『主体の論理・概念の倫理――二〇世紀フランスのエピステモロジーとスピノザ主義』(以文社、2017年2月)の共編著者でいらっしゃる近藤和敬さん(こんどう・かずのり:1979-)によるブックツリー「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」が、オンライン書店hontoにて公開されました。「哲学読書室」の第三弾です。皆様にご高覧いただけたら幸いです。
◎「哲学読書室」@honto
第1弾「崇高が分かれば西洋が分かる」選書:星野太さん(1983-:金沢美術工芸大学講師。『崇高の修辞学』月曜社、2017年2月刊)
第2弾「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」選書:國分功一郎さん(1974-:高崎経済大学准教授。『中動態の世界』医学書院、2017年3月刊)
第3弾「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」選書:近藤和敬さん(1979-:鹿児島大学法文学部准教授。『主体の論理・概念の倫理』以文社、2017年2月刊)
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近藤和敬さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
本日スタート:ブックフェア「特集:『主体の論理・概念の倫理』」@東京堂
◎ブックフェア「特集:『主体の論理・概念の倫理――二〇世紀フランスのエピステモロジーとスピノザ主義』(以文社)」
概要:フランス20世紀のエピステモロジー(科学認識論)の系譜におけるスピノザ主義に注目したグループ研究「フランス・エピステモロジーの伏流としてのスピノザ」の成果をまとめた論集がこの度刊行された。当フェアではこの論集『主体の論理・概念の倫理――二〇世紀フランスのエピステモロジーとスピノザ主義』(以文社)の関連書籍とともに、フランス現代思想の隠れた水脈を探りたい。
場所:東京堂書店神田神保町店3階エスカレーター前
期間:2017年3月31日(金)~2017年5月30日(火)
※大きなパネルで掲示されている人物相関図は『主体の論理・概念の倫理』の巻頭に収められているダイアグラムです。共編著者の近藤和敬さんによる力作と伺っています。
※弊社既刊書の、近藤和敬さんによる『構造と生成』2巻本も並んでいます。
※共編著者の上野修さんによるステートメントを含む貴重な小冊子が店頭にて無料配布中!これは貴重です。
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注目新刊:松田行正『デザインってなんだろ?』、ほか
『デザインってなんだろ?』松田行正著、紀伊國屋書店、2017年3月、本体1,800円、B6変形判並製328頁、ISBN978-4-314-01145-7
『タウリス島のイフィゲーニエ』ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ作、市川明訳、松本工房、2017年1月、本体1,100円、新書判並製352頁、ISBN978-4-944055-87-6
『ゴーストタウン』ロバート・クーヴァー著、上岡伸雄・馬籠清子訳、作品社、2017年3月、本体2,400円、四六判上製246頁、ISBN978-4-86182-623-8
★松田行正『デザインってなんだろ?』は3月29日取次搬入済の新刊。新書判よりわずかに天地左右が大きいサイズで、手のひらにしっくりくる美しい本です。帯文に曰く「ブックデザインの世界を颯爽と駆け抜けてきた著者が、長年の経験と博覧強記の知識を駆使して、デザインや美的感覚が、そもそもどのように形成されていったか、歴史の糸をときほぐしつつ解説する渾身のデザイン論。混迷する文化状況を俯瞰し、その行く末を占う読み物としても楽しめる、基礎教養が詰まったコンパクトブック」。目次は書名のリンク先をご覧ください。小口に仕掛けがあり、2種類の模様が浮かび上がるようになっています。巻頭からめくるのと巻末からめくるのでは模様が違うのです。一見、硬くて開きづらい本のように感じますが、PUR製本なので、よほど乱暴にしないかぎりはぐいっと開いてもしっかり開きます。松田さんは巻頭の「はじめに」で、現在はコンピュータで仕事をしているものの、コンピュータ以前のデザインは「コンピュータまかせではない発送の宝庫だ」と指摘されています。「本書は、歴史探偵さながらに、さまざまなデザインの背景にある意味などを探求し、まとめてみたものです」。またこうも記しておられます「効率や実利にばかり気を取られ、〔・・・〕すぐに役立つことばかりにとらわれ過ぎるのも、なにか寂しい気がします。やはり精神的で持続可能性のある豊かさは大事です」。歴史をひもとくカラー図版多数、これこそ本当の「自己啓発本」です。「さっさと仕事を終えて遊ぼう!」という帯のキャッチフレーズも素敵です。
★ゲーテ『タウリス島のイフィゲーニエ』は、大阪大学名誉教授の市川明さん(いちかわ・あきら:1948-)の個人訳によるドイツ語圏演劇翻訳シリーズ「Akira Ichikawa Collection」の第1巻として2014年10月に刊行されたものの新装版。初版は横長のB5変型判という大判な本でしたが、新装版では第2巻以降と同じ新書判となっています。本文は美しいオリーブ色で刷られ、ドイツ語原文との対訳となっています。同シリーズの既刊書には以下のものがあります。第2巻:クライスト『こわれがめ 喜劇』2015年、第3巻:レッシング『賢者ナータン 五幕の劇詩』2016年、第4巻:ブレヒト『アルトゥロ・ウイの興隆』2016年。有限会社松本工房さんは大阪市でグラフィックデザイン、組版、出版を営んでいる会社。二代目の代表者松本久木さんへの2009年のインタヴュー記事によれば同社は1977年に松本さんの父上が創業。経営難から2000年代前半に久木さんが関わるようになり、見事に危機を脱して、大阪の「ひとり出版社」として活躍されています。制作されている書籍はいずれも造本が美麗なものばかりですが、ほとんどがお手頃価格なのがすごいところ。たとえば劇作家の深津篤史さん(ふかつ・しげふみ:1967-2014)の作品集成『深津篤史コレクション』3巻本をご覧ください。その繊細な佇まいにはっとします。このほか、海外からの注文が多く来るという博士号取得論文刊行シリーズ「INITIAL」、アートブックレーベル「colophon.」、ギャラリーとヴィジュアルブックのレーベル「ondo」など、いずれも紙媒体の喜びに満ちあふれた仕事を手掛けておられます。
★クーヴァー『ゴーストタウン』は『Ghost Town』(Henry Holt/Grove Press, 1998)の翻訳。訳者あとがきによれば、本書の刊行によって「クーヴァーのパロディ物4冊が揃った」と。ほかの3冊は『老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る』『ノワール』『ようこそ、映画館へ』で、いずれも作品社より刊行。『ゴーストタウン』について訳者はこうも述べています。「いわば西部劇のテーマパークで乗り物に乗り、決められたコースを走っているかのような感じなのだ。とはいっても、ディズニーランドのような清潔なテーマパークではない。暴力的な要素、卑猥で下品な要素が思い切り誇張され、神話に隠された裏の部分を露わにする。そして、人間が作り上げた文化的構築物の中でしか生きられない我々の姿を照射して見せる」(244頁)。「ピンチョン、バース、バーセルミらと並び称される、アメリカのポストモダン文学を代表する小説家」(著者略歴より)としてのクーヴァーの面目躍如とした一作、と言ってよいかと思われます。
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★今月以降の注目新刊を列記します。
0329『カウンター・デモクラシー――不信の時代の政治』ピエール・ロザンヴァロン著、嶋崎正樹訳、岩波書店
0329『幻想としての〈私〉: アスペルガー的人間の時代』大饗広之著、勁草書房
0331『〈わたし〉と〈みんな〉の社会学』大澤真幸/見田宗介著、左右社
0331『不協和音の宇宙へ: モンテスキューの社会学』中江桂子著、新曜社
0331『人間の運命』ラインホールド・ニーバー著、髙橋義文/柳田洋夫訳、聖学院大学出版会
0331『歴史の喩法――ホワイト主要論文集成』ヘイドン・ホワイト著、上村忠男訳、作品社
0401『理念の進化』ニクラス・ルーマン著、土方透監訳、新泉社
0404『書店員の仕事』NR出版会編、新泉社
0404『流されるな、流れろ! ありのまま生きるための「荘子」の言葉』川崎昌平著、洋泉社
0405『啓蒙と神話: アドルノにおける人間性の形象』藤井俊之著、航思社
0406『デカメロン(中)』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫
0406『現金の呪い――紙幣をいつ廃止するか?』ケネス・S・ロゴフ著、村井章子訳、日経BP社
0408『ゲンロン0 観光客の哲学』東浩紀著、ゲンロン
0410『第四の革命――情報圏(インフォスフィア)が現実をつくりかえる』ルチアーノ・フロリディ著、春木良且/犬束敦史/先端社会科学技術研究所訳、新曜社
0411『実体概念と関数概念【新装版】――認識批判の基本的諸問題の研究』エルンスト・カッシーラー著、山本義隆訳、みすず書房
0411『死に至る病』セーレン・キェルケゴール著、鈴木祐丞訳、講談社学術文庫
0411『写生の物語』吉本隆明著、講談社文芸文庫
0411『ヨハネス・コメニウス 汎知学の光』相馬伸一著、講談社選書メチエ
0411『勉強の哲学――来たるべきバカのために』千葉雅也著、文藝春秋
0411『人類の未来――AI、経済、民主主義』ノーム・チョムスキー/レイ・カーツワイル/マーティン・ウルフ/ほか著、NHK出版新書
0412『アナキスト民俗学: 尊皇の官僚・柳田国男』絓秀実/木藤亮太著、筑摩選書
0414『スノーデン 日本への警告』エドワード・スノーデン/青木理/井桁大介/金昌浩 /ベン・ワイズナー/宮下紘/マリコ・ヒロセ著、集英社新書
0415『バウドリーノ』上下巻、ウンベルト・エーコ著、堤康徳訳、岩波文庫
0418『科学とモデル――シミュレーションの哲学 入門』マイケル・ワイスバーグ著、松王政浩訳、名古屋大学出版会
0418『ゾンビ学』岡本健著、人文書院
0419『辺境図書館』皆川博子著、講談社
0419『ポピュリズムとは何か』ヤン=ヴェルナー・ミュラー著、板橋拓己訳、岩波書店
0420『ラカニアン・レフト――ラカン派精神分析と政治理論』ヤニス・スタヴラカキス著、山本圭/松本卓也訳、岩波書店
0420『もうひとつの〈夜と霧〉: ビルケンヴァルトの共時空間』ヴィクトール・E・フランクル著、諸富祥彦/広岡義之編、広岡義之/林嵜伸二訳、ミネルヴァ書房
0420『戦争にチャンスを与えよ』エドワード・ルトワック著、奥山真司訳、文春新書
0422『再起動する批評――ゲンロン批評再生塾第1期全記録』東浩紀編著、朝日新聞出版
0422『老子道徳経(井筒俊彦翻訳コレクション)』井筒俊彦著、古勝隆一訳、慶應義塾大学出版会
0422『著作権の誕生――フランス著作権史』宮澤溥明著、太田出版
0425『美学講義』G. W. F. ヘーゲル著、寄川条路監修、石川伊織/小川真人/瀧本有香訳、法政大学出版局
0425『記号と再帰 新装版: 記号論の形式・プログラムの必然』田中久美子著、東京大学出版会
0425『人工知能の哲学: 生命から紐解く知能の謎』松田雄馬著、東海大学出版部
0427『臨床哲学の知』木村敏/今野哲男著、言視舎
0427『美味礼讃』ブリア=サヴァラン著、玉村豊男訳、新潮社
0429『アレゴリー:ある象徴的モードの理論』アンガス・フレッチャー著、伊藤誓訳、白水社
0430『思考の体系学: 分類と系統から見たダイアグラム論』三中信宏著、春秋社
0510『柄谷行人講演集成1985-1988 言葉と悲劇』ちくま学芸文庫
0512『ラテン語を読む――キケロ―「スキーピオーの夢」』山下太郎著、ベレ出版
0526『メルロ=ポンティ哲学者事典 第二巻:大いなる合理主義・主観性の発見』加賀野井 秀一ほか監訳、白水社
0529『トールキンのベーオウルフ物語<注釈版>』J・R・R・トールキン著、岡本千晶訳、原書房
★なんといっても今月は、東浩紀さんの『観光客の哲学』と、千葉雅也さんの『勉強の哲学』に注目。翻訳ではヘイドン・ホワイト『歴史の喩法』と、ヤニス・スタヴラカキス『ラカニアン・レフト』。古典ものでは鈴木祐丞訳『死に至る病』と、玉村豊男訳『美味礼讃』。
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書評:『統治性』『東京は、秋』『抑止する力』『SLASH』『Hashima』
◎ウィリアム・ウォルターズ『統治性』阿部潔ほか訳、2016年7月刊
『佛大社会学』第41号(2017年3月30日発行)「書評」欄で社会学部専任講師の山本奈生さん曰く「本書ではフーコーの思想に内在して統治性概念が、他の「生権力」「主体化/服従化」「規律訓練型権力」などとどういった関連にあるのかが検討されるのではなく、あくまでも統治性概念の広がり、そしてこれを用いる際の批判的観点に主眼が置かれているが、これが手際よく整理されて心憎いほどである」。また、「「もうすぐ絶滅すると言われる紙の書物」を粘り強く支える編集者と著者らの作品リストを時系列で眺めてみるとき、出版社もまたウォルターズの方法と同じように「対抗的記憶」と「忘れられた闘争」に寄り添って政治的なものの境界線に挑戦し続けていることに気づかされる」と激励の言葉もいただきました。山本先生、ありがとうございます。
◎荒木経惟+荒木陽子『東京は、秋』2016年12月刊
『FUDGE』2017年2月号(1月12日発売)「PICK UP NEW BOOKS 今月の新刊&注目作」欄で山本アマネさん曰く「「要するに街のディテールを撮るのが好きなんだよね」と得意げに話す荒木と、作為なしにユーモラスで愛情のある返答をする陽子にほほが緩む」。
『men's FUDGE』2017年3月号(1月24日発売)「BOOKS」欄で同じく山本アマネさん曰く「一見して何処なのか分からないそれらの写真には、その場所や時代ならではの人々の生活が染み込んでいる。そこには魅力的な街とともに、そのときの荒木自身の気持ちが記録されている」。
『母の友』2017年5月号(福音館書店)「polyphony/Books」欄に曰く「実はこの本、今回が三度目の刊行となるのだが、何度も復刊されるのは、この夫婦対話の魅力も大きいだろう。実に“いい”加減なのだ。仲が良いが、べたべたせず、適度な距離感もある」。
◎カッチャーリ『抑止する力』上村忠男訳、2016年12月刊
「週刊読書人」2017年3月31日号、中村勝己さん(中央大学兼任講師)による書評「「カテコーン」の概念の解釈を主題に――〈世界の再宗教化〉をどう捉えどう向き合うべきか」に曰く「イタリア現代思想には、シュミットの「カテコーン」論を再考する解釈史の流れがある。その前史はドイツのヤーコプ・タウベス『パウロの政治神学』(岩波書店、1993)だが、評者が知る限りでは、これを承けてジョルジョ・アガンベン『残りの時』(岩波書店、2000)、ロベルト・エスポジト『インムニタス[免疫]』(未邦訳、2002)、カッチャーリ、トロンティ共著『歴史の十字路にある神学と政治学』(未邦訳、2007)、パオロ・ヴィルノ『ポストフォーディズムの資本主義』(人文書院、2008)、ネグリ=ハート『コモンウェルス』(NHKブックス、2009)、そして本書『抑止する力』(原著、2013)などがある。政治神学的な観点からカテコーンの解釈について最も熱を込めて主題的に論じているのは、もちろんカッチャーリの本書である」。
◎佐野方美写真集『SLASH』2017年2月刊
『アサヒカメラ』2017年4月号「TOPICS/BOOK」欄「写真に封じ込められた一瞬の集積――時代の空気を写しとめた新作写真集を読む」(解説=山内宏泰、聞き手=池谷修一)に曰く「写真そのものも編集もデザインセンスにあふれています。20世紀以降のすぐれた表現者は必ずデザイナー的資質を持っている。彼女もそのひとりでしょう」。
◎松江泰治写真集『Hashima』2017年2月刊
『CANON PHOTO CIRCLE』2017年4月号(3月15日発行)「今月の新刊」欄に曰く「世界遺産登録をきっかけに30年の時を経て振り返り、その記録性に面白みを感じたという写真群を、自身の手によってデジタルリマスターした諧調豊かなモノクロームは、見る者に当時の軍艦島の空気感を伝えます」。
「信濃毎日新聞」2017年3月26日(日)付「読書欄」に曰く「晴天下、シャープなピントで撮られた作品群は、すでに現在の著者のスタイルが感じられて面白い」。
『人文学報』ナンシー特集号、『舞台芸術』第20号
★西山雄二さん(訳書:デリダ『条件なき大学』、共訳:『ブランショ政治論集』
★柿並良佑さん(共訳:サラ-モランス『ソドム』)
西山さんが所属されている首都大学東京人文科学研究科が先月下旬に発行された『人文学報』513-15号(フランス文学、ISSN0386-8729)ではメイン特集が「ジャン=リュック・ナンシーの哲学の拍動」となっており、西山さんと柿並さんの責任編集となっています。以下、目次を転記しておきます。なお首都大学東京既刊リポジトリ「みやこ鳥」では、同誌の収録先はすべて一本ごとにPDFで無料公開されています。トップページから『人文学報』で検索してみてください。
◎『人文学報』513-15号(フランス文学;首都大学東京人文科学研究科、ISSN0386-8729)
特集:ジャン=リュック・ナンシーの哲学の拍動|責任編集=西山雄二+柿並良佑
はじめに|西山雄二
キルケゴール――ジャン=リュック・ナンシーへの問い|ジャン=リュック・ナンシー/伊藤潤一郎訳
変容、世界|ジャン=リュック・ナンシー&ボヤン・マンチェフ/横田祐美子訳
民主主義の執拗さ――ミゲル・アバンスール、ジャン=リュック・ナンシー、ジャック・ランシエールとの対話|伊藤潤一郎訳
ジャン=リュック・ナンシーの「キリスト教の脱構築」をめぐって|松田智裕訳
1)『脱閉域』(オリヴィエ・ペーターシュミット)
2)『アドラシオン』(フィリップ・ロールバッハ)
3)応答(ジャン=リュック・ナンシー)
非恋愛論 « Ceci n'est pas un (traité de l') amour » – de Jean-Luc Nancy|柿並良佑
時間、自己触発、固有性――超越論的感性論をめぐるジャン=リュック・ナンシーとジャック・デリダの討論|市川崇
近接と対立 ――モーリス・ブランショ『明かしえぬ共同体』の試練にかけられるジャック・デリダとジャン=リュック・ナンシー|ジゼル・ベルクマン/亀井大輔+市川博規訳
世界の欲望――ジャン=リュック・ナンシーと存在論的エロス|ボヤン・マンチェフ/横田祐美子訳
「素描されてその姿を表すもの…… 」――四つの特徴−線によるジャン=リュック・ナンシーの〈感性学〉|ジネット・ミショー/吉松覚訳
国際連続セミナー「文学と愛」
はじめに|西山雄二
愛の悪魔|ダリン・テネフ/橋本智弘訳
愛の地政学――『蝶々夫人』の変容|デンニッツァ・ガブラコヴァ/栗脇永翔+中村彩訳
デンニッツァ・ガブラコヴァ「愛の地政学」への応答|荒木典子/大杉重男
「愛せ、さもなくば去れ」?――マグレブ系フランス人による文学からの回答|下境真由美
研究集会「フランス文学と愛」
趣旨説明――恋愛論の源流へ|藤原真実
マルシリオ・フィチーノとプラトニック・ラブ |グロワザール・ジョスラン/藤原真実訳
激情的な愛から昇華された愛へ――『マノン・レスコー』から『新・エロイーズ』まで|ジゼル・ベルクマン/藤原真実訳
『王太子のための古典ラテン文集』に見るプラウトゥスとテレンティウスの価値|榎本恵子
2016年度活動報告
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★京都造形芸術大学舞台芸術研究センターさん(発行元:『舞台芸術』第1期全10巻)
★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』)
舞台芸術研究センターさんが企画編集されている機関誌『舞台芸術』第20号(特集:〈2020年以後〉の舞台芸術)が今月発売となりました。星野さんは共同討議「ダンス・振付という行為」に相模友士郎さん、平原慎太郎さん、きたまりさんらと参加されています。なお、同誌は第16号から第3期となり、企画編集は京都造形芸術大学舞台芸術研究センターさんで変わらないものの、発行・発売・編集が以下のように変遷しており、角川書店さんのここ5年の動向の一端を感じさせます。
第16号(2012年3月):発行=角川学芸出版、発売=角川グループパブリッシング
第17号(2013年3月):発行=角川学芸出版、発売=角川グループパブリッシング
第18号(2014年3月):発行=株式会社KADOKAWA、編集=角川学芸出版
第19号(2015年9月):発行=株式会社KADOKAWA
第20号(2017年3月):発行=角川文化振興財団、発売=株式会社KADOKAWA
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星野太×塩津青夏「美学的崇高 vs. 修辞学的崇高?」@NADiff名古屋
出演:星野太(美学・表象文化論)× 塩津青夏(美術史学)
日時 :2017年4月23日(日)18:30-20:30(開場 18:00)
会場:NADiff愛知(愛知県名古屋市東区東桜1-13-2 愛知芸術文化センターB2F)
定員:50名
料金:500円
参加方法: ご希望日、ご参加を希望される方のお名前、お電話番号、ご参加人数を明記の上、イベント名のリンク先からメールにてご予約ください。 お電話(TEL : 052-972-0985)でも承っております。なお、当日キャンセルはお断りしております。
星野太(ほしの・ふとし): 1983年生まれ。美学、表象文化論。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在、金沢美術工芸大学講師。著書に『崇高の修辞学』(月曜社、2017年)、共著に『コンテンポラリー・アート・セオリー』(イオスアートブックス、2013年)、共訳書にカンタン・メイヤスー『有限性の後で』(共訳、人文書院、2016年)などがある。
塩津青夏(しおつ・せいか): 1985年生まれ。美術史学。名古屋大学大学院文学研究科修士課程修了。修士(文学)。2010年より愛知県美術館学芸員。2017年4月より、トリエンナーレ推進室で勤務。愛知県美術館で担当した主な展覧会に「ピカソ、天才の秘密」(2016年)などがある。
注目新刊:観光客/来たるべきバカ/混合体・・・の哲学、ほか
『ゲンロン0:観光客の哲学』東浩紀著、ゲンロン、2017年3月、本体2,300円、A5版並製320頁、ISBN978-4-907188-20-7
『勉強の哲学――来たるべきバカのために』千葉雅也著、文藝春秋、2017年4月、本体1,400円、四六判並製240頁、ISBN978-4-16-390536-5
『五感〈新装版〉――混合体の哲学』ミッシェル・セール著、米山親能訳、法政大学出版局、2017年3月、本体6,200円、四六判上製584頁、ISBN978-4-588-14039-6
★このところ人文書では話題の新刊が続いています。今月は東浩紀さんや千葉雅也さんの新刊が書店さんの店頭にほぼ同時期に並ぶことになり、私がよくお邪魔している某店では國分功一郎さんの先月新刊『中動態の世界』を加えて三冊の「白い本」が強烈な波動を放っています。お店によってはさらに今月新刊の、西兼志さんの『アイドル/メディア論講義』(東京大学出版会)を並べておられることでしょうし、星野太さんの『崇高の修辞学』の重版(月曜社)を一緒に展開して下さっていることもあるかと思います。偶然かもしれませんが、東さんの本も千葉さんの本も「~の哲学」という書名で、哲学的思索の再起動を垣間見る思いがします。
★「~の哲学」といえば、少し前にミシェル・セールの『五感――混合体の哲学』も再刊されました。セールはつくづく「未来の哲学者」です。東さんや千葉さんが盛り上げてくださっている売場で、若い読者がセールの柔らかで魅力溢れる知的文体に出会うことを期待したいです。本書は『Les cinq sens : philosophie des corps mêlés Tome 1』(Grasset, 1985)の翻訳で、1991年に刊行されました(その後一度カバーデザインが変わったのは2004年の復刊時だったでしょうか)。「偉大な思想ほど価値のあるものは何もない。なぜならその思想は、雑多な色の波型模様を描きつつ、壮大な風景を開くからであり、その思想をよりよく理解することの奇跡のような歓喜は、誰であれ凡庸な部屋のなかで眠っている者の住居を拡げ、宮殿としての彼の世界を突然改造するからである」(528頁)。それに続く一連の美しい論証を見るとき、私は哲学の再起動がいかに世界(の見方)を変えるか、その鮮やかさを思います。
★『ゲンロン0:観光客の哲学』は「『郵便的』から19年、集大成にして新展開」(帯文より)の新著で、「いままでの仕事をたがいに接続するように構成されている」(はじめに、7頁)のだと言います。つまり本書は、『存在論的、郵便的』(新潮社)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『一般意志2・0』(講談社)、『弱いつながり』(幻冬舎)のいずれの続編としても読めるもので、その基本的主題は「誤配こそが社会をつくり連帯をつくる。だからぼくたちは積極的に誤配に身を曝さねばならない」(はじめに、9頁)というものです。第4章「郵便的マルチチュードへ」には次のように記されており、これは帯文にも引かれています。「ネグリたちのマルチチュードは、あくまでも否定神学的なマルチチュードだった。だから彼らは、連帯しないことによる連帯を夢見るしかなかった。けれどもぼくたちは、観光客という概念のもと、その郵便化を考えたいと思う。そうすることで、たえず連帯しそこなうことで事後的に生成し、結果的にそこに連帯が存在するかのように見えてしまう。そのような錯覚の集積がつくる連帯を考えたいと思う。ひとがだれかと連帯しようとする。それはうまくいかない。あちこちでうまくいかない。けれどもあとから振り返ると、なにか連帯らしきものがあったかのような気もしてくる。そしてその錯覚がつぎの連帯の(失敗の)試みを後押しする。それが、ぼくが考える観光客=郵便的マルチチュードの連帯のすがたである」(159頁)。
★さらにこのあとこう書かれてもいます。「マルチチュードが郵便化すると観光客になる。観光客が否定神学化するとマルチチュードになる。〔・・・〕連帯の理想を掲げ、デモの場所を求め、ネットで情報を集めて世界中を旅し、本国の政治とまったく無関係な場所にも出没する21世紀の「プロ」の市民運動家たちの行動様式がいかに観光客のそれに近いか、気がついていないのだ。〔・・・〕観光客は、連帯はしないが、そのかわりたまたま出会ったひとと言葉を交わす。デモには敵がいるが、観光には敵がいない。デモ(根源的民主主義)は友敵理論の内側にあるが、観光はその外部にあるのだ」(160頁)。本書は昨年から今年にかけての冬の三ヶ月に執筆されたそうです。「本書の執筆を終え、ぼくはいま、かつてなく書くことの自由を感じている」(はじめに、7頁)という東さんの本書は、かつてない疾走感に満ちた同時代感覚を読者に届けるものです。それは誤配のユートピア、とでも言うべきものでしょうか。
★「21世紀の新たな抵抗は、帝国と国民国家の隙間から生まれる。それは、帝国を外部から批判するのでもなく、また内部から脱構築するのでもなく、いわば誤配を演じなおすことを企てる。出会うはずのないひとに出会い、行くはずのないところに行き、考えるはずのないことを考え、帝国の体制にふたたび偶然を導き入れ、集中した枝をもういちどつなぎかえ、優先的選択を誤配へと差し戻すことを企てる。そして、そのような実践の集積によって、特定の頂点への富と権力の集中にはいかなる数学的な根拠もなく、それはいつでも解体し転覆し再起動可能なものであること、すなわちこの現実は最善の世界ではないことを人々につねに思い起こさせることを企てる。ぼくには、そのような再誤配の戦略こそが、この国民国家=帝国の二層化の時代において、現実的で持続可能なあらゆる抵抗の基礎に置かれるべき、必要不可欠な条件のように思われる。21世紀の秩序においては、誤配なきリゾーム状の動員は、結局は帝国の生権力の似姿にしかならない。/ぼくたちは、あらゆる抵抗を、誤配の再上演から始めなければならない。ぼくはここでそれを観光客の原理と名づけよう。21世紀の新たな連帯はそこから始まる」(192頁)。
★「観光客の哲学とは誤配の哲学なのだ。そして連帯〔ローティ〕と憐み〔ルソー〕の哲学なのだ。ぼくたちは、誤配がなければ、そもそも社会すらつくることができない」(198頁)。毎回インスピレーションを感じるのですが、東さんの著書はすべて出版論に読み替えることが可能だと思います。誤配は皮肉にも物流においてもっとも忌避すべき過ちだからこそ、東さんの言う「誤配」を出版人は真剣に受け止めねばならないと思うのです。なぜならば、私たちは「子として死ぬだけではなく、親としても生き」(300頁)るべきだからです。ここでは実体的な家族のことを論じられているという以上に、リレーのありようが問われているのです。
★いっぽう、千葉さんの『勉強の哲学』は、東さんにとっての『弱いつながり』のように、本来的な意味での「自己啓発」書へと踏み出された一歩ではないかというのが第一印象です。「人生の根底に革命を起こす「深い」勉強、その原理と実践」と帯文にはいたわれています。「勉強を深めることで、これまでのノリでできた「バカなこと」が、いったんできなくなります。「昔はバカやったよなー」というふうに、昔のノリが失われる。全体的に、人生の勢いがしぼんでしまう時期に入るかもしれません。しかし、その先には「来たるべきバカ」に変身する可能性が開けているのです。この本は、そこへの道のりをガイドするものです。/勉強の目的とは、これまでとは違うバカになることなのです。その前段階として、これまでのようなバカができなくなる段階がある。/まず、勉強とは獲得ではないと考えてください。勉強とは、喪失することです。これまでのやり方でバカなことができる自分を喪失する」(はじめに、13~14頁)。
★書名のリンク先では「はじめに」と第一章の最初の二ページ分の立ち読みも可能です。本書はもとより千葉さんのデビュー作『動きすぎてはいけない』(河出書房新社、2013年)に比べて親切な語り口の本ですが、さらに結論では本書の主題が端的にまとめられており、通読した方にとってはおさらいになるとともに、未読の方にとっては本書の通覧的な見通しを得るよすがとなります。こうしたネタバレを恐れない書き方は、本書に細部があるからこそできることです。第1章「勉強と言語――言語偏重の人になる」は原理編その1であり「勉強とは、これまでの自分の自己破壊である」と要約されています。第2章「アイロニー、ユーモア、ナンセンス」は原理編その2であり、「環境のノリから自由になるとは、ノリの悪い語りをすることである」。第3章「決断ではなく中断」は原理編その1であるとともに実践編その1で、「どのように勉強を開始するか。まず、自分の現状をメタに観察し、自己アイロニー〔自己ツッコミ〕と自己ユーモア〔自己ボケ〕の発想によって、現状に対する別の可能性を考える」。第4章「勉強を有限化する技術」は実践編その2であり、「勉強とは、何かの専門分野に参加することである」。
★本文では重要な語句や文章はゴシック体で組まれています。「ツイッター哲学」としての『別のしかたで』(河出書房新社、2014年)の次の、千葉さんの最新作が勉強論だということはしばらく前から知られていたことではありました。こうしてひもといてみると、千葉さんの思考と実践のエッセンスがぎゅっと凝縮された本で、なおかつそれを可能なかぎり明晰に明瞭に記述しえた魅力的な本だと感じます。結論の後にある「補論」は。「本書の学問的背景を知りたい方、専門家の方へ」と始まり、「本書は、ドゥルーズ&ガタリの哲学とラカン派精神分析学を背景として、僕自身の勉強・教育経験を反省し、ドゥルーズ&ガタリ的「生成変化」に当たるような、または精神分析過程に類似するような勉強のプロセスを、構造的に描き出したものです」(222頁)と説明されています。こうした種明かしは自画像に似て、自意識との困難な格闘が伴うものですが、千葉さんにとってこうした相対化は、ある種必然だったのではないかと思われます。というのも、『勉強の哲学』は、NHKの特番を書籍化した『哲子の部屋Ⅲ: “本当の自分”って何?』(河出書房新社、2015年)で言及されていた「変態の哲学」を出発点に、詳しく方法論を示したものだとも読めるからです。
★「僕が言いたいことはシンプルです――「最後の勉強」をやろうとしてはいけない。絶対的な根拠を求めるな、ということです。それは、究極の自分探しとしての勉強はするな、と言い換えてもいい。自分を真の姿にしてくれるベストな勉強など、ない」(136頁)。また、後段ではこのようにも書かれています。「アイロニーの批判性を生かしておくには、絶対的なものを求めず、そして、複数の他者の存在を認めなければならない。アイロニカルな批判は、むしろハンパな状態にとどめておく必要があるのです」(145頁)。そして、「複数の他者のあいだで旅しながら考えること」(146頁)の可能性が説明されます。「信頼に値する他者は、粘り強く比較を続けている人である」(148頁)という千葉さんが言う、「出来事と出会い直そうとする」(153頁)ことや「「変化しつつあるバカさ」で行為する」(170頁)ことをめぐる議論は、どこか東さんの「観光客の原理」と交差する部分があるような予感がします。
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★さらにここ最近の文庫新刊では以下のものに注目したいと思います。
『点と線から面へ』ヴァシリー・カンディンスキー著、宮島久雄翻訳、ちくま学芸文庫、2017年4月、本体1,000円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-09790-3
『枕草子』上・下巻、清少納言著、島内裕子校訂訳、ちくま学芸文庫、2017年4月、本体1,400円/本体1,500円、文庫判464頁/528頁、ISBN978-4-480-0978-6/978-4-480-09787-3
★『点と線から面へ』と『枕草子』上下巻は今月のちくま学芸文庫の新刊。このほかには納富信留『哲学の誕生』、アルフレッド・W・クロスビー『ヨーロッパの帝国主義』が発売されています。カンディンスキー『点と線から面へ』は、中央公論美術出版社の「バウハウス叢書」の第9巻として1995年に刊行されたものの文庫化。底本は原著第二版(1926年)。既訳には『カンディンスキー著作集(2)点・線・面――抽象芸術の基礎』(西田秀穂訳、美術出版社、1959年;改訂版1979年;新装版2000年)がありますが、こちらの底本は1955年の第3版(ベンテリ社版)です。巻末の文庫版あとがきによれば、再刊にあたり、訳語の修正が行われています。ちくま学芸文庫さんには今後もバウハウス叢書の品切本の文庫化を期待したいところです。
★いっぽう島内裕子校訂・訳『枕草子』上下本は文庫オリジナル。凡例によれば「現代では「三巻本」で『枕草子』を読むことが主流となっているが、昭和20年代頃までは「枕草子を読む」とは、基本的に、北村季吟『春曙抄』を読むことであった。日本文化に大きな影響を与えてきた『枕草子』の本分に触れるために、本書の底本を『春曙抄』とするゆえんである」と(下巻巻末の「解説」には『春曙抄』に対するさらなる言及あり)。構成は段ごとに本文、現代語訳、評というシンプルなもの。語釈や補注が欲しいという方は、石田穣二訳注『新版 枕草子―――付現代語訳』(上下巻、角川ソフィア文庫、1979~1980年)や、上坂信男/神作光一全訳注『枕草子』(全3巻、講談社学術文庫、1999~2003年) などが参考になるかと思います。このほか、橋本治さんによる『桃尻語訳 枕草子』(全3巻、河出文庫、1998年)や、大庭みな子さんによる『現代語訳 枕草子』(岩波現代文庫、2014年)をはじめ、様々なヴァージョンがあります。
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★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。
『もうひとつの〈夜と霧〉――ビルケンヴァルトの共時空間』ヴィクトール・E・フランクル著、諸富祥彦編、広岡義之編訳、林嵜伸二訳、ミネルヴァ書房、2017年4月、本体2,200円、4-6判上製208頁、ISBN978-4-623-07936-0
『18歳で学ぶ哲学的リアル――「常識」の解剖学』大橋基著、ミネルヴァ書房、2017年4月、本体2,800円、A5判並製306頁、ISBN978-4-623-07937-7
『『新しき土』の真実――戦前日本の映画輸出と狂乱の時代』瀬川裕司著、平凡社、2017年4月、本体4,500円、A5判上製376頁、ISBN978-4-582-28264-1
『2100年へのパラダイム・シフト』広井良典+大井浩一編、作品社、2017年3月、本体1,800円、A5判並製217頁、ISBN 978-4-86182-597-2
★ミネルヴァ書房さんの新刊『もうひとつの〈夜と霧〉』『18歳で学ぶ哲学的リアル』はともにまもなく発売(今月20日頃)。フランクル『もうひとつの〈夜と霧〉』はドイツ語版『夜と霧』の初版に付録として併載されていた思想劇「ビルケンヴァルトの共時空間――ある哲学者会議」(Synchronisation in Birkenwald : Eine metaphysische Conference. 初出は1948年『ブレンナー峠』誌第17号)の、初の単行本化です。既訳には武田修志訳(『道標』第33号、人間学研究会、2011年6月、2~54頁)があるとのこと。この思想劇について広岡さんは巻頭の「はしがき」で「強制収容所を舞台として展開されており、『夜と霧』の内容がリアルに戯曲化されている」と紹介されています。この思想劇はまず、スピノザ、ソクラテス、カントが天国で話し合うところから始まります。「人間は地獄でも人間であり続けることができるということを証明する」とソクラテスは述べ、3人は下界のビルケンヴァルト強制収容所へ降りていきます。そこで語り合う被収容者らを観察し、さらに議論を交わします。淡々とした劇ですが、作者の血涙が行間に滲み出るような内容です。本書の後半はこの劇作の詳細な解説。
★『18歳で学ぶ哲学的リアル』の著者、大橋基さん(おおはし・もとい:1965-)は現在法政大学文学部・社会学部兼任講師。共著や共訳書がありますが、単独著は本書が初めてになります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭の序章にはこう書かれています。「本書は「哲学入門」に先立つ緩やかなエントランスである。ここから「哲学」のなかに踏み込んでも、「社会科学」や「自然科学」に立ち返ってもかまわない。学校の勉強とは無関係な「怖いものみたさ」でも大歓迎だ。/君たちが、自分に似た「哲学者」を見つけたとき、彼らは君たちを「非日常」へのいざなう「秘密の友人」になる」(8頁)。各章末には参考文献が列記され、巻末には用語集と索引が配されています。本書は「大学の社会科学系学部に在籍する学生向けの「哲学案内」として企画された。〔・・・〕内容は〔・・・〕「近代以後の規範的倫理学」を中心とするものとなっている」(あとがき)。本書執筆に至りつくまでの苦労の一端は終章の最終節「ある日の夕暮れどき、「教室」で」にリアルに描写されています。
★瀬川裕司『『新しき土』の真実』はまもなく発売(今月14日頃)。帯文に曰く「若き原節子を〈世界の恋人〉たらしめた、戦前における「最初で最後の本格的輸出映画」の真相に切り込む力作。日独共同製作の裏側で囁かれ、現在でも定説として語り継がれる数々の嘘と虚報を、ドイツ側の視点も含めて丹念に検証し、『新しき土』という怪物を生み出した時代の精神を明らかにする。「日独防共協定の産物」か、「ナチのプロパガンダ」か、果ては「国辱映画」か」。目次についても列記します。序章「世界への夢」、第一章「日本映画の海外進出」、第二章「『新しき土』の誕生」、第三章「伊丹版・ファンク版の相違点」、第四章「批評の諸相」、第五章「『新しき土』製作期以降の輸出映画」、第六章「関係者の運命」、最終章「『新しき土』を生み出したもの」、あとがき、参考文献。序章の末尾には各章が次の通り要約されています。「第一章で『新しき土』以前の日本における映画輸出の流れを確認し、第二章で『新しき土』が企画されてから完成後の海外プロモーション活動までの経過、第三章で『新しき土』における〔両監督〕伊丹〔万作〕版と〔アーノルト・〕ファンク版の相違点、第四章で『新しき土』が受けた批評の諸相、第五章で『新しき土』製作時期以後の日本映画輸出の試み、第六章で『新しき土』に関わった主要人物のその後の運命を扱い、最終章で何が同作を生み出したかについて総括をおこなう」。
★『2100年へのパラダイム・シフト』は発売済。帯文はこうです。「日本を代表する50人の知性が“21世紀の歴史”の大転換を予測する。資本主義の危機、ポピュリズムの台頭、宗教とテロ、覇権交代の国家……世界、そして日本はどうなるのか?」。「国家と紛争の行方」「脱〈成長〉への道」「〈核〉と人類」「新しい倫理」「変貌する学と美」の五部構成で、それぞれの冒頭には編者の広井さんと識者による討議が置かれ、そのあとに7~10本の寄稿が並べられています。収録作はオンライン書店「honto」に上がっています。「述」とあるのが各部冒頭の討議です。
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★さらに注目すべき新刊としては、4月5日発売となったらしいもののその値段ゆえに書店店頭ではまだ見かけていない二冊本、伊藤博明『ヨーロッパ美術における寓意と表象――チェーザレ・リーパ『イコノロジーア』研究【付属資料『イコノロジーア』一六〇三年版全訳】』(ありな書房、2017年4月、本体36,000円、B5判上製函入272頁+別冊432頁、ISBN978-4-7566-1751-4)があります。図像学のかの大古典、リーパの『イコノロジーア』の全訳が成ったということで、2017年の大ニュースのひとつになるべきところですが、版元ドットコムでの特記や雑誌広告を除くと、アマゾンでもhontoでもこの驚嘆すべき付属資料について記載がなく、もっと宣伝したらいいのに、と感じます。アマゾンでは在庫なしですが、買い物カゴが付いているので取り寄せ可能ということでしょう。hontoでは「現在お取り扱いができません」となっており、丸善、ジュンク堂、文教堂のいずれにも店頭在庫なし。まあこの値段ですから今後も書店さんが仕入れるというのは難しいかもしれません。さほど発行部数は多くないでしょうからうかうかしていると図書館に買われて品切、となる可能性もあります。ただ、ありな書房さんの前回の高額本『ヴァールブルク著作集 別巻1 ムネモシュネ・アトラス』(2012年3月刊、本体24,000円、ISBN978-4-7566-1222-9)に比してもさらに高いわけなので、なかなか手が届きにくいですね。
★最後にもうひとつ。これまで復刊ドットコムでは「ジャガーバックス」の復刊が行われてきましたが、ついに「ジュニアチャンピオンコース」の復刊も開始となりそうです。しかもその第一弾は、斎藤守弘著『なぞ怪奇 超科学ミステリー』(1974年)だというのです。子どもの頃愛読していたにもかかわらず大学生になる前に一括処分してしまい、あとあとになってそのことを悔やんだだけに、購入を決断するには一秒もかかりませんでした。身も蓋もないことを言うと、子供だった時分のインパクトは、復刊されて見直す際にはずいぶん薄れてしまっていることに気づくことが多いです。それでも、この本とともに生きたことを思い出すのは、自分の奥に埋もれて見つけがたくなってしまったものをもう一度掘り起こすきっかけになるわけで、その意味で復刊本は「特別な装置」たりうるのです。
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重版2刷出来:森山大道『通過者の視線』
森山大道さんの写真論、エッセイ、対話をまとめた『通過者の視線』(2014年刊)の2刷が4月7日にできあがりました。今週末には同じく森山さんの写真集『Osaka』(2016年9月刊)の2刷もできあがる予定です。初版本は書店さんの店頭でほどなく消えていくと思われますので、ご購入ご希望のお客様はお早目にお探しいただけると幸いです。オンライン書店hontoの商品個別頁での丸善やジュンク堂の店頭在庫情報などが有益かと想像します。
新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる本屋さん
2017年4月21日(金)開店:MUJI BOOKS木更津店(坪数:??;千葉県木更津市築地1-4 イオンモール木更津 1F)
2017年4月22日(土)開店:MUJI BOOKS函館店(坪数:??;北海道函館市本町24-1 シエスタハコダテ 1F)
2017年4月27日(木)開店:MUJI BOOKS熊本店(坪数:??;熊本県熊本市中央区下通1-3-8 COCOSA熊本下通 4F)
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今春はとにかく新規店が多めなのですが、弊社が受注した印象としては蔦屋さんの出店が多いように感じます。むろんすべて日販帳合。草叢BOOKSはCCCの新業態。短冊のみのご発注なので公式情報は得ていませんが、2月17日開店のアピタ新守山店を取材したホラノコウスケさんによる2017年2月17日付記事「ツタヤ×スタバの新業態!ブック&カフェ『草叢BOOKS』アピタ新守山店が今日2/17(金)オープンしたので行ってみた」や、「名古屋情報通」2017年2月17日付記事「蔦屋書店プロデュースのブック&カフェ『草叢BOOKS』アピタ新守山にオープン。」などをご参照ください。ちなみにアピタ新守山店から弊社への発注短冊があったかどうかは記憶が定かではありません。蔦屋さん関係の場合、たいていのご発注は写真集中心です。
4月14日(金)開店:エディオン蔦屋家電
4月14日(金)開店:草叢BOOKS各務原店(岐阜県各務原市鵜沼各務原町8-7 アピタ各務原 1F)
4月26日(水)開店:銀座蔦屋書店
4月27日(木)開店:TSUTAYA ハレノテラス東大宮店(埼玉県さいたま市見沼区島町393 ハレノテラスD棟)
4月28日(金)開店:広島蔦屋書店
MUJI BOOKSにせよ蔦屋書店にせよ、日販さんは次世代型書店の推進に力を入れておられるご様子と見るべきでしょうか。既存の帳合店でも例えば、昨秋(2016年10月28日)にリニューアルグランドオープンした紀伊國屋書店福岡本店は「ニトリ デコホーム」が併設される、という工夫が見られます。
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一方、トーハン帳合はというと、今月は17日開店の三省堂書店名古屋本店さんですね。ごく至近距離に同帳合の三省堂書店名古屋高島屋店があり、こちらは昨秋9月29日に縮小リニューアルオープンしました。トーハンさん関連のニュースでは書原が先月、大阪屋栗田からトーハンに全店帳合変更されました。以前は仙川店だけがトーハン帳合でした。これについては弊社のような零細版元は非公式情報はともかく公式なリリースをどこからも聞いておらず、業界紙のウェブサイトにも情報が上がらず、釈然としません。
大阪屋栗田さんで気になっていた帳合店のジュンク堂書店大分店さんの閉店および再オープンの件は、帳合変更はなく、4月28日(金)に大分市中央町2-3-4の雑居ビル1~5Fに420坪で再オープンとのことでご発注が人文書1点のみありました。どうやら返品予定だった書籍を再活用していただけるようで、返品明細を出してもらって確認したところ半分近く減っていました。
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辻山良雄×竹田信弥×小林浩「出版不況が叫ばれるいま、なぜあえて本屋をはじめたのか」
◎辻山良雄(Title)× 竹田信弥(双子のライオン堂)× 小林浩(月曜社)「出版不況が叫ばれるいま、なぜあえて本屋をはじめたのか」
日時:2017年5月31日(水)19:00-21:30
会場:ゲンロンカフェ(東京都西五反田1-11-9 司ビル6F)
料金:2,600円(前売券 1ドリンク付 ※当日、友の会会員証/学生証提示で500円キャッシュバック)
※友の会会員限定最前列席:2,600円(前売分 1ドリンク付、共有サイドテーブル・電源あり ※ キャッシュバックはありません ※複数予約される場合はお連れの方が会員でなくても結構です)
イベント概要:出版ベンチャーとして成長を続けるゲンロンが、出版業界・書店業界のこれからについて考えるイベントを行います。/すでに20年にわたり、出版業界全体の売上は落ち込み続けています。この間に倒産した出版社、閉店した書店は数え切れません。一方で、この厳しい状況のなか、希望を持ってこの業界で挑戦し続けている方々もいます。/話題の新刊『本屋、はじめました』の著者である辻山良雄さんは、長く全国のリブロで勤務した経験を活かし、本屋Titleの店主としてさまざまな試みを行っています。一方、もともとネット古書店として創業し現在は赤坂に実店鋪を構える双子のライオン堂の竹田信弥さんは、独特の選書サービスで読書家を魅了し続け、各方面で話題となっています。/そんな新しいタイプの本屋を運営するおふたりとともに、出版業界の状況について積極的な情報発信を行っている月曜社の小林浩さんをお迎えし、本を作り、本を売り続けるために必要なことは何か、さまざまな視点から考え、語り合っていただきます。
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注目新刊:日本語版オリジナル論集にして初の単行本、ホワイト『歴史の喩法』作品社
ヘイドン・ホワイト(Hayden White, 1928-)の主要論考7本を編んで1冊とした日本語版オリジナル論集の訳書をご刊行されました。編訳者あとがきによれば、本書は、『メタヒストリー――19世紀ヨーロッパの歴史的想像力』(1973年)の後に刊行された3冊の批評論集である『言述の喩法』(1978年)、『形式の内容』(1987年)、『フィギュラル・リアリズム』(1999年)のなかから、主要な論考を選んで訳出したもので、編訳を担当された上村さんが各論文の解題や、巻末解説をお書きになっておられます。『メタヒストリー』は岩崎稔監訳で作品社さんより続刊予定とのことです。なおホワイトの著書の展開場所ですが、歴史書売場でカルロ・ギンズブルグを扱っていらっしゃる書店さんはその隣に置かれると良いかもしれません。ギンズブルグとホワイトの対立については後段で言及する『アウシュヴィッツと表象の限界』をご参照ください。
歴史の喩法――ホワイト主要論文集成
ヘイドン・ホワイト著 上村忠男編訳
作品社 2017年4月 本体3,200円 46判上製305頁 ISBN978-4-86182-635-1
帯文より:“メタヒストリー”によって歴史学に革命的転換をもたらしたヘイドン・ホワイト――その全体像を理解するための主要論文を一冊に編纂。
目次:
日本の読者のみなさんへ(ヘイドン・ホワイト)
第1章 歴史という重荷〔The Burden of History. 初出1966年、『言述の喩法』収録〕
第2章 文学的製作物としての歴史的テクスト〔The Historical Text as Literary Artifact. 初出1974年、『言述の喩法』収録〕
第3章 歴史の喩法――『新しい学』の深層構造〔The Tropics of History: The Deep Structure of the New Science. 初出1976年、『言述の喩法』所収〕
第4章 現実を表象するにあたっての物語性の価値〔The Value of Narrativity in the Representation of Reality. 初出1980年、『形式の内容』所収〕
第5章 歴史的解釈の政治――ディシプリンと脱崇高化〔The Politics of Historical Interpretation: Discipline and De-Sublimation. 初出1982年、『形式の内容』所収〕
第6章 歴史のプロット化と歴史的表象における真実の問題〔Historical Emplotment and the Problem of Truth in Historical Representation. 初出1992年、『フィギュラル・リアリズム』所収〕
第7章 アウエルバッハの文学史――比喩的因果関係とモダニズム的歴史主義〔Auerbach's Literary History: Figural Causation and Modernist Historicism. 初出1996年、『フィギュラル・リアリズム』所収〕
編訳者による解題
解説「ヘイドン・ホワイトと歴史の喩法」(上村忠男)
編訳者あとがき
なお、第4章「現実を表象するにあたっての物語性の価値」には以下の既訳があります。海老根宏・原田大介訳『物語と歴史』(《リキエスタ》の会、2001年;初出「歴史における物語性の価値」、W・T・J・ミッチェル編『物語について』所収、平凡社、1987年)。また、第6章「歴史のプロット化と歴史的表象における真実の問題」はもともと、ソール・フリードランダー編『アウシュヴィッツと表象の限界』(未來社、1994年)に上村さん自身の訳で「歴史のプロット化と真実の問題」という題名で収録されています。
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【訃報】松本俊夫さん:『逸脱の映像』著者
」
『逸脱の映像――拡張・変容・実験精神』
注目新刊:鈴木祐丞訳『死に至る病』講談社学術文庫、ほか
『死に至る病』セーレン・キェルケゴール著、鈴木祐丞訳、講談社学術文庫、2017年4月、本体1,000円、A6判並製296頁、ISBN978-4-06-292409-2
『人類の未来――AI、経済、民主主義』ノーム・チョムスキー/レイ・カーツワイル/ マーティン・ウルフ/ビャルケ・インゲルス/フリーマン・ダイソン著、吉成真由美インタビュー・編、NHK出版新書、2017年4月、本体940円、新書判並製320頁、ISBN978-4-14-088513-0
『デカメロン(中)』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫、2017年4月、本体1,000円、文庫判並製560頁、ISBN978-4-309-46439-8
★鈴木祐丞訳『死に至る病』は版元紹介文に曰く「気鋭の研究者が最新の校訂版全集に基づいてデンマーク語原典から訳出するとともに、簡にして要を得た訳注を加えた、新時代の決定版と呼ぶにふさわしい新訳」と。創言社より1990年に刊行された『原典訳記念版キェルケゴール著作全集』第12巻所収の、山下秀智訳「死に至る病」(その後、2007年に同版元から単行本として刊行)以来の新訳です。現在も入手が可能な文庫では斎藤信治訳『死に至る病』(岩波文庫、1939年;改版1957年;著者名表記は「キェルケゴール」)や、桝田啓三郎訳『死にいたる病』(ちくま学芸文庫、1996年;元版は筑摩書房版『キルケゴール全集』第24巻所収、1963年;著者名表記は「キルケゴール」)がありますが、そろそろ新訳が望まれるところではあっただけに、今回の刊行はたいへん嬉しいものではないでしょうか。
★『人類の未来』は、NHK出版新書での吉成真由美さんによるインタビュー本2点、『知の逆転』(ジャレド・ダイアモンド/ノーム・チョムスキー/オリバー・サックス/マービン・ミンスキー/トム・レイトン/ジェームズ・ワトソン著、吉成真由美インタビュー・編、NHK出版新書、2012年12月、本体860円、ISBN978-4-14-088395-2)、『知の英断』(ジミー・カーター/フェルナンド・カルドーゾ/グロ・ハーレム・ブルントラント/メアリー・ロビンソン/マルッティ・アハティサーリ/リチャード・ブランソン著、吉成真由美インタビュー・編、NHK出版新書、2014年4月、本体780円、ISBN978-4-14-088432-4)に続く第3弾です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。個人的にはカーツワイルのインタビューに一番惹かれますが、それは科学技術の進歩によって人間が被る変化の近未来が、出版や読書に対しても影響を及ぼすためで、業界人として無関心ではいられないためです。帯文によれば約5年前の第1弾『知の逆転』は20万部を突破しているのだとか。今後の続刊にも期待したいです。
★『デカメロン(中)』では第四日から第七日までを収録。平川さんの解説は第三章「ボッカッチョの生涯とその革新思想」、第四章「ダンテを意識するボッカッチョ」、第五章「寛容という主張」が収められています。第五日第八話はかのボッティチェルリの連作絵画全四作の元ネタとなった、ナスタージョ・デリ・オネスティ(Nastagio degli Onesti)の物語です。呪いによる永劫の繰り返しは、主人公が迎えたハッピーエンドよりも古今の読者に衝撃を与えたことでしょう。下巻の発売予定日は5月8日とのことです。
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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『心を操る寄生生物――感情から文化・社会まで』キャスリン・マコーリフ著、西田美緒子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2017年4月、本体2,300円、四六判上製328頁、ISBN978-4-7726-9555-8
『ほどける』エドウィージ・ダンティカ著、佐川愛子訳、作品社、2017年4月、本体2,400円、四六判上製303頁、ISBN978-4-86182-627-6
『啓蒙と神話――アドルノにおける人間性の形象』藤井俊之著、航思社、2017年4月、本体3,800円、A5判上製368頁、ISBN978-4-906738-22-9
『和歌のアルバム――藤原俊成 詠む・編む・変える』小山順子著、平凡社:ブックレット〈書物をひらく〉4、2017年4月、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-582-36444-6
『異界へいざなう女――絵巻・奈良絵本をひもとく』恋田知子著、平凡社:ブックレット〈書物をひらく〉5、2017年4月、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-582-36445-3
『陳独秀文集3 政治論集2 1930-1942』陳独秀著、江田憲治/長堀祐造編訳、平凡社:東洋文庫881、2017年4月、B6変型判上製函入504頁、ISBN978-4-582-80881-0
★特記したいのは『心を操る寄生生物』です。ネコを飼っている読者が衝撃を受けるかもしれない一冊。トキソプラズマの話でしょ、という賢明な読者にもお薦めします。それだけの話では終わらないからです。原書は『This Is Your Brain on Parasites: How Tiny Creatures Manipulate Our Behavior and Shape Society』(Eamon Dolan/Houghton Mifflin Harcourt, 2016)。ブレイザー『失われてゆく、我々の内なる細菌』(みすず書房、2015年7月)、コリン『あなたの体は9割が細菌――微生物の生態系が崩れはじめた』(河出書房新社、2016年8月)、モントゴメリー&ビグレー『土と内臓――微生物がつくる世界』(築地書館、2016年11月)、デサール&パーキンズ『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』(紀伊國屋書店、2016年12月)など、ここ最近増えているマイクロバイオーム関連の既刊書を堪能した読者は、きっと本書の神経寄生生物学(neuroparasitology:ニューロパラサイトロジー/ニューロパラシトロジーとも)に興味を持たれるだろうと思います。「私たちはこれまで寄生生物の政治的な影響力を過小評価してきた。〔・・・〕たぶん地政学は寄生生物の観点から教えるべきものだ」(268頁)とも著者が書いている通り、文系の研究にも侵食しうる議論があります。類書に小澤祥司『ゾンビ・パラサイト――ホストを操る寄生生物たち』(岩波書店:岩波科学ライブラリー、2016年12月)があります。ちなみに著者のマコーリフさんはカール・ジンマー『パラサイト・レックス――生命進化のカギは寄生生物が握っていた』(光文社、2001年)を本書執筆の出発点として言及しています。
★『ほどける』の原書は『Untwine』(Scholastic Press, 2015)。訳者はあとがきで本書を「さまざまの形の愛と葛藤」を描いた作品と説明しつつ、次のような一節を引いています。「たぶんわたしたちはあまりに多くを持ちすぎ、他の人たちはあまりに持たなすぎる。他の人たちが絶えず苦しみのなかで生きているのに、わたしたちには喜びを味わう資格があると、いったい誰がいうのだろう? 毎日を死とともに過ごす人たちがいるのにわたしたちはいい人生を送らなければならないと、誰が言うのだろう?」(248頁)。
★『啓蒙と神話』は京都大学人文科学研究所助教の藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さんの博士論文を改稿したものです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「過ぎた昔を懐かしむのでもなく、まだ見ぬ明日の世界を希望的観測のもとに眺めるのでもなく、この現在において過去となり、また未来として現れもする時間の様相を、いまここから地続きに果てしなく続く地獄として冷徹に見据えるところから、アドルノの歴史哲学は構想されている。/地獄としての現在というアドルノの認識は、本書もまた共有するところである」(292-293頁)。本書のあとがきによれば藤井さんは岡田暁生さんとの共訳でアドルノの音楽論集『幻想曲風に』の翻訳作業を進めておられ、法政大学出版局から刊行される予定なのだそうです。
★『陳独秀文集3』はまもなく発売。全3巻の完結編です。帯文に曰く「近代中国の大先導者でありながら不等にその存在意義を貶められてきた思想家の主要論説を編訳。第3巻はトロツキズム転向後から晩年まで。生涯にわたる反対派の真面目」と。次回配本は5月刊、揖斐高訳注『柏木如亭詩集1』とのことです。
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★最後にナカニシヤ出版さんの最近の新刊の一部を列記します。
『モダン京都――〈遊楽〉の空間文化誌』加藤政洋編、ナカニシヤ出版、2017年4月、本体2,200円、4-6判上製244頁、ISBN978-4-7795-1166-0
『リバタリアニズムを問い直す――右派/左派対立の先へ』福原明雄著、ナカニシヤ出版、2017年4月、本体3,500円、4-6判上製280頁、ISBN978-4-7795-1156-1
『ヒューム哲学の方法論――印象と人間本性をめぐる問題系』豊川祥隆著、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体3,500円、4-6判上製228頁、ISBN978-4-7795-1126-4
『交錯と共生の人類学――オセアニアにおけるマイノリティと主流社会』風間計博編、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体5,200円、A5判上製320頁、ISBN978-4-7795-1144-8
『響応する身体――スリランカの老人施設ヴァディヒティ・ニヴァーサの民族誌』中村沙絵著、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体5,600円、A5判上製404頁、ISBN978-4-7795-1019-9
『国際関係論の生成と展開――日本の先達との対話』初瀬龍平/戸田真紀子/松田哲/市川ひろみ編、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体4,200円、A5判上製402頁、ISBN978-4-7795-1147-9
『社会運動と若者――日常と出来事を往還する政治』富永京子著、2017年3月、本体2,800円、4-6判上製280頁、ISBN978-4-7795-1164-6
『代表制民主主義を再考する――選挙をめぐる三つの問い』糠塚康江編、ナカニシヤ出版、2017年3月、本体4,600円、A5判上製348頁、ISBN978-4-7795-1145-5
『交錯する多文化社会――異文化コミュニケーションを捉え直す』河合優子編、ナカニシヤ出版、2016年12月、本体2,600円、4-6判並製234頁、ISBN978-4-7795-1114-1
★特記したいのは加藤政洋編『モダン京都』と、富永京子『社会運動と若者』。前者は「文学作品、地図・絵図、そして古写真などを材料にして、モダン京都における〈遊楽〉の風景を探訪しながら、都市空間の随所に埋もれた場所の意味と系譜を掘り起こす試み」(序章、7頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。4月15日に放映されたNHK「ブラタモリ」の第70回「京都・祇園――日本一の花街・祇園はどうできた?」を楽しまれた方は本書でいっそう興味深い歴史の細部が学べます。『社会運動と若者』は、立命館大学准教授の富永京子(とみなが・きょうこ:1986-)さんによる、博士論文の書籍化である『社会運動のサブカルチャー化――G8サミット抗議行動の経験分析』(せりか書房、1986年)に続く単独著第2作。「「世代」や「学生」であることに基づく運動の特質があるという論じ方ももはや有効ではなく、ネガティブな批判にせよ、ポジティブな持て囃しにせよ、年長者が自らのものさしで若者を論じているだけなのではとも感じている。私たち年長者は自分たちが思うほど若くないし、若者たちは思った以上に年長者とは異なる体験を生きている。だからこそ、彼らの意味世界を汲み尽くす試みからまずは始める必要があるのではないか」(ii-iii頁)と富永さんは巻頭の「はじめに」で読者に問いかけておられます。
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『表象11』取次搬入日について
「美術手帖」に星野太『崇高の修辞学』の書評
『崇高の修辞学』は東京大学生協駒場書籍部の2017年3月度売上ランキングで、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(上下巻、河出書房新社、2016年9月)に次ぐ第2位を獲得しています。『崇高の修辞学』刊行記念トークイベントが各地で行われている最中ですが、以下のイベントではまだ予約が可能なようです。
星野太×塩津青夏「美学的崇高 vs. 修辞学的崇高?――崇高における像と言語」
2017年4月23日(日)18:30-20:30(開場 18:00)、NADiff愛知(愛知芸術文化センターB2F)、入場料:500円
NADiff愛知では現在、星野さん選書によるブックフェアが行われています。イベントのご来場者には「選書コメント+αを配布予定」とのことです。
星野太×岡本源太「ロゴスとアイステーシス――美と崇高の系譜学」
2017年5月20日(土)18:30-20:30(開場 18:00)、MEDIA SHOP gallery(京都市中京区河原町三条下る一筋目東入る大黒町44 VOXビル1F)、入場料:一般1,300円/学生1,000円
また、『崇高の修辞学』をめぐる星野さん自身の選書による関連書ブックリスト「崇高が分かれば西洋が分かる」が、オンライン書店「honto」の「哲学読書室」で絶賛公開中です。
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ちなみに星野さんは『表象11:ポスト精神分析的主体の表象』で、カトリーヌ・マラブーの論考「ただひとつの生――生物学的抵抗、政治的抵抗」の翻訳を担当されています。また、『文學界』2017年5月号(第71巻第5号、文藝春秋)ではエッセイ「中庸の人――北村太郎」(282-283頁)を寄稿されています。
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5月中旬発売予定:俳人と写真家の合作『鉄砲百合の射程距離』
鉄砲百合の射程距離
内田美紗[句]、森山大道[写真]、大竹昭子[編]
月曜社 2017年5月 本体2,500円 A4判(縦297mm×横210mm×束6mm)並製84頁(モノクローム写真45点/ダブルトーン印刷)、ISBN:978-4-86503-046-4
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
俳人内田美沙の俳句と、写真家森山大道の写真の絶妙なコラボレーション!「境涯を描く言葉の重いポップさが余人の追随を許さない。こんなに凄い日本語使いがいることも、それが今日まで知られずにいたこともどちらも奇跡です」(いとうせいこう)、「どのページも黙って眺めたい。物語が湧く」(坪内稔典)。しりあがり寿、長嶋有、東直子、平田俊子、藤野可織、文月悠光、古川日出男、穂村弘、各氏推薦。「言葉が写真に、あるいはその反対に写真が言葉に寄りかかることなく、互いが独立していながら刺激しあい、新たな地平を切り開くことは果たして可能か、本書はそれへの一つの答えである」(大竹昭子)。
◆内田美紗(うちだ・みさ)1936年、兵庫県西宮市生まれ。大阪在住。坪内稔典氏の著作に触発され、作句をはじめる。その句法は「演じる俳句(…)俳句の言葉にどのように演じさせるか」(坪内稔典)と評される。句集に『浦島草』(ふらんす堂、1993年)、『誕生日』(ふらんす堂、1999年)、『魚眼石』(富士見書房、2004年)、『内田美紗句集 現代俳句文庫58』(ふらんす堂、2006年)など。
◆森山大道(もりやま・だいどう)1938年、大阪府池田市生まれ。最近の作品集などに、『絶対平面都市』(鈴木一誌との対話集、月曜社、2016年)、『記録 33号』(Akio Nagasawa Publishing、2017年)など。
◆大竹昭子(おおたけ・あきこ)1950年、東京都生まれ。トークと朗読のイベント「カタリココ」を継続的に開催。主な著書に『彼らが写真を手にした切実さを』(写真評論、2011年、平凡社)、『図鑑少年』(小説、中公文庫、2010年)、『日和下駄とスニーカー』(エッセイ、洋泉社、2012年)、『出来事と写真』(畠山直哉氏との対話集、赤々舎、2016年)など。
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◎『鉄砲百合の射程距離』刊行記念・森山大道写真展
日時:4月25日(火)~5月7日(日)
場所:森岡書店銀座店(東京都中央区銀座1‐28‐15 鈴木ビル1階)
電話:03-3535-5020
◎大竹昭子トークショウ「カタリココ2017」
ゲスト:内田美紗(俳人)+森山大道(写真家)
日時:4月27日(木)19時開場/19時30分開演
定員:35名(4月18日(火)13時より電話予約)
会場:森岡書店銀座店(東京都中央区銀座1‐28‐15 鈴木ビル1階)
電話:03-3535-5020
内容:「ミック・ジャガーの小さなおしり竜の玉」「秋の暮通天閣に跨がれて」「セーターにけもののにほひやがて雨」など、内田美紗さんの俳句は映像的で、ポップで、ダイナミックで、かつ気配が濃厚です。内田さんとは森山大道さんの取材でお会いしたのが始まりですが、森山さんの写真と内田さんの句で句写真集『鉄砲百合の射程距離』(月曜社)を私の編纂により出版いたします。トークではその中の句をご紹介しつつ、破天荒ぶりの根っこを探ります。(大竹)
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5月中旬発売予定新刊:金澤忠信『ソシュールの政治的言説』
ソシュールの政治的言説
金澤忠信著
月曜社 2017年5月 本体3,000円 A5判上製160頁 ISBN978-4-86503-044-0
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
20世紀末に発見された新たな文書群を駆使し、ボーア戦争、アルメニア人虐殺、ドレフュス事件に際してのソシュールの知られざる政治的立場を読み解く。19世紀末の歴史的事件に向き合う一人のスイス人、一人の知識人としての姿を浮き彫りにする、かつてない労作。ソシュール研究の新局面。シリーズ・古典転生第14回配本第14巻。
目次:
まえがき
序章 差し挟まれたテクスト
第I章 イギリス批判
第II章 アルメニア人虐殺事件
第III章 ドレフュス事件
終章 ヴュフラン城にて
注
参考文献
あとがき
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ):1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了。現在、香川大学准教授。訳書に、ジャン・スタロバンスキー『ソシュールのアナグラム』(水声社、2006年)、フェルディナン・ド・ソシュール『伝説・神話研究』(月曜社、近刊)などがある。
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上尾真道さん選書のブックツリー「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想」
◎哲学読書室
星野太さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
近藤和敬さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える」
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ご清聴ありがとうございました:東京外国語大学「世界と出版文化」リレー講義
2010年7月07日「出版社のつくりかた――月曜社の10年」
2011年6月15日「人文書出版における編集の役割」
2012年6月06日「人文書出版における編集の役割」
2013年5月15日「知の編集――現代の思想空間をめぐって」
2014年7月09日「編集とは何か」
2015年6月06日「編集とは何か――その一時代の終わりと始まり」
2016年5月25日「編集と独立」
2017年4月19日「人文系零細出版社の理想と現実」
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注目新刊:全編新訳『ヘーゲル初期論文集成』作品社、ほか
ヘーゲル初期論文集成
G・W・F・ヘーゲル著 村田晋一/吉田達訳
作品社 2017年4月 本体6,800円 A5判上製695頁 ISBN978-4-86182-631-3
帯文より:処女作『差異論文』からキリスト教論、自然法論、ドイツ体制批判まで。哲学・宗教・歴史・政治分野の主要初期論文を全て新訳で収録。『精神現象学』に先立つ若きヘーゲルの業績。
目次:
Ⅰ 哲学論文
フィヒテとシェリングの哲学体系の差異――ラインホルト『一九世紀初頭の哲学の状況をもっと簡単に概観するための寄与』第一部との関連で
哲学的批判一般の本質、とりわけ哲学の現状にたいするその関係について
懐疑主義と哲学の関係――そのさまざまな変種の叙述および最近の懐疑主義と古代懐疑主義の比較
抽象的に考えるのはだれか
ドイツ観念論最古の体系プログラム
Ⅱ 宗教論文
ユダヤ人の歴史と宗教
イエスの教えとその運命
愛と宗教
一八〇〇年の宗教論
Ⅲ 歴史・政治・社会論文
自然法の学問的な取りあつかいかた、実践哲学におけるその位置、および実定化した法学との関係について
歴史的・政治的研究
ドイツ体制批判
『ヘーゲル初期論文集成』解題
ヘーゲル略年譜
あとがき
人名索引
★発売済。「あとがき」によれば本書は「『精神現象学』刊行までの(年代的にはおよそ1795年から1807年までの)論文をおさめている。『精神現象学』は、哲学はもとより自然科学、歴史、芸術、政治、宗教といったじつに多彩な領域における西洋の知的遺産を弁証法という一貫した論理のもとに鳥瞰させてくれる画期的な著作だが、それを可能にしたのは青年時代の思索の積み重ねである。そこで本書は「Ⅰ 哲学論文」、「Ⅱ 宗教論文」、「Ⅲ 歴史・政治・社会論文」の三章を設けて、青年ヘーゲルの知的活動をできるかぎり多方面にわたって収録するように努めた」とのことです。また、未刊草稿である「キリスト教の精神とその運命」は「それに含まれる草稿群の執筆年代にかなりのばらつきがあり、ヘーゲル自身がまとまった著作を計画していたとは考えられないために、あえて二つに分けて「ユダヤ人の歴史と宗教」と「イエスの教えとその運命」とした」とのことです。初期ヘーゲルの著作群については複数の訳書がありますが、ここにまた刮目すべき新訳が加わったことになります。
★ヘーゲルの新訳は今月もう一冊、『美学講義』(寄川条路監訳、石川伊織・小川真人・瀧本有香訳)が法政大学出版局さんよりまもなく発売予定です。
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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『悪しき愛の書』フェルナンド・イワサキ著、八重樫克彦/八重樫由貴子訳、作品社、2017年4月、本体2,400円、四六判上製247頁、ISBN978-4-86182-632-0
『群島と大学――冷戦ガラパゴスを超えて』石原俊著、共和国、2017年3月、本体2,500円、四六判並製276頁、ISBN978-4-907986-34-6
『謀叛の児――宮崎滔天の「世界革命」』加藤直樹著、河出書房新社、2017年4月、本体2,800円、46変形判上製352頁、ISBN978-4-309-24799-1
『痛みと感情のイギリス史』伊東剛史/後藤はる美編、東京外国語大学出版会、2017年3月、本体2,600円、四六判上製368頁、ISBN978-4-904575-59-8
『ゾンビ学』岡本健著、人文書院、2017年4月、本体2,800円、4-6判並製340頁、ISBN978-4-409-24110-3
『アジアの思想史脈――空間思想学の試み』山室信一著、人文書院:シリーズ・近現代アジアをめぐる思想連鎖、2017年4月、本体3,400円、4-6判上製376頁、ISBN978-4-409-52065-9
『アジアびとの風姿――環地方学の試み』山室信一著、人文書院:シリーズ・近現代アジアをめぐる思想連鎖、2017年4月、本体3,400円、4-6判上製392頁、ISBN978-4-409-52066-6
★『悪しき愛の書』は発売済。原書はペルー版『Libro de mal amor』(Alfaguara, 2006)です。フェルナンド・イワサキ(Fernando Iwasaki Cauti, 1961-)はペルーの日系小説家。既訳書に『ペルーの異端審問』(八重樫克彦/八重樫由貴子訳、新評論、2016年7月)があり、同書には筒井康隆さんによる巻頭言、バルガス・リョサによる序文が寄せられていました。『悪しき愛の書』は訳書第二弾であり、全十章構成の小説です。目次詳細は書名のリンク先をご覧下さい。三つの序文が収められているほか(スペイン版第三版・メキシコ版初版2011年への序文、スペイン版第二版・ペルー版初版2006年への序文、スペイン語版初版2001年への序文)、2006年版に収められたリカルド・ゴンサレス・ビヒルによる解説が訳出されています。
★『群島と大学』は発売済。著者の石原俊(いしはら・しゅん:1974-:明治学院大学社会学部教員)さんには歴史社会学と同時代分析の二領域でこれまで上梓されてきた『近代日本と小笠原諸島』『〈群島〉の歴史社会学』『殺すこと/殺されることへの感度』などの単独著がありますが、今回の新刊はそれらに収録されてこなかった文章のなかから大小約20本をセレクトし、大幅に加筆修正・再構成したものだそうです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。特に第三部「大学という現場──グローバリズムと国家主義の攻囲のなかで」は大学の先生方の著訳書を刊行したり販売したりしている出版人や書店人は読んでおいた方がいいと感じました。なお、本書は昨秋逝去された道場親信さんに捧げられています。
★『謀叛の児』はまもなく発売。出版社勤務のご経験もおありのノンフィクション作家、加藤直樹(かとう・なおき:1967-)さんによる、話題作『九月、東京の路上で――1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから、2014年)に続く単独著第二弾であり、「世界革命としての中国革命」(15頁)を標榜した宮崎滔天をめぐる評伝です。帯には安藤礼二さんと酒井隆史さんによる推薦文あり。「滔天が復活する」(安藤さん)、「滔天像を一新する驚嘆すべき書」(酒井さん)と。加藤さんは滔天を「いかなる意味でも右翼ではない」(11頁)と評し、アジア主義との見方にも疑義を呈します。「滔天は、独自の深い思索によって日本と中国、世界の行方を見つめ続けた人物であり、その射程の長さには驚くべきものがある」(14頁)。
★『痛みと感情のイギリス史』は編者の伊東さんによる巻頭の「無痛症の苦しみ」によれば、「近世から現代のイギリス史の中に六つの舞台を設定し、個々の具体的な事例を通じて痛みの歴史性を明らかにする。その六つの章を表すキーワードはそれぞれ、Ⅰ「神経」、Ⅱ「救済」、Ⅲ「情念」、Ⅳ「試練」、Ⅴ「感性」、Ⅵ「観察」である」と。収録論文は版元ウェブサイトで公開されています。痛みをめぐる文化史であり、感情史というユニークな分野の研究成果です。
★最後に人文書院さんの新刊3点です。『ゾンビ学』は「世界初、ゾンビの総合的学術研究書」と帯文に謳われています。「映画、マンガ、アニメ、ドラマ、小説、ゲーム、音楽、キャラクターなど400以上のコンテンツを横断し、あらゆる角度からの分析に挑んだ、気鋭による記念碑的著作」とも。書名のリンク先では目次詳細が公開されているほか、「はじめに」「第1章」「付録:資料のえじき―ゾンビな文献収集」をPDFで立ち読みすることができます。著者の岡本健(おかもと・たけし:1983-)さんは、奈良県立大学地域創造学部准教授。ご専門は観光学で、既刊の著書に『n次創作観光――アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』(NPO法人北海道冒険芸術出版、2013年2月)などがあります。
★山室信一さんの『アジアの思想史脈』『アジアびとの風姿』はまもなく発売。「近現代アジアをめぐる思想連鎖」というシリーズの二巻本になります。『アジアの思想史脈』の「はじめに」に曰く、この二巻本は「国内外での講演記録などのうちから、割愛した箇所やもう少し説明を要すると気がかりだった箇所などを補訂したものです。いえ、補訂という以上に、書き下ろしといえるほど全面的に書き改めたものがほとんどです」とのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。
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