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注目新刊:ボテロ『都市盛衰原因論』、ニーチェ『偶像の黄昏』新訳、ほか

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『都市盛衰原因論』ジョヴァンニ・ボテロ著、石黒盛久訳、水声社、2019年3月、本体3,000円、A5判上製216頁、ISBN978-4-8010-0401-6



★『都市盛衰原因論』は水声社の新シリーズ「イタリアルネサンス文学・哲学コレクション」(全6巻、澤井繁男責任編集)の第1回配本。16世紀後半から17世紀初頭のイタリアを生きた、聖職者で政治評論家のジョヴァンニ・ボテロ(Giovanni Botero, 1544-1617)による1588年の著書『Delle cause della grandezza e magnificenza delle città』を訳したもの。帯文の文言を借りると「東西の主要都市が栄える要因を地理条件と政治政策の面から考察し、領土の拡大ではなく交易を通じた富の増大が国家の繁栄をもたらすと説」いたもの。この著書の翌1589年に上梓された主著『国家理性論』は同じ訳者によって風行社より2015年に刊行されています。『都市盛衰原因論』はボテロ(ボッテーロ、とも)の訳書の2冊目となるものです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。表題作のほか、付録として「中立について」と「評判について」という2篇の論考が訳出されています。シリーズの第2回配本はタッソ『詩作論』(村瀬有司訳)で今月発売予定。その後、カンパネッラ、アレティーノ、ガリレイ、フィチーノと続きます。



★続いてちくま学芸文庫の4月新刊4点をご紹介します。


『孤島』ジャン・グルニエ著、井上究一郎訳、ちくま学芸文庫、2019年4月、本体1,200円、240頁、ISBN978-4-480-09921-1
『論証のルールブック[第5版]』アンソニー・ウェストン著、古草秀子訳、ちくま学芸文庫、2019年4月、本体1,000円、224頁、ISBN978-4-480-09924-2
『大嘗祭』真弓常忠著、ちくま学芸文庫、2019年4月、本体1,200円、320頁、ISBN978-4-480-09919-8
『私の憲法勉強――嵐の中に立つ日本の基本法』中野好夫著、ちくま学芸文庫、2019年4月、本体1,000円、256頁、ISBN978-4-480-09923-5


★『孤島』はジャン・グルニエ(Jean Grenier, 1898-1971)のエッセイ集。1968年に竹内書店より井上究一郎訳が刊行され(底本は1959年にカミュの序文を付して刊行された改版)、1979年に竹内書店新社より改訂版が刊行、1991年に筑摩叢書より改訳新版が出され、このたび文庫化されるものです。訳者は99年に逝去されており、巻末の特記によれば、本文中の誤りを適宜訂正したとのこと。新たに付された巻末解説「詩的霊感に満ちた導きの書」は松浦寿輝さんによるもの。グルニエの訳書はほとんどが国文社から刊行されています。文庫化は今回が初めてです。


★『論証のルールブック[第5版]』は巻末特記によれば「2005年10月に刊行された『論理的に書くためのルールブック』(PHP研究所、原著第三版からの訳出)をもとに、2018年刊行の原著第五版に沿って、全面的な改訂を施したもの」。第三版と目次を見比べるだけでも主に第4章ルール17以降に手が加えられていることが分かります。取り上げられているルール(作法)はどれも重要なアドバイスばかり。学生からビジネスマンまで広く活用できる内容で、新春の読書に最適です。


★『大嘗祭(だいじょうさい)』は1988年に国書刊行会より刊行された単行本の文庫化。新たに文庫版あとがきが加えられています。カバー裏紹介文の文言を借りると「天皇の即位に伴う皇位継承儀礼のひとつである大嘗祭〔…〕。本書は歴史的史料を博捜して、大嘗祭を校正する儀礼である斎田点定(さいでんてんてい)、大嘗宮(だいじょうきゅう)の造営、大嘗宮の儀、廻立殿(かいりゅうでん)の儀等を詳述し、全体像を明らかにする」とのこと。改元が迫った今こそひもときたいです。


★『私の憲法勉強』は1965年9月に講談社現代新書の1冊として刊行されたものの文庫化。巻末特記によれば『中野好夫集Ⅲ』(筑摩書房、1984年)を参照しており、さらに「明らかな誤りは適宜訂正し、ルビも増やした。編集部による注は[ ]で示してある」とのことです。憲法改正問題をめぐり、「アメリカの押しつけ」論や「自主的憲法」議論を検証し、改憲論の欺瞞と問題点を率直に指摘されています。帯文には「素朴な感情論にのみこまれないために」とあります。今なお繰り返されている改憲論を冷静に分析するために必要な本です。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『偶像の黄昏』フリードリヒ・ニーチェ著、村井則夫訳、河出文庫、2019年4月、本体800円、232頁、ISBN978-4-309-46494-7
『大英帝国は大食らい』リジー・コリンガム著、松本裕訳、河出書房新社、2019年3月、本体3,200円、46変形判上製448頁、ISBN978-4-309-22759-7
『文藝 2019年夏季号/平成最終号』河出書房新社、2019年4月、本体1,380円、A5判並製504頁、ISBN978-4-309-97970-0
『アンドレ・バザン研究 第3号』アンドレ・バザン研究会発行、2019年3月、A5判104頁、ISSN2432-9002



★『偶像の黄昏』はニーチェが精神に変調を来す直前の最晩年の書。コッリとモンティナーリの編纂によるグロイター社の批判校訂版全集第6巻からの新訳です。同じ批判校訂版からの既訳には白水社版『ニーチェ全集 第Ⅱ期第4巻』所収の西尾幹二訳「偶像の黄昏」(1987年、現在品切)があります。底本は異なりますが、文庫で現在も入手可能な既訳には、ちくま学芸文庫版『ニーチェ全集(14)』所収の原佑訳「偶像の黄昏」(1993年)があります。こちらは批判校訂版より古いクレーナー版からの翻訳。河出文庫ではこれまで、2012年に今回と同じく村井則夫さん訳で『喜ばしき知恵』、2015年に佐々木中さん訳『ツァラトゥストラかく語りき』、と2点の新訳を刊行済。ニーチェの新訳は光文社古典新訳文庫や講談社学術文庫などでも出ており、今後も点数が増える可能性がきっと高いでしょう。


★『大英帝国は大食らい』は『The Hungry Empire: How Britain's Quest for Food Shaped the Modern World』(The Bodley Head, 2017)の訳書。「近代世界の食習慣をかたちづくるうえで帝国が果たした役割を明らかに」するという本書は「イギリスの食糧探求がいかに大英帝国の誕生につながったかを語」り、「各章は特定の食事で始まり、その食事を可能にした歴史を掘り下げ」ています(「はじめに」より)。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。著者のコリンガムはイギリスの歴史家。河出書房新社ではこれまでに『インドカレー伝』(東郷えりか訳、2006年;河出文庫、2016年)や、『戦争と飢餓』(宇丹貴代実/黒輪篤嗣訳、2012年、品切)の2冊を刊行しており、本書が3冊目となります。


★『文藝 2019年夏季号/平成最終号』は「文芸再記号」を謳い文句に、新体制の編集部とアートディレクションおよびデザインに佐藤亜沙美さんを迎え、特集の再導入など、約20年ぶりに誌面リニューアルを行なったもの。個人的に注目しているのは、新連載のいとうせいこうさんの「福島モノローグ WITH COWS」や、岸政彦さんと柴崎友香さんの共作「大阪――地元を想像する/港へたどり着いた人たちの街で」、メイン特集「天皇・平成。文学」での、池澤夏樹さんと高橋源一郎さんの対談「なぜ今、天皇を書くのか」や、東浩紀さんのロングエッセイ「平成という病」、笠井叡さんのエッセイ「平成の時代に響く極上の声」、さらにリニューアル前から開始されている山本貴光さんの季評「文態百版」と「文芸的事象クロニクル 2018年12月~2019年2月」。


★「ぼくは平成の批評家だった。それは、平成の病を体現する批評家であることを意味していた。だからぼくは、自分の欲望に向きあわず、自分にはもっと大きなことができるはずだとばかり考えて、空回りを繰り返して四半世紀を過ごしてしまった。/ぼくは新元号では、そんな空回りをやめて、社会をよくすることなど考えず、地味にできることだけをやっていきたいと思う」(31頁)という東さんの発言は、他人事とは思えない何かを感じます。「その疲労は、きっと、ぼくと同世代の多くの日本人が共有しているはずだとも思うのだ」。その通りだと思います。


★『アンドレ・バザン研究』は山形大学人文社会科学部付属映像文化研究所内で2016年6月に発足したアンドレ・バザン研究会が発行する学術誌で、今般刊行される第3号は同会の2018年度の成果としてまとめられたもの。2018年はバザンの生誕100年であると同時に歿後60年で、昨年末来日したバザン研究の第一人者ダドリー・アンドルーさんの講演をもとにした論考や、野崎歓さん、三浦哲哉さんらの応答などが収められています。小特集は「映画とアダプテーション」。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。なお同誌は書店での一般発売はされないため、入手方法については後日同誌ブログにて告知があるとのことです。



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ブックツリー「哲学読書室」に亀井大輔さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『デリダ 歴史の思考』(法政大学出版局、2019年1月)の著者、亀井大輔さんによるコメント付き選書リスト「「歴史の思考」へと誘う5冊」が追加されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。


◎哲学読書室


1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」

27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」

29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」

30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?」
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか」
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化」
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知」
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選」
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ」
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?」
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊」


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注目新刊:『よくわかる哲学・思想』『現代思想43のキーワード』、ほか

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『アンコール』ジャック・ラカン著、藤田博史/片山文保訳、講談社選書メチエ、2019年4月、本体1,950円、四六判並製272頁、ISBN978-4-06-515340-6
『閨房の哲学』マルキ・ド・サド著、秋吉良人訳、講談社学術文庫、2019年4月、本体1,260円、A6判並製344頁、ISBN978-4-06-515341-3
『完訳 ブッダチャリタ』梶山雄一/小林信彦/立川武蔵/御牧克己訳注、講談社学術文庫、2019年4月、本体1,650円、A6判並製512頁、ISBN978-4-06-515342-0
『女について』ショーペンハウェル著、石井立訳、東海林ユキエ画、明月堂出版、2019年4月、本体1,500円、四六判並製124頁、ISBN978-4-903145-65-5



★『アンコール』はラカンのセミネール第20巻(1972~73年度)。原著は1975年刊。帯文に「最重要セミネール、ついに全訳」とあるようにたいへん名高い講義録です。「「愛」という重要なテーマが根底に据えられ、「女の享楽」という問題とともに、精神分析は新たな次元に飛翔する」(カバー表4紹介文より)。目次は書名のリンク先をご覧ください。今回の訳書での訳者自身による記述は凡例のみで、訳者あとがきはありません。ラカンのセミネールは岩波書店から出版されるものと思っていましたが、どういった事情でメチエでの刊行に至ったのか。それについては、版元ウェブサイトの内容紹介で次のように明かされていました。


★「セミネールの日本語訳は、1987年から着手されたが、パリ・フロイト派創設の時期にあたる1963-64年度の『精神分析の四基本概念』までの時期のものに限定されている上、価格も高く、また現在では入手できなくなっているものも多い。/そうした状況の中、選書メチエの1冊として、最も名高い『アンコール』をお届けする。これは1972-73年度のセミネールであり、既存の邦訳からはうかがうことのできない後期ラカンの真髄が語られている」。とすると、セミネール全27巻予定のうち、岩波書店から刊行されるのは第11巻までで未訳は第6巻と第9巻の2点ということになります。第12巻以降では『アンコール』が初訳となりますが、果たして今後残りの巻は訳出されるのでしょうか。


★なお、関連書として『ラカン『アンコール』解説』(佐々木孝次/荒谷大輔/小長野航太/林行秀著、せりか書房、2013年8月)が刊行されています。また『アンコール』の訳者である藤田さんと片山さんによるラカンの共訳書としては『テレヴィジオン』(青土社、1992年;改訳版、講談社学術文庫、2016年)があります。


★『閨房の哲学』は文庫オリジナルの新訳。凡例によれば、底本は最新のプレイヤード版(1998年)で、「明らかな誤植などは断りなく訂正した」とのことです。かの著名な作中作「フランス人よ、共和主義者になりたいなら、もうひとがんばりだ」は「第五の対話」に出てきます(194~260頁)。同書は今まで幾度となく翻訳されてきましたが、現在入手可能な既訳には澁澤龍彦訳『閨房哲学』(電子版、河出文庫、1992年)、佐藤晴夫訳『閨房の哲学』(未知谷、1992年)、小西茂也訳『閨房哲学』(一穂社、2007年)、関谷一彦訳『閨房哲学』(人文書院、2014年)などがあります。今回新訳を手掛けられた秋吉良人さんは澁澤訳を参照されたそうです。「実に数十年ぶりに手にとって、初めて全体を原文と突き合わせながら読んだ。教えられるところも多々あったし、日本語の達者さには改めて舌を巻いた。ただ、翻訳に誤訳はつきものとはいえ、ほぼ毎頁に誤訳を見つけるに至って、学生時代に愛読し、人にも勧めてきただけに、正直まいった」と、訳者解説で率直に綴っておられます。講談社の各種文庫でサドの翻訳が出るのは実に本書が初めてになります。


★『完訳 ブッダチャリタ』は1985年12月に講談社のシリーズ「原始仏典」の第10巻として刊行された『ブッダチャリタ』の文庫化。ブッダの生涯を描いた古典的名著です。アシュヴァゴーシャによるサンスクリット語原文の前半14章に加え、欠落した後半14章をチベット訳、漢訳を参照し再現して、全28章を翻訳したとのことです。巻末の「学術文庫版解説」は、東京大学東洋文化研究所教授は馬場紀寿さんによるもの。


★このほか4月の講談社学術文庫では、豊永武盛『あいうえおの起源――身体からのコトバ発生論』、長沢利明『江戸東京の庶民信仰』、奥富敬之『名字の歴史学』が刊行されており、いずれも大いに気になるものの、財布と相談して後日購読を期すこととしました。


★『女について』は石井立(いしい・たつ:1923-1964)さんの既訳(「女について」、『女について』所収、角川文庫、1952年)を現代表記に改めて、当時の訳者解説とともに収録し、さらに東海林ユキエさんによる挿画と四コマ漫画と「はじめに」、横山茂彦さんによる解説「ショーペンハウェルの『女について』」、そして東海林さんと横山さんによる「おまけ対談 挿画と造本について――東海林ユキエさんと鍋を囲んで語る(訊き手=横山茂彦)」を新規に加えたものです。なお、横山さんの解説には、シラーの詩「女性たちの品位」が引かれています。生涯独身だったショーペンハウアーの毒舌をどう読むか、挑戦的な復刊です。


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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『現代思想2019年5月臨時増刊号 総特集=現代思想43のキーワード』青土社、2019年4月、本体1,500円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1380-6
『よくわかる哲学・思想』納富信留/檜垣立哉/柏端達也編、ミネルヴァ書房、2019年4月、本体2,400円、B5判並製232頁、ISBN978-4-623-08410-4
『〈自閉症学〉のすすめ――オーティズム・スタディーズの時代』野尻英一/高瀬堅吉/松本卓也編著、ミネルヴァ書房、2019年4月、本体2,000円、4-6判並製392頁、ISBN978-4-623-08648-1
『文化人類学の思考法』松村圭一郎/中川理/石井美保編、世界思想社、2019年4月、本体1,800円、4-6判並製224頁、ISBN978-4-7907-1733-1
『世界思想 46号 2019春 特集:ジェンダー』世界思想社編集部編、世界思想社、2019年4月、非売品、A5判並製88頁
『統べるもの/叛くもの――統治とキリスト教の異同をめぐって』新教出版社編集部編、新教出版社、2019年3月、本体2,200円、四六判並製216頁、ISBN978-4-400-31086-0



★優れたアンソロジーが目白押しです。まず『よくわかる哲学・思想』は西洋哲学史と日本におけるその需要、そして哲学の基礎的な諸テーマと現代の諸問題を、キーワードとキーパーソンで見開きごとに読み切る体裁の入門書です。書名のリンク先で公開されている目次を見ていただければわかるかと思いますが、ここ最近ではもっともバランスの取れた簡潔な入門書になっているという印象です。


★残りの5点はこの入門書に接続しうるぞれぞれに特異なブースターとなります。『現代思想43のキーワード』は一見雑然としたキーワード集に見えますけれども、その実像は、よくぞここまで「今」の諸相を手際よく集めたものだと感心するほかない、非常に意欲的な「ポスト人文学」の地図です。本書を売場構成の手本にするなら相当面白い実践となることでしょう。


★『よくわかる哲学・思想』と『現代思想43のキーワード』にもジェンダー関連のキーワードが複数出てきますが、『世界思想(46)ジェンダー』では「性と文化」「結婚と家事・育児」「職業と経済」をテーマに実力派の論客14名が寄稿。総論となる「ジェンダーとは何か」は伊藤公雄さんが執筆されています。これが無料のPR冊子だなんて、世界思想社さんは本当に毎年すごいことをやって下さいます。


★『現代思想43のキーワード』では「Anthropology & History」という枠で6つのキーワードが紹介されていますが、人類学の最前線は「ポスト人文学」のもっとも先鋭的な地平を描くものです。『文化人類学の思考法』は編者による序論「世界を考える道具をつくろう」と3部構成13本の論考からなるアンソロジーで、参考文献と「もっと学びたい人のためのブックガイド」、魅力的なコラムの数々を加えて、人類学の冒険へと読者をいざなってくれます。なお同書の刊行記念トークイベントとなる松村圭一郎×若林恵「いま、あたりまえの外へ」が今週土曜日4月20日18時より、青山ブックセンター本店の大教室で行われます。


★『〈自閉症学〉のすすめ』は、心理学、精神病理学/精神分析、哲学、文化人類学、社会学、法律、文学、生物学、認知科学、といった諸分野と連関する、こんにちもっとも注目が高まっているオーティズム・スタディーズの横断的射程を紹介する論文集です。國分功一郎×熊谷晋一郎×松本卓也の三氏による鼎談「今なぜ自閉症について考えるのか?──〈自閉症学〉の新たな可能性へ向けて」も必読です(ちなみに松本さんは『現代思想43のキーワード』で千葉雅也さんとも対談されています)。巻末に「自閉症当事者本リスト」あり。人文書でブックフェアをやるならこの本を中心としたフェアが一番やりがいがあるはずです。


★『統べるもの/叛くもの』は帯文に曰く「統治とキリスト教の関係にジェンダー/セクシュアリティ/クィアやアナーキーといった視点から切り込む」6本の論考を「身体・秩序・クィア」「自己・神・蜂起」の2部構成で収録。これらによって『現代思想43のキーワード』や『世界思想(46)ジェンダー』などと響きあう政治的次元が開かれます。


★これら6点の編者や編集者、対談者が一堂に会したら相当面白い議論になるはずですが、そこまで都合のいいイベントはさすがにないでしょうから、これらがどのように互いに越境して交通するかを読み解くのは、ただ読者の特権というべきでしょう。互いに共鳴しあう集合知が短期間に集中して形を帯びたことに、人文書の新しい出発の予感を覚えます。


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月曜社5月新刊:ジョージ・ラミング『私の肌の砦のなかで』吉田裕訳

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2018年5月15日取次搬入予定 *外国文学/カリブ文学


私の肌の砦のなかで
ジョージ・ラミング[著] 吉田裕[訳]
月曜社 2019年5月 本体:3,800円 46判並製480頁 ISBN: 978-4-86503-075-4 C0097


アマゾン・ジャパンで予約受付中


「明日、ぼくは旅立つ。似たような人間が出会い、陽気に遊んだりするのだろうが、人はけっして君のことを知ることはない、自分の肌の砦のどこかに隠れた、その君を知ることはないだろう」。時は第二次大戦中。少年の成長、そして旅立ちが、動乱に揺れるカリブ海の島バルバドスの命運と重なる。彼はなぜ土地から離れなければならなかったのか。生まれた場所から移動することで初めて知ることとは。エドワード・サイードやスチュアート・ホールも重視するポストコロニアル思想の原点にして、カリブ文学の古典的傑作。バルバドス出身の作家ジョージ・ラミングの小説、初めての全訳。【叢書・エクリチュールの冒険、第13回配本】


ジョージ・ラミング(George Lamming)1927年、バルバドス生まれ。1953年、小説『私の肌の砦のなかで』でデビュー。その他の作品に小説『成熟と無垢について』(1958年)、小説『冒険の季節』(1960年)、批評集『故国喪失の喜び』(1960年)などがある。現在までに計6冊の小説、1冊の批評集を出版。最も重要なカリブ文学の作家のひとり。


吉田裕(よしだ・ゆたか)1980年、岐阜生まれ。東京理科大学専任講師。専門はカリブ文学及び思想、ポストコロニアル研究、文化研究。訳書にノーム・チョムスキー『複雑化する世界、単純化する欲望――核戦争と破滅に向かう環境世界』(花伝社、2014年)、ニコラス・ロイル『デリダと文学』(共訳、月曜社、2014年)、ポール・ビュール『革命の芸術家――C・L・R・ジェームズの肖像』(共訳、こぶし書房、2014年)など。


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注目新刊:ライプニッツ『モナドロジー』岩波文庫新訳、ほか

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『モナドロジー 他二篇』ライプニッツ著、谷川多佳子/岡部英男訳、岩波文庫、2019年4月、本体780円、文庫判256頁、ISBN978-4-00-336169-6
『運命論を哲学する』入不二基義/森岡正博著、2019年4月、本体1,800円、4-6判上製304頁、ISBN978-4-7503-4826-1
『脳のリズム』ジェルジ・ブザーキ著、渡部喬光監訳、谷垣暁美訳、みすず書房、2019年4月、本体5,200円、ISBN978-4-622-08791-5



★『モナドロジー 他二篇』は岩波文庫では、1951年の河野与一訳『単子論』以来の新訳。旧訳本に収められていたのは、以下の諸篇です。1695年「実体の本性及び実態の交通並びに精神物体間に存する結合に就いての新説」(およびその最初の草稿、フシェの異議、それに対するライプニッツの備考、新説の第一解明、第二解明、第三解明抜萃)、1714年の「理性に基づく自然及び恩恵の原理」、同年の「単子論」、さらに付録として、1684年の「認識、真理、観念に関する考察」、1694年の「第一哲学の改善と実体概念」、1697年の「事象の根本的生産」、1698年の「自然そのもの」でした。


★今回の新訳に収録されているのは、「モナドロジー」、「理性に基づく自然と恩寵の原理」、「実体の本性と実体間の交渉ならびに魂と身体のあいだにある結合についての新説」の3篇と、以下の付録の諸篇です。「物体と原動力の本性について」(抄訳、1702年5月)、「ゾフィー宛書簡」(1696年11月4日)、「ゾフィー・シャルロッテ宛書簡」(1704年5月8日)、「生命の原理と形成的自然についての考察、予定調和の説の著者による」(1705年5月)、「コスト宛書簡」(1707年12月19日)、「ブルゲ宛書簡」(1714年12月)、「ダンジクール宛書簡」(1716年9月11日)。底本はゲルハルト版『ライプニッツ哲学著作集』。


★「モナドロジー」より。「1 私たちがここで論じるモナドとは、複合体のなかに入る単純な実体に他ならない。単純とは部分がないことだ」(11頁)。「5〔…〕単純な実体が自然的に生じることがあるとは、どうしても考えられない。単純な実体は、複合によってつくることはできないからだ」(14頁)。「6 かくしてモナドは、生じるのも滅びるのも、一挙になされるほかない、と言ってよい。〔…〕けれども複合されたものは、部分部分で生じる、もしくは滅びる」(同頁)。「7〔…〕モナドには、何かものが入ったり出たりできるような窓がない。〔…〕」(15頁)。「3〔…〕モナドは、自然の真の原子であり、ひとことで言えば事物の要素である」(13頁)。「11〔…〕モナドの自然的変化は内的原理から来る〔…〕。外的原因はモナドの内部に作用することができないからである」(18頁)。「12 しかしまた、変化の原理のほかに、変化するものの細部があり、それが単純な実体の、いわば特殊化と多様性を与えているにちがいない」(19頁)。「13 この細部は、一なるもの、すなわち単純なもののなかに、多を含んでいるはずだ。〔…〕単純な実体のなかには、部分はないけれども、いろいろな変状や関係があるにちがいない」(同頁)。


★「14 一なるもの、すなわち単純な実体のなかで、他を含み、これを表現する推移的な状態がいわゆる表象にほかならない。これは意識される表象ないし意識とはしっかり区別されねばならない。〔…〕」(20頁)。ここで言う表象(perception)は、訳注によれば「表出(expression)」や「表現(representation)」とほぼ同義、とあります。あらわれ、とでも受け取った方が理解しやすそうです。「15 一つの表象から別の表象への変化ないし推移を起こす内的原理の働きを欲求と名づけることができる。〔…〕」(21頁)。「16 私たちの意識するどんなに小さな思考でもその対象のなかに多を含んでいるのを見いだすとき、私たちは自身で、単純な実体のなかに多様性を経験する。したがって、魂が単純な実体であることを認める人はすべて、モナドのなかにこの多を認めなければならない。〔…〕」(22頁)。以下略。


★「モナドロジー」の新本で入手可能な既訳には、「モナドロジー」清水富雄/竹田篤司訳(『モナドロジー/形而上学叙説』所収、中公クラシックス、2005年)、「モナドロジー(哲学の原理)」西谷裕作訳(『ライプニッツ著作集 第Ⅰ期第9巻 後期哲学』所収、工作舎、1989年)があります。


★訳者あとがきの次の説明が印象的です。「ライプニッツには精神の共同体、精神の共和国という理念が見られる。ライプニッツは数学や力学で顕著な業績のある自然科学者であったが、また文献学者・歴史家でもあり、過去の遺産も信頼した。知は、人類全体の事象であり、あらゆる時代のものである「精神の共和国」の所産である。精神が神とつながり、そうして諸精神が結びつきあうイメージは主要テクストで示されているが、「精神の共和国」という表現が書簡などにも見られる」(246頁)。


★『運命論を哲学する』は、「現代日本哲学に新たなページをきりひらく本格哲学入門シリーズ」と謳う「現代哲学ラボ・シリーズ」の第1巻。「これがJ-哲学だ」と帯文にあります。J-哲学とは「日本語をベースとした、オリジナルな世界哲学」とのことです。森岡正博さんによる「全巻のためのまえがき」には、「J-哲学」あるいは「J-フィロソフィー」について「ちょうど「J-ポップ」や「J-文学」があるように、日本から自生的に出てきて国際的な潮流に寄与しする哲学という意味」(ii頁)と説明されています。「「日本哲学」と言わないのは、この言葉が、鎌倉新仏教から京都学派までの日本の哲学を研究対象とする学術を指して、すでに国内外の学会で使用されているからである」(ii~iii頁)。「欧州大陸や英米の哲学を輸入紹介することをもって「哲学」と呼ぶ慣習はまだ続いている。私たちは、それらとは異なった道筋を開きたい」(i頁)。


★もともと「現代哲学ラボ」は森岡さんと田中さをりさん(『哲楽』編集人)が世話人をつとめた全4回の連続討論会企画(2015~2016年)で、これは電子書籍として哲楽編集部より刊行済。これに著者の皆さんが大幅加筆したのが、「現代哲学ラボ・シリーズ」です。森岡さんによる「第1巻のまえがき」によれば、本書は著者2氏が運命論と現実性を「徹底的に掘り下げる」もの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。続刊予定は、第2巻が永井均さんと森岡さんによる『私と今を哲学する』、第3巻が永井/入不二/森岡の3氏による『現実性を哲学する』、第4巻が加藤秀一さんと森岡さんによる『生命の価値を哲学する』です。


★『脳のリズム』は『Rhythms of the Brain』(Oxford University Press, 2006)の訳書。カバー表4の紹介文から引いておきます。「「脳は予測装置であり、その予測能力は、絶え間なく生成しているさまざまなリズムから生じる。」〔…本書は〕それまで“ノイズ”にすぎないとされていた脳内リズム現象の見方を一変させ、すでに現代の古典となっている。〔…〕脳内のリズム現象は私たちの認知機能の中核を担っている。脳の中では振動子としてのニューロンが集団的に同期しつつ、f分の1揺らぎ、時間窓によるスイッチング、確率共振といった特性を利用しながら、思考や記憶などの複雑かつ統合された能力を創発するシンフォニーを奏でているのだ」。目次詳細は書名のリンク先とご覧ください。


★理化学研究所・脳神経科学研究センターの渡部喬光さんは「監訳者あとがき」でこう書いています。「この本は、およそ過去40年に渡って海馬神経科学の最前線をひた走り、今も論文を出し続ける大御所電気生理屋さんの思想書・予言書だと思って、刺激され、訝しがり、楽しむのが生産的な姿勢だと個人的には思っている」。著者のブザーキ(György Buzáki, 1949-)はハンガリー出身で、現在はニューヨーク大学神経科学研究所ビッグス教授。研究対象は脳内の振動現象、睡眠、記憶。Györgyはforvoで現地の発音を確認するかぎりでは、ジェルジというよりかはジョルジュ(時にはギョルギュ)に近く、最近ではリゲティの名前もジョルジュとしている例を見かけます。ちなみにルカーチは訳書がいずれも古めのためかジェルジないしドイツ風にゲオルク表記。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『執念深い貧乏性』栗原康著、文藝春秋、2019年4月、本体1,800円、四六判並製280頁、ISBN978-4-16-390934-9
『天皇制と闘うとはどういうことか』菅孝行著、航思社、2019年4月、本体3,200円、四六判上製346頁、ISBN978-4-906738-37-3
『吉本隆明全集19[1982-1984]』吉本隆明著、晶文社、2019年4月、本体7,000円、A5判変型上製692頁。ISBN978‐4‐7949‐7119-7
『評伝ジャン・ユスターシュ――映画は人生のように』須藤健太郎著、共和国、2019年4月、本体3,600円、菊変型判並製412頁、ISBN978-4-907986-54-4
『美しく呪われた人たち』F・スコット・フィッツジェラルド著、上岡伸雄訳、作品社、2019年4月、本体3,200円、46判上製484頁、ISBN978-4-86182-737-2



★『執念深い貧乏性』は、「文學界」2017年5月号から2018年4月号までの全12回の連載をまとめたもの。新たに加えられた巻末の「おわりに」は天皇制への言及をめぐる某出版社との攻防が暴露されており、ある意味で今までの栗原さんの著書の中でもっとも攻めている内容となっています。「天皇制ってなんですか? それは純然たる統治だ、よりよい統治を呼び起こす装置みたいなもんだ。それこそいま天皇のことをマジで神だなんておもっているやるはほとんどいないとおもうし、わたくしどもはヘイカの赤子でございますっておもっているやつもまれだとおもう。なのに、なんで天皇がいたらあたまをさげてしまうのか、ヘイカとよんでしまうのか、たわいのない批判を自主規制しようとしてしまうのか。それは真理をもとめるこころがあるからだ。ぜったいにただしいなにかにすがりたいっておもっているからだ。どうしたらいいか。まずはここからはじめよう。くたばれ、天皇制。われわれは真理に反対する。ただしいことはダサいとおもえ」(258~259頁)。残尿感に始まり下剤に終わる本書の自由さ。


★『天皇制と闘うとはどういうことか』は、某社より刊行予定だった『天皇制論集第二巻 現代反天皇制運動の理論』が原型だそうです。同時に編著『叢書ヒドラ 批評と運動Ⅱ』の入稿済原稿もⅢ~Ⅴ号の計画も流れたのだとか。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「天皇制は、人の上に人をつくり、人の下に人をつくる。頂点に神聖の極致の存在を生み出し、対極に汚穢と卑賤の極致の存在を生む。つまり、絶対的な差別を生む。天皇制国家の観念体系の目的は、資本制による近代化の推進であるが、一見古代律令制の遺制のような観念とそれに基づく差別は、近代化と矛盾するどころか、資本制の支配を補完する機能を担ってきた。天皇制下の「四民平等」は差別構造を資本制的蓄積に適合させるための近代化の機能を果たした。戦後憲法14条の「法の下の平等」も、それだけでは空文であり、戦前よりも洗練された収奪の装置として、一見遺制的な観念に依拠した近代の差別構造は延命した。天皇を聖の極限とする差別の観念体系は、平等意識の暗渠を生み出した。それは差別する側に「外部」不在の、鈍感な自己――平等のつもりの差別――絶対化が生まれた。それは内部の異端に対する徹底的な抑圧と、外部に対する徹底的な排外主義と暴力行使の正当化を誘導する」(19~20頁)。


★『吉本隆明全集19[1982-1984]』はまもなく発売となる第20回配本。第Ⅰ部の『マス・イメージ論』、第Ⅱ部の「「反核」運動の思想批判」「反核運動の思想批判 番外」「情況への発言――「反核」問題をめぐって――」といった『「反核」異論』に収録された評論や講演、第Ⅲ部の『野生時代』連載詩篇、第Ⅳ部の評論、第Ⅴ部のアンケート、推薦文、あとがきなどから、ニューアカ・ブーム勃興期に吉本さんが論じ、綴り、語っていたことが一望できます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「核エネルギイの問題は、石油、石炭からは次元のすすんだ物質エネルギイを、科学が解放したことを問題の本質とする。政治闘争はこの科学の物質会報の意味を包括することはできない。既成左翼が「反原発」というときほとんどが、科学技術にたいする意識しない反動的な倫理を含んでいる。それだけではなく「科学」と「政治」の混同を含んでいる」(「「反核」運動の思想批判」299頁)。月報20は、小池昌代「父の内なる言語」、島亨「「軒遊び」と「生命呼吸」のこと」、ハルノ宵子「境界を越える」を掲載。島亨さんは出版社「言叢社」の編集者。次回配本は8月、第20巻とのことです。


★『評伝ジャン・ユスターシュ』はパリ第三大学に提出した博士論文『ジャン・ユスターシュ――生成と制作』の日本語訳全面改稿版。「映画を生き、愛し、時代との結託を拒むその稀有な生に魅せられた気鋭の批評家による、世界初の本格的な評伝」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。巻頭の序によれば、著者は作品を見直し、文献を読み、視聴覚資料をチェックし、未公刊資料を掘り起こし、関係者の証言を集め、脚本や製作資料や監督の手になる文書も細かく分析したそうです。「目標は、可能なかぎり資料に裏打ちされた方法で、彼の辿った行程を復元すること。完成された作品を外側から眺めて分析するのではなく、作られていく渦中に入り込み、内側から作品に触れること。創造のプロセスを辿り直すこと」(8頁)。本書の刊行を記念して、十数年ぶりのリバイバル上映会が以下の通り行われます。


◎ジャン・ユスターシュ「映画は人生のように」
日時:2019年4月27日(土)~5月9日(木)
場所:ユーロスペース(渋谷)


日時:5月11日(土)12日(日)18日(土)19日(日)
場所:アンスティチュ・フランセ東京(飯田橋)



★『美しく呪われた人たち』は1922年の『The Beautiful and Damned』の初訳。デビュー作『楽園のこちら側』(1920年;朝比奈武訳、花泉社、2016年)と『グレート・ギャツビー』(1925年、諸訳あり)との間に刊行された長編第2作です。帯文に曰く「刹那的に生きる「失われた世代」の若者たちを絢爛たる文体で描き、栄光のさなかにありながら自らの転落を予期したかのような恐るべき傑作」と。これで生前に刊行された長編小説4作(4作目は1934年の『夜はやさし』、死去の翌年である1941年に出版された未完の遺作『ラスト・タイクーン』を含めると5作)はすべて翻訳されたことになります。なお同書の刊行を記念して、以下のイベントが行われます。


◎上岡伸雄×宮脇俊文「“狂騒の20年代”とF・スコット・フィッツジェラルドの世界」
日時:2019年5月9日19:30~21:00
場所:ブックス青いカバ(文京区本駒込2-28-24)
料金:1000円
定員:20名
予約:電話03-6883-4507


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取次搬入日決定:『表象13:ファッション批評の可能性』

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『表象13:ファッション批評の可能性』の取次搬入日が決まりました。日販、トーハン、大阪屋栗田、3社とも4月26日(金)です。連休直前なので、書店さんでの店頭発売日ははっきりとは読めませんが、早いお店で5月1日以降、通常では連休明けの5月7日以降になるのではないかと予想されます。どの書店さんで扱っていただく予定なのかは、地域をご指定のうえお問い合わせいただければ幸いです。


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ブックツリー「哲学読書室」に須藤温子さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『エリアス・カネッティ』(月曜社、2019年2月)の著者、須藤温子さんによるコメント付き選書リスト「やわらかな思考、奇想の知へようこそ!」が追加されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。


◎哲学読書室


1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」

27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」

29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」

30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?」
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか」
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化」
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知」
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選」
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ」
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?」
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊」
47)須藤温子(すとう・はるこ:1972-)さん選書「やわらかな思考、奇想の知へようこそ!」


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注目新刊:『ことばを紡ぐための哲学』『本当の小説』『舞台芸術 第4期第22巻』

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★星野太さん(著書『崇高の修辞学』)
白水社さんから今月刊行されたアンソロジー集『ことばを紡ぐための哲学――東大駒場・現代思想講義』に寄稿されています。同書は、2014年度冬学期に東京大学教養学部で行なわれたEALAI(東アジアリベラルアーツイニシアティブ)のテーマ講義「グローバル化時代の現代思想――東アジアから」を担当した教員の方々が講義内容を再整理して書き直したもの、とのことです。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。星野さんは第Ⅱ部「システムに抗して」に「待つ・耐える」(128~147頁)という論考を寄せておられます。また第Ⅰ部「日常という場で」と第Ⅱ部の末尾に置かれた座談会『来たるべきことばのために』前篇/後篇にも参加されています。本書に収められた各論考の末尾には「基本文献案内」が付されており、書店員さんの棚作りに役立つのではないかと思います。版元紹介文の冒頭部分がが胸に沁みます。「「炎上」からヘイトスピーチまで、敵が敵を生む〈ことばの過剰〉に抗して、ともに生きる場を恢復する、「知の技法」のこれから」。


ことばを紡ぐための哲学――東大駒場・現代思想講義
中島隆博/石井剛[編著]
白水社、2019年4月、本体2,000円、4-6判並製216頁、ISBN978-4-560-09673-4


★フィリップ・ソレルスさん(著書『ドラマ』)
回想録『Un vrai roman : Mémoires』(Plon, 2007)の全訳が水声社さんから今月刊行されました。卓抜な同時代史、文壇史、思想史としても読めると思います。


本当の小説 回想録
フィリップ・ソレルス[著] 三ツ堀広一郎[訳]
水声社 2019年4月 本体3,000円 四六判上製344頁 ISBN978-4-8010-0408-5







★舞台芸術研究センターさん(発行『舞台芸術』第一期全十巻)
季刊誌『舞台芸術』第4期第22巻が先月末(2019年3月)に発売となりました。メイン特集は「〈劇場〉の現在形――「拡張」と「拡散」の間で」。渡邊守章さんへのインタビュー「「演劇作業」の現場――ラシーヌからクローデルまで」(聞き手:森山直人)や、宮沢章夫さんと黒瀬陽平さんの対談「〈3・11以後〉 の「劇場」、または メディア社会における 〈ライヴ〉 の現在」などが掲載されています。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。ハンス=ティース・レーマンの大著『悲劇とドラマ演劇』(Tragödie und Dramatisches Theater, Berlin: Alexanderverlag, 2013)より「序論」が津﨑正行さんによる翻訳と解題で掲載されています。



舞台芸術(22)〈劇場〉の現在形――「拡張」と「拡散」の間で
京都造形芸術大学舞台芸術研究センター[編著]
KADOKAWA 2019年3月 本体1,500円 B5判並製188頁 ISBN978-4-04-876501-5


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注目新刊:ちくま学芸文庫5月新刊4点5冊、ほか

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★まもなく発売(5月10日頃)となるちくま学芸文庫の5月新刊4点5冊は以下の通り。


『神社の古代史』岡田精司著、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-09913-6
『イタリア・ルネサンスの文化(上)』ヤーコプ・ブルクハルト著、新井靖一訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,500円、文庫判496頁、ISBN978-4-480-09914-3
『イタリア・ルネサンスの文化(下)』ヤーコプ・ブルクハルト著、新井靖一訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,500円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-09915-0
『増補 普通の人びと――ホロコーストと第101警察予備大隊』クリストファー・R・ブラウニング著、谷喬夫訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,600円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-09920-4
『アイデンティティが人を殺す』アミン・マアルーフ著、小野正嗣訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09926-6


★『神社の古代史』は2011年に学生社から刊行された単行本『新編 神社の古代史』を文庫化したもの。もともとは83年から85年にかけて朝日カルチャーセンター大阪で行った講座「神社の歴史と文化」(全45回)が85年に『神社の古代史』として書籍化され、版元であった大阪書籍の出版事業撤退に伴い、改訂を加えた新版が学生社から刊行されていました。著者の岡田精司(おかだ・せいし:1929-)さんは日本史学者で、古代祭祀や古代史がご専門。文庫で読める著書は今回の新刊が初めてのものです。


★『イタリア・ルネサンスの文化』上下巻は、2007年に筑摩書房より刊行された単行本全1巻を文庫化に際し上下分冊としたもの。上巻には第二版序言と第1章から第3章まで、下巻には第4章から第6章までと付録(16世紀中頃のイタリア主要都市の人口(概数)、主要家家系図)が収められています。「ちくま学芸文庫版訳者後記」によれば、「訳文中の誤りなどを可能なかぎり訂正した」とのことです。なお、現在も入手可能な文庫で読める同書の既訳には、中公文庫版『イタリア・ルネサンスの文化』(上下巻、柴田治三郎訳、1974年)があります。また、ちくま学芸文庫ではこれまでにブルクハルトの著書を、いずれも新井靖一さんによるもので、1999年に『ギリシア文化史』全8巻、2009年に『世界史的考察』、2012年『ルーベンス回想』と10点刊行しています。いずれも現在は電子書籍のみで紙媒体は版元品切。今回の新刊を紙媒体で取っておきたい方はお早目の購読をお薦めします。


★『増補 普通の人びと』は『Ordinary Men: Reserve Police Battalion 101 and the Final Solution in Poland』(HarperCollins, 1992; Revised edition, Harper Perennial, 2017)の全訳。親本は筑摩書房より1997年に刊行。文庫化に際して2017年の原著改訂版から「あとがき」と「二五年のあとで」(資料写真を多数掲載)が追加で訳出され、人名索引が新たに付されています。「訳者あとがき」には「訳文を読みやすくするために貴重なアドヴァイスを〔編集部から〕いただいた」とあるので、既訳分も改訂されているとみていいかと思います。一般市民を中心に編成された第101警察予備大隊がいかにユダヤ人虐殺に関わったかを綿密に検証した、文庫ながらとても重い本です。


★『アイデンティティが人を殺す』は『Les Identités meurtrières』(Grasset, 1998)の文庫オリジナル訳書。「民族や宗教といった分断線に貫かれた、いわば境界線上の人々〔…〕彼らには果たすべき役割があります。さまざまな結びつきを作り出し、誤解を解消させる。理性に訴えかけ、怒りをなだめ、困難を取り除き、和解をもたらす……。彼らの使命は、さまざまな共同体、さまざまな文化のあいだを結ぶハイフン、通路、媒介者となることです。それゆえにこそ、彼らのジレンマが持つ意味は重いわけです。もしも彼らがそのうちに抱える数多くの帰属を受け入れることができないのなら、そしてたえずどの陣営を選ぶかを要求され、どの部族につくかを命じられるとしたら、そのときこそ私たちはこの世界の進み行きに不安を抱くべきなのです」(13~14頁)。「アイデンティティにはただひとつの帰属しかないと声高に主張する、偏狭で、排他的で、妄信的で、単純きわまりない考え方〔…〕こんなふうにして殺戮者が「製造される」のだと私は声を大にして言いたいのです」(14頁)。マアルーフ(Amin Maalouf, 1949-)はレバノンに生まれ、フランスで活躍する作家。ちくま学芸文庫では『アラブが見た十字軍』(牟田口義郎/新川雅子訳、2001年2月)や『サマルカンド年代記――『ルバイヤート』秘本を求めて』(牟田口義郎訳、2001年12月、紙媒体版元品切)がこれまでに刊行されています。


★続いて最近出会った新刊を列記します。


『流れといのち――万物の進化を支配するコンストラクタル法則』エイドリアン・ベジャン著、柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店、2019年5月、本体2,200円、四六判上製404頁、ISBN978-4-314-01167-9
『もっと速く、もっときれいに――脱植民地化とフランス文化の再編成』クリスティン・ロス著、中村督/平田周訳、人文書院、2019年4月、本体3,500円、4-6判並製310頁、ISBN978-4-409-03102-5
『ウィニコットとの対話』カー・ブレット著、妙木浩之/津野千文訳、人文書院、2019年4月、本体4,000円、4-6判並製412頁、ISBN978-4-409-34054-7
『移民政策とは何か――日本の現実から考える』高谷幸編著、樋口直人/稲葉奈々子/奥貫妃文/榎井縁/五十嵐彰/永吉希久子/森千香子/佐藤成基/小井土彰宏著、人文書院、2019年4月、本体2,000円、4-6判並製256頁、ISBN978-4-409-24124-0
『現代思想2019年5月号 特集=教育は変わるのか――部活動問題・給特法・大学入学共通テスト』青土社、2019年4月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1381-3



★『流れといのち』はまもなく発売(5月10日取次搬入)。『The Physics of Life: The Evolution of Everything』(St, Martin's Press, 2016)の全訳。J・ペダー・ゼインとの共著『流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則』(柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店、2013年;『Design in Nature: How the Constructal Law Governs Evolution in Biology, Physics, Technology, and Social Organization』Doubleday Books, 2012)に続く話題作です。熱力学者ベジャンが提唱する「コンストラクタル法則」とは、生物・無生物を問わず、すべてはよりよく流れるかたちに進化する、というもの。この法則によれば、「資本主義は自然に発生する」(104頁)ものであり、「テクノロジーの進化は、動物の進化や河川流域の深化、科学の進化と何ら変わりはしない」(33頁)と。あらゆる事象を物理的現象として見るその徹底ぶりは挑発的ですらありますが、ベジャンはアメリカでは昨年フランクリン・メダルを受賞しています。


★人文書院さんの最新刊より3点。いずれも取次搬入日は4月26日。『もっと速く、もっときれいに』は『Fast Cars, Clean Bodies: Decolonization and the Reordering of French Culture』(MIT Press, 1995)の全訳。ロスの単独著の訳書は『68年5月とその後――反乱の記憶・表象・現在』(箱田徹訳、航思社、2014年)に続く2冊目。「本書が68年5月という出来事の手前で考察を終えたのは、むしろそれに先立つ10年間で生じたフランスの近代化という出来事を考察――すなわち、フランスの近代化を出来事として考察――したかったからである」(序文、13頁)。


★『ウィニコットとの対話』は『Tea with Winnicott』(Karnac, 2016)の本文の全訳。原著にあった挿絵は省略されています。ウィニコット研究の第一人者が様々な文献や未公開資料を駆使してウィニコットとの仮想対話を試みたユニークな入門書。なお『ウィニコット著作集』(本巻全8巻、別巻2巻)は岩崎学術出版社より刊行。



★『移民政策とは何か』は先月(2019年4月)からスタートした外国人労働者受け入れ拡大のための新制度(入管法改正:出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律)を受けて様々なテーマから書かれた10本の論考を収めた論文集。ほぼ「緊急出版」と言っていいスピード感です。



★「現代思想」5月号は鉄板の大学特集から少し観点を拡張して教育もの。ブラック部活、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)、読解力、など問題の案件をめぐる論考が並んでいます。磯崎新さんの連載は今回の第二回からタイトル変更。「造物主義論 〈建築〉――あるいはデミウルゴスの“構築”」から端的に「デミウルゴス」に。次号(6月号)の特集は「加速主義――資本主義の疾走、未来への〈脱出〉」。木澤佐登志さんやニック・ランドの論考が載る予定ですが、ちょうど木澤さんの第二作『ニック・ランドと新反動主義――現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』(星海社新書)と同時期の発売ですね。


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注目新刊:ちくま学芸文庫5月新刊4点5冊、ほか

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★まもなく発売(5月10日頃)となるちくま学芸文庫の5月新刊4点5冊は以下の通り。


『神社の古代史』岡田精司著、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-09913-6
『イタリア・ルネサンスの文化(上)』ヤーコプ・ブルクハルト著、新井靖一訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,500円、文庫判496頁、ISBN978-4-480-09914-3
『イタリア・ルネサンスの文化(下)』ヤーコプ・ブルクハルト著、新井靖一訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,500円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-09915-0
『増補 普通の人びと――ホロコーストと第101警察予備大隊』クリストファー・R・ブラウニング著、谷喬夫訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,600円、文庫判528頁、ISBN978-4-480-09920-4
『アイデンティティが人を殺す』アミン・マアルーフ著、小野正嗣訳、ちくま学芸文庫、2019年5月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09926-6


★『神社の古代史』は2011年に学生社から刊行された単行本『新編 神社の古代史』を文庫化したもの。もともとは83年から85年にかけて朝日カルチャーセンター大阪で行った講座「神社の歴史と文化」(全45回)が85年に『神社の古代史』として書籍化され、版元であった大阪書籍の出版事業撤退に伴い、改訂を加えた新版が学生社から刊行されていました。著者の岡田精司(おかだ・せいし:1929-)さんは日本史学者で、古代祭祀や古代史がご専門。文庫で読める著書は今回の新刊が初めてのものです。


★『イタリア・ルネサンスの文化』上下巻は、2007年に筑摩書房より刊行された単行本全1巻を文庫化に際し上下分冊としたもの。上巻には第二版序言と第1章から第3章まで、下巻には第4章から第6章までと付録(16世紀中頃のイタリア主要都市の人口(概数)、主要家家系図)が収められています。「ちくま学芸文庫版訳者後記」によれば、「訳文中の誤りなどを可能なかぎり訂正した」とのことです。なお、現在も入手可能な文庫で読める同書の既訳には、中公文庫版『イタリア・ルネサンスの文化』(上下巻、柴田治三郎訳、1974年)があります。また、ちくま学芸文庫ではこれまでにブルクハルトの著書を、いずれも新井靖一さんによるもので、1999年に『ギリシア文化史』全8巻、2009年に『世界史的考察』、2012年『ルーベンス回想』と10点刊行しています。いずれも現在は版元品切。今回の新刊はお早目の購読をお薦めします。


★『増補 普通の人びと』は『Ordinary Men: Reserve Police Battalion 101 and the Final Solution in Poland』(HarperCollins, 1992; Revised edition, Harper Perennial, 2017)の全訳。親本は筑摩書房より1997年に刊行。文庫化に際して2017年の原著改訂版から「あとがき」と「二五年のあとで」(資料写真を多数掲載)が追加で訳出され、人名索引が新たに付されています。「訳者あとがき」には「訳文を読みやすくするために貴重なアドヴァイスを〔編集部から〕いただいた」とあるので、既訳分も改訂されているとみていいかと思います。一般市民を中心に編成された第101警察予備大隊がいかにユダヤ人虐殺に関わったかを綿密に検証した、文庫ながらとても重い本です。


★『アイデンティティが人を殺す』は『Les Identités meurtrières』(Grasset, 1998)の文庫オリジナル訳書。「民族や宗教といった分断線に貫かれた、いわば境界線上の人々〔…〕彼らには果たすべき役割があります。さまざまな結びつきを作り出し、誤解を解消させる。理性に訴えかけ、怒りをなだめ、困難を取り除き、和解をもたらす……。彼らの使命は、さまざまな共同体、さまざまな文化のあいだを結ぶハイフン、通路、媒介者となることです。それゆえにこそ、彼らのジレンマが持つ意味は重いわけです。もしも彼らがそのうちに抱える数多くの帰属を受け入れることができないのなら、そしてたえずどの陣営を選ぶかを要求され、どの部族につくかを命じられるとしたら、そのときこそ私たちはこの世界の進み行きに不安を抱くべきなのです」(13~14頁)。マアルーフ(Amin Maalouf, 1949-)はレバノンに生まれ、フランスで活躍する作家。ちくま学芸文庫では『アラブが見た十字軍』(牟田口義郎/新川雅子訳、2001年2月)や『サマルカンド年代記――『ルバイヤート』秘本を求めて』(牟田口義郎訳、2001年12月、版元品切)がこれまでに刊行されています。


★続いて最近出会った新刊を列記します。


『流れといのち――万物の進化を支配するコンストラクタル法則』エイドリアン・ベジャン著、柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店、2019年5月、本体2,200円、四六判上製404頁、ISBN978-4-314-01167-9
『もっと速く、もっときれいに――脱植民地化とフランス文化の再編成』クリスティン・ロス著、中村督/平田周訳、人文書院、2019年4月、本体3,500円、4-6判並製310頁、ISBN978-4-409-03102-5
『ウィニコットとの対話』カー・ブレット著、妙木浩之/津野千文訳、人文書院、2019年4月、本体4,000円、4-6判並製412頁、ISBN978-4-409-34054-7
『移民政策とは何か――日本の現実から考える』高谷幸編著、樋口直人/稲葉奈々子/奥貫妃文/榎井縁/五十嵐彰/永吉希久子/森千香子/佐藤成基/小井土彰宏著、人文書院、2019年4月、本体2,000円、4-6判並製256頁、ISBN978-4-409-24124-0
『現代思想2019年5月号 特集=教育は変わるのか――部活動問題・給特法・大学入学共通テスト』青土社、2019年4月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1381-3



★『流れといのち』はまもなく発売(5月10日取次搬入)。『The Physics of Life: The Evolution of Everything』(St, Martin's Press, 2016)の全訳。J・ペダー・ゼインとの共著『流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則』(柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店、2013年;『Design in Nature: How the Constructal Law Governs Evolution in Biology, Physics, Technology, and Social Organization』Doubleday Books, 2012)に続く話題作です。熱力学者ベジャンが提唱する「コンストラクタル法則」とは、生物・無生物を問わず、すべてはよりよく流れるかたちに進化する、というもの。この法則によれば、「資本主義は自然に発生する」(104頁)ものであり、「テクノロジーの進化は、動物の進化や河川流域の深化、科学の進化と何ら変わりはしない」(33頁)と。あらゆる事象を物理的現象として見るその徹底ぶりは挑発的ですらありますが、ベジャンはアメリカでは昨年フランクリン・メダルを受賞しています。


★人文書院さんの最新刊より3点。いずれも取次搬入日は4月26日。『もっと速く、もっときれいに』は『Fast Cars, Clean Bodies: Decolonization and the Reordering of French Culture』(MIT Press, 1995)の全訳。ロスの単独著の訳書は『68年5月とその後――反乱の記憶・表象・現在』(箱田徹訳、航思社、2014年)に続く2冊目。「本書が68年5月という出来事の手前で考察を終えたのは、むしろそれに先立つ10年間で生じたフランスの近代化という出来事を考察――すなわち、フランスの近代化を出来事として考察――したかったからである」(序文、13頁)。


★『ウィニコットとの対話』は『Tea with Winnicott』(Karnac, 2016)の本文の全訳。原著にあった挿絵は省略されています。ウィニコット研究の第一人者が様々な文献や未公開資料を駆使してウィニコットとの仮想対話を試みたユニークな入門書。なお『ウィニコット著作集』(本巻全8巻、別巻2巻)は岩崎学術出版社より刊行。



★『移民政策とは何か』は先月(2019年4月)からスタートした外国人労働者受け入れ拡大のための新制度(入管法改正:出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律)を受けて様々なテーマから書かれた10本の論考を収めた論文集。ほぼ「緊急出版」と言っていいスピード感です。



★「現代思想」5月号は鉄板の大学特集から少し観点を拡張して教育もの。ブラック部活、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)、読解力、など問題の案件をめぐる論考が並んでいます。磯崎新さんの連載は今回の第二回からタイトル変更。「造物主義論 〈建築〉――あるいはデミウルゴスの“構築”」から端的に「デミウルゴス」に。次号(6月号)の特集は「加速主義――資本主義の疾走、未来への〈脱出〉」。木澤佐登志さんやニック・ランドの論考が載る予定ですが、ちょうど木澤さんの第二作『ニック・ランドと新反動主義――現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』(星海社新書)と同時期の発売ですね。


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新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

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2019年6月27日(木)開店
HMV&BOOKS OKINAWA
沖縄県浦添市西洲3丁目

日販帳合。弊社へのご発注は人文書少々。沖縄県浦添市に今夏(2019年6月27日)オープン予定である、地上6階建ての商業施設「サンエー浦添西海岸 PARCO CITY」の3階に入居。同PARCO CITYは、那覇空港から車で15分に誕生するというシティリゾート開発エリアに立地する、沖縄県最大級の商業施設となり、入居する250店舗のうち94店舗が沖縄初登場とのことです。沖縄の小売流通企業サンエーとパルコが協業して開発する大型商業施設であり、「浦添市の湾岸道路に面したウォーターフロントの開発エリアに新たな複合交流施設が誕生」と謳われています。



「CINRA.NET」の2018年12月4日付ニュース「HMV&BOOKSが沖縄初出店、サンエー浦添西海岸 PARCO CITY内に来夏オープン」によれば、同店は「音楽と書籍の複合ショップ」であり、「東京・渋谷、日比谷、福岡・博多、大阪・心斎橋に続く、HMV&BOOKSの5店舗目、HMV店舗としては初の沖縄出店となる」とのこと。また「書籍を中心に音楽、映像ソフト、雑貨、チケットなど約14万点を取り揃えるほか、店内に常設されるイベントステージでは、ミニライブ、サイン会、トークイベント、HMV&BOOKS SHIBUYAでのイベントのライブビューイングなどを開催。さらにサンエー浦添西海岸 PARCO CITYへのユナイテッド・シネマの出店にあわせて映画コーナーを設け、ユナイテッド・シネマとの連携企画も予定」とも紹介されています。記事には同店のイメージビジュアルも添えられています。



公式サイトの告知は以下の通りです。「「HMV&BOOKS OKINAWA」は、提案型の売り場と店内でのイベントなどを通じて、ユーザー360°エンタメサービスを実現し、お客さまに“出会い”や“発見”、そして、“体験”を提供する、新たな“情報発信地”を目指してまいります。/さらに、イベントステージを店内に常設し、ミニライブ、サイン会、トークショーなどのイベント開催をはじめ、国内ではトップクラスの開催件数を誇る HMV&BOOKS SHIBUYAで開催される店内イベントのライブビューイングなども予定しており、お客さまにリアル店舗ならではの“体験”も提供してまいります。/また、ユナイテッド・シネマの同時出店にあわせ、映画の歴史等も紹介する映画コーナーの充実を図り、ユナイテッド・シネマと連携した企画なども行ってまいります」と。


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注目新刊:バルファキス『黒い匣』、ライアン『監視文化の誕生』、王力雄『セレモニー』

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★まず最初に5月の文庫新刊の中から注目書をいくつか。


『中世思想原典集成 精選4 ラテン中世の興隆2』上智大学中世思想研究所編訳・監修、平凡社ライブラリー、2019年5月、本体2,400円、B6変判624頁、ISBN978-4-582-76881-7
『日本の偽書』藤原明著、河出文庫、2019年5月、本体760円、文庫判200頁、ISBN978-4-309-41684-7
『物質と記憶』アンリ・ベルクソン著、杉山直樹訳、講談社学術文庫、2019年5月、本体1,330円、A6判392頁、ISBN978-4-06-515637-7
『元号通覧』森鴎外著、講談社学術文庫、2019年5月、本体1,230円、A6判336頁、ISBN978-4-06-515740-4
『崖の上のポニョ』宮崎駿原作・脚本・監督、文春ジブリ文庫シネマ・コミック15、2019年5月、本体1,600円、文庫判456頁、ISBN978-4-16-812114-2



★『中世思想原典集成 精選4』は第4回配本。親本の第7巻「前期スコラ学」、第8巻「シャルトル学派」、第9巻「サン=ヴィクトル学派」、第11巻「イスラーム哲学」から9篇を収録したもの。佐藤直子さんによる巻頭解説、各作品解題、水野千依さんによる巻末エッセイ「心のなかに「絵」を描く――魂の階梯と形象の彼方」は新たに追加されたものです。9篇の収録作品はhontoの単品紹介ページにて公開されています。来月の平凡社ライブラリー新刊はキルケゴール『新訳 不安の概念』村上恭一訳、とのことです。デンマーク語原典からの新訳。



★『日本の偽書』は2004年に刊行された文春新書版に「若干の訂正を加え」て文庫化したもの。『上記』『竹内文献』『東日流外三郡誌』『秀真伝』『先代旧事本紀』『先代旧事本紀大成経』などを取り上げ、なぜそれらが人を惹きつけてやまないのかに迫っています。できればこれらの偽書自体も文庫版で入手できるようになるといいなと念願しています。今月の河出文庫新刊では小栗虫太郎『法水麟太郎全短篇』や、喜田貞吉『被差別部落とは何か』なども気になったのですが、店頭になく他日を期したいと思います。


★講談社学術文庫の今月新刊からは2点。『物質と記憶』は文庫オリジナルの新訳。巻末の訳者解説によれば、底本は諸版を検討した結果、1982年の旧カドリージュ版と、1959年の生誕百周年著作集を用いるべきだと判断したとのことです。既訳は多数ありますがすべて参照し、「明確なヴァージョンアップ」を目指して翻訳に取り組まれたとのことです。


★『元号通覧』は巻末の特記によれば「1953年に岩波書店より刊行された、『鷗外全集』第13巻に収録された『元号考』を改題して文庫化したもの」。「元号の出典から改元理由、不採用の候補に至るまで1300年分の元号が一望できる」(カヴァー表4紹介分より)、学術文庫らしい一冊。巻末解説は猪瀬直樹さんが書かれています。


★『崖の上のポニョ』は文春ジブリ文庫シネマ・コミックの第15巻目。すべてのセリフを確認できるのがいいです。何度見ても、終わり近くのフジモトの悲哀をあっさりと描いた部分が胸に刺さります。シネマコミックの続刊予定は6月に「ホルスの大冒険」、7月に「風立ちぬ」とのこと。


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★続いて最近注目している新刊単行本を列記します。


『不道徳的倫理学講義――人生にとって運とは何か』古田徹也著、ちくま新書、2019年5月、本体1,000円、新書判368頁、ISBN978-4-480-07213-9
『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』古田徹也著、角川選書、2019年4月、本体1,800円、四六変形判360頁、ISBN978-4-04-703631-4
『楽園をめぐる闘い――災害資本主義者に立ち向かうプエルトリコ』ナオミ・クライン著、星野真志訳、堀之内出版、2019年4月、本体1,600円、B6変型判144頁、ISBN978-4-909237-39-2

『大洪水の前に――マルクスと惑星の物質代謝』斎藤幸平著、堀之内出版、2019年4月、本体3,500円、四六判上製356頁、ISBN978-4-909237-40-8
『黒い匣 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命――元財相バルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層』ヤニス・バルファキス著、朴勝俊/山崎一郎/加志村拓/青木嵩/長谷川羽衣子/松尾匡訳、明石書店、2019年4月、本体2,700円、A5判並製592頁、ISBN978-4-7503-4821-6
『監視文化の誕生――社会に監視される時代から、ひとびとが進んで監視する時代へ』デイヴィッド・ライアン著、田畑暁生訳、青土社、2019年4月、本体2,600円、四六判並製283+viii頁、ISBN978-4-7917-7162-2


★『不道徳的倫理学講義』と『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』は、東大大学院准教授の古田徹也(ふるた・てつや:1979-)さんの書き下ろし。『不道徳的倫理学講義』は「「運」の意味を探る」「「運」をめぐる倫理学史――古代から近代までの一断面」「道徳と実存――現代の問題圏」の3部構成(全10章)で、「古代から現代に至る倫理学の歴史に遺された、運にまつわる思考の痕跡を探っていく」(13頁)もの。「正当な倫理学史ではあまり案内されない裏通りにむしろ足繁く通うツアー」(同頁)となっているとのことです。


★『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』は『論理哲学論考』の抜萃と解説。「『論考』読解のために最低限理解する必要がある箇所を具体的に取り上げ、それを一から解きほぐしていくこと」(5頁)が試みられています。昨夏からスタートした、角川選書創刊50周年記念企画である「シリーズ世界の思想」の第3弾です。これまでに佐々木隆治さんの『マルクス 資本論』と、岸見一郎さんの『プラトン スクラテスの弁明』が刊行済みです。



★堀之内出版さんの新刊2点はいずれも話題書。『楽園をめぐる闘い』は『The Battle For Paradise: Puerto Rico Takes on the Disaster Capitalists』(Haymarket Books, 2018)の全訳。クラインの著書の中でもっともコンパクトな本ですが、「過去の著作でのさまざまな論点がプエルトリコという小さな島国において一点に集まることを示している点で、彼女の活動のエッセンスを凝縮した著作であるとも言える」(124頁)と訳者解説にあります。新書より少し左右幅がある手になじみやすいサイズと、プラスティックのカバーが美しい1冊。


★『大洪水の前に』は、昨年のドイッチャー記念賞を日本人で初めて、しかも最年少で受賞した斎藤幸平(さいとう・こうへい:1987-)さんのデビュー作。あとがきによれば、博士論文『Natur gegen Kapital』(Campus, 2017)とその英語版でドイッチャー賞受賞作『Karl Marx's Ecosocialism』(Monthly Review Press, 2017)を下敷きにし、「その後に刊行された論文も加えて、日本の読者に合わせて全体の流れを整えるための加筆・修正を行なった日本語版オリジナル版」とのことです。長きにわたり過小評価されてきたマルクスのエコロジーに光を当てた快作。版元さんの販売サイトではウェブ限定で、4種類の瀟洒な函入クロス装の特装版やサイン本が販売されています。



★『黒い匣』は『Adults In The Room: My Battle with Europe's Deep Establishment』(Vintage, 2017)の訳書。ギリシアの元財務大臣で経済学者のヤニス・バルファキス(Yanis Varoufakis, 1961-)のベストセラー『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(関美和訳、ダイヤモンド社、2019年3月;『Talking to My Daughter about the Economy』Vintage, 2017)に続く、単独著の2冊目の訳書です。日本語版序文で彼はこう書いています。「本書に綴られたのは〔…〕終わりなき悪夢の物語であり、何より、ギリシャの人々が債務の束縛に対して2015年の1月から7月にかけて抵抗の声を上げた、半年間の反乱の実録である。〔…〕本書で私は、この反乱の物語をありのままに綴った。〔…〕すべてを余すところなく、ゾッとするほどの詳細さをもって記述した。/残念ながら、本書の結末はハッピーエンドではない。結局、ギリシャの人びとの果敢な反乱は、多国籍の寡頭支配層(オリガルヒ)と、あろうことか相手方に寝返った戦友たちによって鎮圧されたからだ。本書が読者のみなさんに提供できるものは、現在の世界で権力がいかに(おぞましい仕方で)行使されるのかについての洞察と、苦々しい結末にもかかわらず傷つくことなく残された希望であろう」(10頁)。大著ですがドラマティックな展開に読者を強く惹きつけ、飽きさせません。



★なお今月下旬には、バルファキスの論考「ヨーロッパを救うひとつのニューディール」を掲載したアンソロジー『「反緊縮! 」宣言』(松尾匡編、亜紀書房、2019年5月)が発売されます。また、3月に発売された『ele-king臨時増刊号 黄色いベスト運動』の巻末ブックガイドによれば、バルファキスの『And the Weak Suffer What They Must?』(Vintage, 2016)の訳書がele-king booksより刊行予定です。


★『監視文化の誕生』は『The Culture of Surveillance: Watching as a Way of Life』(Polity, 2018)の全訳。「文脈における文化」「文化の潮流」「共創――文化、倫理、政治」の3部6章+序章構成。序章「「監視文化」の形成」でライアンはこう書いています。「観察されることだけでなく観察自体が生活様式となったのだ。オーウェルの小説〔『一九八四年』〕の登場人物たちは、いつ見られているのか、なぜ見られているのかが定かでない中で、びくつきながら辛く生きている。しかし今日の監視を可能にしているのは、私たちがウェブ上のクリックであったり、メッセージや写真のやりとりであったりするのだ。かつてないほど、普通の人々が、監視に貢献している。利用者自らが作り出すコンテンツ(UGC = User-generated Content)が、日々観察されるデータを生みだしている。このように「監視文化」が形作られている」(8~9頁)。


★「「監視文化」という概念で私は、人類学者が研究対象にするような物事を想定している。例えば、慣習やふるまい、物の見方、世界の解釈の仕方なのだ。焦点を当てたいのは、国際諜報機関の蛸のような触手や、捜査ネットワークや、企業マーケティングの微妙でそそる呼び声よりもむしろ、日常生活の中の監視である。その意味で「監視文化」は、監視がいかに想像され経験されるか、散歩やドライブ、メッセージのチェック、買物や音楽鑑賞といった日常行為がいかに監視によって影響を受け、逆に監視に影響を与えているか、といったことに関わる。さらに、監視に親しんでいる人や、監視に慣れた人が、いかに監視を開始しそれに関与しているのか、といったことも」(9頁)。ライアンは「今日出現しつつある「監視文化」は、空前のものである」と指摘します。ポスト・オーウェル時代のこの社会のありようについて、現代人はもっと知るべきであると強く思います。


★最後に藤原書店さんの4月新刊4点をご紹介します。


『セレモニー』王力雄著、金谷譲訳、藤原書店、2019年4月、本体2,800円、四六上製448頁、ISBN978-4-86578-222-6
『中国が世界を動かした「1968」』楊海英編、梅﨑透/金野純/西田慎/馬場公彦/楊海英/劉燕子著、藤原書店、2019年4月、本体3,000円、四六判上製328頁、ISBN978-4-86578-218-9
『開かれた移民社会へ――別冊『環』24』宮島喬/藤巻秀樹/石原進/鈴木江理子編、藤原書店、2019年4月、本体2,800円、菊大判並製312頁、ISBN978-4-86578-221-9
『石牟礼道子と芸能』石牟礼道子/赤坂憲雄/赤坂真理/池澤夏樹/いとうせいこう/今福龍太/宇梶静江/笠井賢一/鎌田慧/姜信子/金大偉/栗原彬/最首悟/坂本直充/佐々木愛/高橋源一郎/田口ランディ/田中優子/塚原史/ブルース・アレン/町田康/真野響子/三砂ちづる/米良美一著、藤原書店、2019年4月、本体2,600円、四六判上製304頁、ISBN978-4-86578-215-8



★『セレモニー』は中国の反体制作家、王力雄(ワン・リーション:Wang Lixiong, 1953-)さんの「政治ファンタジー小説」だという『大典』の全訳。台湾では2017年に出版されたものの、中国での発売は「現状ではできない」(訳者あとがき)とのこと。巻頭の推薦文「インターネット、I‌T技術と独裁体制」を寄せた神戸大学教授の王柯(おう・か:1956-)さんは本作を「リアルなドラマであり、今日の中国を彷彿させる」(2頁)と評価しています。「最新のIT技術によって武装されている警察国家はたとえ長く続いても、いずれ本書が予言したように崩壊するであろう」(6頁)とも。帯文には「インターネット時代の『一九八四年』」と謳われています。


★『中国が世界を動かした「1968」』は、「“世界史における1968年”と文革を考察する」(帯文より)論文集。2018年7月14日に静岡大学人文社会科学部アジア研究センターと学習院女子大学国際学研究所が合同開催した国際シンポジウムでの成果をまとめたもの。「中国の文化大革命」と「世界革命」の2部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。編者の楊海英(よう・かいえい:1964-)さんは序章「我が宗主国・日本の「1968年」と世界――植民地出身者の視点」と、第4章「文化大革命中のモンゴル人ジェノサイド――中国政府の善後処理まで」を担当されています。


★『開かれた移民社会へ』は2014年に『別冊『環』20』として刊行された『なぜ今、移民問題か』に続くアンソロジー。藤原良雄さんの編集後記によれば「〔20号は〕移民問題の本質を問うたものだったが、今回は、現状を分析した上で、これからの移民社会をどう構築してゆけばいいのか、研究者をはじめ、移民の一世、二世、又ペルーの日系移民の帰国者など多様な方々の生の声を反映させた」とのことです。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。先月から施行された改正入管法に関して、本書のほかに人文書院より論文集『移民政策とは何か――日本の現実から考える』が刊行されています。併せて読むべきかと思われます。



★『石牟礼道子と芸能』はアンソロジー。『環』誌などに寄稿されてきた石牟礼さん自身のエッセイ6篇や、石牟礼さんへの著名人15名の追悼文、田中優子さん、町田康さん、高橋源一郎さん、田口ランディさんらの講演録(2013~2018年)、シンポジウム2本「石牟礼道子の宇宙」(2017年)、「今、なぜ石牟礼道子か」(2015年)などの記録を収録。目次詳細は書名のリンク先にてご確認いただけます。


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取次搬入日確定:ラミング『私の肌の砦のなかで』

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弊社5月新刊、ジョージ・ラミング『私の肌の砦のなかで』吉田裕訳、の取次搬入日が確定いたしました。日販、トーハン、大阪屋栗田、いずれも明日14日です。弊社はパターン配本(見計らい送品)は行っておらず、事前にご発注いただいた書店様にのみ配本しております(弊社からの新刊案内は、FAXやEメールでお送りしております。ご入用の書店様は弊社までお申し付けください)。叢書・エクリチュールの冒険の第13回配本です。着店は17日(金)以降、順次となるかと思われます。造本設計は北田雄一郎さん。カバー表1の書名は金箔をあしらっています。ジョージ・ラミング(Geroge Lamming, 1927-)はバルバドスの作家。『私の肌の砦のなかで』は1953年に刊行されたデビュー作の小説で、カリブ文学の古典的作品です。


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「美術手帖」2019年6月号に筧菜奈子『ジャクソン・ポロック研究』の書評

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5月7日発売の「美術手帖」2019年6月号のBOOK欄に、弊社3月刊、筧菜奈子『ジャクソン・ポロック研究ー―その作品における形象と装飾性』の短評が掲載されました。評者は中島水緒さんです。「作品と言説をとらえ直すための新たな視座をもたらす」と評していただきました。なお同書は「月刊美術」5月号(サン・アート発行、実業之日本社発売)や「美術の窓」5月号(主婦の友社)の新刊案内欄でも紹介されています。

月曜社全点フェア@早稲田大学生協戸山店、関連イベントあり

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早稲田大学文学部キャンパス内の早稲田大学生協戸山店で、昨日よりひとつきほど、「月曜社全点フェア」を開催していただいています。単独の全点フェアは久しぶりのことで、たいへん光栄です(2007年に関西学院大学生協書籍部さんで、2012年に東京堂書店神田神保町店でやっていただいたことがあります)。弊社は人文書や芸術書、文芸書などを手掛けていますが、全点を一望していただく機会はめったにありません。ぜひこの機会をご活用いただけると幸いです。すべて1冊ずつ納品しています。売れた本は補充する予定です。品切本は初回には納品できていませんが、倉庫から見つかれば出荷したいです。


また、関連イベントとして今月末、「店頭にお邪魔します会」を開催します。一文92年卒の取締役小林浩が戸山店さんにお邪魔し、フェアを企画して下さったMさんと一時間ほど棚前で立ち話をするという無料イベントです。出版社への就職をお考えになっておられる学生さんにとって参考にしていただけるようなお話しができればと思っています。ご参加いただいた方全員とぜひお話ししたいので、どうぞよろしくお願いいたします。


◉月曜社全点フェア
日時:2019年5月13日(月)~6月21日(火)
場所:早稲田大学生協戸山店


◉店頭にお邪魔します会
日時:2019年5月31日14時30分(3限目終わり)~
場所:早稲田大学生協戸山店「月曜社全点フェア」棚前
出演:小林浩(月曜社取締役)


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2刷出来:甲斐義明編訳『写真の理論』

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ジョン・シャーカフスキー、アラン・セクーラ、ロザリンド・クラウス、ジェフ・ウォール、ジェフリー・バッチェンらの写真論を収録したアンソロジー『写真の理論』(甲斐義明編訳、月曜社、2017年10月)の2刷が5月10日にできあがりました。60年代から00年代までの論考5篇を収めています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。どうぞよろしくお願いいたします。


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保管:2018年3月~2018年5月既刊情報

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◎2018年5月22日発売:荒木優太『仮説的偶然文学論』本体2,000円、哲学への扉第1回配本。
 高原到氏書評「偶然のもたらす妙なる僥倖」(「週刊金曜日」2018年7月6日号(1191号)「きんようぶんか」欄)
◎2018年4月24日発売:岡田聡/野内聡編『交域する哲学』本体3,500円
◎2018年4月23日発売:『表象12:展示空間のシアトリカリティ』本体2,000円
◎2018年4月5日発売:ジャン=リュック・ナンシー『ミューズたち』本体2,700円、芸術論叢書第5回配本。
 渡名喜庸哲氏書評「「芸術の終焉」の後の「(諸)芸術」の可能性――複数の読者に開かれた書 新たなナンシー像を伝える」(「週刊読書人」2018年6月29日号)
◎2018年3月16日発売:佐藤真理恵『仮象のオリュンポス』本体3,400円、シリーズ・古典転生第17回配本、本巻16。

注目新刊:チェア/ウィリアムズ『アウシュヴィッツの巻物 証言資料』、ほか

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『アウシュヴィッツの巻物 証言資料』ニコラス・チェア/ドミニク・ウィリアムズ著、二階宗人訳、みすず書房、2019年5月、本体6,400円、A5判上製416頁、ISBN978-4-622-08703-8
『現代「液状化社会」を俯瞰する――〈狂気の知者〉の饗宴への誘い』ウンベルト・エコ著、谷口伊兵衛/G・ピアッザ訳、而立書房、2019年5月、本体2,400円、A5判上製224頁、ISBN978-4-88059-413-2 
『理性の病理――批判理論の歴史と現在』アクセル・ホネット著、出口剛司/宮本真也/日暮雅夫/片上平二郎/長澤麻子訳、法政大学出版局、2019年5月、本体3,800円、四六判上製326頁、ISBN978-4-588-01093-4
『インフラグラム――映像文明の新世紀』港千尋著、講談社選書メチエ、2019年5月、本体1,700円、四六判並製256頁、ISBN978-4-06-516217-0


★『アウシュヴィッツの巻物 証言資料』は『Matters of Testimony: Interpreting the Scrolls of Auschwitz』(Berghahn Books, 2016)の全訳。「本書は、ビルケナウ強制収容所の死体焼却施設の作業に従事したゾンダーコマンド〔特別作業班〕の班員たちが、70年以上前に書き記した一連の手書き文書を取り上げたものである。これらの文書は一般に「アウシュヴィッツの巻物」と呼ばれ、書かれた後、いつの日か堀り出されて日の目を見ることを願って、灰や土の下に入念に埋めて隠された。死体焼却施設〔クレマトリウム〕の敷地はその結果、ほかに類をみない蛮行の記録を保存する最初の現場となった」(まえがきより)。


★「こうした文書を書くことはたんなる一個人の仕事ではなかった。それが書かれるために必要なさまざまな文具、すなわち紙、ペン、インクは、強制収容所内での物々交換や取引のネットワークを通じたいわゆる組織化によって入手しなければならなかった。同時に、埋めた文書を保存する容器、すなわちここで言及されている広口瓶や箱を見つけてくるのは共有された仕事であった」(131~132頁)。ゾンダーコマンドの一人、ザルマン・グラドフスキはこう綴っています。「われわれは自分たちの感受性を麻痺させ、あらゆる悲痛な思いを鈍らせなければならない。われわれは体のいたるところを吹き抜ける暴風のような恐怖心を強い意志で克服しなければならない。われわれはなにも見ず、なにも感じず、なにも理解しないロボットと化さなければならない」(121頁)。2019年に刊行された本の中でももっとも重要な一冊となる予感がします。


★『現代「液状化社会」を俯瞰する』はエコ(エーコとも)の「最後の遺著」(訳者あとがき)である『Pape Satàn Aleppe. Cronache di una società liquida』(La nave di Teseo, 2016)の抄訳。原書は週刊『エスプレッソ』誌の連載コラム「ミネルヴァの知恵袋」をまとめたもので、抄訳では50篇強が収められています。過去に同コラムをまとめた書籍の訳書としては『歴史が後ずさりするとき――熱い戦争とメディア』(リッカルド・アマデイ訳、岩波書店、2013年)がありました。今回の訳書では、『開かれた作品』(篠原資明/和田忠彦訳、青土社、1984年;新新装版2011年)では訳出されていなかった「禅と西欧――アラン・W・ワッツ『禅の精神』への注記」が付論として掲載されており、さらにエコ研究の第一人者トマス・シュタウダーさんによる解説「燦然たる輝き――現代版農学者の独創的な思考実験」が付されています。


★『理性の病理』は『Pathologien der Vernunft: Geschichte und Gegenwart der Kritischen Theorie』(Suhrkamp, 2007)の全訳。巻頭に「日本語版への序文」が置かれています。「フランクフルト学派のアプローチにとって固有なものが、他の理論との差異においていったいどの点にあったのかを、より深い地点から掘り起こし、より正確に詳らかにすること〔…〕このことの探究の成果が、この本に収められている論文の数々なのです。すなわち、私はそこで、フランクフルトのメンバーたちをある考え方が束ねていた、というテーゼを素描しようとしたのです。つまり、歴史が展開していった結果、資本主義的な経済関係が確立するとともに、社会のあり様全体に目をやれば「理性の社会的病理」と言えるような、そうした状態に陥っているという考え方です」(iv頁)。「この社会形式は、ただ道具的な合理性だけ、あるいは機能的合理性だけしか許さないがために、私たちの理性の能力の「病理」を蔓延させてしまうのです」(同頁)。「合理性のこの新しい」形式はただ、私たちの理性を不完全なかたちでのみ、つまり制限された状態でのみ発揮することしか許さない」(v頁)。批判理論の「可能性としてのアクチュアリティ」(序言、1頁)に迫る好著。


★『インフラグラム』は講談社選書メチエの702番。「本書は地球を覆うにいたった映像の文明を眼差しの歴史として考える試みである」(はじめに、4頁)。「扱う範囲は、およそ写真が発明された19世紀前半から今日までになるが、特に社会の情報化が進みデジタルメディアが日常生活を大きく変えてゆく、1990年代以降に焦点を当てている。2010年代に始まるスマートフォンの爆発的な成長と、映像やメッセージの拡散と共有文化の拡大は、コミュニケーションのありかたを変えてきたが、そこで映像の生産と消費は区別できないほど一体化している。私たちの生活は、かつてアルビン・トフラーが予見した「生産消費者」のそれに近い。/その生活に欠かせないのがカメラである。〔…〕いまや地球全体が無数の「瞬かない眼」に見つめられていると言ってもいい」(同頁)。「情報化社会のインフラとなった写真や映像を、わたしは「インフラグラム」と呼ぶ。〔…〕インフラ化とはすなわちブラックボックス化である。インフラグラムは映像のブラックボックス化を伴う」(70頁)。『映像論』(NHK出版、1998年)から20年、昨年上梓された『風景論――変貌する地球と日本の記憶』(中央公論新社、2018年)とともにひもときたい1冊です。とりわけ出版人や書店人はインフラグラムの時代における書籍編集、書籍販売とは何か、読書とは何か、を考えるために、時代背景を本書から学んでおくべきかと思われます。


★続いて最近の注目新刊を列記します。


『パイドン』プラトン著、納富信留訳、光文社古典新訳文庫、2019年5月、本体920円、文庫判330頁、ISBN978-4-334-75402-0
『千霊一霊物語』アレクサンドル・デュマ著、前山悠訳、光文社古典新訳文庫、2019年5月、本体1,020円、文庫判404頁、ISBN978-4-334-75400-6
『法水麟太郎全短篇』小栗虫太郎著、日下三蔵編、河出文庫、2019年5月、本体1,100円、文庫判456頁、ISBN978-4-309-41672-4
『まちの本屋――知を編み、血を継ぎ、地を耕す』田口幹人著、ポプラ文庫、2019年5月、本体660円、文庫判207頁、ISBN978-4-591-16300-9
『ファウスト 悲劇第一部』ゲーテ著、手塚富雄訳、中公文庫、2019年5月、本体1,400円、文庫判472頁、ISBN978-4-12-206741-7
『ファウスト 悲劇第二部』ゲーテ著、手塚富雄訳、中公文庫、2019年5月、本体1,600円、文庫判640頁、ISBN978-4-12-206742-4
『戦後と私・神話の克服』江藤淳著、中公文庫、2019年5月、本体1,000円、文庫判320頁、ISBN978-4-12-206732-5



★まず光文社古典新訳文庫より2点。『パイドン』は古典新訳文庫でのプラトン新訳の6点目。「ソクラテス最期の日、獄中で弟子たちと対話する、プラトン中期の代表作」(カバー表4紹介文より)。ソクラテスが魂の不死について訪問者たちと縦横に語り合い、最後に従容として毒杯を仰いで死ぬという胸打つ場面までを、若い弟子のパイドンが思い出して語るという形式で描かれた、名編です。訳者による側注と補注を合わせると470項目もあり、さらには50頁を超える巻末解説が付されています。文庫で入手可能な『パイドン』の既訳には岩田靖夫訳(岩波文庫、1998年、在庫僅少)があります。



★『千霊一霊物語』は1849年の『Les Mille et Un Fantômes』の初訳。もともとは「コンスティテュショネル」紙での連載で、かの『千夜一夜物語』に倣い、語り手であるデュマによって奇譚の数々が披露されます。語りの中の語り手の語り、さらにその語りの中の語り手の語り、というような入れ子構造が見られるのも『千夜一夜物語』に似ています。そもそも『千夜一夜物語』は幼少期のデュマの愛読書だったそうです。


★『法水麟太郎全短篇』は河出文庫での小栗虫太郎本の5点目。かの『黒死館殺人事件』『二十世紀鉄仮面』(河出文庫でそれぞれ2008年、2017年に刊行済)の名探偵、法水麟太郎(のりみず・りんたろう)が登場する短篇8作をまとめたもの。収録作は以下の通り。「後光殺人事件」「聖アレキセイ寺院の惨劇」「夢殿殺人事件」「失楽園殺人事件」「オフェリヤ殺し」「潜航艇「鷹の城」」「人魚謎お岩殺し」「国なき人々」。巻末の編者解説によれば、河出書房新社のシリーズ「レトロ図書館」より『小栗虫太郎エッセイ集成(仮)』が刊行予定とのことです。


★『まちの本屋』はポプラ社より2015年に刊行された単行本を加筆修正して文庫化したもの。主要目次は以下の通り。


文庫版はじめに
第1章 僕はまちから本屋を消した
第2章 本屋はどこも同じじゃない
第3章 一度やると本屋はもうやめられない
第4章 本屋には、まだまだできることがある
第5章 まちの本屋はどこへ向かうべきなのか
その後の『まちの本屋』
文庫版あとがき


★「その後の『まちの本屋』」が新規の書き下ろし。「これから僕は、書店が書店として存在し続けられる「仕組み」をつくる仕事をしていきたいと思っています」(201頁)と書いた田口さんは現在、某取次にお勤めです。3月の某「ホワイエ」のツイートにご登場。文庫版あとがきにはこう書かれています。「個人書店がつぶれるのは大型書店やネット書店のせいなどと、誰かのせいにしていても何の解決にもならない。〔…〕それぞれの会社や店の軸がどこにあるのか。〔…〕本の未来に寄り添い続ける、強い本屋がつくりたい」(204頁)。



★『ファウスト』第一部、第二部は、中公文庫プレミアム「知の回廊」の最新刊でまもなく発売。旧版(全3分冊、1974~1975年、第一部全1巻、第二部は全2巻)はしばらく第二部が品切になっていましたが、今般第二部上下巻を合本して、第一部と第二部で全2巻本として新組で再刊されます。第一部には訳者の手塚さんによる「解説――一つの読み方」のほかに、巻末エッセイとして、河盛好蔵さんによる「渾然たる美しい日本語」と、福田宏年さんによる「自然に胸にしみいる翻訳」を掲載。これは親本である1971年の『ファウスト 悲劇(全)』の月報から採ったもの。第二部には巻末エッセイとして中村光夫さんによる「『ファウスト』をめぐって」が収められています。こちらは筑摩書房版『中村光夫全集』第10巻から採ったもの。現在も入手可能な文庫で読めるゲーテ『ファウスト』には、相良守峯訳全2巻(岩波文庫、1958年)、 高橋義孝訳全2巻(新潮文庫、1967年)、柴田翔訳全2巻(講談社文芸文庫、2003年)、池内紀訳全2巻(集英社文庫ヘリテージ、2004年)などがあります。


★『戦後と私・神話の克服』はまもなく発売。没後20年の文庫オリジナル編集で、3部構成に11篇を収めた批評・随筆集です。目次は以下の通り。



文学と私
戦後と私
場所と私
文反古と分別ざかり
批評家のノート

伊藤静雄『反響』
三島由紀夫の家
大江健三郎の問題
神話の克服

現代と漱石と私
小林秀雄と私
解説 江藤淳と「私」(平山周吉)


★「批評家のノート」は、自選著作集『新編 江藤淳文学集成』(全5巻、河出書房新社、1984~85年)の各巻のあとがきである「著者のノート」を改題して同文庫で初めてまとめたもの。中公文庫での江藤さんの単独著は今回が初めての刊行となります。


★なお中公文庫の来月新刊ではマラパルテの『クーデターの技術』(手塚和彰/鈴木純訳、中公選書、2015年)が「註釈を増やして」文庫化される模様です。


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ブックツリー「哲学読書室」に斎藤幸平さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『大洪水の前に――マルクスと惑星の物質代謝』(Νυξ叢書、堀之内出版、2019年4月)の著者、斎藤幸平さんによるコメント付き選書リスト「マルクスと環境危機とエコ社会主義」が「哲学読書室」が追加されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。


◎哲学読書室
1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」

2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」

27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」

29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」

30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
39)山井敏章(やまい・としあき:1954-)さん選書「資本主義史研究の新たなジンテーゼ?」
40)伊藤嘉高(いとう・ひろたか:1980-)さん選書「なぜ、いま、アクターネットワーク理論なのか」
41)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん選書「映画論で見る表象の権力と対抗文化」
42)門林岳史(かどばやし・たけし:1974-)さん選書「ポストヒューマンに抗して──状況に置かれた知」
43)松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さん選書「イスラムがもっと「わからなく」なる、ナマモノ5選」
44)森田裕之(もりた・ひろゆき:1967-)さん選書「ドゥルーズ『差異と反復』へ、そしてその先へ」
45)久保田晃弘 (くぼた・あきひろ:1960-)さん選書「新たなる思考のためのメタファーはどこにあるのか?」
46)亀井大輔(かめい・だいすけ:1973-)さん選書「「歴史の思考」へと誘う5冊」
47)須藤温子(すとう・はるこ:1972-)さん選書「やわらかな思考、奇想の知へようこそ!」
48)斎藤幸平(さいとう・こうへい:1987-)さん選書「マルクスと環境危機とエコ社会主義」


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注目新刊:アガンベン『オプス・デイ』、大谷能生『平成日本の音楽の教科書』、ほか

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★ジョルジョ・アガンベンさん(著書『アウシュヴィッツの残りのもの』『バートルビー』『瀆神』『思考の潜勢力』『到来する共同体』)
「ホモ・サケル」シリーズ第Ⅱ部第5巻の『Opus Dei. Archeologia dell'ufficio. Homo sacer II, 5』(Bollati Boringhieri, 2012)の訳書が以文社さんからまもなく発売となります(5月24日取次搬入予定)。オプス・デイ(神のわざ)は「典礼」を意味するカトリック教会の専門用語です。


オプス・デイ――任務の考古学
ジョルジョ・アガンベン著 杉山博昭訳
以文社 2019年5月 本体3,800円 四六判上製viii+264頁 ISBN978-4-7531-0353-9
帯文より:なぜ、倫理は義務となったのか? カント以来の現代倫理に導入された、負債と徳性に基づく「義務」の無限性。キリスト教における任務=聖務、典礼への考察を通じて、当為(べき)と命令(せよ)から構成される存在の統治を明らかにする、ジョルジョ・アガンベン「ホモ・サケル」シリーズの1冊。


目次:
端書
1 典礼と政治
 閾
2 秘儀から効果へ
 閾
3 任務の系譜学
 閾
4 ふたつの存在論、あるいは、いかに義務は倫理になったのか
 閾

訳者あとがき


端書より:「任務という概念は、存在論のカテゴリーと実践をめぐるカテゴリーの決定的な変換を指し示す。この変換の重要性についてはさらなる評価がまたれる。ただ任務のもとで存在と実践は、言い換えるなら、人間が在ることと人間が為すことは、不分明なひとつの圏域に入る。この圏域のなかで、存在は実際的効果にとって解体されるだけに留まらない。完全なる循環性のもと、存在は在らなければならないものであり、かつ、存在は在るものでなければならなくなる。有為性と実効性が存在論的パラダイムを定義するのは、この意味においてである。世俗的プロセスをかいして、このあらたなパラダイムは古代哲学のパラダイムに取って代わるだろう。つまるところ、在ることについてもはたらくことについても、今日のわたしたちが手にする表象は実効性のほかになにもない。これが本書の提示する考察の主題である。現実とはたんに有効ななにかである。現実とは統治するものである。現実とは効力のあるものである。現実とは任務をして、官僚のつつましい服装や祭司の栄光に満ちた法衣のもとに、倫理学だけでなく形而上学の規則さえも完全に転倒させてしまうほどの効果を上げるものである」(iii-iv頁)。


★大谷能生さん(著書『貧しい音楽』)
新曜社さんのシリーズ「よりみちパン!セ」より、単独著と共著が今月同時発売されました。内容紹介文や目次は書名のリンク先でご確認いただけます。


平成日本の音楽の教科書
大谷能生著
新曜社 2019年5月 本体1,600円 四六判並製288頁 ISBN978-4-7885-1613-7
まえがきより:この本では、おもに平成時代の音楽の教科書をたどりながら、また、随時、文部科学省の「教育指導要領」を参考にしながら、その内容を確認し、わたしたちの「音楽」と「教科書」というものがどのように関係しているのか、そして、それをどのように使えば、つまり、それをどのように教えて、あるいはどのように教われば、「音楽」を自分たちのものとして演奏したり、聴くことができるようになるのか。そんなことについて考えてみることを、ひとつの目標にしました」(6~7頁)。


身体と言葉(ことばとからだ):舞台に立つために──山縣太一の「演劇」メソッド
山縣太一+大谷能生著
新曜社 2019年5月 本体1,500円 四六判並製240頁 ISBN978-4-7885-1612-0
山縣太一(チェルフィッチュ)さんのまえがきより:誰もが身体を使って生きています。言葉の葉っぱも身体から生えます。そして演劇では言葉と身体は音や明かりや舞台美術よりも大事なんです。そんな僕のたどりついた演劇の可能性を本にしました。この本は僕の演劇のパートナー、僕の表現の理解者である大谷能生さんといっしょに作りました」(3~4頁)。


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