★まず最初に最近出会いがあった新刊2点を記します。
『「人新世」時代の文化人類学の挑戦――よみがえる対話の力』大村敬一(編)、以文社、2023年12月、本体4,800円、A5判並製464頁、ISBN978-4-7531-0381-2
『王朝和歌、こんなに面白い』中原文夫(著)、作品社、2024年1月、本体1,600円、46判上製224頁、ISBN978-4-86793-014-4
★『「人新世」時代の文化人類学の挑戦』は、版元紹介文に曰く「総勢12名の人類学者が対話・インタビュー形式で「人新世」時代を語る、最新の研究動向に迫る論集」。編者の大村敬一(おおむら・けいいち, 1966-)さんをはじめ、深山直子、飯田卓、森田敦郎、中川理、モハーチ・ゲルゲイ、木村周平、久保明教、中谷和人、土井清美、入來篤史、河合香吏、の各氏が参加されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書の編者、大村敬一(おおむら・けいいち, 1966-)さんによる「はじめに」によれば「本書のもとになったのは、放送大学のオンライン授業の大学院科目『文化人類学の最前線』の台本である」とのこと。「本書の目的と射程は、この今という時代において文化人類学が取り組んでいる問題を紹介し、この時代を生きている私たちにとって、文化人類学の視野がいかに重要であるかを示すことにあります」(序章冒頭より)。
★『王朝和歌、こんなに面白い』は、作家の中原文夫(なかはら・ふみお, 1949-)さんが古典和歌の魅力を平易に紹介したエッセイ集。「王朝社会と和歌」「恋歌の雅な世界」「華やかな後宮サロン」「「新古今和歌集」の王朝美」「和歌の不思議な力」「歌会と歌合せ」「「新古今和歌集」後の王朝和歌」の全7章。「NHK大河ドラマ「光る君へ」が面白くなる」と帯文に謳われています。「日頃あまり古典和歌を読むことのない方のために、王朝和歌などを楽しんで頂く語り部として、あちこちで寄り道しながら、近世までの古典和歌の面白い話を拾ってまいります」(はじめにより)。
★次に注目既刊書を列記します。これらは購入が遅かったか、紹介の機会を窺っているうちに、タイミングを逸したもので、ようやくまとめて記す機会を得ました。何回かに分けて掲出していきます。今回はその1回目です。
『脱成長がもたらす働き方の改革』セルジュ・ラトゥーシュ(著)、中野佳裕(訳)、白水社、2023年11月、本体2,000円、4-6判並製182頁、ISBN978-4-560-09476-1
『差別と資本主義――レイシズム・キャンセルカルチャー・ジェンダー不平等』トマ・ピケティ/ロール・ミュラ/セシル・アルデュイ/リュディヴィーヌ・バンティニ(著)、尾上修悟/伊東未来/眞下弘子/北垣徹(訳)、明石書店、2023年6月、2023年6月、本体2,700円、4-6判上製216頁、ISBN978-4-7503-5603-7
『人新世の人間の条件』ディペシュ・チャクラバルティ(著)、早川健治(訳)、晶文社、2023年2月、本体1,800円、四六判上製180頁、ISBN978-4-7949-7333-7
『汚れた歳月』A・P・ド・マンディアルグ(著)、レオノール・フィニ(装画)、松本完治(訳)、エディション・イレーヌ、2023年2月、本体2,800円、A5変型上製本208頁(挿画3点)、ISBN978-4-9912885-0-0
『論語集解(上)』魏・何晏(集解)、渡邉義浩(訳)、早稲田文庫、2021年12月、本体1,000円、A6判370頁、ISBN978-4-657-21016-6
『論語集解(下)』魏・何晏(集解)、渡邉義浩(訳)、早稲田文庫、2021年12月、本体1,000円、A6判372頁、ISBN978-4-657-21017-3
『メディアの未来――歴史を学ぶことで、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、SNSの将来は導き出せる』ジャック・アタリ(著)、林昌宏(訳)、プレジデント社、2021年9月、本体3,300円、四六判上製584頁、ISBN978-4-8334-2429-5
★特記しておきたいのは、マンディアルグ『汚れた歳月』と何晏『論語集解』です。まず『汚れた歳月』は、帯文に曰く「待望の本邦初訳作品。悪夢とエロスが混淆した《奇態なイメージ》が炸裂する、極彩色の「幻想綺譚集」」。訳者による巻末解題「世界終末の既視感〔デジャヴュ〕」によれば本書は、レオノール・フィニのデッサン3点を添えて1943年に自費出版されたマンディアルグの第一作で私家版の『Dans les années sordides』と、ガリマールから1948年に再刊された同書に追加された散文詩風掌篇集『絹と石灰』Soie et charbonを翻訳したもの。「第二次世界大戦下、6年間のモナコ隠遁中に掛かれた驚異のヴィジョンと、世界終末のデジャヴュ。作家としての地歩を固めた記念碑的作品」(帯文より)。翻訳者であり、エディション・イレーヌの設立者である松本完治(まつもと・かんじ, 1962-)さんによって続々と刊行される書物群はいずれも印象的で、収集している方も多いでしょう。
★『論語集解』上下巻は、大隈重信没後100周年特別企画の第3弾である早稲田文庫の初回配本2点。中国古典の重要作を最初から文庫本で提供するという試みに胸打たれます。昨年末までに続刊として、『後漢書』の「本紀一」「本紀二」「志一」までが『論語集解』と同じく渡邉義浩さんの訳で刊行されています。
★これらはいずれも一人の訳者が多くを担って実現しているものです。強力な伴走者がむろんそれぞれにいるだろうことを含めて、こうした試みの労苦は記憶されるべきものだと感じます。松本完治さんが『サバト館刊行 全書籍目録』(エディション・イレーヌ、2022年10月)を編まれたのも、そうした顕彰の貴重な記録の一例かと思います。