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注目新刊:小林坩堝『小松川叙景』共和国、ほか

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★最近出会った単行本や文庫、新書、雑誌などを列記します。

『小松川叙景』小林坩堝著、共和国、2021年11月、本体2,400円、A5変型判上製104頁、ISBN978-4-907986-82-7
『パスカルと聖アウグスティヌス(上・下)』フィリップ・セリエ著、道躰滋穂子訳、法政大学出版局、2021年11月、本体13,500円、四六判上製函入1382頁、ISBN978-4-588-01137-5
『世界を読み解く科学本――科学者25人の100冊山本貴光編、河出文庫、2021年11月、本体940円、文庫判288頁、ISBN978-4-309-41852-0
『転んでもいい主義のあゆみ――日本のプラグマティズム入門』荒木優太著、フィルムアート社、2021年11月、本体2,000円、四六判上製248頁、ISBN978-4-8459-2110-2
『ルポ 森のようちえん――SDGs時代の子育てスタイル』おおたとしまさ著、集英社新書、2021年10月、本体820円、新書判224頁、ISBN978-4-08-721186-3
『アレ Vol.10』アレ★Club、2021年11月、本体1,400円、A5判並製280頁、ISDN278-4-572741-10-0
『現代思想2021年12月臨時増刊号 総特集=ドストエフスキー ――生誕二〇〇年』青土社、2021年11月、本体2,800円、A5判並製422頁、ISBN978-4-7917-1422-3
『現代思想2021年12月号 特集=大森荘蔵――生誕一〇〇年』青土社、2021年11月、本体1,500円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1423-0

★『小松川叙景』は、詩人の小林坩堝(こばやし・かんか, 1990-)さんの最新詩集。2016年から2021年にかけて各紙誌で発表されてきた作品に書き下ろしを加え、さらに著者撮影の写真を主に見開きで13葉収録して1冊としたもの。初版のみの仕様として、小口三方は朱染めで青黒いカヴァーと好対照をなしています。小松川は江戸川区の町名で、東西と南方を荒川と旧中川に囲まれた三日月のかけらのような地形の場所です。詩と写真からその情景が立ち上がってきます。

★今年、出版梓会の「新聞社学芸文化賞」を受賞された共和国さんが出版されてきた書籍の中で、個人的には近年もっとも印象の強い書目となりました。以下の引用は作品「NOWHERE」より。「昨晩の残飯を炊飯器抱いて頬張るわたしは生身の幽霊である。新しい今日の犠牲者として自殺した昨日のわたしの残像がはっきりとまだそこここに在る。やわらかく炊けた飯が白い疱瘡のごとくにわたしの顔を汚している。四十年以上ここに暮らした者はない。ここは住む場所ではなかったから。休むことのない破壊と生産の場所であったから。或いは住むことの本懐が破壊と生産にあるにせよ、ここは住む場所ではなかった」(49頁)。

★『パスカルと聖アウグスティヌス(上・下)』は、フランスの文学研究者フィリップ・セリエ(Philippe Sellier, 1931-)さんの大著『Pascal et saint Augustin』(Armand Colin, 1970) の全訳。帯文に曰く「二人の神学者の〈父子関係〉を解明した記念碑的研究」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。これほどの大著の出版を引き受ける法政さんの見識と力量にはただただ敬意を抱くばかりです。なおセリエさんの既訳書には『聖書入門』(支倉崇晴/支倉寿子訳、講談社選書メチエ、2016年)があります。

★『世界を読み解く科学本』は、2015年に河出書房新社で刊行された単行本『サイエンス・ブック・トラベル――世界を見晴らす100冊』の、加筆改訂改題文庫化。「古典的名著から科学絵本まで、同時代を生きる科学者たちが綴る刺激に満ちたブックレビュー」(帯文より)。「宇宙を探り、世界を知る」「生命のふしぎ、心の謎」「未来を映す」の3部構成。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「問いを楽しむ姿勢〔…〕分からなさを楽しむのがなにより」と山本さんは「はじめに」で科学に接する心得を書いておられます。

★『転んでもいい主義のあゆみ』は、在野研究者の荒木優太(あらき・ゆうた, 1987-)さんの最新著で、「失敗することについて日本人がいかに考えてきたのか、という問いをプラグマティズムなるアメリカの思想流派の受容(の歴史)を通じて整理する」(「序」より)ことを試みたもの。もともとは2018年から2019年にかけてフィルムアート社のウェブマガジン「かみのたね」で連載していた「日本のプラグマティズム」を再構成したもの、とのことです。田中王堂、石橋湛山、田制佐重、三隅一成、清水幾太郎、『思想の科学』誌、鶴見俊輔、等が論及されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★『ルポ 森のようちえん』は、教育ジャーナリストのおおたとしまさ(1973-)さんの最新著。「はじめに」によれば「森のようちえん」とは「自然のなかで子どもたちを自由に遊ばせるスタイルの幼児教育・保育のムーブメント」のこと。カバーソデ紹介文から要約すると、「森のようちえんでは、子どもたちの「自己肯定感」や「身体感覚」「非認知能力」が育つ。その実践には、日本の教育の常識や社会構造さえも変えてしまう可能性がある。いま最も注目すべき幼児教育活動の全貌を、丹念な取材をもとに描き出す」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★『アレ Vol.10』は11月24日より「全国書店にて順次委託販売開始」とのこと。特集は「疑信――「信じること」の信を問う」。信じることと疑うことの「せめぎあい」(巻頭言より)をめぐり、歴史学者の木場貴俊さんや、惑星科学者の井田茂さんへのインタビュー、農業史家の藤原辰史さんの特別寄稿「「食べること」と「信じること」」や、ベルギー出身の政治学者シャンタル・ムフの98年の論考「ラディカルな中道」の翻訳のほか、飯島慧巳、高山健、古川智彬、依田那美紀、木下佳人、堀江くらは、難民、の各氏による7本のテクストを掲載。今号も興味深いコンテンツが並びます。巻末にはブックガイドもあり。

★『現代思想』12月分は通常号が生誕百年の「大森荘蔵」特集で、臨時増刊号が生誕200年の「ドストエフスキー」特集。前者では、文庫化されたばかりの大森さんの主著のひとつ『新視覚新論』(講談社学術文庫、2021年9月)に解説「二元論の解体と超克」を担当されていた野家啓一さんが「移動祝祭日――斜交いからの大森荘蔵論」と題した論考を寄せておられます。後者は亀山郁夫、望月哲男、番場俊、越野剛、の4氏による責任編集。それぞれの目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。両号とも充実の寄稿陣で、来年創刊半世紀を迎える同誌の底力を感じます。来月発売となる1月号は通常号が「現代思想の新潮流 未邦訳ブックガイド30」、臨時増刊号が「ウィトゲンシュタイン――『論理哲学論考』100年」とのことで、こちらも大いに期待できそうです。

★続いて、まもなく発売となる注目新刊を列記します。

『見ることからすべてがはじまる――アンリ・カルティエ=ブレッソンインタビュー/会話(1951-1998)』クレマン・シェルー/ジュリー・ジョーンズ編、久保宏樹訳、読書人、2021年12月、本体3,400円、四六判上製242頁、ISBN978-4-924671-49-2
『カリブ海アンティル諸島の民話と伝説』テレーズ・ジョルジェル著、松井裕史訳、作品社、2021年11月、本体2,600円、46判上製292頁、ISBN978-4-86182-876-8
『インターセクショナリティ』パトリシア・ヒル・コリンズ/スルマ・ビルゲ著、小原理乃訳、下地ローレンス吉孝監訳、人文書院、2021年11月、本体3,800円、4-6判並製382頁、ISBN978-4-409-24144-8
『ゆるレポ――卒論・レポートに役立つ「現代社会」と「メディア・コンテンツ」に関する40の研究』岡本健/松井広志/松本健太郎編、人文書院、2021年11月、本体1,800円、4-6判並製206頁、ISBN978-4-409-24140-0
『帝国の計画とファシズム――革新官僚、満洲国と戦時下の日本国家』ジャニス・ミムラ著、安達まみ/高橋実紗子訳、人文書院、2021年12月、本体4,500円、4-6判上製320頁、ISBN978-4-409-52084-0

★『見ることからすべてがはじまる』は、2014年2月から6月にかけて、パリのポンピドゥ・センターで行われた展覧会「アンリ・カルティエ=ブレッソン」に先立って、キュレーターによって編纂され同センターが出版したインタヴュー集の日本語訳。編者による巻頭言「彼自身の言葉によるアンリ・カルティエ=ブレッソン」に曰く「本書は、その写真家が最もメディアの関心を集めていた、1951年から1998年にかけて実現された12の会話とインタビューを集めたものである。多くの場合、彼のインタビューは一度掲載されて以降、再び表に出ることはなく、捜し出すことすら難しい状況にある」(5頁)。日本では写真集のほかはエッセイ集が出ているだけなので、本インタヴュー集は貴重な一冊です。なお、編者のキュレーター(当時)のクレマン・シェルーさんには、『アンリ・カルティエ=ブレッソン――20世紀最大の写真家』(遠藤ゆかり訳、創元社:「知の再発見」双書、2009年)という小著があります。

★『カリブ海アンティル諸島の民話と伝説』は、『Contes et legendes des Antilles』(1957年)の訳書。帯文に曰く「ヨーロッパから来た入植者たち、アフリカから来た奴隷たちの物語と、カリブ族の物語が混ざりあって生まれたお話の数々」と。全34話で、挿絵62点を収録。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。マルティニーク島の小説家パトリック・シャモワゾーさんによる再話集『クレオールの民話』(吉田加南子訳、青土社、1999年)は本書を典拠としているのだとか。

★人文書院さんの、まもなく発売となる新刊は3点。『インターセクショナリティ』は29日取次搬入。『Intersectionality』(2nd Edition, Polity Press, 2020)の訳書。インターセクショナリティとは交差性と訳される言葉で、「人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティ、ネイション、アビリティ/ディサビリティ、エスニシティ、年齢などさまざまな要素の交差する権力関係と社会的立場の複雑性を捉える概念」(監訳者解説より)とのこと。『ゆるレポ』は同じく29日搬入。「学生、院生、研究者による、レポートのサンプル集。調べ方、書き方の具体例がわかります」(帯文より)と。『帝国の計画とファシズム』は12月1日取次搬入。『Planning for Empire: Reform Bureaucrats and the Japanese Wartime State』(Cornell University Press, 2011)の訳書。「資本主義や共産主義にも勝る第三の道として構想されたテクノファシズム。〔…〕戦後にまで影響を及ぼした日本ファシズムの実態を多角的に分析」(帯文より)。著者のジャニス・ミムラ(Janis Mimura, 1963-)さんは米国の歴史学者。日本でも客員教授のご経験がおありです。本書が初訳本のご様子。

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