『情報の歴史21』松岡正剛監修、編集工学研究所&イシス編集学校構成、編集工学研究所、2021年4月、本体6,800円、B5変型判並製512頁、ISBN978-4-9911639-0-6
★「日本の電話100年」を記念して1990年にNTT出版から刊行された『情報の歴史――象形文字から人工知能まで』。1996年に増補版が発行され、絶版後は異常とも言える高値で売られることもありましたが、昨年9月に『情報の歴史2020』として増補再刊されることが編集工学研究所から正式告知されて受注開始となりました。その折は「今冬発売」とのことでしたが、その後『情報の歴史21』と書名変更され、ついに2021年4月より発売となりました。オールカラーでこの値段は安いです。
★初版では7000万年前から1988年までの地球史の各時代の諸相を5つのテーマごとに分け、同時代に東西で何が起こったのか、グローバルとローカルな諸事象を並列させ見開きで一望させる視点で作成されており、画期的な年表として話題を集めました。96年の増補版では1989年から1995年までの年表を追加。そして初版刊行から30年を経て、1996年から2020年まで4半世紀分の年表が加わった最新版『情報の歴史21』が誕生しました。
★20世紀では5つのテーマは「世界政治動向」「技術・資本・産業」「科学・思想・研究」「芸術」「文芸・メディア・流行」に立て分けられ、『21』が新たに扱う96年以降は「世界政治動向」「経済・産業・金融」「科学・技術」「思想・社会・流行」「芸術・文芸・文化」に分けられています。読者は自由にこの年表に個人史や特定のテーマを盛り込んで、新しい年表を作ることもできるでしょう。
★企画編集を担当された編集工学研究所の吉村堅樹さんによる巻末の「『情報の歴史21』の編集構成を了えて」によれば、「継続するプロジェクトとしてとりくみつづける」とのことです。素晴らしい計画だと思います。初版、増補版、と関わられてきたデザイナーの戸田ツトムさんは2020年7月にお亡くなりになっています。今回の最新版『21』は年表のフォーマットは踏襲されているものの、カヴァーやオビは若い世代が担当されており、戸田さんのテイストとは異なる印象があります。
★『情報の歴史21』は年長の世代にとっては遅れてきた書物、最後の書物、のように映るかもしれません。しかし人間が血肉を構成要素とする有限の有機体である以上、紙とインクの肉体をもった紙媒体との相性は悪くはないでしょう。電子機器や再生ソフト、電源が不要である紙媒体のアーカイヴが、拡張されつつある人体の意識世界とどう再接続を果たしうるか、読み書きと学習の霊的実践が問い直されています。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『伊藤整日記 2 ――1955-1956年』伊藤整著、伊藤礼編、平凡社、2021年4月、本体4,200円、A5判上製300頁、ISBN978-4-582-36532-0
『文藝』2021年夏季号、河出書房新社、2021年4月、本体1,350円、A5判並製424頁、ISBN978-4-309-98029-4
『知のトポス』第16号、新潟大学大学院現代社会文化研究科/同人文学部哲学・人間学研究会、2021年3月、非売品、A5判並製196頁、ISSN1880-0005
『アンドレ・バザン研究』第5号、アンドレ・バザン研究会、2021年3月、非売品、A5判並製140頁、ISSN2432-9002
★『伊藤整日記 2』は全8巻の第2回配本。1955年から1956年にかけての日記を収録。帯文に曰く「第2巻は、「感傷夫人」「若い詩人の肖像」を終え、「氾濫」を始め、『ユリシーズ』改訳、『文壇史』継続、全集を出し、文学全集の編集に参加、対談、賞の選考、講演旅行、税務署との交渉に飛び回る」と。執筆に追われ続ける日々は凄絶の一言。熱心な読者に付きまとわれたりして、なかなかのホラー要素もあります。
★『文藝』2021年夏季号の第1特集は「もふもふもふもふ」。注目したいのは藤原辰史さんの論考「表皮の脱領域的考察」。曰く「中身を知ろうとしなくても、表皮に刻まれた情報でなんとか、その内実を知ろうという無謀な試みを、私たちは無謀だと思わずに続けている。/近代社会がますます視覚優位にの状況を形成する中で、表皮の意味はますます重くなっている。表皮の情報を収集し、分析することが、ますます重要になっていくだろう」(111頁上段)。また曰く「つまり、表皮とは、外界と内界のあわいにあって、物質を交換したり、自分を殺したり、増殖させたりして、均衡を保ちつつ、他の生きものを生かす存在である、ということだ」(112頁上段)。
★山本貴光さんの「季評 文態百版」で、弊誌『多様体』第3号(特集:詩作/思索)に言及していただいたことに喜びを覚えました。扱いにくい雑誌だと思うので、余計に、感謝とともに。
★『知のトポス』第16号は、ジャン=マリ・ベサード、ヘンリーステーテンの論考2本と、ゲルハルト・クリューガー、ヨハネス・ローマンの翻訳連載2本を掲載。学術翻訳に毎号尽力されており、貴重です。いずれウェブ上ですべて無料で読めるようになるはずです。
★『アンドレ・バザン研究』第5号はメイン特集が「不純なバザンのために」、小特集は「バザンの収容所映画論」。バザンのテクストの翻訳は、アニメーション映画論やテレビ論を含め、全部で10本。堀潤之さんによる編集後記によれば、同誌は次号で完結予定。
★「日本の電話100年」を記念して1990年にNTT出版から刊行された『情報の歴史――象形文字から人工知能まで』。1996年に増補版が発行され、絶版後は異常とも言える高値で売られることもありましたが、昨年9月に『情報の歴史2020』として増補再刊されることが編集工学研究所から正式告知されて受注開始となりました。その折は「今冬発売」とのことでしたが、その後『情報の歴史21』と書名変更され、ついに2021年4月より発売となりました。オールカラーでこの値段は安いです。
★初版では7000万年前から1988年までの地球史の各時代の諸相を5つのテーマごとに分け、同時代に東西で何が起こったのか、グローバルとローカルな諸事象を並列させ見開きで一望させる視点で作成されており、画期的な年表として話題を集めました。96年の増補版では1989年から1995年までの年表を追加。そして初版刊行から30年を経て、1996年から2020年まで4半世紀分の年表が加わった最新版『情報の歴史21』が誕生しました。
★20世紀では5つのテーマは「世界政治動向」「技術・資本・産業」「科学・思想・研究」「芸術」「文芸・メディア・流行」に立て分けられ、『21』が新たに扱う96年以降は「世界政治動向」「経済・産業・金融」「科学・技術」「思想・社会・流行」「芸術・文芸・文化」に分けられています。読者は自由にこの年表に個人史や特定のテーマを盛り込んで、新しい年表を作ることもできるでしょう。
★企画編集を担当された編集工学研究所の吉村堅樹さんによる巻末の「『情報の歴史21』の編集構成を了えて」によれば、「継続するプロジェクトとしてとりくみつづける」とのことです。素晴らしい計画だと思います。初版、増補版、と関わられてきたデザイナーの戸田ツトムさんは2020年7月にお亡くなりになっています。今回の最新版『21』は年表のフォーマットは踏襲されているものの、カヴァーやオビは若い世代が担当されており、戸田さんのテイストとは異なる印象があります。
★『情報の歴史21』は年長の世代にとっては遅れてきた書物、最後の書物、のように映るかもしれません。しかし人間が血肉を構成要素とする有限の有機体である以上、紙とインクの肉体をもった紙媒体との相性は悪くはないでしょう。電子機器や再生ソフト、電源が不要である紙媒体のアーカイヴが、拡張されつつある人体の意識世界とどう再接続を果たしうるか、読み書きと学習の霊的実践が問い直されています。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『伊藤整日記 2 ――1955-1956年』伊藤整著、伊藤礼編、平凡社、2021年4月、本体4,200円、A5判上製300頁、ISBN978-4-582-36532-0
『文藝』2021年夏季号、河出書房新社、2021年4月、本体1,350円、A5判並製424頁、ISBN978-4-309-98029-4
『知のトポス』第16号、新潟大学大学院現代社会文化研究科/同人文学部哲学・人間学研究会、2021年3月、非売品、A5判並製196頁、ISSN1880-0005
『アンドレ・バザン研究』第5号、アンドレ・バザン研究会、2021年3月、非売品、A5判並製140頁、ISSN2432-9002
★『伊藤整日記 2』は全8巻の第2回配本。1955年から1956年にかけての日記を収録。帯文に曰く「第2巻は、「感傷夫人」「若い詩人の肖像」を終え、「氾濫」を始め、『ユリシーズ』改訳、『文壇史』継続、全集を出し、文学全集の編集に参加、対談、賞の選考、講演旅行、税務署との交渉に飛び回る」と。執筆に追われ続ける日々は凄絶の一言。熱心な読者に付きまとわれたりして、なかなかのホラー要素もあります。
★『文藝』2021年夏季号の第1特集は「もふもふもふもふ」。注目したいのは藤原辰史さんの論考「表皮の脱領域的考察」。曰く「中身を知ろうとしなくても、表皮に刻まれた情報でなんとか、その内実を知ろうという無謀な試みを、私たちは無謀だと思わずに続けている。/近代社会がますます視覚優位にの状況を形成する中で、表皮の意味はますます重くなっている。表皮の情報を収集し、分析することが、ますます重要になっていくだろう」(111頁上段)。また曰く「つまり、表皮とは、外界と内界のあわいにあって、物質を交換したり、自分を殺したり、増殖させたりして、均衡を保ちつつ、他の生きものを生かす存在である、ということだ」(112頁上段)。
★山本貴光さんの「季評 文態百版」で、弊誌『多様体』第3号(特集:詩作/思索)に言及していただいたことに喜びを覚えました。扱いにくい雑誌だと思うので、余計に、感謝とともに。
★『知のトポス』第16号は、ジャン=マリ・ベサード、ヘンリーステーテンの論考2本と、ゲルハルト・クリューガー、ヨハネス・ローマンの翻訳連載2本を掲載。学術翻訳に毎号尽力されており、貴重です。いずれウェブ上ですべて無料で読めるようになるはずです。
★『アンドレ・バザン研究』第5号はメイン特集が「不純なバザンのために」、小特集は「バザンの収容所映画論」。バザンのテクストの翻訳は、アニメーション映画論やテレビ論を含め、全部で10本。堀潤之さんによる編集後記によれば、同誌は次号で完結予定。