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ブックツリー「哲学読書室」に金澤忠信さんと藤井俊之さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ソシュールの政治的言説』(月曜社、2017年5月)を上梓された金澤忠信さんの選書リスト「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」と、『啓蒙と神話――アドルノにおける人間性の形象』(航思社、2017年4月)を上梓された藤井俊之さんの選書リスト「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。
◎哲学読書室星野太さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
近藤和敬さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
上尾真道さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
篠原雅武さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
渡辺洋平さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
西兼志さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
岡本健さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
金澤忠信さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
藤井俊之さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」


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メモ(21)

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ヤマト運輸と決裂しそうな雲行きによって、アマゾン・ジャパンの周辺では様々な変化が玉突のように連鎖しています。以下に取り上げる個人運送事業者の囲い込みもそうですし、今月で終了予定の日販へのバックオーダーの件も、業界内では連鎖の中に見る向きがあります(アメリカ本社へのアピール)。なお、バックオーダーの発注終了および版元直取引の慫慂については、予定では本日がアマゾン側の説明会の最終日です。ちなみに昨日は太洋社の債権者集会の第三回目でした。破産債権に対する配当は10月~11月頃の予定と聞いています。12月に計算報告集会が行われ、太洋社の件はようやく終結することになります。



「日本経済新聞」2017年6月22日付記事「アマゾン、独自の配送網 個人事業者1万人囲い込み」によれば、「インターネット通販大手のアマゾンジャパン(東京・目黒)が独自の配送網の構築に乗り出すことが分かった。注文当日に商品を届ける「当日配送サービス」を専門に手がける個人運送事業者を2020年までに首都圏で1万人確保する。ヤマト運輸が撤退する方向のため、代替策を模索していた。大手運送会社の下請けとして繁忙期に業務が集中しがちな個人事業者の活用が通年で進み、運転手不足の緩和につながる可能性がある」(以下閲覧には要登録)。


ポイントは「注文当日に商品を届ける「当日配送サービス」を専門に手がける個人運送事業者」というところ。「メモ(16)」でも言及した、例の「所沢納品センター」も当日配送が売りで、「アマゾンが用意したトラックが出版各社の倉庫に集荷に回る」システムを稼働させようとしています。「アマゾンジャパン(東京・目黒)は、出版取次を介さない出版社との直接取引を広げる。自ら出版社の倉庫から本や雑誌を集め、沖縄を除く全国で発売日当日に消費者の自宅に届けるサービスを今秋までに始める。アマゾンによる直接取引が浸透すれば、取次や書店の店頭を経ない販売が拡大。書籍流通の流れが変わる節目になりそうだ。/埼玉県所沢市に1月、設立した「アマゾン納品センター」を直接取引専用の物流拠点として使う」(「日本経済新聞」2017年3月22日付記事「アマゾン、本を直接集配 発売日に消費者へ――取次・書店介さず」)。私は「取次を出し抜くレヴェルの「アマゾン最優遇」を版元や倉庫会社から勝ち取れるでしょうか」と書いたわけですが、アマゾン最優遇へと傾きつつある出版社に対して、取次さんや書店さんはどうお感じになるでしょうか。



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「日経新聞」と同様の記事には、「朝日新聞」2017年6月22日付、奥田貫氏記名記事「アマゾン、「当日配送」維持へ独自網強化 ヤマト縮小で」があります。曰く「通販大手のアマゾンが、「当日配送」ができる独自配送網の拡大に乗り出していることが分かった。宅配最大手のヤマト運輸が人手不足から当日配送を縮小しており、アマゾンはこれまで東京都心の一部で使っていた独自配送網を強化することで、サービスの維持を図る考えとみられる。/今月上旬から、新たに中堅物流会社の「丸和運輸機関」(埼玉県)に当日配送を委託し始めた。23区内の一部から始め、委託するエリアを首都圏に拡大していくとみられる。丸和はこれまで、ネットスーパーの配達などを手がけてきたが、当日配送を含めた宅配事業を大幅に拡大する方針だ」云々。同記事のヤフーニュース版ではコメント欄に興味深い投稿が並んでいます。「結局下請にブラックが増えるだけ」という指摘は、大方の業界人が抱く懸念ではないかと思います。



また、より詳細な記事としては、「DIAMOND online」2017年6月21日付、週刊ダイヤモンド編集部・柳澤里佳氏記名記事「ヤマトが撤退したアマゾン当日配達「争奪戦」の裏側」があります。丸和運輸機関が宅配事業の「桃太郎便」を強化していることを、和佐見勝社長への聴き取りなどから示しています。「5月、軽ワゴンを新車でなんと1万台発注。年内に3500台が納品予定だ。中古車も500台ほど手当てした。「〔・・・〕今がチャンス。ネット通販が伸び盛りの中、大手が運ばない当日配達の荷物を誰が運ぶかで、下克上が始まった」(和佐見社長)と鼻息は荒い」と。


さらに記事ではこうも報じられています。「近年、企業の物流業務を一括して請け負うサードパーティーロジスティクス、通称「3PL」企業がインターネット通販大手と組み、宅配に手を広げているのだ。/中でも注目されるのが、アマゾンと地域限定で提携する配達業者、通称「デリバリープロバイダ」で、丸和もこれに参画した。/先行者はアマゾンと二人三脚で急成長している。例えばアマゾンの倉庫業務や宅配が売上高の7割を占めるファイズは2013年に創業し、わずか4年で上場を果たした。他にはTMGやSBS即配サポートなどが取引を拡大中だ。/後発の丸和は、生協や大手ネットスーパーの宅配を長年手掛けてきたノウハウを生かし、接客の質で差別化を図る。「早く、丁寧に運べば、大逆転も狙える」(和佐見社長)」。



接客の質で差別化を図る、というのは重要です。というのも、アマゾン・ジャパンが利用している「デリバリープロバイダ」については、ウェブで目にする購入者からの評価には、ヤマト運輸に比してまだまだ厳しいものがあるものからです。「バズプラスニュース」2016年8月9日付、yamashiro氏記名記事「【激怒】不満爆発! Amazonの配送業者「デリバリープロバイダ」をできるだけ避ける方法――デリバリープロバイダが不評」や、「NAVERまとめ」2016年8月10日更新「【デリバリープロバイダ】Amazonの“TMG便”がひどいらしい・・・【届かない】」。残念ながらこれらは過去の話とは言えません。「デリバリープロバイダ」よりも、ヤマト運輸への信頼感が強いのが現状ではないでしょうか。ヤマトが当日配送から撤退となれば、「デリバリープロバイダ」側のサービスが向上しない限り、混乱は続きますし、アマゾンへの悪評も消えないでしょう。



先述の「DIAMOND online」の記事では次のような指摘もなされています。「「アマゾンに食いつぶされてたまるか」と拒絶反応を示す企業もある。「最初は頼み込まれて始めても、力関係は早晩変わるはず」(3PL企業幹部)。〔・・・〕アマゾンは宅配大手と同じように新興勢とも荷物1個当たりの成果支払いを要望。一方、新興勢からすれば、当日配達は再配達が多く、燃料費も人件費も掛かるので、料金を保証してほしい。水面下では、こうした攻防が繰り広げられている。〔・・・〕そして最大のネックは、やはり人手だ。すでに物流倉庫ではアジア系の労働力が欠かせない。外国人労働者が宅配ドライバーになる日も近いかもしれない」。3PL幹部の本音は小零細出版社の本音でもあります。色々と嫌な予感がしますが、同記事のヤフーニュース版のコメント欄も非常に興味深いです。例えば「犠牲者になる対象が変わっただけだよ。物流業はマンパワー以外手段はない。魔法があるなら大手はとっくに使っている」との声。まったく同感です。



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「日本経済新聞」では本日、加藤貴行・栗原健太記名によるこんな記事も配信しています。「アマゾンの荷物、一般人が運ぶ時代」によれば「アマゾンジャパン(東京・目黒)が日本国内で独自に配送網を構築することになった。アマゾンは個人事業者を活用し、宅配便首位ヤマト運輸を事実上中抜きする。実は親会社の米アマゾン・ドット・コムの目線はもっと先にある。究極の姿は、時間のある一般人に委託したり、ロボットを使ったりする手法だ。アマゾンが世界の物流のあり方を変えようとするなか、欧米企業も対応を進めている」(以下要登録)。記事では米国で2015年から始まっている、個人に宅配を委託する事業「アマゾンフレックス」や、2016年に英国で始めたドローンによる自動配達試験「アマゾン・プライム・エアー」のほか、目下アマゾンが研究中のとある技術、またドイツのダイムラーの「危機感」にも言及しており、必読です。


このほか参考すべき記事には「ITmedia NEWS」2017年6月17日付記事「Amazon、一般人に荷物運びを依頼? 新アプリ開発中か:外出のついでにAmazonの荷物を運んで小遣い稼ぎ──こんなことができるようになるかもしれない」があります。「日経新聞」が参照している「Wall Street Journal」の記事について触れたものです。曰く「Amazon社内で「On My Way」と呼ばれているというこのサービスは、「配達のクラウドソーシング」だ。都市部の小売業者に依頼して荷物を集積しておき、一般人はどこかへ行くついでに荷物を配達する仕組みになるようだ。こうした仕組みを実現するモバイルアプリを開発中という」。


この「On My Way」をめぐる同様の記事には、「TCトピックス」」6月17日付、Jordan Crook氏記名記事「Amazonが一般人が商品配送に参加できるアプリを開発中との情報」や、「ITpro」6月17日付、小久保重信氏記名記事「Amazon、一般の人が商品を配達する新たな仕組み「On My Way」計画中」があります。前者では「WSJの記事によれば、On My Wayプロジェクト〔への〕参加者はこうしたロッカーやAmazonの商品を預かるコンビニなどでパッケージをピックアップし、最終目的へ届けるのだろうという」と。 後者では「Wall Street Journalによると、Amazonがこの計画を実現させれば、同社は「クラウドソース・デリバリー」と呼ばれる、一時的な契約職員を使った配達サービス事業に参入することになる。ただし、この分野では大手運送業者などと競合する規模でサービスを展開した企業はまだない」と紹介されています。



画期的とも言える一方で、トラブルが見込まれることは否応ないように感じます。


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メモ(22)

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「週刊東洋経済Plus」2017年6月24日号特集「アマゾン膨張――追い詰められる日本企業」が興味深いです。


東洋経済記者・広瀬泰之氏記名記事「「直取引」拡大の衝撃――問われる出版社の選択」(途中まで無料で閲覧できます。全文は有料会員のみ)でアマゾンジャパン・メディア事業本部統括事業本部長村井良二さん曰く「読者が本を読みたいタイミングでお届けするのがいちばん重要。日販には長期で売れるロングテール商材を中心に在庫を増やすほか、バックオーダーの納期短縮を求めてきたが、われわれが求める水準に達さなかった」。→日販経由から版元直取引に変われば色々なことが解決する、というのはなかば幻想にすぎません。



「すれ違う両者の言い分――日販 vs. アマゾン」(途中まで無料で閲覧できます。全文は有料会員のみ)で日販常務取締役大河内充さん曰く「アマゾンのバックオーダー発注は当社の売り上げ全体から見るとごくわずかだ。今回の件はかなり大きく報道されたが、「それほど大きな話なのか」とも感じる」。→アマゾンの揺さぶり戦略。



「「数字への執着が尋常でなかった」――元アマゾン社員座談会」(無料会員登録で全文閲覧可能)で元アマゾン社員・飲料食品部門バイヤー中山雄介さん曰く「社内では“Good intentions don't work.”という言葉が使われていました。意志の力には頼るなというジェフ・ベゾスCEOのメッセージです。どんな業務でも属人的にならず、メカニズムを作るという徹底した哲学が浸透しています。ベゾス氏は人の意志のみならず、知能さえ信用していないのかもしれません。トークだけが上手な営業タイプの人は向かない会社でしょうね」。→むしろトークが上手な営業タイプがいないことが弱点だと思います。人的交流力に乏しい背景にこうした非人間的理念がある、と。



「Interview|まだまだ社員を増やし「プライム」を強化する」(途中まで無料で閲覧できます。全文は有料会員のみ)でアマゾンジャパン社長ジャスパー・チャンさん曰く「今後も現状の価格水準を維持しながら、プライムサービスの充実化を図っていく」。→ヤマトが音を上げたら小さな他社に乗り換え、それもダメなら一般人も動員しますよと。取次が音を上げたら出版社に球を投げ、それでもダメなら(著者と直接?)。



聞き手・本誌長瀧菜摘氏「Interview|アマゾン米国幹部に直撃――「非プライム会員はありえない選択だ」」(途中まで無料で閲覧できます。全文は有料会員のみ)でアマゾンコム・デジタルミュージック事業部担当副社長スティーブ・ブームさん曰く「日本はまだストリーミングサービスが普及しておらず、楽曲を提供するアーティストが欧米に比べ圧倒的に少ないことが課題だ。アマゾンがあらゆる面のハードルを下げ、先頭に立ち市場を広げていきたい」。→破壊的創造と言えば聞こえはいいですけどね。



このほか、特集INDEXからのリンクで「ヤマト 剣が峰の値上げ交渉」「出品者たちの困惑――最安値要請で公取が調査」「AWSの磁力――大手企業が続々採用」「アマゾンはどう使われているか――本誌アンケートでわかった!」「シアトル本社の全貌――新社屋「THE SPHERES」は完成間近」「世界最強企業へ突き進む異次元の成長戦略――米アマゾン最前線」「驚異の金融ビジネス――商流の把握で自由自在」など興味深い記事が並びます。


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注目新刊:ヘグルンド『ラディカル無神論』、ラトゥール『法がつくられているとき』、ほか

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★明日以降順次発売開始と聞く注目新刊をまずご紹介します。


『ラディカル無神論――デリダと生の時間』マーティン・ヘグルンド著、吉松覚/島田貴史/松田智裕訳、法政大学出版局、2017年6月、本体5,500円、四六判上製478頁、ISBN978-4-588-01062-0
『法が作られているとき――近代行政裁判の人類学的考察』ブルーノ・ラトゥール著、堀口真司訳、水声社、2017年6月、本体4,500円、四六判上製473頁、ISBN978-4-8010-0263-0



★ヘグルンド『ラディカル無神論』の原書は『Radical Atheism: Derrida and the Time of Life』(Stanford University Press, 2008)です。ヘグルンド(Martin Hägglund, 1976-)は、スウェーデン出身の哲学者で、現在イェール大学比較文学・人文学教授。本訳書は著者にとって英語で刊行された初めての著書であり、単行本での本邦初訳となります(中国語訳と韓国語訳が進行中と聞きます)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。日本語版付録として「ラディカル無神論的唯物論──メイヤスー批判」(初出:吉松覚訳、『現代思想』2016年1月号「特集=ポスト現代思想」)が再録されています。ヘグルンドは序文で自著についてこう述べています。「本書は、デリダがたどった道筋全体を一貫して捉えなおそうとする試みを提示している。デリダの思考のなかに倫理的ないし宗教的な「転回」があったとする見解を退けることで、私は、ラディカルな無神論が終始一貫して彼の著作を形づくっていることを明らかにしたい」(3頁)。



★序文では各章について端的な紹介があります。「第一章〔時間の自己免疫性──デリダとカント〕では、デリダの脱構築とカントの批判哲学との関連を扱う」。「第二章〔原‐エクリチュール──デリダとフッサール〕では時間の総合という脱構築的な観念を、デリダが「原-エクリチュール」と呼んだものの分析を通して展開する」。「第三章〔原‐暴力──デリダとレヴィナス〕では、原-エクリチュールと、デリダが原-暴力と呼ぶものとの関連を明らかにする」。「第四章〔生の自己免疫性──デリダのラディカル無神論〕では、デリダのラディカル無神論の重要性を、詳細にわたって示すことにする」。「第五章〔デモクラシーの自己免疫性──デリダとラクラウ〕では、ラディカル無神論の論理がデリダのデモクラシー概念に結びつけられる」(20-22頁)。


★以下では印象的な言葉を抜き出してみます。「デリダは、それ〔「生き延び」という観念〕が自分の仕事全体にとって中心的な重要性をもつと繰り返し指摘しているが、彼は生き延びの論理について明確に問題を示したことなど一度もなかったし、それが同一性や欲望、倫理や政治にかんするわれわれの思考へと分岐していることを示したこともなかった。こうした議論を準備することで私は、彼がこの語に与える厳密な意味において、デリダを「相続」しようと努めた。相続することは、単に師に導かれたことを受け入れるだけではない。それは、師の教えをさまざまな仕方で生き続けさせるために、その遺産を肯定し直すことなのである。/このような相続はもっともらしく教えを守ることによってはなしえない。それは、ただ教えを批判的に識別することを通してのみ可能なのである」(23-24頁)。


★「ラディカル無神論の最初の挑戦は、生のあらゆる瞬間が実のところ生存の問題なのだということを証明することである。〔・・・〕何ものもそれ自体として与えられることはありえず、つねにすでに過ぎ去っている〔・・・〕仮に出来するものがそれ自体として与えられ過ぎ去ってしまうことがなかったならば、未来のために何かを書き留める理由などないだろう。〔・・・〕生き延びの運動なしにはいかなる生も存在しえない〔・・・〕。生き延びの運動は来たるべき予見不可能な時間のために、破壊可能な痕跡を残すことによってのみ存続するのだ」(86頁)。


★「ひとが望む未来はどのようなものであれ、内在的に暴力的で(なぜならこの未来は、他の未来を犠牲にしてのみ到来しうるのだから)、かつそれ自体暴力にさらされている(なぜならこの未来は他の未来の到来によって打ち消されるかもしれないからだ)。〔・・・〕生き延びを目指した欲動は、デモクラシーを望むということがいかにして可能になるかわれわれが説明することを可能にする傍らで、なぜこの欲望は本質的に退廃しうるもので、内在的に暴力的なのかを説明することをも可能にしてくれる〔・・・〕。デモクラシーを望むとしても、時間を逃れた存在の状態を望むことはできない。デモクラシーを望むことは本質的に、時間的なものを望むことである。なぜならデモクラシーは、民主主義的であるために、自らの変化=他化に開かれたままでなければならないからだ。〔・・・デモクラシーを求める欲望は〕あらゆる欲望において機能している生き延びの暴力的な肯定を明快に説明している〔・・・〕。ラディカル無神論の論理によってわれわれは政治の問題と、デモクラシーの課題を、新たな観点から評価することができるようになる」(398-399頁)。


★『ラディカル無神論』はそれ自体がデリダの思想を相続する試みであると同時に、デリダを相続しようとした先行者たちとの対話でもあり、それらをとりまく哲学史との対話でもあります。本書を読むことなしにデリダ研究の現在は語れないのではないかと思われます。


★ラトゥール『法が作られているとき』は「叢書・人類学の転回」の最新刊。原書は『La Fabrique du droit : une ethnographie du Conseil d'État』(La Découverte, 2002)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「フランスの行政法最高裁判所であるコンセイユデタの人類学的調査が実施され、法を専門としない外部者の視線から、裁判官が事件を処理し判決を作り上げるプロセスについて、詳細な記述が行われている」(訳者あとがき、456頁)本書について、ラトゥールは英語版序文でこう書いています。「エスノグラフィという装置を用いて、哲学的には捉えることができないような哲学的問題に取り組もうとしている。つまり、法の本質についてである。それは、本質とは、定義の中ではなく、実践、それもある特別な方法で異質な現象を全体的に結びつけているような、実態に根差した実践の中にこそあるということを知っているからである。そして、本書全体を通じて焦点を当てているのが、この特別な方法そのものを探求することなのである」(451頁)。



★ブルーノ・ラトゥール(Bruno Latour, 1947-)はフランス・パリ政治学院教授。科学社会学の泰斗で訳書には以下のものがあります。


1985年『細菌と戦うパストゥール』岸田るり子/和田美智子訳、偕成社文庫、1988年(品切)
1987年『科学がつくられているとき――人類学的考察』川崎勝/高田紀代志訳、産業図書、1999年
1991年『虚構の「近代」――科学人類学は警告する』川村久美子訳、新評論、2008年
1992年『解明 M.セールの世界――B.ラトゥールとの対話』ミシェル・セール著、梶野吉郎/竹中のぞみ訳、法政大学出版局、1996年(品切)
1999年『科学論の実在――パンドラの希望』川崎勝/平川秀幸訳、産業図書、2007年
2002年『法が作られているとき――近代行政裁判の人類学的考察』堀口真司訳、水声社、2017年
2014年「「近代」を乗り越えるために」、『惑星の風景――中沢新一対談集』所収、中沢新一著、青土社


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★次に、発売済の今月新刊から注目書をピックアップします。


『ミシェル・フーコー講義集成Ⅲ 処罰社会――コレージュ・ド・フランス講義1972-1973年度』ミシェル・フーコー著、八幡恵一訳、筑摩書房、2017年6月、本体6,000円、A5判上製448頁、ISBN978-4-480-79043-9
『口訳万葉集(下)』折口信夫著、岩波現代文庫、2017年6月、本体1,400円、A6判並製480頁、ISBN978-4-00-602289-1



★『ミシェル・フーコー講義集成Ⅲ 処罰社会』は発売済。全13巻のうちの第11回配本(原書『La société punitive. Cours au Collège de France (1972-1973)』は2013年刊)。帯文はこうです。「規律権力はどこから来たのか――現代の監視社会の起源を問う、もうひとつの『監獄の誕生』! 18世紀末から19世紀にかけ、監獄という刑罰の形態が、身体刑にとって代わり、突如として一般的になる。なぜ、このような奇妙な現象が生じたのか。犯罪者を「社会の敵」へと変えるさまざまな刑罰の理論と実践を検討し、のちの『監獄の誕生』では十分に深められなかった「道徳」の観点から、現代における規律権力の到来を系譜学的にさぐる。フーコー権力論の転回点を示す白熱の講義」。残すところ、講義録は第Ⅱ巻「刑罰の理論と制度(1971-1972)」と第Ⅹ巻「主体性と真理(1980-1981)」の2巻となりました。ちなみに新潮社版『監獄の誕生』は現在版元品切ですが、アマゾンでの表示が7月31日に入荷予定となっているので、おそらく重版が掛かるのだと思われます。


★折口信夫『口訳万葉集(下)』は全三巻の完結編。29歳の折の口述筆記による現代語訳です。下巻は巻十三から巻二十を収めています。夏石番矢さんによる解説「波路のコスモロジー」が巻末に掲載されています。今年は折口の生誕130年であり、角川ソフィア文庫の『古代研究』をはじめ、新刊が続いています。


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★また最近では以下の新刊との出会いがありました。


『ゲンロン5 幽霊的身体』東浩紀編、ゲンロン、2017年6月、本体2,400円、A5判並製324頁、ISBN978-4-907188-21-4
『わが人生処方』吉田健一著、中公文庫、2017年6月、本体860円、文庫判並製280頁、ISBN978-4-12-206421-8
『鯨と生きる』西野嘉憲著、平凡社、2017年6月、本体4,500円、B5変判上製96頁、ISBN978-4-582-27828-6



★『ゲンロン5 幽霊的身体』は6月24日(土)より一般書店発売開始。発行部数一万部と聞いていますので、本誌の取扱書店一覧は、人文書版元の営業にとってMAXに近い配本先となり、非常に参考になります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。東浩紀さんによる巻頭言「批評とは幽霊を見ることである」にこんな言葉があります。「つまり批評とは、なによりもまず視覚の問題なのだ。批評家は、見えるものを分析するだけではいけない(それはジャーナリストや社会学者の仕事だ)。しかし、かといって、見えないものを夢想するだけでもいけない(それはこんどは芸術家の仕事だろう)。批評家は、見えるもののなかに、本来なら見えないはずのものを幻視する、特殊な目をもっていなけれなならない。言い換えれば、幽霊が見える目をもっていなければならない。/批評とは幽霊を見ることだ」(9~10頁)。「この21世紀の社会をよりよく生きるためには、みなが幽霊を見る目をもつべきである、すなわちみなが小さな批評家になるべきである〔・・・〕。ポストモダンとは、幽霊の時代であり、批評の時代なのである」(11頁)。なお、続刊となる第6号(9月予定)と第7号(2018年1月)では、連続で「ロシア現代思想」の特集が組まれるそうです。



★吉田健一『わが人生処方』は発売済。没後20周年記念オリジナル編集のエッセイ集第三弾です。人生論と読書論から成る二部構成で、巻末には著者のご息女である吉田暁子さんと松浦寿輝さんの対談「夕暮れの美学――父・作家、吉田健一」(初出は『文學界』2007年9月号)と、松浦さんの解説「すこやかな息遣いの人」が収められています。松浦さんはこうお書きになっておられます。「本書が教えてくれるのは、人は恋人の瞳や飼っている犬のしぐさや川面に移ろう光を愛するように本を愛しうるし、また愛すべきだという簡明な真実である。この「一冊の本」と深くまた密に付き合うことで、人は「時間がただそれだけで充実してゐる」世界を体験することができるからだ」(271頁)。「わたしの書架には数十年来何度も何度も読み返し読み古した挙句、黄ばんでよれよれになってしまった集英社文庫版の『本当のような話』や中公文庫版の『東京の昔』がまだ残っており、それらをわたしは死ぬまで手元に置いて、折に触れ繰り返しページを繰りつづけるだろう」(272頁)。紙の書物の「「実在」と深く密に触れ合」うことの「「充実」した時間」、この幸福は愛読書を持つ者なら共感できることではないかと思います。すべてが素早く移ろいゆく世界の中で、一冊の愛すべき書物を読む時間を持てるのは、この上なく贅沢なことです。


★西野嘉憲『鯨と生きる』は発売済。帯文に曰く「関東で唯一の捕鯨基地がある千葉県和田漁港。毎年、町には鯨とともに夏が訪れる。鯨が息づく町の暮らしや捕鯨船の様子を、自然とヒトの関係を追ってきた写真家が活写」。漁や解体、料理や食事など、外房の日常風景が並びます。意義深い出版に接し、著者や出版社に深い敬意を覚えます。本書に言及はありませんが、「環境保護団体」を自称する輩やその賛同者たちの横暴とは一切無縁の、貴重な一冊です。


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8月新刊案内:ギルロイ『ユニオンジャックに黒はない』月曜社

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2017年8月4日取次搬入予定|ジャンル:現代思想・文化研究

ユニオンジャックに黒はない̶人種と国民をめぐる文化政治
ポール・ギルロイ著 田中東子+山本敦久+井上弘貴訳
月曜社 2017年8月 本体予価3,800円 四六判(縦188mm×横128mm×束30mm) 上製576頁 ISBN978-4-86503-049-5


アマゾン・ジャパンにて予約受付中

内容:〈人種差別〉と〈ポピュリズム〉の結託に抗する闘いと思考――ギルロイのデビュー作、ついに邦訳なる。警察による過剰な取り締まりと暴動、レゲエやパンクなどの抵抗的音楽をつうじて戦後英国における人種差別の系譜を批判的に辿りながら、法と秩序、そして愛国心のもとで神話化された〈国民〉というヴェールを引き剝がす。


目次:
日本語版への序文
謝辞
序章 人種は月並みなものである
第1章 「人種」、階級、行為体
 対自的な人種と即自的な階級/階級の編制/人種の編制
第2章 「囁きが起き、戦慄が走る」――「人種」、国民、エスニック絶対主義
 「人種」、国民、秩序のレトリック/平時と戦時における国民共同体/国家と家族のなかの文化とアイデンティティ/結論
第3章 無法な異邦人たち
 戦後の英国における黒人と犯罪/量から質へ――パウエリズム、黒人の子どもたち、病理学/1981年から1985年にかけての路上犯罪と象徴的な場所/結論
第4章 反人種差別のふたつの側面
 1970年代の反人種差別/反ナチズム、あるいは反人種差別?/地方自治体の反人種差別/新しい反人種差別に向けて
第5章 ディアスポラ、ユートピア、資本主義批判
 ダンスフロアの黒と白/「立ちあがり、闘い、そしてかかわりあえ」―─ソウル、公民権、ブラック・パワー/足止めされたラスタファーライの前進/ ファンクの裏切り者とコックニー解釈/ドレッド文化、ワイルド・スタイル、資本主義批判/言葉の限界/「人種」、エスニシティ、習合主義、モダニティ
第6章 結論――都市の社会運動、「人種」、コミュニティ
 破壊的な抵抗とコミュニティの象徴化/終わりに
第六章への補遺
 1、報道発表/2、コミュニティの声明 訳者あとがき
 参考文献
 索引

著者:ポール・ギルロイ(Paul Girloy)1956年生まれ。ロンドン大学キングス・カレッジ教授。英米文学、文化研究。大西洋岸に四散した黒人たちの歴史および音楽の研究者であり、英国の人種・民族政策についての発言などでも知られる。訳書に、ポール・ギルロイ『ブラック・アトランティックーー近代性と二重意識』(上野俊哉・毛利嘉孝・鈴木慎一郎訳、月曜社、初版2006年/新版近刊予定)。



訳者:田中東子(たなか・とうこ)1972年生まれ、大妻女子大学准教授。著書:『メディア文化とジェンダーの政治学――第三波フェミニズムの視点から』(世界思想社、2012年)。
訳者:山本敦久(やまもと・あつひさ)1973年生まれ、成城大学准教授。編著書:『身体と教養――身体と向き合うアクティブ・ラーニングの探求』(ナカニシヤ出版、2016 年)、『反東京オリンピック宣言』(共編、航思社、2016年)。
訳者:井上弘貴(いのうえ・ひろたか)1973年生まれ、神戸大学准教授。著書:『ジョン・デューイとアメリカの責任』(木鐸社、2008 年)。


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取次搬入日確定:ロゴザンスキー『我と肉』

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ジャコブ・ロゴザンスキー『我と肉――自我分析への序論』(本体4,800円、シリーズ・古典転生第16回配本)の取次搬入日が確定しました。日販、トーハン、大阪屋栗田、ともに7月4日(火)です。搬入後、翌日から中二日以降順次、書店店頭での発売開始となります。どのお店に配本されるかについては、当ブログコメント欄や、電話、メールなどで地域を指定してお尋ねいただければお答えいたします。どうぞよろしくお願いいたします。


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注目新刊:セヴェーリ『キマイラの原理』白水社、ほか

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キマイラの原理――記憶の人類学
カルロ・セヴェーリ著 水野千依訳
白水社 2017年6月 本体7,300円 A5判上製414頁 ISBN978-4-560-09555-3

帯文より:埋もれたヴァールブルクの遺産、来たるべき《イメージ人類学》へ。文字なき社会において「記憶」はいかに継承されるのか。 西洋文化のかなたに息づく「記憶術」から人間の「思考形式の人類学」へと未踏の領域を切り拓く、レヴィ゠ストロースの衣鉢を継ぐ人類学者による記念碑的著作。オセアニアの装飾、ホピ族の壺絵、アメリカ先住民やクナ族の絵文字、アパッチ族の蛇=十字架、スペイン系入植者末裔のドニャ・セバスティアーナ――言葉とイメージのはざまに記憶のキマイラが結晶する。


★発売済。原書は『Il percorso e la voce: Un'antropologia della memoria』(Einaudi, 2004)で、原題は『行程と声――記憶の人類学』で、訳題「キマイラの原理」は2007年のフランス語版から採られています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭には「記憶から思考へ」と題された日本語版への序文が付されています。その題名の意図するところはこうです。「記憶の分析は別種の思考形式の研究へと到達する」(7頁)。訳者あとがきによれば本書は「人類学者カルロ・セヴェーリがアメリカ大陸やオセアニアの先住民を対象とする地域研究の成果を理論的に推し進め、「記憶の人類学」という未踏の学問領域を切り拓いた記念碑的ともいえる著作」であり、「記憶が社会的に共有される「儀礼」という場に焦点を定め、西洋文化のかなたに息づく記憶技術の解明に捧げた本書は、特定の地域研究の枠を超えて、哲学、民族学、心理学、精神医学、言語学、美術史、物語論の成果を縦横に応用しながら、広く人間一般の記憶、認識、想像力をめぐる理論研究として、独創的かつ発展性のある新しい視座を私たちに提起」するものです。セヴェーリ(Carlo Severi, 1952-)はイタリア出身でパリの社会科学高等研究院(EHESS)の社会人類学講座教授であり、フランス国立科学研究センター(CNRS)の教授。2016年には来日を果たしており、著書が邦訳されるのは今回が初めてです。



★訳者あとがきでは20世紀後半以降のイメージ論や記憶術研究、そして人類学の動向についても概観されており、書店員さんや版元営業にとって必読です。例えば人類学についてはこんな説明があります。「人類学や言語学を席捲したクロード・レヴィ=ストロースの「構造主義」に抗し、それを批判的に乗り越えようとした1968年以降のいわゆる「ポスト構造主義思想」(ピエール・クラストル、モーリス・ゴドリエなど)を経て、80年代以降の人類学には、構造主義の遺産を再評価しながら、両者を媒介し統合しようとする新たな動きが胎動した。ヘナレ、ホルブラード、ワステルによって「人類学の静かな革命」と呼ばれた転換がそれである。ダン・スペルベルに代表される認知人類学、ジェイムズ・クリフォード、ジョージ・E・マーカス、マイケル・M・J・フィッシャーをはじめ、英米系民族誌学に80年代に高揚した「ポストモダン人類学」(あるいは「再帰的人類学」)の衝撃的な理論的転回、さらに90年代のポストコロニアル人類学の影響を受けつつも、それらの陰で個別に進められてきた研究が、近年、ひとつの思想的潮流として認識され、人類学の「存在論的転回」という名のもとで注目を集めている。この動向を代表するのは、英米の人類学者マリリン・ストラザーンやロイ・ワグナー、アルフレッド・ジェル、ティム・インゴルド、フランスのブルーノ・ラトゥール、フィリップ・デスコラ、フレデリック・ケック、そしてブラジルのエドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ、さらに若手ではカナダのエドゥアルド・コーンらである。日本でも近年、この新たな潮流は脚光を浴びており、〔・・・〕水声社から刊行中の叢書「人類学の転回」を筆頭に、精力的に紹介が進められている」(370頁)。


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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『謎床――思考が発酵する編集術』松岡正剛×ドミニク・チェン著、晶文社、2017年7月、本体1,800円、四六判並製360頁、ISBN978-4-7949-6965-1 C0095
『飯場へ――暮らしと仕事を記録する』渡辺拓也著、洛北出版、2017年7月、本体2,600円、四六判並製506頁、ISBN978-4-903127-26-2
『「利己」と他者のはざまで――近代日本における社会進化思想』松本三之介著、以文社、2017年6月、本体3,700円、四六判上製456頁、ISBN978-4-7531-0341-6
『バルカン――「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』マーク・マゾワー著、井上廣美訳、中公新書、2017年6月、本体920円、新書判並製336頁、ISBN978-4-12-102440-4
『マリリン・モンロー 最後の年』セバスティアン・コション著、山口俊洋訳、中央公論新社、2017年6月、本体1,850円、四六判並製224頁、ISBN978-4-12-004987-3
『ジョジョ論』杉田俊介著、作品社、2017年7月、本体1,800円、46判並製320頁、ISBN978-4-86182-633-7
『〈戦後思想〉入門講義――丸山眞男と吉本隆明』仲正昌樹著、作品社、2017年7月、本体2,000円、46判並製384頁、ISBN978-4-86182-640-5
『旅に出たロバは――本・人・風土』小野民樹著、幻戯書房、2017年7月、本体2,500円、四六判上製238頁、ISBN:978-4-86488-125-8
『60年代は僕たちをつくった[増補版]』小野民樹著、幻戯書房、2017年7月、本体2,500円、四六判上製270頁、ISBN978-4-86488-123-4
『テレビ番組海外展開60年史――文化交流とコンテンツビジネスの狭間で』大場吾郎著、人文書院、2017年6月、本体3,800円、4-6判並製426頁、ISBN978-4-409-23057-2
『悲しみについて』津島佑子著、2017年6月、本体2,800円、4-6判上製332頁、ISBN978-4-409-15029-0



★まず『謎床(なぞとこ)』はまもなく発売開始。松岡正剛さんとドミニク・チェンさんという親子ほどの差があるお二人による刺激的な対談本です。チェンさんは巻頭の「はじめに」で「あらゆる情報が即時にインストールできる現代の環境において、いかに本質的な謎、つまり問いを生成できるかということは、人間を人間たらしめる最も重要な要件となる」と指摘し、人間「相互の自律的な学習」を展望します。これは出版界にとっても重要なアイデアです。


★次に洛北出版さんと以文社さんの新刊です。渡辺拓也『飯場へ』は2014年に大阪市立大学大学院より学位授与された博士論文に加筆修正を施したもの。自ら飯場にも飛び込んだ体当たりの瑞々しい論考です。松本三之介『「利己」と他者のはざまで』は丸山真男さんのお弟子で、政治思想史研究の重鎮による、近代日本における社会進化論から自然権思想の形成を読み解く試み。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★次に中央公論新社さんの新刊から2点。『バルカン』の原書は『The Balkans: a short history』(Modern Library, 2000)です。近年続々と邦訳されている歴史家の4冊目の訳書にして初の新書。序と解題は村田奈々子さんがお書きになっておられます。『マリリン・モンロー 最後の年』の原書は『Marilyn 1962』(Editions Stock, 2016)。訳者あとがきの文言を借りると、女優の後半生を12人の関係者の視点から多角的かつ重層的に描いたもの。


★続いて作品社さんの新刊から2点。『ジョジョ論』は障碍者介助の傍ら執筆活動を続けてきた気鋭の批評家による力作。弱さや病、狂気や無能力の中に人間の本当の強さやかけがえのない美を見つつ、それらをオルタナティヴな資本として評価する試みです。周知の通り三池崇史監督による実写映画公開も間近(8月4日)。『〈戦後思想〉入門講義』は仲正さんの講義シリーズの最新刊。丸山の『忠誠と反逆』と吉本の『共同幻想論』を精読したものです。



★続いて幻戯書房さんの新刊から小野民樹さんのエッセイ2点。『旅に出たロバは』は岩波書店の編集者時代の神保町古書店街の記憶を綴った「古本の小道」を含む6篇を収録。小野さんは2007年に退職後、大学教授を10年間勤めあげて退官されたばかりです。青年期を綴った『60年代は僕たちをつくった[増補版]』の親本は2004年に洋泉社より刊行。再刊にあたり、「古稀老人残日録」と「増補版あとがき」が加えられています。


★最後に人文書院さんの新刊から2点。大場吾郎『テレビ番組海外展開60年史』は元テレビマンの研究者による、日本のテレビ番組が1960年代以降にどのように輸出され受容されてきたかを綿密に検証した労作。『悲しみについて』は「津島佑子コレクション」第Ⅰ期第1回配本。収録作品は書名のリンク先をご覧ください。巻末には石原燃さんによる解説「人の声、母の歌」が収められています。第2回配本は9月予定、『夜の光に追われて』です。



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メモ(23)

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「文化通信」2017年7月3日付記事「アマゾン、取次へのバックオーダー6月末で全面停止」によれば「アマゾン・ジャパンは本紙取材に対し、かねて出版社や取次に告知していた通り6月30日で日本出版販売(日販)へのバックオーダーを停止することを明らかにした。一方、出版社には取次との流通改善で対応しようと…」(以下有料)。業界全体にとって重要な内容なので、これはできれば無料で公開していただきたかったですが、同日付の紙媒体1面記事を参考に私が気になったポイントをまとめておくと次のようになります。


1)バックオーダー停止は出版社2000社以上に通知し、合計35回の説明会に520社超が参加。直取引である「e託」への申し込みは駆け込みで増加したものの成約数は未公表。
2)期日通り6月30日いっぱいで日販にも大阪屋栗田にもバックオーダーの発注を停止。
3)すでにシステム接続が完了している大村紙業、京葉流通倉庫、河出興産、工藤出版サービスのほか、主要倉庫業者4社とEDIの準備を進め、7月~9月には稼働予定。


全文詳細はぜひ7月3日付の紙媒体の「文化通信」をご覧ください。一番気になるのは1)の直取引の成約数や、3)のEDI準備中の倉庫業者4社です。ここに切り込んでいく他のメディアがあったらよいのですが。1)については小零細の版元が多いのでしょう。そう推測できる理由については「メモ(22)」の後半で述べました。


なお、「新文化」2017年6月30日付の記事には「京葉流通倉庫、今冬までに販売サイト開設」というのもあって、「物流・倉庫業を手がける京葉流通倉庫(埼玉・戸田市)が今秋から冬にかけて、取引のある出版社約50社の本を対象に、直接読者に販売するウェブサイトを立ち上げる。京葉流通倉庫が発送や代金回収を担うという」と報じられています。出版業界の発展にはロジスティクスの進化が欠かせないわけですが、今後は倉庫業者の動向に注目が集まりそうです。


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注目新刊:『ジャック・デリダ講義録 死刑Ⅰ』白水社

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★ジャック・デリダさん(著書:『条件なき大学』)
★高桑和巳さん(訳書:アガンベン『バートルビー』『思考の潜勢力』、共訳:ボワ/クラウス『アンフォルム』)
「ジャック・デリダ講義録」の最新刊『死刑Ⅰ』が先月末、白水社さんより上梓されました。1999年12月8日から2000年3月までに11回分の講義が収められています。2000~2001年度に当たる『死刑Ⅱ』は郷原佳以、佐藤嘉幸、西山雄二、佐藤朋子の四氏により白水社から続刊予定だそうです。なお、同講義録ではすでに『獣と主権者Ⅰ』(西山雄二/郷原佳以/亀井大輔/佐藤朋子訳、白水社、2014年11月)と『獣と主権者Ⅱ』(西山雄二/亀井大輔/荒金直人/佐藤嘉幸訳、白水社、2016年6月)が刊行されています。



ジャック・デリダ講義録 死刑Ⅰ
ジャック・デリダ著 高桑和巳訳
白水社 2017年6月 本体7,500円 A5判上製422頁 ISBN978-4-560-09803-5

帯文より:「私は、単にして純な、最終的な死刑廃止に投票します。」──このヴィクトール・ユゴーの声を力強く響かせながら、残酷さ、血、例外、恩赦、主権、利害……極刑のはらむ概念について、憲法や条約、文学作品とともに明解に問い直されてゆく哲学のディスクール! 死刑存廃論の全体を脱構築してゆく、政治神学‐死刑論。


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注目新刊:柏倉康夫訳『新訳 ステファヌ・マラルメ詩集』私家版、ほか

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新訳 ステファヌ・マラルメ詩集
柏倉康夫訳
私家版(柏倉康夫=発行、上野印刷所=印刷)、2017年6月、頒価2000円、A5判上製148頁、ISBNなし、限定100部


★月刊誌「ユリイカ」2015年1月号~9月号での連載「[新訳]ステファヌ・マラルメ詩集」に「若干の修正を加え」て一冊としたもの。kindle版は青土社さんから3月に発売済(862円)。紙媒体は訳者の柏倉康夫さんご自身によって、私家版として今般、限定100部が発刊されました。うち60部がフランス図書から購入できるようになる予定と聞いています。和紙を使った表紙デザインと題字は古内都さんによるもの。なお底本はベルトラン・マルシャル校注によるプレイアード叢書版『マラルメ全集Ⅰ』(ガリマール、1998年)です。



★紙媒体版の「後記」によれば「電子版では翻訳とフランス語のテクストの間にリンクを張り、両方を行き来しながら鑑賞ができ、さらにIndexでは、マラルメが49篇の詩に用いたすべての単語が、どの詩篇のどの行にあるかを検索できる仕組みになっている」とのことです。さらに「欧文の詩は、本来、耳で聴いて味わうものである」(同「後記」)ため、電子版には本当は原詩朗読の音声データを付加されたかったご様子です。


★柏倉さんのブログ「ムッシュKの日々の便り」にはマラルメ翻訳の苦心と工夫の一端が綴られています。2015年3月1日付エントリー「詩を訳すとはⅦ、Brise Marineをめぐって」では「海からの風(Brise Marine)」の翻訳をめぐるエピソードを読むことができます。従来訳では「微風」や「そよ風」と訳されてきたbriseですが、柏倉さんは「内容からしてこの場合のbriseは決して「そよそよとした微風」ではなく、むしろ強め風でなくてはならない」と指摘されています。また作品冒頭のchairは「肉」や「肉の身」と訳されてきましたが、今回の新訳では「肉体」としたことについてもコメントがあります。



★マラルメの美しい詩句は百数十年を隔てた現代人の心にも訴えかける感性が息づいているように思います。あるいは柏倉さんによって再び現代へと見事に召喚されたというべきでしょうか。個人的に印象深い箇所を少しだけ抜き出してみます。「華麗に、全的に、そして孤独に、このように/跡形もなく蒸発することに、人間たちの誤った自負心は恐れ慄いている。/この取り乱した群衆! 彼らは宣言する、すなわち、自分たちは/未来の亡霊の悲しい半透明な姿にすぎないと」(「喪の乾杯」79頁)。「そう、ただ私のため、私のためだけに、ひとり咲く花! お前たちも知っていよう、目もくらむ知の深淵に/永久に埋もれたアメジストの花園を」(「エロディアード」59頁)。


★作品中で時折マラルメは三つの単語を並列することがあるのですが、これにはマラルメの詩の宇宙を読む者の胸中に出現させる喚起力があるように感じます。例えば「孤独、暗礁、星」(「乾杯」5頁)、「地図、植物図鑑、典礼書」(「プローズ(デ・ゼッサントのために)」82頁)、「夜、絶望、宝石」(「――船旅のたった一つの気掛りに」124頁)など。市販される紙媒体がたったの60冊というのはもったいない印象がありますが、いずれ本書をはじめ、「牧神の午後」や「賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう」、ポー「大鴉」のマラルメによる訳詩など、柏倉さんが研究されてきた一群のマラルメ作品が一冊にまとめられることを強く願いたいです。


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★このほか、最近では以下の新刊詩集との出会いがありました。
『柏木如亭詩集2』柏木如亭著、揖斐高訳注、東洋文庫/平凡社、2017年7月、本体2,900円、B6変判上製函入302頁、ISBN978-4-582-80883-4
『哀歌とバラッド』浜田優著、思潮社、2017年7月、本体2,400円、A5判上製104頁、ISBN978-4-7837-3574-8



★『柏木如亭詩集2』はまもなく発売となる全2巻の完結編で、東洋文庫の第883巻。第2巻では初老期から老年期の漢詩作品を収めています。帯文に曰く「京都を足場に諸国を漂泊し、時に江戸を思う」とあります。柏木如亭(かしわぎ・じょてい:1763-1819)は医者だった弟に送った七言絶句「示立人弟」の中で「人生一世誰非客(人生一世、誰か客に非ざらん:人の一生は皆な旅人のようなもの)」(141頁)と歌いました。解説によれば、文化十年(1813年)の冬に信州・上田の弟である正亭の住まいを訪問し、しばらく滞在して楽しい日々を過ごした如亭が、辞去する際に書き送ったもの。食事にありつける場所が故郷だ(趣意)、と句は続きます。


★『哀歌とバラッド』は編集者であり詩人でもある浜田優(はまだ・まさる:1963-)さんによる、『生きる秘密』(思潮社、2012年)に続く最新詩集。特に印象に残ったのは「鎮魂歌」の中の次の一節です。「母が逝って三年近く経ったある日/夢のなかで私が、すでに辞めた職場のトイレを出て/自分のデスクに戻ってくると、横に母が立っていた/「さあ、もう帰るよ」と私が小声で言うと/「そうかい、死後とは終わったんだね」と嬉しそうだ」(47~48頁)。もしあの職場のことなら、今は建屋の老朽化で、浜田さんの昔の席のあたりは雨漏りしていると聞きました。水が流れた痕跡というのはなぜあんなにも悲しくも生々しく見えるのでしょうか。


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★また、今月のちくま学芸文庫では以下の書目が発売されています。


『ユダヤ人の起源――歴史はどのように創作されたのか』シュロモー・サンド著、高橋武智監訳、佐々木康之/木村高子訳、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,800円、文庫判656頁、ISBN978-4-480-09799-6
『社会学への招待』ピーター・L・バーガー著、水野節夫/村山研一訳、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-09803-0
『よくわかるメタファー――表現技法のしくみ』瀬戸賢一著、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN9784-480-09805-4
『一百四十五箇条問答――法然が教えるはじめての仏教』法然著、石上善應訳・解説、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-098061
『道教とはなにか』坂出祥伸著、ちくま学芸文庫、2017年7月、本体1,300円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-09812-2



★『ユダヤ人の起源』の親本は浩気社より2010年に刊行。発売元はランダムハウス講談社で発売直後に武田ランダムハウスジャパンに変更されたものと思われます。同社は2012年に倒産しており、浩気社も本書を最後に出版が途絶えているようです。原著は2008年に刊行されたヘブライ語版で、日本語訳は仏語訳版『Comment le peuple juif fut inventé』(Fayard, 2008)を底本としています。この仏語訳版は刊行された年内に4万部も売れたそうです。佐々木康之さんによる「文庫版への訳者まえがき」には、文庫化にあたり誤植を改め訳文を改訂したとあります。著者のサンド(Shlomo Sand, 1946-)はテルアビブ大学名誉教授。


★『社会学への招待』は巻末注記によれば新思索社の普及版(2007年)を底本とし「全体を通して訳文を見直したほか、新たに索引を加えた」と。索引は事項と人名を合わせたもの。原著は『Invitation to Sociology: A Humanistic Perspective』(Doubleday, 1963)です。「文庫版訳者あとがき」によれば「本書は、非常に軽やかな口調で、すぐれた社会学的発想の諸相を懇切丁寧に展開・披露してくれている社会学への招待状である」と。日本語訳は1979年に出版されて以来、改訂を経て版を重ねてきたロングセラーです。新思索社は昨夏倒産。ベイトソンの訳書など文庫化が待たれている書目は数多いです。


★『よくわかるメタファー』は「メタファーを中心に比喩をわかりやすく解きほぐすと同時に、わかりやすい比喩とは何か、なせそれはわかりやすいのかについて考える」(「はじめに」より)もの。親本となる『よくわかる比喩――ことばの根っこをもっと知ろう』(研究社、2005年)を「若干改訂し、補章を加えた」(巻末注記)とのことです。補章というのは本書末尾のパートⅤ「メタファーの現在」の終章「2500年比喩の旅」の後に置かれた「村上春樹とメタファーの世界」のこと。この補章では村上春樹さんが今年2月に上梓した『騎士団長殺し』の第2部「遷ろうメタファー編」が取り上げられています。


★『一百四十五箇条問答』は月刊「在家仏教」誌での連載「心月輪」(2012年3月718号~2016年12月775号)に加筆修正のうえ文庫化したもの。法然の教えが一問一答形式で平易に書かれた晩年作を現代語訳し解説したものです。訳と解説を担当された石上善應(いしがみ・ぜんのう:1929-)さんは2010年に同文庫から法然の『選択本願念仏集』の現代語訳を上梓されています。『選択本願念仏集』と『一百四十五箇条問答』の石上さんによる現代語訳はもともと中央公論社版『日本の名著(5)法然』(1971年)で発表されたもので、その後推敲を経て2冊の文庫となったわけです。



★『道教とはなにか』は十章だてで、章題を列記すると「さまざまな神々を祀る宮廟」「仙人たちの姿と伝記」「房中術・導引・禹歩――道教に取り込まれる古代の方術(一)」「呪言――道教に取り込まれる古代の方術(二)」「呪符――道教に取り込まれる古代の方術(三)」「煉丹術の成立と展開――外丹の場合」「道教と医薬」「道教の歴史」「日本文化と道教」「現代の道教と気功事情」です。親本は中央公論新社より2005年に刊行されたもの。文庫化にあたり文庫版あとがきが加えられ、そこで参考文献が追補されています。


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坪内稔典×内田美紗トーク&サイン会@梅田蔦屋書店、ほか

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弊社5月刊、『鉄砲百合の射程距離』の著者、内田美紗さんが以下のトークイベントにご出演されます。


◎坪内稔典100冊刊行記念『ねんてん先生の文学のある日々』× 内田美紗『鉄砲百合の射程距離』【トーク&サイン会】


会期:2017年08月26日(土)17:00~18:30(開場16:30)
講師:坪内稔典さん、内田美紗さん
場所:梅田 蔦屋書店 4thラウンジ
参加費:1,000円(税込)
定員:80名
主催:梅田蔦屋書店
共催・協力:月曜社 / 新日本出版社
申し込み方法:事前に当店予約フォームより申し込みいただき、当日受付時にてお支払いください。 ※お釣りの無いようお願い申し上げます。
問い合わせ先:umeda_event@ccc.co.jp


内容:現代日本を代表する俳人、坪内稔典さんの著作が、1973年の句集「朝の岸」(私家版)から『ねんてん先生の文学の日々』で、通算100冊を超えたことを記念しまして、トークイベント&サイン会を開催いたします。トークイベントのお相手は、句集『鉄砲百合の射程距離』(大竹昭子編集/森山大道写真)が絶賛された、坪内稔典さんの仲間である内田美紗さん。坪内稔典さんの今まで刊行された100冊の本や、俳句の糧としてきた文学作品、これまでの俳句人生について、内田美紗さんが「ねんてん先生の世界」に迫ります。そして、穂村弘さん、文月悠光さん、いとうせいこうさんたちから絶賛された内田美紗さんの句集『鉄砲百合の射程距離』を坪内稔典さんに徹底解剖していただきます。また、イベント参加者には、坪内稔典さんの100冊の著作の中から特にオススメの書籍をご本人のコメントと共にご紹介する特製リーフレットを配布致します。またとない機会ですので、是非ご参加ください!


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月刊誌「Hanada」2017年8月号「BOOKS & MAGAZINES」欄の「坪内祐三の今月この一冊」で弊社6月刊、荒木経惟『私情写真論』が取り上げられました。坪内さんは「荒木さんは写真だけでなく、文章や語りも抜群に上手だ」とお書きになっておられます。


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訃報:ヴェルナー・ハーマッハーさん

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ヴェルナー・ハーマッハー(Werner Hamacher, 1948-2017:フランクフルト・ゲーテ大学名誉教授)さんの訃報に接し、呆然としています。「Philosophy Matters」では7月7日に報じており、「Faust-Kultur」では9日にIngo Ebener氏の追悼文が掲載され、「Frankfurter Allgemeine Zeitung」では7月10日に訃報が載りました。海外在住の共通の知人から聞いたところでは、膵臓癌だったとのことです。


弊社では2007年11月に増田靖彦さんの訳で『他自律――多文化主義批判のために』を刊行しました。堅調な売行が続くなか、3年前の豪雪の雪害により在庫僅少となり、今では版元品切で、増田さんとともに再刊を期していたところでした。オンライン書店「honto」に掲載されている店頭在庫情報によれば、丸善やジュンク堂の15支店にまだ在庫があります。遠方の方でも代金引換便で購入可能です。なお本書はドイツ語版の単行本が刊行されるはずでしたが、ついに出版されませんでした。この論考が単行本化されたのも、序文が付されたのも、日本語版だけということになります。


また弊社では長年、日本語版独自編集の『ベンヤミン論集』を準備していました。訳稿はすでに存在するものの、ハーマッハーさんご自身が何篇かの論文の追加を望んでおられ、最終形にたどり着くまで機が熟すのを見守っていました。さらに『プレーローマ』も今年になってからようやく翻訳が始動し、近刊予定と聞くスペイン語版に付されるはずの序文が弊社に届くのを待ち望んでいました。そして原著最新刊となる『ミニマ・フィロロギカ』(ドイツ語版の『文献学―のために』と『文献学の95のテーゼ』を合本したもの)は早ければ昨年内に日本語版が出版できるはずでしたが、諸事情で間に合いませんでした。ハーマッハーさんとの最後のやりとりではこの『ミニマ』日本語版の出版を待ちわびておられただけに、悔しくてなりません。


ハーマッハーさんのご冥福をお祈りします。弊社では生前の約束だったこれらの書籍を順次出版すべく、今後も入念に作業を進める所存です。


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ハーマッハーさんへの弔文を随時承っております。弊社ウェブサイトに掲出してある公開アドレスからご投稿ください。当ブログにて掲載させていただきます。多数頂戴した場合、追悼ページを別途作成します。


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ブックツリー「哲学読書室」に吉松覚さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、マーティン・ヘグルンド『ラディカル無神論――デリダと生の時間』(吉松覚/島田貴史/松田智裕訳、法政大学出版局、2017年6月)の共訳者・吉松覚さんによる選書リスト「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」が追加されました。共訳者の皆さんによる選書だと伺っています。下記リンク先一覧よりご覧ください。
◎哲学読書室星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」


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ブックツリー「哲学読書室」に高桑和巳さんの選書リストが追加されました

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オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ジャック・デリダ講義録 死刑I』(高桑和巳訳、白水社、2017年6月)の訳者・高桑和巳さんによる選書リスト「死刑を考えなおす、何度でも」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。
◎哲学読書室星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている」
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために」
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える」
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?」
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す」
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について」
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置」
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも」


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既刊書情報補完:2016年4月~7月刊

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◎2016年7月7日発売:W・ウォルターズ『統治性――フーコーをめぐる批判的な出会い』本体2,500円。
書評1⇒ぷよまる氏書評「フーコーを使う、理論を使う」(「綴葉」352号、2016年11月)書評2⇒山本奈生氏書評(『佛大社会学』第41号、2017年3月30日発行)

◎2016年7月1日発売:G・バタイユ『マネ』本体3,600円。
書評1⇒濱野耕一郎氏書評「期待を裏切る至高のタブロー――バタイユによるマネ論」(「週刊読書人」2016年9月9日号)
書評2⇒中島水緒氏書評「マネ作品の可能性を汲み尽した比類なき芸術論」(「美術手帖」2016年11月号BOOK欄)

◎2016年5月25日発売:『ユンガー政治評論選』本体2,800円。

◎2016年4月15日発売:『表象10:爆発の表象』本体1,800円。


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講演「出版人・中野幹隆と哲学書房の魅力」(信州しおじり本の寺子屋)

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◎講演「出版人・中野幹隆と哲学書房の魅力」(信州しおじり本の寺子屋地域文化サロン)

日時:2017年8月19日(土曜日)13:30~15:30
場所:塩尻市市民交流センター(えんぱーく)3階多目的ホール
参加費:無料
申し込み開始日:7月9日(日曜日)

内容:東京で出版社「哲学書房」を創業した、塩尻市宗賀地区出身の出版人・中野幹隆さんをご存じですか。塩尻市立図書館では、このたび、中野さんの功績を振り返る講演会を開催します。講師は、有限会社月曜社取締役の小林浩さんです。お気軽にご参加ください。

講師からのメッセージ:20世紀後半の現代思想ブームにおいて先端的な役割を果たした編集者・中野幹隆(塩尻市大字宗賀出身)の業績を振り返り、中野が興した哲学書房の出版物の魅力について紹介します。出版界の変化についてもお話しします。



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僭越ではあるのですが、月曜社で哲学書房さんの「羅独独羅学術語彙辞典」「季刊哲学」「季刊ビオス」の在庫の直販をお引き受けしたご縁もあり、このような機会を頂戴することになりました。お申込み方法はイベント名のリンク先に明記されております。どうぞよろしくお願いいたします。



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個人全訳:櫂歌書房版『プラトーン著作集』第10巻2分冊「書簡集・雑編」、ほか

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『プラトーン著作集 第十巻(書簡集・雑編)第一分冊 エピノミス/書簡集』水崎博明訳、櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年6月、本体2,800円、46判上製311頁、ISBN978-4-434-23448-4
『プラトーン著作集 第十巻(書簡集・雑編)第二分冊 雑編』水崎博明訳、櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年6月、本体2,800円、46判上製290頁、ISBN978-4-434-23449-1
『アメリカ人はどうしてああなのか』テリー・イーグルトン著、大橋洋一/吉岡範武訳、河出文庫、2017年7月、本体850円、文庫判296頁、ISBN978-4-309-46449-7
『僕らの社会主義』國分功一郎/山崎亮著、ちくま新書、2017年7月、本体800円、新書判240頁、ISBN978-4-480-06973-3


★『プラトーン著作集 第十巻』第一分冊「エピノミス/書簡集」は、『エピノミス(法律後篇)或いは哲学者』と『書簡集』の翻訳、読解、注釈を収録し、巻頭に「第十巻 前書き」を排しています。『書簡集』は全13通で、宛名を列記すると以下の通りになります。


『第一書簡』ディオニュシオス二世に
『第二書簡』ディオニュシオス二世に
『第三書簡』ディオニュシオス二世に
『第四書簡』ディオーンに
『第五書簡』ペルディッカスに
『第六書簡』ヘルメイアース・エラストス・コリスコスに
『第七書簡』ディオーンの身内並びに同志の諸君に
『第八書簡』ディオーンの身内並びに同志の諸君に
『第九書簡』アルキュタースに
『第十書簡』アリストドーロスに
『第十一書簡』ラーオダーマスに
『第十二書簡』アルキュタースに
『第十三書簡』ディオニュシオス二世に


★周知の通り『エピノミス』や書簡の一部は偽作であると疑われていますが、書簡のうちもっとも長編で内容的にも重要視されている『第七書簡』は「ほぼ真作であることは間違いないだろう」(xi頁)とされています。水崎訳『プラトーン著作集』は、1000坪以上の巨大書店で哲学思想棚を持っており、西洋古典にも場所を割いている書店ならば、在庫しておくのが妥当ではないかと私は思っていますが、あまり店頭で見かけることがないのはもったいないことです。


★第二分冊「雑編」は『定義集』『正しいものについて』『徳について』『デーモドコス』『シーシュポス』『エリュクシアース』『アクシオコス』の翻訳、読解、注釈を収録し、巻末には「第十巻 後書き」と「『プラトーン著作集』全十巻の後書き」が付されています。第一分冊の前書きによれば「『定義集』を除き〔・・・〕ほぼ決定的に偽書だと見ることが伝統的な常識」(x頁)とあります。水崎訳『プラトーン著作集』は全十巻二七分冊で、今回の第十巻二分冊を終えた今、残すところ未刊は第八巻三分冊『国家/クレイトポーン』と第九巻三分冊『法律/ミーノース』のみとなります。プラトンの個人全訳という前代未聞の偉業へと突き進まれる水崎先生のご健康をお祈りするばかりです。


★『アメリカ人はどうしてああなのか』は2014年に河出ブックスより刊行された『アメリカ的、イギリス的』の改題文庫化。原著は『Across the Pond: An Englishman's View of America〔大西洋の対岸から:ある英国人のアメリカ観〕』(Norton, 2013)です。新たに「文庫版への訳者あとがき」が付されていますが、訳文については「不備を正す程度にとどめ」たとのことです。ソリマチアキラさんによるカヴァー挿画ではかの国の現職大統領と思しき人物が描かれています。訳者が指摘している通り、本書にも就任前の彼について二度言及があります。「戯画が現実になった」ことに訳者は注意を喚起しています。今こそ読み返したい一冊です。


◎文庫で読めるイーグルトンの訳書
『アメリカ人はどうしてああなのか』大橋洋一/吉岡範武訳、河出文庫、2017年
『文学とは何か――現代批評理論への招待』上下巻、大橋洋一訳、岩波文庫、2014年8~9月
『シェイクスピア――言語・欲望・貨幣』大橋洋一訳、平凡社ライブラリー、2013年
『イデオロギーとは何か』大橋洋一訳、平凡社ライブラリー、1999年


★なお、河出書房新社さんでは今月下旬(7月26日)発売で、ヤニス・クセナキス『音楽と建築』(高橋悠治編訳)を刊行するとのことです。同書はもともと全音楽譜出版社から1975年に 出版されたもの。版元サイトでは「伝説の名著、ついに新訳で復活。高度な数学的知識を用いて論じられる音楽と建築のテクノロジカルな創造的関係性――コンピュータを用いた現代の表現、そのすべての始原がここに」と紹介されています。編訳者は変わっていませんから、新訳というのが全面改訳なのか増補分があってそれらが新訳なのかはまだ分かりません。



★ちなみに「ちくま学芸文庫」のツイッターアカウントの7月3日の投稿によれば「【単行本情報】ギリシア系作曲家ヤニス・クセナキスの理論的主著『形式化された音楽』(Formalized Music)の邦訳を刊行します!! 野々村禎彦監訳、冨永星訳、発売は今秋予定。刊行日や価格、装丁など詳細は決まり次第お知らせいたします」とのこと。こうした機会にオリヴィエ・ルヴォ=ダロン『クセナキスのポリトープ』(高橋悠治訳、朝日出版社、1978年)も再刊されてほしいところですが、高望みでしょうか。


★『僕らの社会主義』は哲学者とコミュニティデザインの専門家による異色対談。國分さんは「普通に考えたらあまり接点はない。でも僕らを結びつけたものがありました。それがウィリアム・モリスらの名前を通じて知られるイギリスの初期社会主義の思想です」(13頁)と発言されています。さらに続けてこうも仰っています。「21世紀の現在、社会の状況は19世紀に近づいてしまっています。労働者の権利が骨抜きにされ、貧困と格差が大きな問題になっている。19世紀は社会的なものが大きくせりだした時代でした。もっと具体的に言うと、人々が貧困と格差、そして労働者の権利という問題に直面した。その中で、多くの人の努力によってさまざまな権利が獲得されていった。ところがそれがいまや無きものにされつつある。まさしく温故知新の気持ちで19世紀の社会主義に目を向けるべきじゃないか。その活動はいまこそ見直されるべきではないかというのが我々の共通の問題意識ですね」(同)。


★山崎さんはこう答えておられます。「これまではラスキンやモリスのイギリス社会主義のことを語る相手が僕の周りにほとんどいなかったのです。モリスについて語っても、アーツ・アンド・クラフツ運動からバウハウス、モダンデザイン、ポストモダンという流れで語ってしまい、彼が実現しようとしていた地域社会について語ることはほとんどなかった。それを語ろうとすると、どうしてもモリスが社会主義者になったことについて触れなければならない。その途端「社会主義はちょっとね」という表情をされる。でも、國分さんと対談させてもらって、社会主義にもいくつか種類があって、十把一からげで社会主義を否定してしまうのは、そのなかに埋もれている大切な宝が見つけられないことになるんじゃないか。そんな気がしました」(14頁)。「時代が僕らを引き寄せたみたいな感じ」(14頁)と國分さんが応じるこの対談は社会主義への生理的嫌悪感自体が時代遅れだと気づかせてくれる、啓発的な一書です。


★なお来月のちくま新書新刊には、8月3日発売で合田正人『入門ユダヤ思想』(本体860円、272頁、ISBN978-4-480-06979-5)などが予告されています。


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★続いて、人文書院さんからまもなく発売となる新刊3点をご紹介します。


『核の恐怖全史――核イメージは現実政治にいかなる影響を与えたか』スペンサー・R・ワート著、山本昭宏訳、2017年7月、本体6,800円、A5判上製432頁、ISBN978-4-409-24114-1
『無意識の心理 新装版』C・G・ユング著、高橋義孝訳、人文書院、2017年7月、本体2,200円、4-6判上製200頁、ISBN978-4-409-33053-1
『自我と無意識の関係 新装版』C・G・ユング著、野田倬訳、人文書院、2017年7月、本体2,200円、4-6判上製216頁、ISBN978-4-409-33054-8



★『核の恐怖全史』の原書は『The Rise of Nuclear Fear』(Harvard University Press, 2012)で、1988年に同じくHUPから刊行された『NUclear Fear: A History of Images』の改訂版とのことで、訳者あとがきによれば「前著は1980年代までの分析で終わっていたのに対し、改訂版では福島における原発災害以後までを射程に入れつつ、本の分量は前著よりもコンパクトになっている」とのことです。目次詳細は書名のリンク先でご覧下さい。リンク先では「はじめに」と「第1章」がPDFで立ち読みできます。核をめぐる表象の変遷を追った現代の古典です。著者のワート(Spencer R. Weart, 1942-)はアメリカの科学史家で、複数の訳書があります。ひとつ前の訳書が2005年の『温暖化の“発見”とは何か』(増田耕一/熊井ひろ美訳、みすず書房、現在品切)だったので、久しぶりの翻訳紹介になります。訳者の山本昭宏(やまもと・あきひろ:1984-)さんは神戸市外国語大学准教授で、5年前に人文書院より『核エネルギー言説の戦後史1945~1960』でデビューされ、その後『核と日本人』(中公新書、2015年)や『教養としての戦後〈平和論〉』(イースト・プレス、2016年)などを上梓されている、注目の若手です。



★『無意識の心理 新装版』『自我と無意識の関係 新装版』はユングの単行本の再刊。いずれも同社の「ユング・コレクション」には入っていない書目で、両書ともユング心理学の入門編として読むことができます。『無意識の心理』はもともと『人生の午後三時』という訳題で1956年に新潮社から出版されたものが、「若干の字句の訂正」のうえ、人文書院から1977年に再刊されたもの。底本は『Über die Psychologie des Unbewußten』の1948年版(初版は1916年)です。『自我と無意識の関係』は1982年に初版を刊行。原著『Die Beziehungen zwischen dem Ich und dem Unbewußten』は1933年刊行です。新装版2点の装丁は間村俊一さんが担当。美しい本へと生まれ変わっています。


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★最後に、平凡社さんからまもなく発売となる新刊本6点を列記します。


『金澤翔子 伝説のダウン症の書家』金澤翔子=書、金澤泰子=文、平凡社、2017年7月、本体1,389円、B5変判120頁、ISBN978-4-582-20887-0
『プレミアム アトラス 世界地図帳 新訂第3版』平凡社編、平凡社、2017年7月、本体1,500円、A4判並製184頁、ISBN978-4-582-41733-3
『プレミアム アトラス 日本地図帳 新訂第3版』平凡社編、平凡社、2017年7月、本体1,500円、A4判並製184頁、ISBN978-4-582-41732-6
『園芸の達人――本草学者・岩崎灌園』平野恵著、平凡社、2017年7月、本体1,000円、A5判並製120頁、ISBN978-4-582-36448-4
『和算への誘い――数学を楽しんだ江戸時代』上野健爾著、平凡社、本体1,000円、A5判並製92頁、ISBN978-4-582-364477
『江戸の博物学――島津重豪と南西諸島の本草学』高津孝著、平凡社、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-582-36446-0



★『金澤翔子 伝説のダウン症の書家』は、2017年9月23日から9月30日まで上野の森美術館で開催される予定の「ダウン症の書家 金澤翔子書展」の公式図録で、展覧会に先駆けて販売されます。NHK大河ドラマ「平清盛」の題字を手掛けた彼女はもはや全国的な著名人と言うべきでしょうし、複数冊ある作品集や、いわき市の金澤翔子美術館、さらにお母様の泰子さんの数々の著書などに接したことのある方も多いかと想像します。知らなかった、という方はぜひ一切の予習なしに作品をご覧になることをお薦めします。「伝説」「ダウン症」「書の神様が降りた」といった言葉も無視して構わないと思います。大げさに言うのではなく、私はただただ圧倒され、胸が熱くなりました。どの書も素晴らしいですが、巻頭の「龍翔鳳舞」はまさに龍が天翔け、鳳凰が舞うのを目の当たりにする思いがしますし、10歳、20歳、30歳の「般若心経」の変遷は実に味わい深いです。原寸サイズで見たくなる素晴らしい作品集です。



★『プレミアム アトラス 世界地図帳 新訂第3版』『プレミアム アトラス 日本地図帳 新訂第3版』は、2008年版(初版)、2014年新版(第2版)に続く新訂版(第3版)。オールカラーで美しい地図帳です。平凡社さんではポケットアトラス、ベーシックアトラス、ワイドアトラスなど各種を制作されているほか、より詳細な日本地図が必要な方には『県別日本地図帳』があります。30冊の注文から表紙への名入れサービスを行っているとのことです。


★『江戸の博物学』『和算への誘い』『園芸の達人』は、ブックレット「書物をひらく」シリーズの第6巻~第8巻。新書よりも内容が簡潔で、図版が多いのが特徴です。それぞれの主要目次を列記しておきます。第6巻『江戸の博物学』は「一、薩摩の博物学と島津重豪」「二、琉球への視線」「三、大名趣味としての鳥飼い」。第7巻『和算への誘い』は「一、和算が始まる前」「二、和算の基礎を作った『塵劫記』」「三、日本独自の数学を作った関孝和」「四、円周率」「五、庶民に拡がった和算」「おわりに――和算から洋算へ」。第8巻『園芸の達人』は「一、きっかけは百科事典『古今要覧稿』」「二、日本で初めての彩色植物図鑑『本草図譜』「三、ロングセラーの園芸ハンドブック『草木育種』」「四、江戸の自然誌『武江産物志』と採薬記」「五、園芸ダイヤリー『種藝年中行事』」「おわりに――『自筆雑記』、『茶席挿花集』など」。


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ハーマッハー追悼「One 2 many “Ent-fernungen” !」(増田靖彦)

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One 2 many “Ent-fernungen” !
増田靖彦

鋭利かつ精緻、しかも強靭でたゆまざるハーマッハーの思考の営みが、こんなにも早く途切れてしまったのは本当に残念です。『他自律――多文化主義批判のために』(拙訳、月曜社、2007年)は、昨今の世界にはびこる文化の単一性や同質性を排他的に希求する傾向に対して、そうした試みの虚構性や欺瞞を暴き出した小著です。その主眼は、個々の文化が、これまでも、いまも、そしてこれからも、多様性や異質性においてのみ存立しうるということに注がれています。ただし、多様性や異質性といっても、それは、単に他の文化と共存しているという意味ではありません。そうではなく、個々の文化には自らを動揺させ、解体し、再形成に誘う働きが潜在しており、そうした働きとの連関においてしか、個々の文化はそれとして存立しえないという意味です。アフォーマティヴと命名されたこの働きは、デリダの憑在論やアガンベンの潜勢力と共鳴するのみならず、ドゥルーズ/ガタリの機械論にも通底する理論的射程をもち、現行の資本主義や民主主義への批判の倫理的手掛かりを与えています。ナンシーやラクー=ラバルトが敬意を惜しまなかったことにも示唆されているように、ハーマッハーの思考の営みは、時間の経過に伴い色褪せていくどころか、その逆に、絶えざる知的刺激をいや増しにして読者に迫ってくるでしょう。それをどのように読み継いでいくのかは、ひとえに私たちにかかっています。



個人的な思い出を申し添えさせてください。必ずしも適切な訳者でなかったかもしれない――常にそうした危惧を抱きつつ『他自律』を翻訳していました。というのも、近現代フランスの哲学思想を専門とする研究者である私が『他自律』の翻訳に取り組むことになったのは、「訳者あとがき」に記したように、偶然の連鎖によるところが大きかったからです。訳出に際して何度も困難に直面し、そのつどハーマッハーさんにご教示を乞いました。そんな不肖な訳者に、ハーマッハーさんはいつも懇切丁寧に説明してくれました。質疑応答はメールで、しかも事柄の性質上、訳者から連絡して開始されます。そうした状況にもかかわらず、ハーマッハーさんは大抵の場合、私からの質問に対して三日以内に解答を寄せてくれました。返信が遅れたときは、その理由とお詫びの言葉が添えられていて、かえってこちらが恐縮してしまったほどです。そのようにしてやりとりを続けるうち、私はしだいにハーマッハーさんから個人的な、そしてまさしくent-ferntな授業を受けている感覚を抱くようになっていきました。とても学ぶことの多い充実したひとときでした。そのような濃密な時間を過ごさせていただいたことに衷心より感謝の言葉を贈らせていただきます。ハーマッハーさん、本当にありがとうございました。


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「訃報:ヴェルナー・ハーマッハーさん」2017年7月11日


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メモ(24)

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すでに読まれた方も多いと想像しますが、「ねとらぼ」2017年7月16日付の九条誠一さんによる記名記事「Amazon“デリバリープロバイダ”問題、ヤマト撤退で現場は破綻寸前 「遅延が出て当たり前」「8時に出勤して終業は28時」」には戦慄を禁じえません。この記事では、デリバリープロバイダで配送業務に携わっているAさんと、Amazonの倉庫配送拠点であるFC(フルフィルメントセンター)で働くBさんの証言を紹介しています。すべての発言が重要なので出版業界人はぜひとも全文を読む必要がありますが、業界人が想像していた通りの現実に対する強烈な裏打ちとなる発言を一つずつ取り上げたいと思います。



まずAさん。「デリバリーステーションに所属している社員は、8時に出社して終業は28時というのが基本的な労働時間です。そのようなセンターが高品質なサービスを提供できるわけがありません。〔・・・〕大手企業でさえ撤退するような事業を、地域の中規模運送会社が行うのはやはり無理があります。今の運営は遅配ありきの運用であって、決して利用者のためにはなっていません」。


次にBさん。「Amazon自体はめちゃくちゃもうけているのに、そのAmazonを支えている会社はこんなに苦しい思いをしているのかと。ネット通販=配送料無料、注文すればすぐ届くのが当たり前……こういうイメージを創り上げてしまったことが、今回のような事態を招いてしまったのだと思います。しかし、Amazonとしてはそのイメージこそがブランド力ともいえるので、なかなか手放せないところなのでしょう」。


この記事のヤフーニュース版にはすでに5000近いコメントが寄せられていますが、トップコメントの一つにこんな声がありました。「もうAmazonはAmazonロジスティクスみたいな感じで専用の物流会社使ったほうが良いんじゃないかな?/物流の仕組みはあまり詳しくないからよく分からないんだけど。。」。実に正論です。ただ、アウトソーシングできるものはする、という姿勢を常としているように見えるアマゾンが一から物流会社を作ることは難しいのではないか、という見方が業界内にはあります。



「ねとらぼ」記事が言及している「はてな匿名ダイアリー」の2017年7月9日付エントリー「デリバリープロパイダの中の者だが人手不足で配送の現場はもうヤバイ」は、Aさんと同じくデリバリープロバイダの従業員さんの投稿ですが、これは匿名出版人の投稿「【再掲】アマゾンの「バックオーダー発注」廃止は、正味戦争の宣戦」と同様に、出版界を大いに震撼させている必読記事です。



従業員氏はこう証言しています。「皆さんはクロネコヤマトしか知らない人も多いですから、配送=日時通り届いて当たり前。不備があっても逐一、電話連絡があって当たり前…と思っていますよね。/残念ながら、それはヤマトだからこそ出来る芸当で、一般的な配送業者には真似出来ません。/ヤマトは、社員の教育、配送オペレーション、拠点の数まで全て完璧で、配送においてヤマトの横に出るものはいません」。「「時給300円で人を雇いまくれ。Amazonの荷物で稼ぐぞ!」/「ヤマトが逃げた今、うちらにスポットライトが当たり始めた」/等、社長は今の状況を喜んでいるようですが、現場は手取り12万(自爆あり)で休み無し14時間肉体労働、限界がもう来ています。疲弊しています」。


印象がとても悪いと感じるのは、こうした状況を恐らくは把握しているであろうにも関わらず、アマゾン・ジャパンのトップが対外的には次のように発言していることです。「配送遅延は実際に発生していたが、現在は解消した。まだスムーズになっていないところを直し、再発を防止したい」(「ITmediaビジネスオンライン」7月10日付、青柳美帆子氏記名記事「Amazon「プライムデー」、配送は「数カ月前から準備」」より、記者会見でのジャスパー・チャン社長の発言)。これはテレビニュースにもなっているのでご覧になった方もおられるかと推察しますが、「解消した」などとなぜ言えるのでしょうか。「そうした事実はない」が決まり文句の昨今の悪徳政治家かと見まごう発言に、利用者だけでなく、出版人も驚愕しています。もっと別の言い方はできなかったのでしょうか。いったいチャン社長は誰に向って「解消した」と宣言しているのか。



「弁護士ドットコムNEWS」7月11日付記事「アマゾンプライムデー、ドライバーたちは戦々恐々…「多くてさばけない」配達ミスも」では都内でプライムナウ(対象エリアでの買物が1時間以内に届くプライム会員向けサービス)の配送を担当する男性や、アマゾン利用客の主婦、ヤマト運輸のセールスドライバー、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』や『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』の著者・横田増生さんらに取材しています。ここでも上記の記事で書かれていることを再度事実確認できます。ヤフーニュース版でのコップコメントにはこんな声があります。「普通の消費者だが、最近、アマゾンを使うとき、配送業者のことを一瞬考えるようになった。そろそろ考えて使いませんか。皆さん」。この言葉に尽きる気がします。


デリバリープロバイダ関連の記事では以下の配信に注目が集まっていることは周知の通りです。

「バズプラスニュース」2016年8月9日付、yamashiro氏記名記事「【激怒】不満爆発! Amazonの配送業者「デリバリープロバイダ」をできるだけ避ける方法」
同氏による2017年7月17日付最新記事「【徹底取材】炎上! Amazonトラブルのヤバすぎる真実が判明 / 被害者「全部デリバリープロバイダの事故」「持ってくの忘れたって(笑)」」
「ガジェット通信」2017年7月4日付、ふじいりょう氏記名記事「「もう使うのをやめる」といった声も!? 『Amazon』の配送業者「デリバリープロバイダ」と連絡がつかない事例多数報告」


先の青柳氏の記事でも指摘されている通り「消費者の「アマゾン離れ」を引き起こしかねない状況となっている」ことに対して、アマゾンが下請けへの無茶振りではなく自社で解決すると決めて根本的な対応を講じない限り、客もメーカーも現実的に「アマゾン離れ」へと傾かざるをえなくなるでしょう。アマゾンだけに頼る買い方や売り方から、複数の他の通販サイトを使い分ける選択の時代への変化の萌芽が表れつつあるように見えます。この件はアマゾンでのカート落ち問題と併せて、後日再度言及するつもりです。


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重版情報:星野太『崇高の修辞学』3刷出来

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星野太さんの『崇高の修辞学』の3刷ができあがりました。シリーズ「古典転生」で3刷に達したのは本書が初めてです。学術書の初版部数や重版部数が年々少なくなるなか、こうして売れていくことはたいへんありがたいことです。なお3刷にあたって新たな修正はありません。また、代官山蔦屋書店さんでは特別小冊子付の同書の在庫がまだ残っているそうなので、どうぞご利用ください。


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