Quantcast
Channel: URGT-B(ウラゲツブログ)
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1277

注目新刊:イレネ・バジェホ『パピルスのなかの永遠』作品社、ほか

$
0
0
_a0018105_02273453.jpg

★まず最近出会った新刊を3点記します。


『パピルスのなかの永遠――書物の歴史の物語』イレネ・バジェホ(著)、見田悠子(訳)、作品社、2023年10月、本体4,800円、四六判上製552頁、ISBN978-4-86182-927-7
『鏡花の家――泉鏡花生誕一五〇年記念』泉鏡花記念館(監修・編著)、平凡社、2023年10月、本体3,200円、A5判上製248頁、ISBN978-4-582-20733-0

『ことにおいて後悔せず――戦後史としての自伝』菅孝行(著)、航思社、2023年10月、本体3,500円、四六判上製380頁、ISBN978-4-906738-48-9



★『パピルスのなかの永遠』はまもなく発売。スペインの文献学者で歴史家・作家のイレネ・バジェホ(Irene Vallejo, 1979-)の著書『El Infinito en un Junco: La invención de los libros en el mundo antiguo』(Siruela, 2019)の全訳。「約三千年以上にわたる書物の歴史の黎明期にスポットを当て、口承から、巻物、冊子本(コデックス)に至るまでの書物とそれを受け継いできた人々の足跡、図書館の誕生やアルファベットによる革命、読書、書店など、本にまつわる事象をたどる。アリストパネスと喜劇作家に対する司法手続き、サッポーと文学における女性の声、ティトゥス・リウィウスとファン現象、セネカとポスト真実など、現代の社会現象や文学作品、映画にも言及しながら、エッセイの形式で書物の激動の旅が描かれる世界的ベストセラー」(カバー表4紹介文より)。「未来に思いを馳せるギリシア」「ローマの街道」のシンプルな二部構成です。


★「今日この場所では、書物はあまりに平凡なもので最新テクノロジーらしきオーラもなく、書物の消滅をうたう預言者があふれている。私も定期的に、電子機器に取って代わられるとか娯楽の広大な可能性に負けて書物が絶滅するだろうという悲痛な新聞記事を読むことになる。その最も不吉なたぐいは、現在は一つの時代が終わる瀬戸際であって、書店が閉店に追い込まれ、図書館はがら空きになり、まさに黙示録の世になりつつあるのだと主張する。まるで、書物はそう遅くないうちに民族学博物館のガラスケースのなか、原始時代の矢尻の近くに飾られることになるだろうとでも言うように。こうしたイメージを刷り込まれた頭で、際限なく積まれた私の書物やLPレコードに目を走らせながら、こうして親しんできた古い世界は消えゆこうとしているのかどうかを考えてみた。/本当にそう思う?/書物は、時の流れに打ち勝ってきた長距離ランナーである。私たちが大革命の夢もしくは人類史上の大災害の悪夢から目覚めるたびに、書物はそこにありつづけた」(15頁)。


★「書物の発明は破壊に対する私たちの粘り強い戦いにおける、最大の偉業かもしれない。私たちは水生植物に、紙に、布に、木に、光に、守りたいと願う知恵を託してきた。その助けによって、人類は途方もなく加速する歴史、発展、進化を生きてきた。共有された文法は、世界の異なる場所の異なる精気を通じて次々に現れる異世代の読者たちをつなぎ、神話や知識が私たちの協調の可能性を倍増させた。短篇「書痴メンデル」の忘れがたい結末においてシュテファン・ツヴァイクが確認するように「書物は、その息づかいのうえに人類を結びつけるために、そしてすべての存在の過酷な裏面、移ろいやすさと忘却から私たちを守るために書かれる」のである」(477頁)。


★「人類という種が作りあげた優れた概念が生き残るか否かは、書物にかかってきた。書物なしには、権力を民衆に譲渡しようと決断した――その大胆な実験を「民主主義」と名づけた――、あの一握りの無謀なギリシア人たちを忘れ去っていたかもしれない。歴史上はじめて職業倫理集を作って、貧者や奴隷をも面倒を見ると確約したヒポクラテス学派の医者たちのことも」(478頁)。「こうしたすべての発見の記憶をなくしてしまっていたら、今日の私たちはどうなっていただろうか?〔……〕エリアス・カネッティがこう答えた。もし時代ごとに先人たちとの交際が断たれたならば、世紀ごとにへその緒が切られるならば、未来のない作り話しか組み立てることができないだろう。窒息状態である」(同頁)。「書物なしには、私たちの世界の優れたものは忘却のなかにかすれて消えていってしまっていただろう」(481頁)。




◎第7回イスパJP文学イベント 書物は人類を救う ー 『パピルスのなかの永遠』を 読む
対談:山本貴光(文筆家) x 見田悠子(翻訳家)
日時:2023年10月21日(土)14:00-16:00(13:40から会場に、13:50からzoomに入れます)

会場:まちの教室 KLASS(文京区千駄木3-34-10 第一浅井ビル 2F;千代田線千駄木駅から徒歩1分・JR山手線日暮里駅から徒歩10分)

内容:メソポタミアの粘土板から始まった、書物と読書の3000年以上にわたる人類の歴史。本という存在を支え読み続けてきた人間の姿を踊るように物語り、世界で100万部の大ベストセラーとなったスペイン発のエッセイ『パピルスのなかの永遠』。日本語版の出版を機に、書物愛にあふれる文筆家山本貴光さんと訳者の見田悠子さんに語り合っていただきます。本がなければ生きていけない“パピルス族”の皆さま、ぜひご参加ください。


★『鏡花の家』は、泉鏡花記念館(石川県金沢市下新町2番3号)で今月10月1日より11月26日まで開催されている特別展「再現! 番町の家」の開催に合わせて企画・編集されたもの。「豊富なビジュアルを駆使し、その創作と生活の舞台を紹介する。最新の研究成果を踏まえた専門家による評伝や解説も充実」(帯文より)と。カラー図版多数の美しい本です。主要目次を以下に転記します。


はじめに
特別公開 鏡花貴重資料
終の棲家 番町の家
評伝 人と文学
麗しき鏡花本の世界
鏡花をめぐる人々
参考文献・典拠一覧
略年譜・泉家系図


★『ことにおいて後悔せず』は、評論家で劇作家の菅孝行(かん・たかゆき, 1939-)さんの季刊誌『映画芸術』での連載「菅孝行の戦後史――ことにおいて後悔せず」(462号:2018年冬~477号:2021年秋)を全面的に加筆修正したもの。「自分史を戦後史に重ねて語る、というのが本書のテーマである」(7頁)。「「自分史」だが、戦後史でもあるわけだから、出会った誰かが私や周囲に何をもたらしたか、私がいたことが誰かに何をもたらしたか、それにはどんな意味があったか、つまり、様々な出会いを通じた発見や驚きや喜びや失望や不快・苦痛の経験の意味を記述することになるだろう」(8頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。


★続いて、注目文庫の新刊既刊を列記します。


『真理のメタファーとしての光/コペルニクス的転回と宇宙における人間の位置づけ』ハンス・ブルーメンベルク(著)、村井則夫(編訳)、平凡社ライブラリー、2023年10月、本体1,600円、B6変型判192頁、ISBN978-4-582-76954-8
『増補 破戒と男色の仏教史』松尾剛次(著)、平凡社ライブラリー、2023年10月、本体1,600円、B6変型判232頁、ISBN978-4-582-76955-5

『コッド岬――浜辺の散策』ヘンリー・デイヴィッド・ソロー(著)、齊藤昇(訳)、平凡社ライブラリー、2023年9月、本体1,800円、B6変型判416頁、ISBN978-4-582-76953-1

『ドラキュラ』ブラム・ストーカー(著)、唐戸信嘉(訳)、光文社古典新訳文庫、2023年10月、本体1,600円、文庫判840頁、ISBN978-4-334-10085-8

『夢みる宝石』シオドア・スタージョン(著)、川野太郎(訳)、ちくま文庫、2023年10月、本体950円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-43913-0

『人類歴史哲学考(一)』ヘルダー(著)、嶋田洋一郎(訳)、岩波文庫、2023年9月、本体1,300円、文庫判468頁、ISBN978-4-00-386032-8

『左川ちか詩集』左川ちか(著)、川崎賢子(編)、岩波文庫、2023年9月、本体720円、文庫判236頁、ISBN978-4-00-312321-8

『精神の生態学へ(下)』グレゴリー・ベイトソン(著)、佐藤良明(訳)、岩波文庫、2023年8月、本体1,100円、文庫判426頁、ISBN978-4-00-386031-1

『知里幸惠 アイヌ神謡集』知里幸惠(著)、中川裕(補訂)、岩波文庫、2023年8月、本体720円、文庫判212頁、ISBN978-4-00-320809-0



★まず平凡社ライブラリーの9~10月新刊より3点。『真理のメタファーとしての光/コペルニクス的転回と宇宙における人間の位置づけ』は、ドイツの思想史家ハンス・ブルーメンベルク(Hans Blumenberg, 1920-1996)の論文2篇「Licht als Metapher der Wahrheit」(1957年)の翻訳「真理のメタファーとしての光――哲学的概念形成の前景領域」と「Der kopernikanische Umsturz und die Wiltstellung des Menschen」(1955年)の翻訳「コペルニクス的転回と宇宙における人間の位置づけ――自然科学と精神史との関連に即して」をまとめて1冊としたもの。前者には既訳『光の形而上学――真理のメタファーとしての光』(生松敬三/熊田陽一郎訳、朝日出版社、1977年、品切)があります。後者は初訳。巻末には編訳者の村井さんによる解題「人文学としてのメタファー学」が付されています。村井則夫(むらい・のりお, 1962-)さんはこれまでに多数の訳書を手掛けておられますが、ブルーメンベルクについても訳書を3点、法政大学出版局より上梓されています。『近代の正統性(Ⅲ)』2002年、 『われわれが生きている現実――技術・芸術・修辞学』2014年、『メタファー学のパラダイム』2022年。


★『増補 破戒と男色の仏教史』は、山形大学名誉教授の松尾剛次(まつお・けんじ, 1954-)さんによる『破戒と男色の仏教史』(平凡社新書、2008年)の増補改訂版。帯文に曰く「日本仏教の“転換点”。独自の仏教が興った背景を僧侶の「身体論」から読み解く」もの。巻末には平凡社ライブラリー版の「あとがき」と、仏教学者による末木文美士さんによる解説「「文化」として読む中世寺院の性」が付されています。


★『コッド岬』は、米国の作家ヘンリー・デイヴィッド・ソロー(Henry David Thoreau, 1817-1862)の旅行記『Cape Cod』(1865年)のライブラリーオリジナル訳し下ろし。マサチューセッツ州のコッド岬を旅して「人間と自然との共生」(帯文より)に思いを巡らせる、「名著『ウォールデン――森の生活』と対をなす、海辺の旅を描いた傑作」(帯文より)。訳者の齊藤昇(さいとう・のぼる, 1956-)さんは立正大学教授で、日本ソロー学会第15代会長をお務めになられた米国文学研究者です。同書の既訳には飯田実訳『コッド岬』(工作舎、1993年)があります。


★次に外国文学の文庫10月新刊より2点。『ドラキュラ』は、アイルランドの作家ブラム・ストーカー(Abraham "Bram" Stoker, 1847-1912)の代表作『Dracula』(1897年)の新訳。訳者の唐戸信嘉(からと・のぶよし, 1980-)さんは白鷗大学准教授。『ドラキュラ 完訳詳注版』(水声社、2000年)の訳者、新妻昭彦さんと丹治愛さんは唐戸さんの博士論文の審査委員であり、新妻さんは指導教官でもあるとのことです。『ドラキュラ』の文庫で読める既訳で現在入手可能なものには、平井呈一訳『吸血鬼ドラキュラ』(創元推理文庫、1963/1971年)と、田内志文訳『吸血鬼ドラキュラ』(角川文庫、2014年)があります。


★『夢みる宝石』は、米国のSF作家シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon, 1918-1985)の最初の長編作『The Dreaming Jewels』(1950年)の文庫オリジナル訳し下ろし。「これはひとりの孤児が酷薄な家と学校を逃れた先であたらしい人や芸術と出会い、変容していく成長物語であり、超自然的存在をめぐる戦いが、カーニバルを舞台にときに禍々しく、ときに奇妙な美しさをたたえて展開するゴシックホラーであり、抑圧者に虐げられてきた者たちの復讐劇であり、彼らの運命がそのまま人間と生命への問いかけになっている、SF的仕掛けに満ちた冒険譚である」(訳者解説より)。既訳には、永井淳訳『夢みる宝石』(『世界SF全集(16)スタージョン/ブラウン』所収、早川書房、1969年;ハヤカワ文庫、1979年;新装版2006年)がありましたが、現在品切。


★最後に岩波文庫の8~9月新刊より4点。『人類歴史哲学考(一)』は全5巻の第1巻。18世紀ドイツの哲学者ヘルダー(Johann Gottfried von Herder, 1744-1803)の大著『Ideen zur Philosophie der Geschichte der Menschheit』(全4部、1784–1791)の新訳です。帯文に曰く「18世紀ドイツが挑んだビッグヒストリー」と。既訳は2点あり、いずれも古いもので現在は古書でしか入手できません。ヘルデル『歴史哲学』(上下巻、国民図書、上巻1923年:田中萃一郎訳、下巻1925年:川合貞一訳;全1巻合本、1933年)、ヘルダー『人間史論』(全4巻、鼓常良訳、白水社、1948~1949年)。


★『左川ちか詩集』は、夭折した昭和初期の詩人、左川ちか(さがわ・ちか, 1911-1936)の初めての文庫版詩集。底本には1936年の昭森社版『左川ちか詩集』が用いられています。なお、近年の詩集では、森開社版『左川ちか全詩集 新版』(2010年11月)が刊行されていたほか、島田龍編『左川ちか全集』(書肆侃侃房、2022年4月)が版を重ねています。


★『精神の生態学へ(下)』は全3巻の完結篇。巻末に訳者による「ベイトソンの歩み(Ⅲ)」、息女のメアリー・キャサリン・ベイトソンによる1999年版「序文」のほか、ベイトソンの全書誌や索引が付されています。


★『知里幸惠 アイヌ神謡集』は、知里幸惠編訳『アイヌ神謡集』(岩波文庫、1978年8月)の補訂新版。旧版は2022年9月のNHKーETV「100分de名著」に取り上げられる直前に重版しており(2022年7月:67刷)、現在は品切であるものの、書店さんによっては店頭に残っていることがあるようです。「100分de名著」で講師を務めたアイヌ語研究家の中川裕(なかがわ・ひろし, 1955-)さんが新版の補訂を担当されており、巻末に中川さんによる「補訂にあたって」と「解説」が加えられています。


+++


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1277

Trending Articles