「図書新聞」2018年12月8日号に弊社8月刊、マラルメ『詩集』(柏倉康夫訳)についての書評「ジャーナリズムへと戻る回路――長年のマラルメ研究に一つの区切り」が掲載されました。評者は早稲田大学政治経済学術院の岡山茂教授です。
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「図書新聞」にマラルメ『詩集』の書評
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注目新刊:『HAPAX 10 ニーチェ』夜光社、ほか
『HAPAX 10 ニーチェ』夜光社、2018年11月、本体1,500円、四六判変形218頁、ISBN978-4-906944-16-3
『現代思想2018年12月号 特集=図書館の未来』青土社、2018年11月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1374-5
★『HAPAX』の記念すべき第10号はニーチェ特集で、今までで最大のヴォリュームです。特集への寄稿者は、鈴木創士、榎並重行(インタヴュー)、江川隆男、馬研究会、無回転R求道者達、混世博戯党、world's forgotten boy、ダニエル・コルソン、山本さつき、白石嘉治、の各面々。マルクスでもフロイトでもなくニーチェというのが絶妙です。特集の最初の頁には「ニーチェこそはアナーキーの極限であり、それ自身、たえざる蜂起であるからだ」と趣旨が述べられています。また、表紙ではHAPAXの二つ目のAとNietzscheのzのみが赤く塗られていて、ニーチェをめぐる思考の運動が示すふり幅の広さ(Aからzまで)を表しているかのようです。もっとも多くページが割かれているのは『ニーチェって何?――こんなことをいった人だ 』(新書y、2000年)や『ニーチェのように考えること――雷鳴の轟きの下で』(河出書房新社、2012年)の著者、榎並重行(えなみ・しげゆき:1949-)さんへの今年5月ないし6月に行われたHAPAX誌によるロング・インタヴュー「耳障りな声で――ある快楽懐疑者からの挨拶」。なお巻頭には「二人のギリシャのアナキスト」の談話とフランスの「革命的官能委員会」の論考を翻訳。ヨーロッパのアクティヴィズムの息遣いに触れることができます。
★なお、夜光社さんが6月に創刊した「民衆詩叢書」の第1弾、崔真碩『サラム ひと』の朗読ライブが以下の通り開催されるとのことです。
◎アサイラム ひと――詩集『サラム ひと』朗読ライブ
朗読と音楽:チェ・アンド・ザ・ヤコーシャ・ゴースト・ブルース・バンド/崔真碩(野戦之月)/行友太郎(中国文芸研究会)/相澤虎之助(空族)
日時:2018年12月15日(土曜日)午後5時開演
場所:イレギュラー・リズム・アサイラム(新宿区新宿1-30-12-302)
料金:投げ銭
★『現代思想』2018年12月号の特集は「図書館の未来」。同誌が「図書館」を特集名に冠するのはおそらく初めてのことではないでしょうか。「大学」について盛んに言及してきた同誌にとってみれば遅かれ早かれ着手しなければならなかった主題ではあるはずでしたから、注目すべき特集号です。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。個人的に特に興味深かったのは、新出「“公共”図書館の行方」、呑海沙織「多様性を許容する図書館――認知症にやさしい図書館について考える」、福島幸宏「これからの図書館員像――情報の専門家/地域の専門家として」など。福島さんは論考の末尾でこう述べておられます。「この特集全体が全力で主張しているように、「図書館の未来」は今の路線の先にはないことだけははっきりしている。「〈図書館員〉の未来」もまた同様であり、10年先の状況はだれにも不明である」。結論ありきではない各現場の苦闘と呻吟と希望を垣間見ることのできる良い特集号だと感じました。
★続いてここ最近に出会った新刊を列記します。
『静寂と沈黙の歴史――ルネサンスから現代まで』アラン・コルバン著、小倉孝誠/中川真知子訳、藤原書店、2018年11月、本体2,600円、四六変判上製224頁、ISBN978-4-86578-199-1
『都市のエクスタシー』山田登世子著、藤原書店、2018年11月、本体2,800円、四六判上製328頁、ISBN978-4-86578-200-4
『メディア都市パリ』山田登世子著、藤原書店、2018年11月、本体2,500円、四六判上製320頁、ISBN978-4-86578-201-1
『芸の心――能狂言 終わりなき道』野村四郎/山本東次郎著、笠井賢一編、藤原書店、2018年11月、本体2,800円、四六判上製240頁、ISBN978-4-86578-198-4
『新装版 古代エジプト語基本単語集――初めてのヒエログリフ』西村洋子編著、平凡社、2018年11月、本体2,800円、A5判並製260頁、ISBN978-4-582-12727-0
★藤原書店さんの11月新刊は4点。コルバン『静寂と沈黙の歴史』は『Histoire du silence : De la Renaissance à nos jours』(Albin Michel, 2016)の全訳。「本書において、かつての静寂をよびおこし、静寂の探求、その手触り、規律、戦略、豊かさのありさまを描き出し、沈黙の言葉の力について述べることは、静黙することを、すなわち己であることを学び直すのに役立つかもしれない」(13頁)とコルバンは述べています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。訳者によれば本書は同氏が訳した『音の風景』(藤原書店、1997年)と対をなす姉妹篇と言えるだろうとのことです。本書の締めくくりとして、19世紀フランスの詩人ルコント・ド・リールの詩篇「世を破壊せん」が引かれているのが印象的です。
★山田登世子さんの2点『都市のエクスタシー』『メディア都市パリ』は、前者が8月刊『モードの誘惑』に続く単行本未収録論考集の第2弾。「異郷プロムナード」「メディア都市」「わたしの部屋」「世相を読む 2010-2016」「人物論」の5部構成。「日経新聞」夕刊に2000年の夏から冬にかけて連載された「プロムナード」や、「中日新聞」に2010年から2016年にかけて連載された「中日新聞を読んで」がまとまっているほか、様々な媒体で発表された論考やエッセイを読むことができます。人物論では、内田義彦、阿久悠、今村仁司、中沢新一、今福龍太の各氏が論じられています。内田さんをめぐっては6篇。
★後者『メディア都市パリ』は、1991年に青土社から単行本が刊行され、1995年にちくま学芸文庫の一冊として再刊されたものの、再度の単行本化。巻末の編集部付記には「文庫版の「後書き」と「解説」は収録していない」と特記されています。この文庫版解説というのは蓮實重彦さんによるもの。今回の藤原書店版の解説「『メディア都市パリ』――きまじめな解説」を書かれているのは、山田さんとも蓮實さんとも交友のある工藤庸子さん。工藤さんならでは視点からなされた、山田さんの「同時代的な〈批評〉の営み」に参画しようという秘かな野心」が本書に隠されている、との指摘は重要ではないでしょうか。工藤さんは羽鳥書店の「ハトリショテンだより」におけるウェブ連載「人文学の遠めがね」第14回「女のエクリチュール」(2018年11月2日)でも『メディア都市パリ』巻末の「ほんとうの後書き」(今回の藤原書店版にも収録)に言及されています。
★藤原書店さんの4点目『芸の心』は、観世流シテ方の野村四郎(のむら・しろう:1936-)さんと大蔵流狂言方の山本東次郎(やまもと・とうじろう:1937-)さんの対談本。編集部による「はじめに」に曰く「本書は、名実ともに現在の能界と狂言界を代表する訳者である〔…〕お二人が、三夜にわたって語り合った対話の記録である」と。2017年3月から同年4月にかけて収録。巻末には笠井賢一さんによる「補論 能・狂言の歴史」と「舞台作品解説」が付されているほか、家系図も掲載されています。山本さんは第三夜で「嫌いだった狂言が60歳近くになって大好きになり、いろんなことが見えてくるようになりました」(164頁)と発言されています。人生観というものが端的に表れた、味わい深い対談です。
★平凡社さんの新刊『新装版 古代エジプト語基本単語集』は1998年の初版、2004年の2刷を経ての新装版です。帯文に曰く「日本語で引ける初めての辞書」、「主要な文学作品や碑文に頻出する基本的な単語1324を収録」と。和文索引もあります。なお編著者の西村さんが運営するウェブサイト「古代エジプト史料館」は、Yahoo!ジオシティーズが2019年3月末でサービス提供終了のため閉鎖予定だとのことです。
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★続いてここ二か月ほどで注目してきた新刊をいくつか列記します。
『制度とは何か──社会科学のための制度論』フランチェスコ・グァラ著、瀧澤弘和監訳、水野孝之訳、慶應義塾大学出版会、2018年11月、本体3,200円、四六判上製352頁、ISBN978-4-7664-2565-9
『記憶の社会的枠組み』モーリス・アルヴァックス著、鈴木智之訳、ソシオロジー選書:青弓社、2018年11月、本体4,800円、A5判上製416頁、ISBN978-4-7872-3443-8
『壁の向こうの住人たち――アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』A・R・ホックシールド著、布施由紀子訳、岩波書店、2018年10月、本体2,900円、四六並製464頁、ISBN978-4-00-061300-2
『神学提要』トマス・アクィナス著、山口隆介訳、知泉学術叢書:知泉書館、2018年10/11月、本体6,000円、新書判上製522頁、ISBN978-4-86285-283-0
★『制度とは何か』は『Understanding Institutions: The Science and Philosophy of Living Together』(Princeton University Press, 2016)の全訳。イタリアの哲学者で実験経済学者のフランチェスコ・グァラ(Francesco Guala, 1970-)の、『科学哲学から見た実験経済学』(川越敏司訳、日本経済評論社、2013年;原書『The Methodology of Experimental Economics』Cambridge University Press, 2005)に続く、日本語訳第2弾です。目次と正誤表が書名のリンク先で公開されています。版元ウェブサイトでは未公開ですが、同所の冒頭には6頁にわたる「要旨付き目次」があり、全体を把握するのに便利です。著者はイントロダクションでこう述べます。「本書において、私は社会的存在論の分野における主要な伝統を統一する理論を提案し、この統一が意味するところを探究する。議論の途上において、私はもっぱら『人間の』社会性に焦点をあてる」(4頁)。「本書の大部分は、人間の制度とは何か、それらがどのように機能するか、なぜそれらは異なるのか、それらが私たちにとってどのような役に立つのかを理解することに焦点を当てている」(5頁)。哲学と社会科学の隔たりを埋める野心的な試みです。なお本書で言及されているジョン・R・サールの『社会的世界の制作――人間文明の構造』(三谷武司訳、勁草書房、2018年10月)は最近訳書が出たばかりで、先日当ブログでもご紹介しました。
★『記憶の社会的枠組み』は『Les cadres sociaux de la mémoire』(Librairie Félix Alcan, 1925)の全訳。底本はAlbin Michelより刊行された1994年版です。94版に加えられているジェラール・ナメールによる70頁に及ぶ「後記」は訳出されていませんが、訳者あとがきでその内容の一部が紹介されています。アルヴァックス(アルブヴァクスとも:Maurice Halbwachs, 1877-1945)はフランスの社会学者。「文学、心理学、哲学の領域で構成されてきた「記憶」への問いを、社会学のなかにはじめて明確な形で呼び込んだ」と訳者は紹介しています。また、訳者は本書について次のように説明しています。「記憶は個人心理のうちに閉じた現実ではなく、人々は他者との関係のなかで、社会集団の一員として過去を想起するのであり、記憶と想起の可能性は現在の社会生活の文脈に強く依存している。集団の生活のなかで想起される過去は、個人的事実としての記憶を構成するだけでなく、集団のメンバーによって「集合的記憶」として組織され、共同化されていく。「記憶の社会学」の起点となるこのテーゼを最初に打ち出した著作が『記憶の社会的枠組み』だった」(391頁)。本書にはベルクソンとの対決の痕跡が見られるとのことです。なおアルヴァックスの著書はこれまでに2点訳書が刊行されています。清水義弘訳『社会階級の心理学』(誠信書房、1958年)と、小関藤一郎訳『集合的記憶』(行路社、1989年)で、いずれも死後刊行の著作です。約30年ぶりとなる今回の訳書は生前に刊行されたもの。
★『壁の向こうの住人たち』は『Strangers in Their Own Land: Anger and Mourning on the American Right』(The New Press, 2016)の訳書。目次詳細と立ち読みPDFは書名のリンク先で公開されています。「アメリカ保守派の心へ向かう旅」(ix頁)である本書において、著者は保守派を支持する一般の人々を取材し、彼らの人生経験を取材します。「わたしたちは、川の“向こう側”の人に共感すれば明快な分析ができなくなると思い込んでいるが、それは誤りだ。ほんとうは、橋の向こう側に立ってこそ、真に重要な分析に取り掛かれるのだ」(xi頁)。「英語圏の文化のハーモニーに欠けている音を取り戻すべきだと思っている。米国が〔左派と右派に〕二極化し、わたしたちが単におたがいを知らないという実態だけが進んでいけば、嫌悪や軽蔑といった感情がやすやすと受け入れられるようになってしまうだろう」(同頁)。日本にとっても他人事ではない分析ではないでしょうか。帯文には朝日新聞ニューヨーク特派員の金成隆一さんのこんな推薦文が掲げられています。「読んでいて私は南部で取材した支持者の顔を次々と思い出した。トランプ誕生の土壌をこれほど深くえぐった作品を私は知らない」。ホックシールド(Arlie Russell Hochschild, 1940-)はアメリカの社会学者。感情社会学の先駆者で、著書に『セカンド・シフト 第二の勤務――アメリカ 共働き革命のいま』田中和子訳、朝日新聞社、1990年)、『管理される心――感情が商品になるとき』(石川准/室伏亜希訳、世界思想社、2000年)、『タイム・バインド――働く母親のワークライフバランス:仕事・家庭・子どもをめぐる真実』(坂口緑/中野聡子/両角道代訳、明石書店、2012年)などがあります。
★『神学提要』は『Compendium Theologiae ad fratrem Reginaldum socium suum carissimum』の訳書。底本は『Opuscula Theologica vol.I』(Marietti, 1954)所収の当該テキストです。「本書は、神が人間に特別な配慮をしていること、そして、天国での至福が本質的かつ絶大なものであること、聖書からの引用を重ねつつ縷々書き連ねる。そして、天国への希望がかなえられうることは、「明らかな実例によって示される」と言う。そして、その文を最後に執筆が途絶しているため、この実例が何であると本書が言おうとしていたのか、誰にも分らない。しかし、この文言によりトマスが、人間の希望がかなえられることに「明らかな実例」があると信じていたことが分かる」(478頁)と訳者は「解説」で説明しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。なお、同訳書は10月に第1刷が刊行され、11月に第2刷が発行されています。第1刷は先に引用した訳者解説が収録されていないので要注意です。なお、第1刷は書店ないし版元が第2刷に交換してくれる旨、版元から告知が出ています(私の場合は交換せず、両方購入しました)。『神学提要』はシリーズ「知泉学術叢書」の第5弾で、第4弾はJ-P・トレル『トマス・アクィナス 人と著作』(保井亮人訳、知泉学術叢書:知泉書館、2018年10月、本体6,500円、新書判上製760頁、ISBN978-4-86285-280-9;原著『 Initiation à Saint Thomas d'Aquin : Sa personne et son oeuvre』Cerf, 1993;第3版、2008年)でした。続刊予定として、同じくトレルの『トマス・アクィナス 霊性の大家』(原著1996年)や、マルティン・ルター『後期スコラ神学批判文書集』(金子晴勇訳)が予告されています。
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『現代思想2018年12月号 特集=図書館の未来』青土社、2018年11月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1374-5
★『HAPAX』の記念すべき第10号はニーチェ特集で、今までで最大のヴォリュームです。特集への寄稿者は、鈴木創士、榎並重行(インタヴュー)、江川隆男、馬研究会、無回転R求道者達、混世博戯党、world's forgotten boy、ダニエル・コルソン、山本さつき、白石嘉治、の各面々。マルクスでもフロイトでもなくニーチェというのが絶妙です。特集の最初の頁には「ニーチェこそはアナーキーの極限であり、それ自身、たえざる蜂起であるからだ」と趣旨が述べられています。また、表紙ではHAPAXの二つ目のAとNietzscheのzのみが赤く塗られていて、ニーチェをめぐる思考の運動が示すふり幅の広さ(Aからzまで)を表しているかのようです。もっとも多くページが割かれているのは『ニーチェって何?――こんなことをいった人だ 』(新書y、2000年)や『ニーチェのように考えること――雷鳴の轟きの下で』(河出書房新社、2012年)の著者、榎並重行(えなみ・しげゆき:1949-)さんへの今年5月ないし6月に行われたHAPAX誌によるロング・インタヴュー「耳障りな声で――ある快楽懐疑者からの挨拶」。なお巻頭には「二人のギリシャのアナキスト」の談話とフランスの「革命的官能委員会」の論考を翻訳。ヨーロッパのアクティヴィズムの息遣いに触れることができます。
★なお、夜光社さんが6月に創刊した「民衆詩叢書」の第1弾、崔真碩『サラム ひと』の朗読ライブが以下の通り開催されるとのことです。
◎アサイラム ひと――詩集『サラム ひと』朗読ライブ
朗読と音楽:チェ・アンド・ザ・ヤコーシャ・ゴースト・ブルース・バンド/崔真碩(野戦之月)/行友太郎(中国文芸研究会)/相澤虎之助(空族)
日時:2018年12月15日(土曜日)午後5時開演
場所:イレギュラー・リズム・アサイラム(新宿区新宿1-30-12-302)
料金:投げ銭
★『現代思想』2018年12月号の特集は「図書館の未来」。同誌が「図書館」を特集名に冠するのはおそらく初めてのことではないでしょうか。「大学」について盛んに言及してきた同誌にとってみれば遅かれ早かれ着手しなければならなかった主題ではあるはずでしたから、注目すべき特集号です。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。個人的に特に興味深かったのは、新出「“公共”図書館の行方」、呑海沙織「多様性を許容する図書館――認知症にやさしい図書館について考える」、福島幸宏「これからの図書館員像――情報の専門家/地域の専門家として」など。福島さんは論考の末尾でこう述べておられます。「この特集全体が全力で主張しているように、「図書館の未来」は今の路線の先にはないことだけははっきりしている。「〈図書館員〉の未来」もまた同様であり、10年先の状況はだれにも不明である」。結論ありきではない各現場の苦闘と呻吟と希望を垣間見ることのできる良い特集号だと感じました。
★続いてここ最近に出会った新刊を列記します。
『静寂と沈黙の歴史――ルネサンスから現代まで』アラン・コルバン著、小倉孝誠/中川真知子訳、藤原書店、2018年11月、本体2,600円、四六変判上製224頁、ISBN978-4-86578-199-1
『都市のエクスタシー』山田登世子著、藤原書店、2018年11月、本体2,800円、四六判上製328頁、ISBN978-4-86578-200-4
『メディア都市パリ』山田登世子著、藤原書店、2018年11月、本体2,500円、四六判上製320頁、ISBN978-4-86578-201-1
『芸の心――能狂言 終わりなき道』野村四郎/山本東次郎著、笠井賢一編、藤原書店、2018年11月、本体2,800円、四六判上製240頁、ISBN978-4-86578-198-4
『新装版 古代エジプト語基本単語集――初めてのヒエログリフ』西村洋子編著、平凡社、2018年11月、本体2,800円、A5判並製260頁、ISBN978-4-582-12727-0
★藤原書店さんの11月新刊は4点。コルバン『静寂と沈黙の歴史』は『Histoire du silence : De la Renaissance à nos jours』(Albin Michel, 2016)の全訳。「本書において、かつての静寂をよびおこし、静寂の探求、その手触り、規律、戦略、豊かさのありさまを描き出し、沈黙の言葉の力について述べることは、静黙することを、すなわち己であることを学び直すのに役立つかもしれない」(13頁)とコルバンは述べています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。訳者によれば本書は同氏が訳した『音の風景』(藤原書店、1997年)と対をなす姉妹篇と言えるだろうとのことです。本書の締めくくりとして、19世紀フランスの詩人ルコント・ド・リールの詩篇「世を破壊せん」が引かれているのが印象的です。
★山田登世子さんの2点『都市のエクスタシー』『メディア都市パリ』は、前者が8月刊『モードの誘惑』に続く単行本未収録論考集の第2弾。「異郷プロムナード」「メディア都市」「わたしの部屋」「世相を読む 2010-2016」「人物論」の5部構成。「日経新聞」夕刊に2000年の夏から冬にかけて連載された「プロムナード」や、「中日新聞」に2010年から2016年にかけて連載された「中日新聞を読んで」がまとまっているほか、様々な媒体で発表された論考やエッセイを読むことができます。人物論では、内田義彦、阿久悠、今村仁司、中沢新一、今福龍太の各氏が論じられています。内田さんをめぐっては6篇。
★後者『メディア都市パリ』は、1991年に青土社から単行本が刊行され、1995年にちくま学芸文庫の一冊として再刊されたものの、再度の単行本化。巻末の編集部付記には「文庫版の「後書き」と「解説」は収録していない」と特記されています。この文庫版解説というのは蓮實重彦さんによるもの。今回の藤原書店版の解説「『メディア都市パリ』――きまじめな解説」を書かれているのは、山田さんとも蓮實さんとも交友のある工藤庸子さん。工藤さんならでは視点からなされた、山田さんの「同時代的な〈批評〉の営み」に参画しようという秘かな野心」が本書に隠されている、との指摘は重要ではないでしょうか。工藤さんは羽鳥書店の「ハトリショテンだより」におけるウェブ連載「人文学の遠めがね」第14回「女のエクリチュール」(2018年11月2日)でも『メディア都市パリ』巻末の「ほんとうの後書き」(今回の藤原書店版にも収録)に言及されています。
★藤原書店さんの4点目『芸の心』は、観世流シテ方の野村四郎(のむら・しろう:1936-)さんと大蔵流狂言方の山本東次郎(やまもと・とうじろう:1937-)さんの対談本。編集部による「はじめに」に曰く「本書は、名実ともに現在の能界と狂言界を代表する訳者である〔…〕お二人が、三夜にわたって語り合った対話の記録である」と。2017年3月から同年4月にかけて収録。巻末には笠井賢一さんによる「補論 能・狂言の歴史」と「舞台作品解説」が付されているほか、家系図も掲載されています。山本さんは第三夜で「嫌いだった狂言が60歳近くになって大好きになり、いろんなことが見えてくるようになりました」(164頁)と発言されています。人生観というものが端的に表れた、味わい深い対談です。
★平凡社さんの新刊『新装版 古代エジプト語基本単語集』は1998年の初版、2004年の2刷を経ての新装版です。帯文に曰く「日本語で引ける初めての辞書」、「主要な文学作品や碑文に頻出する基本的な単語1324を収録」と。和文索引もあります。なお編著者の西村さんが運営するウェブサイト「古代エジプト史料館」は、Yahoo!ジオシティーズが2019年3月末でサービス提供終了のため閉鎖予定だとのことです。
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★続いてここ二か月ほどで注目してきた新刊をいくつか列記します。
『制度とは何か──社会科学のための制度論』フランチェスコ・グァラ著、瀧澤弘和監訳、水野孝之訳、慶應義塾大学出版会、2018年11月、本体3,200円、四六判上製352頁、ISBN978-4-7664-2565-9
『記憶の社会的枠組み』モーリス・アルヴァックス著、鈴木智之訳、ソシオロジー選書:青弓社、2018年11月、本体4,800円、A5判上製416頁、ISBN978-4-7872-3443-8
『壁の向こうの住人たち――アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』A・R・ホックシールド著、布施由紀子訳、岩波書店、2018年10月、本体2,900円、四六並製464頁、ISBN978-4-00-061300-2
『神学提要』トマス・アクィナス著、山口隆介訳、知泉学術叢書:知泉書館、2018年10/11月、本体6,000円、新書判上製522頁、ISBN978-4-86285-283-0
★『制度とは何か』は『Understanding Institutions: The Science and Philosophy of Living Together』(Princeton University Press, 2016)の全訳。イタリアの哲学者で実験経済学者のフランチェスコ・グァラ(Francesco Guala, 1970-)の、『科学哲学から見た実験経済学』(川越敏司訳、日本経済評論社、2013年;原書『The Methodology of Experimental Economics』Cambridge University Press, 2005)に続く、日本語訳第2弾です。目次と正誤表が書名のリンク先で公開されています。版元ウェブサイトでは未公開ですが、同所の冒頭には6頁にわたる「要旨付き目次」があり、全体を把握するのに便利です。著者はイントロダクションでこう述べます。「本書において、私は社会的存在論の分野における主要な伝統を統一する理論を提案し、この統一が意味するところを探究する。議論の途上において、私はもっぱら『人間の』社会性に焦点をあてる」(4頁)。「本書の大部分は、人間の制度とは何か、それらがどのように機能するか、なぜそれらは異なるのか、それらが私たちにとってどのような役に立つのかを理解することに焦点を当てている」(5頁)。哲学と社会科学の隔たりを埋める野心的な試みです。なお本書で言及されているジョン・R・サールの『社会的世界の制作――人間文明の構造』(三谷武司訳、勁草書房、2018年10月)は最近訳書が出たばかりで、先日当ブログでもご紹介しました。
★『記憶の社会的枠組み』は『Les cadres sociaux de la mémoire』(Librairie Félix Alcan, 1925)の全訳。底本はAlbin Michelより刊行された1994年版です。94版に加えられているジェラール・ナメールによる70頁に及ぶ「後記」は訳出されていませんが、訳者あとがきでその内容の一部が紹介されています。アルヴァックス(アルブヴァクスとも:Maurice Halbwachs, 1877-1945)はフランスの社会学者。「文学、心理学、哲学の領域で構成されてきた「記憶」への問いを、社会学のなかにはじめて明確な形で呼び込んだ」と訳者は紹介しています。また、訳者は本書について次のように説明しています。「記憶は個人心理のうちに閉じた現実ではなく、人々は他者との関係のなかで、社会集団の一員として過去を想起するのであり、記憶と想起の可能性は現在の社会生活の文脈に強く依存している。集団の生活のなかで想起される過去は、個人的事実としての記憶を構成するだけでなく、集団のメンバーによって「集合的記憶」として組織され、共同化されていく。「記憶の社会学」の起点となるこのテーゼを最初に打ち出した著作が『記憶の社会的枠組み』だった」(391頁)。本書にはベルクソンとの対決の痕跡が見られるとのことです。なおアルヴァックスの著書はこれまでに2点訳書が刊行されています。清水義弘訳『社会階級の心理学』(誠信書房、1958年)と、小関藤一郎訳『集合的記憶』(行路社、1989年)で、いずれも死後刊行の著作です。約30年ぶりとなる今回の訳書は生前に刊行されたもの。
★『壁の向こうの住人たち』は『Strangers in Their Own Land: Anger and Mourning on the American Right』(The New Press, 2016)の訳書。目次詳細と立ち読みPDFは書名のリンク先で公開されています。「アメリカ保守派の心へ向かう旅」(ix頁)である本書において、著者は保守派を支持する一般の人々を取材し、彼らの人生経験を取材します。「わたしたちは、川の“向こう側”の人に共感すれば明快な分析ができなくなると思い込んでいるが、それは誤りだ。ほんとうは、橋の向こう側に立ってこそ、真に重要な分析に取り掛かれるのだ」(xi頁)。「英語圏の文化のハーモニーに欠けている音を取り戻すべきだと思っている。米国が〔左派と右派に〕二極化し、わたしたちが単におたがいを知らないという実態だけが進んでいけば、嫌悪や軽蔑といった感情がやすやすと受け入れられるようになってしまうだろう」(同頁)。日本にとっても他人事ではない分析ではないでしょうか。帯文には朝日新聞ニューヨーク特派員の金成隆一さんのこんな推薦文が掲げられています。「読んでいて私は南部で取材した支持者の顔を次々と思い出した。トランプ誕生の土壌をこれほど深くえぐった作品を私は知らない」。ホックシールド(Arlie Russell Hochschild, 1940-)はアメリカの社会学者。感情社会学の先駆者で、著書に『セカンド・シフト 第二の勤務――アメリカ 共働き革命のいま』田中和子訳、朝日新聞社、1990年)、『管理される心――感情が商品になるとき』(石川准/室伏亜希訳、世界思想社、2000年)、『タイム・バインド――働く母親のワークライフバランス:仕事・家庭・子どもをめぐる真実』(坂口緑/中野聡子/両角道代訳、明石書店、2012年)などがあります。
★『神学提要』は『Compendium Theologiae ad fratrem Reginaldum socium suum carissimum』の訳書。底本は『Opuscula Theologica vol.I』(Marietti, 1954)所収の当該テキストです。「本書は、神が人間に特別な配慮をしていること、そして、天国での至福が本質的かつ絶大なものであること、聖書からの引用を重ねつつ縷々書き連ねる。そして、天国への希望がかなえられうることは、「明らかな実例によって示される」と言う。そして、その文を最後に執筆が途絶しているため、この実例が何であると本書が言おうとしていたのか、誰にも分らない。しかし、この文言によりトマスが、人間の希望がかなえられることに「明らかな実例」があると信じていたことが分かる」(478頁)と訳者は「解説」で説明しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。なお、同訳書は10月に第1刷が刊行され、11月に第2刷が発行されています。第1刷は先に引用した訳者解説が収録されていないので要注意です。なお、第1刷は書店ないし版元が第2刷に交換してくれる旨、版元から告知が出ています(私の場合は交換せず、両方購入しました)。『神学提要』はシリーズ「知泉学術叢書」の第5弾で、第4弾はJ-P・トレル『トマス・アクィナス 人と著作』(保井亮人訳、知泉学術叢書:知泉書館、2018年10月、本体6,500円、新書判上製760頁、ISBN978-4-86285-280-9;原著『 Initiation à Saint Thomas d'Aquin : Sa personne et son oeuvre』Cerf, 1993;第3版、2008年)でした。続刊予定として、同じくトレルの『トマス・アクィナス 霊性の大家』(原著1996年)や、マルティン・ルター『後期スコラ神学批判文書集』(金子晴勇訳)が予告されています。
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注目新刊:熊野純彦訳『精神現象学』、サックス『アナログの逆襲』、ほか
★まもなく発売となるちくま学芸文庫の12月新刊の5点6冊を取り上げます。
『精神現象学 上』G・W・F・ヘーゲル著、熊野純彦訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,700円、672頁、ISBN978-4-480-09701-9
『精神現象学 下』G・W・F・ヘーゲル著、熊野純彦訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,700円、624頁、ISBN978-4-480-09702-6
『帝国の陰謀』蓮實重彦著、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,000円、176頁、ISBN 978-4-480-09895-5
『仮面の道』クロード・レヴィ=ストロース著、山口昌男/渡辺守章/渡辺公三訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,400円、400頁、ISBN978-4-480-09647-0
『聖なる天蓋――神聖世界の社会学』ピーター・L・バーガー著、薗田稔訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,200円、352頁、ISBN978-4-480-09903-7
『数学的に考える――問題発見と分析の技法』キース・デブリン著、冨永星訳、ちくま学芸文庫、2018年12月、本体1,000円、224頁、ISBN978-4-480-09898-6
★熊野純彦さんによる新訳『精神現象学』は、樫山欽四郎訳(上下巻、平凡社ライブラリー、1997年)に続く20年ぶりの文庫版です。樫山訳は親本が1966年の河出書房新社版で、それを出口純夫さんが改訳し補訂したのが平凡社ライブラリー版です。今回の新訳は訳者あとがきによれば、底本はラッソン/ホフマイスター版(樫山訳も同様)。グロックナー版、ズーアカンプ版、アカデミー版なども参照され、また2種類のフランス語訳(イポリット訳とヤルチック/ラバリエール訳)を常に参看したとのことです。本書の訳文の上段にはグロックナー版とホフマイスター版の原著頁数が振られ、下段にはスーアカンプ版とアカデミー版のそれが記されており、原書と照らし合わせるのに便利です。
★講義録や教科書を除き「ヘーゲルそのひとが、主要な著作として執筆し、刊行したのは『精神現象学』全一巻、ならびに『論理学』全二巻だけなのであり、その意味ではヘーゲル研究の進捗と現況にかかわりなく、『精神現象学』がこの哲学者の思考をとらえるうえで枢要なテクストでありつづけていることは、まちがいない」と熊野さんはお書きになっています。上巻が序文、序論、A「意識」、B「自己意識」、C(AA)「理性」を収録、下巻には(BB)「精神」、(CC)「宗教」、(DD)「絶対知」を収めています。下巻巻末にはフレーズ索引といって、語句ごとにそれを含む文章を並べた索引が付されています。
★蓮實重彦『帝国の陰謀』は1991年に日本文芸社より刊行された単行本の文庫化。新たに文庫版あとがきと、入江哲郎さんによる解説が付されています。「〔ルイ=ナポレオンすなわちナポレオン三世の異父弟〕ド・モルニーが遺した二つのテクストを読解し、マルクスが〔著書『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』で〕見落としたものを軽やかに描く、著者最初の書き下ろし作品」(カバー裏紹介文より)。文庫化にあたり、「必要最低限の加筆訂正」を施したとのことです。初版刊行当時を振り返って、蓮實さんは、本書を学術論文としてではなく、「できれば、文化的かつ政治的な「パンフレット」のようなものとして読まれてほしいというのが、著者の真摯な思いだったのです」としたためておられます。本書と同時期のフランス第二帝政期を背景にした1988年の著書『凡庸な芸術家の肖像――マクシム・デュ・カン論』は95年に上下巻でちくま学芸文庫にて文庫化された後、2015年に同じく上下巻で講談社文芸文庫として再文庫化されています。
★レヴィ=ストロース『仮面の道』は、まず原著の2巻本『La Voie des masques』がSkira社の「創造の小径」シリーズから1975年に刊行され、日本語訳が1977年に新潮社版「想像の小径」翻訳シリーズの一冊として出版されています。原著はその後1979年に増補改訂版がPlon社から全1巻で刊行されました。今回の文庫化は、この増補改訂版を底本とし、新潮社版を渡辺守章さんが全面改訳し、増補改訂版で新たに付された第2部「三つの小さな旅」を昨年末に逝去された渡辺公三さんが訳出されて、成ったものです。文庫版あとがきは「ちくま学芸文庫版『仮面の道』のための後書き」として、渡辺守章さんがお書きになっておられます。文庫で読めるレヴィ=ストロースの著書は意外と少なく、室淳介訳『悲しき南回帰線』(上下巻、講談社学術文庫、1985年)、西澤文昭訳『アスディワル武勲詩』(ちくま学芸文庫、2011年)に続いて今回がようやく3点目です。
★バーガー『聖なる天蓋』は『The Sacred Canopy: Elements of a Sociological Theory of Religion』(Doubleday, 1967)の全訳として1979年に新曜社から刊行された単行本の文庫化です。文庫版訳者あとがきによれば、「今回はほぼ原訳を活かして復刊」したとのことです。「あらゆる社会はその全過程を究極的に意味づける象徴の体系、「聖なる天蓋」をもつ。〔…〕現象学的社会学の視点から論じられた宗教社会学の古典的名著」(カバー裏紹介文より)。バーガーはオーストリア出身のアメリカの社会学者で、昨年死去しています。著書の文庫化は『社会学への招待』(水野節夫/村山研一訳、ちくま学芸文庫、2017年7月)に続いて2点目です。
★『数学的に考える』は英国生まれの数学者デブリン(Keith Devlin, 1947-)が2012年に自費出版したオンデマンド版の教科書『Introduction to Mathematical Thinking』の全訳で、文庫のための訳し下ろしです。巻頭の「はじめに」によれば、高校数学から大学数学に進む際の「移行講座」の教科書が一般的に高額すぎるため、廉価なオンデマンド版にしたとのこと。第1章「数学とは何か」、第2章「言葉を厳密に使う」、第3章「証明」、第4章「数を巡る成果の証明」の全4章立てで、補遺として「集合論」が付されています。「21世紀を生きるすべての人々にとって、数学的な思考をある程度できた方が有利なのだ。(数学的思考には、いずれも重要な能力である「論理的な思考」、「分析的な思考」、「量を用いた推論」が含まれる。)というわけでわたしはこの本を、分析的な思考力を高めたい、高める必要があると考えているすべての人にとって役立つものにしようと考えた」(4頁)と著者は書いています。ビジネス書としてどんどん売っていい商材だと思います。
★続いて角川ソフィア文庫の11月新刊から3点。
『西田幾多郎――言語、貨幣、時計の成立の謎へ』永井均著、角川ソフィア文庫、2018年11月、本体760円、176頁、ISBN978-4-04-400184-1
『よくわかる日蓮宗 重要経典付き』瓜生中著、角川ソフィア文庫、2018年11月、本体960円、304頁、ISBN978-4-04-400368-5
『図説 日本未確認生物事典』笹間良彦著、角川ソフィア文庫、2018年11月、本体1,200円、480頁、ISBN978-4-04-400443-9
★永井均『西田幾多郎』は、2006年にNHK出版から刊行された『西田幾多郎――〈絶対無〉とは何か』に加筆修正し、文庫化したもの。巻末に文庫版付論として「時計の成立――死ぬことによって生まれる今と、生まれることによって死ぬ今」が新たに付されています。第一章「純粋経験――思う、ゆえに、思いあり」、第二章「場所――〈絶対無〉はどこにあるのか」、第三章「私と汝――私は殺されることによって生まれる」の三章立てで、小伝や読書案内が付されています。コンパクトな入門書です。巻頭の「まえがき」にはこうあります。「本書を読めば、西田幾多郎をまったく知らない方でも西田哲学の核心へとまっすぐに導かれる、と私は確信するが、それはじつは西田の核心ではななく私(永井)の核心なのかもしれない。それらを区別することは私にはできない」(12頁)。
★『よくわかる日蓮宗』は瓜生中さんによる「よくわかる××宗」シリーズの最新刊で書き下ろし。目次詳細は書名のリンク先の「試し読み」でご覧いただけますが、章立てのみ確認しておくと、第一章「日蓮宗の基礎知識」、第二章「日蓮宗の主な経典」、第三章「日蓮の生涯と思想」、第四章「日蓮以降の日蓮宗」、第五章「日蓮宗の主要寺院」となっており、付録として「日蓮宗の年中行事と尊像」が配されています。同シリーズではこれまでに、浄土真宗、曹洞宗、真言宗、浄土集、などが出ています。
★笹間良彦『図説 日本未確認生物事典』は1994年に柏書房より刊行された同名単行本の文庫化。巻末に新たに湯本豪一さんによる解説が付されています。天狗、鬼、雪女、河童などを扱う「擬人的妖怪編」、霊亀などを扱う「魚と亀の変化(へんげ)」、龍やおろちなどを扱う「龍蛇類の変化」、きつね、むじな、ねこまた、ばくなどを扱う「獣類の変化」、ぬえや鳳凰などを扱う「鳥類の変化」、ひきがえる、おおむかで、つちぐもなどを扱う「湿性類の変化」の6部門。全部で114種類の妖怪や幻獣が、歴史的な文物から採られた図版とともに、古典的文献からの引用を交えて解説されています。
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★また最近では以下の新刊との出会いがありました。
『アナログの逆襲――ポストデジタル経済へ、ビジネスと発想はこう変わる』デイビッド・サックス著、加藤万里子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2018年12月、本体2,100円、四六判並製400頁、ISBN978-4-7726-9562-6
『生命科学の未来――がん免疫治療と獲得免疫』本庶佑著、藤原書店、2018年12月、本体2,200円、B6変型判上製240頁、ISBN978-4-86578-202-8
『オリンピックVS便乗商法――まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』友利昴著、作品社、2018年11月、本体2,400円、46判並製309+17頁、ISBN 978-4-86182-726-6
『ポストモダン・ニヒリズム』仲正昌樹著、作品社、2018年11月、本体2,600円、46判上製320頁、ISBN978-4-86182-718-1
『プラグマティズムの格率――パースとプラグマティズム』クリストファー・フックウェイ著、村中達矢/加藤隆文/佐々木崇/石田正人訳、春秋社、2018年11月、本体5,000円、四六判上製536頁、ISBN978-4-393-32362-5
『聖書の情景』深井智朗著、春秋社、2018年11月、本体2,000円、四六判上製240頁、ISBN978-4-393-32378-6
『カタストロフと美術のちから』森美術館編、平凡社、2018年11月、本体3,200円、A4変判並製208頁、ISBN978-4-582-20714-9
★サックス『アナログの逆襲』は『The Revenge of Analog: Real Things and Why They Matter』(PublicAffairs, 2016)の訳書です。著者のサックス(David Sax, 1979-)はカナダのジャーナリスト。書名のリンク先で目次とはじめにと日本語版解説を見ることができますが、とても興味深い内容なので、以下にも目次を転記しておきます。
はじめに――ポストデジタル経済へ
PART 1 アナログな「モノ」の逆襲
第1章 レコードの逆襲
第2章 紙の逆襲
第3章 フィルムの逆襲
第4章 ボードゲームの逆襲
PART 2 アナログな「発想」の逆襲
第5章 プリントの逆襲
第6章 リアル店舗の逆襲
第7章 仕事の逆襲
第8章 教育の逆襲
第9章 デジタルの先端にあるアナログ
おわりに 夏の逆襲
★「本書では、アナログの逆襲がどのように起きているかを二部に分けて探求している。/第1部の「アナログな「モノ」の逆襲」では、レコード、紙製品、フィルム、ボードゲームという新市場を考察し、時代に合わなくなったと言われたアナログ製品の製造・販売企業が、消費者の根本的な欲求を引き出して成功している例を紹介する。/第2部の「アナログな「発想」の逆襲」では、出版、小売、製造、教育業界、シリコンバレーの教訓をもとに、デジタル重視の経済のなかでアナログな発想が持つ革新的かつ破壊的な可能性とその恩恵を実証する」(19~20頁)。
★「重要なのは、デジタルかアナログのどちらかを選ぶことではない。私たちはデジタルの使用を通して、このように物事を極度に単純化する考え方に慣れてしまった。つまり、一かゼロか、黒か白か、サムスンかアップルか、という誤った二者択一だ。現実世界は、黒か白ではなく、グレーですらない。色とりどりで、触れたときの感覚に同じものはひとつもない。そこに、豊かな感情が幾重にも折り重なっている。そのなかで人間は、思ってもみない匂いに驚いたり、奇妙な味に顔をしかめながら、完全ではないことを大いに楽しんでいる。最高のアイデアはこの複雑さから紡ぎ出されるが、デジタル・テクノロジーにはまだそれを十分に再現する能力がない。いま、この現実世界がかつてなく重要になっている。/アナログの逆襲はこのごちゃまぜの現実のなせる業だ。テクノロジーの挑戦を受けながらも、そこから力を引き出している。テクノロジーにはひとつひとつ役割があり、生み出す結果もさまざまだ。アナログの逆襲から見えてくるのは、過去と共存しながらテクノロジーの未来を築く新しいポストデジタル経済である」(20頁)。
★本庶佑『生命科学の未来』は緊急出版。「免疫学との出会い、生物が免疫の多様化を実現する仕組みを解明した画期的研究、ノーベル賞受賞をもたらした抗体の発見に至る軌跡、そして、生命科学が世界的に注目されているなかでの基礎研究への投資の重要性など」(カバーソデ紹介文より)を、本庶さん自身が語ったもの。序は「序 ノーベル生理学・医学賞受賞にあたって」と題された挨拶文です。続く「PD‐1抗体発見への道のり――獲得免疫の驚くべき幸運とがん免疫治療」は、2016年11月11日に行われた京都賞受賞記念講演。「幸福の生物学」は2007年4月22日に行われた稲盛財団の第11回盛和スカラーズソサエティ総会講演。最後の「生命科学の未来」は、2014年4月8日に収録され『環』58号に掲載された、本庶さんと静岡県知事・川勝平太さんの対談です。
★次に作品社さんの新刊2点。友利昴『オリンピックVS便乗商法』はオリンピックの独占的商業利用権について教えてくれる一冊。「今や善良な市民であっても、オリンピックを利用しようとすれば、そのやり方次第では、誰もがIOC以下、オリンピック関連組織からのクレームにさらされる危険がある。〔…〕恐ろしいことに、本書で紹介するように、既に実例は多数存在するのだ」(3頁)。本書は「オリンピック組織が、これまでどのようなアプローチで自己の利益を拡大してきたのか、そのために他人がどのような犠牲を強いられてきたのかをできるだけ多くの具体例を紹介しながら総括し、それらを教訓として、正当行為に対するクレームや規制に、われわれはどのように向き合うべきかを考察している」(3~4頁)。「これは何もオリンピックに限った問題ではない。〔…〕あらゆる事業者にとって、市場競争において他人を排除し、自らの権利と利益の最大化を目指すことは自然な欲求であることから、こうしたアプローチは他のあらゆる産業においても波及し得るものである」(4頁)。
★仲正昌樹『ポストモダン・ニヒリズム』は1997年から2009年にかけて各媒体で発表されてきた論考12本をまとめ、書き下ろしの「ハーバーマスとデリダ――「言語行為」と「エクリチュール」をめぐるモダン/ポストモダンの鬩(せめ)ぎ合い」を加えたもの。この書き下ろしでは、ハーバーマスとデリダの対決だけでなく、サールとデリダの論争も論及されています。「「エクリチュール」と「コミュニケーション」の関係をめぐる問題は取り残されてしまった感が強い。〔…〕発話行為に伴う「力」に関心を持つ哲学者・社会学者は、[ハーバーマス+サールvs.デリダ]論争で提起されたものの、クリアにならなかった諸論点について、彼らのあとを引き継いで考え続けるべきだろう」(296頁)。
★続いて春秋社さんの新刊2点。フックウェイ『プラグマティズムの格率』は『The Pragmatic Maxim: Essays on Peirce and pragmatism』(Oxford University Press, 2012)の全訳。序文によれば本書は15年にわたる著者のパース哲学研究のうちの「いくらかを披露するもの」であり、『パース』(1985年、未訳)および『真理、合理性、そしてプラグマティズム』(2000年)に収録された著作を発展させたもの、とのこと。著者のフックウェイ(Christopher Hookway, 1949-)はイギリスを代表するパース哲学研究者で、シェフィールド大学名誉教授。既訳書には『クワイン――言語・経験・実在』(浜野研三訳、勁草書房、1998年)があります。2点目となる今回の訳書の目次を以下に列記しておきます。
目次:
日本語版に寄せて
序文
初出一覧
パースのテクストとその略号の一覧
序論 プラグマティズムの格率、科学の方法、表象
第1章 パースと懐疑論
第2章 可謬主義と探求の目標
第3章 真理・実在・収束
第4章 疑問表現と制御不可能なアブダクション
第5章 規範的論理学と心理学――心理主義を拒絶するパース
第6章 〈関係の形式〉――パースと数学的構造主義
第7章 「一種の合成写真」――プラグマティズム、観念、図式論
第8章 プラグマティズムと所与――C・I・ルイス、クワイン、パース
第9章 プラグマティズムの原理――パースの定式化と事例
第10章 論理的原理と哲学的態度――ジェイムズのプラグマティズムに対するパースの態度
第11章 いかにしてパースはプラグマティズムの格率を擁護したか
解説(佐々木崇/加藤隆文)
訳者あとがき(村中達矢)
文献表
人名索引
★深井智朗『聖書の情景』は聖書に登場する人物から26人を選んで紹介するエッセイ集。26人を掲載順に列記すると、アダム、バラバ、カイン、ダビデ、エステル、フェリクス、ギデオン、ヘロデ、イザヤ、イスカリオテのユダ、ヨブの娘ケツィア、ラザロ、モーセ、ノア、オバデア、ペトロ、キリニウス、ルツ、サロメ、トマス、ウジヤ、イサクの父アブラハム(Vater von Isaak)、ワシュティ、クセルクセス=アハシュエロス、あなた(You)、ザアカイ。お気づきかと思いますが、アルファベット26文字を表しています。「あなた」は苦肉の策というよりは、本質的な一章を成しています。「自分のための言葉だと知るときに、その言葉は生命を持つようになります。/聖書で語られる「あなた」が、「私」なのだと分かるとき、聖書の言葉が生きた言葉になります。そして私たちを聖書の中へと、神が聖書を通して語ろうとする世界へと誘います。八木重吉が言うように、ことばのうちがわにはいりこむ、のです」(203頁)。個人的には「ユダ」の善人ぶりへの言及が、現代人への強い戒めとして印象に残りました。
★『カタストロフと美術のちから』は、六本木ヒルズの森美術館が15周年記念展として好評開催中の「カタストロフと美術のちから展」(2018年10月6日~2019年1月20日)の図録を兼ねた書籍です。印象深かった作品は、ヘルムット・スタラーツさんやシヴァ・アフマディさんの絵画、武田慎平さんと米田知子さんの写真です。同書には論考として、星野太さんによる「疚しさについて――カタストロフと崇高」、J・J・チャールズワースさんによる「カタストロフは常に他人事か」、ゲリット・ヤスパー・シェンクさんによる「災害のイメージ――災害体験のアートとメディア化」などが掲載されています。
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月曜社は2018年12月7日に、創業19年目を迎えました
月曜社は2018年12月7日に、創業19年目を迎えました。皆様のご愛顧に深く御礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。19年目の新刊1冊目は『森山大道写真集成』全5巻の第1回配本(第1巻)、『にっぽん劇場写真帖』となります。日販、トーハン、大阪屋栗田、ともに17日(月)取次搬入です。書店さんの店頭には20日頃から順次並び始める予定です(地域差や時間差があります)。サイン本を展開する書店さんもありますので、追ってツイッターで告知させていただきます。
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「週刊読書人」に『忘却の記憶 広島』の書評
「週刊読書人」12月8日号に弊社10月刊『忘却の記憶 広島』の書評「読み応えのあるヒロシマ論――「記憶」の「劣化」を防ぐために」が掲載されました。評者は好井裕明さんです。
「本書が意識的に語りだろうとする「記憶」の「ケア」という発想や実践が、とても興味深い。これまでのように直接被爆体験者の絶対性や神聖さ、真正性だけに頼っていても「被爆の記憶」の「鮮度」は保てないのだ。未発掘の資料を探求し分析したり、過去の作品を新たに読み解き、現在的な意義を確認する営みから新たな知見を創造し、その知見をもとに「記憶」に拡がっている細かい傷や裂け目が「修復」され、〝被爆をめぐる新たな意味〟を注入されることで「記憶」の〝瑞々しさ〟が回復し、「被爆の記憶」は現在や将来にとって意義あるものとして新たに息を吹き返す。その場合、従来絶対視され神聖化されていた人物や活動、実践もすべて、読み直しの対象となるだろう。本書に収められた戦後広島での「陳情書」分析や平和活動家森瀧市郎の戦前までさかのぼる思想的背景の解読、原爆資料館の蝋人形展示の変遷を読み直す論考などは、「被爆の記憶」を「ケア」する見事な実践なのである」と評していただきました。全文は記事名のリンク先からお読みいただけます。
「本書が意識的に語りだろうとする「記憶」の「ケア」という発想や実践が、とても興味深い。これまでのように直接被爆体験者の絶対性や神聖さ、真正性だけに頼っていても「被爆の記憶」の「鮮度」は保てないのだ。未発掘の資料を探求し分析したり、過去の作品を新たに読み解き、現在的な意義を確認する営みから新たな知見を創造し、その知見をもとに「記憶」に拡がっている細かい傷や裂け目が「修復」され、〝被爆をめぐる新たな意味〟を注入されることで「記憶」の〝瑞々しさ〟が回復し、「被爆の記憶」は現在や将来にとって意義あるものとして新たに息を吹き返す。その場合、従来絶対視され神聖化されていた人物や活動、実践もすべて、読み直しの対象となるだろう。本書に収められた戦後広島での「陳情書」分析や平和活動家森瀧市郎の戦前までさかのぼる思想的背景の解読、原爆資料館の蝋人形展示の変遷を読み直す論考などは、「被爆の記憶」を「ケア」する見事な実践なのである」と評していただきました。全文は記事名のリンク先からお読みいただけます。
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ブックツリー「哲学読書室」に2本の選書リスト追加
オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、堀之内出版編集担当の小林えみさんの選書リスト「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」と、拙選書リスト「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」が追加されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。
◎哲学読書室1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」
27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」
29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」
30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-:堀之内出版編集担当)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-:月曜社取締役)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
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◎哲学読書室1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」
27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」
29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」
30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-:堀之内出版編集担当)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-:月曜社取締役)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
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『現代詩手帖』2018年12月号のアンケート「今年度の収穫」に弊社本2点
『現代詩手帖』2018年12月号のアンケート「今年度の収穫」で、詩人の石田瑞穂さんが弊社の今年の新刊、ナンシーの芸術論『ミューズたち』と、メニングハウスのヘルダーリン論『生のなかば』を挙げて下さいました(155頁)。この二冊を挙げていただくのはとても嬉しいです。ありがとうございます。
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注目新刊:ヴィトゲンシュタイン『小学生のための正書法辞典』講談社学術文庫、ほか
★皆様いかがお過ごしでしょうか。私は風邪をひきました。今回の新刊ご紹介はそんなわけで書名を列記するものの、数点について追記するのみで失礼いたします。まずは、最近出会った新刊から。
『秘教講義 1』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2018年11月、本体4,800円、四六判上製592頁、ISBN978-4-393-32547-6
『秘教講義 2』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2018年12月、本体4,800円、四六判上製488頁、ISBN978-4-393-32548-3
『朝鮮文化史――歴史の幕あけから現代まで』キース・プラット著、宋恵媛訳、人文書院、2018年12月、本体6,200円、4-6判上製488頁、ISBN978-4-409-51079-7
『薩長同盟論――幕末史の再構築』町田明広著、人文書院、2018年12月、本体2,200円、4-6判並製270頁、ISBN978-4-409-52074-1
『大政翼賛会のメディアミックス――「翼賛一家」と参加するファシズム』大塚英志著、平凡社、2018年12月、本体2,500円、4-6判並製304頁、ISBN978-4-582-45453-6
『ぼくの伯父さん――長谷川四郎物語』福島紀幸著、河出書房新社、2018年12月、本体4,400円、46変形判上製568頁、ISBN978-4-309-02748-7
『トランスヒューマニズム――人間強化の欲望から不死の夢まで』マーク・オコネル著、松浦俊輔訳、作品社、2018年11月、本体2,400円、46判並製299+xi頁、ISBN978-4-86182-721-1
★シュタイナー『秘教講義』は第1巻が『霊学自由大学第一学級のための秘教講義』(全19講:ドルナハ:1924年2月15日~8月2日)で、巻頭には第2講から第19講までの美麗な黒板絵をカラーで収録しています。第2巻は『霊学自由大学第一学級のための秘教再講義』(全7講:ドルナハ:1924年9月6日~20日)と、各都市で行われた『霊学自由大学第一学級のための秘教講義』(2講:プラハ:1924年4月3日~5日、1講:ベルン:1924年4月17日、1講:ロンドン:1924年8月27日)を収め、付録として1923年と1924年の「クリスマス会議」より3講義と、訳者の高橋さんによる「「シュタイナー秘教講義」の読み方(第1講を例に)」が配されています。解説は飯塚立人さんがお書きになっています。
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★次にここ最近で注目している新刊を列記します。
『新版 アリストテレス全集(20)著作断片集2』國方栄二訳、2018年11月、本体6,000円、A5判上製函入512頁、ISBN978-4-00-092790-1
『人間知性研究』デイヴィッド・ヒューム著、神野慧一郎/中才敏郎訳、近代社会思想コレクション24:京都大学学術出版会、2018年12月、本体3,600円、四六判上製374頁、ISBN978-4-8140-0178-1
『小学生のための正書法辞典』ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン著、丘沢静也/荻原耕平訳、講談社学術文庫、2018年12月、本体1,110円、280頁、ISBN978-4-06-514094-9
『漂巽紀畧 全現代語訳』ジョン万次郎述、河田小龍記、北代淳二監修、谷村鯛夢訳、講談社学術文庫、2018年12月、本体800円、178頁、ISBN978-4-06-514262-2
『靖献遺言』浅見絅斎著、近藤啓吾訳注、講談社学術文庫、2018年12月、本体1,790円、560頁、ISBN978-4-06-514027-7
『物語批判序説』蓮實重彦著、講談社文芸文庫、2018年12月、本体2,100円、352頁、ISBN978-4-06-514065-9
『ラフォルグ抄』ジュール・ラフォルグ著、吉田健一訳、講談社文芸文庫、2018年12月、: 本体2,100円、368頁、ISBN978-4-06-514038-3
『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』丸山俊一/NHK「欲望の時代の哲学」制作班著、NHK出版新書、2018年12月、本体820円、240頁、ISBN978-4-14-088569-7
『オカルティズム――非理性のヨーロッパ』大野英士著、講談社選書メチエ、2018年12月、本体1,900円、320頁、ISBN978-4-06-514260-8
『記憶術全史――ムネモシュネの饗宴』桑木野幸司著、2018年12月、本体2,000円、352頁、ISBN978-4-06-514026-0
★『新版 アリストテレス全集(20)著作断片集2』は全20巻+別巻のうちの第18回配本。収録作品は書名のリンク先でご確認いただけます。そのほとんどは他の著者が伝えている断片です。散逸したか詳細不明となっている著作へのアリストテレス自身の言及も収めます。そうした著作のひとつ『哲学について』をめぐってはフィロンが『世界の永遠性について』の中で、アリストテレスの発言として次のような言葉を伝えています。「昔は、大風やとてつもない嵐が来たり、時の経過やしかるべき手入れを怠ったりすると、自分の家が倒れやしないかと心配したものだが、今は、議論で全宇宙を破滅させる人間のおかげで、もっと大きな恐怖がのしかかっている」(164頁)。付属ずる月報18によれば、次回配本は来春、第11巻『動物の発生について』。本巻で残る1冊、第14巻『形而上学』も来年刊行とのことです。別巻『総索引』には「用語集」も収録されると再告知されています。
★『小学生のための正書法辞典』はヴィトゲンシュタインが生前刊行した二冊のうちの一冊の初訳。もう一冊は『論理哲学論考』ですが、この主著が刊行されるまでに紆余曲折を経たのに比べて、『小学生のための正書法辞典』は比較的スムースに出版できたようです。その経緯や、教師としてのヴィトゲンシュタインの工夫は、巻頭の丘沢さんによる解説に詳しいです。またこの解説では、現代人から見てほとんどアウトな教師ぶりや、アスペルガー症候群の観点から見た哲学者像についても語られます。後者は福本修さんの論考「「心の理論」仮説と『哲学探究』――アスペルガー症候群〔から/を〕見たウィトゲンシュタイン」(『imago』1996年10月号「特集=自閉症」所収、144~163頁)を参考にされています。それにしても本書を文庫で出版するというのはなかなかハードルが高かったろうと思われます。
★ちなみに講談社さんは「講談社学術文庫大文字版オンデマンド」を人気既刊書600点以上で開始されました。同文庫は1976年創刊で、総刊行点数約2600点に上ります。投げ込みチラシには真っ先に天野貞祐訳『純粋理性批判』が記載されていて驚愕したのですが、ウェブにはまだ掲出されていないようです。書目は毎月追加されるようなので、推移を注視したいと思います。
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『秘教講義 1』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2018年11月、本体4,800円、四六判上製592頁、ISBN978-4-393-32547-6
『秘教講義 2』ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖訳、春秋社、2018年12月、本体4,800円、四六判上製488頁、ISBN978-4-393-32548-3
『朝鮮文化史――歴史の幕あけから現代まで』キース・プラット著、宋恵媛訳、人文書院、2018年12月、本体6,200円、4-6判上製488頁、ISBN978-4-409-51079-7
『薩長同盟論――幕末史の再構築』町田明広著、人文書院、2018年12月、本体2,200円、4-6判並製270頁、ISBN978-4-409-52074-1
『大政翼賛会のメディアミックス――「翼賛一家」と参加するファシズム』大塚英志著、平凡社、2018年12月、本体2,500円、4-6判並製304頁、ISBN978-4-582-45453-6
『ぼくの伯父さん――長谷川四郎物語』福島紀幸著、河出書房新社、2018年12月、本体4,400円、46変形判上製568頁、ISBN978-4-309-02748-7
『トランスヒューマニズム――人間強化の欲望から不死の夢まで』マーク・オコネル著、松浦俊輔訳、作品社、2018年11月、本体2,400円、46判並製299+xi頁、ISBN978-4-86182-721-1
★シュタイナー『秘教講義』は第1巻が『霊学自由大学第一学級のための秘教講義』(全19講:ドルナハ:1924年2月15日~8月2日)で、巻頭には第2講から第19講までの美麗な黒板絵をカラーで収録しています。第2巻は『霊学自由大学第一学級のための秘教再講義』(全7講:ドルナハ:1924年9月6日~20日)と、各都市で行われた『霊学自由大学第一学級のための秘教講義』(2講:プラハ:1924年4月3日~5日、1講:ベルン:1924年4月17日、1講:ロンドン:1924年8月27日)を収め、付録として1923年と1924年の「クリスマス会議」より3講義と、訳者の高橋さんによる「「シュタイナー秘教講義」の読み方(第1講を例に)」が配されています。解説は飯塚立人さんがお書きになっています。
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★次にここ最近で注目している新刊を列記します。
『新版 アリストテレス全集(20)著作断片集2』國方栄二訳、2018年11月、本体6,000円、A5判上製函入512頁、ISBN978-4-00-092790-1
『人間知性研究』デイヴィッド・ヒューム著、神野慧一郎/中才敏郎訳、近代社会思想コレクション24:京都大学学術出版会、2018年12月、本体3,600円、四六判上製374頁、ISBN978-4-8140-0178-1
『小学生のための正書法辞典』ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン著、丘沢静也/荻原耕平訳、講談社学術文庫、2018年12月、本体1,110円、280頁、ISBN978-4-06-514094-9
『漂巽紀畧 全現代語訳』ジョン万次郎述、河田小龍記、北代淳二監修、谷村鯛夢訳、講談社学術文庫、2018年12月、本体800円、178頁、ISBN978-4-06-514262-2
『靖献遺言』浅見絅斎著、近藤啓吾訳注、講談社学術文庫、2018年12月、本体1,790円、560頁、ISBN978-4-06-514027-7
『物語批判序説』蓮實重彦著、講談社文芸文庫、2018年12月、本体2,100円、352頁、ISBN978-4-06-514065-9
『ラフォルグ抄』ジュール・ラフォルグ著、吉田健一訳、講談社文芸文庫、2018年12月、: 本体2,100円、368頁、ISBN978-4-06-514038-3
『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』丸山俊一/NHK「欲望の時代の哲学」制作班著、NHK出版新書、2018年12月、本体820円、240頁、ISBN978-4-14-088569-7
『オカルティズム――非理性のヨーロッパ』大野英士著、講談社選書メチエ、2018年12月、本体1,900円、320頁、ISBN978-4-06-514260-8
『記憶術全史――ムネモシュネの饗宴』桑木野幸司著、2018年12月、本体2,000円、352頁、ISBN978-4-06-514026-0
★『新版 アリストテレス全集(20)著作断片集2』は全20巻+別巻のうちの第18回配本。収録作品は書名のリンク先でご確認いただけます。そのほとんどは他の著者が伝えている断片です。散逸したか詳細不明となっている著作へのアリストテレス自身の言及も収めます。そうした著作のひとつ『哲学について』をめぐってはフィロンが『世界の永遠性について』の中で、アリストテレスの発言として次のような言葉を伝えています。「昔は、大風やとてつもない嵐が来たり、時の経過やしかるべき手入れを怠ったりすると、自分の家が倒れやしないかと心配したものだが、今は、議論で全宇宙を破滅させる人間のおかげで、もっと大きな恐怖がのしかかっている」(164頁)。付属ずる月報18によれば、次回配本は来春、第11巻『動物の発生について』。本巻で残る1冊、第14巻『形而上学』も来年刊行とのことです。別巻『総索引』には「用語集」も収録されると再告知されています。
★『小学生のための正書法辞典』はヴィトゲンシュタインが生前刊行した二冊のうちの一冊の初訳。もう一冊は『論理哲学論考』ですが、この主著が刊行されるまでに紆余曲折を経たのに比べて、『小学生のための正書法辞典』は比較的スムースに出版できたようです。その経緯や、教師としてのヴィトゲンシュタインの工夫は、巻頭の丘沢さんによる解説に詳しいです。またこの解説では、現代人から見てほとんどアウトな教師ぶりや、アスペルガー症候群の観点から見た哲学者像についても語られます。後者は福本修さんの論考「「心の理論」仮説と『哲学探究』――アスペルガー症候群〔から/を〕見たウィトゲンシュタイン」(『imago』1996年10月号「特集=自閉症」所収、144~163頁)を参考にされています。それにしても本書を文庫で出版するというのはなかなかハードルが高かったろうと思われます。
★ちなみに講談社さんは「講談社学術文庫大文字版オンデマンド」を人気既刊書600点以上で開始されました。同文庫は1976年創刊で、総刊行点数約2600点に上ります。投げ込みチラシには真っ先に天野貞祐訳『純粋理性批判』が記載されていて驚愕したのですが、ウェブにはまだ掲出されていないようです。書目は毎月追加されるようなので、推移を注視したいと思います。
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ナツメ書店(福岡)さんで弊社本を扱っていただいています
福岡のナツメ書店さんではながらく弊社刊のガシェ『いまだない世界を求めて』と、ドアノー『不完全なレンズで』を販売していただいています。特定の本を幾度となく補充して平積みでじっくり売ってくださるブレないスタンスには驚嘆するばかりです。現在の店舗は築100年の元時計店を改装したもので、カフェを併設。JR香椎線「西戸崎駅」より徒歩5分です。
ナツメ書店さんは一般社団法人リノベーションまちづくりセンターの書店事業として2014年12月に北九州市小倉北区魚町3-3-12 中屋ビル1F-4に所在する店舗6坪で書籍販売をスタートし、その後昨春(2017年3月末)に閉店。昨秋(2017年10月)より岡市東区西戸崎1-6-21に移転しリニューアルオープンされました。現在は個人経営のブックカフェです。
お近くへお越しの折はどうぞお立ち寄りください。
ナツメ書店さんは一般社団法人リノベーションまちづくりセンターの書店事業として2014年12月に北九州市小倉北区魚町3-3-12 中屋ビル1F-4に所在する店舗6坪で書籍販売をスタートし、その後昨春(2017年3月末)に閉店。昨秋(2017年10月)より岡市東区西戸崎1-6-21に移転しリニューアルオープンされました。現在は個人経営のブックカフェです。
お近くへお越しの折はどうぞお立ち寄りください。
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月刊「ムー」誌2019年1月号に、『来るべき種族』の特集記事
月刊「ムー」誌2019年1月号に2色刷り特集記事「地底世界の奇書『来るべき種族』解読:ナチス・ドイツを動かしたヴリル伝説の聖典」(文:宇佐和通、イラストレーション:不二本蒼生)が掲載され、弊社8月刊、ブルワー=リットン『来るべき種族』が取り上げられました。訳者の小澤正人さんへのインタビューも含まれています。15頁にわたる特集記事です。目次は以下の通り。
Chapter 01 ユートピア小説『来るべき種族』とは?
地底の超文明を描いたユートピア小説
ブルワー=リットンとはどんな人物なのか?
古代ギリシアの端を発するユートピア小説の長い歴史
想像力の喚起こそがユートピア小説の存在意義
Chapter 02 “ヴリル”とはいったい何だったのか?
地底人の操る謎のパワー、ヴリルの正体とは……
ヴリルは目に見えない神秘の力の総称だった
Chapter 03 アドルフ・ヒトラーはヴリルに魅せられた?
アーリア人はユートピアの住民の末裔だったのか?
ヒトラーに負のイメージを与えられた“優生学”
ネガティブな優生学を基にしたホロコースト
ヴリル=ヤの築いた文明とアーリア人至上主義の関係
Chapter 04 ナチス・ドイツが陥ったオカルト主義の罠
ヒトラーとトゥーレ協会、エッカートとの出会い
著名オカルティストが呪われたヒトラーを救った
Chapter 05 ヒトラーの呪縛とトランスヒューマニズム
脳裏に残る万能の言葉それが“ヴリル”だった
人種選別を目的としたナチス優生学が生んだもの
なお、同特集の冒頭部分が月刊ムー公式ウェブ「ムー PLUS」に「ナチスを動かしたヴリル伝説の聖典「来るべき種族」解読」と題して掲載されています。創刊40周年を迎えるという伝統ある同誌に弊社本を大々的に取り上げていただくことになろうとは感慨深いものがあります。
また『来るべき種族』については、「S-Fマガジン」2018年12月号「OVERSEAS」欄にて、冬木糸一さんが注目書の一冊として取り上げて下さっています。「ヴリルに含まれる超自然的、オカルト的な要素は後にブラヴァツキー夫人に影響を与えるなどどの歴史的意義もさることながら、異なる文明との接触譚、異種族との恋愛譚として今読んでもなかなかおもしろい」と評していただきました。
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Chapter 01 ユートピア小説『来るべき種族』とは?
地底の超文明を描いたユートピア小説
ブルワー=リットンとはどんな人物なのか?
古代ギリシアの端を発するユートピア小説の長い歴史
想像力の喚起こそがユートピア小説の存在意義
Chapter 02 “ヴリル”とはいったい何だったのか?
地底人の操る謎のパワー、ヴリルの正体とは……
ヴリルは目に見えない神秘の力の総称だった
Chapter 03 アドルフ・ヒトラーはヴリルに魅せられた?
アーリア人はユートピアの住民の末裔だったのか?
ヒトラーに負のイメージを与えられた“優生学”
ネガティブな優生学を基にしたホロコースト
ヴリル=ヤの築いた文明とアーリア人至上主義の関係
Chapter 04 ナチス・ドイツが陥ったオカルト主義の罠
ヒトラーとトゥーレ協会、エッカートとの出会い
著名オカルティストが呪われたヒトラーを救った
Chapter 05 ヒトラーの呪縛とトランスヒューマニズム
脳裏に残る万能の言葉それが“ヴリル”だった
人種選別を目的としたナチス優生学が生んだもの
なお、同特集の冒頭部分が月刊ムー公式ウェブ「ムー PLUS」に「ナチスを動かしたヴリル伝説の聖典「来るべき種族」解読」と題して掲載されています。創刊40周年を迎えるという伝統ある同誌に弊社本を大々的に取り上げていただくことになろうとは感慨深いものがあります。
また『来るべき種族』については、「S-Fマガジン」2018年12月号「OVERSEAS」欄にて、冬木糸一さんが注目書の一冊として取り上げて下さっています。「ヴリルに含まれる超自然的、オカルト的な要素は後にブラヴァツキー夫人に影響を与えるなどどの歴史的意義もさることながら、異なる文明との接触譚、異種族との恋愛譚として今読んでもなかなかおもしろい」と評していただきました。
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「intoxicate」137号(2018年12月)にAYUO『OUTSIDE SOCIETY』の書評
タワーレコードのフリーマガジン「intoxicate」137号(2018年12月10日発行)のOCHANOMA REVIEW「BOOK」欄に、弊社10月刊、AYUO『OUTSIDE SOCIETY』の書評「稀有な体験を糧に唯一無二の視点からの優れた音楽論」が掲載されました。評者は松山晋也さんです。「とにかく理屈抜きに面白い。体験してきた内容があまりにもレアであり、語り口が真正直すぎるから」。「大推薦」と評していただきました。
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注目新刊:ヴィーコ『新しい学の諸原理[1725年版]』上村忠男訳、ほか
★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳書:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
京都大学学術出版会の「近代社会思想コレクション」の第25弾として、ヴィーコ『新しい学の諸原理[1725年版]』の全訳を上梓されました。2018年はヴィーコ生誕350年で、上村さんは今年5月に、1744年版『新しい学』(全3巻、法政大学出版局、2007~2008年)の訳書を中公文庫より上下巻で再刊されています。ヴィーコの『新しい学』は三つの版があり、第一版が今回訳出された1725年の『諸国民の自然本性についての新しい学の諸原理――それをつうじて万民の自然法のいま一つ別の体系の諸原理が見いだされる』であり、それを全面的に書き直した第二版が1730年の第二版『諸国民の共通の自然本性についての新しい学の諸原理の五つの巻』で、文庫化されたのがそのさらなる増補改訂版である1744年の第三版『諸国民の共通の自然本性についての新しい学の諸原理』です。つまりこの第三版といういわば決定版と、ヴィーコ自身が『最初の新しい学』と呼ぶ第一版は基本的に別物であるため、今回の全訳の意義は大きいと言えるのではないでしょうか。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
新しい学の諸原理[1725年版]
ヴィーコ著 上村忠男訳
京都大学学術出版会 2018年12月 本体4,800円 四六上製578頁 ISBN978-4-8140-0186-6
★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
光文社古典新訳文庫より今月、ハイデガー『存在と時間5』を上梓されました。全8巻のうちの第5巻で、第一部第一篇第六章第三九節から第四四節までが収められています。
存在と時間5
ハイデガー著、中山元訳
光文社古典新訳文庫 2018年12月 本体1,240円 403頁 ISBN978-4-334-75391-7
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京都大学学術出版会の「近代社会思想コレクション」の第25弾として、ヴィーコ『新しい学の諸原理[1725年版]』の全訳を上梓されました。2018年はヴィーコ生誕350年で、上村さんは今年5月に、1744年版『新しい学』(全3巻、法政大学出版局、2007~2008年)の訳書を中公文庫より上下巻で再刊されています。ヴィーコの『新しい学』は三つの版があり、第一版が今回訳出された1725年の『諸国民の自然本性についての新しい学の諸原理――それをつうじて万民の自然法のいま一つ別の体系の諸原理が見いだされる』であり、それを全面的に書き直した第二版が1730年の第二版『諸国民の共通の自然本性についての新しい学の諸原理の五つの巻』で、文庫化されたのがそのさらなる増補改訂版である1744年の第三版『諸国民の共通の自然本性についての新しい学の諸原理』です。つまりこの第三版といういわば決定版と、ヴィーコ自身が『最初の新しい学』と呼ぶ第一版は基本的に別物であるため、今回の全訳の意義は大きいと言えるのではないでしょうか。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。
新しい学の諸原理[1725年版]
ヴィーコ著 上村忠男訳
京都大学学術出版会 2018年12月 本体4,800円 四六上製578頁 ISBN978-4-8140-0186-6
★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
光文社古典新訳文庫より今月、ハイデガー『存在と時間5』を上梓されました。全8巻のうちの第5巻で、第一部第一篇第六章第三九節から第四四節までが収められています。
存在と時間5
ハイデガー著、中山元訳
光文社古典新訳文庫 2018年12月 本体1,240円 403頁 ISBN978-4-334-75391-7
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注目新刊:フランチェスコ・コロンナ『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』八坂書房、ほか
『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ――全訳・ポリフィルス狂恋夢』フランチェスコ・コロンナ著、大橋喜之訳、八坂書房、2018年12月、本体6,900円、A5判上製858頁、ISBN978-4-89694-255-2
『西欧中世宝石誌の世界――アルベルトゥス・マグヌス『鉱物書』を読む』大槻真一郎著、澤元亙編、八坂書房、2018年8月、本体3,500円、A5判上製304頁、ISBN978-4-89694-252-1
『ゾシモスのヴィジョン――古代ギリシアの錬金術師による夢見の指南書』C・G・ユング著、老松克博訳、竜王文庫、2018年10月、本体1,800円、A5判並製140頁、ISBN978-4-89741-560-4
★『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』は1499年に刊行された幻想的な夢物語の初完訳。著者はドメニコ会士のフランチェスコ・コロンナとされていますが、詳細はよく分かっていません。今回の完訳書では、木版画172点をすべて掲載するほか、参考図版として1546年の仏訳初版本で増補された図版も抜粋して収録しています。さらに付録として、ピッコローミニ『フォルトゥナの夢』(1444年)、バンデッロ『巷談話集』(Ⅱ~Ⅳ)、ヴェルヴィル「『ポリフィロの夢』秘文字集成」(1600年仏語版扉絵解説)、ベラダン『ラブレーの鑰』第2章「ヒュプネロートマキア・ポリフィリ」が訳出されています。伝説的な奇書の翻訳を手掛けたのは昨春、魔術書の古典『ピカトリクス――中世星辰魔術集成』の訳書を八坂書房より上梓された大橋喜之さん。大橋さんのブログ「ヘルモゲネスを探して」では錬金術書の数々が試訳されています。
★なお、19世紀フランスの小説家シャルル・ノディエが『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』をめぐる愛書家の物語を書いたのが、「フランシスクス・コロンナ」(1843年)です。仏語からの日本語訳は、篠田知和基訳『炉辺夜話集』(牧神社、1978年)に収められており、さらには、仏語を英訳した私家版からの日本語への重訳として『フランチェスコ・コロンナ「ポリフィーロの夢」』(谷口伊兵衛訳、而立書房、2015年)が刊行されています。この而立書房版には『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』のあらすじが掲載されています。訳者あとがきには当時の情報として、『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』がありな書房より日向太郎訳で全訳予定だとの言及があります。さらに言うと現在もウィキペディアの「高山宏」さんの項目では『完訳 ポリフィロス狂恋夢』(東洋書林、2018年以降予定)と記載されています。本作がなぜこれほどまでに愛され、出版を目指されるのか。書物史において内容的にも造本的にも記念碑的なものだったと知るためには、ウィキペディアの「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」の項をご覧になるのが手っ取り早いと思います。
★八坂書房さんでは今夏、アルベルトゥス・マグヌス『鉱物書』と彼に帰せられる偽書『秘密の書』の、故・大槻真一郎さんによる訳解書を出版されています。本書は、コスモス・ライブラリー版「ヒーリング錬金術」シリーズの既刊書4点中の3点、すなわち、オルフェウス『リティカ』やマルボドゥス『石について』などの鉱物論を扱った『中世宝石讃歌と錬金術――神秘的医薬の展開』(2017年8月)、ビンゲンのヒルデガルトを読み解く『ヒルデガルトの宝石論――神秘の宝石療法』(2017年11月)、偽アリストテレス『鉱物書』を読む『アラビアの鉱物書――鉱物の神秘的薬効』(2018年3月)に続く、大槻さんの連作の最後のものです。科学文化史の一隅を照射する先達の地道な研鑽に深い敬意を覚えます。ちなみに朝倉書店の「科学史ライブラリー」では、アルベルトゥス・マグヌス『鉱物論』(沓掛俊夫訳、2004年)の全訳が刊行されています。
★『ゾシモスのヴィジョン』は、『Von den Wurzeln des Bewusstseins : Studien über den Archetypus』(Rascher, 1954)所収の論考「Die Visionen des Zosimos」の全訳。訳者による序「ユングとゾシモス」にはこう書かれています。「本書は、分析心理学と呼ばれる壮大な深層心理学の体系を打ち立てたカール・グスタフ・ユング(1875~1961年)が、古代ギリシアの著名な錬金術師パノポリスのゾシモス(3世紀)の見た夢ないしはヴィジョンを素材として、時や場所に縛られることなく万人の心のなかで働き続けている癒しや救いのメカニズムを描き出したものである。慣れない読者は、いきなり「錬金術」と聞いても戸惑われると思うが、あとであらためて説明するように、錬金術師たちは内なる癒しや救いのプロセスを観察してその本質に迫る専門家だった」(3頁)。目次は以下の通りです。
ユングとゾシモス――訳者による序(老松克博)
ゾシモスのヴィジョン
第1部 テクスト
第2部 注解
第1章 ゾシモスの解釈についての全般的見解
第2章 犠牲の行為
第3章 人格化
第4章 石の象徴学
第5章 水の象徴学
第6章 このヴィジョンの起源
原註・訳註
ゾシモスの夢見の術を盗み取る――「夢うつつ法」が開く世界(老松克博)
訳者あとがき
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★続いてここ最近では次の新刊や近刊との出会いがありました。
『TANKURI――創造性を撃つ』中村恭子+郡司ペギオ幸夫著、水声社、2018年12月、本体4,000円、B5判上製フルカラー198頁、ISBN978-4-8010-0389-7
『吉本隆明全集18[1980-1982]』吉本隆明著、晶文社、2019年1月、本体6,800円、A5判変型上製672頁、ISBN978-4-7949-7118-0
『(あまり)病気をしない暮らし』仲野徹著、晶文社、2018年12月、本体1,600円、四六判並製304頁、ISBN978-4-7949-7065-7
『江戸の古本屋――近世書肆のしごと』橋口侯之介著、平凡社、2018年12月、本体3,800円、4-6判上製336頁、ISBN978-4-582-46822-9
★『TANKURI』はまもなく発売。今年刊行された思想書の中でもっとも美しい一冊だと断言しても良いと思います。郡司さんは巻頭の「本書について」でこう書いています。「本書は、日本画家である中村恭子の作品を題材にしながら、創造とは何か、藝術とは何かについて郡司と中村が論じた、或る種の理論書である。多くの場合、中村の製作段階から郡司と中村は議論しており、中村の制作順序を示す本書の章立ては、そのまま理論の進化・深化を進めるものになっている」(7頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。周知の通り、郡司さんの『いきものとなまものの哲学』(青土社、2014年)のカバー装画は中村さんによるものでした。今回の合作は「画集であり理論書でもある」(186頁)ユニークな書。「藝術は、これからの科学や工学の基礎さえ与えるものなのである」(同頁)という郡司さんの言葉が印象的です。なお郡司さんは2019年1月12日発売予定ので著書『天然知能』を講談社選書メチエより上梓されるご予定です。
★『吉本隆明全集18[1980-1982]』は来月上旬発売予定の第19回配本。全6部構成で、Ⅰ部が『空虚としての主題』(1982年)、Ⅱ部が『源氏物語論』(1982年)、Ⅲ部は1981年発表の詩15篇、Ⅳ部は「アジア的ということ」(1980~83年)、Ⅴ部は1981年の主要な評論・講演・エッセイ、Ⅵ部はアンケートや推薦文、あとがきなどを収録しています。付属する月報19は、山本かずこ「「吉本隆明」に憧れる」、安藤礼二「「母型」を求め続けた人」、ハルノ宵子「花見と海と忘年会」を収録。ハルノさんのエッセイでは晶文社の現社長との出会いの縁が明かされています。次回配本は4月刊予定、第19巻とのことです。
★『(あまり)病気をしない暮らし』は発売済。積水ハウス総合住宅研究所が運営する体験型施設「住ムフムラボ」の公式サイトで連載されたコラムに、大幅加筆改稿したもの。章立ては書名のリンク先でご確認いただけます。昨秋に上梓された『こわいもの知らずの病理学講義』の「二匹目のドジョウを狙っております」と冗談めかしておられますけれども、今回も軽妙な筆致で病気、食事、ダイエット、遺伝、飲酒、がん予防、風邪、等々を解説し、読者の蒙を啓いて下さいます。今の季節はちょうどインフルエンザや風邪が流行っていますが、本書にはこんな一節があります。「副作用もなく、風邪が一日早く治るという夢のような方法〔…〕それは、お医者さんに誠意をもって共感してもらう、ということ」(262頁)。何ですって、と驚いてしまうのですが、色んな研究成果をさらっと教えて下さるのが本書の良いところです。
★『江戸の古本屋』は発売済。「日本古書通信」の連載「江戸の古本屋」(2007年12月号~2012年6月号を改稿したもの。「本書の目的は、江戸時代の本屋の実態を明らかにし、書籍の幅広い流通形態を見ることにある。そこに古本の占める業務の割合が大きいことを示そうと思う。また、そのためにどのような仕組みがあったかを明らかにする。書籍業界の特殊性が浮き彫りにされるからだ。その最も基本的な姿が、本屋は出版、新刊販売、問屋業務だけでなく、古本も扱う奥行きの深さにある」(25頁)。「終章でも述べるとおり、江戸的な本屋は明治二十年頃を境に事実上滅んでしまう。とくに出版部門ではがらりと担い手が変わった。そこに見られたのは、江戸時代の本屋があまりにも自己発展してしまい、近代の出版界におけるいわゆるグローバリズムに乗り損ねる姿だった。〔…〕明治二十年にあったのは、それまで書物にかかわってきた人間のメンタリティが崩れてしまったことに原因があったと私は考えている。それと同じ事がこれから起きないように、歴史を顧みることがきわめて大切だと本書に思いをこめた次第である」(8~9頁)。著者の橋口侯之介(はしぐち・こうのすけ:1947-)さんは神保町の誠心堂書店店主。本書の目次詳細を以下に転記しておきます。
まえがき
序章 江戸時代の本屋というもの
第1章 本屋の日記から――風月庄左衛門の『日暦』
1 同業者集団の意義
2 古本の業務
3 風月庄左衛門の出版
4 江戸の本屋・松沢老泉の日記
第2章 本屋仲間と古本
1 同業者仲間の意義
2 本屋仲間の成立へ
3 仲間における古本部門
4 江戸時代古書市の利用規程
5 もう一つの古本流通――売子・セドリ・貸本屋
第3章 江戸時代の書籍流通
1 本屋の特殊な業務
2 本屋間の独特の精算法――本替・入銀
3 私家版と本屋
4 唐本の流通
5 草紙屋
6 地方の本屋――博多と名古屋の事例
第4章 経師の役割――書物の担い手として
終章 書物の明治二十年問題
1 明治初期の古本屋
2 出版業界の激動――明治二十年問題とは
注
★「江戸時代の本屋が出版から、卸、販売、古本売買、貸本など本に関する幅広い業務をこなしていたことは、作るところから売り買いまで本屋と顧客の間が直結していて、それぞれが本に対する意識を共有していた。大量生産は出版社と読者の間に取次、書店が入り込むことで、この直接的な意識共有を分断してしまった。出版を担うものは「売れ行き」という数字でしか読者を知らない。このような精神面での変化も見逃してはならないだろう。本をつくる、売る、読む、伝えるという全体像がばらばらになって専門化した結果、それぞれの個々は全体を再構成できなくなってしまったのではないか?「本とは何か」という本質が見えなくなってしまった。来るべき出版像は再び大変動を余儀なくされるだろう。その時、もう一度、「本とは何か」を追究すべきである」(327頁)。
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『西欧中世宝石誌の世界――アルベルトゥス・マグヌス『鉱物書』を読む』大槻真一郎著、澤元亙編、八坂書房、2018年8月、本体3,500円、A5判上製304頁、ISBN978-4-89694-252-1
『ゾシモスのヴィジョン――古代ギリシアの錬金術師による夢見の指南書』C・G・ユング著、老松克博訳、竜王文庫、2018年10月、本体1,800円、A5判並製140頁、ISBN978-4-89741-560-4
★『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』は1499年に刊行された幻想的な夢物語の初完訳。著者はドメニコ会士のフランチェスコ・コロンナとされていますが、詳細はよく分かっていません。今回の完訳書では、木版画172点をすべて掲載するほか、参考図版として1546年の仏訳初版本で増補された図版も抜粋して収録しています。さらに付録として、ピッコローミニ『フォルトゥナの夢』(1444年)、バンデッロ『巷談話集』(Ⅱ~Ⅳ)、ヴェルヴィル「『ポリフィロの夢』秘文字集成」(1600年仏語版扉絵解説)、ベラダン『ラブレーの鑰』第2章「ヒュプネロートマキア・ポリフィリ」が訳出されています。伝説的な奇書の翻訳を手掛けたのは昨春、魔術書の古典『ピカトリクス――中世星辰魔術集成』の訳書を八坂書房より上梓された大橋喜之さん。大橋さんのブログ「ヘルモゲネスを探して」では錬金術書の数々が試訳されています。
★なお、19世紀フランスの小説家シャルル・ノディエが『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』をめぐる愛書家の物語を書いたのが、「フランシスクス・コロンナ」(1843年)です。仏語からの日本語訳は、篠田知和基訳『炉辺夜話集』(牧神社、1978年)に収められており、さらには、仏語を英訳した私家版からの日本語への重訳として『フランチェスコ・コロンナ「ポリフィーロの夢」』(谷口伊兵衛訳、而立書房、2015年)が刊行されています。この而立書房版には『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』のあらすじが掲載されています。訳者あとがきには当時の情報として、『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』がありな書房より日向太郎訳で全訳予定だとの言及があります。さらに言うと現在もウィキペディアの「高山宏」さんの項目では『完訳 ポリフィロス狂恋夢』(東洋書林、2018年以降予定)と記載されています。本作がなぜこれほどまでに愛され、出版を目指されるのか。書物史において内容的にも造本的にも記念碑的なものだったと知るためには、ウィキペディアの「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」の項をご覧になるのが手っ取り早いと思います。
★八坂書房さんでは今夏、アルベルトゥス・マグヌス『鉱物書』と彼に帰せられる偽書『秘密の書』の、故・大槻真一郎さんによる訳解書を出版されています。本書は、コスモス・ライブラリー版「ヒーリング錬金術」シリーズの既刊書4点中の3点、すなわち、オルフェウス『リティカ』やマルボドゥス『石について』などの鉱物論を扱った『中世宝石讃歌と錬金術――神秘的医薬の展開』(2017年8月)、ビンゲンのヒルデガルトを読み解く『ヒルデガルトの宝石論――神秘の宝石療法』(2017年11月)、偽アリストテレス『鉱物書』を読む『アラビアの鉱物書――鉱物の神秘的薬効』(2018年3月)に続く、大槻さんの連作の最後のものです。科学文化史の一隅を照射する先達の地道な研鑽に深い敬意を覚えます。ちなみに朝倉書店の「科学史ライブラリー」では、アルベルトゥス・マグヌス『鉱物論』(沓掛俊夫訳、2004年)の全訳が刊行されています。
★『ゾシモスのヴィジョン』は、『Von den Wurzeln des Bewusstseins : Studien über den Archetypus』(Rascher, 1954)所収の論考「Die Visionen des Zosimos」の全訳。訳者による序「ユングとゾシモス」にはこう書かれています。「本書は、分析心理学と呼ばれる壮大な深層心理学の体系を打ち立てたカール・グスタフ・ユング(1875~1961年)が、古代ギリシアの著名な錬金術師パノポリスのゾシモス(3世紀)の見た夢ないしはヴィジョンを素材として、時や場所に縛られることなく万人の心のなかで働き続けている癒しや救いのメカニズムを描き出したものである。慣れない読者は、いきなり「錬金術」と聞いても戸惑われると思うが、あとであらためて説明するように、錬金術師たちは内なる癒しや救いのプロセスを観察してその本質に迫る専門家だった」(3頁)。目次は以下の通りです。
ユングとゾシモス――訳者による序(老松克博)
ゾシモスのヴィジョン
第1部 テクスト
第2部 注解
第1章 ゾシモスの解釈についての全般的見解
第2章 犠牲の行為
第3章 人格化
第4章 石の象徴学
第5章 水の象徴学
第6章 このヴィジョンの起源
原註・訳註
ゾシモスの夢見の術を盗み取る――「夢うつつ法」が開く世界(老松克博)
訳者あとがき
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★続いてここ最近では次の新刊や近刊との出会いがありました。
『TANKURI――創造性を撃つ』中村恭子+郡司ペギオ幸夫著、水声社、2018年12月、本体4,000円、B5判上製フルカラー198頁、ISBN978-4-8010-0389-7
『吉本隆明全集18[1980-1982]』吉本隆明著、晶文社、2019年1月、本体6,800円、A5判変型上製672頁、ISBN978-4-7949-7118-0
『(あまり)病気をしない暮らし』仲野徹著、晶文社、2018年12月、本体1,600円、四六判並製304頁、ISBN978-4-7949-7065-7
『江戸の古本屋――近世書肆のしごと』橋口侯之介著、平凡社、2018年12月、本体3,800円、4-6判上製336頁、ISBN978-4-582-46822-9
★『TANKURI』はまもなく発売。今年刊行された思想書の中でもっとも美しい一冊だと断言しても良いと思います。郡司さんは巻頭の「本書について」でこう書いています。「本書は、日本画家である中村恭子の作品を題材にしながら、創造とは何か、藝術とは何かについて郡司と中村が論じた、或る種の理論書である。多くの場合、中村の製作段階から郡司と中村は議論しており、中村の制作順序を示す本書の章立ては、そのまま理論の進化・深化を進めるものになっている」(7頁)。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。周知の通り、郡司さんの『いきものとなまものの哲学』(青土社、2014年)のカバー装画は中村さんによるものでした。今回の合作は「画集であり理論書でもある」(186頁)ユニークな書。「藝術は、これからの科学や工学の基礎さえ与えるものなのである」(同頁)という郡司さんの言葉が印象的です。なお郡司さんは2019年1月12日発売予定ので著書『天然知能』を講談社選書メチエより上梓されるご予定です。
★『吉本隆明全集18[1980-1982]』は来月上旬発売予定の第19回配本。全6部構成で、Ⅰ部が『空虚としての主題』(1982年)、Ⅱ部が『源氏物語論』(1982年)、Ⅲ部は1981年発表の詩15篇、Ⅳ部は「アジア的ということ」(1980~83年)、Ⅴ部は1981年の主要な評論・講演・エッセイ、Ⅵ部はアンケートや推薦文、あとがきなどを収録しています。付属する月報19は、山本かずこ「「吉本隆明」に憧れる」、安藤礼二「「母型」を求め続けた人」、ハルノ宵子「花見と海と忘年会」を収録。ハルノさんのエッセイでは晶文社の現社長との出会いの縁が明かされています。次回配本は4月刊予定、第19巻とのことです。
★『(あまり)病気をしない暮らし』は発売済。積水ハウス総合住宅研究所が運営する体験型施設「住ムフムラボ」の公式サイトで連載されたコラムに、大幅加筆改稿したもの。章立ては書名のリンク先でご確認いただけます。昨秋に上梓された『こわいもの知らずの病理学講義』の「二匹目のドジョウを狙っております」と冗談めかしておられますけれども、今回も軽妙な筆致で病気、食事、ダイエット、遺伝、飲酒、がん予防、風邪、等々を解説し、読者の蒙を啓いて下さいます。今の季節はちょうどインフルエンザや風邪が流行っていますが、本書にはこんな一節があります。「副作用もなく、風邪が一日早く治るという夢のような方法〔…〕それは、お医者さんに誠意をもって共感してもらう、ということ」(262頁)。何ですって、と驚いてしまうのですが、色んな研究成果をさらっと教えて下さるのが本書の良いところです。
★『江戸の古本屋』は発売済。「日本古書通信」の連載「江戸の古本屋」(2007年12月号~2012年6月号を改稿したもの。「本書の目的は、江戸時代の本屋の実態を明らかにし、書籍の幅広い流通形態を見ることにある。そこに古本の占める業務の割合が大きいことを示そうと思う。また、そのためにどのような仕組みがあったかを明らかにする。書籍業界の特殊性が浮き彫りにされるからだ。その最も基本的な姿が、本屋は出版、新刊販売、問屋業務だけでなく、古本も扱う奥行きの深さにある」(25頁)。「終章でも述べるとおり、江戸的な本屋は明治二十年頃を境に事実上滅んでしまう。とくに出版部門ではがらりと担い手が変わった。そこに見られたのは、江戸時代の本屋があまりにも自己発展してしまい、近代の出版界におけるいわゆるグローバリズムに乗り損ねる姿だった。〔…〕明治二十年にあったのは、それまで書物にかかわってきた人間のメンタリティが崩れてしまったことに原因があったと私は考えている。それと同じ事がこれから起きないように、歴史を顧みることがきわめて大切だと本書に思いをこめた次第である」(8~9頁)。著者の橋口侯之介(はしぐち・こうのすけ:1947-)さんは神保町の誠心堂書店店主。本書の目次詳細を以下に転記しておきます。
まえがき
序章 江戸時代の本屋というもの
第1章 本屋の日記から――風月庄左衛門の『日暦』
1 同業者集団の意義
2 古本の業務
3 風月庄左衛門の出版
4 江戸の本屋・松沢老泉の日記
第2章 本屋仲間と古本
1 同業者仲間の意義
2 本屋仲間の成立へ
3 仲間における古本部門
4 江戸時代古書市の利用規程
5 もう一つの古本流通――売子・セドリ・貸本屋
第3章 江戸時代の書籍流通
1 本屋の特殊な業務
2 本屋間の独特の精算法――本替・入銀
3 私家版と本屋
4 唐本の流通
5 草紙屋
6 地方の本屋――博多と名古屋の事例
第4章 経師の役割――書物の担い手として
終章 書物の明治二十年問題
1 明治初期の古本屋
2 出版業界の激動――明治二十年問題とは
注
★「江戸時代の本屋が出版から、卸、販売、古本売買、貸本など本に関する幅広い業務をこなしていたことは、作るところから売り買いまで本屋と顧客の間が直結していて、それぞれが本に対する意識を共有していた。大量生産は出版社と読者の間に取次、書店が入り込むことで、この直接的な意識共有を分断してしまった。出版を担うものは「売れ行き」という数字でしか読者を知らない。このような精神面での変化も見逃してはならないだろう。本をつくる、売る、読む、伝えるという全体像がばらばらになって専門化した結果、それぞれの個々は全体を再構成できなくなってしまったのではないか?「本とは何か」という本質が見えなくなってしまった。来るべき出版像は再び大変動を余儀なくされるだろう。その時、もう一度、「本とは何か」を追究すべきである」(327頁)。
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月曜社の出版物【2018】
弊社は2018年12月7日で創業満18周年を迎え、19年目の営業へと入りました。今年一年の皆様のご愛顧に深く御礼申し上げます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
◎2018年の発行/発売実績
自社発行
01月31日:ヴィンフリート・メニングハウス『生のなかば』本体2,500円、叢書・エクリチュールの冒険10【独文/詩論】
02月16日:『多様体 第1号:人民/群衆』本体2,500円【思想誌】
03月16日:佐藤真理恵『仮象のオリュンポス』本体3,400円、シリーズ・古典転生本巻16【表象文化論】
04月05日:ジャン=リュック・ナンシー『ミューズたち』本体2,700円、芸術論叢書5【芸術論】
04月24日:岡田聡/野内聡編『交域する哲学』本体3,500円【哲学】
05月22日:荒木優太『仮説的偶然文学論』本体2,000円、哲学への扉1【日文/批評】
06月27日:岡田温司『アガンベンの身振り』本体1,500円、哲学への扉2【人文/哲学】
08月16日:ステファヌ・マラルメ『詩集』本体2,200円、叢書・エクリチュールの冒険11【仏文/詩】
08月20日:エドワード・ブルワー=リットン『来るべき種族』本体2,400円、叢書・エクリチュールの冒険12【英文/小説】
10月01日:AYUO『OUTSIDE SOCIETY』本体2,000円【音楽】
10月05日:東琢磨/川本隆史/仙波希望編『忘却の記憶 広島』本体2,400円【歴史】
12月17日:『森山大道写真集成(1)にっぽん劇場写真帖』本体6,000円【写真】
自社重版
03月07日:ドリーン・マッシー『空間のために』2刷【社会】
04月13日:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』8刷【哲学】
発売元請負
04月23日:表象文化論学会『表象12:展示空間のシアトリカリティ』本体2,000円【人文・思想】
製作請負
11月21日:日本ヤスパース協会『コムニカチオン 第25号』【哲学】
以上、自社本12点、重版2点、発売元請負1点、製作請負1点でした。19期目も出版事業に微力を尽くします。どうぞよろしくお願いいたします。
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◎2018年の発行/発売実績
自社発行
01月31日:ヴィンフリート・メニングハウス『生のなかば』本体2,500円、叢書・エクリチュールの冒険10【独文/詩論】
02月16日:『多様体 第1号:人民/群衆』本体2,500円【思想誌】
03月16日:佐藤真理恵『仮象のオリュンポス』本体3,400円、シリーズ・古典転生本巻16【表象文化論】
04月05日:ジャン=リュック・ナンシー『ミューズたち』本体2,700円、芸術論叢書5【芸術論】
04月24日:岡田聡/野内聡編『交域する哲学』本体3,500円【哲学】
05月22日:荒木優太『仮説的偶然文学論』本体2,000円、哲学への扉1【日文/批評】
06月27日:岡田温司『アガンベンの身振り』本体1,500円、哲学への扉2【人文/哲学】
08月16日:ステファヌ・マラルメ『詩集』本体2,200円、叢書・エクリチュールの冒険11【仏文/詩】
08月20日:エドワード・ブルワー=リットン『来るべき種族』本体2,400円、叢書・エクリチュールの冒険12【英文/小説】
10月01日:AYUO『OUTSIDE SOCIETY』本体2,000円【音楽】
10月05日:東琢磨/川本隆史/仙波希望編『忘却の記憶 広島』本体2,400円【歴史】
12月17日:『森山大道写真集成(1)にっぽん劇場写真帖』本体6,000円【写真】
自社重版
03月07日:ドリーン・マッシー『空間のために』2刷【社会】
04月13日:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』8刷【哲学】
発売元請負
04月23日:表象文化論学会『表象12:展示空間のシアトリカリティ』本体2,000円【人文・思想】
製作請負
11月21日:日本ヤスパース協会『コムニカチオン 第25号』【哲学】
以上、自社本12点、重版2点、発売元請負1点、製作請負1点でした。19期目も出版事業に微力を尽くします。どうぞよろしくお願いいたします。
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注目新刊:『現代思想2019年1月号 特集=現代思想の総展望2019:ポスト・ヒューマニティーズ』ほか
『現代思想2019年1月号 特集=現代思想の総展望2019:ポスト・ヒューマニティーズ』青土社、2018年12月、本体1,700円、A5判並製310頁、ISBN978-4-7917-1375-2
『欲望会議――「超」ポリコレ宣言』千葉雅也/二村ヒトシ/柴田英里著、角川書店、2018年12月、四六判並製272頁、ISBN978-4-04-400212-1
『人文学の論理――五つの論考』エルンスト・カッシーラー著、齊藤伸訳、知泉書館、2018年12月、本体3,200円、4-6判上製246頁、ISBN978-4-86825-287-8
★「現代思想」誌は近年では創刊40周年となる2013年1月号に「特集=現代思想の総展望」を年頭に組み、その後、2014年1月号「特集=現代思想の転回2014:ポスト・ポスト構造主義へ」、2015年1月号「特集=現代思想の新展開2015:思弁的実在論と新しい唯物論」、2016年1月号「特集=ポスト現代思想」、2017年1月号「特集=トランプ以後の世界」、2018年1月号「特集=現代思想の総展望2018」、2019年1月号「特集=現代思想の総展望2019:ポスト・ヒューマニティーズ」と続いています。「現代思想の総展望」は創刊号である1973年1月号の特集名でもあり、1974年1月号「全頁特集=現代思想の総展望'74」、1979年12月号「特集=現代思想の総展望」、1983年1月号「特集=現代思想の総展望'83」と受け継がれていきます。
★2013年以降の1月特集号はいわば年末年始のまとめであり、版元営業マンにせよ書店員にせよ司書にせよ読者にせよ最低限この号だけはチェックしておくべきものです。最新版である「ポスト・ヒューマニティーズ」は同名のブックフェアが大型書店で開催されている通り、人文書なかんずく哲学思想書の最前線を書棚において視覚化する試みに資するものとなっています。特に飯盛元章さんによる「ポスト・ヒューマニティーズの思想地図と小事典」はキーワード、キーパーソンに加え人物相関図が付されており、分類や棚編集に関わっている人々にとって参考になるはずです。
★巻頭の討議、小泉義之/千葉雅也/仲山ひふみ「思弁的実在論「以後」とトランプ時代の諸問題」は、同じく千葉さんが参加しておられる鼎談本、千葉雅也/二村ヒトシ/柴田英里『欲望会議――「超」ポリコレ宣言』とともにひもとくのが良いかと思います。共通点は千葉さんの上着や司会者としての立場という以上に、次の発言に表れていると感じます。「旧来的な人文主義を引き継ぐということに対して、何か齟齬を来すような理論的方向性が出てきている。それは現状ではアカデミズムとぶつかるかもしれないが、今後のアカデミズムはそういうものをむしろ養分にしていくのかもしれない」(26頁)。
★いっぽう『欲望会議』の最後の方で千葉さんは、文化におけるそうした齟齬の消極的な側面を次のように分析しています。「20世紀を通して、ありとあらゆるジャンルでほとんどのパターンが出尽くしてしまい、もはや新しいものを作れなくなっている。すでにあるもののアレンジにしかならない状況になって、その中で育ってきている人たちは、新しいものをつくるという意識がほとんどないというか、昔の素材をシャッフルしてどうにかなるみたいな感じになっていると思うんですよね」(266頁)。「その状況と、身体の境界をつくりだせないということは、たぶんつながっているんです。あらゆる文化ネタが、もう出尽くしてしまったということと、みんなが共感の時代になっているということは、たぶんイコールだと思う。要するに、未知がないわけですよ。新しいコンテンツがないというのもそうだし、「他者」という新しいコンテンツもないんですよ」(267頁)。
★「現代人は、かつての、つまり20世紀までの人間から、何か深いレベルでの変化を遂げつつあるのではないか」(序、7頁)という千葉さんの仮説は、千葉さん以前にも様々な論者が主張してきたことです。しかし、だからと言ってその内容が凡庸であるわけではありません。人間の変容にはそれだけ長い時間がかかるし、人間はそもそも変化し続けているということを意味しているでしょう。書店や図書館ではいかなる新刊も従来の分類に立て分けようとせざるをえないわけですが、そこからはみだしていくコンテンツによって分類は定義し直されなければならないし、必要とあれば暫定的な新しいラベルを作成することも重要です。新たな人間像が、従来の人間像を見る視点からは捉えられないものなのかどうかについては、人間どうしの様々な差異や、人間と動物、人間と機械の境界が少しずつ書き換えられつつある「非人間化」の現在においては、困難な問いであることでしょう。
★その点、カッシーラーが示唆した文化学(もしくは人間学)としての人文学は、人間の変化を見とどける長距離の射程を意識しているように思われます。1942年に公刊された『Zur Logik der Kulturwissenschaften. Fünf Studien』の新訳『人文学の論理』においてカッシーラーはこう述べています。「或る主観が――そこで問題となるものが或る個人であれ、或る時代の全体であれ――他の主観のなかへと解消され、それにまったく献身すべく我を忘れる用意ができているときにはいつも、新たな、いっそう深い意味で自分自身を発見するのである」(173~174頁)。『人文学の論理』はかつて『人文科学の論理――五つの試論』(中村正雄訳、創文社、1976年)として日本でも親しまれてきました。カッシーラーの「シンボル形式の哲学」が提示する総合的な人間理解がその真価を問われるのはむしろ21世紀においてなのかもしれないと感じます。
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★続いて、まもなく発売となるちくま学芸文庫5点をご紹介します。
『インドの思想』川崎信定著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,000円、240頁、ISBN978-4-480-09872-6
『増補 死者の救済史――供養と憑依の宗教学』池上良正著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,200円、352頁、ISBN978-4-480-09899-3
『ラーメンの誕生』岡田哲著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,000円、256頁、ISBN978-4-480-09900-6
『現代の初等幾何学』赤攝也著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,000円、192頁、ISBN978-4-480-09897-9
『不思議な数eの物語』E・マオール著、伊理由美訳、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,500円、400頁、ISBN978-4-480-09908-2
★『インドの思想』は1993年に放送大学教育振興会より刊行された単行本の再刊。巻末に文庫版あとがきが加えられています。「長い歴史を持ち、多くの異なった民族からなり、異なった伝統文化を併存させる国インドでは、日本人には想像できないほど、人々の考え方の振幅も大きいのです。そしてそれだけにインドは、豊かな精神的伝統を持った国でもあるのです」(3~4頁)。
★『増補 死者の救済史』は、2003年に刊行された角川選書版の増補文庫化。親本に対する書評への応答として発表された「靖国信仰の個人性」(2006年/2008年)が改稿されて補論として巻末に収められ、さらに文庫版あとがきが追加されています。「祭神への「つつしみ」や「敬意」とは、決してそれを一括して「殉国の英雄」として褒め称えることでも、「侵略戦争の犠牲者」として同情することでもない。〔…〕246万の英霊というとき、そこには246万通りの死があり、246万の生の軌跡があり、246万組の遺族がいたのだ。この当たり前の事実に冷静に立ち返ることが、今こそ重要になっていると思う」(補論、334頁)。
★『ラーメンの誕生』は2002年刊のちくま新書からのスイッチ。「ラーメンは、いつ頃、どこで、誰が創作したものなのか。たくさんの資料を収集し調べてみたが、万民が認めるようなルーツの特定はできない。なかなかの難問なのである。札幌説・東京説・横浜説など、ご当地をルーツとするさまざまなエピソードがある。〔…〕このことは、例えば、そば切りの起源に、信濃説・甲州説・塩尻説などがあり、決定的な資料が発掘されない限り、優劣がつけにくいのに似ている」(20頁)。
★『現代の初等幾何学』は1988年に日本評論社から刊行された単行本の再刊。巻頭に「文庫化に際して」、巻末に「文庫版付記」が追加されています。「本書は初頭幾何への入門書であると同時に教科書でもある。これまでの幾何の本の多くは、率直にいえば問題集であって、数学書とは言えない。/それに反し、本書は問題が解けるようになるまでを懇切に説明している」(3頁)。「数学の本質は有限論理主義なのである」(186頁)。
★『不思議な数eの物語』は1999年に岩波書店より刊行された単行本の再刊。原書は『e:The Story of a Number』(Princeton University Press, 1994)で、底本は若干の追補と変更が施された1998年版です。訳者は2013年に逝去されており、新たな訳者あとがきや解説は付されていません。「ネーピア〔John Napier, 1550-1617〕および自然対数の底eを主役にしたまとまった解説書としては、1994年刊行の本書が世界最初のものであろう」と訳者あとがきに帰されています。
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★最後に最近出会った新刊を列記します。
『ナーブルスィー神秘哲学集成』アブドゥルガニー・ナーブルスィー著、山本直輝訳、中田考監訳、作品社、2018年12月、本体4,800円、A5判上製336頁、ISBN978-4-86182-730-3
『アメリカ侵略全史――第2次大戦後の米軍・CIAによる軍事介入・政治工作・テロ・暗殺』ウィリアム・ブルム著、益岡賢/大矢健/いけだよしこ訳、作品社、2018年11月、本体3,800円、A5判並製726頁、ISBN978-4-86182-689-4
『ラディカルな意志のスタイルズ[完全版]』スーザン・ソンタグ著、管啓次郎/波戸岡景太訳、河出書房新社、2018年12月、本体3,000円、46変形判並製368頁、ISBN978-4-309-20762-9
『すべての、白いものたちの』ハン・ガン著、斎藤真理子訳、河出書房新社、2018年12月、本体2,000円、46変形判上製192頁、ISBN978-4-309-20760-5
★『ナーブルスィー神秘哲学集成』は、18世紀オスマン朝シリアのスーフィー思想家アブドゥルガニー・ナーブルスィー(1641-1731)の神秘哲学にかんする著作2点、「存在の唯一性の意味の指示対象の解明」と「イスラームの本質とその秘儀」全7章の日本語訳を収めた、本邦初訳の貴重な一冊。巻頭に監訳者による序「末法の神学――存在一性論とは?」、巻末に訳者解説「ナーブルスィーとその思想」を配しています。
★『アメリカ侵略全史』は『Killing Hope: U.S. Military and C.I.A. Interventions since World War II』(Zed Books, 2014)の全訳。原著初版は『CIA:忘れられた歴史』という書名で刊行され、その後大幅な増補改訂版が1995年に刊行。さらに2000年、2003年と改訂版が上梓され、2014年には最新版(アップデート版)が出版されています。「米国が第二次世界大戦後に世界中で行った政治的・軍事的介入の包括的な記録」(訳者あとがき、708頁)であり、大著ながら世界10か国で翻訳されているとのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。日本に関する記述は本文にはありませんが、益岡賢さんによる訳者あとがき「世界と日本の「本当の戦後史」を知るために」では言及があります。ちなみに著者の既訳書『アメリカの国家犯罪全書』(作品社、2003年)第18章「選挙操作」ではCIAが1958年から70年代にわたって国政選挙において自民党に資金援助してきたことが暴かれています。なお著者ブルム(William Blum, 1933-2018)は先月亡くなっています。閑却しえない重要書です。
★『ラディカルな意志のスタイルズ[完全版]』は、川口喬一訳『ラディカルな意志のスタイル』(晶文社、1974年)以来の新訳。原著『Styles of Radical Will』は1969年刊。共訳者の波戸岡さんのブログ記事によれば「[完全版]と銘打っているのは、日本では分冊となっていた「ハノイへの旅」(『ハノイで考えたこと』〔邦高忠二訳、晶文社、1969年〕)と、いずれの訳書にも未収録の「アメリカで起こっていること」が、原書通りの位置〔第Ⅲ部〕に収まっていることに由来します」。管さんの訳者あとがきによれば、旧訳『ラディカルな意志のスタイル』が収めている第Ⅰ部と第Ⅱ部の新訳を管さんが担当し、第Ⅲ部の2篇を波戸岡さんが担当されたとのことです。目次を以下に転記しておきます。
Ⅰ
沈黙の美学
ポルノグラフィ的想像力
みずからに抗って考えること――シオランをめぐって
Ⅱ
演劇と映画
ベルイマンの『仮面/ペルソナ』
ゴダール
Ⅲ
アメリカで起こっていること
ハノイへの旅
訳者解説「解釈者から訪問者へ――ソンタグ・リポートの使用法」(波戸岡景太)
訳者あとがき(管啓次郎)
★『すべての、白いものたちの』は、2016年に上梓された『흰(The White Book)』の訳書。著者のハン・ガン(韓江、Han Kang:1970-)は韓国の作家で、これまでにブッカー賞受賞作の『菜食主義者』(きむふな訳、クオン、2011年)を含む4点の訳書があります。今回の新刊が5点目。書き出しはこうです。「白いものについて書こうと決めた。春。そのとき私が最初にやったのは、目録を作ることだった。/おくるみ/うぶぎ/しお/ゆき/こおり/つき/こめ/なみ/はくもくれん/しろいとり/しろくわらう/はくし/しろいいぬ/はくはつ/壽衣」(7~8頁)。ページの白さに変化があることに気づいて目を凝らしてみると、本文が5種類の白い紙に刷られていることが分かりました。驚くべき繊細な美しさ。「汚されても、汚れてもなお、白いものを。/ただ白くあるだけのものを、あなたに託す」(48頁)。装幀は佐々木暁さんによるものです(ソンタグの新刊も佐々木さんによるもので、こちらも白を基調としてデザインが際立っています)。イ・ランさんによる本書への書評「友達に代わっての生活」が明日発売となる『文藝 2019年春季号』に掲載されています。
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『欲望会議――「超」ポリコレ宣言』千葉雅也/二村ヒトシ/柴田英里著、角川書店、2018年12月、四六判並製272頁、ISBN978-4-04-400212-1
『人文学の論理――五つの論考』エルンスト・カッシーラー著、齊藤伸訳、知泉書館、2018年12月、本体3,200円、4-6判上製246頁、ISBN978-4-86825-287-8
★「現代思想」誌は近年では創刊40周年となる2013年1月号に「特集=現代思想の総展望」を年頭に組み、その後、2014年1月号「特集=現代思想の転回2014:ポスト・ポスト構造主義へ」、2015年1月号「特集=現代思想の新展開2015:思弁的実在論と新しい唯物論」、2016年1月号「特集=ポスト現代思想」、2017年1月号「特集=トランプ以後の世界」、2018年1月号「特集=現代思想の総展望2018」、2019年1月号「特集=現代思想の総展望2019:ポスト・ヒューマニティーズ」と続いています。「現代思想の総展望」は創刊号である1973年1月号の特集名でもあり、1974年1月号「全頁特集=現代思想の総展望'74」、1979年12月号「特集=現代思想の総展望」、1983年1月号「特集=現代思想の総展望'83」と受け継がれていきます。
★2013年以降の1月特集号はいわば年末年始のまとめであり、版元営業マンにせよ書店員にせよ司書にせよ読者にせよ最低限この号だけはチェックしておくべきものです。最新版である「ポスト・ヒューマニティーズ」は同名のブックフェアが大型書店で開催されている通り、人文書なかんずく哲学思想書の最前線を書棚において視覚化する試みに資するものとなっています。特に飯盛元章さんによる「ポスト・ヒューマニティーズの思想地図と小事典」はキーワード、キーパーソンに加え人物相関図が付されており、分類や棚編集に関わっている人々にとって参考になるはずです。
★巻頭の討議、小泉義之/千葉雅也/仲山ひふみ「思弁的実在論「以後」とトランプ時代の諸問題」は、同じく千葉さんが参加しておられる鼎談本、千葉雅也/二村ヒトシ/柴田英里『欲望会議――「超」ポリコレ宣言』とともにひもとくのが良いかと思います。共通点は千葉さんの上着や司会者としての立場という以上に、次の発言に表れていると感じます。「旧来的な人文主義を引き継ぐということに対して、何か齟齬を来すような理論的方向性が出てきている。それは現状ではアカデミズムとぶつかるかもしれないが、今後のアカデミズムはそういうものをむしろ養分にしていくのかもしれない」(26頁)。
★いっぽう『欲望会議』の最後の方で千葉さんは、文化におけるそうした齟齬の消極的な側面を次のように分析しています。「20世紀を通して、ありとあらゆるジャンルでほとんどのパターンが出尽くしてしまい、もはや新しいものを作れなくなっている。すでにあるもののアレンジにしかならない状況になって、その中で育ってきている人たちは、新しいものをつくるという意識がほとんどないというか、昔の素材をシャッフルしてどうにかなるみたいな感じになっていると思うんですよね」(266頁)。「その状況と、身体の境界をつくりだせないということは、たぶんつながっているんです。あらゆる文化ネタが、もう出尽くしてしまったということと、みんなが共感の時代になっているということは、たぶんイコールだと思う。要するに、未知がないわけですよ。新しいコンテンツがないというのもそうだし、「他者」という新しいコンテンツもないんですよ」(267頁)。
★「現代人は、かつての、つまり20世紀までの人間から、何か深いレベルでの変化を遂げつつあるのではないか」(序、7頁)という千葉さんの仮説は、千葉さん以前にも様々な論者が主張してきたことです。しかし、だからと言ってその内容が凡庸であるわけではありません。人間の変容にはそれだけ長い時間がかかるし、人間はそもそも変化し続けているということを意味しているでしょう。書店や図書館ではいかなる新刊も従来の分類に立て分けようとせざるをえないわけですが、そこからはみだしていくコンテンツによって分類は定義し直されなければならないし、必要とあれば暫定的な新しいラベルを作成することも重要です。新たな人間像が、従来の人間像を見る視点からは捉えられないものなのかどうかについては、人間どうしの様々な差異や、人間と動物、人間と機械の境界が少しずつ書き換えられつつある「非人間化」の現在においては、困難な問いであることでしょう。
★その点、カッシーラーが示唆した文化学(もしくは人間学)としての人文学は、人間の変化を見とどける長距離の射程を意識しているように思われます。1942年に公刊された『Zur Logik der Kulturwissenschaften. Fünf Studien』の新訳『人文学の論理』においてカッシーラーはこう述べています。「或る主観が――そこで問題となるものが或る個人であれ、或る時代の全体であれ――他の主観のなかへと解消され、それにまったく献身すべく我を忘れる用意ができているときにはいつも、新たな、いっそう深い意味で自分自身を発見するのである」(173~174頁)。『人文学の論理』はかつて『人文科学の論理――五つの試論』(中村正雄訳、創文社、1976年)として日本でも親しまれてきました。カッシーラーの「シンボル形式の哲学」が提示する総合的な人間理解がその真価を問われるのはむしろ21世紀においてなのかもしれないと感じます。
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★続いて、まもなく発売となるちくま学芸文庫5点をご紹介します。
『インドの思想』川崎信定著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,000円、240頁、ISBN978-4-480-09872-6
『増補 死者の救済史――供養と憑依の宗教学』池上良正著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,200円、352頁、ISBN978-4-480-09899-3
『ラーメンの誕生』岡田哲著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,000円、256頁、ISBN978-4-480-09900-6
『現代の初等幾何学』赤攝也著、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,000円、192頁、ISBN978-4-480-09897-9
『不思議な数eの物語』E・マオール著、伊理由美訳、ちくま学芸文庫、2019年1月、本体1,500円、400頁、ISBN978-4-480-09908-2
★『インドの思想』は1993年に放送大学教育振興会より刊行された単行本の再刊。巻末に文庫版あとがきが加えられています。「長い歴史を持ち、多くの異なった民族からなり、異なった伝統文化を併存させる国インドでは、日本人には想像できないほど、人々の考え方の振幅も大きいのです。そしてそれだけにインドは、豊かな精神的伝統を持った国でもあるのです」(3~4頁)。
★『増補 死者の救済史』は、2003年に刊行された角川選書版の増補文庫化。親本に対する書評への応答として発表された「靖国信仰の個人性」(2006年/2008年)が改稿されて補論として巻末に収められ、さらに文庫版あとがきが追加されています。「祭神への「つつしみ」や「敬意」とは、決してそれを一括して「殉国の英雄」として褒め称えることでも、「侵略戦争の犠牲者」として同情することでもない。〔…〕246万の英霊というとき、そこには246万通りの死があり、246万の生の軌跡があり、246万組の遺族がいたのだ。この当たり前の事実に冷静に立ち返ることが、今こそ重要になっていると思う」(補論、334頁)。
★『ラーメンの誕生』は2002年刊のちくま新書からのスイッチ。「ラーメンは、いつ頃、どこで、誰が創作したものなのか。たくさんの資料を収集し調べてみたが、万民が認めるようなルーツの特定はできない。なかなかの難問なのである。札幌説・東京説・横浜説など、ご当地をルーツとするさまざまなエピソードがある。〔…〕このことは、例えば、そば切りの起源に、信濃説・甲州説・塩尻説などがあり、決定的な資料が発掘されない限り、優劣がつけにくいのに似ている」(20頁)。
★『現代の初等幾何学』は1988年に日本評論社から刊行された単行本の再刊。巻頭に「文庫化に際して」、巻末に「文庫版付記」が追加されています。「本書は初頭幾何への入門書であると同時に教科書でもある。これまでの幾何の本の多くは、率直にいえば問題集であって、数学書とは言えない。/それに反し、本書は問題が解けるようになるまでを懇切に説明している」(3頁)。「数学の本質は有限論理主義なのである」(186頁)。
★『不思議な数eの物語』は1999年に岩波書店より刊行された単行本の再刊。原書は『e:The Story of a Number』(Princeton University Press, 1994)で、底本は若干の追補と変更が施された1998年版です。訳者は2013年に逝去されており、新たな訳者あとがきや解説は付されていません。「ネーピア〔John Napier, 1550-1617〕および自然対数の底eを主役にしたまとまった解説書としては、1994年刊行の本書が世界最初のものであろう」と訳者あとがきに帰されています。
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★最後に最近出会った新刊を列記します。
『ナーブルスィー神秘哲学集成』アブドゥルガニー・ナーブルスィー著、山本直輝訳、中田考監訳、作品社、2018年12月、本体4,800円、A5判上製336頁、ISBN978-4-86182-730-3
『アメリカ侵略全史――第2次大戦後の米軍・CIAによる軍事介入・政治工作・テロ・暗殺』ウィリアム・ブルム著、益岡賢/大矢健/いけだよしこ訳、作品社、2018年11月、本体3,800円、A5判並製726頁、ISBN978-4-86182-689-4
『ラディカルな意志のスタイルズ[完全版]』スーザン・ソンタグ著、管啓次郎/波戸岡景太訳、河出書房新社、2018年12月、本体3,000円、46変形判並製368頁、ISBN978-4-309-20762-9
『すべての、白いものたちの』ハン・ガン著、斎藤真理子訳、河出書房新社、2018年12月、本体2,000円、46変形判上製192頁、ISBN978-4-309-20760-5
★『ナーブルスィー神秘哲学集成』は、18世紀オスマン朝シリアのスーフィー思想家アブドゥルガニー・ナーブルスィー(1641-1731)の神秘哲学にかんする著作2点、「存在の唯一性の意味の指示対象の解明」と「イスラームの本質とその秘儀」全7章の日本語訳を収めた、本邦初訳の貴重な一冊。巻頭に監訳者による序「末法の神学――存在一性論とは?」、巻末に訳者解説「ナーブルスィーとその思想」を配しています。
★『アメリカ侵略全史』は『Killing Hope: U.S. Military and C.I.A. Interventions since World War II』(Zed Books, 2014)の全訳。原著初版は『CIA:忘れられた歴史』という書名で刊行され、その後大幅な増補改訂版が1995年に刊行。さらに2000年、2003年と改訂版が上梓され、2014年には最新版(アップデート版)が出版されています。「米国が第二次世界大戦後に世界中で行った政治的・軍事的介入の包括的な記録」(訳者あとがき、708頁)であり、大著ながら世界10か国で翻訳されているとのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。日本に関する記述は本文にはありませんが、益岡賢さんによる訳者あとがき「世界と日本の「本当の戦後史」を知るために」では言及があります。ちなみに著者の既訳書『アメリカの国家犯罪全書』(作品社、2003年)第18章「選挙操作」ではCIAが1958年から70年代にわたって国政選挙において自民党に資金援助してきたことが暴かれています。なお著者ブルム(William Blum, 1933-2018)は先月亡くなっています。閑却しえない重要書です。
★『ラディカルな意志のスタイルズ[完全版]』は、川口喬一訳『ラディカルな意志のスタイル』(晶文社、1974年)以来の新訳。原著『Styles of Radical Will』は1969年刊。共訳者の波戸岡さんのブログ記事によれば「[完全版]と銘打っているのは、日本では分冊となっていた「ハノイへの旅」(『ハノイで考えたこと』〔邦高忠二訳、晶文社、1969年〕)と、いずれの訳書にも未収録の「アメリカで起こっていること」が、原書通りの位置〔第Ⅲ部〕に収まっていることに由来します」。管さんの訳者あとがきによれば、旧訳『ラディカルな意志のスタイル』が収めている第Ⅰ部と第Ⅱ部の新訳を管さんが担当し、第Ⅲ部の2篇を波戸岡さんが担当されたとのことです。目次を以下に転記しておきます。
Ⅰ
沈黙の美学
ポルノグラフィ的想像力
みずからに抗って考えること――シオランをめぐって
Ⅱ
演劇と映画
ベルイマンの『仮面/ペルソナ』
ゴダール
Ⅲ
アメリカで起こっていること
ハノイへの旅
訳者解説「解釈者から訪問者へ――ソンタグ・リポートの使用法」(波戸岡景太)
訳者あとがき(管啓次郎)
★『すべての、白いものたちの』は、2016年に上梓された『흰(The White Book)』の訳書。著者のハン・ガン(韓江、Han Kang:1970-)は韓国の作家で、これまでにブッカー賞受賞作の『菜食主義者』(きむふな訳、クオン、2011年)を含む4点の訳書があります。今回の新刊が5点目。書き出しはこうです。「白いものについて書こうと決めた。春。そのとき私が最初にやったのは、目録を作ることだった。/おくるみ/うぶぎ/しお/ゆき/こおり/つき/こめ/なみ/はくもくれん/しろいとり/しろくわらう/はくし/しろいいぬ/はくはつ/壽衣」(7~8頁)。ページの白さに変化があることに気づいて目を凝らしてみると、本文が5種類の白い紙に刷られていることが分かりました。驚くべき繊細な美しさ。「汚されても、汚れてもなお、白いものを。/ただ白くあるだけのものを、あなたに託す」(48頁)。装幀は佐々木暁さんによるものです(ソンタグの新刊も佐々木さんによるもので、こちらも白を基調としてデザインが際立っています)。イ・ランさんによる本書への書評「友達に代わっての生活」が明日発売となる『文藝 2019年春季号』に掲載されています。
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月曜社2019年2月新刊:松江泰治写真集『JP-34』
2019年2月4日取次搬入予定【写真/芸術】
JP-34〔ジェイピーサンジュウヨン〕
松江泰治=写真
月曜社 2019年2月 本体3,600円
A4判変型[天地225mm×左右281mm×束9mm]上製角背64頁オールカラー
ISBN:978-4-86503-068-6 C0072 重量:600g
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
内容:広島市を中心に、宮島、呉、江田島などを収め地表と時層を眺望する、JPシリーズ*中の白眉となる作品集。地上の様子を精緻に再現する高精細印刷。「われわれは思いがけない距離から歴史の傷に触れてしまう」(倉石信乃/広島現代美術館展覧会カタログ『松江泰治ハンドブック』の解説より)。
*「JP」シリーズは、日本の各都道府県を空撮した作品集。広島は「JP-34」、青森は「JP-02」など、国際標準化機構ISO3166-2によって定められたコードがそのまま作品タイトルとなっている。
*広島市現代美術館で「松江泰治 地名事典」が開催中(~2019年2月24日)。
松江泰治(まつえ・たいじ)1963年東京生まれ。現在、東京にて制作活動。1987年東京大学理学部地理学科卒業。1996年第12回東川賞新人作家賞受賞。2002年第27回木村伊兵衛写真賞受賞。最近の写真集:『Hashima』(月曜社、2017年)、『LIM』(青幻舎、2015年)、『JP-01 SPK』(赤々舎、2014年)、『世界・表層・時間』(NOHARA、2013年)、『TYO-WTC』(赤々舎、2013年)、『jp0205』(青幻舎、2013年)。
JP-34〔ジェイピーサンジュウヨン〕
松江泰治=写真
月曜社 2019年2月 本体3,600円
A4判変型[天地225mm×左右281mm×束9mm]上製角背64頁オールカラー
ISBN:978-4-86503-068-6 C0072 重量:600g
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
内容:広島市を中心に、宮島、呉、江田島などを収め地表と時層を眺望する、JPシリーズ*中の白眉となる作品集。地上の様子を精緻に再現する高精細印刷。「われわれは思いがけない距離から歴史の傷に触れてしまう」(倉石信乃/広島現代美術館展覧会カタログ『松江泰治ハンドブック』の解説より)。
*「JP」シリーズは、日本の各都道府県を空撮した作品集。広島は「JP-34」、青森は「JP-02」など、国際標準化機構ISO3166-2によって定められたコードがそのまま作品タイトルとなっている。
*広島市現代美術館で「松江泰治 地名事典」が開催中(~2019年2月24日)。
松江泰治(まつえ・たいじ)1963年東京生まれ。現在、東京にて制作活動。1987年東京大学理学部地理学科卒業。1996年第12回東川賞新人作家賞受賞。2002年第27回木村伊兵衛写真賞受賞。最近の写真集:『Hashima』(月曜社、2017年)、『LIM』(青幻舎、2015年)、『JP-01 SPK』(赤々舎、2014年)、『世界・表層・時間』(NOHARA、2013年)、『TYO-WTC』(赤々舎、2013年)、『jp0205』(青幻舎、2013年)。
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注目新刊:ラトゥール『社会的なものを組み直す』法政大学出版局、ほか
『社会的なものを組み直す――アクターネットワーク理論入門』ブリュノ・ラトゥール著、 伊藤嘉高訳、法政大学出版局、2019年1月、本体5,400円、四六判上製588頁、ISBN978-4-588-01090-3
『アドルノ音楽論集――幻想曲風に』Th・W・アドルノ著、岡田暁生/藤井俊之訳、法政大学出版局、2018年12月、本体4,000円、四六判上製470頁、ISBN978-4-588-01088-0
『死海文書 Ⅵ 聖書の再話1』守屋彰夫/上村静訳、ぷねうま舎、2018年12月、本体5,300円、A5判上製364頁、ISBN978-4-906791-87-3
『精神分析における生と死』ジャン・ラプランシュ著、十川幸司/堀川聡司/佐藤朋子訳、金剛出版、2018年12月、本体4,800円、A5判上製300頁、ISBN978-4-7724-1666-5
『ヴァーチャル社会の〈哲学〉――ビットコイン・VR・ポストトゥルース』大黒岳彦著、青土社、2018年12月、本体3,600円、四六判上製383+50頁、ISBN978-4-7917-7126-4
★『社会的なものを組み直す』は『Reassembling the Social: An Introduction to Actor-network-theory』(Oxford University Press, 2005)の全訳。訳出にあたり、いくつかの誤記と誤植が訂正された2007年のペーパーバック版と、2006年の仏語版を参照したとのことです。目次詳細は書名のリンク先に掲出されています。
★アクターネットワーク理論(ANT: actor-network-theory)というのは、訳者あとがきの言葉を借りると「「自然」も「社会」も前提にせず、エージェンシー(行為を生み出す力)をもたらす万物の連関を「アクター自身にしたがって」丹念にたどろうとする」もの。ラトゥールは序章でこう書いています。「本書では、社会的という概念をその原義に立ち帰って定義し直し、社会科学者には思いもよらなかった諸要素の結びつきをたどり直せるようにしたい」(8頁)。「社会学を、「社会的なものの科学」と定義するのではなく、つながりをたどることと定義し直すことで、社会科学の本来の直観に忠実であり続けることができる」(15頁)。ラトゥールはこうも書いています。「以前は、アクター-ネットワーク-理論のラベルをはがして、「翻訳の社会学」、「アクタン-リゾーム存在論〔actant-rhizome ontology〕」、「イノベーションの社会学」といった具合にもっと精緻な名称を選ぶのもやぶさかではなかった」(23頁)。「アクター-ネットワークという表現における「アクター」とは、行為の源ではなく、無数の事物が群がってくる動的な標的である」(88頁)。
★「本書は、諸々の社会的な結びつきを組み直すためにANTをどう活用すればよいのかを扱うものであり、以下の三部で構成される。各部は、社会的なものの社会学が一緒くたにしてきた社会学の三つの務めに対応しており、もはや一緒くたにすることは正当化されない。つまり、/・社会的なものをあらかじめ特定の領域に限定してしまうことなく、つながりをめぐる数々の論争をどのように展開させるのか。/・そうした数々の論争をアクターが安定化できるようにする手段をどのように記録するのか。/・どのような手続きであれば、社会でなく集合体のかたちで社会的なものを組み直せるのか」(36~37頁)。「いくつかの点で、本書は旅行ガイドに似ている。本書で案内されるのは、まったくありふれた地域である――私たちが見慣れている社会的世界そのものである――と同時に、まったく見慣れない地域である――いちいちゆっくりと進むやり方を学ばなければならなくなる」(38頁)。
★「紙に何かを記録するという単純な行為は、それだけで途方もない変換を起こしており、その行為には、風景を描いたり、複雑な生化学反応を起こしたりするのと同じくらいの力量が求められ、まったく同じ巧みさが求められる。研究者たる者は、ひたすら記述することを屈辱に感じるべきではない。それどころか、ひたすら記述することは、類い稀なるこの上ない偉業である」(258頁)。本書のインパクトは欧米でそうだったように、日本でもおそらく今後書評や参考文献などのかたちで人文社会書にとどまらず様々な分野で隠然と現れていくことになるのではないかと思います。
★『アドルノ音楽論集――幻想曲風に』は『Musikalische Schriften II: Quasi una fantasia』(Suhrkamp, 1963)の訳書です。生前に刊行された『音楽著作集』2巻本のうちの第2巻です。第1巻『響きの形象』1959年は未訳。第2巻『幻想曲風に』は「ベートーヴェンからシュトックハウゼンに至るまでを哲学/社会学理論と縦横無尽に絡めながら論じ〔…〕まさにアドルノの音楽哲学の核心部分に位置すると言える」と訳者あとがきにあります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。共訳者の岡田さんは「本書の翻訳を通して私が何より魅了されたのは、〔…〕アドルノのエッセイスト的な才知である」とお書きになっています。
★アドルノは巻頭の「音楽と言語についての断章」でこう書きます。「音楽は意味言語とはまったく別のタイプの言語である。この言語の中には何か神学的なものが潜んでいる。それが語るものは、輝きつつ現象するものとして定義されると同時に、まさにそれ故に隠されている。その理念は神の名という形をしている。それは現実世界に影響を及ぼす魔術から解放された、脱神話化された祈りであって、どれほど虚しいことであろうとも意味伝達ではなく名そのものを目指そうとする、極めて人間的な試みなのである」(3頁)。「意味言語は媒介を経た形で絶対者を語ろうとするが、絶対者は個々のあらゆる意図において言語の手をすり抜けていき、あらゆる意図を有限なものとして背後に置き去りにする。音楽は絶対者を媒介なしに言い当てるが、しかしまさにその瞬間に、まるで強すぎる光が目を眩ませ、十分に目に見えることすらもはや見えなくしてしまうのと同じく、絶対者は暗闇の中に消えていく。/究極のところ音楽は、意味言語と同じ難破した言語として、不可能なものを手元に持ち帰るべく、無限の媒介という彷徨を運命づけられている」(6頁)。
★アドルノは1969年に死去。その後原書では1978年に、アドルノ全集第16巻で第3巻までを合本して刊行(アドルノの当初の構想では全3巻だったそうです)。さらに全集第17巻が『楽興の時』(三光長治/川村二郎訳、白水社、1969/1979/1994年)を含む『音楽著作集』第4巻として1978年に、続いて1984年に全集第18巻と第19巻がそれぞれ第5巻と第6巻として出版されています。アドルノの音楽論は今後も翻訳されていくでしょうか。期待したいところです。
★『死海文書 Ⅵ 聖書の再話1』は全12巻中の第3回配本。帯文に曰く「創世神話の翻案と変奏。世界創成の物語を語り直す。正典の何を増幅し、また何に触れずに済ませたか。秘儀の伝授のために」。目次を以下に転記しておきます。
創世記アポクリュフォン|守屋彰夫訳
エノシュの祈り|上村静訳
洪水に基づく説諭|上村静訳
物語と詩的作品|上村静訳
ラヘルとヨセフに関するテキスト|上村静訳
ヤコブの遺訓(?)|上村静訳
ユダの遺訓|上村静訳
レビの遺訓|守屋彰夫訳
ナフタリ|上村静訳
ヨセフの遺訓|上村静訳
族長たちについて|上村静訳
ケハトの遺訓|守屋彰夫訳
アムラムの幻|守屋彰夫訳
モーセの言葉|上村静訳
創世記―出エジプト記パラフレイズ|上村静訳
出エジプト記パラフレイズ|上村静訳
五書アポクリュフォン|上村静訳
出エジプトについての講話/征服伝承|上村静訳
ナラティヴ|上村静訳
★「ナラティヴ」末尾の「ヤコブの光」テキスト全文は次の通りです。「[…][…]ヤコブの光[…][…]異民族たちはイスラエルに[…]彼らは言うだろう、「どこに[…]」」。ヤコブの光とは、直訳では「ヤコブのための光」ないし「ヤコブにとっての光」とのことです。「これは、聖書にもそれ以外のユダヤ教文献からも知られていない」と解説されています。
★『精神分析における生と死』は『Vie et mort en psychanalyse』(Flammarion, 1970)の全訳。目次は書名のリンク先をご覧ください。共訳者の十川幸司さんは訳者解題で本書を次のように評価されています。「ジャック・ラカンの『エクリ』刊行の四年後に出版された本書は、ラカンとは別の「フロイトへの回帰」を提唱したジャン・ラプランシュ〔Jean Laplanche, 1924-2012〕の始まりの書物である。本書の主題は、フロイトの読解である。ラカンが、独自の切り口でフロイトのテクストを斬新に読み換えていくのに対し、ラプランシュはフロイトのコーパスの内部に留まり、テクスト相互の矛盾点や絡み合った問題群を解きほぐして、フロイト理論の更新を試みる。およそあらゆる始まりの書物がそうであるように、この書物のなかにはラプランシュのその後の思想的展開がすべて散りばめられている。本書のもとになった連続講演は、68年にケベックで行われたもの」(241頁)。
★ラプランシュは序論でこう述べます。「生命が人間の水準で象徴化される際に〈別のものになること〉を、私たちは三つの動きのなかに追っていく。すなわち、セクシュアリティの問題群、自我の問題群、死の欲動の問題群を準に検討することになるだろう」(19頁)。再び十川さんの解説に帰ると、「本書はラプランシュの代表作であると同時に、彼の最も可能性を秘めた著作である。この書物の最大の魅力のひとつは〔…〕ラカンが、言語、他者といった概念で、フロイトを超越論的に読み替えたのに対し、ラプランシュは、本書で生命、動きといった観点から、フロイトを内在的に解読した点にある」(266頁)。十川さんは本書の通奏低音を「ラプランシュ独自の欲動論」だとし、「私たちの生を規定しているのが欲動であり、欲動のありかたを言葉によってどのように変えることができるかということが精神分析臨床の課題であるとすれば、欲動論は精神分析理論の中心に位置する問題なのである」(265頁)と述べておられます。
★『ヴァーチャル社会の〈哲学〉』は2017年から2018年にかけて「現代思想」誌などに発表してきた論考5本に書き下ろしとなる2本を加え、序論である書き下ろしの「はじめに」を添えて一冊としたもの。目次は書名のリンク先をご覧ください。書き下ろしとなる第二章「「モード」の終焉と記号の変容」と第六章「VR革命とリアリティの〈展相〉」は学会での講演や大学での講義がもとになっているとのことです。「本書は、2010年代に入ってから猛烈な勢いで自己組織化を遂げつつある情報社会の問題構造を体系的に炙り出す試みである。〔…〕本書が事とするのは、文化現象の表層的な考察ではない。本書の目的は、飽くまでも、情報社会の表面には現れない不可視の“深層”構造を、問題系すなわち、或る地平を共有する問題群のネットワーク、として泛(う)かび上がらせることにある」(3頁)。巻末の後記では本書は『情報社会の〈哲学〉――グーグル・ビッグデータ・人工知能』(勁草書房、2016年)の続編という位置づけです。
★特に業界人として気になるのは第一章「アマゾン・ロジスティックス革命と「物流」の終焉」(初出:「現代思想」2018年3月号特集「物流スタディーズ」)でしょうか。「第一章ではAmazon社が仕掛ける「ロジスティックス革命」の本義を尋ねる。Amazonが社是として掲げる「顧客第一主義」とは、単なるサービスポリシーや顧客に対するポーズではない。それは、これまでの〈生産〉が主導する「物流」概念を解体し、〈情報〉が主導する〈兵站体制〔ロジスティックス〕〉の編制によって商品経済そのものを〈流通〉を軸として再編する遠大な企図の指針なのである。それは「商品」というモノの存在性格をすら変えてゆかざるを得ない」(22~23頁)。「他ならぬアマゾンによって先導的に開拓されたこの〈流通〉の新たな地平」(28頁)をめぐる考察は、業界人にとっては生の条件として立ち現われざるをえません。
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★続いて注目の文庫新刊を列記します。
『中世思想原典集成 精選2 ラテン教父の系譜』上智大学中世思想研究所編訳監修、平凡社ライブラリー、2019年1月、本体2,400円、B6変判並製640頁、ISBN978-4-582-76877-0
『テアイテトス』プラトン著、渡辺邦夫訳、光文社古典新訳文庫、2019年1月、本体1,120円、495頁、ISBN:978-4-334-75393-1
『言語と行為――いかにして言葉でものごとを行うか』J・L・オースティン著、飯野勝己訳、講談社学術文庫、2019年1月、本体1,180円、312頁、ISBN978-4-06-514313-1
『老子 全訳注』池田知久訳注、講談社学術文庫、2019年1月、本体960円、240頁、ISBN978-4-06-513159-6
『一日一文――英知のことば』木田元編、岩波文庫(別冊24)、2018年12月、本体1,100円、416頁、ISBN978-4-00-350027-9
『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』平田篤胤著、今井秀和訳解説、角川ソフィア文庫、2018年12月、本体880円、256頁、ISBN978-4-04-400426-2
『異端の統計学 ベイズ』シャロン・バーチュ・マグレイン著、冨永星訳、草思社文庫、2018年12月、本体1,600円、656頁、ISBN978-4-7942-2364-7
★『中世思想原典集成 精選2 ラテン教父の系譜』は「精選」シリーズ全7巻の第2回配本。目次詳細はhontoの単品頁で確認することができます。親本である『中世思想原典集成』の第4巻「初期ラテン教父」と第5巻「後期ラテン教父」から13作品が収録されています。巻頭の佐藤直子さんによる解説と、各収録先の解題、そして岡田温司さんによる巻末エッセイ「初期キリスト教時代はなぜかくも面白いのか」が新たに加えられています。岡田さんはこう記しておられます。「わたしにとって初期キリスト教時代が面白いのは、そこに異質なもの――とりわけ異教的なものや後に異端とされるもの――がさまざまなかたちで流れ込んでいて、混沌としてはいるものの一段と豊かな様相を呈しているように思われるからである」(613頁)。
★『テアイテトス』は古典新訳文庫のプラトン新訳本で5点目となる一冊。文庫で読める既訳には田中美知太郎訳(岩波文庫、1966年/改版2014年)があります。もう一点は今回の古典新訳文庫版の訳者である渡辺邦夫さんが2004年に上梓したちくま学芸文庫版。それを大幅改訂したのが今回の新刊です。「解説」は実に100頁以上あります(350~479頁)。この対話篇のテーマは「知識」すなわちエピステーメーです。それは「組織的理解を重んじるものであり、善と諸価値への積極的荷担を含むものであるという二つの特色を持ちます。〔…プラトンは〕事柄が要求するような説明ができる程度に深い「理解」こそ、「エピステーメー」という知識である考えました」と解説にあります。つまり単に見聞きして知っているかどうかというレベルではないわけです。学ぶこと、そして知恵(ソフィア)ある者になることの大切さは現代人にとっても相変わらず重要です。あらためてプラトンの偉大さを思います。
★『言語と行為』は文庫オリジナルの新訳。原書は『How to Do Things with Words: The William James Lectures delivered at Harvard University in 1955』(Harvard University Press, 1962)です。副題にある通り、イギリスの言語哲学者オースティン(John Langshaw Austin, 1911-1960)が1955年に行なったハーヴァード大学のウィリアム・ジェイムズ講義の原稿をいわば再現的にまとめたもの。再現的にというのは死後刊行であるために、講義原稿において断片的な箇所をオースティン自身の覚書や受講者のノート、関連する別の講義の音声記録などを比較参照して編者のJ・O・アームソン(James Opie Urmson, 1915-2012)が補ったためです。著者自身による決定稿ではないものの、主著として高名です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。凡例によれば「若干の誤記修正と変更・加筆が施された第二版(1975年)が刊行された。これがいまのところの最新版である。こちらも合わせて参照し、あきらかな誤記・誤字修正のたぐいは特に断りなく採り入れるとともに、変更や加筆については訳注で言及・引用した」とのことです。先行訳(初訳)に、ロングセラーとなっている坂本百大訳『言語と行為』(大修館書店、1978年)があります。聴講者の一人だったカヴェル(Stanley Cavell, 1926-2018)の自伝(2010年)によると当初100人いた聴講生は最後は5人以下になったようですが、こんにちにいたる本書の影響力を考えると目撃証人の少なさに驚きます。
★ちなみに坂本百大訳『言語と行為』(大修館書店、1978年)は2014年9月に16刷に達しています。底本情報について訳者あとがきの説明を引用しておきます。「翻訳書は、第一版を底本として企てられたものであったが、訳業途中にして、マリナ・スビサ博士の協力を得たアームソンによる第二版が刊行された。第二版は同博士の努力によってオースティンの原ノートとの対照の結果第一版よりも読みやすく、かつ、理解しやすいものとなっており、また、以前は未収録であった欄外書き込みが必要に応じて付録に追加されているが、論点に重大にかかわる修正はほとんどない。さらに、今まで言語行為がもっぱら1960年刊行の第一版に基づいて展開されているという現状を考え併せ底本は一応第一版のままとし、第二版における改良、追加箇所の中、主要なものは訳者注の形式をとって指摘することとした。この結果、読者は、第一版の構成に従いつつ、第二版の内容をも同時に知り得ることになった」(360~361頁)。
★『老子 全訳注』は巻末の特記によれば、講談社学術文庫より「2017年3月に刊行された『老子――その思想を読み尽くす』の巻末に収録された「『老子』 原文・読み下し・現代語訳」をもとに新たに【解説】を付したもの」とのこと。解説というのは『老子』全体に対するものではなく、各章に付された書き下ろしの説明文です。章ごとに現代語訳、読み下し、原文、解説、という構成になっています。親本刊行から1年も経っていませんが、訳者がご高齢であることを鑑みると、版元としても実現したかった企画なのでしょう。新たに付された「後書き」によれば、「「現代語訳」と【読み下し】については多少の修正を加える以外はほぼそのまま前著を活かすこととし、【原文】については異体字・仮借字などの表記方法を変更したために、やや大きな修正を施すこととなった。ただし【原文】の実際の内容には前著と本書の間で何の変更もない」とあります。
★『一日一文』は2004年に岩波書店より刊行された単行本の文庫化。巻頭の「例言」によれば「典拠のうち、岩波文庫で読めるものは一部差し替えてある」とのことです。書名から分かる通り、366日分の名言が選ばれています。その日に生まれたり死んだりした先哲たちの言葉です。二色刷で美しく印刷されています。先哲たちの略歴と写真も掲出されているので、自分の誕生日に縁のある人が誰なのかを知る楽しみもあります。
★『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』は文庫オリジナル。昨年大増刷した岩波文庫版『仙境異聞・勝五郎再生記聞』は2000年に発売され、その後2011年秋に「一括重版」枠で再刊されてから(この時点では5刷)しばらく動きのなかったところへ2018年2月以降に大増刷。校注を担当した子安宣邦さんへのインタヴュー「謎ブーム どうして「天狗にさらわれた少年の話」が売れているのか?――岩波文庫『仙境異聞』の校注者も首をかしげるばかり」によれば4月末現在で一気に9刷まで延ばし、8700部の増刷をしたことになっています。その後、店頭に置いてある当該書目の刷数を確認したことはないのですが、読売新聞2018年7月24日付記事「「異界」描いた岩波文庫、ベストセラーの「怪」」では「ツイッターの書き込みをきっかけにして、今年2月、約6年ぶりに“復刊”したところ、ブレイク。3か月の間に約1万2000部を増刷し、現在10刷、累計3万部に達している」と報じられていました。
★この岩波文庫版はなにせ古文のままなので決して読みやすくはないのですが、その後、八幡書店の現代語訳(山本博校訂訳、1993年)が廉価版として再刊されしました。今回の角川ソフィア文庫の新刊は、文庫版としては抄訳ながら初めての現代語訳です。帯文には「Twitterで話題の奇書、唯一の現代語訳文庫」と手書きの文字で書かれています。岩波文庫版の帯も重版では手書きのものだったので、前例に倣ったのでしょうか。書店員さんのPOPのような温かみがあります。岩波文庫版を読みこなせなかった読者でも、今回の現代語訳版なら親しみやすいだろうと思います。異界を旅した少年「寅吉」は篤胤の質問に対してすべて答えるというよりは、知らないことは知らないと答えるので、その辺が巧みです。内容的には幻想と説話的教訓が入り混じった味わいがあります。篤胤が色んなことを根掘り葉掘り聞いてくれたおかげで現代人も寅吉の話を楽しむことができるわけです。
★『異端の統計学 ベイズ』は2013年に草思社より刊行された単行本の文庫化。原書は『The Theory That Would Not Die: How Bayes' Rule Cracked the Enigma Code, Hunted Down Russian Submarines, and Emerged Triumphant from Two Centuries of Controversy』です。18世紀イギリスの統計学者で長老派の牧師トーマス・ベイズ(Thomas Bayes, 1702-1761)の業績への評価をめぐる歴史的変遷を丁寧に紹介しています。「ベイズの法則は、一見ごく単純な定理である。曰く、「何かに関する最初の考えを新たに得られた客観的情報に基づいて更新すると、それまでとは異なるより質の高い意見が得られる」。この定理を支持する人からすれば、これは「経験から学ぶ」ということをエレガントに表現したものなのだ」(13頁)。
★「ベイズの法則は、決して科学の歴史に埋もれた地味な論戦の種ではなく、我々すべてに影響を及ぼしている。それは、実生活の広い範囲――絶対的な真実とまったくの不確かさに挟まれた灰色の領域――で推論を行うための論理なのだ。知りたいことに関する情報はほんの少ししか手に入らないことが多く、それでもわたしたちは、過去の経験に基づいて何らかの予想を立てたいと思う。そして新たな情報が手に入れば、それに基づいてそれまでの考えを修正する。長い間激しい嘲りの的だったベイズ統計が、ついに身の回りの世界について合理的に考える手段を提供するようになったのだ。/ではこれから、この驚くべき変化がどのようにして起きたのか、その顛末を見ていこう」(18頁)。目次詳細はアマゾンの単品頁に掲出されています。
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★最後にここ最近の注目雑誌を3点。
『ニューQ Issue01 新しい問い号』セオ商事、2018年12月、本体1,500円、B5判並製100頁、ISBN978-4-9910610-0-4
『アレ Vol.5 特集:Workを捉えなおす』アレ★Club、2018年11月、本体1,380円、A5判並製256頁、ISDN278-4-572741-05-6
『午前四時のブルー Ⅱ 夜、その明るさ』小林康夫責任編集、水声社、2019年1月、本体1,500円、A5判並製120頁、ISBN978-4-8010-0243-2
★『ニューQ』はセオ商事が創刊した新雑誌。「創刊によせて」の言葉を借りると「新しい問いを考える哲学カルチャーマガジン」で「答えより問いの方が面白いでしょ?」と問いかけています。巻頭特集は、小説家の平野啓一郎さんへのインタビュー「物語で問うということ」です。4コママンガやSF作品もあります。従来の哲学系雑誌に比べると写真やイラストなどヴィジュアルの要素がふんだんで、誌面に明るさを感じます。目次詳細は版元さんの2018年12月20日付のブログ記事「哲学カルチャーマガジン「ニューQ」を創刊しました。本日より全国書店にて順次発売!」にてご確認いただけます。セオ商事さんは「「企画とエンジニアリングの総合商社」をテーマに企画、UI設計、デザイン、開発を通して様々なモノ作りのお手伝いを」しているという会社。「企業のブランディングキャンペーンやプロダクトのUI/UX設計、モバイルアプリからデジタルデバイスの開発まで幅広くご依頼を承っております」とのことです。次号は今春刊行予定の「エレガンス号」だそうです。
★出版社ではない会社が紙媒体を出版したりする例のほかにも、青山ブックセンターが今年出版社を立ち上げる予定だとかいう話を耳にします。出版社だけが紙媒体を作る時代はとうに終わってはいましたが、今後はいよいよ様々な新規参入者が増えていく予感がします。一方で物流や小売の現場は疲弊しており、紙媒体の現物と出会える場はこれからも減っていく可能性があります。終わりと始まりが常に重なっているのが「現在」の姿なのでしょう。
★『アレ』はアレ★clubが発行する「ジャンル不定カルチャー誌」。最新号となる第5号の特集は「Workを捉えなおす」と題されています。昨年11月25日に開催された第27回「文学フリマ東京」で初売りされ、現在では大阪、京都、東京、静岡、愛知、福岡、静岡などの複数の書店で展開中。目次詳細はこちらでご確認いただけます。アラン・バディウと小泉義之さんからの特別寄稿は特筆すべきかと思われます。バディウ「新石器時代、資本主義、共産主義」(小泉義之訳、18~20頁)と、小泉さんの「最後のダーク・ツーリズム――『少女終末旅行』を読む」(6~16頁)です。いずれも著者自身の申し出による寄稿というのがすごいところ。バディウにオリジナル原稿を寄せてもらった雑誌というのは日本で恐らく初めてではないでしょうか。このバディウの論考は長くはありませんが非常に力強いもので、バディウ自身による「共産主義者宣言」とも言うべき内容となっています。必読です。ちなみにバディウと小泉さんは2018年5月に発行された第4号にも寄稿されています。
★ちなみに『アレ』誌の表紙表4に付されているISDNコードというのは、International Standard Dojin Numbering(国際標準同人誌番号)のこと。ちなみに一部出版社のスリップに記載されていた10桁のBBBNというのも業界にはあって、こちらは「元々ISBNが10桁だったものが、13桁にコード体系を移行したときに、受発注の処理の関係で10桁のままの番号が必要な会社達が、移行措置として当面の間残したモノです。/十数社はいるようです。/BBBNには意味はありません。ISBNと入れると、OCRで不都合が生じるので、意味のない文字列の組み合わせにしたとのことです」とこちらのサイトに寄せられたコメントのひとつにあります。
★『午前四時のブルー』は昨春創刊された、哲学者の小林康夫さんが責任編集をつとめる雑誌。目次は誌名のリンク先をご覧ください。創刊記念で昨年6月に神楽坂モノガタリで開催された小林さんと國分功一郎さんとの対談イベントの抄録「モノガタリの夜――信じること・愛すること」のほか、國分さんの『中動態の世界』に続く新著への予告ともなるエッセイ「哲学とあの世――ソクラテス、プラトン、死」などが掲載されています。ちなみに國分さんが昨年9月に東大で行われたシンポジウム「オープンダイアローグと中動態の世界」で行った基調講演「中動態/意志/責任をめぐって」が、斎藤環さんの講演「臨床で使える中動態」とともに『精神看護 2019年 1月号 特集 オープンダイアローグと中動態の世界』(医学書院、2018年12月)に掲載されています。併せて読んでおきたいです。
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『アドルノ音楽論集――幻想曲風に』Th・W・アドルノ著、岡田暁生/藤井俊之訳、法政大学出版局、2018年12月、本体4,000円、四六判上製470頁、ISBN978-4-588-01088-0
『死海文書 Ⅵ 聖書の再話1』守屋彰夫/上村静訳、ぷねうま舎、2018年12月、本体5,300円、A5判上製364頁、ISBN978-4-906791-87-3
『精神分析における生と死』ジャン・ラプランシュ著、十川幸司/堀川聡司/佐藤朋子訳、金剛出版、2018年12月、本体4,800円、A5判上製300頁、ISBN978-4-7724-1666-5
『ヴァーチャル社会の〈哲学〉――ビットコイン・VR・ポストトゥルース』大黒岳彦著、青土社、2018年12月、本体3,600円、四六判上製383+50頁、ISBN978-4-7917-7126-4
★『社会的なものを組み直す』は『Reassembling the Social: An Introduction to Actor-network-theory』(Oxford University Press, 2005)の全訳。訳出にあたり、いくつかの誤記と誤植が訂正された2007年のペーパーバック版と、2006年の仏語版を参照したとのことです。目次詳細は書名のリンク先に掲出されています。
★アクターネットワーク理論(ANT: actor-network-theory)というのは、訳者あとがきの言葉を借りると「「自然」も「社会」も前提にせず、エージェンシー(行為を生み出す力)をもたらす万物の連関を「アクター自身にしたがって」丹念にたどろうとする」もの。ラトゥールは序章でこう書いています。「本書では、社会的という概念をその原義に立ち帰って定義し直し、社会科学者には思いもよらなかった諸要素の結びつきをたどり直せるようにしたい」(8頁)。「社会学を、「社会的なものの科学」と定義するのではなく、つながりをたどることと定義し直すことで、社会科学の本来の直観に忠実であり続けることができる」(15頁)。ラトゥールはこうも書いています。「以前は、アクター-ネットワーク-理論のラベルをはがして、「翻訳の社会学」、「アクタン-リゾーム存在論〔actant-rhizome ontology〕」、「イノベーションの社会学」といった具合にもっと精緻な名称を選ぶのもやぶさかではなかった」(23頁)。「アクター-ネットワークという表現における「アクター」とは、行為の源ではなく、無数の事物が群がってくる動的な標的である」(88頁)。
★「本書は、諸々の社会的な結びつきを組み直すためにANTをどう活用すればよいのかを扱うものであり、以下の三部で構成される。各部は、社会的なものの社会学が一緒くたにしてきた社会学の三つの務めに対応しており、もはや一緒くたにすることは正当化されない。つまり、/・社会的なものをあらかじめ特定の領域に限定してしまうことなく、つながりをめぐる数々の論争をどのように展開させるのか。/・そうした数々の論争をアクターが安定化できるようにする手段をどのように記録するのか。/・どのような手続きであれば、社会でなく集合体のかたちで社会的なものを組み直せるのか」(36~37頁)。「いくつかの点で、本書は旅行ガイドに似ている。本書で案内されるのは、まったくありふれた地域である――私たちが見慣れている社会的世界そのものである――と同時に、まったく見慣れない地域である――いちいちゆっくりと進むやり方を学ばなければならなくなる」(38頁)。
★「紙に何かを記録するという単純な行為は、それだけで途方もない変換を起こしており、その行為には、風景を描いたり、複雑な生化学反応を起こしたりするのと同じくらいの力量が求められ、まったく同じ巧みさが求められる。研究者たる者は、ひたすら記述することを屈辱に感じるべきではない。それどころか、ひたすら記述することは、類い稀なるこの上ない偉業である」(258頁)。本書のインパクトは欧米でそうだったように、日本でもおそらく今後書評や参考文献などのかたちで人文社会書にとどまらず様々な分野で隠然と現れていくことになるのではないかと思います。
★『アドルノ音楽論集――幻想曲風に』は『Musikalische Schriften II: Quasi una fantasia』(Suhrkamp, 1963)の訳書です。生前に刊行された『音楽著作集』2巻本のうちの第2巻です。第1巻『響きの形象』1959年は未訳。第2巻『幻想曲風に』は「ベートーヴェンからシュトックハウゼンに至るまでを哲学/社会学理論と縦横無尽に絡めながら論じ〔…〕まさにアドルノの音楽哲学の核心部分に位置すると言える」と訳者あとがきにあります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。共訳者の岡田さんは「本書の翻訳を通して私が何より魅了されたのは、〔…〕アドルノのエッセイスト的な才知である」とお書きになっています。
★アドルノは巻頭の「音楽と言語についての断章」でこう書きます。「音楽は意味言語とはまったく別のタイプの言語である。この言語の中には何か神学的なものが潜んでいる。それが語るものは、輝きつつ現象するものとして定義されると同時に、まさにそれ故に隠されている。その理念は神の名という形をしている。それは現実世界に影響を及ぼす魔術から解放された、脱神話化された祈りであって、どれほど虚しいことであろうとも意味伝達ではなく名そのものを目指そうとする、極めて人間的な試みなのである」(3頁)。「意味言語は媒介を経た形で絶対者を語ろうとするが、絶対者は個々のあらゆる意図において言語の手をすり抜けていき、あらゆる意図を有限なものとして背後に置き去りにする。音楽は絶対者を媒介なしに言い当てるが、しかしまさにその瞬間に、まるで強すぎる光が目を眩ませ、十分に目に見えることすらもはや見えなくしてしまうのと同じく、絶対者は暗闇の中に消えていく。/究極のところ音楽は、意味言語と同じ難破した言語として、不可能なものを手元に持ち帰るべく、無限の媒介という彷徨を運命づけられている」(6頁)。
★アドルノは1969年に死去。その後原書では1978年に、アドルノ全集第16巻で第3巻までを合本して刊行(アドルノの当初の構想では全3巻だったそうです)。さらに全集第17巻が『楽興の時』(三光長治/川村二郎訳、白水社、1969/1979/1994年)を含む『音楽著作集』第4巻として1978年に、続いて1984年に全集第18巻と第19巻がそれぞれ第5巻と第6巻として出版されています。アドルノの音楽論は今後も翻訳されていくでしょうか。期待したいところです。
★『死海文書 Ⅵ 聖書の再話1』は全12巻中の第3回配本。帯文に曰く「創世神話の翻案と変奏。世界創成の物語を語り直す。正典の何を増幅し、また何に触れずに済ませたか。秘儀の伝授のために」。目次を以下に転記しておきます。
創世記アポクリュフォン|守屋彰夫訳
エノシュの祈り|上村静訳
洪水に基づく説諭|上村静訳
物語と詩的作品|上村静訳
ラヘルとヨセフに関するテキスト|上村静訳
ヤコブの遺訓(?)|上村静訳
ユダの遺訓|上村静訳
レビの遺訓|守屋彰夫訳
ナフタリ|上村静訳
ヨセフの遺訓|上村静訳
族長たちについて|上村静訳
ケハトの遺訓|守屋彰夫訳
アムラムの幻|守屋彰夫訳
モーセの言葉|上村静訳
創世記―出エジプト記パラフレイズ|上村静訳
出エジプト記パラフレイズ|上村静訳
五書アポクリュフォン|上村静訳
出エジプトについての講話/征服伝承|上村静訳
ナラティヴ|上村静訳
★「ナラティヴ」末尾の「ヤコブの光」テキスト全文は次の通りです。「[…][…]ヤコブの光[…][…]異民族たちはイスラエルに[…]彼らは言うだろう、「どこに[…]」」。ヤコブの光とは、直訳では「ヤコブのための光」ないし「ヤコブにとっての光」とのことです。「これは、聖書にもそれ以外のユダヤ教文献からも知られていない」と解説されています。
★『精神分析における生と死』は『Vie et mort en psychanalyse』(Flammarion, 1970)の全訳。目次は書名のリンク先をご覧ください。共訳者の十川幸司さんは訳者解題で本書を次のように評価されています。「ジャック・ラカンの『エクリ』刊行の四年後に出版された本書は、ラカンとは別の「フロイトへの回帰」を提唱したジャン・ラプランシュ〔Jean Laplanche, 1924-2012〕の始まりの書物である。本書の主題は、フロイトの読解である。ラカンが、独自の切り口でフロイトのテクストを斬新に読み換えていくのに対し、ラプランシュはフロイトのコーパスの内部に留まり、テクスト相互の矛盾点や絡み合った問題群を解きほぐして、フロイト理論の更新を試みる。およそあらゆる始まりの書物がそうであるように、この書物のなかにはラプランシュのその後の思想的展開がすべて散りばめられている。本書のもとになった連続講演は、68年にケベックで行われたもの」(241頁)。
★ラプランシュは序論でこう述べます。「生命が人間の水準で象徴化される際に〈別のものになること〉を、私たちは三つの動きのなかに追っていく。すなわち、セクシュアリティの問題群、自我の問題群、死の欲動の問題群を準に検討することになるだろう」(19頁)。再び十川さんの解説に帰ると、「本書はラプランシュの代表作であると同時に、彼の最も可能性を秘めた著作である。この書物の最大の魅力のひとつは〔…〕ラカンが、言語、他者といった概念で、フロイトを超越論的に読み替えたのに対し、ラプランシュは、本書で生命、動きといった観点から、フロイトを内在的に解読した点にある」(266頁)。十川さんは本書の通奏低音を「ラプランシュ独自の欲動論」だとし、「私たちの生を規定しているのが欲動であり、欲動のありかたを言葉によってどのように変えることができるかということが精神分析臨床の課題であるとすれば、欲動論は精神分析理論の中心に位置する問題なのである」(265頁)と述べておられます。
★『ヴァーチャル社会の〈哲学〉』は2017年から2018年にかけて「現代思想」誌などに発表してきた論考5本に書き下ろしとなる2本を加え、序論である書き下ろしの「はじめに」を添えて一冊としたもの。目次は書名のリンク先をご覧ください。書き下ろしとなる第二章「「モード」の終焉と記号の変容」と第六章「VR革命とリアリティの〈展相〉」は学会での講演や大学での講義がもとになっているとのことです。「本書は、2010年代に入ってから猛烈な勢いで自己組織化を遂げつつある情報社会の問題構造を体系的に炙り出す試みである。〔…〕本書が事とするのは、文化現象の表層的な考察ではない。本書の目的は、飽くまでも、情報社会の表面には現れない不可視の“深層”構造を、問題系すなわち、或る地平を共有する問題群のネットワーク、として泛(う)かび上がらせることにある」(3頁)。巻末の後記では本書は『情報社会の〈哲学〉――グーグル・ビッグデータ・人工知能』(勁草書房、2016年)の続編という位置づけです。
★特に業界人として気になるのは第一章「アマゾン・ロジスティックス革命と「物流」の終焉」(初出:「現代思想」2018年3月号特集「物流スタディーズ」)でしょうか。「第一章ではAmazon社が仕掛ける「ロジスティックス革命」の本義を尋ねる。Amazonが社是として掲げる「顧客第一主義」とは、単なるサービスポリシーや顧客に対するポーズではない。それは、これまでの〈生産〉が主導する「物流」概念を解体し、〈情報〉が主導する〈兵站体制〔ロジスティックス〕〉の編制によって商品経済そのものを〈流通〉を軸として再編する遠大な企図の指針なのである。それは「商品」というモノの存在性格をすら変えてゆかざるを得ない」(22~23頁)。「他ならぬアマゾンによって先導的に開拓されたこの〈流通〉の新たな地平」(28頁)をめぐる考察は、業界人にとっては生の条件として立ち現われざるをえません。
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★続いて注目の文庫新刊を列記します。
『中世思想原典集成 精選2 ラテン教父の系譜』上智大学中世思想研究所編訳監修、平凡社ライブラリー、2019年1月、本体2,400円、B6変判並製640頁、ISBN978-4-582-76877-0
『テアイテトス』プラトン著、渡辺邦夫訳、光文社古典新訳文庫、2019年1月、本体1,120円、495頁、ISBN:978-4-334-75393-1
『言語と行為――いかにして言葉でものごとを行うか』J・L・オースティン著、飯野勝己訳、講談社学術文庫、2019年1月、本体1,180円、312頁、ISBN978-4-06-514313-1
『老子 全訳注』池田知久訳注、講談社学術文庫、2019年1月、本体960円、240頁、ISBN978-4-06-513159-6
『一日一文――英知のことば』木田元編、岩波文庫(別冊24)、2018年12月、本体1,100円、416頁、ISBN978-4-00-350027-9
『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』平田篤胤著、今井秀和訳解説、角川ソフィア文庫、2018年12月、本体880円、256頁、ISBN978-4-04-400426-2
『異端の統計学 ベイズ』シャロン・バーチュ・マグレイン著、冨永星訳、草思社文庫、2018年12月、本体1,600円、656頁、ISBN978-4-7942-2364-7
★『中世思想原典集成 精選2 ラテン教父の系譜』は「精選」シリーズ全7巻の第2回配本。目次詳細はhontoの単品頁で確認することができます。親本である『中世思想原典集成』の第4巻「初期ラテン教父」と第5巻「後期ラテン教父」から13作品が収録されています。巻頭の佐藤直子さんによる解説と、各収録先の解題、そして岡田温司さんによる巻末エッセイ「初期キリスト教時代はなぜかくも面白いのか」が新たに加えられています。岡田さんはこう記しておられます。「わたしにとって初期キリスト教時代が面白いのは、そこに異質なもの――とりわけ異教的なものや後に異端とされるもの――がさまざまなかたちで流れ込んでいて、混沌としてはいるものの一段と豊かな様相を呈しているように思われるからである」(613頁)。
★『テアイテトス』は古典新訳文庫のプラトン新訳本で5点目となる一冊。文庫で読める既訳には田中美知太郎訳(岩波文庫、1966年/改版2014年)があります。もう一点は今回の古典新訳文庫版の訳者である渡辺邦夫さんが2004年に上梓したちくま学芸文庫版。それを大幅改訂したのが今回の新刊です。「解説」は実に100頁以上あります(350~479頁)。この対話篇のテーマは「知識」すなわちエピステーメーです。それは「組織的理解を重んじるものであり、善と諸価値への積極的荷担を含むものであるという二つの特色を持ちます。〔…プラトンは〕事柄が要求するような説明ができる程度に深い「理解」こそ、「エピステーメー」という知識である考えました」と解説にあります。つまり単に見聞きして知っているかどうかというレベルではないわけです。学ぶこと、そして知恵(ソフィア)ある者になることの大切さは現代人にとっても相変わらず重要です。あらためてプラトンの偉大さを思います。
★『言語と行為』は文庫オリジナルの新訳。原書は『How to Do Things with Words: The William James Lectures delivered at Harvard University in 1955』(Harvard University Press, 1962)です。副題にある通り、イギリスの言語哲学者オースティン(John Langshaw Austin, 1911-1960)が1955年に行なったハーヴァード大学のウィリアム・ジェイムズ講義の原稿をいわば再現的にまとめたもの。再現的にというのは死後刊行であるために、講義原稿において断片的な箇所をオースティン自身の覚書や受講者のノート、関連する別の講義の音声記録などを比較参照して編者のJ・O・アームソン(James Opie Urmson, 1915-2012)が補ったためです。著者自身による決定稿ではないものの、主著として高名です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。凡例によれば「若干の誤記修正と変更・加筆が施された第二版(1975年)が刊行された。これがいまのところの最新版である。こちらも合わせて参照し、あきらかな誤記・誤字修正のたぐいは特に断りなく採り入れるとともに、変更や加筆については訳注で言及・引用した」とのことです。先行訳(初訳)に、ロングセラーとなっている坂本百大訳『言語と行為』(大修館書店、1978年)があります。聴講者の一人だったカヴェル(Stanley Cavell, 1926-2018)の自伝(2010年)によると当初100人いた聴講生は最後は5人以下になったようですが、こんにちにいたる本書の影響力を考えると目撃証人の少なさに驚きます。
★ちなみに坂本百大訳『言語と行為』(大修館書店、1978年)は2014年9月に16刷に達しています。底本情報について訳者あとがきの説明を引用しておきます。「翻訳書は、第一版を底本として企てられたものであったが、訳業途中にして、マリナ・スビサ博士の協力を得たアームソンによる第二版が刊行された。第二版は同博士の努力によってオースティンの原ノートとの対照の結果第一版よりも読みやすく、かつ、理解しやすいものとなっており、また、以前は未収録であった欄外書き込みが必要に応じて付録に追加されているが、論点に重大にかかわる修正はほとんどない。さらに、今まで言語行為がもっぱら1960年刊行の第一版に基づいて展開されているという現状を考え併せ底本は一応第一版のままとし、第二版における改良、追加箇所の中、主要なものは訳者注の形式をとって指摘することとした。この結果、読者は、第一版の構成に従いつつ、第二版の内容をも同時に知り得ることになった」(360~361頁)。
★『老子 全訳注』は巻末の特記によれば、講談社学術文庫より「2017年3月に刊行された『老子――その思想を読み尽くす』の巻末に収録された「『老子』 原文・読み下し・現代語訳」をもとに新たに【解説】を付したもの」とのこと。解説というのは『老子』全体に対するものではなく、各章に付された書き下ろしの説明文です。章ごとに現代語訳、読み下し、原文、解説、という構成になっています。親本刊行から1年も経っていませんが、訳者がご高齢であることを鑑みると、版元としても実現したかった企画なのでしょう。新たに付された「後書き」によれば、「「現代語訳」と【読み下し】については多少の修正を加える以外はほぼそのまま前著を活かすこととし、【原文】については異体字・仮借字などの表記方法を変更したために、やや大きな修正を施すこととなった。ただし【原文】の実際の内容には前著と本書の間で何の変更もない」とあります。
★『一日一文』は2004年に岩波書店より刊行された単行本の文庫化。巻頭の「例言」によれば「典拠のうち、岩波文庫で読めるものは一部差し替えてある」とのことです。書名から分かる通り、366日分の名言が選ばれています。その日に生まれたり死んだりした先哲たちの言葉です。二色刷で美しく印刷されています。先哲たちの略歴と写真も掲出されているので、自分の誕生日に縁のある人が誰なのかを知る楽しみもあります。
★『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』は文庫オリジナル。昨年大増刷した岩波文庫版『仙境異聞・勝五郎再生記聞』は2000年に発売され、その後2011年秋に「一括重版」枠で再刊されてから(この時点では5刷)しばらく動きのなかったところへ2018年2月以降に大増刷。校注を担当した子安宣邦さんへのインタヴュー「謎ブーム どうして「天狗にさらわれた少年の話」が売れているのか?――岩波文庫『仙境異聞』の校注者も首をかしげるばかり」によれば4月末現在で一気に9刷まで延ばし、8700部の増刷をしたことになっています。その後、店頭に置いてある当該書目の刷数を確認したことはないのですが、読売新聞2018年7月24日付記事「「異界」描いた岩波文庫、ベストセラーの「怪」」では「ツイッターの書き込みをきっかけにして、今年2月、約6年ぶりに“復刊”したところ、ブレイク。3か月の間に約1万2000部を増刷し、現在10刷、累計3万部に達している」と報じられていました。
★この岩波文庫版はなにせ古文のままなので決して読みやすくはないのですが、その後、八幡書店の現代語訳(山本博校訂訳、1993年)が廉価版として再刊されしました。今回の角川ソフィア文庫の新刊は、文庫版としては抄訳ながら初めての現代語訳です。帯文には「Twitterで話題の奇書、唯一の現代語訳文庫」と手書きの文字で書かれています。岩波文庫版の帯も重版では手書きのものだったので、前例に倣ったのでしょうか。書店員さんのPOPのような温かみがあります。岩波文庫版を読みこなせなかった読者でも、今回の現代語訳版なら親しみやすいだろうと思います。異界を旅した少年「寅吉」は篤胤の質問に対してすべて答えるというよりは、知らないことは知らないと答えるので、その辺が巧みです。内容的には幻想と説話的教訓が入り混じった味わいがあります。篤胤が色んなことを根掘り葉掘り聞いてくれたおかげで現代人も寅吉の話を楽しむことができるわけです。
★『異端の統計学 ベイズ』は2013年に草思社より刊行された単行本の文庫化。原書は『The Theory That Would Not Die: How Bayes' Rule Cracked the Enigma Code, Hunted Down Russian Submarines, and Emerged Triumphant from Two Centuries of Controversy』です。18世紀イギリスの統計学者で長老派の牧師トーマス・ベイズ(Thomas Bayes, 1702-1761)の業績への評価をめぐる歴史的変遷を丁寧に紹介しています。「ベイズの法則は、一見ごく単純な定理である。曰く、「何かに関する最初の考えを新たに得られた客観的情報に基づいて更新すると、それまでとは異なるより質の高い意見が得られる」。この定理を支持する人からすれば、これは「経験から学ぶ」ということをエレガントに表現したものなのだ」(13頁)。
★「ベイズの法則は、決して科学の歴史に埋もれた地味な論戦の種ではなく、我々すべてに影響を及ぼしている。それは、実生活の広い範囲――絶対的な真実とまったくの不確かさに挟まれた灰色の領域――で推論を行うための論理なのだ。知りたいことに関する情報はほんの少ししか手に入らないことが多く、それでもわたしたちは、過去の経験に基づいて何らかの予想を立てたいと思う。そして新たな情報が手に入れば、それに基づいてそれまでの考えを修正する。長い間激しい嘲りの的だったベイズ統計が、ついに身の回りの世界について合理的に考える手段を提供するようになったのだ。/ではこれから、この驚くべき変化がどのようにして起きたのか、その顛末を見ていこう」(18頁)。目次詳細はアマゾンの単品頁に掲出されています。
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★最後にここ最近の注目雑誌を3点。
『ニューQ Issue01 新しい問い号』セオ商事、2018年12月、本体1,500円、B5判並製100頁、ISBN978-4-9910610-0-4
『アレ Vol.5 特集:Workを捉えなおす』アレ★Club、2018年11月、本体1,380円、A5判並製256頁、ISDN278-4-572741-05-6
『午前四時のブルー Ⅱ 夜、その明るさ』小林康夫責任編集、水声社、2019年1月、本体1,500円、A5判並製120頁、ISBN978-4-8010-0243-2
★『ニューQ』はセオ商事が創刊した新雑誌。「創刊によせて」の言葉を借りると「新しい問いを考える哲学カルチャーマガジン」で「答えより問いの方が面白いでしょ?」と問いかけています。巻頭特集は、小説家の平野啓一郎さんへのインタビュー「物語で問うということ」です。4コママンガやSF作品もあります。従来の哲学系雑誌に比べると写真やイラストなどヴィジュアルの要素がふんだんで、誌面に明るさを感じます。目次詳細は版元さんの2018年12月20日付のブログ記事「哲学カルチャーマガジン「ニューQ」を創刊しました。本日より全国書店にて順次発売!」にてご確認いただけます。セオ商事さんは「「企画とエンジニアリングの総合商社」をテーマに企画、UI設計、デザイン、開発を通して様々なモノ作りのお手伝いを」しているという会社。「企業のブランディングキャンペーンやプロダクトのUI/UX設計、モバイルアプリからデジタルデバイスの開発まで幅広くご依頼を承っております」とのことです。次号は今春刊行予定の「エレガンス号」だそうです。
★出版社ではない会社が紙媒体を出版したりする例のほかにも、青山ブックセンターが今年出版社を立ち上げる予定だとかいう話を耳にします。出版社だけが紙媒体を作る時代はとうに終わってはいましたが、今後はいよいよ様々な新規参入者が増えていく予感がします。一方で物流や小売の現場は疲弊しており、紙媒体の現物と出会える場はこれからも減っていく可能性があります。終わりと始まりが常に重なっているのが「現在」の姿なのでしょう。
★『アレ』はアレ★clubが発行する「ジャンル不定カルチャー誌」。最新号となる第5号の特集は「Workを捉えなおす」と題されています。昨年11月25日に開催された第27回「文学フリマ東京」で初売りされ、現在では大阪、京都、東京、静岡、愛知、福岡、静岡などの複数の書店で展開中。目次詳細はこちらでご確認いただけます。アラン・バディウと小泉義之さんからの特別寄稿は特筆すべきかと思われます。バディウ「新石器時代、資本主義、共産主義」(小泉義之訳、18~20頁)と、小泉さんの「最後のダーク・ツーリズム――『少女終末旅行』を読む」(6~16頁)です。いずれも著者自身の申し出による寄稿というのがすごいところ。バディウにオリジナル原稿を寄せてもらった雑誌というのは日本で恐らく初めてではないでしょうか。このバディウの論考は長くはありませんが非常に力強いもので、バディウ自身による「共産主義者宣言」とも言うべき内容となっています。必読です。ちなみにバディウと小泉さんは2018年5月に発行された第4号にも寄稿されています。
★ちなみに『アレ』誌の表紙表4に付されているISDNコードというのは、International Standard Dojin Numbering(国際標準同人誌番号)のこと。ちなみに一部出版社のスリップに記載されていた10桁のBBBNというのも業界にはあって、こちらは「元々ISBNが10桁だったものが、13桁にコード体系を移行したときに、受発注の処理の関係で10桁のままの番号が必要な会社達が、移行措置として当面の間残したモノです。/十数社はいるようです。/BBBNには意味はありません。ISBNと入れると、OCRで不都合が生じるので、意味のない文字列の組み合わせにしたとのことです」とこちらのサイトに寄せられたコメントのひとつにあります。
★『午前四時のブルー』は昨春創刊された、哲学者の小林康夫さんが責任編集をつとめる雑誌。目次は誌名のリンク先をご覧ください。創刊記念で昨年6月に神楽坂モノガタリで開催された小林さんと國分功一郎さんとの対談イベントの抄録「モノガタリの夜――信じること・愛すること」のほか、國分さんの『中動態の世界』に続く新著への予告ともなるエッセイ「哲学とあの世――ソクラテス、プラトン、死」などが掲載されています。ちなみに國分さんが昨年9月に東大で行われたシンポジウム「オープンダイアローグと中動態の世界」で行った基調講演「中動態/意志/責任をめぐって」が、斎藤環さんの講演「臨床で使える中動態」とともに『精神看護 2019年 1月号 特集 オープンダイアローグと中動態の世界』(医学書院、2018年12月)に掲載されています。併せて読んでおきたいです。
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ブックツリー「哲学読書室」に鈴木智之さんの選書リストが追加されました
オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、モーリス・アルヴァックス『記憶の社会的枠組み』(青弓社、2018年11月)の訳者、鈴木智之さんによるコメント付き選書リスト「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」が追加されました。以下のリンク先一覧からご覧になれます。
◎哲学読書室1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」
27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」
29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」
30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
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◎哲学読書室1)星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
2)國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
3)近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
4)上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
5)篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
6)渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
7)西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
8)岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
9)金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
10)藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
11)吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
12)高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」
13)杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」
14)河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-)さん選書「労働のいまと〈戦闘美少女〉の現在」
15)岡嶋隆佑(おかじま・りゅうすけ:1987-)さん選書「「実在」とは何か:21世紀哲学の諸潮流」
16)吉田奈緒子(よしだ・なおこ:1968-)さん選書「お金に人生を明け渡したくない人へ」
17)明石健五(あかし・けんご:1965-)さん選書「今を生きのびるための読書」
18)相澤真一(あいざわ・しんいち:1979-)さん/磯直樹(いそ・なおき:1979-)さん選書「現代イギリスの文化と不平等を明視する」
19)早尾貴紀(はやお・たかのり:1973-)さん/洪貴義(ほん・きうい:1965-)さん選書「反時代的〈人文学〉のススメ」
20)権安理(ごん・あんり:1971-)さん選書「そしてもう一度、公共(性)を考える!」
21)河南瑠莉(かわなみ・るり:1990-)さん選書「後期資本主義時代の文化を知る。欲望がクリエイティビティを吞みこむとき」
22)百木漠(ももき・ばく:1982-)さん選書「アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える」
23)津崎良典(つざき・よしのり:1977-)さん選書「哲学書の修辞学のために」
24)堀千晶(ほり・ちあき:1981-)さん選書「批判・暴力・臨床:ドゥルーズから「古典」への漂流」
25)坂本尚志(さかもと・たかし:1976-)さん選書「フランスの哲学教育から教養の今と未来を考える」
26)奥野克巳(おくの・かつみ:1962-)さん選書「文化相対主義を考え直すために多自然主義を知る」
27)藤野寛(ふじの・ひろし:1956-)さん選書「友情という承認の形――アリストテレスと21世紀が出会う」
28)市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-)さん選書「壊れた脳が歪んだ身体を哲学する」
29)森茂起(もりしげゆき:1955-)さん選書「精神分析の辺域への旅:トラウマ・解離・生命・身体」
30)荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さん選書「「偶然」にかけられた魔術を解く」
31)小倉拓也(おぐら・たくや:1985-)さん選書「大文字の「生」ではなく、「人生」の哲学のための五冊」
32)渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さん選書「『ドローンの哲学』からさらに思考を広げるために」
33)真柴隆弘(ましば・たかひろ:1963-)さん選書「AIの危うさと不可能性について考察する5冊」
34)福尾匠(ふくお・たくみ:1992-)さん選書「眼は拘束された光である──ドゥルーズ『シネマ』に反射する5冊」
35)的場昭弘(まとば・あきひろ:1952-)さん選書「マルクス生誕200年:ソ連、中国の呪縛から離れたマルクスを読む。」
36)小林えみ(こばやし・えみ:1978-)さん選書「『nyx』5号をより楽しく読むための5冊」
37)小林浩(こばやし・ひろし:1968-)選書「書架(もしくは頭蓋)の暗闇に巣食うものたち」
38)鈴木智之(すずき・ともゆき:1962-)さん選書「記憶と歴史――過去とのつながりを考えるための5冊」
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月曜社2月下旬新刊:須藤温子『エリアス・カネッティ――生涯と著作』
2019年2月19日取次搬入予定【人文思想/ドイツ文学】
エリアス・カネッティーー生涯と著作
須藤温子著
月曜社 2019年2月 本体3,500円 A5判上製376頁 ISBN: 978-4-86503-070-9 C1098
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
内容:セファルディ系ユダヤ人であり、20世紀のドイツ語圏作家。ノーベル文学賞受賞者にして、数知れない故郷をもつ亡命者。そして、死の敵対者でありつづけた男。4つの言語を操りながらもドイツ語で書き続けたエリアス・カネッティの文学作品と思考の変遷をたどる力作。妻であり作家であったヴェーザの魅力にも触れる。【シリーズ・古典転生:第18回配本、本巻17】
著者:須藤温子(すとう・はるこ)1972年生まれ。日本大学芸術学部教授。専門はドイツ語圏文学、表象文化論、エリアス・カネッティ、ヴェーザ・カネッティ研究。著書に『狂気のディスクルス』(共著、夏目書房、2006年)、論文に第4回日本オーストリア文学会賞受賞論文「エリアス・カネッティの群衆――他者と偶有性への活路」(『ドイツ文学』第130号、2006年)、翻訳に『エリアス・カネッティ伝記』(上下巻、共訳、SUP 上智大学出版、2013年)などがある。
エリアス・カネッティーー生涯と著作
須藤温子著
月曜社 2019年2月 本体3,500円 A5判上製376頁 ISBN: 978-4-86503-070-9 C1098
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
内容:セファルディ系ユダヤ人であり、20世紀のドイツ語圏作家。ノーベル文学賞受賞者にして、数知れない故郷をもつ亡命者。そして、死の敵対者でありつづけた男。4つの言語を操りながらもドイツ語で書き続けたエリアス・カネッティの文学作品と思考の変遷をたどる力作。妻であり作家であったヴェーザの魅力にも触れる。【シリーズ・古典転生:第18回配本、本巻17】
著者:須藤温子(すとう・はるこ)1972年生まれ。日本大学芸術学部教授。専門はドイツ語圏文学、表象文化論、エリアス・カネッティ、ヴェーザ・カネッティ研究。著書に『狂気のディスクルス』(共著、夏目書房、2006年)、論文に第4回日本オーストリア文学会賞受賞論文「エリアス・カネッティの群衆――他者と偶有性への活路」(『ドイツ文学』第130号、2006年)、翻訳に『エリアス・カネッティ伝記』(上下巻、共訳、SUP 上智大学出版、2013年)などがある。
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月曜社2月下旬新刊:ハナ・ロスチャイルド『パノニカ――ジャズ男爵夫人の謎を追う』
2019年2月22日取次搬入予定【芸術/音楽】
パノニカ――ジャズ男爵夫人の謎を追う
ハナ・ロスチャイルド著 小田中裕次訳
月曜社 2019年2月 本体2,700円、46判(縦188.5mm×横130mm)上製384頁、ISBN:978-4-86503-069-3
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
内容:ジャズ界の伝説のパトロン、ニカ男爵夫人の数奇なる生涯。ジャズに魅せられ、セロニアス・モンクの天才を深く愛し、その半生をジャズとモンクに捧げたニカ夫人(キャスリーン・アニー・パノニカ・ドゥ・コーニグスウォーター/旧姓ロスチャイルド)。長年の取材とニカを直接知る親族ならではの視点とエピソードで描く、日本ではあまり知られることのなかったその実像とは。「すっかり魅了される」(ガーディアン紙)。「明快な文章と見事なストーリー」(インデペンデント紙)。原著 The Baroness: The Search for Nica, The Rebellious Rothschild (Virago Press, 2012)
クリント・イーストウッド「ニカはジャズとビバップの文化を何もかも受け入れ、ジャズの持つ反抗的なところを愛していた。」
アーチー・シェップ「時代の先を行っていた人で、フェミニストの先駆者の一人であり、自分らしく生きる権利を行使した。」
ソニー・ロリンズ「彼女の物語は我々の物語でもあるんだ。」
著者:ハナ・ロスチャイルド(Hannah Rothschild)1962年生まれの映像作家、作家、慈善家。イギリスのロスチャイルド家第4代男爵ジェイコブ・ロスチャイルド氏の長女。オックスフォード大学を卒業後、BBCに入社し、主にアーティストを対象としたドキュメンタリー映画の制作を担当。小説にThe Improbability of Love(Knopf, 2015)がある。
訳者:小田中裕次(おだなか・ゆうじ)1950年生まれ。翻訳家。訳書に、アンディ・ハミルトン『リー・コニッツ:ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』(DU BOOKS、2015年)、ロビン・ケリー『セロニアス・モンク:独創のジャズ物語』(シンコーミュージック、2017年)がある。
パノニカ――ジャズ男爵夫人の謎を追う
ハナ・ロスチャイルド著 小田中裕次訳
月曜社 2019年2月 本体2,700円、46判(縦188.5mm×横130mm)上製384頁、ISBN:978-4-86503-069-3
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
内容:ジャズ界の伝説のパトロン、ニカ男爵夫人の数奇なる生涯。ジャズに魅せられ、セロニアス・モンクの天才を深く愛し、その半生をジャズとモンクに捧げたニカ夫人(キャスリーン・アニー・パノニカ・ドゥ・コーニグスウォーター/旧姓ロスチャイルド)。長年の取材とニカを直接知る親族ならではの視点とエピソードで描く、日本ではあまり知られることのなかったその実像とは。「すっかり魅了される」(ガーディアン紙)。「明快な文章と見事なストーリー」(インデペンデント紙)。原著 The Baroness: The Search for Nica, The Rebellious Rothschild (Virago Press, 2012)
クリント・イーストウッド「ニカはジャズとビバップの文化を何もかも受け入れ、ジャズの持つ反抗的なところを愛していた。」
アーチー・シェップ「時代の先を行っていた人で、フェミニストの先駆者の一人であり、自分らしく生きる権利を行使した。」
ソニー・ロリンズ「彼女の物語は我々の物語でもあるんだ。」
著者:ハナ・ロスチャイルド(Hannah Rothschild)1962年生まれの映像作家、作家、慈善家。イギリスのロスチャイルド家第4代男爵ジェイコブ・ロスチャイルド氏の長女。オックスフォード大学を卒業後、BBCに入社し、主にアーティストを対象としたドキュメンタリー映画の制作を担当。小説にThe Improbability of Love(Knopf, 2015)がある。
訳者:小田中裕次(おだなか・ゆうじ)1950年生まれ。翻訳家。訳書に、アンディ・ハミルトン『リー・コニッツ:ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡』(DU BOOKS、2015年)、ロビン・ケリー『セロニアス・モンク:独創のジャズ物語』(シンコーミュージック、2017年)がある。
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