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注目新刊:ルヴェルディ『魂の不滅なる白い砂漠』幻戯書房、ほか

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『セガレン著作集(2)ゴーガンを讃えて/異教の思考』ヴィクトル・セガレン著、丹治恆次郎/木下誠訳、水声社、2021年6月、本体10,000円、A5判並製函入622頁、ISBN978-4-8010-0576-1
『思考する芸術――非美学への手引き』アラン・バディウ著、坂口周輔訳、水声社、2021年6月、本体3,200円、四六判上製296頁、ISBN978-4-8010-0578-5



★水声社さんの『セガレン著作集』全8巻の最終回配本の2点のうち、先日、第8巻『煉瓦と瓦』に言及しましたが、もう1点、第2巻『ゴーガンを讃えて/異教の思考』をようやく購入できました。収録作は本編7本、付録3本、書簡28通。巻末解説に曰く「ポール・ゴーガンとマオリ民族についてセガレンが書いたテクストをまとめたもの」。同解説での紹介に沿って収録作を順に見ていくと、「最後の舞台装置の中のゴーガン」(1904年)がヒヴァ-オア島のゴーガンの家屋への訪問記、「異教の思考」(1906年)が架空のマオリ人とヨーロッパ人の対話によるマオリ神話論、「死せる声――マオリの音楽」(1907年)がマオリ音楽論、「快楽の師」(1907~08年)がゴーガンを主人公とする中編小説、「火の歩み」(1908年)は老マオリ人が自らの火渡りを語る短編小説、「ゴーガンを讃えて」(1918年)はゴーガンの生涯についての紹介と考察、「島の日記」(1903~05年)はセガレンのポリネシア旅行記です。付録の「アルカイスムの精神」(1916年)はゴーガン論、「一つの序文のための雛型〔マケット〕」(1916年)はゴーガン『ノア・ノア』完全版のための序文、「罹災者の方へ」(1903年)はトゥアモトゥ諸島のサイクロン罹災者救援記録、とのことです。1903年7月から1918年11月までに書かれた書簡28通は資料として併載されています。さらに、渡辺諒さんによる「セガレン伝Ⅰ タヒティまで(1878年1月〜1902年12月)」も収載。ちなみに渡辺さんによるこの伝記は、同著作集の第2巻、第4巻『天子』、第6巻『碑/頌/チベット』、第8巻『煉瓦と瓦』に掲載されています。第8巻のは「セガレン伝Ⅳ 中国からフランスへ(1917年1月~1919年5月)」でした。


★『思考する芸術』は『Petit manuel d'inesthétique』(Seuil, 1998)の全訳。全10章で構成されています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。巻頭には著者自身による以下の短文が訳出されています。「「非美学」という言葉で私が意味するのは、哲学と芸術とのある関係である。それは、芸術それ自体が諸真理の生産者であると想起するのであって、哲学のために芸術を一つの対象にしようとは少しも望んでいない。美学的思弁に抗して、非美学が記述するのは、いくつかの芸術作品の自立した実存によって生み出される厳密に哲学内的な諸効果である」。訳者あとがきに曰く「本書は〔…バディウ自身の著書〕『世紀』〔原著2005年刊行、訳書は2008年に藤原書店より刊行〕へとつながる20世紀論であり、マラルメから始まる20世紀芸術を対象とする」(286頁)。「バディウの扱う「世紀」は、厳密に言えば、第一次世界大戦が勃発した1914年から、ソ連解体と冷戦終結の年である1989年までの75年間を指すのだが、バディウは1890年から1914年までの約20年間を「世紀」の「序幕」として捉え、〔…その〕「序幕」に「現代のエクリチュール」の試みとして位置するのが1897年に発表されたマラルメによる「賽の一振り」なのである」(285~286頁)。「本書が出版された年に注意するなら、この著作全体が一つのマラルメ論なのではないかと考えさせられる」(289頁)。「実際、本書の至るところにマラルメが登場し、最終章〔第10章「半獣神の哲学」〕がマラルメ論であることからも、本書がマラルメ没後百周年に対するバディウなりの貢献であると考えることもあながち的外れではあるまい」(同頁)。


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。うち、近日発売の2点について特記しておきます。


『魂の不滅なる白い砂漠――詩と詩論』ピエール・ルヴェルディ著、平林通洋/山口孝行訳、幻戯書房、2021年7月、本体3,200円、四六変形判ソフト上製264頁、ISBN978-4-86488-227-9
『Humankind 希望の歴史――人類が善き未来をつくるための18章(上)』ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳、文藝春秋、2021年7月、本体1,800円、四六判上製272頁、ISBN978-4-16-391407-7

『Humankind 希望の歴史――人類が善き未来をつくるための18章(下)』ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳、文藝春秋、2021年7月、本体1,800円、四六判上製272頁、ISBN978-4-16-391408-4

『聖徳太子と蘇我入鹿』海音寺潮五郎著、作品社、2021年7月、本体1,900円、46判上製264頁、ISBN978-4-86182-856-0

『伊藤整日記(5)1961-1962年』伊藤整著、伊藤礼編、平凡社、2021年7月、本体4,200円、A5判上製函入330頁、ISBN978-4-582-36535-1

『文藝 2021年秋季号』河出書房新社、2021年7月、本体1,380円、A5判並製568頁、ISBN978-4-309-98034-8





★『魂の不滅なる白い砂漠』はまもなく発売となる、「ルリユール叢書」第16回配本(23点目)。訳者あとがきに曰く「本書はピエール・ルヴェルディ〔Pierre Reverdy, 1889–1960〕の1918年から1960年にわたる紙業から、いくつかの詩作品と詩論を摘み取ったアンソロジーである」。書名は収録された散文詩の題名から採られています。「シュルレアリスムの先駆的存在と知らしめた〈イマージュ〉から孤高の存在へと歩を進めた詩人ルヴェルディ――初期から晩年に至る30篇の「詩」、本邦初訳「詩と呼ばれるこの情動」他「詩論」4篇、E・グリッサンのルヴェルディ論を付したルヴェルディ詩学の核心に迫る精選作品集」(帯文より)。グリッサンの論考「純粋な風景」は、彼の詩人論『詩的意図』(1966年)から訳出されたもの。 


★詩論「詩と呼ばれるこの情動」(1950年)より印象的な言葉を引きます。「詩人はコミュニケーションの種類をはっきりさせなければなりません。つまり、詩人は自身について何を伝えようとするのか、他者のうちの何に到達しようとするのかをはっきりさせなければなりません。楽しませるのが肝要なのでしょうか。そんなことではまったくないのです。心を動かすことこそが肝要なのです。まさにそれは岩から泉を湧出させることなのです」(140頁)。これはラジオ番組での講演が元になっているとのことです。


★『Humankind 希望の歴史』はまもなく発売。オランダ出身の歴史家でジャーナリストのルトガー・ブレグマン(Rutger Bregman, 1988-)による、『隷属なき道――AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』(野中香方子訳、文藝春秋、2017年;原著『Utopia for Realist』2014年)に続く訳書第2弾。『Humankind: A Hopeful History』(Little, Brown and Company, 2020)の訳書。悲観的であったり冷笑的であるのが現実主義なのではなく、他者を信頼し、善きことを行ない、寛大さを保つことこそが現実主義なのだと教える、新しい人間観を提示する書。ほとんどの人間は本質的にかなり善良であり、なおかつ互いに対して善良でありたいと思っている、と著者は様々な歴史的事実をひもとき分析しつつ例証します。「人間の善性を擁護するのは、時の権力者に立ち向かうことを意味する」(上巻43頁)と著者は書きます。


★本書では人間の暗い側面にも光をあてています。例えば次の言葉は日本の読者の胸に刺さる痛い指摘ではないでしょうか。「現代の民主主義社会において、恥を知らないことは、その人にとってプラスに働く。羞恥心に邪魔されない政治家は、他人があえてしないようなことを堂々と行うことができる。〔…〕無恥な人々は無欲ではない。しかも無恥な政治家の図々しい振る舞いは、例外的で不合理なものにスポットライトをあてる現代のメディアにとって、格好のネタになる。/このタイプの世界でトップに立つのは、友好的で共感力のあるリーダーではなく、正反対の人間、すなわち、恥を知らないせいで生き残った人間なのだ」(下巻59~60頁)。

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