『資本とイデオロギー』トマ・ピケティ(著)、山形浩生/森本正史(訳)、みすず書房、2023年8月、本体6,300円、A5判上製1128頁、ISBN978-4-622-09048-9
『ヨーガと瞑想の心理学――ETHレクチャー(6)1938-1940』C・G・ユング(著)、M・リープシャー(編)、河合俊雄(監修)、猪股剛/宮澤淳滋/鹿野友章/長堀加奈子(訳)、2023年8月、本体5,200円、A5判並製512頁、ISBN978-4-422-11738-6
『テトラビブロス――プトレマイオスの占星術書〔ロビンズ版〕』クラウディウス・プトレマイオス(原著)、フランク・エグレストン・ロビンズ(編訳)、加藤賢一(訳)、説話社、2022年6月、本体5,000円、A5判上製308頁、ISBN978-4-906828-88-3
★『資本とイデオロギー』は、フランスの経済学者トマ・ピケティ(Thomas Piketty, 1971-)による『Capital et Idéologie』(Seuil, 2019)の訳書。『21世紀の資本』(原著2013年;山形浩生/守岡桜/森本正史訳、みすず書房、2014年)の「おおむね続編」(序文より)です。凡例によれば底本にはフランス語原版と英語版(2020年)を用い、各版に異同がある場合は適宜修正した、と特記されています。訳者あとがきはなし。特設ページがみすず書房さんのウェブサイトで開設されています。目次などをご確認いただけます。「はじめに」の一部も立ち読み可能となっています。
★「本書の主題は、格差レジームの歴史と進化だ。〔…〕この歴史的分析から、ある重要な結論が浮かび上がる。経済発展と人間進歩を可能にしたのは、平等性と教育を求める闘争であって、財産、安定性、格差を聖なるものに祭り上げることではない、ということだ」(はじめに、3頁)。「格差は経済的なものでもなければ、技術的なものでもない。イデオロギー的で政治的なものだ。これはまちがいなく、本書で採用した歴史的アプローチから生じる、最も衝撃的な結論だ」(同、7~8頁)。
★「本書で私は、経済、社会、思想、政治の格差レジーム史を提示しようとした。それはつまり、格差が正当化されて構造化される仕組みの歴史だ」(結論より、925頁)。「本書で分析した経験に基づき、資本主義と私有財産を超克し、参加型社会主義と社会連邦主義に基づく公正な社会を確立することは可能だと、私は確信している」(同、926頁)。「それらが実に複雑だからこそ、あらゆる市民の過去の歴史と体験、さらに理性に基づいた広範で集合的な熟議だけが、問題解決に向けた進歩をもたらせる。結局のところ、本書の目的はたった一つしかない。市民が経済と歴史の知識を再び我が物にできるようにすることだ」(同、931頁)。
★1000頁を超えるA5判の大冊が税別6,300円というのは、版元さんの勇気ある挑戦で、本書にかける並々ならぬ意気込みを感じさせます。電子書籍版は12月配信開始予定とのこと。
★『ヨーガと瞑想の心理学』は、ユングがチューリヒのスイス連邦工科大学(ETH)で1933年から1941年にかけて行った一般聴衆向けの一連の講義の記録シリーズ「ETH〔エーテーハー〕レクチャー」の第6巻(1938~1940年)。既刊書には第1巻(1933~1934年)の『近代心理学の歴史』(創元社、2020年8月)があります。
★帯文によれば本書は「1938年から1940年にかけて行われた、東洋のスピリチュアリティに関するユングの講義の記録。ユングは、本講義をアクティブ・イマジネーションという概念からはじめ、東洋の瞑想の行にその対応物を求めて比較検討していった。『黄金の華の秘密への注釈』と『クンダリニー・ヨーガの心理学』にも比肩する重要書」。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。『黄金の華の秘密』(湯浅泰雄/定方昭夫訳、人文書院、1980年;新装版、2018年)と『クンダリニー・ヨーガの心理学』(老松克博訳、2004年;復刊、2022年)には訳書があります。
★『テトラビブロス』は、発売から1年以上経過して最近偶然発見。あやうく見逃すところでした。古代アレクサンドリアの天文学者プトレマイオス(Κλαύδιος Πτολεμαῖος, c83-c168)の占星術書を「ミジガン大学のギリシャ語教授だったロビンズ(Frank Egleston Robbins, 1884-1963)が1940年に発行したギリシャ語の本文に英訳を併載した版から訳出した」(まえがきより)もの。「できるだけロビンズの文章に即して訳すことを心がけた」(あとがきより)とあるので、英訳からの重訳であると見てよいかと思われます。巻頭にはロビンズによる「序文」の抄訳が収められ、巻末には訳者による「テトラビブロス概要」「占星術に登場する主な天文学的事項」が付されています。『テトラビブロス』は別名がギリシア語で『アポテレマスティカ』、ラテン語では『クァドリパルティトゥム』。この種の訳書は品切になるとたいてい途方もない古書価がつくので、お早めの購入をお薦めします。
★訳者の加藤賢一 (かとう・けんいち, 1951-)さんは元岡山理科大学教授、ご専門は恒星物理学です。あとがきによれば「理論と実践、つまりアルマゲストとテトラビブロスが一体となり、当時はそれで学問として完結していた」とお書きになっています。訳出に際しては2種の英訳、アシュマンド版(1820年刊)とウィルソン版(1828年刊)を参考にされたとのこと。なお『アルマゲスト』(藪内清訳、恒星社厚生閣、1958年;復刻版、1993年)には訳書があります。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『母性の科学――ママになると脳や性格がすごく変わるわけ』アビゲイル・タッカー(著)、 西田未緒子(訳)、インターシフト(発行)、合同出版(発売)、2023年9月、本体2,600円、46判並製408頁、ISBN978-4-7726-9580-0
『精神分析的サポーティブセラピー(POST)入門』岩倉拓/関真粧美/山口貴史/山崎孝明(著)、東畑開人(特別寄稿)、金剛出版、2023年9月、本体3,400円、A5判並製256頁、ISBN978-4-7724-1986-4
『ふつうの相談』東畑開人(著)、金剛出版、2023年8月、本体2,200円、4-6判上製200頁、ISBN978-4-7724-1983-3
『臨床心理学 増刊第15号 新しいジェンダースタディーズ――転換期を読み解く』大嶋栄子/信田さよ子(編)、金剛出版、2023年8月、本体2,400円、B5判並製200頁、ISBN978-4-7724-1984-0
★『母性の科学』は、米国の著述家アビゲイル・タッカー(Abigail Tucker)の著書『Mom Genes: Inside the New Science of Our Ancient Maternal Instinct』(Gallery Books, 2021)の訳書。米国で高く評価された前著『猫はこうして地球を征服した――人の脳からインターネット、生態系まで』(西田未緒子訳、インターシフト、2017年;原著『The Lion in the Living Room: How House Cats Tamed Us and Took Over the World』 Simon & Schuster, 2016)に続く第2作です。目次詳細と巻末解説は書名のリンク先でご覧いただけます。
★「本書は全米ベストセラーの前著『猫はこうして地球を征服した』にも増して、深い愛情とクールな科学の目線が絶妙に溶け合った快作だ。子育ての奮闘、転々と変わる環境、さまざまな不安や喜び……みずからの体験(まさに最高で最悪な)とともに、領域を超えた最新の研究成果によって母性の謎を解き明かしていく壮大な展開は著者タッカーならではの面白さだ」(解説より)。
★金剛出版さんの新刊より3点。『精神分析的サポーティブセラピー(POST)入門』は、「精神分析期限の支持的心理療法(Psychoanalysis Originated Supportive Therapy: POST)」の理論的基盤と実践を、2つの事例とその解説を通じて紹介するガイドブック。『ふつうの相談』は、臨床心理学者の東畑開人(とうはた・かいと, 1983-)さんによる論考。帯文に曰く「日々の友人関係からサイコセラピーの治療関係まで、「つながり」をめぐる根源的思索」。『あたらしいジェンダースタディーズ』は隔月刊誌『臨床心理学』の増刊号。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。充実した誌面に惹かれます。