★ここ最近の注目新刊を列記します。
『プルーストとシーニュ〈新訳〉』ジル・ドゥルーズ著、宇野邦一訳、法政大学出版局、2021年1月、本体3,000円、四六判上製270頁、ISBN978-4-588-01127-6
『自由の限界――世界の知性21人が問う国家と民主主義』鶴原徹也編、中公新書ラクレ、2021年1月、本体880円、新書判312頁、ISBN978-4-12-150715-0
『能動的綜合――講義・超越論的論理学 1920-21年』エトムント・フッサール著、山口一郎/中山純一訳、知泉書館、2020年12月、本体3,600円、新書判上製316頁、ISBN978-4-86285-326-4
『改訂版 全訳 統治論』ジョン・ロック著、伊藤宏之訳、八朔社、2020年12月、本体3,800円、四六判上製424頁、ISBN978-4-86014-098-4
『新版 哲学入門』カール・ヤスパース著、林田新二訳、リベルタス出版、2020年12月、本体2,700円、A5判上製192頁、ISBN978-4-905208-10-5
『アイデンティティ――断片、率直さ』ジャン=リュック・ナンシー著、伊藤潤一郎訳、水声社、2020年12月、本体2,000円、46判上製140頁、ISBN978-4-8010-0544-0
『早稲田文学 2020年冬号』早稲田文学会発行、筑摩書房発売、2020年12月、本体2,300円、B6判並製394頁、ISBN978-4-480-99324-3
★ドゥルーズ『プルーストとシーニュ〈新訳〉』は、一文学論に留まらずドゥルーズ哲学の根幹をも明かしてくれる重要書。同局より刊行され版を重ねていた宇波彰訳(1974年;増補版1977年)以来の新訳。底本は76年第3版。宇波訳から新訳に切り替わるのは同局では『ベルクソンの哲学』(宇波訳、74年)から『ベルクソニスム』(檜垣立哉/小林卓也訳、2017年)への変更依頼。旧訳は『ベルクソンの哲学』と同様に絶版となるので、宇波訳『プルーストとシーニュ――文学機械としての『失われた時を求めて』〔増補版〕』も参照したい向きは書店さんが返品する前に急いで店頭のものを確保した方がいいです。最新刷は2003年の増補版第9刷かと思われます。
★『自由の限界』は、読売新聞東京本社編集委員の鶴原徹也さんが聞き手となり、2012年かから2020年にかけてインタヴューを取って記事にしてきたものの中から21人を選んで1冊に編んだもの。世界の現状を問い、未来を占う時事本です。21人は掲載順に以下の方々。エマニュエル・トッド、ジャック・アタリ、ブレンダン・シムズ、リチャード・バーク、スラヴォイ・ジジェク、マルクス・ガブリエル、ジャンピエール・フィリユ、タハール・ベンジェルーン、アミン・マアルーフ、マハティール・モハマド、プラープダー・ユン、トンチャイ・ウィニッチャクン、張倫、パラグ・カンナ、岩井克人、ジャレド・ダイアモンド、ニーアル・ファーガソン、ジョセフ・スティグリッツ、ティモシー・スナイダー、パオロ・ジョルダーノ、ユヴァル・ノア・ハラリ。
★12月はドゥルーズの新訳に留まらず、西洋古典の初訳、改訂版、再刊などに見どころあり。フッサール『能動的綜合』はフッサリアーナ第31巻(原著1950年刊、底本は2000年)の訳書。同11巻『受動的綜合の分析』(山口一郎/田村京子訳、国文社、1997年)と対になるもの。ロック『改訂版 全訳 統治論』は、柏書房より1997年に刊行されたものの改訂版。「〔初版刊行後に〕内外のロック研究の成果から多くを学ぶことができたので、ここに改訂版を準備した」と。ヤスパース『新版 哲学入門』は、『哲学とは何か』(白水社、1978年;新装版1986年)から『哲学入門』を抜粋し、訳出されていなかった付録「哲学を学ぶひとのために」を新たに大沢啓徳さんによる翻訳で加えたもの。再刊にあたり「誤植等に必要最小限の訂正を加え、典拠情報に関する補足などを行なった」とのことです。
★ナンシー『アイデンティティ』は、『Identité : Fragments, franchises』(Galilée, 2010)の全訳で、「日本語版のための序文」は著者による書き下ろし。「「ナショナル・アイデンティティ」に関する押しつけがましい言説に抗うために、十年前にこの小著を書いた」(14頁)とナンシーはその序文で明かしています。「いついかなるときも「私」とは存在ではなく、言葉や思考や行動や作品や仕事という行為なのだ」(同)。
★早稲田文学 2020年冬号』は、判型変更したリニューアル号。特集は「価値の由来、表現を支えるもの―経済、教育、出版、労働……」と題されています。「本特集では「表現」の現在を、それを支える様々な下部構造や、そこで生じる「価値」の側から考えてみたい」(巻頭言より)。「今号の特集テーマはかなり以前から念頭にあったが、COVID-19蔓延によりその方向性は大きく変化した。あるいは問題の所在が急激に鮮明になったというべきか」(編集後記より)。問題意識に共感を覚えます。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『情念の経済学――タルド経済心理学入門』ブリュノ・ラトゥール/ヴァンサン・アントナン・レピネ著、中倉智徳訳、人文書院、2021年1月、本体2,400円、4-6判上製166頁、ISBN978-4-409-24136-3
『蔣介石の書簡外交――日中戦争、もう一つの戦場(上・下)』麻田雅文著、人文書院、2021年1月、本体各3,000円、4-6判上製各256頁、ISBN978-4-409-51088-9/978-4-409-51089-6
『レヴィナスの企て――『全体性と無限』と「人間」の多層性』渡名喜庸哲著、勁草書房、2021年1月、本体5,200円、A5判上製528頁、ISBN978-4-326-10289-1
『青いケシ大図鑑』吉田外司夫著、平凡社、2021年1月、本体12,000円、A4変判上製296頁、ISBN978-4-582-54265-3
★人文書院さんの新刊2点『情念の経済学』『蔣介石の書簡外交』は、いずれもまもなく発売(1月28日取次搬入)。ラトゥール/レピネ『情念の経済学』は、『L'économie, science des intérêts passionnés : Introduction à l’anthropologie économique de Gabriel Tarde』(La Découverte, 2008)の全訳。もともとはタルド最晩年の大著『経済心理学』(Psychologie économique, Alcan, 1902)が再刊される際の序文として書かれたそうです。帯文に曰く「全く新しい経済学の思想、アクターネットワークセオリーの原点」と。『蔣介石の書簡外交』は、東アジア国際政治史がご専門の岩手大学准教授・麻田雅文(あさだ・まさふみ:1980-)さんによる力作で、蒋介石の書簡や日記を分析することを通じ、日中戦争における「蒋介石の外交と、米英ソの対華政策を再考する試み」。
★『レヴィナスの企て』は発売済。フランス哲学/社会思想史がご専門の立教大学准教授・渡名喜庸哲(となき・ようてつ:1980-)さんの、満を持しての単独著第一作。「エマニュエル・レヴィナスについての筆者のこれまでの研究の一部をまとめたもの」(485頁)で、全体の構成としては書き下ろしとなる一冊です(一部、2007年から2019年までに発表してきた論文を大幅に加筆修正)。「本書は、レヴィナスのテクストを最初期から『全体性と無限』まで辿ることで、この企てがどのようなものだったかを明らかにする試みである」(1頁)。この企てというのは「人間の存在様態を、単に経験的に記述するのではなく、その条件をなす根源的な次元にまで遡って検討することで、多層的に描き出すこと」(5頁)であり、「さまざまな「世界との接触」における「感覚=意味(sens)」の多層性を描き出すこと」(7頁)だ、と説明されています。
★『青いケシ大図鑑』は発売済。帯文に曰く「ヒマラヤを象徴する花「青いケシ」(メコノプシス)のすべてを集大成。24の新種を含む全90種を700点の写真と最新の知見で紹介する」。書名のリンク先でサンプルをご覧になれます。著者の吉田外司夫(よしだ・としお:1949-)さんは植物研究家で写真家。既刊書に写真集『花のヒマラヤ』(平凡社、1994年)などがあります。