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注目既刊書:ミカエル・マイアー『逃げるアタランタ』八坂書房、ほか

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★コロナ禍、等々の影響ですっかり新刊探索のペースが落ちているなか、ようやく購入できた注目既刊書をまず列記します。

『あまりに人間的なウイルス――COVID-19の哲学』ジャン=リュック・ナンシー著、伊藤潤一郎訳、勁草書房、2021年7月、本体2,200円、4-6判上製144頁、ISBN978-4-326-15478-4
『サイコマジック』アレハンドロ・ホドロフスキー著、花方寿行訳、国書刊行会、2021年6月、本体3,800円、四六判上製460頁、ISBN978-4-336-07035-7
『逃げるアタランタ――近世寓意錬金術変奏譜』ミカエル・マイアー著、大橋喜之訳、八坂書房、2021年5月、本体4,500円、A5判上製509頁、ISBN978-4-89694-285-9

★特記したいのは、ドイツの医師ミカエル・マイアー(Michael Maier: Michael Maierus, 1568–1622)による錬金術の歴史的重要書『逃げるアタランタ〔Atalanta Fugiens〕』(1618年)の訳書。合計50枚の寓意的図像はそれぞれ楽譜と寸鉄詩と論議を伴っており、当訳書ではさらにオランダの美術史家H・M・E・デ・ヨング(Helena Maria Elisabeth de Jong, 1930-)による註釈(1969年)も訳出しています。「もっとも霊的な諸感覚(視覚、聴覚そして知性)の諸対象を一瞥するだけでそれらを所有することができるようになすため、また諸霊とともにそれらを分有するため、われわれは光学と音楽を合一させ、諸感覚を治世に繋ぎ、高貴なことどもを意図し知解するために変成術〔キミカ〕にかかわるわれわれの知識をエンブレムとなした。〔…〕この一冊の書からあなたは四種のことがらを受け取ることになる。暗示的、詩的、寓意的な複合構成、銅板に刻まれたエンブレム群に典雅に飾られた変成術の大いなる秘密の真実をあなたの知性は探索することとなろう。そして類稀なる音楽。ここに示したものをうまく活用したまえ」(読者への序、21頁)。



★ローマ在住の翻訳家・大橋喜之さんは八坂書房から近年立て続けに、2017年『ピカトリクス』、2018年『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ』、2020年『立昇る曙』と、魔術関連書の古典の翻訳を上梓されていることは周知の通りです。大橋さんが長年続けておられる翻訳についてはブログ「ヘルモゲネスを探して」で接することができます。

★続いてこちらも、ようやく購入できた文庫既刊書です。

『国家と神話(上)』カッシーラー著、熊野純彦訳、岩波文庫、2021年7月、本体1,200円、文庫判476頁、ISBN978-4-00-336736-0
『奴婢訓 他一篇』スウィフト著、深町弘三訳、岩波文庫、2021年3月改版(1950年5月初版)、本体520円、文庫判172頁、ISBN978-4-00-322099-3
『ケサル王物語――チベットの英雄叙事詩』アレクサンドラ・ダヴィッド=ネール/アプル・ユンテン著、富樫瓔子訳、岩波文庫、2021年3月、本体1,140円、文庫判526頁、ISBN978-4-00-320621-8
『江戸漢詩選(上)』揖斐高編訳、岩波文庫、2021年1月、本体1,200円、文庫判480頁、ISBN978-4-00-302851-3
『江戸漢詩選(下)』揖斐高編訳、岩波文庫、2021年3月、本体1,200円、文庫判492頁、ISBN978-4-00-302852-0
『コモン・センス』トマス・ペイン著、角田安正訳、光文社古典新訳文庫、2021年6月、本体860円、文庫判216頁、ISBN978-4-334-75446-4

★特記しておきたいのは『奴婢訓 他一篇』と『ケサル王物語』。前者は1950年版の新組改版。巻末の編集部付記によれば「改版にあたり振り仮名や送り仮名等の表記の整理」を行ない、訳者の「深町弘三氏の「漱石のスウィフト」〔1967年〕を新たに追加収録した」とのことです。

★『ケサル王物語』は、チベットの語り部が朗誦したものの筆録をダヴィッド=ネールらがフランス語訳したもの(1931年刊)から、物語本体部分のみを全訳した一書。ダヴィッド=ネール(Alexandra David-Néel, 1868-1969)の著書の既訳書には『チベット魔法の書――「秘教と魔術」永遠の今に癒される生き方を求めて』(デビッドニールと表記、林陽訳、徳間書店、1997年)、『パリジェンヌのラサ旅行』(全2巻、中谷真理訳、東洋文庫、1999年)などがあります。前者は絶版本で長らく高額古書となっており、後者はオンデマンド版を購入できます。前者が書斎の山脈に埋もれて探せないのですが、後者を見つけたので一緒に写真を撮っておきます。

★最後に最近出会いのあった新刊を列記します。

『季刊 農業と経済 2021年夏号』英明企画編集、2021年8月、本体1,700円、A5判並製320頁、ISBN978-4-909151-50-6
『戦争という選択――〈主戦論者たち〉から見た太平洋戦争開戦経緯』関口高史著、作品社、2021年8月、本体2,700円、46判上製384頁、ISBN978-4-86182-864-5

★『農業と経済』は1934年創刊、近年では2001年9月の第67巻第11号から2021年3月の第87巻第4号までを昭和堂が発行。今般、月刊誌から季刊誌にリニューアルされ、英明企画編集を発行元にかえて再創刊。既刊号には電子版ライブラリがあります。

★『戦争という選択』の著者、関口高史(せきぐち・たかし, 1965-)さんは防衛大学校の元准教授(防衛学教育学戦略教育室)。2020年に退官されています。既刊の単独著に『誰が一木支隊を全滅させたのか――ガダルカナル戦と大本営の迷走』(芙蓉書房出版、2018)があります。


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