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新規取引店情報:月曜社の本を置いてくださっている本屋さん

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2019年4月17日(水)開店
toi books
大阪府大阪市中央区久太郎町3丁目1−22 OSKビル204号室
直取引。芸術書や文芸書をご発注いただきました。心斎橋アセンスにお勤めだった磯上竜也さんがお作りになった本屋さんです。5坪のお店。開店の動機は2019年3月2日のブログ記事「本屋を<考えるため/問うため>に本屋をつくる。」にお書きになっておられます。「元々力を入れていた文芸を中心にしながらも、いわゆるジャンルに捉われすぎることなく、”問い”を見つけることのできる本を一冊一冊、出来る限り丁寧に売ってゆきたい。本を手に取る度に、〈見方/味方〉が増えるような本屋をつくりたい。その為にもイベントや展示も積極的にしたい」とのことです。店頭の写真をいただきましたので、掲出いたします。

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本日取次搬入:『森山大道写真集成(4)光と影』、シリーズ第2回配本

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シリーズ「森山大道写真集成」の第2回配本第4巻である『光と影』を本日、2019年5月23日に取次搬入いたしました。日販、トーハン、大阪屋栗田、三社とも本日です。書店店頭に並び始めるのは、27日(月)以降、順次となるかと思われます。なお、弊社は見計らい配本(パターン配本)は行っておりません。事前にご発注のあった書店様にのみ送品しております。弊社の新刊案内をご利用希望の書店様は、弊社営業部までご連絡下さい。新刊案内はFAXないしEメールにてお送りしております。弊社の書籍は基本的に取次の取引口座をお持ちの書店様にお届けが可能ですが、直取引のみで運営されている書店様との取引も可能です。ただし買切のみの扱いとなりますので、ご留意願います。

注目新刊:『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[3]数学・自然学』、カヴェル『道徳的完成主義』、ほか

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『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[3]数学・自然学』G・W・ライプニッツ著、原亨吉/横山雅彦/三浦伸夫/馬場郁/倉田隆/西敬尚/長島秀男訳、工作舎、2019年5月、本体17,000円、A5判上製624頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-507-8
『道徳的完成主義――エマソン・クリプキ・ロールズ』スタンリー・カヴェル著、中川雄一訳、春秋社、2019年5月、本体3,800円、四六判上製392頁、ISBN978-4-393-32381-6


★『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[3]数学・自然学』は第5回配本。第I期の中でもっとも分厚い1冊です。第I期新装版はこれまでに全10巻のうち、2018年9月:第8巻「前期哲学」、2018年11月:第4~5巻「人間知性新論」上下巻、2019年1月:第10巻「中国学・地質学・普遍学」、2019年3月:6~7巻「宗教哲学『弁神論』」上下巻、そして今回の第3巻と、計7巻が刊行済。第3巻では数学部門で「すべての数を1と0によって表わす驚くべき表記法。これは、事物が神と無から由来すること、すなわち創造の神秘、を表現している」や「位置解析について」、「微分算の歴史と起源」など20篇(補遺2篇を含む)を収め、自然学部門では「自然法則に関するデカルトおよび他の学者たちの顕著な誤謬についての簡潔な証明」など6篇を収録。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。数学部門は新装版続刊予定の第2巻「数学論・数学」の続きで、二進法の確立や位置解析の着想など、ライプニッツの卓抜な業績に触れることができます。


★二進法がこんにちのコンピュータで利用されているのは周知の事実で、ライプニッツのアイデアは現代人の生活にも大きな影響を及ぼしています。しかしライプニッツにおいてこの計算法の発見は、まず「数の持つ驚くべき秘密と利点をあらわにするのであって、日常的な計算にも役立つというのは、その後のことなのである」(97頁)とされています。「自然自らが、数という驚くべき姿をとることによって、すべては神と質量からではなく神と無から生じたのだということを、私たちに示しているのである」(同頁)。「最も単純でもあり、また自然的かつ根源的と言うに最も相応しいのではないか〔…〕0と1という二つの数記号しか必要としないのである」(92頁)。二進法はつまりライプニッツにとって「神が創造者であることの驚嘆すべきしるし」(97頁)であり「創造の神秘」(同頁)であったわけです。第3巻の初版は1999年刊。函入本の第I期の最終回配本でした。新装版では今後、第1巻「論理学」、第2巻「数学論・数学」、第9巻「後期哲学」が刊行予定です。


★『道徳的完成主義』は『Conditions Handsome and Unhandsome: The Constitution of Emersonian Perfectionism: The Carus Lectures, 1988』(University of Chicago Press, 1990)の全訳。訳者あとがきによれば、原題は直訳すると「美しい条件と醜い条件――エマソン的完成主義の憲法、ケーラス記念講義、1988年」。「美しい条件と醜い条件」というのはエマソンのエッセイ「経験」から採られており、本書のエピグラフとして引かれている一文にも含まれる表現です。従来のエマソンの訳では「醜い(unhandsome)」は「かんばしくない」(小泉一郎訳)とか、「最も美しからざる」(戸川秋骨訳)とされており、そもそもhandsomeは語源的には「手近にあって使い勝手がよい」という意味であるとのこと。目次は以下の通りです。


序文と謝辞
序論 針路を堅持して
第1講義 背反的思考:ハイデガーとニーチェにおけるエマソンの変様
第2講義 日常的なものの議論:ウィトゲンシュタインとクリプキにおける教示の場面
第3講義 正義の会話:ロールズと合意のドラマ
エピローグ
補遺A 一縷の望み
補遺B カバーレター
註記
解説
訳者あとがき


★訳者解説では本書はこう紹介されています。「本書はカヴェル中期(カヴェル64歳)の傑作であり、「道徳」の問題に正面から取り組むことになった(それまでの主題をエマソン的完成主義あるいは道徳的完成主義の観点から見直すことになった)という意味では転機の著作でもある。「道徳」とはいっても、何が正しい振る舞いかといった個別の問題を扱うわけでも、いわゆる応用倫理的な問題と直接の関係があるわけでもない。〔…〕世界を回復するための道、カヴェルの言葉でいえば懐疑論を担い耐えるための道徳が問われている」。


★カヴェルは第3講義でこう話します。「私たちは人間的な偏りの実例として生きている。それは〈道徳的完成主義〉が、どんな形式をとるにせよ人間的個体として認知するものの実例である。この人間的個体はそれ自身で完結しているのではなく、自分のなかでそして他者のなかで、さらなる自己に向かって開かれている。つまり変化の必要性を認識する存在なのだ。〔…〕あたかも私たちがみな教師である、もしくはいわば哲学者であるかのように。問われているのは特別な道徳的要求ではなく、民主主義的な道徳性の条件である。〔…〕私たちは互いに対し、何が間違っているかを学び教えあうかのようだ。自由の代価として私たちは絶えず警戒しなくてはならない。学者が私たちを元気づけるのは、こうした帰結に耐えるためだ」(272~273頁)。


★カヴェル(Stanley Cavell, 1926-2018)の単独著の訳書には本書を含め以下のものがあります。
2005年10月『センス・オブ・ウォールデン』齋藤直子訳、法政大学出版局
2008年05月『哲学の“声”――デリダのオースティン批判論駁』中川雄一訳、春秋社
2012年04月『眼に映る世界――映画の存在論についての考察』石原陽一郎訳、法政大学出版局
2016年10月『悲劇の構造――シェイクスピアと懐疑の哲学』中川雄一訳、春秋社
2019年05月『道徳的完成主義――エマソン・クリプキ・ロールズ』中川雄一訳、春秋社


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『夢と爆弾――サバルタンの表現と闘争』友常勉著、航思社、2019年5月、本体3,800円、四六判上製400頁、ISBN978-4-906738-38-0
『増補新版 いま生きているという冒険』石川直樹著、新曜社、2019年5月、本体1,800円、四六判並製320頁、ISBN978-4-7885-1614-4
『増補新版 ザ・ママの研究』信田さよ子、新曜社、2019年5月、本体1,400円、四六判並製176頁、ISBN978-4-7885-1615-1
『「国語」から旅立って』温又柔著、新曜社、2019年5月、本体1,300円、四六判並製264頁、ISBN978-4-7885-1611-3
『志度寺縁起絵――瀬戸内の寺を巡る愛と死と信仰と』太田昌子編著、平凡社、2019年5月、本体4,800円、B5判上製316頁、ISBN978-4-582-29531-3
『宮本隆司 いまだ見えざるところ』宮本隆司著、東京都写真美術館編、平凡社、2019年5月、本体3,000円、B5変判上製224頁、ISBN978-4-582-20716-3


★『夢と爆弾』はまもなく発売。2012年から2018年に各媒体で発表された日本語論文19篇に、2018年と2019年に英文で発表された論考を自ら訳して加筆したものが2篇、さらに未発表論考1篇と書き下ろし2篇の、合計24篇を収録した、友常さんの4冊目の単独著です。あとがきにはこう書かれています。「資本制社会を相対化するために、さまざまなマイノリティと底辺労働者との出会いをこちらからつくる必要がある〔…念頭にあるのは〕寄せ場の労働者であり、アンダークラスの闘争〔…である〕。本書に収録したテキストのテーマはそれぞれ異なっているが、そのなかで私が追及してきたのは〔…出会いをこちらからつくるという〕ことに尽きる」(391頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。友常勉(ともつね・つとむ:1964-)さんは東京外国語大学大学院国際日本学研究院教授。これまでに刊行された単独著には、『始原と反復――本居宣長における言葉という問題』(三元社、2007年7月)、『脱構成的叛乱――吉本隆明、中上健次、ジャ・ジャンクー』(以文社、2010年10月)、『戦後部落解放運動史――永続革命の行方』 (河出ブックス、2012年4月)、があります。


★『増補新版 いま生きているという冒険』『増補新版 ザ・ママの研究』『「国語」から旅立って』は、新曜社さんのシリーズ「よりみちパン!セ」の今月新刊4点のうちの3点。もう1点、大谷能生『平成日本の音楽の教科書』は先日すでにご紹介しました。『増補新版 いま生きているという冒険』は2006年に理論社時代の「よりみちパン!セ」シリーズから刊行されたものを増補し、再構成して新装版として刊行するもの。カラー写真多数。「世界を歩き続けてきた写真家による、中学生時代から現在までの8つの「旅」の記録」(帯文より)。「「生きる」ということはすなわち、世界を経験することなのではないでしょうか」(29頁)と石川さんは書きます。この言葉の重みがしっかりと腑に落ちてくる良書ではないかと思います。


★『増補新版 ザ・ママの研究』は理論社時代の同シリーズの1冊の増補新版。母親を7つのタイプに分けて傾向と対策を伝授。「今はまだママといて楽しいだけかもしれないが、いずれあなたがおとなに近づくにつれて、ママとのつきあい方で困るときがくるかもしれない。その時に備えて、今から準備しておこう」(7~8頁)。「ママとのつきあいかたを解説した本はこれまで、なかった。これから書くことは、あなたがママと仲良く、楽しくつきあっていくためにきっと役に立つだろう」(8頁)。増補1は「ザ・パパの研究」、増補2は「ザ・ばぁばも研究」。基本的に女性の視点から書かれており、男性には別様の意味で刺さりやすい本かもしれません。


★『「国語」から旅立って』は現行シリーズの最新刊。温又柔(おん・ゆうじゅう:ウェン・ヨウロウ:1980-)さんは台湾生まれの小説家。中国語、台湾語、日本語が飛び交う家庭で育った温さんの、半生を振り返っての、ことばとアイデンティティとの向き合いの記録です。温さんはかつて留学先の上海でこう日記に綴ったといいます。「台湾から日本。日本と中国。中国にとっての台湾……日本育ちの台湾人として中国にいるという自分を自覚すればするほど、三つの国々の間での自分の位置がわからなくなってきてしまう……」(195頁)。また、「日本で育った台湾人としての自分のことば――中国語や台湾語が織り込まれたニホン語という杖を取り戻すために、そしてわたし自身を取り戻すために、わたしはこうして、「国語」としての日本語から旅立つ必要があったのだと思います」(257頁)と巻末の「おわりに」で述懐されています。


★平凡社さんの新刊より2点。『志度寺縁起絵』は、香川県さぬき市の、四国八十八箇所巡りの第八十六番札所である海辺の寺、志度寺に伝わる、縁起絵と縁起文の掛幅(重要文化財)の紹介書です。「神木が琵琶湖から流れ下り瀬戸内海の寺に辿りつく物語の絵と縁起文」(版元紹介文)をカラー図版や現代語訳とともに解説し、「豊かな瀬戸内海文化の実像――風俗習慣、進行、そして人々の思考様式を今に伝える第一級資料」(帯文)として30年近く研究されてきたものの成果をまとめています。縁起絵の資料CD付きです。


★『宮本隆司 いまだ見えざるところ』は、東京都写真美術館で2019年5月14日(火)から7月15日(祝)まで開催中の展覧会「宮本隆司 いまだ見えざるところ」の公式カタログ。80年代から10年代まで国内外で撮影した「都市をめぐって」と、徳之島の風景と人物を写した「シマというところ」の二部構成の作品集に、4本の論考が添えられています。宮本さん本人による「いまだ見えざるところ」、倉石信乃さんの「島へ――宮本隆司、もうひとつのイメージ」、キャリー・クッシュマンさんの「宮本隆司――闇のなかから」、藤村里美さんによる「旅の目的地」。宮本さんによるワークショップや、詩人の佐々木幹郎さんとの対談イベント情報が展覧会名のリンク先でご確認いただけます。


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「有島武郎研究」に荒木優太『仮説的偶然文学論』の書評が掲載

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有島武郎研究会さんの「有島武郎研究」第22号(2019年5月)に、弊社より2018年5月に刊行した荒木優太さんの著書『仮説的偶然文学論』の書評が掲載されました。荒木さんの前著『貧しい出版者』(フィルムアート社、2017年12月)とともに取り上げられています。評者は北海道大学教授の中村三春さんです。中村先生、ありがとうございました。


「『仮説的偶然文学論』は、著者の理論としては、『貧しい出版者』にも垣間見られ、また前掲の引用にも端的に示されたところの、対象としても態度としても断片化に徹し、断片を論証において多様に接続する手法によって構築されている。〈触れ‐合い〉の契機としての偶然性は、ここでは論述対象であると同時に論述方法でもあり、論述は内容においても言説においても断片の接続の場となる。これほど緊密な論述スタイルは希に見ると評すべきであり、〔…〕断片の〈触れ‐合い〉の限界にまで徹するそのテクスト解釈は、再三述べたように意想外の驚きを生じてやむことがない」(151頁上段)。

注目新刊:木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義』、『現代思想2019年6月号:加速主義』、ほか

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『ニック・ランドと新反動主義――現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』木澤佐登志著、星海社新書、2019年5月、本体960円、新書判240頁、ISBN978-4-06-516014-5
『現代思想2019年6月号 特集=加速主義――資本主義の疾走、未来への〈脱出〉』青土社、2019年5月、本体1,400円、A5判並製248頁、ISBN978-4-7917-1382-0
『アメリカ紀行』千葉雅也著、文藝春秋、2019年5月、本体1,500円、B6判並製192頁、ISBN978-4-16-390951-6
『暴力と輝き』アルフォンソ・リンギス著、水野友美子/金子遊/小林耕二訳、水声社、2019年5月、本体3,200円、四六判上製302頁、ISBN978-4-8010-0409-2



★『ニック・ランドと新反動主義』は、『ダークウェブ・アンダーグラウンド』(イースト・プレス、2019年1月)に続く、木澤佐登志(きざわ・さとし:1988-)さんによる第二作。「ピーター・ティール」「暗黒啓蒙」「ニック・ランド」「加速主義」の4章立てで、新反動主義(Neoreaction:NRx)のエッセンスを紹介するものです。月刊誌「現代思想」2019年6月号も「加速主義」を特集しており、木澤さんの論考「気をつけろ、外は砂漠が広がっている――マーク・フィッシャー私論」が掲載されるとともに、木澤さんの新著で紹介されているニック・ランドの論文「暗黒啓蒙」の抄訳(パート4c~4f)が五井健太郎さんの翻訳と解題で収められています。同特集号で抄訳ないし部分訳された「暗黒啓蒙」(2012年:The Dark Enlightenment)の全体やマッカイ/アヴァネシアン編著『加速主義読本』(2014年:#Accelerate: The Accelerationist Reader)の主要部分は訳書が刊行されてもいいのではないかと思います。



★「加速主義」特集号の巻頭対談「加速主義の政治的可能性と哲学的射程」の牽引役をつとめておられる千葉雅也さんは『アメリカ紀行』を上梓されました。2017年度にサバティカル(学外研究)を利用して渡米された際の様々な経験を綴っておられます。千葉さんはこれまで学術論文だけでなくツイッターでの発言をまとめたり、あるいは独特な自己啓発書や異色対談など、様々な表現チャネルを開拓されてきましたが、今回の新刊もまた新しいスタイルで読者を魅了します。「加速主義」特集号でも論文「さまよえる抽象」が訳出されているレイ・ブラシエとのやりとりのエピソードをはじめ、束の間の出会いの彩りの数々が来たるべき知の原石のように無造作に白い紙の上に並べられています。


★『暴力と輝き』は、旅する哲学者リンギスの著書『Violence and Splendor』(Northwestern University Press, 2011)の全訳です。水声社さんの叢書「人類学の転回」の最新刊。「わたしたちは解き放ち、リズムのなすがままにさせる。無心と、官能的な歓びと、共有の感覚で渾然一体となる。ダンスや音楽のなかでそれは起きる。40年前、きみは大西洋を船で渡った。10日間というもの、大洋の表面が波立つ景色だけを観てすごした。絶えず変化する波頭と波間に、すべての存在を見て、感じた。大洋での経験は、ダンスと音楽であり、それは物語的なものや逸話的なものがことごとく取り除かれた、根源的ではかりしれないものだった」(15頁)。これが本書冒頭のテクスト「極限」の書き出しです。本書が言うviolence(暴力)は、自然にも人間社会にも絶え間なく流動し続けているような諸力を含意しているようにも感じます。「栄光におぼれる」というテクストでは「暴力とは、知りたいという強い欲求であると同時に、知ることの喜びでもある」(213頁)とも定義されています。


★同じく「栄光におぼれる」からの印象的な一節。「苦しみはわたしたちを老いさせ、老いることは苦しみである。老いを実感することは、自分たちがすでに為したことがすべて、しだいに重みを増していくのを感じることであり、何年もかけてイニシアチブをとったことのすべてが、その慣性とともに自分たちの上にのしかかってくるのを感じることだ。鏡を覗き込むと、身体には皺が寄り、たるみ、死後硬直する前にもうこわばり始めている」(219~220頁)。哲学思想書の棚にリンギスの本があるだけで、風が吹き抜けるような、そんな飾らない素朴な美しさを感じます。そう感じさせてくれる哲学者は稀です。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『モロイ』サミュエル・ベケット著、宇野邦一訳、河出書房新社、2019年5月、本体2,900円、46判上製320頁、ISBN978-4-309-20769-8
『死してなお踊れ――一遍上人伝』栗原康著、河出文庫、2019年6月、本体920円、文庫判296頁、ISBN978-4-309-41686-1
『わたしは哺乳類です――母乳から知能まで、進化の鍵はなにか』リアム・ドリュー著、梅田智世訳、インターシフト発行、合同出版発売、2019年6月、本体2,600円、四六判上製432頁、ISBN978-4-7726-9564-0
『アレ Vol.6 特集:食べる人(ホモ・エーデンス)』アレ★Club、2019年5月、本体1,380円、A5判並製280頁、ISDN278-4-572741-06-3
『日本における近代経済倫理の形成』曾暁霞著、作品社、2019年6月、本体2,700円、四六判上製262頁、ISBN978-4-86182-743-3
『歴史家ミシュレの誕生――一歴史学徒がミシュレから何を学んだか』立川孝一著、藤原書店、2019年5月、本体3,800円、四六上製400頁、ISBN978-4-86578-222-6
『転生する文明』服部英二著、藤原書店、2019年5月、本体3,000円、四六上製328頁、ISBN978-4-86578-225-7
『別冊 環 25号 日本ネシア論』長嶋俊介編、藤原書店、2019年5月、本体4,200円、菊大並製480頁、ISBN978-4-86578-223-3



★『モロイ』は「ベケット没後30年」を記念した宇野邦一さんの個人新訳による小説3部作の第1弾。『モロイ』(原著1951年刊)はこれまでに三輪秀彦訳(集英社ほか)や、安堂信也訳(白水社ほか)がありますが現在新刊で入手が可能なものは今回の新訳本のみです。投げ込みの「栞」は4頁構成で、仏文学研究者の野崎歓さんによる「『モロイ』賛」と、劇作家の松田正隆さんによる「声にうながされて」が掲載されています。


★「「スタイル」と言っても、ベケットの文体から、およそ美学的な特性は排除され、物語の進展はつねに停滞し、攪乱され、人物たちの身体にはしばしば原因不明な障害が現れ、決して行く先にたどりつくことのない旅が続き、あてどのない思考はたえずみずからを疑って中絶されるだけで、描写された事柄も即刻否定される」(訳者あとがき、301頁)。「そういうわけで私は家に戻り、書き始めた。午前零時だ。雨が窓にたたきつけている。午前零時ではなかった。雨なんか降っていなかった」(新訳本文、293頁)。


★「「わからない。正直言って大したことはわからない」とモロイは繰り返す。しばしば動くことのできないまま、「待つこと」だけが続く。もはや待たれているのは死だけかもしれないが、死はなかなかやってこない。緩慢な運動と中断、待機が繰り返され、「また終わる」ことが続くだけである」(訳者あとがき、301頁)。「崩壊とは人生そのものでもある。その通り、その通り、うんざりするよ、しかしなかなか全壊というところまでいくものじゃない」(新訳本文、37頁)。「そのとき私はわかっているだろう。知っているつもりで、ただ生きながらえているだけ、形も拠りどころもない情念が、腐った肉まで私を食い尽くすであろうということ、それはわかっていても、何もわからず、それまでもずっと叫んでいるだけだったように、やはり叫ぶしかないということを」(同頁)。


★次回配本は8月発売予定、『マロウンは死す』とのこと。第3弾は『名づけられないもの』です。


★『死してなお踊れ』は2017年の同名単行本の文庫化。文庫化にあたり、著者による「一遍上人年譜」(264~269頁)と、武田砂鉄さんによる解説「逃げちゃえばいい。それも、前へつきすすむってことになる。」が付されています。武田さんは本書をこう評しておられます。「目の前にそびえ立つ壁がある。どんな人にもあるだろう。いっちゃえばいいのだ。ぶっ壊しちゃえばいいのだ。ぶっ壊せなかったら、後ろを振り向いて、逃げちゃえばいいのだ。その時には、それも、前へつきすすむってことになる。栗原康は、そして一遍は、人間の振る舞いを思いっきり肯定してくれる。ホントにありがたい人たちだ」(289頁)。栗原さんの単独著の文庫化は本書が初めて。昨年夏にちくま文庫では編著書『狂い咲け、フリーダム――アナキズム・アンソロジー』が刊行されています。


★『私は哺乳類です』は『I, Mammal: The Story of What Makes Us Mammals』(Bloomsbury Sigma, 2017)の訳書。哺乳類の起源と進化について最新の研究成果を交えつつ解説した本です。目次詳細と巻末解説は書名のリンク先で公開されています。海外では「ネイチャー」誌や「サイエンス」誌などで好評を得ています。著者のドリューはサイエンスライターで神経生物学博士。本書が初めての訳書です。国立科学博物館で6月16日まで開催している「大哺乳類展2」を楽しむ上で最高の副読本となるのではないでしょうか。


★『アレ』は「ジャンル不定カルチャー誌」を謳う、年2回刊行のユニークな雑誌。編集部は1985年生まれから1996年生まれと若い世代が運営しています。今般発売された第6号の特集は「食べる人(ホモ・エーデンス)」。発酵デザイナーの小倉ヒラク(おぐら・ひらく:1983-)さんや、立命館大学「食マネジメント学部」の学部長・朝倉敏夫(あさくら・としお:1950-)さんへのインタヴューのほか、コラム、論考、短歌など多彩な内容となっています。デリダやガタリを参照した論考があったり、特集に関連した研究書、コミック、アニメ、ボードゲームの作品レビューがあるのも興味深いです。


★『日本における近代経済倫理の形成』は2014年に中国の広東外語外資大学に提出された博士論文を加筆改訂したもの。「江戸時代に蓄積された要素と開国以降の明治時代からの日本の歩みを、連続性と転換の観点から、統合的に把握する」とあります(序説、vi頁)。「荻生徂徠から海保青陵を経て、渋沢栄一に至る儒学において、どのようにして商業を肯定する思想が形成され〔…〕変転してきたかを、江戸時代から明治時代にかけての経済の状態の変化とあわせて追究する」(同頁)とも。著者の曾暁霞(そ・ぎょうか:1982-)さんのご専門は日本文化、日本思想史。現在、広東省で教鞭を執っておいでです。本書が日本語の単独著の一冊目となります。


★最期に藤原書店さんの5月新刊より3点。目次詳細はそれぞれの書名のリンク先でご確認いただけます。まず『歴史家ミシュレの誕生』は、同版元よりミシュレ『フランス史』全6巻の監修、共編、共訳を担当された歴史学者の立川孝一(たちかわ・こういち:1948-)さんが1995年から筑波大学を退官された2013年のあいだに『歴史人類』誌や『思想』誌で発表してきた論考8本をまとめたもの。『転生する文明』はユネスコに長年奉職し、現在は麗澤大学比較文明文化研究センターの客員教授をおつとめの服部英二(はっとり・えいじ:1934-)さんによる「文明誌」の試み。「文明は生きている。それはおよそすべての生命体に似ている」(10頁)という「文明の〈生体〉史観」ともいうべきもの」(同頁)に立ち、「自分が出会ってきた数々の文明の移行と転生の姿をなるべく忠実に書きとめたつもり」(11頁)とのことです。『別冊 環 25号 日本ネシア論』は7000近い島々からなる日本をネシア(島々の集合体)としてとらえ、12のサブネシア(先島ネシア、ウチナーネシア、小笠原ネシア、奄美ネシア、トカラネシア、黒潮太平洋ネシア、薩南ネシア、西九州ネシア、北九州ネシア、瀬戸内ネシア、日本海ネシア、北ネシア)から考察する論文集。番外遍(ママ)として「済州島海政学」という視点も併録され、巻末には100冊の参考文献や年表も配されています。


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クラウス『視覚的無意識』の書評が「週刊読書人」と「図書新聞」に掲載

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弊社3月刊、ロザリンド・E・クラウス『視覚的無意識』の書評が2誌に掲載されました。
志賀信夫氏書評「テキストの迷宮が絵画とは何かを問いかける」(「週刊読書人」2019年5月31日号)
暮沢剛巳氏書評「グリーンバーグのモダニズム美術論の批判的克服、ある種の「親殺し」の書――ようやく実現した待望の邦訳の出版を素直に喜びたい」(「図書新聞」2019年6月15日号)




注目新刊:小泉義之『ドゥルーズの霊性』河出書房新社、ほか

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『ドゥルーズの霊性』小泉義之著、河出書房新社、2019年6月、本体3,900円、46変形判上製384頁、ISBN978-4-309-24912-4
『ウンベルト・エーコの文体練習[完全版]』ウンベルト・エーコ著、和田忠彦訳、河出文庫、2019年6月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN978-4-309-46497-8
『ぼそぼそ声のフェミニズム』栗田隆子著、作品社、2019年5月、本体1,800円、ISBN 978-4-86182-751-8



★『ドゥルーズの霊性』はまもなく発売。1991年から2019年まで各媒体で発表されてきた論文14本に書き下ろし「フーコーの霊性」を加えた1冊。後書によれば「これまでドゥルーズ哲学について書いてきたもののなかから8論文を選び、関連する6論文をあわせて編んだものである。〔…〕堅実に研究を進めていたなら、ドゥルーズについてであれ、ホッブズかスピノザについてであれ、もっとまとまったものにできたはずであるが、〔…〕なかなかそうもいかなかった〔…〕一哲学徒の苦戦ぶりを眺めて、その先へ進んでいただければ、と思っている」とあります。目次を以下に転記しておきます。


ドゥルーズの霊性――恩寵の光としての自然の光
Ⅰ 生命/魂
 ドゥルーズにおける普遍数学――『差異と反復』を読む
 ドゥルーズにおける意味と表現
 ドゥルーズにおける意味と表現(2)表面の言葉
 ドゥルーズにおける意味と表現(3)器官なき身体の娘たち
 出来事(事象)としての人生――ドゥルーズ『意味の論理学』における
Ⅱ 政治/倫理
 ドゥルーズ/ガタリにおける政治と哲学
 フーコーのディシプリン――『言葉と物』と『監獄の誕生』における生産と労働
 戦時-戦後体制を貫くもの――ハイデガー(「ヒューマニズム書簡」と「ブレーメン講演」)の場合
 思考も身体もままならぬとき――ドゥルーズ『シネマ』から
Ⅲ 自然/善
 〈自然状態〉の論理と倫理――ホッブズについて
 自己原因から自己保存へ――スピノザ『エチカ』をめぐって
 インテリゲンティアの幸福――『エチカ』第四部をめぐって
 最高善の在処
フーコーの霊性――真の生と真の世界、あるいは蜂起と歴史
後書


★「芸術作品が霊的な帝国を垣間見させる形像として差し出すのが、〈来たるべき民衆〉である。現世において、集団的な魂が〈来たるべき民衆〉になること、それがドゥルーズの霊性である」(38頁)。「国家による統治とは別の統治〔…〕地域共同体、宗教共同体による自己統治である。〔…〕フーコーは、この別の統治を支えている宗教性、あるいはむしろ霊性に注意を向ける」(374頁)。「真なる生とは、国家による統治とは別の自己統治を推し進める生のことだけではなく、国家による弾圧で殺された死者の霊魂、蜂起で斃れた人間の亡霊、聖なる者の魂、それら不可視のものが彷徨い取り憑く次元、復讐をもたらす怨霊だけではなく救済をもたらす善霊もそこに宿るような次元、それが現前化するような政治的な生のことでもある」(375頁)。「蜂起は歴史を断つ。それは、蜂起が、他界に関わっているからである。〔…〕この霊性の蜂起こそが、歴史を開く。この世での真なる生こそが、死後の世界、未来の真なる世界を開くのである」(377頁)。「この熱情的な霊性を、最後のフーコーは語ろうとしていたのである」(378頁)。


★『ウンベルト・エーコの文体練習[完全版]』は、新潮社より1992年に刊行された単行本『ウンベルト・エーコの文体練習』(1999年に新潮文庫で再刊)に、月刊誌「新潮」1997年1月号の特集「ウンベルト・エーコの挑戦状」を追補して再文庫化したもの。新潮社版『ウンベルト・エーコの文体練習』は『ささやかな日誌』(Diario minimo, Bompiani, 1963)から12篇を選んで収録し、エーコによる日本語版への序文と、訳者の和田さんによるエーコとの交友をめぐるエッセイを付したもの。今回の河出文庫版は、さらにここに月刊誌「新潮」1997年1月号の特集「ウンベルト・エーコの挑戦状」に掲載された、『ささやかな日誌2』(Il secondo diario minimo, Bompiani, 1992)から選ばれた8篇とエーコによる特集への前口上と訳者によるエッセイを再録し、巻末に「文庫版訳者あとがき」を加えたもの。目次は以下の通りです。


第1部
序――もしわたしが日本語を知っていたら
ノニータ
新入り猫の素描〔エスキス〕
もうひとつの至高天
物体
芸術家マンゾーニの肖像の再浮上〔くびきり〕による反復行為〔かくされたいみ〕の散策〔じゅにく〕のための彼の虚構化〔じじつこうせい〕をめぐる小生の分析〔ぐろう〕
ポー川流域社会における工業と性的抑圧
フランティ礼讃
息子への手紙
変則書評三篇
アメリカ発見
あなたも映画を作ってみませんか
涙ながらの却下〔ボツ〕――編集者への読者レポート
楽しみはつづかない――ウンベルト・Eの文学遊戯(和田忠彦)
第2部
ささやかな挑戦状
帝国の地図(縮尺1/1)
編集チェック
かくれん本
定量分析批評概要
調子はいかが?
聖バウドリーノの奇蹟
教官公募
取扱い説明書
エーコは霧のむこうに(和田忠彦)
文庫版訳者あとがき


★『ぼそぼそ声のフェミニズム』は、2007年から2018年にかけて各媒体で発表されてきた論考10本を加筆修正し、書き下ろしの論考「「愚かさ」「弱さ」の尊重」と「はじめに ぼそぼそ声のフェミニズム」「あとがき」を加えて1冊にまとめたもの。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。「現在、家事等の労働を外国の人に委託し、移民とさえ認めずに「人材」を輸入しようという動きが日本にはある。このような立場の女性を無視して、あるいは無自覚に利用して「社会進出」をなしたと考えることこそが、フェミニズムだとしたら、恐ろしい。「国内の優秀な女性」のために「国外の女性」が不安定な条件で働くのを当然と考えるとしたら……『ぼそぼそ声のフェミニズム』は、こんな構図を「見なかったこと」にはできない。こぶしを上げて闘えなくても、ぼそぼそとつぶやき続ける」(21~22頁)。「様々な支配的な状況や抑圧を単純に弾き飛ばすのではなく、その支配的価値観をわが身に抱え込んで、四苦八苦しながらなおも、社会の柔順なコマにはそうそう簡単になれない、ならない体や心を抱えているところに、今は可能性を感じている」(142頁)。


★次に、まもなく発売となるちくま学芸文庫の6月新刊を列記します。


『書き換えられた聖書』バート・D・アーマン著、松田和也訳、ちくま学芸文庫、2019年6月、本体1,400円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-09928-0
『柳宗悦 美の菩薩』阿満利麿著、ちくま学芸文庫、2019年6月、本体1,000円、文庫判240頁、ISBN978-4-480-09922-8
『台湾総督府』黄昭堂著、ちくま学芸文庫、2019年6月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-09932-7
『増補 中国「反日」の源流』岡本隆司著、ちくま学芸文庫、2019年6月、本体1,200円、文庫判352頁、ISBN978-4-480-09927-3
『現代数学概論』赤攝也著、ちくま学芸文庫、2019年6月、本体1,400円、文庫判368頁、ISBN978-4-480-09929-7


★『書き換えられた聖書』は2006年に柏書房より刊行された単行本『捏造された聖書』の改題文庫化です。原著は『Misquoting Jesus: The Story Behind Who Changed the Bible and Why』(HarperSanFrancisco, 2005:『イエスの誤引用――聖書を改変した人々とその理由の背後にある物語』)。文庫版解説は東京大学大学院総合文化研究科准教授の筒井賢治さんがお書きになっています。著者のアーマン(Bart Denton Ehrman, 1955-)は聖書学者。これまでに本書のほか、『破綻した神キリスト』(松田和也訳、柏書房、2008年)、『キリスト教成立の謎を解く――改竄された新約聖書』(津守京子訳、柏書房、2010年)、『キリスト教の創造――容認された偽造文書』(津守京子訳、柏書房、2011年)などの訳書があります。



★『書き換えられた聖書』の「はじめに」にはこう書かれています。「本書のテーマは新約聖書の古い写本の数々と、そこに見出される相違点、それに聖書を複製しつつ、時にそれを改竄した書記たちの物語だ。とても自叙伝の鍵にはなりそうもないテーマだが、事実そうなんだからしかたがない。事実は小説よりも奇なりというわけだ」(11頁)。「本文批評については何も知らないけれど、書記たちが聖書をどんなふうに改竄したのか、なぜそんなことが解るのかというようなことに興味を持ってくださるあなたのために書いた。〔…〕今の新約聖書がどうやって出来たのか、オリジナルの著者のことばがわからないとはどういうことなのか、その言葉がどんな興味深い理由で改竄されたのか、そして私たちが厳密な分析方法をどんなふうに適用し、本物のオリジナルな言葉を再現していくか、というようなことに興味を持つあなたなら、楽しんで読んでいただけると思う」(35頁)。





★『柳宗悦 美の菩薩』は1987年にリブロポートから刊行された単行本を増補し文庫化したもの。文庫化に際し、補章「「美の菩薩」をめぐって」が加えられ、陶工・鈴木照雄さんによる解説「私にとって柳宗悦とは何か」が巻末に配されています。「はじめに」で著者はこう書いています。「本文においてくわしくのべるように、〈宗教的人間〉であることが柳宗悦の本領なのである。宗教がどういうものであるかを熟知した上で、宗教をさらに美の形で追求しようとしたのである」(8頁)。「菩薩とは、いつ実現するともわからない理想に命を捧げ続ける人のことであり、この言葉には、人間の悲願がこめられている。その悲願に私は共感するのであり、柳宗悦の、この世をすべて美しいもので埋めつくそうとした生き方は、私にとっては菩薩と表現するしかないのである」(9頁)。


★『台湾総督府』は1981年に教育社から刊行された、昭和大学名誉教授・黄昭堂(こう・しょうどう:1932-2011)さんの単独著の文庫化。巻末には中京大学法学部教授・檜山幸夫さんによる解説が付されています。檜山さんは本書を「台湾人研究者による台湾近代史概説書であるとともに、日本統治下台湾紙の概説書〔…〕親日的ともいわれる台湾人の対日感情の形成は、日本統治下の台湾の歴史にあっただけではなく、台湾の戦後史に原因していた〔…〕それを、台湾総督府による統治という歴史を解くことにより論じたのが本書である」と紹介されています。


★『増補 中国「反日」の源流』は、2011年に講談社選書メチエの1冊として刊行されたものを増補し文庫化したもの。補論「日中関係を考える――歴史からのアプローチ」、文庫版あとがき、東京大学大学院法学政治学研究科教授の五百旗頭薫さんによる解説が加えられています。文庫版あとがきによれば「誤植の訂正や表現の改善を除いて、ほとんど手を入れていない。しかし旧版そのまま、というのも、あまりに藝がないので、小著のレジュメ・ダイジェストも兼ねるような増補を施した」(323頁)。「日中関係はやはり底が知れない。それを解きほぐすには、互いの真摯な探求と考察が不可欠である」(324頁)。


★『現代数学概論』は1976年に筑摩書房の「数学講座」第1巻として刊行されたものの文庫化。数学者の赤攝也(せき・せつや:1926-)さんの単独著のちくま学芸文庫での文庫化は、『集合論入門』『確率論入門』『現代の初等幾何学』に続く4点目。巻頭には「文庫化に際して」という新たな序文が付され、巻末には「文庫版付記」が加えられています。親本からそのまま掲載された「まえがき」によれば、本書は雑誌「数理科学」に連載した記事「数学概論」に大幅な加筆を施したもので、「現代数学の地図である」とのことです。「集合」「写像とグラフ」「群論ABC」「数学的構造」「数学の記号化」「集合と数の基本法則」「論理の法則」「トートロジー」「論理の完全性」「計算とは何か」の全10章。


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★遠からず言及しようと機会を伺いつつなかなか触れることのできなかったここしばらくの既刊書について、書名と誌名を列記します。過去に何度か経験したことがありますが、たまにエキブロでは入力したテキストデータがアップに失敗した場合、すべて消えてしまうということがあったりします。バックアップを取らずに直接入力した場合には悲惨なことになります。以下の既刊書への言及はそうした消失の苦難を経て再構成されたものです。


『フィルカル Vol. 4, No. 1』ミュー、2019年3月、本体1,800円、A5判並製436頁、ISBN978-4-943995-21-0
『しししし2 特集:ドストエフスキー』双子のライオン堂出版部、2019年1月、本体1,800円、A5判並製188頁、ISBN978-4-9909283-5-3
『社会学史』大澤真幸著、講談社現代新書、2019年3月、本体1,400円、新書判640頁、ISBN978-4-06-288449-5
『原始文化(上)』エドワード・バーネット・タイラー著、松村一男監修、奥山倫明/奥山史亮/長谷千代子/堀雅彦訳、国書刊行会、2019年3月、本体6,600円、A5判上製626頁、ISBN978-4-336-05692-4
『後期スコラ神学批判文書集』マルティン・ルター著、金子晴勇訳、知泉書館、2019年4月、本体5,000円、新書判上製402頁、ISBN978-4-86285-293-9
『トマス・アクィナス 霊性の教師』J.-P.トレル著、保井亮人訳、知泉書館、2019年4月、本体6,500円、新書判上製708頁、ISBN978-4-86285-294-6
『対話集』デジデリウス・エラスムス著、金子晴勇訳、知泉書館、2019年4月、本体5,000円、新書判456頁、ISBN978-4-86285-295-3
『新訳 夢判断』フロイト著、大平健編訳、新潮社、2019年4月、本体2,500円、四六判変型上製464頁、ISBN978-4-10-591007-5
『人類、宇宙に住む――実現への3つのステップ』ミチオ・カク著、斉藤隆央訳、NHK出版、2019年4月、本体2,500円、四六判上製456頁、ISBN978-4-14-081776-6
『姿勢としてのデザイン――「デザイン」が変革の主体となるとき』アリス・ローソーン著、石原薫訳、フィルムアート社、2019年4月、本体2,300円、四六判並製252頁、ISBN978-4-8459-1832-4



★『フィルカル』第4巻第1号は特集2本立てで、「ポピュラー哲学」と「『映画で考える生命環境倫理学』」。後者は勁草書房さんから2月に刊行されたアンソロジーのスピンオフ企画とのことです。特別寄稿は一ノ瀬正樹さんによる「リズムの時間遡及的本性についての哲学ノート――「音楽化された認識論」への小さなインタールード」。「あなたはすでに見越しているだろう。私の議論も一つのリズムである、と。その響きが反響され、別のリズムが律動してくること、それがこの世界のゆらぎゆく姿なのである」(14頁)。翻訳はドナルド・ジャッド「特殊な物体」(河合大介訳:"Specific Objects" in Arts Yearbook 8, 1965)。


★『しししし』第2号は特集「ドストエフスキー」。山城むつみさんによる「ドストエフスキーの目玉にあたる」や、吉川浩満さんによる「ひがむ力――ドストエフスキーのエモーションハッキング」などを収めています。山城さんは特別企画「作品はだれのものなのか」で横田創さんと対談しておられます。本屋初の文芸誌は今号も温かみのある充実した誌面で楽しませてくれます。


★『社会学史』は、古代ギリシア哲学(アリストテレス)から思弁的実在論(メイヤスー)まで、大澤さんならではの明晰な通史を平明な講義スタイルで読むことができます。実際に本書は講談社の会議室で行われた講義を基にしているとのことです。索引を付しているのも親切。


★『原始文化』上巻は「宗教学名著選」全6巻の第4回配本。上巻には第11章「アニミズム(1)」までを収録。同シリーズでは、同下巻とラッファエーレ・ペッタッツォーニ『神の全知――宗教史学論集』の2点の続刊を待つのみとなりました。問答無用で買い揃えるべき名シリーズです。


★『後期スコラ神学批判文書集』『トマス・アクィナス 霊性の教師』『対話集』は「知泉学術叢書」の第6~8巻。金子晴勇さんの訳書が立て続けに刊行されたことも驚きですが、知泉書館さんでは今月より新訳「ヘーゲル全集」の刊行を開始されています。古典の訳書と高度な学術書を続々と出版される知泉書館さんのご活躍にただただ感嘆するばかりです。


★『新訳 夢判断』は精神科医の大平健(おおひら・けん:1949-)さんによる新訳。訳者まえがきによれば「ほぼ全体の骨格が出来上がったドイツ語版第4版と最後の加筆の行われた同第8版のふたつを元に"編訳"し、道標とも言うべき注を細かく付けました。いわばレジデント(研修医)用の敷衍訳」とのことです。

★『人類、宇宙に住む』は『The Future of Humanity: Terraforming Mars, Interstellar Travel, Immortality, and Our Destiny Beyond Earth』(Allen Lane, 2018)の訳書。目次詳細は書名のリンク先でご覧ください。版元サイトでは、カク博士への特別インタビュー「今世紀中に人類は、火星に住むようになる!」「地球外生命は存在する」が掲載されています。本書は主に理工書で売られるものかと思いますが、ここしばらくの注目新刊の流れで言えば、「現代思想」2019年6月号(特集:加速主義)や、木澤佐登志さんの2著『ダークウェブ・アンダーグラウンド』(イーストプレス)と『ニック・ランドと新反動主義』(星海社新書)、ブライドル『ニュー・ダーク・エイジ』(NTT出版)、ブライドッティ『ポストヒューマン』(フィルムアート社)などと共に併売・併読されるのがもっとも刺激的だと思います。こんな時に、ティモシー・リアリーの『神経政治学』(山形浩生訳、トレヴィル、1989年)や『大気圏外進化論』(菅靖彦訳、リブロポート、1995年)、ジョン・C・リリー『バイオコンピュータとLSD』(菅靖彦訳、リブロポート。1993年)、セオドア・ローザク『意識の進化と神秘主義』(志村正雄訳、紀伊國屋書店、1978年/1995年)などが文庫化されればいっそう面白くなるのですが。







★『姿勢としてのデザイン』は『Design as an Attitude』(JRP Ringier, 2018)の全訳。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。プロローグによれば本書はアートマガジン「フリーズ」で2014~2017年に連載した「By Design」というコラムに基づいたものとのこと。「それ〔デザイン〕は一貫して「世の中に起こるあらゆる変化――社会、政治、経済、科学、技術、文化、環境、その他――が人々にとってマイナスではなくプラスに働くように翻訳する《変革の主体》としての役割」を担ってきた。かつてないほどのスピードと規模の変化がさまざまな局面で起こり、リスクも多いこの激動の時代に、デザイナーたち(本職かどうかにかかわらず)は、その役割をどのように果たしているのか。それを本書で取り上げる」(11頁)。巻末の「デザイナーとデザインプロジェクト」では、日本からは柳宗悦さんと柳宗理さんのお二人が紹介されています。


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注目既刊書:アリザール『犬たち』、ビュルガ『猫たち』、『イメージ学の現在』

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★西山雄二さん(訳書:デリダ『条件なき大学』、共訳:『ブランショ政治論集』)
法政大学出版局さんから先月、フランスの哲学者マルク・アリザール(Mark Alizart, 1975-)さんとフロランス・ビュルガ(Florence Burgat, 1962-)さんのそれぞれの著書の共訳書を上梓されました。それぞれの内容紹介や目次は書名のリンク先でご覧いただけます。


犬たち
マルク・アリザール著、西山雄二/八木悠允訳
法政大学出版局、2019年5月、本体2,000円、四六判上製182頁、ISBN978-4-588-13027-4
帯文より:喜びに身を寄せる思想家の物語


猫たち
フロランス・ビュルガ著、西山雄二/松葉類訳
法政大学出版局、2019年5月、本体1,800円、四六判上製134頁、ISBN978-4-588-13028-1
帯文より:見知らぬ者とともに生きる哲学

★竹峰義和さん(訳書:メニングハウス『生のなかば』、共訳:シュティーグラー『写真の映像』)
★岡田温司さん(著書:『アガンベンの身振り』)
★門林岳史さん(共訳:リピット水田堯『原子の光(影の光学)』)
★清水一浩さん(共訳:ガルシア・デュットマン『友愛と敵対』)
★ヴィンフリート・メニングハウスさん(著書:『生のなかば』)
東京大学出版会さんより4月に発売されたアンソロジー『イメージ学の現在』にそれぞれ寄与されています。竹峰さんは論考「点になること――ヴァイマル時代のクラカウアーの身体表象」を寄稿され、岡田さんはフェリックス・イェーガーの論文「君主の補綴的身体――一六世紀における甲冑・解剖学・芸術」を翻訳。門林さんは論文「メディウムを混ぜかえす――映画理論から見たロザリンド・クラウスの「ポストメディウム」概念」を寄稿し、清水さんはホルスト・ブレーデカンプの論文「イメージと自然との共生――ネオ・マニエリスムにむけて考える」を翻訳。メニングハウスさんは論文「言語と文学の経験美学――旧来の文学研究よりうまく処理できること、そしてできないことは何か?」を寄せておられます。アンソロジー全体の目次は書名のリンク先でご確認いただけます。


イメージ学の現在――ヴァールブルクから神経系イメージ学へ
坂本泰宏/田中純/竹峰義和編
東京大学出版会、2019年4月、本体8,400円、A5判上製550頁、ISBN978-4-13-010140-0
帯文より:「目は光学的レンズで見るのではない。レンズの背後の「迷宮としての世界」(G・R・ホッケ、1957)という名の脳で見る。「ひとは目を目がいかに見るかを見るためにこそ必要とする」(B・グラシアン、1657)という幻惑の大逆説で始まったマニエリスム知の300年に、1990年代、「脳の10年」を経て今、神経系イメージ学が応答の総力戦を開始した。知の究極だ。学術またマニエリスムに憑依されたからである」(高山宏)。


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ブックツリー「哲学読書室」に木澤佐登志さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ニック・ランドと新反動主義』(星海社新書、2019年5月)の著者、木澤佐登志さんによるコメント付き選書リスト「いまさら〈近代〉について考えるための5冊」が「哲学読書室」が追加されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。


◎哲学読書室
1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」

2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」

27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」

29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」

30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?」
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか」
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化」
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知」
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選」
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ」
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?」
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊」
47)須藤温子(すとう・はるこ:1972-)さん選書「やわらかな思考、奇想の知へようこそ!」
48)斎藤幸平(さいとう・こうへい:1987-)さん選書「マルクスと環境危機とエコ社会主義」
49)木澤佐登志(きざわ・さとし:1988-)さん選書「いまさら〈近代〉について考えるための5冊」


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注目新刊:ユング『分析心理学セミナー1925』創元社、ほか

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『分析心理学セミナー1925――ユング心理学のはじまり』C・G・ユング著、ソヌ・シャムダサーニ/ウィリアム・マクガイア編、河合俊雄監訳、猪股剛/小木曽由佳/宮澤淳滋/鹿野友章訳、創元社、2019年6月、本体3,400円、A5判並製320頁、ISBN978-4-422-11708-9
『変身物語 1』オウィディウス著、高橋宏幸訳、京都大学学術出版会、2019年5月、本体3,900円、四六変上製466頁、ISBN978-4-8140-0222-1



★『分析心理学セミナー1925』はユングが1925年にチューリッヒで行ったセミナーの記録『Introduction to Jungian Psychology: Notes of the Seminar on Analytical Psychology Given in 1925』(Princeton University Press, 1989/2012)の訳書です。アニエラ・ヤッフェ編『ユング自伝』(上下巻、みすず書房、1972~1973年)にはこのセミナーから選ばれたエピソードが複数あるといいます。編者のシャムダサーニは「2012年フィレモン・シリーズ版へのまえがき」でこう述べています。「ユングが行なった講義の中で、このセミナーほど多くの点で歴史的意義のあるものはない。後に『赤の書』に結実する彼の着想や自己実験の展開を、ユング自身の言葉で述べた唯一の信頼できる一次資料と言えるからである。それにもかかわらず、このセミナーはそれに相応しい注目を広く集めることがないままであった。本セミナーは1989年にウィリアム・マクガイアの編集により、ボーリンゲン・シリーズの一冊としてすでに出版されている。その水準はきわめて高いものであった。しかし『赤の書』が公刊されたことで、このセミナーは新たな相貌を見せる機会を得ることになった。ここで行なわれたユングの議論が新しい光のもとに照らし出されたからである。フィレモン・シリーズとして改訂した本書には、新たな序論を加えたほか、『赤の書』におけるユングの言及箇所を参照できるようにし、さらに新しい情報を注の中で、《2012年追記》として示してある」(9頁)。



★数々の印象的な講義の中から、第13講の講義末尾部分を引用します。「人は、他の人々にもたらす影響を通してのみ、自分が何者であるのかを知ることができます。このようなやり方で、自分の人格を創造するのです。意識についての話はこのくらいにしておきましょう。/無意識の側については、夢を通して推測することで作業をしなければなりません。意識と同じような目に映る範囲を想定しなければなりませんが、少し独特なのは、夢の中では人が厳密にいつもその人自身であるわけではないからです。無意識の中では性別すら必ずしも明確に定められるわけではありません。無意識の中にも事物が存在すること、つまり集合的無意識のイメージがあることを想定することができます。こういった事物とあなたの関係とは何でしょうか? それもはやり、女性です。もしあなたが現実において女性を手放すのなら、あなたはアニマの犠牲になります。男性が最も好まないのは、女性とのつながりが避けられないものであるという自分の感情です。男性が女性との関係を断ち切って自由になったと確信し、さて自分自身の内的世界を動きまわろうとするまさにその時こそ、注意してください。その男性は自分の母親の膝の上にいるのです!」(113頁)。


★『変身物語 1』は「西洋古典叢書」の2019年第1回配本。凡例によると本書は、プブリウス・オウィディウス・ナーソー『変身物語』全15巻の翻訳であり、第1分冊に第1~8巻、第2分冊に第9~15巻を収録する、と。底本はウィリアム・S・アンダーソン校訂によるトイプナー社1998年版。入手しやすい既訳には中村善也訳『変身物語』上下巻(岩波文庫、1981~1984年)がありますが、新訳は久しぶりのものです。解説に曰く「オウィディウス『変身物語』はギリシアを中心に、ローマは言うまでもなく、エジプトやアラビアなど東方に由来するものも含め、大小250あまりのさまざまな「変身」が関わる物語を連ねて、1万5千行あまりという大作をなしている。ギリシア・ラテン文学の中でもっともよく読まれ、また、後世の文学に限らず、さまざまな芸術にもっとも大きな影響を与えた作品の一つと言える。/その魅力はなにより、物語が心に引き起こす驚きの感興であろう。そんなことが現実に起きるはずがないと思いながら、物語は読者に不思議な情景を生き生きと思い描かせる」(410頁)。天地創造、人間の誕生と失墜、神が起こした大洪水による人間の殲滅と生き残りの男女に託された新世界――。めくるめく物語の渦が読者の想像力を捉えて離しません。付属の月報140には木村健治さんによる「オウィディウスの魅力」と、國方栄二さんによる連載「西洋古典雑録集」第14回が収められています。



★2019年の西洋古典叢書の刊行は全6点予定。そのなかにはカルキディウスによるプラトン『ティマイオス』の註解書(土屋睦廣訳)も予告されています。たいへん楽しみにです。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『泰山――中国人の信仰』エドゥアール・シャヴァンヌ著、菊地章太訳注、東洋文庫:平凡社、2019年6月、本体3,200円、B6変判上製函入320頁、ISBN978-4-582-80895-7
『加藤周一青春ノート 1937-1942』加藤周一著、鷲巣力/半田侑子編、人文書院、2019年5月、本体3,800円、4-6判上製346頁、ISBN978-4-409-04111-6
『ボランティアとファシズム――自発性と社会貢献の近現代史』池田浩士著、人文書院、2019年5月、本体4,500円、4-6判上製400頁、ISBN978-4-409-52077-2
『平成の天皇と戦後日本――平成の天皇と戦後日本』河西秀哉著、人文書院、2019年6月、本体2,000円、4-6判上製190頁、ISBN978-4-409-52078-9
『野党が政権に就くとき――地方分権と民主主義』中野晃一著、中野真紀子訳、人文書院、2019年6月、本体2,700円、4-6判上製256頁、ISBN978-4-409-24125-7



★『泰山』は東洋文庫の第895弾で発売済。勉誠出版の「アシアーナ叢書」より2001年に刊行されたものの改訳版。凡例によれば本書は『Le T'ai chan : Essai de monographie d'un culte chinois』(Leroux, 1910)の第1章、第2章、第6章、結論を訳出したもの。「古文献と金石文のフランス語訳である第3章「封禅関係文献」、第4章「願文」、第5章「碑文」は訳出していない」とのことです。また、訳者あとがきによれば勉誠出版より刊行した後に「シャヴァンヌが参照したほぼすべての文献に目を通すことができた〔…〕訳注を大幅に増補し、初版以後に知り得た内外の研究成果を加えた」と。巻末に索引あり。古典的名著ゆえに旧訳版の古書価が安定的に高額でしたから、改訳版刊行は嬉しいです。訳者の菊地章太(きくち・のりたか:1959-)さんはシャヴァンヌ(Édouard Chavannes, 1865-1918)のもう一冊の訳書『古代中国の社――土地神信仰成立史』も東洋文庫から昨年上梓されています。また、すでに長らく絶版ですが、『司馬遷と史記』(岩村忍訳、新潮選書、1974年)という既訳書もあります。東洋文庫次回配本は8月、『神の書』とのこと。『鳥の言葉』と同じくアッタールの著書でしょうか。


★『加藤周一青春ノート 1937-1942』は発売済。加藤周一(かとう・しゅういち:1919-2008)さんが18歳から22歳(1937年から1942年)の頃、旧制高校時代から大学時代にかけて書かれ、歿後に書庫から発見された全8冊のノートから、若き日の思索や戦争時代の証言として貴重なものを選んで抄録したという一冊。編者による註、半田さんによる関連年譜、鷲巣さんによる解説とあとがきなどが付されています。樋口陽一さんの推薦文が帯に刷られています。曰く「のちにその作品群によって知性と感性のゆたかなポリフォニーを響かせることとなる秘密が、ここにある」。鷲巣さんはあとがきにこう綴っておられます。「本書は加藤を「神話化」するために刊行するのではない。未熟も稚拙も含めて読者に伝えることによって、加藤が時代といかに向き合い、自分自身をどのように鍛えたかを知って欲しい。加藤のありのままの姿から、私たちが考えること、学ぶことは多い。とりわけ加藤の青春時代と似た時代になりつつある今日を生きる人びとにとって、それらは示唆に富むに違いないと考えるからに他ならない」(337頁)。


★『ボランティアとファシズム』は発売済。日本やドイツの歴史を通じて、ボランティアという活動が「社会にとってとりわけ重要な意味を持ったのは、平穏な時代ではなく、危機の時代、「非常時」とも呼ばれた激動の時代において」(序章、16頁)であったことを明かします。「この表題は、ボランティアはファシストだ、とか、ボランティア活動はファシズムの一環だ、とか、主張しているのではありません。ファシズムとは、きわめて簡潔に言うなら、“危機の時代からの脱却や、危機的状況の解消を実現するための、全社会的・全国民的な運動の一形態”を言い表す概念です。このファシズムと、私たちに身近なボランティア活動という、それ自体なんの関係もない二つの名詞が、私たちの歴史のなかで、いわば切っても切れない関係を与えられてきたという事実を、私たちは持っているのです。この歴史的な現実を、いまあらためて見つめ直したい――というのが、本書のモティーフにほかなりません」(16~17頁)。


★『平成の天皇と戦後日本』はまもなく発売。帯文に曰く「現代天皇制研究の第一人者が描く、明仁天皇の半生」と。あとがきによれば本書は2016年に洋泉社の「歴史新書y」の1冊として刊行された『明仁天皇と戦後日本』の増補版とのこと。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。「本書の試みによって、象徴天皇制が戦後社会にあってどのような位置づけにあり、それがどのように変化しているのかもわかるはずである。明仁天皇の歩みを通して、戦後社会の姿や象徴天皇制とは何かを明らかにする試みとしたい」(はじめに、11頁)。増補されたのは、2016年以降の出来事を記した「終章 「平成流」の完成へ」。著者の河西秀哉(かわにし・ひでや:1977-)さんは神戸女学院大学文学部准教授。近著に『天皇制と民主主義の昭和史』(人文書院、2018年)、『近代天皇制から象徴天皇制へ』(吉田書店、2018年)などがあります。


★『野党が政権に就くとき』はまもなく発売。上智大学国際教養学部の学部長をおつとめの中野晃一(なかの・こういち:1970-)さんが2010年に刊行された著書『Party Politics and Decentralization in Japan and France: When the Opposition Governs』(Routledge, 2010)の、中野真紀子さんによる日本語訳に著者自身が加筆修正を施したものです。「1980年代のフランスと1990年代の日本における地方分権改革の政治過程を取り上げ」、「野党、政党間競争、そして政権交代という政党政治の力学が、自由民主主義の深まりに寄与するメカニズムを解明しようと試みるもの」(序、7頁)。「本書で注目するのは、日仏の社会党という野党が、ともに数十年の在野を経てようやく政権を獲得するに至った時、初めて歴史に残る地方分権改革が推し進められたという事実である」(8頁)。「政権交代と連立政権入りという日仏の違いが政策過程や政策結果にもたらした影響についても詳細に論じる」(同)。


★「今日、あえて本書を世に問う意味としては、1994年に小選挙区制が導入されて以降、とりわけ日本において新自由主義的とも言えるシュンペーター流の自由民主主義観が広く一般に浸透してしまい、ともすれば政党間競争を通じた野党による民主主義の深化が等閑視される傾向が強いことがあげられる。「政権担当能力」というかなり意味内容の怪しい言葉が喧伝され、野党の存在意義があたかも「代替与党」としてしかないかのような状況がつづいてきたと言わざるを得ない。主要政策や政治手法に関して大幅な現状追認を前提にしない限り、野党は「反対や批判ばかりで現実的ではない」と論評され、「政権担当能力のなさが危ぶまれる」というまことしやかな誹謗を繰り返し受けてきた」(12頁)。


★「選挙で自公政権与党を合わせて圧倒的な多数を得ていることをもって、安倍政権は民主的な正当性を主張するわけだが、実際には、野党の分断、投票率の低迷、そして小選挙区制の歪みの三つの要因によって、得票率から著しく乖離し「水増し」された議席数を獲得しているにすぎない。安倍自民党は、2012年12月、2014年12月、2017年10月と3回つづけて公明党と合わせて議席の三分の二を超える圧勝を遂げているが、2009年8月に民主党に惨敗し下野した際に麻生自民党が獲得した得票数を下回りつづけていることが何よりも明確にこのことを裏書きしている」(14~15頁)。


★「本書の事例が明らかにしたのは、オポジションであること(つまり政権与党に反対し、厳しく対峙すること)と、政権与党に代わりうるオルタナティブとなることは矛盾しないし両立する、ということである。これは言い換えれば、ともすると「対決」か「対案」か、という二元論に陥りがちな日本における野党のありかたをめぐる論争そのものを斥けるものである。政権与党の設定したアジェンダに乗ることをもって「対案」型というならば、そのような野党は永遠に政権の補完勢力に終わるだろう。むしろ明確に「対決」した上で、野党であることを踏まえて市民社会の声をすくいあげた別の政策アジェンダを「提案」することができてはじめて、野党〔オポジション〕はオルタナティブになりえる」(あとがき、250頁)。


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リレー講義「文化を職業にする」@明星大学

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先週土曜日(2019年6月15日)は、明星大学日野キャンパスにお邪魔し、人文学部共通科目「自己と社会Ⅱ:文化を職業にする」というリレー講義で発表させていただきました。今年はテーマを「小規模出版社の仕事」と題し、さまざまな規模の出版社の活躍や出版界の変化(出版社・取次・書店)についてご紹介しました。ご清聴いただきありがとうございました。担当教官の小林一岳先生に深謝申し上げます。受講された皆さんから頂戴したご質問に対し、ひとつひとつ回答を書きましたので、いずれ皆さんのお手元に配付されることと思います。また皆さんとお目に掛かってお話をする機会があれば幸いです。


◎「文化を職業にする」@明星大学
2012年6月16日「文化を職業にする」
2013年6月15日「独立系出版社の仕事」
2014年6月07日「変貌する出版界と独立系出版社の仕事」
2015年6月13日「独立系出版社の挑戦」
2016年6月11日「出版界の現在と独立系出版社」
2017年6月17日「出版社の仕事と出版界の現在」
2018年6月16日「出版社とは:仕事、現在、未来」
2019年6月15日「小規模出版社の仕事」


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なお、同大学資料図書館の貴重書コレクション展「ウィリアム・モリス――理想の書物を求めて」の第Ⅰ期(~6月22日まで)を鑑賞してきました。ケルムスコット・プレスの美麗な書物の数々は拝みたくなるような素晴らしさでした。明星大学の貴重書コレクションはすごいです。第Ⅱ期、第Ⅲ期と今年いっぱい開催予定。同展は事前予約制で学外でも入場無料。お土産に、紙製のブックカバーや栞などが配布されています。これも素敵でした。


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「図書新聞」に須藤温子『エリアス・カネッティ』の書評が掲載

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「図書新聞」2019年6月22日号の1面に、弊社2月刊、須藤温子『エリアス・カネッティ――生涯と著作』の書評「死者たちの群衆の後に唯一者として「生き残る」――カネッティは実に多彩な思想的、芸術的問題と格闘していた」が掲載されました。評者は立教大学の古矢晋一さんです。「エリアス・カネッティの著作と生涯に含まれる魅力と問題を余すところなく描いている。本書全体の特徴は、作家とその作品を論じる際の絶妙なバランス感覚であろう。作品の内在的な解釈と同時に、同時代の言説との比較、周囲にいた作家や家族との関係、文学的評価の変遷と背景についても、先行研究を踏まえながら説得的かつ批判的に取り上げられている」と評していただきました。古矢先生、ありがとうございました。

注目新刊:近藤和敬『〈内在の哲学〉へ』、バトラー『欲望の主体』

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★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』)
2010年から2019年にかけて各媒体や研究会等で発表されてきた17本の論文をまとめ、書き下ろしの「序」、さらに「あとがきと謝辞」を付した最新著が、青土社さんより発売となりました。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。


〈内在の哲学〉へ――カヴァイエス・ドゥルーズ・スピノザ

近藤和敬著
青土社 2019年6月 本体3,600円 四六判上製494+vi頁 ISBN978-4-7917-7169-1
帯文より:絶望と勇気! 現代思想の次なる航海。我々が〈現在〉の外へ出るために、いま〈内在の哲学〉の哲学的基盤が必要とされている。カヴァイエス、シモンドン、ドゥルーズ、バディウ、メイヤスーらを射程に、エピステモロジー、シミュラークル論、プラトニスムといった複線を展開、「内在」と「外」、そして「脳」へと、哲学界の俊英が思考の臨界に迫る。

★ジュディス・バトラーさん(著書:『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
デビュー作にして代表作である『Subjects of Desire: Hegelian Reflections in Twentieth-Century France』(Columbia University Press, 1987/1999/2012)の日本語訳がついに刊行されました。書き下ろしの「日本語版への序文」も掲載されています。一般書店での発売はまもなくですが、堀之内出版さんの公式ストアではすでに購入可能です。目次詳細は版元ドットコムさんの単品頁でご覧いただけます。



欲望の主体――ヘーゲルと二〇世紀フランスにおけるポスト・ヘーゲル主義
ジュディス・バトラー著 大河内泰樹/岡崎佑香/岡崎龍/野尻英一訳
堀之内出版 2019年6月 本体4,000円 四六判上製492頁 ISBN978-4-909237-38-5
帯文より:「現代思想の源流としてのヘーゲルを別の仕方で読むこと。それは、全体化へと向かう単一の主体をずらし、変容を生み出す思想を可能にした。哲学のみならずさまざまな社会運動にも影響を与えつづけるバトラーの原点」(松本卓也)。


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注目新刊:ギンズブルク『政治的イコノグラフィーについて』上村忠男訳、ほか

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★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
イタリアの歴史学者カルロ・ギンズブルグ(Carlo Ginzburg, 1939-)の2015年の著書『Paura reverenza terrore』(『畏怖・崇敬・恐怖』)の訳書を先週上梓されました。「図像の発揮する政治的効果についての試論」と訳者あとがきで紹介されています。目次は書名のリンク先でご覧いただけます。



政治的イコノグラフィーについて
カルロ・ギンズブルグ著 上村忠男訳
みすず書房 2019年6月 本体4,800円 四六判上製264頁 ISBN978-4-622-08815-8
帯文より:イメージには権力を発揮する仕掛けが隠されている。神聖さを利用する世俗画、戦争ポスター、《ゲルニカ》。政治の言語とイメージの嘘を明かす図像学的実験。

★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』)
先月末発売となった月刊誌『現代思想』2019年6月号「特集=加速主義――資本主義の疾走、未来への〈脱出〉」に掲載された、イギリス出身の哲学者レイ・ブラシエ(Ray Brassier, 1965-)さんの2014年の論考「さまよえる抽象」("Wandering Abstruction")の全訳を担当されています(78~99頁)。 星野さんによるブラシエ論文の日本語訳には「絶滅の真理」(『現代思想2015年9月号:絶滅――人間不在の世界』50~78頁)があり、また、星野さんによるブラシエ論には「暗き生――メイヤスー、ブラシエ、サッカー」(『現代思想2018年1月号:現代思想の総展望2018』164~175頁)。メイヤスー『亡霊のジレンマ――思弁的唯物論の展開』(青土社、2018年6月)と同じようにもう少し論文の本数が増えたらブラシエさんのオリジナル論文集ができそうですね。


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リレー講義「世界と出版文化」@東京外国語大学

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本日6月19日に、東京外国語大学出版会企画のリレー講義「世界と出版文化」にて「岐路に立つ出版界:小出版社から見た長期停滞と変化の現在」と題して発表させていただきました。御清聴ありがとうございました。聴講生の皆さんのレスポンスシートはすべて拝読させていただきました。ご質問を書いていただいた方にはただいま回答を準備中です。遠からずお渡しできるのではないかと思います。またどこかで皆さんとお目に掛かれることを楽しみにしております。


2010年7月07日「出版社のつくりかた――月曜社の10年」
2011年6月15日「人文書出版における編集の役割」
2012年6月06日「人文書出版における編集の役割」
2013年5月15日「知の編集――現代の思想空間をめぐって」
2014年7月09日「編集とは何か」
2015年6月06日「編集とは何か――その一時代の終わりと始まり」
2016年5月25日「編集と独立」
2017年4月19日「人文系零細出版社の理想と現実」
2018年6月20日「越境を企画する:汎編集論的転回と出版界の現在」
2019年6月19日「岐路に立つ出版界:小出版社から見た長期停滞と変化の現在」


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『逆説の對位法〔ディアレクティーク〕――八木俊樹全文集』(八木俊樹全文集刊行委員会、2003年)

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お仕事をご一緒したことはないものの常々その厳密な編集姿勢と緻密な編集論に触れるにつけ尊敬の念を抱き続けてきた先輩編集者が私にはいます。郡淳一郎さんです。その郡さんが折に触れて幾度となく紹介されてきた先達の言葉のひとつに次のものがあります。曰く、「出版は二重の断念の上に立った虚数の営為である。それ故、凡ゆる戦術を駆使し凡ゆるエネルギー回路を想定する自由をもつ」。その出典である、『逆説の對位法〔ディアレクティーク〕――八木俊樹全文集』(八木俊樹全文集刊行委員会、2003年)をようやく入手することができました。


A5判上製函入xviii+1286頁の大冊。装訂は石川九楊さんによるもの。ISBNはなし。凡例から引くと「本書は、第一に八木俊樹(以下著者という)が生前に公表した、論文(公表というのではないが、所謂修士論文も含める)、詩篇、時評、書評のすべて、種々の編集後記・あとがき等のすべて、また京都大学学術出版会に於ける活動の一端を示す、著者の手になる、京都大学学術出版会設立に関する報告書・出版編集に関する論稿・刊行図書帯文・刊行図書目録のすべて、更に著者が相手をつとめた対談、著者も加わった座談会の公表記録のすべてを、第二に、著者の手になると判断される遺稿のすべて、様々の研究会に提出されたレジュメ、ノート、原稿断片、メモ等、編集委員会で入手できたものすべてを、収録することを目指して編まれたものである」。主要目次は以下の通りです。


一、自體の呪縛と對位法
二、先験的誤謬の對位法
三、書-言語の對位法
四、編集後記等
五、京都大学学術出版会
六、日本トルコ文化協会
七、研究会レジュメ等
八、ノート
九、原稿断片
一〇、メモ
一一、私の計画
一二、年譜


先に引いた言葉は、第二部「先験的誤謬の對位法」に収められた、「出版――私の図式、又は若い編集者へ」(636~642頁)の最後の方に出てきます。「出版は二重の断念の上に立った虚数の営為である。それ故、凡ゆる戦術を駆使し凡ゆるエネルギー回路を想定する自由をもつ。そこに出版の政治が逆説的に存在する理由があるが、併し出版は殆ど失敗に終わる小さな革命の連続に於て成り立つ不連続であり、その事の決意の上に漸〔ようよ〕う己れの精神の様式〔スタイル〕と政治性を仮定できるものに過ぎない」(640頁)。


高密度な議論が展開されるこの文章の初出は『大学出版』第12号(1991年9月)とのこと。上記の文章には以下の一文が先行します。「彼らの流儀は、終点の不連続を縫合しようとする広告や宣伝〔パフォーマンス〕の先駆者という栄光を担ったが、紛れもなく彼らは、出版に於る政治というものを誤解し錯認していた」。「彼ら」が誰を指すかについては編者注が付されていますが、その種明かしはここでは止めておきます。


郡さんの引用に出会ってから私は『逆説の對位法』を探し求めましたが、新刊書店にも古書店にも扱いはなく、地元の図書館にも所蔵されていませんでした。その後も諦めきれず定期的にネット検索していたところ、リベラシオン社さんのウェブサイトでPDFが公開されていた「Alternative Systems Study Bulletin」メール版第26巻第1号(2018年6月5日)の中に、以下のような記述があることを発見しました。



『逆説の對位法――八木俊樹全文集』(A5版、1280頁、定価2万円)の入手方法。「下記振込先に、書名を記載の上、2万円を送ってください。振込先(郵便振替) 口座番号:01090-5-67283 口座名:資本論研究会。他金融機関からの振り込み 店名:109 当座:0067283」


そこで、「Alternative Systems Study Bulletin」の編集担当の榎原均さんにメールを差し上げ、在庫の確認をしたところ、まだある、と。その時は手元に軍資金がなかったのですが、ほどなくして某原稿料を使って購入することができました。戦後出版史における重要文献のずっしりとした重みを感じています。一般書店に流通しているものばかりが本じゃない、その事をくっきりと理解させてくれるその威容に圧倒されます。年譜によれば、八木俊樹さんは1943年6月14日に生まれ、1996年7月22日に死去。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。財団法人交詢社、株式会社社会思想社、序章社、さらに、桃山学院大学経済学部非常勤講師、関西人民学院講師、株式会社エスシイアイ取締役などを歴任し、1989年に京都大学学術出版会の事務局統括に。書学書道史学会の理事も務めておられました。


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月曜社全点フェア記念イベントへのご参加ありがとうございました

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月曜社全点フェア@早稲田大学生協戸山店(2019年5月13日~6月21日)を記念しての二回にわたるイベントが無事終了しました。ご参加いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。また戸山店の皆様、フェアとイベントを企画して下さったMさんにも深謝申し上げます。どちらの会でも出版社への就職を目指す学生さんとの出会いがあり、とても嬉しかったです。またどこかでお目に掛かれますように。無料配布した資料2点(Mさんとの対話)についても思い出深いものとなりました。ありがとうございました。

◉店頭にお邪魔します会
日時:2019年5月31日14時30分(3限目終わり)~
場所:早稲田大学生協戸山店「月曜社全点フェア」棚前
出演:小林浩(月曜社取締役)

◉月曜社と本と夜
日時:2019年6月20日18時00分~
場所:早稲田大学生協戸山店「月曜社全点フェア」棚前
出演:小林浩(月曜社取締役)

注目新刊:ウエルベック『ショーペンハウアーとともに』国書刊行会、ほか

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『テーマパーク化する地球』東浩紀著、ゲンロン、2019年6月、本体2,300円、四六判上製408頁、ISBN978-4-907188-31-3
『ハイデガー=レーヴィット往復書簡 1919–1973』マルティン・ハイデガー/カール・レーヴィット著、アルフレート・デンカー編、後藤嘉也/小松恵一訳、法政大学出版局、2019年6月、本体4,000円、四六判上製360頁、ISBN978-4-588-01094-1
『宗教社会学論集 第1巻(上)緒言/プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神/プロテスタント諸信団と資本主義の精神』マックス・ヴェーバー著、戸田聡訳、北海道大学出版会、2019年5月、本体5,400円、A5判上製452頁、ISBN978-4-8329-2517-5
『ショーペンハウアーとともに』ミシェル・ウエルベック著、アガト・ノヴァック=ルシュヴァリエ序文、澤田直訳、国書刊行会、2019年6月、本体2,300円、A5変型判152頁、ISBN978-4-336-06355-7
『アナーキストの銀行家――フェルナンド・ペソア短編集』フェルナンド・ペソア著、近藤紀子訳、彩流社、2019年6月、本体2,000円、四六判上製183頁、ISBN978-4-7791-2599-7



★『テーマパーク化する地球』は「ゲンロン叢書」の第3弾。「2011年3月の東日本大震災以降、ぼくが書き溜めてきた原稿から時事性の高いものを除き、批評と社会の関係を考察したものを中心に集めた評論集である。再録にあたってはほとんどの原稿に加筆修正を施した。修正が多すぎて書き下ろしに近いものもある。関連インタヴューもふたつ収録した」(あとがきより)。「テーマパーク化する地球」「慰霊と記憶」「批評とはなにかⅠ」「誤配たち」「批評とはなにかⅡ」の4部構成で、巻末の「あとがき」を除き47本が収録されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。2月に河出書房新社より上梓された文芸エッセイ集『ゆるく考える』の姉妹編とも言えます。もっとも注目したいのは最後の論考「運営と制作の一致、あるいは等価交換の外部について」です。これはゲンロンの活動を振り返った回想録であるとともに、ゲンロンを「人間が人間であるために、等価交換の外部を回復するためのプロジェクト」として改めて規定する原理的なテクストです。運営と制作の一致をめぐる問題は、出版界においてもっとも根本的なものであり、今までも、そしてこれからも問われ続けるものです。このテクストは出版人や書店人にとっての仕事論として読むことができる、非常に示唆に富んだ一篇です。


★『ハイデガー=レーヴィット往復書簡 1919–1973』は、アルフレート・デンカーの編纂と註解による、2017年にカール・アルバー社から刊行された『ハイデガー書簡集』第Ⅱ-2巻の翻訳。補遺として、ニーチェの妹エリザーベトがレーヴィットに宛てた書簡、レーヴィットの教授資格論文に対するハイデガーの所見、ナチス政権期のハイデガーのローマ講演に際したレーヴィットのイタリア日記、トートナウベルクの山小屋帖へのレーヴィットの1924年の書き込み、なども収められています。帯文に曰く「ナチス政権期の政治的断絶を明確に刻印しながらも、73年のレーヴィットの死まで続いた120通を超える往復書簡群は、時代の証言であると同時に、世界大戦期を生きた師弟の運命的な抗争、そして不可能な友愛を示す稀有のドキュメントである」。収録されている書簡の大半は1920年代に交わされたものです。


★『宗教社会学論集 第1巻(上)』は、戸田聡さん単独による新訳『宗教社会学論集』全4巻の第1巻2分冊のうちの上巻。「緒言」「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」「プロテスタント諸信団と資本主義の精神」を収録。第1巻の巻末には、「今なぜ新訳が必要か――訳者あとがきに代えて」と題し、「なぜ『宗教社会学論集』が改めて翻訳されるべきか」「『宗教社会学論集』日本語訳の今日的意義」「本翻訳の特色」という3部構成で新訳の意義が説明されています。戸田さんは北海道大学大学院文学研究科准教授で、ご専門は古代キリスト教史、古典文献学。「筆者が今回の翻訳で目指しているのは、どちらかと言えば直訳的・逐語訳的な翻訳であり、つまりヴェーバーの議論を極力正確に写し取ることによって、ヴェーバーがどういう概念(群)を駆使して思考していたかを日本語の訳文上で可能なかぎり明確にすることである」(331頁)。周知の通り、本書に収められている『プロ倫』は今まで幾度となく訳されてきた古典的名著です。


★なお、下巻は2020年3月刊行予定で、「諸々の世界宗教の経済倫理」の第Ⅰ部を収録。第2巻は同書第Ⅱ部、第3巻は同書第Ⅲ部と「宗教社会学論集 補遺 ファリサイは」を収録予定。


★『ショーペンハウアーとともに』は『En présence de Schopenhauer』(L'Herne, 2017)の全訳。フランスの作家ウエルベック(Michel Houellebecq, 1958-)は20代後半に図書館でショーペンハウアーの『幸福について』を借り、「重大な発見」をしたと気付きます。「私はすでにボードレール、ドストエフスキー、ロートレアモン、ヴェルレーヌ、ほとんどすべてのロマン主義作家を読み終わっていたし、多くのSFも知っていた。聖書、パスカルの『パンセ』、クリフォード・D・シマックの『都市』、トーマス・マンの『魔の山』などは、もっと前に読んでいた。私は詩作に励んでもいた。すでに一度目の読書ではなく、再読の時期にいる気がしていた。少なくとも、文学発見の第一サイクルは終えたつもりでいたのだ。ところが、一瞬にしてすべてが崩れ去った」(26頁)。「私の知る限りでは、いかなる哲学者もアルトゥール・ショーペンハウアーほどすぐさま心地よく元気づけてくれる読書を提供してくれる者はいない」(30頁)。



★「私は、自分の気に入ったいくつかのくだりを通して、なぜショーペンハウアーの知的な態度が、私にとっては来るべきあらゆる哲学の模範であり続けるのか、また、たとえ彼と意見が一致しない場合であっても、彼に対して深い感謝の気持ちを感じずにはいられないのかを示したいと思う」(30~31頁)。ショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』と『幸福について』から言葉が引かれ、ウエルベックによるコメントが加えられています。水戸部功さんによる瀟洒な装幀は、プレゼントとしても最適の美しさではないかと思います。序文を寄せたアガト・ノヴァック=ルシュヴァリエはパリ・ナンテール大学准教授。専門はフランス19世紀文学ですが、ウエルベックの研究者でもあります。


★『アナーキストの銀行家』は日本語版オリジナル編集の短編集。短編集『Contos Escolhidos』(Assírio & Alvim, 2016)と、『O Banqueiro Anarquista』(Assírio & Alvim, 1999)から以下の8篇を収録したもの「独創的な晩餐」「忘却の街道」「たいしたポルトガル人」「夫たち」「手紙」「狩」「アナーキストの銀行家」「アナーキストの銀行家・補遺」。表題作「アナーキストの銀行家」は1922年、本名で発表された「珍しい作品」。「アナーキストが銀行家に、銀行家がアナーキストになる、そこにはペソア流の皮肉なパラドックスがあると同時に、政情不安が高まる当時のポルトガルの社会、強大化する金(かね)の専制とそれに対するイデオロギーの空洞化が映し出されている」(9頁)と訳者は紹介しています。「その意味でこの作品は、当時のポルトガル社会の、さらには極度なまでの経済優先社会に生きる現代のわたしたち自身の、苦く皮肉な肖像となっている」(同頁)。


★続いて、注目している文庫と新書の新刊を列記します。


『新訳 不安の概念』セーレン・キルケゴール著、村上恭一訳、平凡社ライブラリー、2019年6月、本体1,800円、B6変判並製416頁、ISBN978-4-582-76882-4
『デモクラシーか 資本主義か――危機のなかのヨーロッパ』J・ハーバーマス著、三島憲一訳、岩波現代文庫、2019年6月、本体1,300円、文庫判viii+312頁、ISBN978-4-00-600406-4
『クーデターの技術』クルツィオ・マラパルテ著、手塚和彰/鈴木純訳、中公文庫、2019年6月、本体1,200円、文庫判448頁、ISBN978-4-12-206751-6
『モナリザの微笑――ハクスレー傑作選』オルダス・ハクスレー著、行方昭夫訳、講談社文芸文庫、2019年6月、本体1,600円、A6判288頁、ISBN978-4-06-516280-4
『プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第Ⅰ編 物体の運動』アイザック・ニュートン著、中野猿人訳、ブルーバックス、2019年6月、本体1,500円、新書判448頁、ISBN978-4-06-516387-0
『ブレードランナー証言録』ハンプトン・ファンチャー/マイケル・グリーン/渡辺信一郎/ポール・M・サモン著、大野和基編訳、インターナショナル新書、2019年6月、本体780円、新書判176頁、ISBN978-4-7976-8039-3



★『新訳 不安の概念』はライブラリー版オリジナルの新訳。底本はデンマーク語版著作全集第2版(1920~1930年)の第Ⅳ巻。『原典訳記念版 キェルケゴール著作全集』第3巻(2分冊、創言社、2010年)の下巻に収められた大谷長訳『不安の概念』以来の新訳となります。文庫版では久しく新訳はありませんでした。主要目次は以下の通りです。


序文
緒論
第一章 原罪の前提としての不安
第二章 現在の結果としての不安
第三章 罪意識を欠く罪の結果としての不安
第四章 罪の不安、あるいは個体における罪の結果としての不安
第五章 進行による救いの手としての不安
訳注
訳者解説 キルケゴールの『不安の概念』を読む――心理学の視点を顧慮しつつ
訳者あとがき


★文庫版で読める既訳としては、斎藤信治訳『不安の概念』(岩波文庫、1951年;改版、1979年)があります。このほか戦後に刊行された文庫版には、田淵義三郎訳『不安の概念』(中公文庫、1974年)もありますが、現在は品切。田淵訳は『世界の名著(40)』(中央公論社、1966年)に収録されていたものに「ところどころ訂正を加えたもの」(文庫版解説、256頁)。村上さんによる今回の新訳の前段には、大学書林から1985年に刊行された同書の対訳書がありました。


★『デモクラシーか 資本主義か』は日本語版オリジナル編集による論文集。ハーバーマスが2007年から2018年にかけて発表してきた政治的エッセイやインタヴュー、全11篇をまとめたもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。7篇は岩波書店の『世界』誌に訳載されたもので、以下の4篇は新訳。「テクノクラシーに飲み込まれながら」2013年、インタヴュー「民主主義のための両極化――右翼ポピュリズムを瓦解させるには」2016年、「強いヨーロッパのために――しかし,それはどういう意味だろうか」2014年、エピローグ「左翼ヨーロッパ主義者たちよ,どこに行った?」2018年。論文集『ああ、ヨーロッパ』(岩波書店、2010年、版元品切)の第9章「行き詰まったヨーロッパ統合」も再録されています。


★『クーデターの技術』は2015年に中公選書の1冊として刊行されたものの文庫化。巻末に新たに付された鈴木純さんによる「訳者あとがき(二〇一九)」によれば、「文庫化に際しては、再度訳文を見直し、読者の理解を少しでも容易にするため、必要に応じて訳註を増やした」とのことです。また共訳者の手塚さんによる「文庫版のためのあとがき」には「文庫版出版については、共訳者の鈴木純氏の丹念な検討により、より完全な役になった」とのコメントがあります。イタリアの作家マラパルテ(Curzio Malaparte: Kurt Erich Suckert, 1898-1957)の著書の文庫化は今回が初めてです。


★『モナリザの微笑』はオルダス・ハクスレー(ハクスリーとも:Aldous Leonard Huxley, 1894-1963)の日本版オリジナルの新訳短編集。収録作は5篇。「モナリザの微笑」「天才児」「小さなメキシコ帽」「半休日」「チョードロン」。「チョードロン」は初訳です。1930年の短編集『束の間のともしび』に収録されていた作品。『恋愛対位法』と『すばらしい新世界』の間に発表されたもので、「ハクスレーの特色である、百科全書的な博学、機知、軽妙で辛辣な風刺、痛烈な戯画、分析癖、現代的な不安と懐疑などのすべてを、この短編に見出すことができます」と訳者の行方さんは巻末解説「父方から科学者、母方からモラリストの知を受け両者の間に揺れた博識の作家」で紹介されています。


★『プリンシピア――自然哲学の数学的原理 第Ⅰ編 物体の運動』は、1977年に講談社より刊行された単行本『プリンシピア――〈自然哲学の数学的原理〉』の新書化。『第Ⅱ編 抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動』が7月発売であることから、新書では全3編を3分冊で刊行する予定になるものと思われます。全3編の電子書籍は税込で7000円を超える値段なので、紙媒体の3分冊を買った方が安いです。訳者解説に曰く「本書の訳出にあたって訳者が手にすることのできたラテン語原書はただ初版本だけであった。しかし、幸いに第3版からの優れた英訳とされている〔…〕モット訳、カジョリ改訂の“Mathematical Principles of Natural Philosophy”を手にすることができたので、これを底本とし、前者と比較参照をしながら、原意を正確に伝えるよう最大の努力をした」と。ラテン語原典初版は1687年刊。原著第3版からのアンドリュー・モットによる最初の英訳版(1729年)をフローリアン・カジョリが再改訂した翻刻版(1934年)が中野訳の底本、ということかと思います。


★なお、ラテン語原典からの日本語訳には、中央公論社版『世界の名著(26)ニュートン』(1971年;中公バックス版『世界の名著(31)』1979年)所収の、河辺六男訳『自然哲学の数学的諸原理』があります。巻頭解説「ニュートンの十五枚の肖像画」末尾の「後記」によれば、「この役のテキストとしてはPhilosophiæ Naturalis Principia Mathematica 第3版、トーマス・ル・スールとフランシス・ジャッキエーが注釈をつけた1760年ジュネーヴ版を使い、初版ロンドン版およびアンドリュース・モット訳フローリアン・カジョリ補訂の英訳を参照した。モットの英訳は、カジョリも特に第三篇では注意しているが、他の諸篇中でも説明的な文章が挿入され、ニュートンの簡勁な文体から離れている箇所が多々ある。古典の翻訳というとき、いろいろな考え方がありうるであろうが、ここではできるだけ原著の文体と数式の体裁を残すように心がけた。しかし数式のなかで現在まったく使われていない記法は現代風のものに改めた」(45頁)。訳文だけでも46判2段組500頁以上になるので、復刊のハードルは高いのかもしれませんが、中公クラシックスないし中公文庫で再刊される意義はあると思われます。


★『ブレードランナー証言録』は、大野さんによる独占インタヴュー集。『ブレードランナー』脚本家ファンチャー、『ブレードランナー2049』脚本家グリーン、『ブレードランナー ブラックアウト2022』渡辺監督、『メイキング・オブ・ブレードランナー』(ソニーマガジンズ、1997年;ファイナル・カット版、ヴィレッジブックス、2007年;再版、2017年)の著者サモン、以上4氏へのインタヴューです。興味深いエピソードの中から1つだけ。『2049』が引用した文学作品にミルトン『失楽園』やナボコフ『青白い炎』(例のベースライン・テストでの「within cells interlinked」のくだりですね)などがありますが、ナボコフの引用はグリーンの発案によるもので、グリーンはこの本を何百回と読んできたそうです。ただし引用の意図は明かされていません。


★最後に、最近では以下の新刊との出会いがありました。


『日本の民俗学』柳田國男著、中公文庫、2019年6月、本体1,200円、文庫判416頁、ISBN978-4-12-206749-3
『科学技術の現代史――システム、リスク、イノベーション』佐藤靖著、中公新書、2019年6月、本体820円、新書判240頁、ISBN978-4-12-102547-0
『いやな感じ』高見順著、共和国、2019年6月、本体2,700円、菊変型判並製424頁、ISBN978-4-907986-57-5
『海人――八重山の海を歩く』西野嘉憲写真、平凡社、2019年6月、本体5,900円、A4変判上製168頁、ISBN978-4-582-27830-9
『児玉源太郎』長南政義著、作品社、2019年6月、本体3,400円、46判上製448頁、ISBN 978-4-86182-752-5


★『日本の民俗学』は中公文庫プレミアムの「日本再見」と題されたシリーズの一冊。中公文庫オリジナル編集版で、編集付記によれば「著者の民俗学の方法に関する論考を独自に編集し、折口信夫との対談、談話「村の信仰」を合わせて一冊にしたもの」。3部構成で第Ⅰ部「日本の民俗学」に「郷土研究ということ」「日本の民俗学」「Ethnologyとは何か」「郷土研究の将来」「国史と民俗学」「実験の史学」「現代科学ということ」「日本を知るために」の8篇の論考を収め、第Ⅱ部「柳田國男・折口信夫対談」に「日本人の神と霊魂の観念そのほか」「民俗学から民族学へ――日本民俗学の足跡を顧みて」の2本の対談、そして第Ⅲ部が「村の信仰――私の哲学」です。巻末解説は東京大学教授の佐藤健二さんがお書きになっています。


★『科学技術の現代史』は「まえがき」に曰く「現代科学技術、すなわち第2次世界大戦から現在までの科学技術が、米国連邦政府との関わり合いのなかでどのように進化してきたかを追う。米国内外の政治・経済・社会の変動を反映して米国連邦政府の課題が移り変わるなか、現代科学技術も構造的な変化を遂げてきたことを明らかにする」(iii頁)と。主要目次は以下の通りです。


まえがき
序章 現代科学技術と国家
第1章 システムの巨大化・複雑化――東西冷戦と軍産複合体
第2章 崩れる権威、新たな潮流――デタント後の米国社会
第3章 産業競争力強化の時代へ――産学連携を特許重視政策
第4章 グローバル化とネットワーク化――連戦終結後
第5章 リスク・社会・エビデンス――財政再建とデータ志向
第6章 イノベーションか、退場か――21世紀、先進国の危機意識
終章 予測困難な時代へ
あとがき
参考文献
科学技術の現代史関連年表


★『いやな感じ』は1960~1963年にかけて「文學界」で連載され、同63年に単行本として出版された表題作小説に、「「いやな感じ」を終って」「革命的エネルギー――アナーキズムへの過小評価」「大魔王観音――北一輝」の三篇と、栗原康さんによる解説「いい感じ」、さらに版元である「共和国」の代表、下平尾直さんによる解題「『いやな感じ』とその周辺」を付して1冊としたものです。


「兄さんは、なんの商売?」〔…〕
「俺の商売か。さあ、なんていうかな」
 と返事に窮した。俺はアナーキストだと、
誇らかに言いたいところだったが、〔…〕(29頁)


「あなたは失礼ですが、どういう方ですか」〔…〕
「俺は――僕は詩人だ」(291頁)


「奥さんですか」
「はい」〔…〕
「加柴四郎と言って、玉塚さんの昔の友人です」〔…〕
「詩人でいらっしゃいますか」
「いやあ……」(253頁)


「俺はお人よしか」
「加柴四郎は悪党でもなければ、お人よしでもない」
「じゃなんだ」
「根っからのアナーキストだ」(365頁)


★エッセイ「「いやな感じ」を終って」の末尾において著者は主人公の生きざまをめぐってこう述べています。「加柴四郎は私自身なのである。私が一時彼に似た生活をしていたことがあるという意味ではない。彼の人生と私の人生は具体的には違っていても、彼の運命は私の運命でもあり、昭和時代の日本人の運命でもあったのだ」(377頁)。投げ込みの「共和国急使」によれば、続刊予定に『ダダカンスケという詩人がいた(仮)』と『ルディ・ドゥチュケと戦後ドイツ』の2点が挙がっています。


★『海人』は沖縄本島の南西約400kmに位置する八重山諸島の豊かな海とそこに生きる漁師の方々を20年間にわたり写してきた、たいへんに美しい写真集。西表島、石垣島、さらには尖閣諸島沖の貴重な写真まで、紺碧の世界に魅了されます。キャノンギャラリー銀座では2019年7月11日から17日まで本書の写真家の写真展「海人三郎」が開催されるとのことです。9月5日から11日まではキャノンギャラリー大阪で開催。


★『児玉源太郎』は、明治の軍人・児玉源太郎(こだま・げんたろう:1852-1906)の多面的才能とその生涯をめぐり、2017年に公開された「児玉源太郎関係資料」を含む新史料を駆使して、「通説を再検証しつつ、軍事学的・戦史的視点を中心に描」(iii頁)いた評伝。「軍事指導者には、ただ将来の戦争像を洞察するにとどまらず、将来の戦争像に基づく改革策を政策として実現化するために必要な決断力・政策実現力・調整力が求められる」(同頁)と述べる著者は、児玉を「平時における飽くなき予言的改革者」(同頁)と評価しています。


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「図書新聞」に、筧菜奈子『ジャクソン・ポロック研究』の書評

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「図書新聞」2019年6月29日号に、弊社3月刊、筧菜奈子『ジャクソン・ポロック研究――その作品における形象と装飾性』の書評「ポロック芸術の再解釈を果敢に試みる――ポロックの装飾性の研究はさらなる発展の可能性を感じさせる」が掲載されました。評者は多摩美術大学准教授の大島徹也さんです。「本書はそれら〔ポロック作品の諸側面〕のうちの重要な二つ〔形象と装飾性〕に鋭くメスを入れた注目作である」。「刺激的なポロック研究書を書き上げた著者の情熱と努力は尊い」と評していただきました。

注目新刊:『ART SINCE 1900ーー図鑑1900年以後の芸術』東京書籍

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★ロザリンド・E・クラウスさん(著書:『視覚的無意識』、共著:『アンフォルム』)
★イヴ=アラン・ボワさん(共著:『アンフォルム』)
★小西信之さん(共訳:クラウス『視覚的無意識』)
★近藤學さん(共訳:クラウス/ボワ『アンフォルム』)
★甲斐義明さん(編訳:『写真の理論』)
★筧菜奈子さん(著書:『ジャクソン・ポロック研究』)
東京書籍さんから今月、『ART SINCE 1900』が刊行されました。884点にも及ぶ図版と、「オクトーバー」誌の中心メンバーであり美術史家・美術批評家の5氏による書き下ろし解説により、1900年から2015年までのアートシーンをまとめた大冊です。クラウスさんとボワさんは共著者、小西さんと近藤さんは日本語版の編集委員、甲斐さんと筧さんは訳者として参加されています。A4変型判で900頁近い大きな本で、カラー図版多数。これで本体12,000円というのは驚異的というほかはないです。この値段のまま重版するのはけっこうハードルが高そうなので、品切にならないうちに購入した方が良いと思われます。あと、本屋さんの店頭で買う場合は、手荷物が少ない時の方がいいです。猛烈に重い本なので。輸送用保護ケースあり。ケースは交換不可です。


ART SINCE 1900――図鑑1900年以後の芸術
ハル・フォスター/ロザリンド・E・クラウス/イヴ-アラン・ボワ/べンジャミン・H・D・ブークロー/デイヴィッド ジョーズリット著 尾崎信一郎/金井直/小西信之/近藤学編
東京書籍 2019年6月 本体12,000円 A4変型896頁 ISBN:978-4-487-81035-2


帯文(表4)より:英語圏を中心に絶大な影響力を誇る「オクトーバー派」。その中心メンバーである、ハル・フォスター、ロザリンド・E・クラウス、イヴ‐アラン・ボワ、ベンジャミン・H・D・ブークロー、デイヴィッド・ジョーズリットが書き下ろした渾身の美術史。/世界各国で反響を呼んだ大著 “ART SINCE 1900” の全訳。/ピカソ、マティス、デュシャン、ポロック、ウォーホル、具体美術協会、草間彌生、デイミアン・ハースト、アイ・ウェイウェイなどの芸術家・グループ、キュビズム、バウハウス、抽象表現主義、ミニマリズムなどの運動・動向、モダニズム、ポストモダニズム、カルチュラル・スタディーズ、ポストコロニアリズムなどの思潮・思想を800を超える作品図版とともに取り上げながら明快に論じる。グローバルな視点、ユニークな論点、最先端の理論、そして歴史的な網羅性。/20世紀から現在までのアートを知るための必要なすべてを備えた決定的な名著。


主要目次:
ART SINCE 1900[日本語版] 刊行にあたって|近藤学
本書の構成/翻訳体制について/凡例(表記について/記号や約物について)
本書の使い方
まえがき――読者のためのガイド
Introductions
 1 モダニズムにおける精神分析、方法としての精神分析|フォスター
 2 芸術の社会史――モデルとコンセプト|ブークロー
 3 フォーマリズムと構造主義|ボワ
 4 ポスト構造主義と脱構築|クラウス
 5 グローバル化、ネットワーク、形式としてのアグリゲイト|ジョーズリット
1900-1909
1910-1919
1920-1929
1930-1939
1940-1944
座談会1:20世紀なかばにおける芸術
1945-1949
1950-1959
1960-1969
1970-1979
1980-1989
1990-1999
2000-2015
座談会2:コンテンポラリーアートの窮状
用語集
参考文献
図版クレジット
索引





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