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注目新刊:ブルーノ・ラトゥール『ガイアに向き合う』新評論、ほか

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『ガイアに向き合う――新気候体制を生きるための八つのレクチャー』ブルーノ・ラトゥール(著)、川村久美子(訳)、新評論、2023年8月、本体5,400円、A5判上製496頁、ISBN978-4-7948-1242-1


★『ガイアに向き合う』は、フランスの科学人類学者ブルーノ・ラトゥール((Bruno Latour, 1947-2022)の著書『Face à Gaïa : Huit conférences sur le Nouveau Régime Climatique』(La Découverte, 2015)に著者自身による修正が施された英語版『Facing Gaia: Eight Lectures on the New Climatic Regime』(Polity Press, 2017)の全訳。新評論さんでのラトゥールの訳書は本書で3冊目。いずれも今回の訳者河村さんの翻訳で、2008年の『虚構の「近代」――科学人類学は警告する』、2019年の『地球に降り立つ――新気候体制を生き抜くための政治』に続くものです。今年は7月に『パストゥールあるいは微生物の戦争と平和、ならびに「非還元」』(荒金直人訳、以文社)が出たばかりですので、厚い訳書が2か月連続で出たことになります。


★訳者あとがきによれば本書は「ラトゥールが2023年2月にギフォード講義〔スコットランド・エディンバラ大学、全6回〕を担当したことをきっかけに最終的にまとめられた理論書」。著者自身は序文でこう書いています。「講義の後で講義原稿に手を入れ、増補し、挙句、頭から書き直した。それが本書の土台になっている」(12頁)。「本書ではガイアを、地球への回帰の機会を私たちに提供するものとして描く。回帰に成功すれば科学、政治、宗教のそれぞれについて必要な、適切な性質を提供できるだろう。最終的には、科学、政治、宗教の従来の仕事に対し、より控えめな、より地球に寄り添った新定義を与えることになる」(15頁)。


★さらにラトゥールはこう書きます。「本書のレクチャーは二つで一組の構成になっている。最初の二つのレクチャー〔第一、第二〕は、「エージェンシー」(「行為能力」の意味で使う)の考え方を扱う。エージェンシーは、これまで別々の学問領域だったものの間に交流を生じさせる不可欠の概念である。続く二つのレクチャー〔第三、第四〕では、本書の主役を登場させる。ガイア、そして人新世である。また第五、第六のレクチャーでは、地球を占有するための戦いを生き抜こうとする人々について、そして彼らが自らを発見していく時代について定義する。最後の二つのレクチャー〔第七、第八〕では、この戦いに巻き込まれたテリトリーの地政学的課題について探究する」(15頁)。


★主要目次を以下に転記しておきます。


序文
第一レクチャー 自然(概念)の不安定性について
第二レクチャー 自然を(脱)アニメート化しない方法
第三レクチャー ガイア、(とうとう世俗的となった)自然の形
第四レクチャー 人新世と惑星グローブ(のイメージ)の破壊
第五レクチャー あらゆる(自然の)人民をいかに招集するか
第六レクチャー 「時の終末」を終わらせる(終わらせない)方法
第七レクチャー 戦争と平和の間の(自然の)国家
第八レクチャー 戦争状態にある(自然の)テリトリーを統治する方法
訳者あとがき――ブルーノ・ラトゥールが歩んだ道
参考文献一覧
事項索引/人名索引


★kawamurasan本書のは訳者あとがきでこう述べています。「今近代人が苦境に立っているとすれば、それは角の物質主義が原因ではなく、置き場を誤った超越の、過剰投与が原因だとラトゥールは断ずる(本書306頁)。だからこそ、本書が残した読者へのメッセージは「世界への私たちの帰属を再物質化せよ」(本書334頁)ということだったのである。私たちは地上世界に生きる本来のテレストリアルな人民として「ガイアに向き合う」しかないし、「テレストリアルな地球に降り立つ」しかないのである」(456頁)。ラトゥール自身は本書の末尾で次のように記しています。「私たちは、ガイアの背に掛かる重荷を軽減することに合意すべきだろう。ガイアこそが、私たちを背負って時の浅瀬を渡ってくれる存在であるのだから」(442頁)。


★続いて、まもなく発売となる、ちくま学芸文庫の9月新刊5点を列記します。


『増補改訂 境界の美術史――「美術」形成史ノート』北澤憲昭(著)、ちくま学芸文庫、2023年9月、本体1,700円、文庫判576頁、ISBN978-4-480-51198-0
『新編 民藝四十年』柳宗悦(著)、ちくま学芸文庫、2023年9月、本体1,900円、文庫判752頁、ISBN978-4-480-51205-5
『テクノコードの誕生――コミュニケーション学序説』ヴィレム・フルッサー(著)、村上淳一(訳)、ちくま学芸文庫、2023年9月、本体1,500円、文庫判352頁、ISBN978-4-480-51206-2
『中国の城郭都市――殷周から明清まで』愛宕元(著)、ちくま学芸文庫、2023年9月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-51208-6
『初等整数論』遠山啓(著)、ちくま学芸文庫、2023年9月、本体1,400円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-51207-9


★『増補改訂 境界の美術史』は、美術史家の北澤憲昭(きたざわ・のりあき, 1951-)さんの著書『境界の美術史』(ブリュッケ、2000年;新装版2005年)に大幅な加筆修正を施し再構成したもの。帯文に曰く「『眼の神殿』〔ちくま学芸文庫、2020年〕と対をなす画期的論集」と。「国家と美術」「性と国家」「美術の境界――ジャンルの形成」「制度から主体へ」の4部構成。文庫版あとがきと、大阪大学大学院准教授の中嶋泉さんによる解説が付されています。


★『新編 民藝四十年』は、美術評論家の柳宗悦(やなぎ・むねよし, 1889-1961)さんの著書『民藝四十年』(宝文館、1958年)に17本の論考を増補し、著者自身による訂正指示を反映させて再構成したもの。巻頭に学芸文庫編集部による「『新編 民藝四十年』刊行にあたって」、巻末には著者自身による「四十年の回想――『民藝四十年』を読んで」と、松井健さんによる解説「民藝の発見から美の宗教へ」が置かれています。柳さん監修による同文庫の『民藝図鑑』(全3巻、2023年)と併せて揃えたい1冊です。



★『テクノコードの誕生』は、チェコ生まれでブラジルなどで活躍したメディア哲学者ヴィレム・フルッサー(Vilém Flusser, 1920-1991)さんの著書『テクノコードの誕生』(東京大学出版会、1997年)の文庫化。原著はドイツ語のフルッサー著作集第4巻『コミュニケーション学』(Kommunikologie, Bollmann, 1996)所収の「Umbruch der menschlichen Besiehungen?」です。直訳すると「人間関係の転換?」。訳者の村上淳一(むらかみ・じゅんいち, 1933-2017)さんはお亡くなりになっているため、訳文の改訂についての情報は特記されていません。巻末には東京大学名誉教授の石田英敬さんによる文庫版解説「メディアの世紀を生きた哲学者」が付されています。フルッサーの訳書が文庫化されるのは今回が初めてです。


★『中国の城郭都市』は、中国史家の愛宕元(おたぎ・はじめ, 1943-2012)さんが中公新書の1冊として1991年に上梓された同名著書の文庫化。巻末特記によれば「文庫化に際して、一部図版を改めた」とのこと。巻末解説は駒澤大学准教授の角道亮介さんによる「中国考古学の怖さとおもしろさ」。曰く「本書は、中国における城郭都市の出現と展開を、新石器時代から清代に至るまでの大きな時間軸で俯瞰的に論じたものである。〔…〕本書のように、数千年にわたる都市の発展を一人の研究者が丹念に考察した著作を寡聞にして知らない」と。


★『初等整数論』は、Math&Scienceシリーズの最新刊。数学者の遠山啓(とおやま・ひらく, 1909-1979)さんの同名著書(日本評論社、1972年』)の文庫化です。もともとは『数学セミナー』誌で連載されたもの(1969年7月号~1970年12月号)。巻末特記によれば「文庫化にあたり、「数学教育の2つの柱」(「数学教室」1978年8月号)を増補し、本分に若干の修正を施した」とのことです。巻末の文庫版解説は、数学者の黒川信重さんがお寄せになっておられます。曰く「〔本書は〕予備知識を何も仮定せずに、誰でも楽しめる内容になっている。〔…〕あえて触れると、読者が「現代初等整数論」を目指すなら、ぜひとも適宜「ゼータ関数論入門」も自分で補充して欲しい」。ゼータ関数論入門については具体的な書目を挙げておられませんが、黒川さんによる関連書には『ゼータへの招待』(共著、日本評論社、2018年)や『零点問題集――ゼータ入門』(現代数学社、2019年)、『ゼータ進化論――究極の行列式表示を求めて』(現代数学社、2021年)などがあります。


★最後に、藤原書店さんの8月新刊3点を列記します。


『グリーンランド――人文社会科学から照らす極北の島』高橋美野梨(編)、井上光子/小澤実/ウルリック・プラム・ガド/須藤孝也/高橋美野梨/中丸禎子/本多俊和(スチュアート・ヘンリ)/イーリャ・ムスリン/ソアン・ルド(著)、藤原書店、2023年8月、本体3,600円、四六判上製408頁、ISBN978-4-86578-395-7
『金時鐘コレクション(11)歴史の証言者として――「記憶せよ、和合せよ」ほか 講演集2』金時鐘(著)、姜信子(解説)、細見和之(解題)、藤原書店、2023年8月、本体4,200円、四六変型判上製376頁+口絵2頁、ISBN978-4-86578-365-0

『世界子守唄紀行――子守唄の原像をたずねて』鵜野祐介(著)、藤原書店、2023年8月、本体1,800円、A5変型判並製168頁、ISBN978-4-86578-394-0



★『グリーンランド』は、帯文に曰く「「東と西」、「自然と人間」の混淆する極北の島を多角的に描いた、初の論集」。9名に執筆者による10篇の論考を収録。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。巻末には関連年表(紀元前3000頃~2023年)、主要人名・組織名索引、地名索引が配されています。編者の高橋美野梨(たかはし・みのり, 1982-)さんは北海学園大学准教授。ご専門は国際関係学,デンマーク・グリーンランドを中心とした北極政治、とのことです。


★『金時鐘コレクション(11)歴史の証言者として』は、全12巻の第8回配本。「「在日」を生きる」「文学論」「歴史の証言者として」の3部構成で15編を収録。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。巻末に金さん自身による「あとがき」、姜信子さんによる解説「新たな「産土」の詩のために」、細見和之さんによる解題「歴史の証言者として 講演集Ⅱ」が付されています。投げ込みの「月報8」では、愛沢革さん「多面体の凹凸鏡を据えつける」、鎌田慧さん「「大勢になだれていかず」」、季村敏夫さん「「拳くらいつようないと」」、趙博さん「詩人と私」の4篇を収載。


★『世界子守唄紀行』は、世界各地の子守唄、19か国28編を楽譜と図版を付して紹介しています。日本子守唄協会の季刊誌『ららばい通信』(旧『ららばい』)での30回にわたる連載に加筆修正したもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。著者の鵜野祐介(うの・ゆうすけ, 1961-)さんは立命館大学文学部教授。ご専門は伝承児童文学の教育人類学的研究とのことです。

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