弊社出版物でお世話になっている著者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。
★ヒロ・ヒライさん(編著書:『ミクロコスモス 第1集』)
★山田俊弘さん(論考:「ニコラウス・ステノ、その生涯の素描――新哲学、バロック宮廷、宗教的危機」、『ミクロコスモス 第1集』所収)
ヒロ・ヒライさんが編纂しておられるシリーズ「bibliotheca hermetica叢書」の最新刊『ジオコスモスの変容』が発売となりました。同書は山田俊弘(やまだ・としひろ:1955-)さんが2004年に東京大学大学院に提出した博士論文「17世紀西欧地球論の発生と展開――ニコラウス・ステノの業績を中心として」を大幅に改稿したものとのことです。詳しい書誌情報や目次については書名のリンク先をご覧ください。山田さんの訳書である、ニコラウス・ステノ『プロドロムス――固体論』(東海大学出版会〔現:東海大学出版部〕、2004年)とともにひもときたい一書です。また、『ジオコスモスの変容』の刊行を記念し、トークイベントが開催される予定とのことです。こちらのリンク先からご予約いただけます。
ジオコスモスの変容――デカルトからライプニッツまでの地球論
山田俊弘著 ヒロ・ヒライ編集
勁草書房 2017年2月 本体4,800円 A5判上製304頁 ISBN978-4-326-14829-5
帯文より:デカルト、キルヒャー、スピノザ、ライプニッツ。17世紀ヨーロッパの科学革命を生きた知識人たち、彼らによって世界をその歴史の理解が大変革をとげる。デンマーク人ステノを案内人に、この壮大な旅路を「ジオ・コスモス」観の変容として読みとき、地球惑星科学の起源に肉迫する。
◎トークイベント「デカルトからライプニッツまでの地球像――17世紀ヨーロッパの科学革命におけるジオコスモス」ヒロ・ヒライ(BH叢書・監修)×山田俊弘(東京大学研究員)
日時:2017年3月8日(水)19時~21時(開場18時30分)
場所:本屋 EDIT TOKYO 東京都中央区銀座5-3-1 ソニービル6F
料金:2,000円(ドリンク付)
内容:哲学と歴史を架橋し、テクスト成立の背景にあった「知のコスモス」に迫るインテレクチュアル・ヒストリー。その魅力を紹介する「bibliotheca hermetica(ヘルメスの図書館)」叢書の第4回配本は、『ジオコスモスの変容:デカルトからライプニッツまでの地球論』です。近代科学の創始者であるガリレオやニュートンといった学者たちが活躍した17世紀は、科学革命の時代と呼ばれています。天動説と地動説をめぐって論争が繰り広げられた時代です。地動説によって地球が世界の中心ではなく、惑星のひとつになってしまうことは、世界観そのものの大きな変容でした。この大変革期に、デカルト、キルヒャー、スピノザ、ライプニッツといった知識人たちは、化石、鉱物、火山活動、気象といったものから、地球がどのようなものだと考えていたのでしょうか。デンマーク人ステノを案内人に、「ジオ・コスモス」(大地の世界)観の変容というこの壮大な旅路へご案内します。
+++
注目新刊:山田俊弘『ジオコスモスの変容』(記念イベントあり)
メモ(14)
「山陽新聞」2017年3月5日付記事「高梁市教委への寄贈本10年放置 1.6万冊、遺族要請を受け返還」に曰く「高梁市教委に2006年に贈られた「万葉集」や備中松山藩の儒学者山田方谷に関する郷土資料などの書籍約1万6千冊が10年間にわたり放置され、寄贈者の要請を受けて市教委が昨年3月に返還していたことが、山陽新聞社による市への情報公開請求で分かった。寄贈したのは高野山大(和歌山県)名誉教授だった故藤森賢一さん=同市出身=の遺族で「利用されず残念」としている」。
「藤森さんの書籍は当時、〔・・・〕高梁中央図書館の蔵書として登録したが、スペース不足で西に約8キロ離れた旧成羽高体育館に保管。貸出時に取りに行く人員が割けないことなどから蔵書検索の対象から除外していたという。/新図書館開館(2月)に伴う蔵書整理で、夏目漱石や内田百けんの全集、所蔵していない備中松山藩、山田方谷の関連資料などを除き大半の廃棄を決定。〔・・・〕高梁市教委社会教育課は「職員数や書庫の制約で活用できず、遺族、利用者に申し訳ない。今後は寄贈本の取り扱い基準を明確化するなどして、きちんと対応したい」としている」。
高梁市図書館については以下を参照。
「T-SITE Lifestyle」2016年11月9日付記事「「高梁市図書館」が2017年2月オープン。コーヒーを飲みながら読書できる空間に」曰く「岡山県高梁市が、JR備中高梁駅隣接の複合施設内に建設中の「高梁市図書館」を、2017年2月4日(土)に開館する。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下「CCC」)が指定管理者として運営する。/同図書館には、「地域コミュニティ・憩いの空間・地域物産が知れる・高梁の良さを知れる」という市民価値を実現するため、図書館内への観光案内所を移設、CCCがスターバックス コーヒー ジャパン 株式会社とのライセンス契約に基づき展開するBook & Caféスタイルの店舗を出店する。/市民も観光客もコーヒーを飲みながら図書館の本にふれ合える“Library & Café” のスタイルのもと、くつろぎの時間を利用者に提案する」。
「産経新聞」2017年2月4日付記事「「TSUTAYA図書館」全国4館目 岡山・高梁市に開館 カフェや書店併設、地元は期待」に曰く「カフェや書店も併設。社交場的な雰囲気で、初日から大勢の来館者でにぎわった。/新図書館は4階建ての複合施設(延べ床面積約3900平方メートル)内の2~4階(同2250平方メートル)に開設し、旧図書館より2万冊増の12万冊をそろえた。テラス部分を含めて356席あり、カフェで購入した飲み物とともに読書が楽しめる。/館内は吹き抜け空間で開放感にあふれ、子供専用の紙芝居コーナーや遊具、郷土史コーナーも設置。年間の来館者数は20万人を見込んでいる」。
「山陽新聞」2017年2月4日付記事「高梁市新図書館、待望のオープン 民間指定管理、カフェや書店併設」に曰く「指定管理者は、レンタル大手TSUTAYAの運営会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC、本店大阪)。2階のカフェ・スターバックス、蔦屋書店、観光案内所も運営する。市は2022年3月末まで、年間約1億6千万円の指定管理料を支払う。/CCCは13年4月以降、佐賀県武雄市、神奈川県海老名市、宮城県多賀城市の計3公共図書館を運営。当初、資料価値の低い中古本購入や、ジャンルの違う本を一緒に並べるといったことが問題となった。高梁市は市教委の選書点検や、月1回程度のCCCとの意見交換の場を通し運営をチェックする方針」。
「山陽新聞」2017年2月16日付記事「高梁市図書館 もう旧館1年分来館 3万人超え、年間目標上回る勢い」に曰く「岡山県内の公共図書館として初めて民間企業が運営を担う高梁市図書館(同市旭町)の来館者数が、開館8日目で2万3399人となり、旧高梁中央図書館の年間来館者数(2015年度2万3182人)を超えた。開館11日目となる14日には3万人も突破し、目標の年間20万人を大きく上回る勢いを見せている。/藤井勇館長(66)は「従来午後5時だった閉館時間が午後9時まで延び、気軽に利用できる児童書フロアや学習室も人気。駅に直結しているため、市外からの来館も多いようだ」と話している」。
寄贈本の処分決定について高梁市教育委員会からのコメントは新聞に出ているものの、CCCのコメントはまだ出ていないようです。寄贈本の処分決定に至る過程で、図書館や市教委がどのような協議が行ったのか、だれがどのように、どういった理由で決定したのかを、山陽新聞さんにはさらに詳しく報じていただきたいところです。この一件の教訓として今後「蔵書家が図書館に寄贈するのはまったくの無駄骨だ」とならないことを祈るばかりです(すでにそれがずいぶん昔から「現実」だったとしても)。
+++
世の移り変わりに合わせて図書館の機能を拡張しようという議論には一種、根深い難問が含まれているように感じます。
図書館を地域の文化拠点とすることに大義はあっても、その場合「文化」をどう定義するか、図書館の「役割」をどう定義し直すかが問題となります。その議論が単なる「箱物行政」に収斂するものではないことは明らかですし、「文化の諸地層」を保存することと「何となく文化的な空気感」を醸成することは混同すべきではありません。上っ面の装いに終始することは堕落であり、反知性主義の特徴のひとつです。その装いを裏打ちするのは「心地よさ」を求める情念であって、知でも真実でもありません。情念を揺さぶるならばフェイクでも構わないわけです。それが「ポスト・トゥルース」の時代の内実です。文明崩落の光景。そうした危機感を本に携わるあらゆる職種の人々が持てないならば、出版界にもはや未来はないでしょう。
情念は素早いですが、知は遅いのです。この「知の遅効性」にこそ、図書館の存在意義を支えるひとつの鍵があるはずです。近年の図書館は即効性を求められているのでしょうか。確かに出版社にも書店にも「短期回収」が必要ですが、それはビジネスだからです。図書館や教育にビジネスを持ち込むと、必然的に長期的な視野や普遍的な価値観なるものは等閑視されます。すべてが相対化されてしまう。それは悲劇です。絶対性へと至りつくことが不可能だとしても、目指さなければならない。不可能性から目をそらした時に私たちは「落ちぶれた現実主義者」になるのでしょう。それは成熟ではなく、果てしない転落への道です。
果たして「知の遅効性」を出版界はいかにして収益事業化しうるでしょうか。世界のすべてが猛スピードで過去へと追いやられてしまうこんにち、文化的遺産はいかにして保管され、維持されうるでしょうか。激流の中で領土を削られていく中州は水没するしかないのでしょうか。それとも彼岸と地続きになりうるのでしょうか。
+++
白水社版『メルロ=ポンティ哲学者事典』(全3巻+別巻1)刊行開始、ほか
メルロ=ポンティ哲学者事典 第三巻 歴史の発見・実存と弁証法・「外部」の哲学者たち
モーリス・メルロ=ポンティ編著 加賀野井秀一/伊藤泰雄/本郷均/加國尚志監訳
白水社 2017年2月 本体5,400円 A5判上製460頁 ISBN978-4-560-09313-9
帯文より:ヘーゲル、マルクス、ニーチェ、ベルクソン、ハイデガー、サルトル……おもに19~20世紀に活躍した300名超の「セレブな哲学者たち」を収録する第三巻。もれなく哲学がわかる、考える人の座右の「友」。第1回配本、全3巻+別巻1。
目次:
はじめに
本書の構成と執筆者
VI 歴史の発見(モーリス・メルロ=ポンティ)
十八世紀
十九世紀
シェリング(ジュール・ヴュイユマン)
ヘーゲル(エリック・ヴェイユ)
コント(ポール・アルブース=バスティード)
マルクス(ハロルド・ローゼンバーグ)
ニーチェ(カール・レーヴィット)
VII 実存と弁証法(モーリス・メルロ=ポンティ)
十九世紀末の形而上学
一九〇〇年前後の科学批判
ベルクソン(ジル・ドゥルーズ)
ベルクソニスム
ブロンデル(アンリ・デュメリ)
行為の弁証法
クローチェ(ノルベルト・ボッビオ)
アラン(モーリス・サヴァン)
ヘーゲル学派とマルクス主義の再興
レアリスム
ラッセル(アンソニー・クイントン)
論理主義
フッサール(アルフォンス・ド・ヴァーレンス)
シェーラー(アルフレッド・シュッツ)
ハイデガー(アルフォンス・ド・ヴァーレンス)
サルトル(アルフォンス・ド・ヴァーレンス)
現象学の方向
学派に属さない人々
哲学史家
VIII 「外部」の哲学者たち(モーリス・メルロ=ポンティ)
アインシュタインと物理学
ゴールドシュタインと生物学
ソシュールと言語学
モースと人類学
フロイトと精神分析
コフカと心理学
哲学と文学
カール・バルトと神学
索引
訳者略歴
★原書は『Les philosophes célèbres』(Editions d'art Lucien Mazenod, 1956)で、日本語訳ではこれを三分冊に分割し、さらに日本語版オリジナルの別巻(「現代の哲学」/年表/総索引)で補完するとのことです。上記に書き出した目次にはさらに細目があり、たとえば第VI部の「十八世紀」の賞ではヴィーコ、ルソー、コンドルセ、ヴォルネーが取り上げられています(もっともルソーについては第二巻を参照せよ、と記されています)。各細目はメルロ=ポンティのほか、17名が分担執筆しており、そのなかにはバシュラールやギュスドルフ、ダミッシュ、ポンタリスらが含まれています。無記名や上記の丸括弧内の「肖像」の寄稿者を含むと20名以上が第三巻に参加しています。半世紀以上前の古い本ではありますが、もはや古典であり、取り上げられた思想家たちと錚々たる執筆陣の登場に、壮大な星座を仰ぎ見る心地がします。
★次回配本は4月46日発売の第二巻「大いなる合理主義・主観性の発見」で、「デカルト、スピノザ、ライプニッツ、パスカル、ヒューム、ルソー、カント……主に17~18世紀に活躍した哲学者たち100名超を立項解説」し、「スタロバンスキーのモンテーニュ論を収録」とのことです。
★なおMazenod社の「セレブ」シリーズには『政治家列伝』(全6巻、1969~1977年)、『探検家列伝』(1965年)、『女傑列伝』(全2巻、1960~1961年)、『建築家列伝』(全2巻、1958~1959年)、『アルピニスト列伝』(1956年)、『彫刻家列伝』(1954年)、『画家列伝』(全3巻、1948年;1953~1964年)、『作家列伝』(全3巻補巻1、1951~1971年)、『発明家列伝』(1950年)、『児童列伝』(1949年)、『医師列伝』(1947年)、『音楽家列伝』(1946年)など、多数あるようです。
+++
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『頼山陽とその時代(上・下)』中村真一郎著、ちくま学芸文庫、2017年3月、本体1,500円/1,700円、文庫判496頁/656頁、ISBN978-4-480-09778-1
『カント入門講義――超越論的観念論のロジック』冨田恭彦著、ちくま学芸文庫、3017年3月、本体1,200円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-09788-0
『中国のマンガ〈連環画〉の世界』武田雅哉著、平凡社、2017年2月、本体3,500円、A5判上製372頁、ISBN978-4-582-48222-5
『ラカン的思考』宇波彰著、作品社、2017年2月、本体2,400円、46判上製240頁、ISBN978-4-86182-621-4
『追放と抵抗のポリティクス――戦後日本の境界と非正規移民』髙谷幸著、ナカニシヤ出版、2017年2月、本体3,500円、A5判上製272頁、ISBN978-4-7795-1155-4
★ちくま学芸文庫の3月新刊はまもなく発売(8日発売予定)。中村真一郎『頼山陽とその時代』はかつて単行本全一巻(中央公論社、1971年)で刊行され、文庫化(中公文庫、全三巻、1976~1977年)を経て今回再刊されるものです。大幅にルビを増やし、人名索引を一新したとのこと。中公文庫版では解説を篠田一士さんが書かれていましたが、今回の版では揖斐高さんが「『凍泉堂詩話』から『頼山陽とその時代』へ」と題した解説を寄せておられます。編集部の巻末特記によれば揖斐さんは再刊にあたって「誤りの訂正や表記の変更」に協力されています。 頼山陽(らい・さんよう:1780-1832)の主著『日本外史』は岩波文庫(全3巻、1976~1981年)で読むことができます。
★冨田恭彦『カント入門講義』はちくま学芸文庫のための書き下ろし。章立ては以下の通りです。はじめに/第1章 カント略伝/第2章 なぜ「物自体」vs「表象」なのか?/第3章 解かなければならない問題/第4章 コペルニクス的転回/第5章 「独断のまどろみ」から醒めて/第6章 主観的演繹と図式論/第7章 アプリオリな総合判断はいかにして可能か/第8章 魅力と謎/あとがき。『純粋理性批判』に見られるカントの観念論の論理を、可能な限りわかりやすく説き明かすこと(「はじめに」より)が目指されています。なお筑摩書房さんでは石川文康訳で『純粋理性批判』全2巻が単行本で3年前に刊行されていますが、いずれ文庫化される折にはぜひ全1巻本に挑戦していただきたいです。同書はどの文庫でも分冊形式なので、一冊で通読できる文庫の需要はそれなりにあると思うのです。
★筑摩書房さんの3月新刊ではこのほか、森元斎『アナキズム入門』ちくま新書、山室静『北欧の神話』ちくま学芸文庫、ケネス・J・アロー/村上泰亮訳『組織の限界』ちくま学芸文庫、などに注目。後日取り上げる予定です。
★武田雅哉『中国のマンガ〈連環画〉の世界』は発売済。本書は「20世紀の中国で生まれ、発達し、21世紀にさしかかるころにはすでにその隆盛期を終えた、「連環画」と呼ばれる特殊な様式の読み物」(「はじめに」より)を紹介する試みとのことです。「連環画」とは「文字通りには「連続する絵(で構成される本)」といった意味」だそうで、「「マンガ」「漫画」「劇画」「コミック」のたぐいである」ものの「かならすしも、それらとぴったり一致するわけではない」と。中華民国~中華人民共和国建国初期~文化大革命~文革終息後といった時代を経て今日に至る歴史をひもとく、非常に興味深い研究書です。カラー口絵24頁を含め、図版多数。
★宇波彰『ラカン的思考』は発売済。はしがきに曰く、入門書でもラカン思想の粗述でもアカデミックな研究でもない「「まともな」ラカン解釈とは異なった見方」を提示するもので、帯文には「著者畢生のライフワーク」と謳われています。「あなたは存在しない」「心と身体」「かたちが意味を作る」「他者の欲望」「解釈とは何か」「あとから作る」「反復は創造し、破壊する」「像と言語」「コレクション」「フィルター・バブル」の全10章立て。とりわけ異色の第10章「フィルター・バブル」は、「ネットワーク、ソーシャルメディアの急激な発達」(あとがきより)が社会にもたらす変化にラカン的主題を見出したものとのことで、1933年生まれの重鎮の、いまなお立ち止まることのない思考の歩みというものを感じることができるのではないかと思われます。
★なお、まもなくラカンのセミネール第10巻(1962~1963年)である『不安〔L'angoisse〕』の訳書が岩波書店から刊行されます。まずは上巻(小出浩之/鈴木國文/菅原誠一/古橋忠晃訳)が3月9日に発売。うかうかしているといつの間にか品切になってしまうのが通例なので、新刊時に購入するのが一番です。
★髙谷幸『追放と抵抗のポリティクス』はまもなく発売。著者の髙谷幸(たかや・さち:1979-)さんは現在、大阪大学大学院人間科学研究科准教授で、ご専門は社会学、移民研究。本書が単独著第一作となります。序章にはこう書かれています。「本書は、戦後日本における非正規移民の追放と抵抗の「現場」、すなわち移住者の越境、その越境者を線引き、追放しようとする主権権力、そうした権力への抵抗運動によるポリティクスを考察することを目的とする。またそれをとおして、日本の境界が、それぞれの時代においてどのような文脈や論理にもとづいて引かれ、いかなる効果をもたらしてきたのかを明らかにすることをもめざしている」(7~8頁)。「この場に暮らすすべての人びとの空間としての社会を肯定する」(214頁)ことの難しさと向き合うためのアクチュアルな新刊ではないでしょうか。
+++
星野太×高橋明彦トークイベント@金沢・芸宿
星野太さんの『崇高の修辞学』刊行を記念し、以下の通り金沢市内でトークイベントが行われます。
◎星野太(話し手)×高橋明彦(聞き手)「『崇高の修辞学』出版記念トークイベント」
日時:2017年3月17日(金)18:00-20:00
場所:芸宿裏棟2F(石川県金沢市石引1-16-28)
料金:¥1,000(食事付)
問合:080-1456-7471(別府)
※食事の用意もありますので、参加希望の方はリンク先の参加ボタンを押すか、事前にお知らせいただけると助かります。
星野太(ほしの・ふとし):1983年生まれ。美学、表象文化論。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在、金沢美術工芸大学講師。著書に『崇高の修辞学』(月曜社、2017年)、共著に『コンテンポラリー・アート・セオリー』(イオスアートブックス、2013年)、訳書にカンタン・メイヤスー『有限性の後で』(共訳、人文書院、2016年)など。
高橋明彦(たかはし・あきひこ):1964年新潟県生まれ。金沢美術工芸大学教授。東京都立大学大学院博士課程単位修得退学。専門の日本近世文学の研究手法(注釈学、文献学、書誌学など)を用いて楳図かずおも研究する。著書に『楳図かずお論』(青弓社、2015年)。大学では一般教養の文学や論文指導を担当する。好きな哲学者はベルクソンとドゥルーズ。
+++
また、すでに告知済ですが、代官山蔦屋書店での講演会についても再度お知らせします。当日、サイン会を行います。また、ご来場者には特別小冊子(書き下ろし)をプレゼントします。内容は「『崇高の修辞学』本編未収録の覚書」および、人文コンシェルジュNさんとの「一問一答」が収録される予定です。
◎トークイベント:『崇高の修辞学』(月曜社)刊行記念・星野太講演会
当日ご希望の方にサイン会を予定しております。サイン対象本は、当店でご購入いただきました対象書籍のみとさせていただきます。また、今回のイベントご来場のお客様にのみ、限定の書き下ろし特別小冊子をプレゼントする予定です。
日時:2017年03月24日(金) 19:00~
場所:蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
定員:70名
参加条件:代官山 蔦屋書店にて、対象書籍『崇高の修辞学』(月曜社刊/3,888円税込)をご予約・ご購入頂いたお客様。またはオンラインストアにて参加券をご購入のお客様。
お申込み方法:①代官山 蔦屋書店 店頭(1号館1階 レジ)、②オンラインストア(2017年3月22日午前9時まで受注)、③お電話 03-3770-2525(1号館 1階 人文フロア)
対象商品:『崇高の修辞学』(月曜社 3,888円/税込/地方発送も可能)もしくはイベント参加券(1,000円/税込)
注意事項:参加券1枚でお一人様にご参加いただけます。イベント会場はイベント開始の15分前からで入場可能です。当日の座席は、先着順でお座りいただきます。参加券の再発行・キャンセル・払い戻しはお受けできませんのでご了承くださいませ。止むを得ずイベントが中止、内容変更になる場合があります。
+++
『崇高の修辞学』をめぐっては、「Book News|ブックニュース」2017年3月4日付エントリー「「崇高」に惑わされないための丁寧な考察『崇高の修辞学』(星野太著)」にてご丁寧な紹介を賜りました。また、「ユリイカ」誌2017年3月号「特集*草間彌生――わが永遠の魂」の表4に本書を含む弊社新刊広告を出しております。さらに、3月下旬にはいよいよ重版もできあがる予定です。初版本をお買い求めになりたいお客様はお早めに書店店頭在庫よりお求めください。
+++
3月末発売予定新刊:上野俊哉『[増補新版]アーバン・トライバル・スタディーズ』
2017年3月27日取次搬入予定|ジャンル=現代思想・文化研究
[増補新版]アーバン・トライバル・スタディーズ――パーティ、クラブ文化の社会学
上野俊哉著
月曜社 2017年3月 本体3,000円 四六判変型(130mm×190mm) 並製448頁 ISBN978-4-86503-042-6
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
どうして、どのように、人々は集まって踊るようになったのか? 2005年の初版刊行から12年を経て、パーティやクラブなど「都市の部族(アーバン・トライブ)」の集う現場につねに身を置きながら根源的に思考/記述した類書なきエスノグラフィ、待望の増補新版刊行。100頁超の長大な「増補新版への序章 蝕のコスモ・ポリティクス――そしてまた野外で踊る」と次なる書物への誘い「ブックガイド 都市の部族(アーバン・トライブ)について継続して考えるために」を附した決定版。
上野俊哉(うえの・としや):1962年生まれ。和光大学表現学部総合文化学科教授。社会思想史、文化研究、メディア論。近年の主な著書に『思想家の自伝を読む』(平凡社新書、2010年)、『思想の不良たち――1950 年代 もう一つの精神史』(岩波書店、2013年)、『荒野のおおかみ――押井守論』(青弓社、2015年)、『四つのエコロジー――フェリックス・ガタリの思考』(河出書房新社、2016年)など。主な訳書に、ポール・D・ミラー『リズム・サイエンス』(今西玲子との共訳、青土社、2008 年)、イアン・コンドリー『日本のヒップホップ――文化グローバリゼーションの〈現場〉』(監訳、田中東子・山本敦久訳、NTT出版、2009年)、スティーヴン・シャヴィロ『モノたちの宇宙――思弁的実在論とは何か』(河出書房新社、2016年)など。
注目新刊:上野・米虫・近藤編『主体の論理・概念の倫理』以文社
弊社出版物でお世話になっている著者の方の最近のご活躍をご紹介します。
★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』)
2013年度から2015年度までの3年間にわたって「フランス・エピステモロジーの伏流としてのスピノザ」という共同研究の成果をまとめた編著書を上梓されました。巻頭の「スピノザ人物相関図」は力作で、スピノザ(Baruch De Spinoza, 1632-1677)の死後からこんにちにいたるまでの影響関係がコンパクトにまとめられています。書店員さん必見かと。
主体の論理・概念の倫理――二〇世紀フランスのエピステモロジーとスピノザ主義新刊
上野修・米虫正巳・近藤和敬編
以文社 2017年2月 本体4,600円 A5判上製476頁 ISBN978-4-7531-0338-6
目次:
スピノザ人物相関図
序(上野修)
第一部〈概念〉
導入 カヴァイエス、エピステモロジー、スピノザ(近藤和敬)
【コラム】ジャン・カヴァイエス(近藤和敬)
第一章 一つの哲学的生成――ブランシュヴィックからカヴァイエスへ(中村大介)
【コラム】レオン・ブランシュヴィック(中村大介)
第二章 ジャン・カヴァイエス――概念の哲学 その下部構造の諸要素(ウーリヤ・ベニス=シナスール/近藤和敬訳)
第三章 カヴァイエスとスピノザ『エチカ』のあいだに見出しうる一つの関係――カヴァイエスはなぜ『公理的方法と形式主義』の口頭試問でスピノザの加護を求めたのか(近藤和敬)
第四章 ヴュイユマン『代数学の哲学』とスピノザ『エチカ』の幾何学的秩序(原田雅樹)
【コラム】ジュール・ヴュイユマン(原田雅樹)
第二部〈主体〉
導入 エピステモロジーと精神分析――ラカン、ドゥサンティ、スピノザ(上野修)
【コラム】ルイ・アルチュセール(上尾真道)
第一章 構造と主体の問い――『分析手帖』という「出来事」(坂本尚志)
【コラム】ジャック=アラン・ミレール/ジャン=クロード・ミルネール/アラン・バディウ(坂本尚志)
第二章 ラカンの「エピステモロジー」における真理の探究について(上尾真道)
【コラム】ジャック・ラカン(信友建志)
第三章 ラカンにおけるスピノザのプレゼンス(上野修)
第四章 ラカンと数理論理学――フランス現代思想におけるスピノザ受容の一側面として(信友建志)
第五章 概念の哲学・精神分析・生命の哲学の知られざる結節点――ドゥサンティとそのスピノザ主義について(米虫正巳)
【コラム】ジャン=トゥサン・ドゥサンティ(米虫正巳)
第三部〈生〉
導入 生命のエピステモロジーとスピノザ主義(米虫正巳)
第一章 概念の哲学から生命の哲学へ――カンギレムによるスピノザ主義の展開(藤井千佳世)
【コラム】ジョルジュ・カンギレム(藤井千佳世)
第二章 カンギレムとヘーゲル――概念の哲学としての生命の哲学(坂本尚志)
第三章 ドゥルーズにとってのスピノザ――『エチカ』の意味論的解釈をめぐって(朝倉友海)
【コラム】ジル・ドゥルーズ(朝倉友海)
第四章 構成主義としての哲学と内在としての生――ドゥルーズ/スピノザとゲルー/フィヒテ(米虫正巳)
【コラム】マルシアル・ゲルー(米虫正巳)
第四部〈現在〉
第一章 現代英語圏におけるスピノザ読解――分析形而上学を背景にした、スピノザの必然性概念をめぐる側面的考察(木島泰三)
鼎談 総括と展望(上野修・米虫正巳・近藤和敬)
欧語文献
邦語文献
人名索引
+++
注目新刊:森元斎『アナキズム入門』ちくま新書、ほか
アナキズム入門
森元斎著
ちくま新書、2017年3月、本体860円、新書判272頁、ISBN978-4-480-06952-8
帯文より:「森元斎は共が飢えていたらパンをかっぱらってでも食わしてくれる。魂のアナキストだ。アニキ!!」栗原康氏推薦!
カバーソデ紹介文より:国家なんていらない。資本主義も、社会主義や共産主義だって要らない。いまある社会を、ひたすら自由に生きよう――そうしたアナキズムの施行は誰が考え、発展させてきたのか。生みの親プルードンに始まり、奇人バクーニン、聖人クロポトキンといった思想家、そして歩く人ルクリュ、暴れん坊マフノといった活動家の姿を、生き生きとしたアナーキーな文体で、しかし確かな知性で描き出す。気鋭の思想史研究者が、流動する瞬間の思考と、自由と協働の思想をとらえる異色の入門書。
目次:
はじめに
第一章 革命――プルードンの智慧
第二章 蜂起――バクーニンの闘争
第三章 理論――聖人クロポトキン
第四章 地球――歩く人ルクリュ
第五章 戦争――暴れん坊マフノ
おわりに
引用文献
★発売済。デビュー作『具体性の哲学――ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考』(以文社、2015年)が胚胎していたアナキズム思想への枝分かれが、ついに開花へと転じていくさまを感じさせる、鮮烈な一冊が生まれた、というのが第一印象です。文体は盟友である栗原康さんとの共振を感じさせ、短く畳みかけていく音楽性が心地よいです。「本当は、みんなアナキストだ」(13頁)、「反国家を掲げずとも、皆アナキストでしかない。そしてコミュニストでしかない」(14頁)。生きている限りお互い助け合う関係(17頁)、「互酬性なき贈与の関係」(18頁)、それをアナキズム、コミュニズム、アナルコ・コミュニズムの基底に見るところから本書は出発します。「相互扶助を行っていた種こそが常に子孫を残し、?栄していった。虫のほとんどは、群れをなして、何千年も生きているではないか! 人間だって、そうだろう。アナルコ・コミュニズムはいたるところにあるし、それが基盤にある。私たちは虫である、動物である、人間である、自然である。ただ生きている。生そのもののあり方、それがアナルコ・コミュニズムなのではないだろうか」(20頁)。
★本書は目次にある通り、過去の様々なアナキストの活躍を活写するもので、権威権力上司先生からの抑圧に日々うんざりしている人々すべてに「暴れる力」(参照:栗原康『現代暴力論――「あばれる力」を取り戻す』角川新書、2015年)を思い出させてくれます。おそらく「暴れる力」、爆発的な生命力は、本当は誰しもが幼い頃には持ち合わせていた何かではなかったかと思います。「大人しさ」とは対極的なこの力が自分の中にもまだあることを本書は教えてくれる気がします。実に爽快な一書です。ネタバレはやめておきますが、あとがきの最後にある一言も素敵です。アナキスト人類学者であるグレーバーの『負債論――貨幣と暴力の5000年』(酒井隆史監訳、高祖岩三郎・佐々木夏子訳、以文社、2016年11月)がよく売れた書店さんなら、森さんの『アナキズム入門』も必ず売れると思います。ちょうどひと月前、森さんと栗原さんはほかならぬ『負債論』をめぐるトークイベントを某書店さんで行っています。
★なお、森さんが「現在の私たちが読むべき本だと本当に思う」と激賞されているクロポトキンの『相互扶助論』は先月、「〈新装〉増補修訂版」が同時代社から発売されています。大杉栄訳。内田樹さんはこの本に次のような推薦文を寄せておられます「定常経済・相互扶助社会は「夢想」ではなくて、歴史の必然的帰結です。意図的に創り出さなくても、自然にそうなります。この企ての合理性が理解できない人たちは「弱者を支援するために作られた組織」の方が「勝者が総取りする組織」よりも淘汰圧に強いということを知らないのでしょう。――『相互扶助論』をぜひお手に取って頂きたいと思います。クロポトキンは相互扶助する種はそうしない種よりも生き延びる確率が高いという生物学的視点からアナーキズムを基礎づけようとしました。なぜアナーキズムが弾圧されたのか、その理由が読むと分かります。国家による「天上的介入」抜きで市民社会に公正と正義を打ち立てることができるような個人の市民的成熟をアナーキズムは求めました。「公正で雅量ある国家」を建設するより前に、まずその担い手たる「公正で雅量ある市民」を建設しようとしたことに国家は嫉妬したのです」。
+++
★このほか最近では以下の新刊に目が留まりました。
『語録 要録』エピクテトス著、鹿野治助訳、中公クラシックス、2017年3月、本体1,600円、新書判284頁、ISBN978-4-12-160172-8
『不安(上)』ジャック・ラカン著、ジャック=アラン・ミレール編、小出浩之/鈴木國文/菅原誠一/古橋忠晃訳、岩波書店、2017年3月、本体4,900円、A5判上製248頁、ISBN978-4-00-061186-2
『メディアの本分――雑な器のためのコンセプトノート』増田幸弘編、彩流社、2017年3月、本体2,200円、四六判並製280頁、ISBN978-4-7791-7087-4
+++
★エピクテトス『語録 要録』は中公バックス版『世界の名著14 キケロ エピクテトス マルクス・アウレリウス』(1980年)からのスイッチ。同じ訳者による『エピクテートス 人生談義』(上下巻、岩波文庫、1958年)との違いについてですが、底本は共に1916年のトイプナー版ではあるものの(中公クラシックス版には原典情報が記載されていないため親本である『世界の名著』版の巻頭にある鹿野治助さんによる解説「古代ローマの三人の思想家」の末尾にある「後記」を参照)、岩波文庫の方は現存する『語録』全4巻を全訳し、関連する断片と『提要』(『要録』のこと)を訳出したものであり、いっぽう、中公クラシックス版は岩波文庫より10年下った1968年に出版されたハードカバー版『世界の名著13』で実現された改訳版であり、『語録』の抄訳と『要録』の全訳を収めています。この改訳版では『語録』は各章の順番が入れ替えられるなどの工夫が為されています。さらに今回の新書化にあたって、巻頭に國方栄二さんによる解説「エピクテトス――ストイックに生きるために」が新たに加えられています。
★ジャック・ラカン『不安(上)』はラカンのセミネール(講義録)の第10巻の前半です。講義は1962年から63年にかけて行われたもので、書籍としては2004年にスイユから刊行されています。上巻では講義の第11回までを収録。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。リンク先では立ち読み用PDFもあり、上下巻の目次や10頁までの本文が読めます。カバーソデ紹介文に曰く「主体と欠如、欲望とその原因をめぐるトポロジカルな迷宮の果てに、ついに「対象a」をめぐる本格的考察を展開」と。ラカン自身は「不安」という主題を「極めて大きな鉱脈」(3頁)だと評価しており、第1回講義「シニフィアンの網の中の不安」では、サルトルやハイデガーら同時代の哲学者に目配せを送りつつも、実存思想から画然と隔たった「刃の上」(21頁)へと聴講生を導きます。難解な(よそよそしい)『エクリ』に比べると『セミネール』ではいくらか、より親切な(魅惑的な)ラカンに出会えます。むろんそれは単純に分かりやすいことを意味してはいないのですが、分からないなりにも受講している感覚を味わえるのが『セミネール』の魅力ではないかと思います。
★増田幸弘編『メディアの本分』は、版元紹介文に曰く「記者や編集者、カメラマン、デザイナー、コピーライター、映画監督ら25人が考えた現場からのメディア論」であり、帯には「マスコミ希望は必読!」と謳われています。日ごろ弊社もお世話になっている紀伊國屋書店新宿本店仕入課の大矢靖之(おおや・やすゆき:1980-)係長が「器と書店についての試論」と題して寄稿されており、私と同世代の「共和国」代表、下平尾直(しもひらお・なおし:1968-)さんによる「未完のページを埋めるもの」と題した実に軽妙な小説仕立ての一文を読むこともできます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。それぞれの現場からの肉声が胸に沁みます。特に編者の増田幸弘(ますだ・ゆきひろ:1963-)さんによる「幸福な出会いの哲学」の末尾にある、自分が世間に対して感じる「屈服しきれないもの」の根っこが「子どもたちに語り継ぐため」という点にあるのだ、という言葉に強い共感を覚えます。また、増田さんの「編者あとがき」での発言にも同様な思いを抱きました。曰く「いまの時代、「器」、なんでも載せられる「雑な器」が失われた」のではないか、「それが社会の閉塞感につながっているのではないか」(274頁)と書いておられます。「かつて暮らしの回りには、「雑な器」があふれていた。新聞も、雑誌も、本も、音楽も、映画も、テレビも、あらゆるものが「雑な器」であり、社会そのものが「雑な器」だった」(274~275頁)。洗練され、セレクトされたものしか「器」に盛り込むのをゆるさない社会、と。まさに私自身、同様な感覚の中で出版の仕事をしており、その一帰結はおそらく遠からず形にできると思います。
★同じく「編者あとがき」によれば増田さんは先月、『不自由な自由 自由な不自由――チェコとスロヴァキアのグラフィック・デザイン』という新刊を六耀社さんから刊行されており、「本書〔『メディアの本分』〕を編集した同時期、チェコとスロヴァキアのグラフィック・デザイナーたちを取材して回り、表現の自由が著しく制限されていた社会主義時代を浮き彫りにしようとした」と述懐されています。この本は『メディアの本分』と表裏一体のもので、いまの日本や世界を考えるうえで併読されたい、とのことです。
+++
メモ(15)
「NHKニュース」2017年3月12日1時39分付動画記事「TSUTAYA展開の会社 徳間書店を傘下に入れる方針固める」に曰く「関係者によりますと、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブは、子会社のカルチュア・エンタテインメントを通じて、「徳間書店」の議決権のある株式のおよそ96%を取得する方針を固めました。/カルチュア・コンビニエンス・クラブは、すでに子会社を通じて徳間書店の議決権のある株式のおよそ15%を持っていて、さらに保有する株式を議決権付きに転換するなどして、今月中にも徳間書店を傘下に入れることにしています」と。さらに「今回、徳間書店を傘下に入れることで、出版事業を強化し、そのコンテンツやノウハウを書店の店作りや電子書籍の配信などに活用する狙いがあるものと見られ、厳しい経営環境にある出版業界の新たな動きとして注目を集めそうです」とも報じられています。
「ORICON NEWS」3月14日11時9分付記事「CCC、「徳間書店を子会社化」報道にコメント」などが報じているようにCCCは広報より「本日の一部報道に関するお知らせ」として「本日、一部報道機関において、CCCグループのカルチュア・エンタテインメント株式会社が出版社の株式を取得し子会社化するという報道がなされておりますが、当社が発表したものではございません。/今後、開示すべき事実が決定した場合は、お知らせいたします」とコメントを出していますが、以後各紙からも報道が出ている状況です。
関連記事には以下のものがあります。
「産経ニュース」3月14日11時23分付記事「ツタヤ親会社が徳間書店を買収へ 出版やコンテンツ増強、96%出資で子会社化」
「日本経済新聞」3月14日11時29分付記事「CCC、徳間書店を買収へ 数億円追加出資」
「時事通信」3月14日12時54分付記事「TSUTAYA、徳間書店を子会社化=出版事業強化」
「TBSニュース」3月14日14時16分更新動画記事「TSUTAYA運営会社、徳間書店を傘下に」
「日本著者販促センター」のウェブサイトに転載されている「新文化」紙発表による、「丸善ジュンク堂書店 2016年 出版社別 売上げ ベスト 300」では、徳間書店は40位(前年度31位)で、同紙発表の、「2016年 紀伊國屋書店 出版社別 売上ベスト300社」では34位(前年度30位)で、下降気味とはいえ、ベスト50位以内に入る大出版社です。以前当ブログでも確認した通り、CCCの傘下版元にはCCCメディアハウスや美術出版社、ネコ・パブリッシング、復刊ドットコム、光村推古書院などがあり、今後もますます増えていくのかもしれませんし、書店、取次、版元、IT企業、印刷会社、等々を巻き込んだ、上位企業をターゲットにした業界再編が進むのかもしれません。
+++
「図書新聞」にカッチャーリ『抑止する力』の書評
弊社12月刊、マッシモ・カッチャーリ『抑止する力』(上村忠男訳)について、「図書新聞」2017年3月18日号に書評「オレンジとバカにされている偉そうなジジイのアポカリプスとともに、アメリカのいたるところは主の到来を待ち望む人たちによって埋め尽くされようとしている」が掲載されました。評者は篠原雅武さんです。本書の難解な部分を丁寧に解きほぐし、「カッチャーリの本は反時代的に見えて、未来を予見する本として読むことができる」と評していただきました。本書とアメリカの情勢を合わせて読み解くという非常にアクチュアルな書評を寄せて下さった篠原さんに深く御礼申し上げます。
ちなみにオレンジというのは、米国の現大統領の一風変わった日焼け顔を揶揄して言う表現として知られているようです。興味深いですね。
4月下旬発売予定新刊:『表象11:ポスト精神分析的主体の表象』
2017年4月18日取次搬入予定 *人文・思想
表象11:ポスト精神分析的主体の表象
表象文化論学会=編【表象文化論学会=発行、月曜社=発売】
本体予価2,000円 A5判並製312頁 ISBN978-4-86503-045-7
アマゾン・ジャパンにて予約受付中
人工知能の爆発的発展、ビッグデータによる管理の遍在化、アルゴリズムを介した行動予測──人間が「内面」や「無意識」といった深みなしに捉え返されつつあるいま、「自己」や「心」はどこにあるのか? それはいかなる「主体」なのだろうか? 本特集では、ラカンの精神分析(ミレール派)と認知科学の自然主義との交錯、自閉症の前景化といった現象に着目しながら「ポスト精神分析的主体」の光景をめぐって討議する。特別掲載として、シェイクスピアのソネットを翻訳したツェランについてのペーター・ソンディの未邦訳批評を紹介。
目次:
◆巻頭言「表象からのこの不気味な撤退は何を意味しているのだろう?」佐藤良明
◆特集「ポスト精神分析的主体の表象」
共同討議「精神分析的人間の後で──脚立的超越性とイディオたちの革命」千葉雅也+松本卓也+小泉義之+柵瀨宏平
「因果的決定論から悲劇的行為へ──精神分析的主体をめぐって」柵瀨宏平
「個の認知から相互行為的認知へ──行為のマイクロ分析から」細馬宏通
「自己・再帰性・異種混交性──手帳術本の再分析を中心に」牧野智和
「無意識と語る身体」ジャック゠アラン・ミレール|山﨑雅広+松山航平訳
「ただひとつの生──生物学的抵抗、政治的抵抗」カトリーヌ・マラブー|星野太訳
◆特別掲載「シェイクスピア没後400年」
「Poetry of Constancy/変わらなさの詩法──シェイクスピアのソネット105番のツェランによる翻訳について」ペーター・ソンディ|清水一浩訳
◆論文
「合生的形象──ピカソ他《ラ・ガループの海水浴場》における物体的思考プロセス」平倉圭
「理性の使用価値──ジョルジュ・バタイユのサド論について」井岡詩子
「保存修復とX線の「暴力性」──キャサリン・ジルジュ《スザンナと長老達:修復後》(1998)をてがかりに」田口かおり
「モデルに倣う──ファッションにおけるパターンの出現」平芳裕子
「二重記述へのステップ──デヴィッド・ダンの《樹の中の光の音》における科学的視座の役割」岡崎峻
「映像化される『雁』の世界──戦後日本映画における女性表象の生成過程をめぐって」北村匡平
◆書評
「貧しさについて――池野絢子『アルテ・ポーヴェラ』書評」松浦寿夫
「〈絶滅の文化〉としての演劇、その未来のために――内野儀『「J演劇」の場所』書評」小澤英実
「身体で読む身体の喜悦――沖本幸子『乱舞の中世』書評」武藤大祐
「古典的ハリウッド映画の継承/異化――小野智恵『ロバート・アルトマン 即興性のパラドクス』書評」山本祐輝
「苛烈な闘争の記録――木下千花『溝口健二論』書評」蓮實重彦
「〈原子力〉に対して哲学は何をなしうるか――佐藤嘉幸・田口卓臣『脱原発の哲学』書評」渡名喜庸哲
「「不実なる忠実さ」の系譜――竹峰義和『〈救済〉のメーディウム』書評」海老根剛
「「ポスト真実」時代のアートヒストリー――田中純『過去に触れる』書評」高山宏
「「過剰」の効用――長木誠司『オペラの二〇世紀』書評」広瀬大介
「ポピュラー音楽とメディエーション:グローバル化したアメリカ音楽と日本(そして韓国)――東谷護『マス・メディア時代のポピュラー音楽を読み解く』書評」佐藤守弘
「ロシア現代思想というブルーオーシャン――乗松亨平『ロシアあるいは対立の亡霊』書評」東浩紀
「〈無国籍者〉の映画論――御園生涼子『映画の声』書評」中村秀之
+++
続報:星野太トークイベント@代官山蔦屋
なお、イベントへのご来場者様には当日、書き下ろし特別小冊子をプレゼントします。『崇高の修辞学』本編未収録の覚書「超越論的な修辞学」および、人文コンシェルジュ宮台由美子さんとの一問一答「星野太さんに聞く」が収録されています。表紙別で2段組全12頁、読み応えがあります。限定ナンバリング付で、ご来場順に若い番号からお渡しすることになると思われます。
さらにこの星野さんのイベント当日には、蔦屋さんの次回の催事(國分功一郎×大澤真幸トークショー「中動態と自由――『中動態の世界』(医学書院)刊行記念」2017年05月10日(水) 代官山蔦屋書店1号館2階イベントスペース)の予告として、國分さんの新刊『中動態の世界』がイベント会場にて部数限定で都内初売となると聞いています。この対談イベントにはすでに多数の参加予約があり、残席が少なくなってきた、とも耳にしました。星野さんのイベントにご予約済のお客様で、國分×大澤対談へのご予約(イベント参加権付の書籍は税込2,500円、イベントのみの参加券は1,000円)をご希望される方は、お早目に代官山蔦屋書店人文フロア(電話03-3770-2525)までご一報いただいた方がいいかもしれません。
+++
なお『崇高の修辞学』は現在アマゾン・ジャパンでもついに品切になってしまいましたが、いずれ重版分が在庫として入荷予定です。お待たせして申し訳ございません。
+++
ブックフェア「美と崇高の表象文化論」@東大生協駒場
◎『崇高の修辞学』刊行記念ブックフェア「美と崇高の表象文化論」
期間:2017年3月21日~4月26日(終了予定)
場所:東京大学消費生活協同組合駒場書籍部(コミュニケーションプラザ北館1階)
内容:東大UTCP出身の新星・星野太氏の『崇高の修辞学』(月曜社)刊行を記念し、ブックフェア「美と崇高の表象文化論」を開催します。星野氏の選書リストに加えて、関連書籍を集めました。美学・表象文化論・現代思想にまたがる氏の思想圏を自薦コメントと共にご紹介します。みなさまのご来店をお待ちしております。
※月曜社より・・・長期品切本だった『表象04:パフォーマンスの多様体──エンボディメントの思想/ドゥルーズの逆説的保守主義』と『表象08:ポストメディウム映像のゆくえ/ドゥルーズの時代』を特別出品しています。「表象」誌のドゥルーズ特集はこの2号のみ。4号では共同討議「ドゥルーズの逆説的保守主義」(國分功一郎+佐藤嘉幸+千葉雅也)。8号では共同討議「『ドゥルーズの哲学原理』と『動きすぎてはいけない』」(國分功一郎+千葉雅也+堀千晶+佐藤嘉幸)などを収録。その他目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。どうぞお早目に。
注目新刊:櫂歌書房版『プラトーン著作集』、ほか
『人生の短さについて 他2篇』セネカ著、中澤務訳、光文社古典新訳文庫、2017年3月、本体900円
『デカメロン 上』ボッカッチョ著、平川祐弘訳、河出文庫、2017年3月、本体1,000円
『北欧の神話』山室静著、ちくま学芸文庫、2017年3月、1,000円
『組織の限界』ケネス・J・アロー著、村上泰亮訳、ちくま学芸文庫、2017年3月、本体1,000円
『重力と恩寵』シモーヌ・ヴェイユ著、冨原眞弓訳、岩波文庫、2017年3月、本体1,130円
『口訳万葉集(上)』折口信夫著、岩波現代文庫、2017年3月、本体1,400円
『『老子』――その思想を読み尽くす』池田知久訳注、講談社学術文庫、2017年3月、本体2,200円
『新版 雨月物語 全訳注』上田秋成著、青木正次訳注、講談社学術文庫、2017年3月、本体1,650円
『アルキビアデス クレイトポン』プラトン著、三嶋輝夫訳、講談社学術文庫、2017年3月、本体820円
『プラトーン著作集 第六巻 善・快楽・魂 第一分冊 第一アルキビアデース/ヒッパルコス/第二アルキビアデース』水崎博明訳、櫂歌全書16/櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年2月、本体2,800円
『プラトーン著作集 第六巻 善・快楽・魂 第二分冊 プロータゴラース』水崎博明訳、櫂歌全書17/櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年2月、本体2,200円
『プラトーン著作集 第六巻 善・快楽・魂 第三分冊 ピレーボス』水崎博明訳、櫂歌全書18/櫂歌書房、星雲社発売、2017年2月、本体2,800円
『プラトーン著作集 第七巻 自然哲学 ティーマイオス/クリティアース』水崎博明訳、櫂歌全書19/櫂歌書房、星雲社発売、2017年2月、本体3,000円
『復刻版 きけ小人物よ!』ウィルヘルム・ライヒ著、片桐ユズル訳、赤瀬川源平挿画、新評論、2017年2月、本体2,000円
★まずは文庫新刊から。光文社古典新訳文庫のセネカ『人生の短さについて 他2篇』は表題作のほか、「母ヘルウィアへのなぐさめ」と「心の安定について」を収録。岩波文庫版では樋口勝彦訳(『幸福なる生活について 他一篇』1954年;「人生の短さについて」を併載)、茂手木元蔵訳(『人生の短さについて 他二篇』1980年;「心の平静について」「幸福な人生について」を併載)、大西英文訳(『生の短さについて 他二篇』2010年;「心の平静について」「幸福な人生について」を併載)という風に長く読み継がれてきた名著です。「母ヘルウィアへのなぐさめ」は文庫では初訳(単行本としては大西英文訳が岩波書店版『セネカ哲学全集(2)倫理論集Ⅱ』2006年に、茂手木元蔵訳が東海大学出版会〔現・東海大学出版部〕『セネカ道徳論集』1989年に収録)。皇帝ネロの教育係を務め、自死を命じられた哲人の言葉は二千年の時を超えて今なお読む者の胸に刺さります。ローマ帝国の爛熟期と現代社会がどこか似ているからでしょうか。
★次に河出文庫。平川訳『デカメロン』は親本が2012年刊。全3巻で文庫化。文庫での同作の既訳には、柏熊達生訳(既刊2巻、世界古典文庫、1948~49年;全10巻、新潮文庫、1954~56年;全3巻、ちくま文庫、1987~88年)、野上素一訳(全6巻、岩波文庫、1949~59年)、高橋久訳(全5巻、新潮文庫、1965~66年)、河島英昭訳(上下巻、講談社文芸文庫、1999年)などがありますが、現在も新本で入手可能なのは河島訳のみ。平川訳には長編の訳者解説が付されていて、上巻では第一章「西洋文学史上の『デカメロン』」、第二章「新訳にあたって」を収録。中巻は4月6日発売予定。
★次にちくま学芸文庫。山室静『北欧の神話』は筑摩書房版「世界の神話」シリーズで刊行された単行本(1982年)の文庫化。訳書ではなく、解説を交えた再説本。ですます調が柔らかく、若年の読者層にも訴求するのではないかと思います。アロー『組織の限界』は岩波書店の単行本(初版、1976年;岩波モダンシラシックス、1999年)からのスイッチ。文庫版オリジナルの巻末解説は慶応大学経済学部教授の坂井豊貴さん。「読者は本書『組織の限界』から、情報という厄介なもの、そして信頼という貴重な資産について、考えさせられることになるだろう」(162頁)という結語に至る前半部の論説がユニーク。
★続いて岩波文庫および岩波現代文庫。『重力と恩寵』は『自由と社会的抑圧』(2005年)、『根をもつこと』(上下巻、2010年)に続く、冨原眞弓さん訳による岩波文庫のヴェイユ新訳本。文庫の既訳には田辺保訳(講談社文庫、1974年;ちくま学芸文庫、1995年)があります。『口訳万葉集』は全三巻予定の上巻。解説「最高に純粋だった」は文芸評論家の持田叙子さんによるもの。中公文庫版「折口信夫全集」では第4巻と5巻の上下巻でした(1975~76年)。
★最後に講談社学術文庫。池田知久訳注『『老子』』は『淮南子』『荘子』に続く、同文庫での池田さんによる懇切な訳注本。『老子』の「諸思想を総合的・体系的に解明し、一般読者にその諸思想のありのままの内容を分かりやすい形で提供しよう」(凡例より)というもので、巻末には原文・読み下し、現代語訳がまとめられています。同文庫では、金谷治さんによる訳解本である『老子』が1997年に刊行されていますが、それを残しつつ新刊も出すという講談社さんの姿勢は好ましいですし正しいです。青木正次訳注『新版 雨月物語 全訳注』は同文庫の同氏による訳注本上下巻(1981年)を再構成し、一巻本としたもの、とのことです。原文(原文が漢文の場合は読み下し付き)、現代語訳、語文注、考釈という構成。プラトン『アルキビアデス クレイトポン』三嶋輝夫訳は文庫オリジナルの新訳。訳者の三嶋さんは同文庫ではプラトンの『ラケス』を1997年に、『ソクラテスの弁明・クリトン』を1998年に上梓されています。「アルキビアデス」の副題は「人間の本性について」、「クレイトポン」は「徳の勧め」です。
★続いて単行本新刊。水崎博明訳『プラトーン著作集』(全10巻27冊予定)は、福岡の出版社「櫂歌書房(とうかしょぼう)」さんより刊行中の個人全訳。第六巻第一分冊に収められたのは「第一アルキビアデース――人間の本性について」「ピッパルコス――利得の愛好者」「第二アルキビアデース――祈願について」。短期間に先述の三嶋訳とこの水崎訳の二つの新訳が上梓されたわけで、驚くべき成果です。櫂歌書房は星雲社扱いで、基本的にパターン配本はないでしょうから、大型書店でも限られた店舗でしか見かけないかもしれませんが、取り寄せは比較的に容易ですから、買い逃す手はありません(ネット書店の場合、アマゾンよりもhontoの方が便利です)。ここまで既刊15巻が上梓されていますが、2月付で4点を発行。2011年2月の第1回配本以降、27冊中19巻までたどり着いたことになります。最新巻である第七巻は「自然哲学」部門であり、「ティーマイオス」と「クリティアース」が一冊にまとめられています。次回配本は順番通りであれば第八巻「人間存在の在るところ」部門となり、三分冊の「国家」に「クレイトポーン」が含まれることになります。全巻共通の感動的な「序」の冒頭には、水崎さんの恩師の言葉が刻まれています。「しかし、プラトンは、僕は思うが、未だ誰一人にも読まれてはいないのだ」。
★ライヒ『復刻版 きけ小人物よ!』片桐ユズル訳は、太平出版社版『W・ライヒ著作集』第4巻(1970年)の復刻。旧版は刊行10年余の間に10刷を数えるロングセラーでした。復刻にあたり、巻頭には訳者による「復刻に寄せて――訳者巻頭言」が新たに付されています。赤瀬川源平さんによる挿画本であることを知っているのは中年以上の世代でしょうから、若い読者には新たな出会いとなることと思います。しかし、本書が素晴らしいのは赤瀬川さんの超現実主義的な挿画による以上にその内容です。「小人物よ、あなたがどんなであるかあなたは知りたいでしょう。あなたはラジオで便秘薬や歯みがきやデオドラントの広告を聞く。しかしあなたにはプロパガンダの音楽は聞こえない。あなたの耳をとらえようとしてつくられているこれらのものの吐き気のするような悪趣味と底知れぬおろかしさをあなたはわからないでいる。ナイトクラブの司会者たちがあなたについてしゃべっている冗談をちゃんときいたことがありますか? あなたについて、かれ自身について、あなたのみじめなちっぽけな世界のすべてについての冗談。あなたの便秘薬の広告をきいてあなたがどんなふうな、どんな人間であるかを知りなさい」(53頁;旧版では59頁;おそらくこの言葉に読者の方が見覚えがあるとしたらそれは、キィの名著『メディア・セックス』の引用だからかもしれません)。実を言えば私はこの著作をドイツ語原書からの新訳で再刊したいと念願してきましたが、今まで果たせずにきました。片桐訳は英訳からの重訳ではあるものの、充分に読み応えがある名訳です。ちなみに太平出版社のライヒ著作集は全10巻のうち半分まで刊行されて途絶しましたが、未刊の半分はすべて他社から翻訳が出ているので、既訳を利用すれば全10巻を再現できます。今こそライヒを再評価すべき時です。
+++
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『無名鬼の妻』山口弘子著、作品社、2017年3月、本体1,600円、46判上製468頁、ISBN978-4-86182-624-5
『触れることのモダニティ――ロレンス、スティグリッツ、ベンヤミン、メルロ=ポンティ』高村峰生著、以文社、2017年2月、本体3,200円、菊判上製314頁、ISBN978-4-7531-0339-3
『ドゥルーズと多様体の哲学――二〇世紀のエピステモロジーにむけて』渡辺洋平著、人文書院、2017年2月、本体4,600円、4-6判上製370頁、ISBN978-4-409-03093-6
『ラカン 真理のパトス――一九六〇年代フランス思想と精神分析』上尾真道著、人文書院、2017年3月、本体4,500円、4-6判上製344頁、ISBN978-4-409-34050-9
『フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データ』日野行介/尾松亮著、人文書院、2017年2月、本体1,800円、4-6判並製208頁、ISBN978-4-409-24115-8
『日本人のシンガポール体験――幕末明治から日本占領下・戦後まで』西原大輔著、人文書院、2017年3月、本体3,800円、4-6判上製312頁、ISBN978-4-409-51074-2
『近代皇族妃のファッション』青木淳子著、中央公論新社、2017年3月、本体4,000円、A5判上製416頁、ISBN978-4-12-004957-6
『ユネスコ番外地 台湾世界遺産級案内』平野久美子編著、中央公論新社、2017年3月、本体1,400円、A5判並製128頁、ISBN978-4-12-004959-0
『西洋美術の歴史7 19世紀:近代美術の誕生、ロマン派から印象派へ』尾関幸/陳岡めぐみ/三浦篤著、中央公論新社、2017年2月、本体3,800円、B6判上製600頁、ISBN978-4-12-403597-1
★まず作品社さんの新刊。山口弘子『無名鬼の妻』は帯文に曰く「悲劇の文人・村上一郎との波瀾の半生。海軍主計中尉との出会いから、その壮絶な自死まで。短歌と刀を愛した孤高の文人・村上一郎の悲運に寄り添い支え続けた妻、93歳の晩晴!」と。「戦後、ジャーナリスト、編集者として活躍し、思想家であり、文芸評論家で、小説も書き、日本の古典と詩歌をこよなく愛した歌人でもあった」(「プロローグ」より)村上一郎(1920-1975)さんの伴侶だった人形作家、長谷えみ子さんの半生を取材した本です。無名鬼とは村上さんが創刊した文芸誌の名前。貴重な証言から成る無類の一冊です。
★次に以文社さんの新刊。高村峰生『触れることのモダニティ』は、イリノイ大学大学院へ2011年に提出された英文の博士論文『Tactility and Modernity』を日本語に直し、大幅な改稿と増補を施したもの。序論「触覚とモダニズム」、第一章「後期D・H・ロレンスにおける触覚の意義」、第二章「スティーグリッツ・サークルにおける機械、接触、生命」、第三章「ヴァルター・ベンヤミンにおける触覚の批判的射程」、第四章「触覚的な時間と空間――モーリス・メルロ=ポンティのキアスム」、結論、あとがき、という構成。結論の末尾近くで著者はこう記しています。「本稿が検討したモダニストたちの多くは〔・・・〕接触〔contact〕のエピファニー的な性質に言及していた。彼らは触覚=接触が西洋の伝統的な時間・空間概念、ならびに主体と世界との静的な関係に挑戦すると考えたのだ」(244頁)。
★続いて人文書院さんの新刊。渡辺洋平『ドゥルーズと多様体の哲学』は博士論文を増補改訂したもの。多様体(multiplicité)とはドゥルーズにおいて「特殊な個体化のあり方をとらえるために考案された概念であり、ひとつの固定した人格や性格、性別、あるいは種や類、主体と言った概念とは全く異なる思考法のために創造された概念である」(222頁)と著者は解説します。生成変化や此性、固有名もそこに連なります上尾真道『ラカン 真理のパトス』は21日(火)取次搬入でまもなく発売。ラカンの1960年代の仕事の解明を目指したもので、2011年から2016年にかけて発表してきた成果に書き下ろし(第七章「科学の時代の享楽する身体」)を加えた一書。著者の単独著第一作です。日野行介/尾松亮『フクシマ6年後 消されゆく被害』は、福島における小児甲状腺がんの多発と原発事故の因果関係をなんとか誤魔化そうとする国、県、医師たちの卑劣さを追及した痛烈な本。「情報がいびつにシャットダウンされた社会で、民主主義はありうるのだろうか」(199頁)という言葉が胸に刺さります。西原大輔『日本人のシンガポール体験』は巻頭の「はじめに」によれば、「主に幕末から戦後に至る百年あまりの間に、日本人が旅行記に記録し、絵画に描き、文学の舞台とし、音楽や映画の題材としたシンガポールのイメージを論じたもの」で、「日本人の眼に映ったシンガポールの姿を日本文化史の中に探り、その全体像を描こうと試みた」もの。元は日本シンガポール協会の機関誌に2000年から2011年まで連載された文章とのことです。
★最後に中央公論新社さんの新刊です。青木淳子『近代皇族妃のファッション』は博士論文をもとに書籍化。「日本人の洋装化、生活文化の近代化をリードした皇族妃たち」(帯文より)を研究したもので、梨本宮伊都子妃と朝香宮允子妃の例が詳細に検討されています。カラーを含む図版多数。著者は婦人画報社の編集者を務めたご経験もおありです。細野綾子さんによる組版と装丁が美しいです。『ユネスコ番外地 台湾世界遺産級案内』は書名の「級」の字がミソ。「台湾には世界遺産が一つもない」(帯文より)ながら、素晴らしい自然と文化に恵まれており、本書ではオールカラーで18の名所が紹介されています。『西洋美術の歴史』第7巻は第5回配本。「今ここにあるものこそ美しい。革新と多様性の世紀」(帯文より)と謳う本書では19世紀が扱われ、「多様なベクトルが作用して、坩堝のような混沌」(序章、39頁より)が描出されています。
◎『西洋美術の歴史』既刊書と次回配本(すべて本体価格は3,800円)
2016年10月:第4巻「ルネサンスⅠ:百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現」小佐野重利/京谷啓徳/水野千依著、ISBN978-4-12-403594-0
2016年11月:第6巻「17~18世紀:バロックからロココへ、華麗なる展開」大野芳材/中村俊春/宮下規久朗/望月典子著、ISBN978-4-12-403596-4
2016年12月:第2巻「中世Ⅰ:キリスト教美術の誕生とビザンティン世界」加藤磨珠枝/益田朋幸著、ISBN978-4-12-403592-6
2017年01月:第1巻「古代:ギリシアとローマ、美の曙光」芳賀京子/芳賀満著
2017年02月:第7巻「19世紀:近代美術の誕生、ロマン派から印象派へ」尾関幸/陳岡めぐみ/三浦篤著、ISBN978-4-12-403593-3
2017年03月:第3巻「中世Ⅱ:ロマネスクとゴシックの宇宙」木俣元一/小池寿子著、ISBN978-4-12-403593-3
+++
予約満席御礼:星野太トークイベント@代官山蔦屋書店
明日3月24日(金)19時より代官山蔦屋書店1号館2階イベントスペースにて行われる星野太さんのトークイベント「『崇高の修辞学』――その構造と生成(仮)」はお蔭様で昨夕、予約満席となりました。多数のお申込みまことにありがとうございます。
ご予約済みでご来場いただいた方には、
1)ナンバリング付き限定小冊子
2)イベント用A3判レジュメ
をお渡しするほか、ご来場者優遇として都内ではいち早く、國分功一郎さんの新刊『中動態の世界』(医学書院)をお買い求めになることができます。
また、トークイベントでは、質疑応答とサイン会の時間もございますので、どうぞこの機会に星野さんと触れ合っていただけたら幸いです。
+++
取次搬入日確定:上野俊哉『[増補新版]アーバン・トライバル・スタディーズ』
弊社新刊、上野俊哉『[増補新版]アーバン・トライバル・スタディーズ』の取次搬入日が確定しましたので書店様にご報告申し上げます。日販および大阪屋栗田は3月28日(火)、トーハンは3月30日(木)です。年度末につき、取次さんも大忙しのご様子です。読者の皆様へ。書店さんでの店頭発売開始は全国の大型書店さんを中心に30日以降順次となろうかと思われます。
+++
注目新刊:國分功一郎『中動態の世界』医学書院、ほか
中動態の世界――意志と責任の考古学
國分功一郎著
医学書院 2017年3月 A5判並製336頁 ISBN978-4-260-03157-8
帯文より:「しゃべっている言葉が違うのよね」。ある依存症当事者がふと漏らした言葉から、「する」と「される」の外側への旅がはじまった。若き哲学者は、バンヴェニスト、アレントに学び、デリダ、ハイデッガー、ドゥルーズを訪ね直し、細江逸記を発見し、アガンベンに教えられ、そして新たなスピノザと出会う。 失われた「態」を求めて。
目次:
プロローグ――ある対話
第1章 能動と受動をめぐる諸問題
第2章 中動態という古名
第3章 中動態の意味論
第4章 言語と思考
第5章 意志と選択
第6章 言語の歴史
第7章 中動態、放下、出来事――ハイデッガー、ドゥルーズ
第8章 中動態と自由の哲学――スピノザ
第9章 ビリーたちの物語
註
あとがき
★「シリーズ ケアをひらく」の最新刊。知の考古学者としての國分さんの才気がもっとも生きいきと示された本です。ごく図式的に言えば、國分さんのこれまでの著作には『暇と退屈の倫理学』や『ドゥルーズの哲学原理』のような哲学的著作と、『近代政治哲学』や『民主主義を直感するために』のような政治的著作があったわけですが、この二つの分岐が、文法や言葉をめぐる史的探究としての『中動態の世界』へとついに合流した、という印象があります。この流れは國分さんを、デビュー作『スピノザの方法』と同様に、再びスピノザの精読へと促す還流でもあったかもしれません(第8章)。さらに本書では、その円環は自由論として兆す問いの地平へと思考を発出し始めているように思えました。
★同書の刊行を記念して、以下のトークイベントが行われる予定です。定員40名のところ、告知開始初日である昨日25日(土)の夜ですでに20名まで予約が入ったそうなので、参加ご希望の方はお早めにご予約下さい。【3月27日18時現在予約満席となりました。まことにありがとうございました。】
◎國分功一郎×星野太「中動態と/の哲学」【満席御礼】
日時:2017年04月29日(土)19:30開演(19時開場)
場所:ジュンク堂書店池袋本店4F喫茶コーナー
料金:1000円(1ドリンク付、当日4F喫茶受付にて精算)
予約:ジュンク堂書店池袋本店1Fサービスコーナーもしくは電話03-5956-6111
内容:このたび國分功一郎さんが出版された『中動態の世界』(医学書院)は「中動態」という失われた文法を追い求めながら、人間の存在そのものを問い直そうとする野心作です。対話相手の星野太さんは上梓したばかりの初の単著『崇高の修辞学』(月曜社)の中で、「言葉と崇高」という言語一般を問い直す問題に挑んでいます。哲学と言語という古くて新しい論点を巡る対話。いま最も思弁的であり、最も思弁的であるが故にアクチュアルな二冊の本の著者がジュンク堂に集います!
+++
★國分さんの新刊『中動態の世界』の発売前後には次のような新刊も発売されています。いずれも書名のリンク先に書誌情報や目次詳細がありますので、ご参照ください。
『デカルト 医学論集』ルネ・デカルト著、山田弘明/安西なつめ/澤井直/坂井建雄/香川知晶/竹田扇訳、アニー・ビトボル=エスペリエス序、法政大学出版局、2017年3月、本体4,800円、A5判上製326頁、ISBN978-4-588-15082-1
『グリム兄弟言語論集――言葉の泉』ヤーコプ・グリム/ヴィルヘルム・グリム著、千石喬/高田博行編、千石喬/木村直司/福本義憲/岩井方男/重藤実/岡本順治/高田博行/荻野蔵平/佐藤恵訳、ひつじ書房、2017年2月、本体12,000円、A5判上製398頁、ISBN978-4-89476-850-5
『二人称的観点の倫理学――道徳・尊敬・責任』スティーヴン・ダーウォル著、寺田俊郎監訳、会澤久仁子訳、法政大学出版局、2017年3月、本体4,600円、四六判上製462頁、ISBN978-4-588-01052-1
『新版アリストテレス全集(18)弁論術/詩学』堀尾耕一/野津悌/朴一功訳、岩波書店、2017年3月、本体7,600円、A5判上製函入500頁、ISBN978-4-00-092788-8
★デカルトについては知泉書館版『全書簡集』全8巻が昨春完結しており、今回『医学論集』が成ったわけですが、この『医学論集』のあとがきによれば、続刊として、法政大学出版局では『デカルト 数学・自然学論集』が、知泉書館からは『ユトレヒト紛争書簡集』が予定されており、「これでデカルト研究の典拠とされるいわゆるアダン・タヌリ版全集全11巻のほとんどすべてが日本語で読めることになる」とのことです。
★グリム兄弟については童話以外の訳書を本屋さんで探すのがなかなか難しいのが現状なので、ご参考までに下記にまとめておきます。
『ドイツ・ロマン派全集(15)グリム兄弟』小沢俊夫/谷口幸男/寺岡寿子/原研二/堅田剛訳、国書刊行会、1989年(品切)
『グリム兄弟往復書簡集――ヤーコプとヴィルヘルムの青年時代』全5巻、山田好司訳、本の風景社、2002~2007年(第1巻のみ書名は『グリム兄弟自伝・往復書簡集』。ブッキング〔現・復刊ドットコム〕よりPOD版として刊行されていたものの現在は入手できない様子。なお訳者の山田さんは同じく本の風景社より2010~11年に『わが生涯の回想――グリム兄弟の弟ルートヴィヒ・エーミール・グリム自伝』上下巻を上梓されており、こちらは入手可能なようです。)
『ヤーコプ・グリム 郷土愛について――埋もれた法の探訪者の生涯』稲福日出夫編訳、編集工房東洋企画、2006年
『グリム兄弟 メルヘン論集』高木昌史/高木万里子訳、法政大学出版局、2008年
★ダーウォル(Stephen Darwall, 1946-)は現在、イェール大学アンドリュー・ダウニー・オリック教授であり、ミシガン大学ジョン・デューイ卓越名誉教授。初訳となる本書は、『The Second-Person Standpoint: Morality, Respect, and Accountability』(Harvard University Press, 2006)の第一部、第二部、第四部を訳出したもの。監訳者解説によれば「原著は全四部・十二章からなるが、その第三部にあたる第七章「二人称の心理学」および第八章「間奏――正義をめぐるリードとヒューム」を、原著者と相談のうえ、割愛した」と。補助的な章であることを考慮し大部な訳書になることを避けたとのことです。
★『新版アリストテレス全集(18)弁論術/詩学』は予定より約5か月遅れの第15回配本。「弁論術」堀尾耕一訳、「アレクサンドロス宛の弁論術」野津悌訳、「詩学」朴一功訳、を収録。付属の「月報15」は新版全集の編集委員のお一人で昨秋逝去された神崎繁さんへの。中畑正志さんによる「惜別の辞」が掲載されています。「神崎さんが執筆する予定だった『政治学』の解説はどのようなものとなったのだろうか、と想像して、それが読めないことが残念でなりません」とお書きになっておられます。同月報の「編集部より」によれば第17巻「政治学」は内山勝利訳・解説から、神崎繁/相沢康隆/瀬口昌久訳、内田勝利解説となるそうです。同月報では、第16巻「大道徳学/エウデモス倫理学」、第8~9巻「動物誌」の正誤表も記載されています。次回配本は7月末刊行予定、第4巻「自然学」とのことです。
+++
★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。
『遊戯の起源――遊びと遊戯具はどのようにして生まれたか』増川宏一著、平凡社、2017年3月、本体3,600円、4-6判上製306頁、ISBN978-4-582-46821-2
『〈増補新版〉文化的再生産の社会学――ブルデュー理論からの展開』宮島喬著、藤原書店、2017年3月、本体4,200円、A5判上製368頁、ISBN978-4-86578-118-2
★増川宏一『遊戯の起源』は帯文に曰く「社会性の形成とともに生まれた人間の遊びの起源と変化、遊戯具に秘められた多彩な知恵と活動のあとを読み解く」もの。図版多数。目次を列記すると、はじめに、序章「ヒトは賢い」、第一章「遊びへの準備」、第二章「身体能力の競い」、第三章「道具を用いる遊び」、第四章「遊戯具の起源」、終章、おわりに、あとがき、参考文献、索引。あとがきによれば、本書をもって著者の一連の遊戯史研究が完結したとのことです。
2006年05月『遊戯――その歴史と研究の歩み』法政大学出版局/ものと人間の文化史
2010年10月『盤上遊戯の世界史――シルクロード 遊びの伝播』平凡社
2012年02月『日本遊戯史――古代から現代までの遊びと社会』平凡社
2014年09月『日本遊戯思想史』平凡社
2017年03月『遊戯の起源』平凡社
★宮島喬『〈増補新版〉文化的再生産の社会学』は、1994年刊の旧版とことなるのは、巻頭に「増補新版への序文」が加えられ、第Ⅱ部「ブルデュー理論からの展開」の第8章「エスニシティと文化的再生産論」に「補論」が足され、あらたに第10章「「子どもの貧困」と貧困の再生産――一ノートとして」が新設された、という3点です。
+++
hontoブックツリー「哲学読書室」
オンライン書店「honto」の公開ブックリスト「ブックツリー」に「哲学読書室」というアカウントが開設され、コーディネーターを不肖小林が務めることになりました。現在、以下の二つのブックツリーが公開中です。
星野太さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる」
國分功一郎さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!」
自社本他社本を問わず、注目新刊の著者の皆様にご参加いただけるよう頑張ります。
+++
トークイベント:星野太×岡本源太「ロゴスとアイステーシス」、ほか
弊社出版物でお世話になっている著訳者の皆様のご活躍をご紹介します。
★星野太さん(著書:『崇高の修辞学』)
★岡本源太さん(著書:『ジョルダーノ・ブルーノの哲学』)
京都の書店「MEDIA SHOP」さんと「Art Critique」誌の櫻井拓さんのご企画により、お二人の対談イベントが実現の運びとなりました。
◎星野太×岡本源太「ロゴスとアイステーシス――美と崇高の系譜学」
出演:星野太(美学・表象文化論、金沢美術工芸大学講師)
岡本源太(美学、岡山大学准教授)
日時:2017年5月20日(土) 18:30―20:30(開場は18:00)
会場:MEDIA SHOP|gallery(京都市中京区河原町三条下る一筋目東入る大黒町44 VOXビル1F )
料金:一般1,300円/学生1,000円/メディアショップにて『崇高の修辞学』(3,888円[税込])をご購入のお客様は一律、入場料500円とさせていただきます。
定員:50名、要予約。お申込みはメールにて受け付けております。担当齋藤 mediashop@media-shop.co.jp
企画:MEDIA SHOP/櫻井拓
内容:言葉と感性はどの地点で交差し、或いは訣別するのか。崇高と滑稽、技を隠す技と自然の模倣、系譜と古典、イメージと情念。『崇高の修辞学』の内容を入口に、幾つかのキーワードを切り口として、言葉と感性をめぐる問いを、理論的かつ歴史的な視点から議論していただきます。星野太さん『崇高の修辞学』(月曜社)刊行記念トークイベント。
+++
★郷原佳以さん(共訳:『ブランショ政治論集』)
★門間広明さん(訳書:ブランショ『謎の男トマ』)
「20世紀文学の読み替え」を目指す論集『〈前衛〉とは何か? 〈後衛〉とは何か?――文学史の虚構と近代性の時間』(塚本昌則・鈴木雅雄編、平凡社、2010年)、『写真と文学――何がイメージの価値を決めるのか』(塚本昌則編、平凡社、2013年)に続く完結篇が刊行されました。郷原さん、門間さんが参加されています。
声と文学――拡張する身体の誘惑
塚本昌則・鈴木雅雄編
平凡社 2017年3月 本体6,200円 A5判上製590頁 ISBN978-4-582-33327-5
目次:
序 あなたはレコード、私は蓄音機――20世紀フランス文学の声の「回帰」|鈴木雅雄
Ⅰ それは誰の声か――語り、身体、沈黙
貸し出される身体――話すことと読むことをめぐって|伊藤亜紗
消えゆく声――ロラン・バルト|桑田光平
セイレーンたちの歌と「語りの声」――ブランショ、カフカ、三人称|郷原佳以
〈操る声〉と〈声の借用〉――ジャリにおける蓄音機、催眠術、テレパシー|合田陽祐
文学――他処から来た声?:ホメロスからヴァレリーへ|ウィリアム・マルクス/内藤真奈訳
Ⅱ 声の不在と現前――歌、証言、フィクション
〈第四の声〉――ヴァレリーの声に関する考察|塚本昌則
シャルロット・デルボ――アウシュヴィッツを「聴く」証人|谷口亜沙子
W島を描写する〈声〉は誰のものか――ペレック『Wあるいは子供の頃の思い出』における証言の問題|塩塚秀一郎
想像し、想像させる声――ベケットとデュラス?|たけだはるか
声は石になった――アンドレ・ブルトン『A音』精読|前之園望
歌声と回想――ルソー、シャトーブリアン、ネルヴァル|野崎歓
Ⅲ 声から立ちあがるもの――叫び、リズム、ささやき
叙情に抗う声――オカール、アルトー、ハイツィックにおける音声的言表主体|熊木淳
例外性の発明――ギー・ドゥボールの声について|門間広明
目で聴く――マラルメと古典人文学の変容|立花史
主体なき口頭性――アンリ・ミショーにおけるリズム|梶田裕
ささやきとしての声〔ヴォワ〕、動詞の形としての態〔ヴォワ〕|ジャクリーヌ・シェニウー=ジャンドロン/中田健太郎訳
Ⅳ 声の創造――霊媒、テレパシー、人工音声
声は聞き逃されねばならない――シュルレアリスムとノイズの潜勢力|鈴木雅雄
心霊主義における声と身元確認――「作家なき作品」の制作の場としての交霊会|橋本一径
人工の声をめぐる幻想――ヴェルヌ、ルーセル、初音ミク|新島進
オートマティスムの声は誰のもの?――ブルトン、幽霊、初音ミク|中田健太郎
フランスにみる録音技術の黎明期――来るべき「音声技術と文学」のために|福田裕大
跋 〈本物〉とは何か|塚本昌則
年表 音響技術と文学|福田裕大編
索引
+++
ブックフェア「19世紀フランス哲学、再発見のために」@紀伊國屋書店新宿本店
紀伊國屋書店新宿本店3階にてブックフェア「じんぶんや」の特別企画「19世紀フランス哲学、再発見のために」が、ラヴェッソン『十九世紀フランス哲学』(知泉書館、2017年1月)刊行記念として好評開催中です。選書人は同書の共訳者で、学習院大学文学部教授の杉山直樹(すぎやま・なおき:1964-)さんです。フェア名のリンク先では、店頭で無料配布中の選書コメント小冊子より、杉山さんによる挨拶文「フェアによせて」が転載されているほか、選書リストや店頭写真をご覧になれます。フェアを企画された仕入のOさん曰く「神、王、絶対者の廃位可能性という観点から「西洋哲学の大きな試練の場、巨大かつリアルな実験場」を読み取るためのブックフェアとなっています」とのことです。
◎じんぶんや「19世紀フランス哲学、再発見のために」
場所:紀伊國屋書店新宿本店 3階人文書フェアスペース
会期:2017年3月20日(月・祝)より開催中
問合:紀伊國屋書店新宿本店3階 電話03-3354-5703
+++
サイン入限定小冊子付『崇高の修辞学』@代官山蔦屋書店
代官山蔦屋書店さんでは星野太さんの『崇高の修辞学』がサイン入の限定小冊子付で販売されています。この限定小冊子は先週金曜日3月24日に行われたトークイベントへのご来場者様にお渡ししたものです。イベントへのご参加がかなわなかったお客様はぜひこの機会をご利用ください。地方発送も可能とのことです。部数限定につき、お早めにどうぞ。