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注目新刊:ちくま学芸文庫12月新刊、ほか

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★ちくま学芸文庫、12月新刊5点6冊を列記します。

『リヴァイアサン(上)』トマス・ホッブズ[著]、加藤節[訳]、ちくま学芸文庫、2022年12月、本体1,600円、文庫判576頁、ISBN978-4-480-51143-0
『リヴァイアサン(下)』トマス・ホッブズ[著]、加藤節[訳]、ちくま学芸文庫、2022年12月、本体1,700円、文庫判624頁、ISBN978-4-480-51147-8
『現代文解釈の方法――着眼と考え方〔新訂版〕』遠藤嘉基/渡辺実[著]、ちくま学芸文庫、2022年12月、本体1,500円、文庫判496頁、ISBN978-4-480-51148-5
『良い死/唯の生』立岩真也[著]、ちくま学芸文庫、2022年12月、本体1,700円、文庫判 624頁、ISBN978-4-480-51156-0
『増補 20世紀写真史』伊藤俊治[著]、ちくま学芸文庫、2022年12月、本体1,300円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-51157-7
『シンメトリー』ヘルマン・ワイル[著]、冨永星[訳]、ちくま学芸文庫、2022年12月、本体1,100円、文庫判240頁、ISBN978-4-480-51138-6

★『リヴァイアサン』上下巻は、成蹊大学名誉教授の加藤節(かとう・たかし, 1944-)さんによる、文庫オリジナルの新完訳です。光文社古典新訳文庫の角田安正訳(全2巻、2014/2018年)以来の新訳です。帯文に曰く「争いに満ちた自然状態を脱し、平和と安全をもたらす権力の成立を考察した一大古典」と。なお、同文庫でのホッブズの既訳書には高野清弘訳『法の原理』(2019年)があります。

★『現代文解釈の方法〔新訂版〕』は、1979年に中央図書出版社から刊行された単行本の文庫化です。巻末の編集部特記によれば「本書の問題文については、適宜、漢字・かな表記を改めました」とのこと。巻末解説「「正解する」より大切なこと」は読書猿さんが寄せておられます。読書猿さんの解説を付してすでに同文庫にて復刊されている『現代文解釈の基礎〔新訂版〕』(2021年10月刊)の「発展篇」との位置づけです。

★『良い死/唯の生』は、筑摩書房より上梓された二つの著書『良い死』(2008年)と『唯の生』(2009年)を合本して文庫化したもの。ただし、巻頭の「文庫版への序」によれば、『唯の生』は第5章以降を収録とのことです。『唯の生』の第1章は大幅に書き換えて別の近刊書『人命の特別を言わず/言う』(筑摩書房、2022年12月)として刊行され、第2章から第4章は、分量の制約のため、生存学研究所のウェブサイトにて加筆版を読めるようになるようです。文庫版解説「それぞれの「良い死/唯の生」は立命館大学教授の大谷いづみさんがお書きになっています。立岩さんは本書の趣旨を「「良い死」を追い求めるのはよそう、「唯の生」でいいことにしよう」(11頁)と簡潔に述べておられます。

★『増補 20世紀写真史』は、92年刊のちくま学芸文庫版に、補遺として第7章「粒子化するスペクタクルーードキュメントとフィクションの新位相1990→2005」と、第8章「基層への凝視――歴史の転換とデジタル世界2005→2020」を追加し、さらに「増補版あとがき」を付したもの。それによれば、既存の各章にも加筆修正を施し、写真図版等の入れ替えも行った」とのことです。

★「デジタルイメージは人間の肉眼に映し出される視覚ではなく、人間の内的で想像的なイメージに新しいかたちを与えている。写真のイメージはこれまで眼球のメタファーとして語られたり遠近法の延長線上に認識されることが多かったが、今後は心的なメタファーを生かした記憶や無意識の回路を通して語られることが求められてゆくかもしれない」(330頁)。

★『シンメトリー』は、文庫オリジナルの新訳。原著は1952年刊で、既訳書には遠山啓訳(紀伊國屋書店、1957年)があり、幾度となく重版され復刊されているロングセラーでした。ドイツ生まれの数学者ヘルマン・ワイル(Hermann Klaus Hugo Weyl, 1885-1955)の「最晩年の名講義」(帯文より)として知られています。「シンメトリーは長年人類が秩序を、美を、完璧を理解し、生み出すために使ってきた概念なのです」(16頁)。文庫版解説は、九州大学教授の落合啓之さんがお書きになっています。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

『親子は生きづらい――“トランスジェンダー”をめぐる家族の物語』勝又栄政[著]、金剛出版、2022年12月、本体3,400円、4-6判並製360頁、ISBN978-4-7724-1934-5
『秘薬紫雪/風のように』竹久夢二[著]、作品社、2022年12月、本体2,400円、A5判上製232頁、ISBN978-4-86182-942-0
『絵画の素――TOPICA PICTUS』岡﨑乾二郎[著]、岩波書店、2022年11月、本体5,000円、四六判上製478頁、ISBN978-4-00-061515-0

★『親子は生きづらい』は、まもなく発売。トランスジェンダー男性で就労移行支援員や大学非常勤講師などで活躍されている勝又栄政(かつまた・てるまさ, 1991-)さんの単独著第一作です。版元紹介文に曰く「年月を重ねるごとに変化する、トランスジェンダーを取り巻く問題が克明に記されるとともに、戸惑いや葛藤を行きつ戻りつして進む、母親の本音が生々しく語られるノンフィクション作品」。巻末には明治大学准教授で臨床心理士の佐々木掌子さんによる解説「本書を立体的に理解する一助として」が置かれ、さらに、著者、東畑開人(臨床心理学者)さん、清水晶子(東京大学教授)さんの3氏による鼎談「願われた幸せの先――「生きづらさの理由」は説明できるか?」が併録されています。

★『秘薬紫雪/風のように』は発売済。2022年7月『出帆』、同年10月『岬 附・東京災難画信』に続き、竹久夢二の小説に夢二自身が手掛けた挿絵を付した復刊書の第三弾。帯文に曰く「陸軍中尉はなぜ、親友の幼馴染である美しき妻・雪野を殺したのか。問わず語りに語られる、舞台女優・沢子の流転の半生と異常な愛情。大正ロマンの旗手による、謎に満ちた中編二作品。挿絵106枚収録」と。解説は前二著同様、文芸評論家の末國善己(すえくに・よしみ, 1968-)さんが寄せておられます。

★『絵画の素』は発売済。造形作家で批評家の岡﨑乾二郎(おかざき・けんじろう, 1955-)さんが2020年から21年に掛けて執筆され、岩波書店のウェブマガジン「たねをまく」で連載されたのち、脳梗塞で入院中に校正したという1冊です。あとがきによれば「その頃、描きはじめた絵画作品のシリーズ(TOPICA PICTUS)と並行して書きはじめたものだが、有り体にいえば絵を描いているとき、あるいは絵を見ているときに去来する、さまざまな想念をそのまま書き記したもの」。いわば画集『TOPICA PICTUS』(ナナロク社、2020年)と対を成すものかと思います。岡﨑さん自身の作品のほか、多数の関連図版がフルカラーで収録されています。

★「物質的存在としての本は、読むことには決して吸収しきれない時間の厚み、その長い時間を過ごすために存在している。書棚の本は埃をかぶり、湿気を吸い、ときに光を浴び、粛々、泰然と時間をやりすごしていく。本が人を安心させつつ、ときに不気味にも感じられるのは、そこに人の属す時間の外の(そして空間にも属さない)世界があるのを感じるからだろう。それをちょっと人は覗くことができる。いつか、という特定のときに限定された出来事として」(68頁)。

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