『政治的リベラリズム 増補版』ジョン・ロールズ著、神島裕子/福間聡訳、川本隆史解説、筑摩書房、2022年1月、本体6,300円、A5判上製704頁、ISBN978-4-480-86737-7
『知への恐れ――相対主義と構築主義に抗して』ポール・ボゴシアン著、マルクス・ガブリエルあとがき、飯泉佑介/斎藤幸平/山名諒訳、堀之内出版、2021年12月、本体3,000円、四六判上製256頁、ISBN978-4-909237-57-6
『現代思想2022年1月臨時増刊号 総特集=ウィトゲンシュタイン――『論理哲学論考』100年』青土社、2021年12月、本体2,000円、A5判並製286頁、ISBN978-4-7917-1424-7
★『政治的リベラリズム 増補版』は、米国の哲学者ジョン・ロールズ(John Rawls, 1921-2002)の代表作のなかで長らく未訳だった『Political Liberalism』(Columbia University Press, 1993; Expanted edition, 2005)の訳書。訳者解説の言葉を一部借りると、『正義論』(原著1971年;矢島鈞次監訳、紀伊國屋書店、1979年;新訳版、川本隆史/福間聡/神島裕子訳、紀伊國屋書店、2010年)以降の20年にわたる思索と論議を踏まえた重要書です。「『正義論』が巻き起こした巨大な反響・批判に応答し、〈公正としての正義〉の抗争をみずから更新したロールズ、もうひとつの主著」(帯文より)。ロールズ自身は第四部「公共的理性の理念・再考」(1997年)の結論部で次のように『正義論』と対比させています。
★「包括的世界観――宗教的あるいは非宗教的世界観、とりわけ教会や聖書のような宗教的権威に基づく世界観――を肯定・擁護する人びとが、立憲デモクラシー社会を支持する理にかなった政治的構想をも保持することはどのように可能なのか。〔…〕『正義論』においては、公共的理性は包括的なリベラリズムの世界観によって示されている。他方『政治的リベラリズムにおいては、公共的理性は自由で平等な市民によって共有されている政治的諸価値についての推論・理由づけの方法であり、市民の包括的世界観がデモクラティックな政治形態と一致している限りはそうした世界観に立ち入ることはしない。したがって、『政治的リベラリズム』の秩序だった立憲デモクラシー社会とは優勢で支配的な市民が、相容れないが理にかなっている包括的世界観を肯定・擁護し、それに基づいて行動している社会である。これらの世界観はそれぞれ、社会の基礎構造において市民の基本的権利、自由、機会を規定する理にかなった政治的構想――必ずしももっとも理になかっている構想ではないが――を支持しているのである」(583頁)。
★『知への恐れ』は、米国の哲学者ポール・ボゴシアン(Paul Artin Boghossian, 1957-)の代表作『Fear of Knowledge: Against Relativism and Constructivism』(Oxford University Press, 2006)の全訳。訳者あとがきによれば2007年のペーパーバック版での加筆修正を反映し、さらに2013年の独語訳版に付されたマルクス・ガブリエルによるあとがきも訳出しています。帯文に曰く「ポストモダンの相対主義に終止符を打ち、「新実在論」の幕開けとしてマルクス・ガブリエルが絶賛した論争の書」と。ボゴシアンの著書が翻訳されるのは本書が初めてです。
★「構築主義とその批判者の間で何が問題となっているのかを明らかにすること、そしてこれらの問題が埋め込まれている領域の地形図を描くことが私の目的である。〔…〕私は、知識についての構築主義がとても興味深い仕方で帰着するであろう(と私が考える)三つのテーゼをそれぞれ独立に取りだしてみようと思う。続いて、これらのテーゼがどれほどもっともらしいのかについての評価を試みる。/第一のテーゼは、真理についての構築主義である。第二のテーゼは、正当化についての構築主義である。そして最後、第三のテーゼは、なぜ私たちは自分の信じていることを信じているのかを説明する際に社会的要因が果たす役割に関係している」(26頁)。
★『現代思想2022年1月臨時増刊号 総特集=ウィトゲンシュタイン』は、副題にある通り、ウィトゲンシュタインの初期の主著『論理哲学論考』の公刊より100年を経過したことを記念しての全頁特集です。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。アンスコムは91年の論考「ウィトゲンシュタインは誰のための哲学者か」で、ウィトゲンシュタインをプラトンと同じく「哲学者のための哲学者」だと説明しています。哲学者のための哲学者とは「哲学者が典型的に関心を抱く問いに取り組み、その問いを論じることで重要な考えを得ることのできる人」だとアンスコムは定義します。この表現にはもう少し含蓄があるのですが、ネタバレはやめておきます。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『ルース・ベイダー・ギンズバーグ アメリカを変えた女性』ルース・ベイダー・ギンズバーグ/アマンダ・L・タイラー著 大林啓吾/石新智規/青野篤/大河内美紀/樫尾洵/黒澤修一郎/榊原美紀/菅谷麻衣/高畑英一郎訳、晶文社、2022年1月、本体2,500円、四六判上製432頁、ISBN978-4-7949-7291-0
『読書会の教室――本がつなげる新たな出会い 参加・開催・運営の方法』竹田信弥/田中佳祐著、晶文社、2021年12月、本体1,700円、A5判並製192頁、ISBN978-4-7949-7289-7
『リヒトホーフェン――撃墜王とその一族』森貴史著、中公新書、2022年1月、本体880円、新書判272頁、ISBN978-4-12-102681-1
『ミクロコスミ』クラウディオ・マグリス著、二宮大輔訳、共和国、2022年1月、本体3,400円、菊変型判並製328頁、ISBN978-4-907986-55-1
『東京精華硯譜 中國硯大全Ⅱ――中國硯採石地を訪ねて』楠文夫著、平凡社、2022年1月、本体3,800円、A4判上製84頁、ISBN978-4-582-24736-7
★『ルース・ベイダー・ギンズバーグ アメリカを変えた女性』はまもなく発売。アメリカの連邦最高裁判所の裁判官を務めたギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg, 1933-2020)の自選集『Justice, Justice Thou Shalt Pursue: A Life's Work Fighting for a More Perfect Union』(University of California Press, 2021)の訳書。カバーソデ紹介文に曰く「1970年代に弁護士として関わった性差別をめぐる3つの裁判の記録と、連邦最高裁裁判官として4つの判決で書いた法廷意見や反対意見を自身のセレクトで収載。また、長いキャリアと家族生活について語った最晩年の対談と3つの講演を収めた」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。巻末には年表「ルース・ベイダー・ギンズバーグの生涯」と、水田宗子さんによる跋文h「日本語版刊行に際して」が付されています。
★『読書会の教室』は、赤坂の書店「双子のライオン堂」の店主竹田信弥(たけだ・しんや, 1986-)さんとライターの田中佳祐(たなか・けいすけ)さんによる、読書会の入門書。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文に曰く「みんなで読むとこんなに楽しい!」と。おふたりは8年間で500回以上の読書会を行ってきたとのこと。経験の蓄積から様々な工夫や、運営上の注意点などを教えてもらえます。全国の図書館でも読書会は導入されてよいのではないかと強く思います。個読と共読、その往還による効用は人々を広く潤すはずです。
★『リヒトホーフェン』は、4人の貴族の生きざまを紹介した一冊。第一次世界大戦におけるドイツ軍のエース・パイロットだったマンフレートとローターの兄弟。彼らと縁戚関係にあり、当代の傑出した知識人と交流したエルゼとフリーダの姉妹。エルゼはマックス・ヴェーバーの弟子にして恋人、フリーダは夫の教え子だった新進作家D・H・ロレンスと駆け落ちしたとのこと。著者の森貴史(もり・たかし, 1970-)さんは関西大学文学部教授で、ご専門はドイツ文化論です。
★『ミクロコスミ』は、現代イタリア文学の作家マグリス(Claudio Magris, 1939-)の、ストレーガ賞受賞作『Microcosmi』(Garzanti, 1997)の全訳。亡妻に捧げられた「本作はトリエステを中心に、九つの場所が舞台となった九つの章に分かれている」(訳者あとがきより)。「歴史の断片を掬い出すという偉業をなし一方で、ごく私的な記憶をも語る、とんでもなく広大で、かつ極めて個人的な歴史書なのだ」(同)。文学作品にしては珍しく、巻末に人名索引が付されています。
★『東京精華硯譜 中國硯大全Ⅱ――中國硯採石地を訪ねて』は、版元紹介文に曰く「中国硯研究の第一人者による長年の研究・収集の集大成(全3巻)」のうち、第2巻。2021年1月刊『東京精華硯譜 中國硯大全Ⅰ――端硯について』の続編。第2巻では「中國四大名硯の産地の状況、採掘した原石等を紹介し、中國硯の本質に迫る」(帯文より)と。フルカラー写真で収録された硯と原石の圧倒的な美しさに魅了されます。