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注目新刊:中村大介『数理と哲学』、宇佐美達朗『シモンドン哲学研究』、ほか

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『聊斎志異』蒲松齢著、黒田真美子訳、光文社古典新訳文庫、2021年2月、本体1,560円、文庫判656頁、ISBN:978-4-334-75439-6
『自然界に隠された美しい数学』イアン・スチュアート著、梶山あゆみ訳、河出文庫、2021年2月、本体1,100円、文庫判368頁、ISBN978-4-309-46729-0

★まずは注目の文庫新刊。『聊斎志異』は「中国怪異小説の金字塔」(帯文)の抄訳。訳者による巻末解説によれば、底本は「張友鶴輯校、会校会注会評本(上海古籍出版社)、いわゆる「三会本」12巻494篇(附録篇除く)である。〔…〕拙訳は、そこ中から43篇を選び、便宜上、6部のテーマに分けて収録した」とのこと。6部のテーマとは、怪、妖、恋、夢、仙、幽、の6つ。収録作品は書名のリンク先でご覧いただけます。柔らかく親しみやすい、流れるような心地よさの現代語訳です。

★『自然界に隠された美しい数学』は『What Shapes is a Snowfrake?』(The Ivy Press, 2001)の翻訳で、訳者あとがきによれば「紙幅の都合で一部セクションをカットした」とのこと。『自然界の秘められたデザイン』として2009年に河出書房新社より単行本が刊行され、2015年には新装版が刊行。今般改題のうえ、文庫化されました。「貝殻の渦巻き、シマウマの模様、雪の結晶の回転対称、月や季節の周期性など」(カバー表4紹介文)、自然界に見出される諸パターンを紹介し、時間、フラクタル、カオス、等々を解説しています。図版多数。

『数理と哲学――カヴァイエスとエピステモロジーの系譜』中村大介著、青土社、2021年2月、本体3,600円、四六判上製430頁、ISBN978-4-7917-7348-0
『現代思想2021年3月号 特集=東日本大震災10年』青土社、2021年2月、本体1,500円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1411-7
『シモンドン哲学研究――関係の実在論の射程』宇佐美達朗著、法政大学出版局、2021年2月、本体4,500円、A5判上製294頁、ISBN978-4-588-15113-2
『身体忘却のゆくえ――ハイデガー『存在と時間』における〈対話的な場〉』高屋敷直広著、法政大学出版局、2021年2月、本体3,800円、A5判上製266頁、ISBN978-4-588-15112-5

★青土社さんの2月新刊では、中村大介(なかむら・だいすけ, 1976-)さんの単独著第一作『数理と哲学』に注目。巻頭に置かれた総論「〈重ね合わせ〉の探究に向けて」に曰く「本書はカヴァイエスの数理哲学を軸とした、フランス・エピステモロジーの系譜に関する論文集である」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。中村さんはもともと理論物理学者を目指しておられたそうですが、大学院から哲学に転じたとのこと。現在は豊橋技術科学大学総合教育院准教授。岩波書店から発売されたばかりの論文集『スピノザと十九世紀フランス』では「第二次スピノザ・ルネッサンスの胎動――ジュール・ラニョーの哲学における必然性と無私性」と題された論考を寄せておられます。

★法政大学出版局さんの2月新刊では、宇佐美達朗(うさみ・たつろう, 1988-)さんの博士論文が加筆修正された『シモンドン哲学研究』に注目。記念すべき日本初のシモンドン研究書になります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。序論に曰く「ここで取り組まれるのは大雑把に言って1958年時点のシモンドン、つまり学位論文を提出し、みずからの哲学を初めて提示した時期のシモンドンである。〔…〕いくつかの論文を別にして、シモンドンがみずからの手で世に出したテクストは学位論文の主論文〔『形態と情報の概念に照らした個体化』〕と副論文〔『技術的対象の存在様態について』〕のみである」。宇佐美さんを法政さんに紹介したのは中村大介さんだそうです。中村さんがシモンドンの『個体化の哲学』(法政大学出版局、2018年)の共訳者であることは周知の通り。

『フラッシュ――ある犬の伝記』ヴァージニア・ウルフ著、岩崎雅之訳、幻戯書房、2021年2月、本体2,600円、四六変形判上製264頁、ISBN978-4-86488-215-6
『仮面の陰に――あるいは女の力』ルイザ・メイ・オルコット著、大串尚代訳、幻戯書房、2021年2月、本体2,700円、四六変形判上製272頁、ISBN978-4-86488-216-3
『アンジェラ・デイヴィスの教え――自由とはたゆみなき闘い』アンジェラ・デイヴィス著、浅沼優子訳、河出書房新社、2021年3月、本体3,300円、46判上製256頁、ISBN978-4-309-24997-1
『時代の異端者たち』青木理著、河出書房新社、2021年3月、本体1,700円、46判並製292頁、ISBN978-4-309-24996-4

★幻戯書房さんの「ルリユール叢書」最新弾は2点。ヴァージニア・ウルフ『フラッシュ』は1933年の作品。帯文に曰く「19世紀の英国詩人エリザベス・バレット・ブラウニングの日常模様が、愛犬フラッシュの目を通して語られる、ユーモア溢れる伝記小説。ヴァージニア・ウルフが飼い犬に寄せたエッセイ「忠実なる友について」、エリザベス・バレットの詩「わが忠犬、フラッシュに寄す」も収録」。底本はホガース版(1952年)とのこと。近年の既訳書には、出淵敬子訳『フラッシュ――或る伝記』(みすず書房、1993年)があります。

★オルコット『仮面の陰に』は「フラッグ・オブ・アワ・ユニオン」誌に1866年10月から11月にかけ全4回、A・ M・ バーナードという男性作家名義で掲載された「Behind a Mask, or A Woman's Power」を訳したもの。帯文に曰く「英国の名家で女家庭教師〔ガヴァネス〕が惹き起こす、19世紀米国大衆〈スリラー〉小説」。「19世紀の女性に求められた真の女性らしさ、すなわち「柔順、経験、清廉、家庭性」という規範を踏み越えているにもかかわらず、その内部に留まることを演じ続ける反逆する女性を描いている」(訳者解題)。「ルリユール叢書」次回配本は3月下旬、ジェイムズ・M・ケイン『ミルドレッド・ピアース――未必の故意』(吉田恭子訳)とのこと。

★河出書房新社さんの2月末発売新刊のうち『アンジェラ・デイヴィスの教え』に注目。米国の活動家で作家のアンジェラ・デイヴィス(Angela Davis, 1944-)の最新著『Freedom is a Constant Struggle: Ferguson, Palestine, and the Foundations of a Movement』(Haymarket Books, 2016)の訳書。「2013年から2015年の3年間に行われたインタビューやスピーチ、寄稿された記事で構成されている」(訳者まえがき)とのこと。コーネル・ウエストは「刊行に寄せて」という一文を寄せ、デイヴィスを「世界でも稀有で偉大な、長年にわたる知的自由戦士の一人である」と称えています。「1960年代の革命的な大衆運動から今日の反政府社会運動にいたるまで〔…〕地球上の抑圧された人々から焦点を外すことなく、不動の姿勢を貫いてきた」(29頁)と。目次を下記に転記しておきます。

訳者まえがき――今、アンジェラ・デイヴィスを知るべき理由|浅沼優子
刊行に寄せて|コーネル・ウエスト
編者まえがき|フランク・バラット
第1章 資本主義的個人主義に対抗する集団的闘争
第2章 ファーガソン事件が示したグローバルな文脈
第3章 構造的変革の必要性
第4章 パレスチナ、G4Sと産獄複合体
第5章 終幕と継続
第6章 マイケル・ブラウンからアサータ・シャクールまで――根強いレイシズム国家アメリカ
第7章 「真実を伝えるプロジェクト」――アメリカにおける暴力
第8章 フェミニズムとアボリション――21世紀のための理論と実践
第9章 政治的アクティヴィズムと抗議運動――1960年代からオバマ政権時代まで
第10章 国境を越える連帯

『パンデミックは資本主義をどう変えるか――健康・経済・自由』ロベール・ボワイエ著、山田鋭夫/平野泰朗訳、藤原書店、2021年2月、本体3,000円、A5判並製320頁、ISBN978-4-86578-302-5
『ワクチン いかに決断するか――1976年米国リスク管理の教訓』R・E・ニュースタット/H・V・ファインバーグ著、西村秀一訳、藤原書店、2021年2月、本体3,600円、A5判並製472頁、ISBN978-4-86578-300-1
『中国の何が問題か?――ハーバードの眼でみると』ジェニファー・ルドルフ/マイケル・ソーニ編、朝倉和子訳、藤原書店、2021年2月、本体3,000円、A5判並製336頁、ISBN978-4-86578-296-7
『新渡戸稲造 1862-1933〈新版〉――我、太平洋の橋とならん』草原克豪著、藤原書店、2021年2月、本体4,200円、四六判上製544頁+口絵8頁、ISBN978-4-86578-301-8

★藤原書店さん2月新刊は4点。ボワイエ『パンデミックは資本主義をどう変えるか』は『Les Capitalismes à l'épreuve de la pandémie』(La Découverte, 2020)の全訳。原題は「パンデミックの試練に立つ資本主義」。原書に紐づけられた著者のウェブサイトに掲載された78頁におよぶ図・表・コラムのうち、日本語版では図表類を訳書中に取り入れたとのことです。また日本語版では2篇の新しい文章として、書き下ろしの「日本の読者へ」と、補章「歴史的出来事をリアルタイムで分析することは可能か」が加わっています。

★『ワクチン いかに決断するか』は、「米国の1976年の豚インフルエンザ事件を語るとき、必ずといってよいほど引用される基本図書」(訳者あとがき)だという『The Epidemic That Never Was: Policy-Making and the Swine Flu Affair』(Vintage Books, 1983)の訳書で、2009年に時事通信出版局より刊行された訳書『豚インフルエンザ事件と政策決断――1976起きなかった大流行』の改訂版です。訳者による巻頭の「日本語版の出版にあたって」によれば「藤原書店版では、時事通信版のときから現在までにいたる12年間にあった出来事をふまえ、種々の訳注」などを変え、「適宜、訳文をあたらしいものに替え」て、さらに「付録A~E」を巻末に移設し各項目の順序を変更したとのことです。

★『中国の何が問題か?』は『The China Questions: Critical Insights into a Rising power』(Harvard University Press, 2018)を全訳し、マイケル・ソーニによる「日本語版への序」を加えたもの。「中国共産党体制に正統性はあるか?」から「過去六十年で中国研究はどう変わったか?」まで、中国をめぐる36問の問いにハーバード大学の研究者たちが答えるものとなっています。ソーニは「日本語版への序」でこう書いています。「日本語版の翻訳中にエズラ・ヴォーゲル氏が亡くなった。氏のエッセイは「日中は果たしてうまくやれるのか?と問う(Q.13)。国際緊張が高まり、国際協力が喫緊の課題である今、この問いはかつてなく重い」(4頁)。ヴォーゲルは簡潔な論考のなかで日中関係の古い歴史と改善の契機について忌憚なく語っています。


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