★まずは、注目の新書新刊から。
『現代フランス哲学』渡名喜庸哲(著)、ちくま新書、2023年9月、本体1,100円、新書判352頁、ISBN978-4-480-07574-1
『問いを問う――哲学入門講義』入不二基義(著)、ちくま新書、2023年9月、本体1,100円、新書判336頁、ISBN978-4-480-07573-4
『はじめてのフェミニズム』デボラ・キャメロン(著)、向井和美(訳)、ちくまプリマー新書、2023年9月、本体880円、新書判224頁、ISBN978-4-480-68462-2
『日本株はどこまで上がるか』ポール・クルーグマン/武者陵司/熊野英生/ハーディ智砂子/栫井駿介(著)、宝島新書、2023年9月、本体1,091円、新書判240頁、ISBN978-4-299-04657-4
『新しい戦前――この国の“いま”を読み解く』内田樹/白井聡(著)、朝日新書、2023年8月、本体890円、新書判288頁、ISBN978-4-02-295228-8
★『現代フランス哲学』は、立教大学教授の渡名喜庸哲(となき・ようてつ, 1980-)さんの『レヴィナスの企て――『全体性と無限』と「人間」の多層性』(勁草書房、2021年)に続く単独著。帯文に曰く「フーコー、ドゥルーズ、デリダに続く、強靭な思想の流れを一望する」と。主要目次を転記しておきます。盛りだくさんの内容で、各章末にはブックガイドが配され、人物相関図(マップ)もあります。新書ではここまで幅広く扱ったものはなかったように思います。
はじめに
Ⅰ 構造主義とポスト構造主義
第1章 構造主義を振り返る
第2章 ポスト構造主義
Ⅱ 転換点としての80年代
第3章 ポストモダン社会か新自由主義社会か
第4章 〈政治的なもの〉の哲学
第5章 〈宗教的なもの〉の再興
Ⅲ 科学と技術
第6章 科学哲学
第7章 技術哲学
Ⅳ 変容する社会
第8章 ジェンダー/フェミニズム思想
第9章 エコロジー思想
第10章 労働思想
Ⅴ フランス哲学の最前線
第11章 哲学研究の継承と刷新
第12章 フランス哲学の射程
おわりに
現代フランス思想家マップ
あとがき
参考文献
人名索引
★『問いを問う』は、青山学院大学教授の入不二基義(いりふじ・もとよし, 1958-)さんによる『時間は実在するか』(講談社現代新書、2002年)、『哲学の誤読――入試現代文で哲学する!』(ちくま新書、2007年)に続く、3冊目の新書単独著。 大学での哲学講義をベースにして書き下ろされた入門書。「終わり(答え)に向って進むのではなく、始めよりもさらに手前(問いへの問い)に向けて遡り続ける」(はじめに、11頁)もの。 主要目次を転記しておきます。著者が講義で使用しているというネーゲルの『哲学ってどんなこと』(昭和堂、1993年)を表した言葉が本書にも当てはまる気がします。「哲学史の教科書ではなく、哲学するための入門書」(同、10頁)。主要目次を以下に転記します。
はじめに
第1章 哲学の問いへの序走
第2章 どのようにして私たちは何かを知るのか?
第3章 どのようにして私たちは他者の心を知るのか?
第4章 心と脳の関係とはどのような問題か?
第5章 死んだら無になるのか、それとも何が残るのか?
付録 国語入試問題と哲学の交錯
注
あとがき
★『はじめてのフェミニズム』は、オックスフォード大学ウスター校教授で社会言語学者のデボラ・キャメロン(Deborah Cameronm, 1958-)による『Feminism』(Profile Books, 2018)の訳書。フェミニズム入門を掲げた新書は複数ありますが、海外の論客によるものは初めてではないかと思います。帯文に曰く「対立も矛盾もそのまま理解し、前に進むための超入門」。主要目次を以下に転記しておきます。
はじめに
第1章 支配
第2章 権利
第3章 仕事
第4章 女らしさ
第5章 セックス
第6章 文化
第7章 断層線と未来
参考文献
もっと学びたい人のための読書案内
訳者あとがき
★『日本株はどこまで上がるか』は、「なぜいま日本株が変われるのか、どこまで上がるのかを専門家たちが大胆に文責、予測する」(カバー表4紹介文より)もので、「ポール・クルーグマンほか、経済を熟知した5人が「最高値」を予測」(帯文より)と。「2024年の新NISA開始前に緊急出版」とも謳われています。第1章のクルーグマン「中國の経済的封じ込めで見直される日本企業」は大野和基さんの構成とあるので、インタヴューが元になっていると思われます。
★『新しい戦前』は、内田樹(うちだ・たつる, 1950-)さんと白井聡(しらい・さとし, 1977-)さんの対談集。お二人の対談本は、『日本戦後史論』(徳間書店、2015年;朝日文庫、2021年)、『属国民主主義論――この支配からいつ卒業できるのか』(東洋経済新報社、2016年;朝日文庫、2022年)に続く3冊目。帯文に曰く「知の巨人と気鋭の政治学者が、“主体なき”国家の実相を斬る。時代の曲がり角――この悲惨な現実を見よ」と。
★続いて、注目の文庫新刊。
『まんがで読破(10)資本論』Teamバンミカス(漫画)、マルクス/エンゲルス(原作)、Gakken、2023年9月、本体900円、文庫判並製424頁、ISBN978-4-05-406933-6
『実力も運のうち――能力主義は正義か?』マイケル・サンデル(著)、鬼澤忍(訳)、ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2023年9月、本体1,200円、文庫判480頁、ISBN 978-4-15-050602-5
『判断力批判(上・下)』カント(著)、中山元(訳)、光文社古典新訳文庫、2023年9月、本体各1,400円、文庫判544頁/560頁、ISBN978-4-334-10045-2
『死霊の恋/化身――ゴーティエ恋愛奇譚集』テオフィル・ゴーティエ(著)、永田千奈(訳)、光文社古典新訳文庫、2023年8月、本体1,240円、文庫判400頁、ISBN978-4-334-10012-4
『作家の仕事部屋』ジャン=ルイ・ド・ランビュール(編)、岩崎力(訳)、中公文庫、2023年7月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-12-207397-5
★『資本論』は、イーストプレスから刊行されていた「まんがで読破」がGakkenに版元を移して再刊中の第10弾。もともとは、『資本論』(初版2008年;新版2020年)、『続・資本論』(初版2009年)、2点の合本版『まんがでわかる! 資本論』(2016年)を経て、新たな合本版が今回刊行されたということかと思います。第Ⅰ部が物語編(旧版正編)、第Ⅱ部が物語続篇兼解説編(旧版続編)となっており、解説編は説明的な部分が多くなるので、まんがと言えども読むには集中力が必要です。なお文庫本では、「講談社まんが学術文庫」でも『資本論』が2018年に刊行されているのは周知の通りです。
★『実力も運のうち』は、2021年の同名単行本の文庫化。原著『The Tyranny of Merit』は2020年刊。文庫化にあたり、巻末に本田由紀さんによる「解説」と、訳者による「文庫版のための解説」が付されています。訳文改訂についての言及はなし。ハヤカワ書房でのサンデルの文庫本は、2011年『これからの「正義」の話をしよう──いまを生き延びるための哲学』、2012年『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』上下巻、2014年『それをお金で買いますか──市場主義の限界』に続く4点目。
★『判断力批判(上・下)』は言わずと知れた18世紀ドイツの哲学者カントの三批判書の第三書。中山元さんによる翻訳で『純粋理性批判』(全7巻、2010~2012年)、『実践理性批判』(全2巻、2013年)に続くもので、三批判書はこれでコンプリートされたこととなります。なお、中山さんによる解説は今回は文庫には含まれず、「古典新訳文庫換算で1500ページ相当の解説本『徹底読解「判断力批判」(仮)』が電子版5分冊で順次刊行」とのことです。すごいですね。
★『死霊の恋/化身』は、フランスの作家テオフィル・ゴーティエ(Pierre Jules Théophile Gautier,1811-1872)の3作「死霊の恋」(初出1836年)、「アッリア・マルケッラ――ポンペイの追憶」(初出1852年)、「化身」(初出1856年)を収録。既訳には『死霊の恋・ポンペイ夜話 他3篇』(田辺貞之助訳、岩波文庫、1982年)などがあります。光文社古典新訳文庫では「吸血鬼文学を連続刊行」と謳っており、その第1弾が本書『死霊の恋/化身』。10月刊第2弾がブラム・ストーカー『ドラキュラ』、12月刊第3弾がレ・ファニュ『カーミラ』と続いていくとのことです。
★ちなみに、今はなき現代教養文庫の小柳保義訳ゴーティエ作品集3点『魔眼』『吸血女の恋』『変化』は、いずれも文元社のオンデマンド・シリーズ「教養ワイドコレクション」で入手することが可能です。
★『作家の仕事部屋』は、中央公論社より1979年に刊行された単行本の文庫化。文庫化にあたり、編集部により新たに注釈が割注として加えられ、巻末には読書猿さんによる解説「結果を約束しない様々な儀礼〔プロトコール〕」が付されています。原著は『作家たちはどのように仕事するか』(フラマリオン、1978年)。25人の作家へのインタヴューが収められています。25人の名前を列記しておきます。ロラン・バルト、アルフォンス・ブダール、エルヴェ・バザン、ミシェル・ビュトール、ジョゼ・カバニス、ギ・デ・カール、エレーヌ・シクスー、アンドレ・ドーテル、マックス・ガロ、ジュリアン・グラック、マルセル・ジュアンドー、ジャック・ローラン、J・M・G・ル・クレジオ、クロード・レヴィ=ストロース、フランソワーズ・マレ=ジョリス、A・P・ド・マンディアルグ、パトリック・モディアノ、ロベール・パンジェ、クリスチアーヌ・ロシュフォール、フランソワーズ・サガン、ナタリー・サロート、フィリップ・ソレルス、ミシェル・トゥルニエ。
★最後に最近出会いのあった既刊書と近刊書を列記します。
『庭のかたちが生まれるとき――庭園の詩学と庭師の知恵』山内朋樹(著)、フィルムアート社、2023年8月、本体2,600円、四六判並製384頁、ISBN978-4-8459-2300-7
『聖杯の神話――アーサー王神話の魔法と謎』ジョーゼフ・キャンベル(著)、斎藤伸治(訳)、人文書院、2023年9月、本体3,800円、4-6判上製368頁、ISBN978-4-409-14069-7
『ポスト・ファシズムの日本――戦後鎌倉の政治文化』ローラ・ハイン(著)、中野耕太郎/奥田博子(訳)、人文書院、2023年9月、本体4,500円、4-6判上製352頁、ISBN978-4-409-52089-5
★『庭のかたちが生まれるとき』は発売済。京都教育大学教育学部美術領域准教授の山内朋樹(やまうち・ともき, 1978-)さんの初めての単独著です。フィルムアート社さんのウェブサイト「かみのたね」での同名連載(全12回、2021~2023年)を全面的に改稿し、書き下ろしを加えたもの。版元紹介文に曰く、庭師であり美学研究者でもある著者が「京都福知山の観音寺を訪ね、その大聖院庭園〔通称「斗籔庭」〕作庭工事のフィールドワークをもとに、庭のつくられ方を記録した「令和・作庭記」」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯に千葉雅也さんの推薦文あり。「庭の見方をガラリと変えてくれる画期的な庭園論」と。
★なお、関連書としては山内さん自身の訳書である『動いている庭』(みすず書房、2015年;原著2007年)があります。著者のジル・クレマン(Gilles Clément, 1943-)はフランスの庭師で作家。同書の刊行に合わせてクレマンが来日して連続講演し、山内さんも参加されている記録には『庭師と旅人――「動いている庭」から「第三風景」へ』(エマニュエル・マレス編、秋山研吉訳、あいり出版、2021年)があります。
★人文書院さんの近刊書2点は22日(金)取次搬入予定。『聖杯の神話』は、米国の比較神話学者ジョーゼフ・キャンベル(Joseph Campbell, 1904-1987)さんの遺稿集『Romance of the Grail: The Magic and Mystery of Arthurian Myth』(New World Library, 2015)の全訳。帯文によれば「本書は中世ヨーロッパにおけるアーサー王伝説・聖杯伝説をテーマに、聖杯の起源と意味、円卓の騎士たちの冒険の分析、東洋神話との比較を通じて、神話のシンボルの本質に迫る」と。1927年の修士論文が補論として併載されており、貴重です。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
★『ポスト・ファシズムの日本』は、ノースウェスタン大学教授で日本現代史がご専門のローラ・ハイン(Laura Hein)さんの著書『 Post-Fascist Japan: Political Culture in Kamakura after World War II』(Bloomsbury Press, 2018)の全訳。原書では単独著の3冊目で、訳書としては『理性ある人びと力ある言葉――大内兵衛グループの思想と行動』(大島かおり訳、岩波書店、2007年;原著2004年)に続く2冊目。訳者解題の文言を借りると、本書は「戦中戦後の鎌倉を具体的な事例に、ポスト・ファシズムの日本がどのように人間の復興を成し遂げることができたか」を分析するもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。