『万物の黎明――人類史を根本からくつがえす』デヴィッド・グレーバー/デヴィッド・ウェングロウ(著)、酒井隆史(訳)、光文社、2023年9月、本体5,000円、A5判並製644+55頁、ISBN978-4-334-10059-9
『ジョルダーノ・ブルーノ著作集(6)天馬のカバラ』ジョルダーノ・ブルーノ(著)、加藤守通(訳)、東信堂、2023年8月、本体3,200円、A5判上製128頁、ISBN978-4-7989-1863-1
『ライプニッツ デカルト批判論集』山田弘明/町田一(編訳)、知泉学術叢書:知泉書館、2023年9月、本体4,000円、新書判上製368頁、ISBN978-4-86285-389-9
『カテナ・アウレア マタイ福音書註解(下)』トマス・アクィナス(著)、保井亮人(訳)、知泉学術叢書:知泉書館、2023年6月、本体7,000円、新書判上製920頁、ISBN978-4-86285-384-4
★『万物の黎明』は、米国の人類学者デヴィッド・グレーバー(David Rolfe Graeber, 1961-2020)さんと、英国の考古学者デヴィッド・ウェングロウ(David Wengrow, 1972-)さんの共著『The Dawn of Everything: a New History of Humanity』(Farrar, Straus and Giroux, 2021)の訳書。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。
★「〔人類史を記述しようとする〕本書の試みは、〔…〕もっと希望があり、もっとわくわくするようなストーリーを語りはじめることにある。過去数十年の研究が教えてくれることを、もっとうまく説明するようなストーリーである。ひとつにこれは、考古学、人類学、そしてその他の関連分野で蓄積された証拠をまとめるという作業になる。こうした証拠は、おおよそ過去三万年のあいだに人類社会がどのように発展してきたかについて、まったくあたらしい切り口から照明を当ててきた。このような研究は、ほとんどすべてが従来の語り口とは対立するものである」(5頁)。
★「世界中の研究者が民族誌や歴史資料をあたらしい見地から検証するようになった。まったく異なる世界史をつくりだすことのできる断片がいま、積み重なっているのだ。ところが、いまのところ一部の特権的な専門家以外には、それらの情報は秘匿されたままである。この本の目的な、パズルのピースを組み立てはじめることにある。〔…〕ある一点が、ただちにあきらかになる。常識とされている歴史の「全体像」――ホッブズやルソーの現代のフォロワーたちが共有している――は、事実とはほとんどなんの関係もないということだ」(5~6頁)。
★「本書で、著者たちは、人類のあたらしい歴史を提示するだけでなく、読者をあたらしい歴史学に招待したいと考えている。わたしたちの祖先に[未熟ではなく]完全なる人間性を復権させる、そのような歴史学である。わたしたちはなぜ不平等になってしまったかという問いではなく、そもそもなぜ「不平等」がこのように争点となったのかを問うことから出発し、そこから、現在の知識の水準により即したオルタナティヴなストーリーを徐々に構築していくつもりである。〔…〕ある意味では、本書の試みは、端的に、あたらしい世界史の基礎を築くことにある」(30頁)。
★『天馬のカバラ』は、東信堂版ブルーノ著作集の第6巻(第6回配本)。これまでと同様に、東北大学名誉教授の加藤守通(かとう・もりみち, 1954-)さんによる翻訳です。底本はジョヴァンニ・アクィレッキア博士による1994年刊のベル・レットル版。帯文に曰く「ユダヤ・キリスト教に対する皮肉やユーモアを織り交ぜ、ロバの象徴的イメージの両義性――「英知」と「愚鈍」――を描く本書は、雑然とした世界における正/負の垣根を超えた多様性への寛容という示唆に富む。後年、自身の作品リストからブルーノ自らその名を削除したという、ブルーノ著作群の中でもひと際型破りな一冊」。
★東信堂版ブルーノ著作集(全7巻予定)は、残すところ第4巻『無限・宇宙・諸世界について』の新訳のみ。関連書として、加藤さんによる著書『ジョルダーノ・ブルーノ伝(仮)』と訳書、ヌッチョ・オルディネ『影の敷居(仮)』の続刊が予告されています。
★知泉書館さんの「知泉学術叢書」より2点。第26巻『ライプニッツ デカルト批判論集』は、「ライプニッツの初期から中期にかけての書簡、論文、覚書、著作からデカルトに関連する重要な箇所を抜粋・翻訳し、四つの時期に分けて全22篇のテキストを収録した」(カバー表4紹介文より)もの。「マインツ・パリ時代 1669–76」「ハノーファー時代・初期 1678–84」「ハノーファー時代・『叙説』前後 1684–89」「ハノーファー時代・『新説』まで 1691–95」の4部構成。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★第24巻『カテナ・アウレア マタイ福音書註解(下)』は2月刊行の上巻に続くもので、「マタイ福音書註解」第13~28章を収録。カテナ・アウレア(黄金の鎖)こと『四福音書連続註解』のうち、マタイ書篇が完結したことになります。「わが国で本書はほとんど知られていないが、旧来のスコラ学者トマスのイメージを一新する画期的な本註解を通して「いかに生きるべきか」を考える現代の人々に豊かな知恵と勇気が与えられるに違いない」(カバー表4紹介文より)。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『ユダヤ人の自己憎悪』テオドール・レッシング(著)、田島正行(訳)、叢書・ウニベルシタス:法政大学出版局、2023年10月、本体4,000円、四六判上製376頁、ISBN978-4-588-01158-0
『「命のヴィザ」の考古学』菅野賢治(著)、共和国、2023年9月、本体3,200円、4-6判並製368頁、ISBN978-4-907986-29-2
『ハワイの伝承と神話――附・クムリポ』デイヴィッド・カラカウア/リリウオカラニ(著)、和爾桃子/山口やすみ(訳)、作品社、2023年10月、本体5,400円、46判上製600頁、ISBN978-4-86182-996-3
『UFO vs. 調査報道ジャーナリスト――彼らは何を隠しているのか』ロス・コーサート(著)、塩原通緒(訳)、作品社、2023年9月、本体3,200円、四六判並製424頁+カラー口絵16頁、ISBN978-4-86182-974-1
『現代語訳 源氏物語 四』紫式部(作)、窪田空穂(訳)、作品社、2023年9月、本体2,700円、46判並製384頁、ISBN978-4-86182-965-9
『夢に追われて』朝比奈弘治(著)、作品社、2023年9月、本体2,400円、46判上製272頁、ISBN978-4-86182-995-6
★『ユダヤ人の自己憎悪』は、ドイツのユダヤ人思想家、社会活動家で、ナチスに暗殺されたテオドール・レッシング(Theodor Lessing, 1872-1933)の晩年作『Der jüdische Selbsthaß』(1930)の全訳。レッシングの本邦初訳本となります。「普遍的な人間の現象である「自己憎悪」は、ユダヤ人の民族誌の精神病理学においてことのほかすばらしく照らし出すことができるのである」(21頁)。「問題になっているのは、圧迫され、苦境にある、生のエレメントから切り離された被造物一切の普遍的運命の一特殊例なのである」(29頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★『「命のヴィザ」の考古学』は、東京理科大学教授でユダヤ研究がご専門の菅野賢治(かんの・けんじ, 1962-)さんによる『「命のヴィザ」言説の虚構』(共和国、2021年)に続く「検証・日本のシンドラー」(カバー表1紹介文より)の第2弾。「1980年代から現在までに制作された映画やTV番組、さらに国内外の情報を精査・博捜し、戦後史上最大の「美談」形成の謎に迫る」(同)と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★作品社さんの9~10月新刊より4点。『ハワイの伝承と神話』は、ハワイ王国第7代国王デイヴィッド・カラカウア(David Kalakaua, 1836-1891)がまとめたハワイ諸島の伝承・神話集の初完訳に、その実妹で第8代国王、王国最後の国王にして唯一の女王であるリウオカラニ(Liliʻuokalani, 1838-1917)が記録した、王家に伝わる創世神話「クムリポ」の全訳を併録したもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★『UFO vs. 調査報道ジャーナリスト』は、ニュージーランド出身でオーストラリア在住のジャーナリスト、ロス・コーサート(Ross Coulthart)による『In Plain Sight: an Investigation Into UFOs and Impossible Science』(初版2021年、改訂版2023年)の全訳。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★「本書では、過去の有名なUFO事件――ロズウェル事件から、ベルギーUFOウェーブ事件、レンデルシャムの森事件、スキンウォーカー牧場事件、チクタク事件、さらに日航ジャンボ機UFO遭遇事件まで――をひととおり詳しく紹介しつつ、しだいに現在に近づきながら、そのときどきの各国当局がどのような対応をしたのかを、事件の目撃者や調査関係者への直接取材の成果もふまえて明らかにしていく。そこから浮かび上がってくるのは、UFOに関する国家内部での情報隠匿と開示要求をめぐるスリリングな攻防であり、UFOの正体についてのいくつかの可能性だ」(訳者あとがきより)。
★『現代語訳 源氏物語 四』は、歌人で国文学者の窪田空穂(くぼた・うつぼ, 1877-1967)さんによる現代語訳全4巻の最終巻。「橋姫」から「夢浮橋」までを収録。「作品の叙事と抒情、気品を保ち柔らかな雰囲気を残す逐語訳と、和歌や平安時代の風俗・習慣への徹底した註釈」(帯文より)です。旧版に改造文庫版、春秋社版、角川書店版(窪田空穗全集)などがありましたが、新本で現在入手可能なのは作品社版のみです。
★『夢に追われて』は、翻訳家でフランス文学研究者の朝比奈弘治(あさひな・こうじ, 1951-)さんによる小説集。帯文に曰く「パンデミック後の世界を描く傑作短篇から近未来ディストピア・フィクションまで、驚異とユーモアに満ち満ちた全16篇」。収録作品名は書名のリンク先でご確認いただけます。