★まず、まもなく発売となる注目の単行本2点を列記します。
『事物の感覚と魔術について』トンマーゾ・カンパネッラ[著]、澤井繁男[訳]、国書刊行会、2022年12月、本体4,500円、A5判上製360頁、ISBN978-4-336-07443-0
『アリスの教母さま――ウォルター・デ・ラ・メア作品集(1)』ウォルター・デ・ラ・メア[著]、脇明子[訳]、橋本治[絵]、東洋書林、2022年12月、本体2,400円、A5変判上製168頁、ISBN978-4-88721-829-1
★『事物の感覚と魔術について』は、ルネサンス期イタリアの修道士トンマーゾ・カンパネッラ(Tommaso Campanella, 1568-1639)が34歳の折(1602年)に獄中で執筆した著書『De sensu rerum et magia』(全4巻、1620年刊)の訳書です。「森羅万象あらゆる部分やその粒子にも感覚が在る」(15頁)とするカンパネッラの哲学体系が示されます。訳者解説によれば、2011年にKey bookから刊行された、アントニオ・ブルエルスによるイタリア語訳版を使用されているとのことです。既訳には、第4巻のみの抄訳があります(村松真理子/池上俊一訳、『原典ルネサンス自然学』所収、名古屋大学出版会、2017年)。
★『アリスの教母さま』は、牧神社版『ウォルター・デ・ラ・メア作品集』全3巻(1976年)の復刊第1弾。全3巻とも、訳者は脇昭子さん、装画をかの橋本治さんが手掛けておられます。第2巻『アーモンドの樹』は1月刊、第3巻『まぼろしの顔』は2月刊、という予定だそうです。第1巻に収録されているのは4篇。「謎」(原著『謎』1923年刊より)、「お下げにかぎります」「ルーシー」「アリスの教母さま」(原著『魔法の箒』1925年より)。
★続いて、最近出会った発売済の注目新刊4点を列記します。
『価値論――人類学からの総合的視座の構築』デヴィッド グレーバー[著]、藤倉達郎[訳]、以文社、2022年12月、本体4,800円、A5判上製592頁、ISBN978-4-7531-0371-3
『不穏な熱帯――人間〈以前〉と〈以後〉の人類学』里見龍樹[著]、河出書房新社、2022年12月、本体2,700円、46変形判上製450頁、ISBN978-4-309-23121-1
『女たちのレボリューション』ジュディ・コックス[著]、北村京子[訳]、作品社、2022年11月、本体2,400円、四六判上製176頁、ISBN978-4-86182-936-9
『危機の時代と田辺哲学――田辺元没後60周年記念論集』廖欽彬/河合一樹[編著]、法政大学出版局、2022年11月、本体5,500円、A5判上製474頁、ISBN978-4-588-15131-6
★『価値論』は、米国の人類学者デヴィッド・グレーバー(David Rolfe Graeber, 1961-2020)のデビュー作『Toward an Anthropological Theory of Value: The False Coin of Our Own Dreams』(Palgrave. 2001)の全訳。訳者は、シカゴ大学人類学科でグレーバーの同僚だった藤倉達郎さん。巻末に90頁近い訳者解説「『価値論』の背景と概説」を寄せておられます。本書では「経済学でいう価値、社会学でいう価値(観)、そして構造主義言語学でいう記号の価値(意味)という三つの視点のすべてを統合するような大きな理論的枠組み」としての「価値の総合理論」が追究される、と藤倉さんは解説されています。
★『不穏な熱帯』は、早稲田大学准教授の里見龍樹(さとみ・りゅうじゅ, 1980-)さんによる、『「海に住まうこと」の民族誌――ソロモン諸島マライタ島北部における社会的動態と自然環境』(風響社、2017年)に続く、単独著第2弾。「南太平洋でのフィールドワークと哲学/思想や文学を峻烈に交差させ、人類学を「外部としての自然」へと解き放つ新たなる思考」(帯文より)。大澤真幸さんの推薦文に曰く「南西太平洋の「海の民」の思考から、人新世の時代に必要な画期的な「自然」の概念が導かれる」と。
★『女たちのレボリューション』は、英国の作家ジュディ・コックス(Judy Cox)の著書『The Women's Revolution: Russia 1905-1917』(Haymarket Books, 2019)の全訳。「レーニンが1917年革命の傑物であったことは間違いないが、革命のあらゆる段階において、そこには彼とともに議論し、理論を組み立て、組織を作った女性たちがいた」(6頁)。革命運動を担った女性たちの実像に迫る好著。
★『危機の時代と田辺哲学』は、まえがきの言葉を借りると「京都学派の哲学者、田辺元の没後六十周年を記念して、2021年9月4日と5日に田辺元記念哲学会・求真会にとって開催された「田辺元没後六十周年記念シンポジウム」での研究成果をまとめた」論集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。
★続いて、青土社さんの新刊より2点。
『日本近代思想論――技術・科学・生命』檜垣立哉[著]、青土社、2022年11月、本体3,800円、四六判上製384頁、ISBN978-4-7917-7518-7
『現代思想2022年12月号 特集=就職氷河期世代/ロスジェネの現在』青土社、2022年11月、本体1,600円、A5判並製、ISBN978-4-7917-1440-7
★『日本近代思想論』は、大阪大学大学院教授・檜垣立哉(ひがき・たつや, 1964-)さんが2007年から2021年まで各媒体で発表してきた論文12本に、書き下ろし6本を加えた1冊。下村寅太郎、廣松渉、大森荘蔵、西田幾多郎、田辺元、九鬼周造、三木清、木村敏、中井久夫、吉本隆明、宮沢賢治、等を論じています。
★『現代思想2022年12月号』は、版元紹介文に曰く「人口学・格差研究などマクロな視点と、よりミクロで文化的な観点の両面から就職氷河期世代・ロスジェネをめぐる問題を多角的に考えるとともに、そもそも「世代」とは何かという問いにも肉薄」と。雨宮処凛+生田武志+杉田俊介の3氏による討議をはじめ、赤木智弘、貴戸理恵、水無田気流、紙屋高雪、藤田直哉、ほか16氏が寄稿しています。
★最後に、藤原書店さんの11月新刊4点を列記します。
『木陰の歴史――感情の源泉としての樹木』アラン・コルバン[著]、小黒昌文[訳]、藤原書店、2022年11月、本体4,500円、四六判上製488頁+カラー口絵16頁、ISBN978-4-86578-366-7
『エマニュエル・トッドの冒険』石崎晴己[著]、藤原書店、2022年11月、本体4,400円、A5判並製616頁+カラー口絵16頁、ISBN978-4-86578-364-3
『森繁久彌・精神史の源流――幕末・明治から昭和戦前まで』楠木賢道[著]、藤原書店、2022年11月、本体3,600円、四六判上製384頁+口絵4頁、ISBN978-4-86578-369-8
『アイヌ力〔ぢから〕よ!――次世代へのメッセージ』宇梶静江[著]、四六変判上製312頁+カラー口絵4頁、ISBN978-4-86578-368-1
★うち2点について特記します。『木陰の歴史』は、フランスの歴史家アラン・コルバン(Alain Corbin, 1936-)の著書『La Douceur de l'ombre : l'arbre, source d'émotions, de l'Antiquité à nos jours』(Fayard, 2013)の全訳。樹木をめぐる「古代から現代に至る人間の感情の歴史を、文学・芸術・史料を通じて描き尽くす」(帯文より)一冊。
★『エマニュエル・トッドの冒険』は、フランスの歴史人口学者トッド(Emmanuel Todd, 1951-)の著書の数々の翻訳を手掛けてきた青山学院大学名誉教授、石崎晴己(いしざき・はるみ, 1940-)さんによるトッド解説本。先日発売となった『我々はどこから来て、今どこにいるのか?――アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか』(上下巻、堀茂樹訳、文藝春秋、2022年10月)についての詳細な要約・紹介も収録しているとのことです。