン(Guillaume Le Blanc, 1966-)とファビエンヌ・ブルジェール(Fabienne Brugère, 1964-)の共著としてフラマリオンから2017年に刊行された書籍で、ヨーロッパにおける難民問題を論じたもの。二人揃って2015年に来日講演を果たしているほか、それぞれ著書の訳書も出ています。ル・ブランは『働くってどんなこと? 人はなぜ仕事をするの? 』(岩崎書店、2017年)、ブルジェールは『ケアの倫理』(文庫クセジュ、2014年)や『ケアの社会――個人を支える政治』(風間書房、2016年)。廣瀬さんが「異邦人=外国人=よそ者」の問いを提起することさえ困難になっていることを実感している、と述懐されておられるのに共感を覚えます。
★清水真木『ニーチェ入門』は講談社選書メチエの一冊として2003年に刊行された『知の教科書 ニーチェ』の改題文庫化です。ちくま学芸文庫版のためのあとがきによれば「見出しと本文について若干の軸の修正が施され、読書案内が増補されたけれども」内容に相違はないとのことです。「最近のニーチェ研究者は、知的公衆に対する「贈与」への意欲に乏しいように見える。ヨーロッパとアメリカの最新の研究成果を追いかける「ジャーナリスティック」な態度が支配的になり、哲学界が全体として同時代の文化的生産の平面から退却して自己完結へと向かいつつあるからなのであろう。これは、日本文化の不幸であり、私は、この点についてひそかに懸念を抱いている」ともお書きになっており、出版人としては清水さんのご姿勢が励みになります。
★宮崎法子『花鳥・山水画を読み解く』は角川叢書の一冊として2003年に刊行されたものの文庫化。文庫版あとがきによれば「文庫化にあたっては、年月の差によって訂正する必要のある「近年」「最近」などの表記を改め、他にわずかな訂正や補足を行うにとどめた」とのことです。山水画と花鳥画の二部構成で、刊行当時、サントリー学芸賞を受賞された力作です。
+++