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注目新刊:バック=モース『西暦一年』青土社、ほか

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『西暦一年――「理性」と「信仰」の分断を問い直す』スーザン・バック=モース著、森夏樹訳、青土社、2021年8月、本体3,800円、46判上製456頁、ISBN978-4-7917-7409-8
『『ガラテア書』註解』トマス・アクィナス著、磯部昭子訳、知泉書館、2021年7月、本体4,500円、新書判上製380頁、ISBN978-4-86285-344-8



★『西暦一年』は米国の思想史家スーザン・バック=モース(Susan Buck-Morss, 1942?-)が今春上梓したばかりの最新著『Year 1: A Philosophical Recounting』(MIT Press, 2021)の全訳。『Hegel, Haiti, and Universal History』(University of Pittsburgh Press, 2009;『ヘーゲルとハイチ――普遍史の可能性にむけて』岩崎稔/高橋明史訳、法政大学出版局、2017年)以来の新著です。三人のユダヤ人思想家、フラウィウス・ヨセフス、アレクサンドリアのフィロン、パトモスのヨハネをひもときつつ、理性と信仰の分断の〈起源〉としての西暦一世紀を問い直す、「知識の再配置をめざすプロジェクト」(序、7頁)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★「近代が歴史と呼ぶ認識論的装置は、本来、首尾一貫した物語形式で現在につながる秩序の中で、過去を定位置に置くことで保持されるはずだった。しかし、歴史を書くこと自体が、この秩序化の推定をくつがえす知識を提供して、従来とは違った方法で、過去に自由に語らせることになる。デジタル学習やデータバンクの見出しの下で、静かな革命が進行中だ。学問が知識の構造、つまり人間の経験の記録を分割し、秩序づけている概念的なフレームそのものを変えようとしている。/一世紀――この時点に焦点を当てることがきわめて重要となるのはそのためである――に関しては、歴史的物語のもっとも基本的な三つのカテゴリー――ヘレニズム、キリスト教、ユダヤ教――が物的な証拠を歪めている。宗教と政治、科学と美学、アテネとエルサレム、東洋と西洋の間の概念的な区別は、一世紀の世界では意味をなさない。歴史的資料を古典、神学、現在の世俗的な人文科学という、別々の学問分野に割り当てようとする従来のアプローチは深刻な誤解を招く。異なるグループの起源を探求することは、純粋化された情報源に向かうのではなく、むしろ分離そのものの消失へと向かう」(同頁)。


★「〔本書の主な情報源となる一世紀の三人である〕彼ら自身の言葉を真剣に受け止めてみると、それは、われわれが知っていると思っていたこととは、大きく矛盾する驚くべき方向へと導いてくれ、現在の認識論的な先入観を根本的にくつがえす鍵を提供してくれる。その鍵にとって、時間的に分散していた登場人物たちが、歴史の再編成の渦の中に引き込まれることで、豊富な相互接続が可能になる。アンティゴネとジョン・コルトレーン、プラトンとブルワー=リットン、クーサのニコラス〔ニコラウス・クザーヌス〕とゾラ・ニール・ハーストン、アル=ファーラービーとジャン・アヌイなど、すべてが登場する。デカルト、カント、ヘーゲル、クリステヴァ、デリダはいうまでもない」(8頁)。巻頭の序を読むだけでも鳥肌が立ってきます。


★著者は本書の課題を「最新の研究成果の一部を広く一般の人々と共有すること」と述べるとともに「目的は大衆化ではない」とも書いています。本書が日本でどれくらいの数の読者に出会えるか、想像がつきませんが、図書館にはぜひ架蔵されてほしい一冊です。「私は、歴史の学術研究者とさまざまな宗派の宗教団体によって提供された、信頼性の高いオープンアクセスの情報源について、これら多くの提供者の方々の献身に感謝している。〔…〕しかし私は、コーネル大学の学術図書館の貴重な蔵書を含む、ハードカバーの本に対してさらに大きな依存をしてきた。その継続的なつながりはデジタル時代になっても、いっそう高まっている」(9~10頁)。


★『『ガラテア書』註解』は「知泉学術叢書」の第16弾。「ガラテア書」は新約聖書において使徒パウロによる書簡とされるもののひとつ。訳者解説によればこの註解(Super Epistolam ad Galatas Lectura)は「9年間のイタリア時代〔1259~1268年:34~43歳〕のあいだのある時期に、トマスの講義を弟子のレギナルドゥスが口述筆記して成立したものであるということができる」とのこと。底本は『S. Thomae Aquinatis: Super Epistolas S. Pauli Lectura (Vol. 1)』(Marietti, 1953)所収のテクスト。版元紹介文に曰く「ガラテア書の章節に関わるトマス『神学大全』の関連箇所を示して、いっそう深い理解への手引きとしている」と。


★続いて、まもなく発売となるちくま学芸文庫10月新刊4点を列記します。


『フーコー文学講義――大いなる異邦のもの』ミシェル・フーコー著、柵瀬宏平訳、ちくま学芸文庫、2021年10月、本体1,300円、文庫判352頁、ISBN978-4-480-51079-2
『着眼と考え方 現代文解釈の基礎〔新訂版〕』遠藤嘉基/渡辺実著、ちくま学芸文庫、2021年10月、本体1,500円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-51073-0
『レストランの誕生――パリと現代グルメ文化』レベッカ・L・スパング著、小林正巳訳、ちくま学芸文庫、2021年10月、本体1,900円、文庫判592頁、ISBN978-4-480-51076-1
『〈日本美術〉誕生――近代日本の「ことば」と戦略』佐藤道信著、ちくま学芸文庫、2021年10月、本体1,200円、文庫判304頁、ISBN978-4-480-51077-8


★『フーコー文学講義』は学芸文庫オリジナルの初訳本。『La grande étrangère : À propos de literature』(Éditions de l'EHESS, 2013)の全訳です。フーコーの60年代から70年代の講演をまとめたもの。目次は以下の通り。


解題
緒言
狂気の言語
 編者の注
 狂人たちの沈黙
 狂える言語
文学と言語
 編者の注
 第一回講演
 第二回講演
サドに関する講演
 編者の注
 第一回講演
 第二回講演
文学に関するミシェル・フーコーの研究業績と発言
ミシェル・フーコー略年譜

訳者解題


★巻頭の「解題」は編者4氏(フィリップ・アルティエール、ジャン=フランソワ・ベール、マチュー・ポット=ボンヌヴィル、ジュディット・ルヴェル)によるもの。この4氏は、訳者解題によれば、ミシェル・フーコー・センターの中核を担う、中堅のフーコー研究者たち」とのこと。ジュディット・ルヴェルはアントニオ・ネグリのフランス語訳者も務めていた方ですね。「狂気の言語」は1963年にフランス国営放送「フランス3」のラジオ番組「言葉の用法」で全5回にわたって放送されたものから、第二回と最終回を収録。「文学と言語」は1964年12月にブリュッセルのサン=ルイ大学で行われた二回にわたる講演の記録。「サドに関する講演」は、1970年3月にニューヨーク州立大学バッファロー校での2本の講演のうち、2本目のタイプ原稿や3つの手稿をもとに校訂したもの。


★『現代文解釈の基礎〔新訂版〕』は、中央図書出版社から1963年に初版が刊行され、新訂版が1991年刊行されたロングセラーの文庫化。文庫化にあたり、読書猿さんによる巻末解説「よみがえる至高の現代文教本」が加えられています。読書猿さん曰く「本書は、現役の学生たちが国語(現代文)のテストで良い点を取ろうという目的を遥かに超えている。これまで自分が読むことに十分な注意を払い、訓練を積んできた読み手さえも、日本語文の読み書き能力について格段に高めることができる教本である」(475頁)。なお、著者はお二人とも逝去されています。


★『レストランの誕生』は2001年に青土社から刊行されたものの文庫化。『The Invention of the Restaurant: Paris and Modern Gastronomic Culture』(Harvard University Press, 2000)の全訳で、文庫化にあたり、原著の「2020年版まえがき」を、2019年に逝去された訳者に代わって成田あゆみさんが新たに訳しおろし、パリ在住の翻訳家の関口涼子さんによる解説「人はどうしてレストランに行くのか」が加えられています。著者のレベッカ・L・スパング(Rebecca L. Spang, 1961-)は、米国の歴史家で、インディアナ大学教授。訳書は本書のみです。


★『〈日本美術〉誕生』は講談社選書メチエより1996年に刊行されたものの文庫化。文庫化にあたり、「文庫版著者あとがき」と、『眼の神殿』の著者、北澤憲昭(きたざわ・のりあき, 1951-)さんによる文庫版解説「「ことば」と「機構」――自己探求としての日本近代美術史論」が加えられています。著者の佐藤道信(さとう・どうしん, 1956-)さんは美術史家で、現在、東京藝術大学教授。99年の著書『明治国家と近代美術――美の政治学』(吉川弘文館)でサントリー学芸賞を受賞されています。佐藤さんと北澤さんは友人同士とのことです。


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★また、単行本でまもなく発売となる新刊と、発売されたばかりの新刊をで注目の書目を1点ずつ特記します。


『白い壁、デザイナードレス――近代建築のファッション化』マーク・ウィグリー著、坂牛卓/邉見浩久/岩下暢男/天内大樹/岸佑/呉鴻逸訳、鹿島出版会、2021年10月、本体4,300円、A5判上製480頁、ISBN978-4-306-04687-0
『デカルトはそんなこと言ってない』ドゥニ・カンブシュネル著、津崎良典訳、晶文社、2021年9月、本体1,800円、四六判並製320頁、ISBN978-4-7949-7268-2



★『白い壁、デザイナードレス』はまもなく発売。『White Walls, Designer Dresses: The Fashioning of Modern Architecture』(MIT Press, 1995/2001)の全訳。近代建築とファッションの密接な関係性を分析した記念碑的研究書です。著者のマーク・ウィグリー(Mark Antony Wigley, 1956-)はニュージーランド出身の建築家、建築史家。著書が翻訳されるのは今回が初めてです。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。建築史家の加藤耕一さん曰く「伝統的なモダニズム理解を全面的に塗り替える、真っ白な必読書である」。


★「序文」より引きます。「近代建築の長所を伝えるにあたって衣服のイメージを引き合いに出すことは、実際には近代建築を生み出した考え方の根幹に触れている。〔…〕ル・コルビュジエとその仲間たちが提示した白漆喰に関する議論は、十九世紀の建築と衣服の関係に関する議論を大々的に活用したことが分かる。一見相いれないこの二つの議論を繋ぎ合わせる脈絡の紆余曲折を辿ることは、現代の言説に対して何らかの貢献が期待できる。それは多くの議論に付きまとい続けてきた建築とファッションの関係を解放することである」(21頁)。「白い壁が典型的に拒絶しているとされる流行のドレスの世界そのものの痕跡を、白い壁の表面を抜け目なく観察して見つけなくてはならない」(24頁)。


★『デカルトはそんなこと言ってない』は『Descartes n'a pas dit : Un répertoire des fausses idées sur l'auteur du Discours de la méthode, avec les éléments utiles et une esquisse d'apologie』(Belles Lettres, 2015)の全訳。帯文に曰く「世界的権威が21の「誤解」を提示、デカルトにかけられた嫌疑をひとつひとつ晴らしていく」と。著者のドゥニ・カンブシュネル(Denis Kambouchner, 1953-)はパリ第1大学パンテオン=ソルボンヌ校名誉教授。デカルト研究の世界的権威です。既訳書に『人がいじわるをする理由はなに?』(伏見操訳、岩崎書店、2016年;著者名はカンブクネと表記)があります。


★「日本語版への序文」より引きます。「近代性〔モデルニテ〕と呼ばれているもの――あまりに漠然と粗雑にそう呼ばれることが多い――が抱えるあらゆる欠点の責めをこれ以上、負わされることもない書き手はおそらく彼以外にはいないと思われるかぎりで、デカルトと関わりと持つことは、いっそう意義深い経験となる。デカルトを丁寧に読むこと、しかもその思想の最も優れたところを摑み取ろうと努めながら読むこと、それは、〔彼のおかげで〕私たちが(諸物体、自分の精神、あるいは神の本性について)もはや持つことのなくなった先入観から、というよりはむしろ、私たちの文化の歴史をあまりに単純化して「物語ること」から解放されることを意味する」(10頁)。


★このほか最近では以下の新刊との出会いもありました。


『胡適文選 1』胡適著、佐藤公彦訳、東洋文庫、2021年9月、本体3,400円、B6変判上製函入352頁、ISBN978-4-582-80905-3
『図説マルマ――ヨーガとアーユルヴェーダをつなぐインド秘伝の身体論』伊藤武著、めるくまーる、2021年08月、本体3,600円、A5判並製228頁+カラー口絵8頁、ISBN978-4-8397-0181-9

『現代思想2021年10月号 特集=進化論の現在――ポスト・ヒューマン時代の人類と地球の未来』青土社、本体1,500円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1420-9

『国家とは何か』後藤新平著、楠木賢道編、藤原書店、2021年9月、本体2,500円、四六変上製208頁、ISBN978-4-86578-325-4

『「かもじや」のよしこちゃん――忘れられた戦後浅草界隈』西舘好子著、藤原書店、2021年9月、本体2,400円、A5判上製288頁、ISBN978-4-86578-321-6

『パリ日記――特派員が見た現代史記録1990-2021(I)ミッテランの時代 1990.5-1995.4』山口昌子著、藤原書店、2021年9月、本体4,800円、A5判並製592頁+口絵2頁、ISBN978-4-86578-324-7



★中でも特記しておきたいのは、久しぶりの刊行となる東洋文庫の新刊、第905巻『胡適文選 1』(全2巻予定)です。昨年10月の『ケブラ・ナガスト』以来の約1年ぶりとなるもの。また、『図説マルマ』の刊行記念として、紀伊國屋書店新宿本店3F人文書売場では、「めるくまーる50周年フェア《不滅の探究》&伊藤武選書フェア《伊藤武の宇宙》」が今月21日まで開催中です。伊藤さん全著作と関連書が掲載された無料リーフレットが配布され、さらに伊藤さんのイラストを使用した特製エコバッグを限定販売しているとのことです。また50周年フェアでは、めるくまーるの僅少本を扱っているのだとか。50周年記念リーフレットの無料配布も予定しておられるそうで、楽しみです。

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