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注目新刊:『原典 イタリア・ルネサンス芸術論(上・下)』名古屋大学出版会、ほか

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『原典 イタリア・ルネサンス芸術論【上巻】』池上俊一監修、名古屋大学出版会、2021年6月、本体9,000円、A5判上製524頁、ISBN978-4-8158-1026-9
『原典 イタリア・ルネサンス芸術論【下巻】』池上俊一監修、名古屋大学出版会、2021年6月、本体9,000円、A5判上製506頁、ISBN978-4-8158-1027-6

『受肉した絵画』ジョルジュ・ディディ=ユベルマン著、桑田光平/鈴木亘訳、水声社、2021年5月、本体3,500円、A5判上製244頁、ISBN978-4-8010-0558-7

『マニエーラ・イタリアーナ――ルネサンス・二人の先駆者・マニエリスム:官能の庭Ⅰ』​マリオ・プラーツ著、伊藤博明/白崎容子/若桑みどり/上村清雄/森田義之訳、伊藤博明監修、ありな書房、2021年5月、 本体2,400円、A5判並製192頁、ISBN978-4-7566-2175-7



★『原典 イタリア・ルネサンス芸術論』上下巻は、美学から反芸術まで27の主題に30篇(ブルーノ、カミッロ、アルベルティ、チェッリーニ、デッラ・フランチェスカ、ベンボ、ヴァッラ、等々)の原典翻訳を一挙掲載した2冊本。2冊で税込2万円近くなる容赦ない値段ですが、ここでひるんで買い控えると後々後悔しますから、目をつぶってでも買い求めておくべき史料的価値の高い翻訳です。目次詳細はそれぞれの書名のリンク先でご確認いただけます。監修者の池上俊一さんはこれまでに名古屋大学出版会から、『原典 イタリア・ルネサンス人文主義』(2010年)、『原典 ルネサンス自然学』(上下巻、2017年)といった大冊のアンソロジーを手掛けておられ、この分野における継続的なご尽力にはただただ敬意を表すばかりです。


★誤解のないように補足しておくと、30篇のうちの1篇として前段では数えた、上巻第14篇の印刷術・書体論では、アルド・マヌーツィオの「関連史料」と題して、請願書、手紙、遺言書、の3点がおさめられていますし、さらにもう1篇、上巻第16篇のパトロン論「画家とパトロン」のパートでは、10点の歴史的資料(契約書や財産目録、嘆願書、書簡など)が訳出されています。版元サイトではそこまでの細目は記載されておらず、図書館が目次のデータ化を細かくやるか疑問なので、僭越ながらここに転記しておきます。



14 印刷術・書体論:アルド・マヌーツィオ「関連史料」
Ⅰ ヴェネツィア元老院への請願書(1496年)
Ⅱ ロレンツォ・ダ・パヴィアからイザベッラ・デステへの手紙(1501年)
Ⅲ アルド・マヌーツィオの遺言書(1515年)


16 パトロン論:「画家とパトロン」
(1)ピエロ・デッラ・フランチェスカとミゼリコルディア兄弟会の契約書。1445年6月11日。《ミゼリコルディア祭壇画》について
(2)ドメニコ・ギルランダイオとジョヴァンニ・トルナプオーニの契約書。1485年9月1日。サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂トルナプオーニ礼拝堂の壁画装飾について
(3)フィリポ・リッピからピエロ・デ・メディチ宛の書簡。1439年8月13日。窮状の訴え
(4)ベノッツォ・ゴッツォリからピエロ・デ・メディチ宛の書簡。1459年7月10日。メディチ邸マギ拝礼同の壁画装飾について
(5)メディチ家の財産目録(1492年)「ロレンツォの部屋」
(6)ルドヴィーコ・ゴンザーガからアンドレア・マンテーニャ宛の書簡。1458年4月15日。マントヴァ宮廷への招聘
(7)イザベッラ・デステからペルジーノ宛の書簡。1504年1月12日。《愛と貞節の戦い》について
(8)ティツィアーノからヴェネツィア共和国統領レオナルド・ロレダン宛の嘆願書。1516年1月18日。ドゥカーレ宮殿大評議会広間の装飾について
(9)フェデリコ・ゴンザーガからティツィアーノ宛の書簡。1531年3月5日。《改悛する聖マグダラのマリア》について
(10)メディチ家のコジモ一世からミケランジェロ宛の書簡。1557年5月8日。帰国の勧誘


★『受肉した絵画』は、ディディ=ユベルマンの初期作『La Peinture incarnée suivi du Chef-d'œuvre inconnu de Balzac』(Minuit, 1985)の全訳。訳者あとがきの文言を借りると、バルザックの小説『知られざる傑作』に対する「注釈のかたちで、絵画の生命という問題を色彩の観点から扱った」論考。「ジャック・ラカンやピエール・フェディダの精神分析から多くのインスピレーションを受けながら、ユベール・ダミッシュのバルザック論「絵画の下層」(『カドミウム・イエローの窓』〔水声社、2019年〕所収)の問題を美術史・文学史・思想史に目くばせしながら、さらに繊細に発展させたもの」とのことです。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。巻末には芳川泰久さんによる訳でバルザックの『知られざる傑作』が併載されています。これは『バルザック芸術/狂気小説選集(1)絵画と狂気篇:知られざる傑作 他』(水声社、2010年)から再録されたものかと思われます。


★訳者によれば『受肉した絵画』は初期作で晦渋さが目立つとのこと。本書巻頭「画家の懐疑(叡智)」の冒頭から引用します。「――絵画は思考する。どのように? これは恐るべき問いである。おそらく思考の手には負えない問いだろう。我々は手探りで模索する。導きの糸を捜し求めるのだ。ここではこの問いを、画家の叡智、すなわち画家の分別と学識の資質に関する問いとして取り組むつもりである。だが、そのように問いかけても、やはり一筋縄ではいかないだろう。おそらく問いは、ただすらされたにすぎないのだ。分別も学識も絶えず意味=感覚〔sens〕によって汚染され、損なわれ、意味=感覚として交錯してきたのであり、つまるところ、意味=感覚とともに作り上げられているのである。しかし、意味=感覚とはそれ自体ひとつの錯綜体、ひとつの倒錯である」(15頁)。


★『マニエーラ・イタリアーナ』は、プラーツの芸術論集『Il giardino dei sensi : studi sul manierismo e il barocco』(Mondadori, 1975)の全訳である『官能の庭――マニエリスム・エンブレム・バロック』(若桑みどり/森田義之/白崎容子/上村清雄/伊藤博明訳、ありな書房、1992年、品切)の「第一部と第二部をもとに、一部の論考をさしかえて刊行するもの」(監修者の伊藤博明さんによる「エピローグ」より)。既訳分は各訳者自身があらためて検討を加えたとのことで、故人である若桑さんと上村さんの担当分は伊藤さんが「新たに細部にわたって確認修正した」とのことです。


★本書は日本版オリジナル編集と言っていいであろう、新版『官能の庭』全5巻の第1巻。目次構成は書名のリンク先でご確認いただけます。全5巻の各巻書名は以下の通りです。


官能の庭(全5巻)
Ⅰ:マニエーラ・イタリアーナ――ルネサンス・二人の先駆者・マニエリスム
Ⅱ:アルミーダの庭――ペトラルカからエンブレムへ(仮)
Ⅲ:ベルニーニの天啓――17世紀の芸術(仮)
Ⅳ:官能の庭――バロックの宇宙(仮)
Ⅴ:マリオ・プラーツ――稀代の碩学の脳髄の中に(仮)


★旧版『官能の庭』は以下の通り5部構成でした。 1.二人の先駆者、2.マニエリスム研究、3.ペトラルカからエンブレムへ、4.17世紀の芸術、5.バロックの宇宙。新版の副題と旧版の部題の対照から考えると、新版は第4巻までで旧版のコンテンツをカバーし、第5巻はプラーツ論も含むのかなと想像できます。続刊が楽しみです。


★まもなく発売(10日発売予定)となるちくま学芸文庫の6月新刊5点を列記します。


『戦国乱世を生きる力』神田千里著、ちくま学芸文庫、2021年6月、本体1,300円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-51030-3
『修験道入門』五来重著、ちくま学芸文庫、2021年6月、本体1,500円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-51055-6
『戦争体験―― 一九七〇年への遺書』安田武著、ちくま学芸文庫、2021年6月、本体1,200円、文庫判304頁、ISBN978-4-480-51056-3
『山岡鉄舟先生正伝――おれの師匠』小倉鉄樹炉話、石津寛/牛山栄治手記、ちくま学芸文庫、2021年6月、本体1,500円、文庫判512頁、ISBN978-4-480-51057-0
『システム分析入門』齊藤芳正著、ちくま学芸文庫、2021年6月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-51061-7


★『戦国乱世を生きる力』は、中央公論新社のシリーズ「日本の中世」の第11巻(2002年)が親本。文庫化にあたり、著者自身による「ちくま学芸文庫版へのあとがき」が加わっています。それによれば「明白な誤記、事実誤認などは確認できた限り改めたが、それ以外は初刊行時のままである」とのことです。「現代日本が直面している困難な課題を思う時、過去に学ぶこともまた必要であるように思われる。〔…〕戦国びとの生きざまを知ることの重要さは〔初版刊行の〕20年前と少しも変わらないはずだ」。


★『修験道入門』は、角川書店より1980年に刊行された単行本が親本。著者は1993年に逝去されており、文庫化にあたり、慶應義塾大学名誉教授の鈴木正崇さんによる文庫版解説「五来重の修験道研究」が付されています。「本書は修験道の優れた概説書で、五来重(1908~1993)の活き活きとした描写によって修験道の歴史・思想・実践が明らかにされ、日本の文化や社会の中に修験道を位置づける役割を果たした」。「40年ぶりに読み直してみたが、まさに問題提起の書であり、今なお魅力を失っていない」と鈴木さんは評価されています。


★『戦争体験』は、戦中派の評論家・安田武(やすだ・たけし, 1922-1986)さんが戦争体験の語り難さと伝承の困難をめぐって1954年から1963年にかけて各種媒体で書き続けてきた文章を一冊にまとめたもので、1963年に未來社より刊行され、94年に朝文社より再刊された単行本の文庫化です。立命館大学の福間良明さんによる解説「安田武と「語り難さ」へのこだわり」が加えられています。「「わかりやすさ」に基づく「継承」が、何を取りこぼし、いかなる忘却を生み出してきたのか。本書『戦争体験』をはじめとする安田の戦争体験論は、こうした問いを現代に投げ掛けている」。


★『山岡鉄舟先生正伝』は1937年に春風館から刊行されたものの文庫化。幕末から明治時代を生きた山岡鉄舟の生きざまと歴史的事件の数々を、その内弟子である小倉鉄樹が直接見聞きしたことを自身の弟子たちに書き取らせたもの。巻末解説は、東洋大学教授・岩下哲典さんによる「ありありと描かれた幕末維新の人間模様」です。「「江戸無血開城」最大の功労者、鉄舟山岡鉄太郎の人となりを知ることができる『山岡鉄舟先生正伝――おれの師匠』が身近になった。現代の通用文字に置き換えられて出版されたことで、多くの人に読まれることになるのは、実に喜ばしい」。


★『システム分析入門』は文庫内シリーズ「Math&Science」の一冊。ちくま学芸文庫のために新たに書き下ろされたものとのことです。著者の齊藤芳正(さいとう・よしまさ, 1948-)さんはすでに同文庫で『はじめてのオペレーションズ・リサーチ』を昨春に再刊されています。今回の新著で紹介されるシステム分析というのは、巻頭の「はじめに」によれば「何をなすべきなのか」という意思決定の場に直面した時に適用すべき有用な方法、とのこと。その方法を分かりやすく説明したのが本書です。「政策決定、経営、資源配分、情報技術等、様々な局面で使用される意思決定の技法入門」(カバー表4紹介文より)。目次は以下の通りです。


はじめに
第1章 システム分析の意義
 第1節 システム分析の有用性
 第2節 従来の意思決定において陥りやすい落とし穴
第2章 システム分析の方法
 第1節 システム分析の一般的手順
 第2節 同質の機能を果たすシステム案の中から選択する場合
 第3節 異質の機能を果たすシステム案の中から選択する場合
第3章 システム分析の沿革
おわりに
参考文献
あとがき


★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『未来派――百年後を羨望した芸術家たち』多木浩二著、コトニ社、2021年6月、本体3,600円、A5変型判並製352頁、ISBN978-4-910108-05-6 
『日本の体罰――学校とスポーツの人類学』アーロン・L・ミラー著、石井昌幸/坂元正樹/志村真幸/中田浩司/中村哲也訳、共和国、2021年6月、本体3,600円、四六判並製404頁、ISBN978-4-907986-11-7

『27クラブ――ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、カート・コバーン、エイミー・ワインハウス』ハワード・スーンズ著、萩原麻理訳、作品社、2021年6月、本体3,600円、四六判並製468頁、ISBN978-4-86182-852-2



★『未来派』は、評論家の多木浩二(たき・こうじ, 1928-2011)さんによる未来派関連の論考をまとめ、ご子息の多木陽介(たき・ようすけ, 1962-)さんによる翻訳で未来派関連の宣言11篇を付録として付したもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。第一章「未来派という現象」は『大航海』誌50号~58号(2004年4月~2006年4月)に連載された「未来派という現象」が初出で、第三章「機械・ファシズム、そして人間」は『映像の歴史哲学』(みすず書房、2013年)の第4章「未来派――二〇世紀を考える」からの収録。いずれも「事実や人名、日付の確認作業を行い、一部補訂・訂正・削除等をおこなったところがある」と、陽介さんによる「あとがきにかえて」に特記されています。第二章「未来派ギャラリー」は、未来派関連の絵画・彫刻・建築などの図版約120点を収録。サイズはA5判の左右のまま、天地の長さを2/3に縮めた横長本で、内容だけでなく造本も非常に印象的です。


★『日本の体罰』は、『Discourses of Discipline: An Anthropology of Corporal Punishment in Japan's Schools and Sports』(Institute of East Asian Studies, 2013)の全訳。「カリフォルニア在住の気鋭の日本研究者が、豊富な資料やフィールドワークを通して検証する、日本の体罰の現実とその思想的背景。すぐれた体罰論にして、現代日本社会論」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者のアーロン・L・ミラー(Aaron L. Miller, 1980-)はカリフォルニア州立大学イーストベイ校およびセントメアリーズカレッジ・オブ・カリフォルニアの講師。ご専門は文化人類学と日本研究で、日本の大学で教壇に立たれたこともあります。本書が初めての訳書です。


★『27クラブ』は、『Amy 27: Amy Winehouse and the 27 Club』(Hodder & Stoughton, 2013)の全訳。帯文に曰く「27歳で夭折したスター(27クラブ)の中でも、最も有名な6人の天才ミュージシャンの生と死を横断的に描くバイオグラフィ」。原書名からも分かる通り、2011年に死去したエイミー・ワインハウスを中心として6人に共通する「物語」へ迫ろうとしています。著者のハワード・スーンズ(Howard Sounes, 1965-)は英国のジャーナリスト。 これまでに『ブコウスキー伝』(河出書房新社、2000年)や『ブコウスキー・イン・ピクチャーズ』(河出書房新社、2001年)、『ダウン・ザ・ハイウェイ――ボブ・ディランの生涯』(河出書房新社、2002年;新装版2016年)などの訳書があります。



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