★まず、まもなく発売となるゲンロン叢書の最新刊と、ちくま学芸文庫10月新刊4点。
『革命と住宅』本田晃子(著)、ゲンロン叢書:ゲンロン、2023年10月、本体2,700円、四六判並製348頁、ISBN978-4-907188-51-1
『民俗のこころ』高取正男(著)、ちくま学芸文庫、2023年10月、本体1,300円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-51209-3
『ローマ人の世界――社会と生活』長谷川博隆(著)、ちくま学芸文庫、2023年10月、本体1,400円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-51213-0
『外政家としての大久保利通』清沢洌(著)、ちくま学芸文庫、2023年10月、本体1,300円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-51215-4
『乱数』伏見正則(著)、ちくま学芸文庫、2023年10月、本体1,200円、文庫判240頁、ISBN978-4-480-51214-7
★『革命と住宅』は、岡山大学准教授で表象文化論や建築史がご専門の本田晃子(ほんだ・あきこ, 1979-)さんによる、『天体建築論――レオニドフとソ連邦の紙上建築時代』(東京大学出版会、2014年3月)、『都市を上映せよ――ソ連映画が築いたスターリニズムの建築空間』(東京大学出版会、2022年1月)に続く単独著第3作です。先月終刊した隔月電子批評誌『ゲンロンβ』に連載された「亡霊建築論」(2019年4月~2020年4月)と「革命と住宅」(2021年1月~2022年4月)に大幅な加筆を施し、書き下ろしの「はじめに」「おわりに」「あとがき」「付録」(ソ連社会主義住宅年表、本書に登場する建築家、参考文献など)を加えて1冊としたもの。「本書では、現在のロシアを、そしてその不可解な戦争へと至った背景を理解するためにも、建築というメディアを通じて、ソ連という過去を読み解いてみたい」(はじめに、17頁)と。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。
★『民俗のこころ』は、民俗学者の高取正男(たかとり・まさお, 1926-1981)さんによる初めての単独著(朝日新聞社、1972年)の文庫化。「理屈抜きの拒絶反応や禁忌によってのみ姿を見せる近代以前から引き継いだ日本人の深層意識」(帯文より)に迫る論考です。巻末解説は日本近世史家の夏目琢史さんによる「「ワタクシ」のゆくえ――「平凡な日常」の探究」。
★『ローマ人の世界』は、ローマ史がご専門の長谷川博隆(はせがわ・ひろたか, 1927-2017)さんによる同名単行本(筑摩書房、1985年)の文庫化。「西洋古代史学の泰斗がローマの古代社会と生活について、ポンペイやカルタゴの故地なども巡りつつ、具体的な姿を堀りおこし生き生きと描きだす」(カバー表4紹介文より)。巻末解説は東京大学准教授の田中創さんによる「『ローマ人の世界』、その成り立ちを考える」。
★『外政家としての大久保利通』は、戦時下の記録『暗黒日記』で知られるジャーナリスト清沢洌(きよさわ・きよし, 1890-1945)さんの著書(中央公論社、1942年;中公文庫、1993年)の再文庫化。「征韓論争から北京談判まで、手紙や日記等豊富な史料をもとに、内政家として語られてきた大久保利通の外交を評価する」(カバー表4紹介文より)もの。巻末には、中公文庫版の村松剛さんによる解説に加え、法制史家の瀧井一博さんによる解説「政治家としての大久保利通」が付されています。
★『乱数』は、Math&Scienceシリーズの1冊。東京大学名誉教授・南山大学名誉教授の伏見正則(ふしみ・まさのり, 1939-)さんによる著書(東京大学出版会、1989年)の文庫化。「基礎的理論から実用的な計算法までをバランスよく記述した「乱数」を体系的に学べる日本でほとんど唯一の入門書」(カバー表4紹介文より)。巻末特記によれば「文庫化にあたり、若干の修正を施した」とのことです。「文庫版あとがき」が新たに付されています。
★続いて、最近出会いのあった新刊を列記します。
『ドゥルーズ+ガタリ〈千のプラトー〉入門講義』仲正昌樹(著)、作品社、2023年9月、本体2,200円、46判並製448頁、ISBN978-4-86182-992-5
『聖霊の舌――異端モンタノス派の滅亡史』ウィリアム・タバニー(著)、阿部重夫(訳)、2023年9月、本体9,000円、A5判上製728頁、ISBN978-4-582-71726-6
『未知なる地球――無知の歴史 18-19世紀』アラン・コルバン(著)、築山和也(訳)、藤原書店、2023年9月、本体2,700円、四六判上製272頁+カラー口絵8頁、ISBN978-4-86578-397-1
『『女の世界』――大正という時代』尾形明子(著)、藤原書店、2023年9月、本体3,000円、A5変型判上製312頁+カラー口絵8頁、ISBN978-4-86578-392-6
『低い月、高い月――月の文学、物理の月』津川廣行(著)、藤原書店、2023年9月、本体2,700円、四六判上製368頁、ISBN978-4-86578-399-5
『農業と経済 2023年夏号(89巻3号)特集:食料と農業の「なぜ?」――あなたの疑問に答えます』松下秀介/辻村英之/森真里(責任編集)、英明企画編集、2023年9月、本体1,700円、A5判並製226頁、ISBN978-4-909151-58-2
『現代思想2023年10月臨時増刊号 総特集=宮﨑駿『君たちはどう生きるか』をどう観たか』青土社、2023年9月、本体1,400円、A5判並製214頁、ISBN978-4-7917-1453-7
『現代思想2023年10月号 特集=スピリチュアリティの現在』青土社、2023年9月、本体1,600円、A5判並製222頁、ISBN978-4-7917-1452-0
★『ドゥルーズ+ガタリ〈千のプラトー〉入門講義』は、哲学者の仲正昌樹(なかまさ・まさき, 1963-)さんによる講義シリーズの最新刊で、『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』(作品社、2018年)の姉妹編。〈読書人隣り〉で行われた全7回の連続講義(2020年1月~9月)に加筆修正を施したもの。帯文に曰く「背景にある膨大な思想や文脈を押さえ、きちんと詳細に解説」と。周知の通り『千のプラトー』は原著刊行が1980年で、日本語訳は河出文庫より全3巻にて刊行されています。
★『聖霊の舌』は、初期キリスト教研究者のウィリアム・タバニー(William Tabbernee, 1944-)の著書『Prophets and Gravestones: An Imaginative Study of Montanists and Other Early Christians』(Hendrickson Publishers, 2009)の訳書。山内志朗さんによる巻末解説「モンタノス派墓石碑文から浮かびあがる想像的歴史」によれば本書はタバニーが「発見し解読した碑文の読解を基礎として、それを柱にしながら、モンタノス派の歴史を物語として」綴ったもの。モンタノス派は、フリュギアの預言者モンタノスを始祖として2世紀から8世紀にかけて存続したキリスト教の一派で、聖霊運動の源流として知られています。
★藤原書店さんの9月新刊より3点。いずれも目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。『未知なる地球』は、フランスの歴史家アラン・コルバン(Alain Corbin, 1936-)の『Terra incognita : une histoire de l'ignorance』(Albin Michel, 2020)の全訳。北極、南極、地底、深海、天空など、地球の未踏領域をめぐる無知とその解消の歴史を解明しようとするユニークな一書。『『女の世界』』は、大正期の女性誌『女の世界』を紹介するもの。著者の尾形明子(おがた・あきこ, 1944-)さんは文芸評論家。『低い月、高い月』は、大阪市立大学名誉教授の津川廣行(つがわ・ひろゆき, 1951-)さんによる、月をめぐる評論集。文学作品における月と天体としての月の双方を往還し分析する試みです。
★雑誌3点。『農業と経済 2023年夏号』の特集は「食料と農業の「なぜ?」」。食料と農業をめぐる素朴な疑問に専門家が答える形式となっています。「日本で食料危機は起こるのでしょうか?」「「農業の担い手」は本当に不足しているのでしょうか?」など興味深いテーマが並びます。『現代思想2023年10月臨時増刊号』は、「宮﨑駿『君たちはどう生きるか』をどう観たか」と題した総頁特集。32名が寄稿。これだけの書き手を糾合できる人文系雑誌は「現代思想」だけではないかと驚くばかりです。同誌10月通常号の特集は「スピリチュアリティの現在」。「神は世界創造の前にタロットを引いたか――伝統宗教と個人的スピリチュアリティとのある対話」と題した一文を寄稿した鏡リュウジさんは、青土社さんから上梓した著書『占星綺想』の増補新・新版を今月末に出すそうです。