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注目新刊:ボヤン・マンチェフ『世界の他化』法政大学出版局、ほか

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★幻戯書房さん、作品社さん、法政大学出版局さん、平凡社さん、藤原書店さんの10月新刊より抜粋して列記します。

『山の花環 小宇宙の光』ペタル二世ペトロビッチ゠ニェゴシュ著、田中一生/山崎洋訳、幻戯書房、2020年10月、本体6,500円、四六変形判ソフト上製604頁、ISBN978-4-86488-208-8
『イェレナ、いない女 他十三篇』イボ・アンドリッチ著、田中一生/山崎洋/山崎佳代子訳、幻戯書房、2020年10月、本体4,500円、四六変形判ソフト上製456頁、ISBN978-4-86488-209-5

★幻戯書房さんの「ルリユール叢書」の10月新刊2点は、セルビアの二人の作家の作品の翻訳。ペタル二世ペトロビッチ゠ニェゴシュ(Petar II Petrović-Njegoš, 1813–51)は「セルビア〔モンテネグロ〕文学史上、最大の詩人」(巻末略歴より)。今般の『山の花環 小宇宙の光』では彼の二大叙事詩「山の花環」(1847年刊)、「小宇宙の光」(1854年刊)を収録。「山の花環」はセルビアにおいて「第二の聖書」(帯文より)と目されているのだそうです。両作品ともかつて旧訳が、ベオグラードのニェゴシュ財団より刊行されています(2003年「山の花環」、2007年「小宇宙の光」)。いわば合本改訂版である今回の書籍の刊行にあたっては、「日本で一般的なキリスト教用語を正教会の用語に改めた」(訳者解題より)とのことです。

★イボ・アンドリッチ(Ivo Andrić, 1892–1975)はユーゴスラビアのノーベル文学賞作家。『イェレナ、いない女 他十三篇』は表題作を含む短編小説8篇と、散文詩2篇、エッセイ4篇(巻頭の未分類の「橋」〔1933年〕を含めた場合)の合計14篇を収めています。このアンソロジーは、恒文社より1997年に刊行された『サラエボの鐘』(11篇を収録)の増補改訂改訳版と言ってよいようです。旧版収録のエッセイ「作家としてのニェゴシュ」が新版では外れ、新たに小説3篇「三人の少年」「アスカと狼」「イェレナ、いない女」と、エッセイ「コソボ史観の悲劇の主人公ニェゴシュ」が加わっています。旧版では「サラエボの鐘」と題されていた小説は新版では「一九二〇年の手紙」と改められている様子です。

★「世界のあらゆる場所で、私の思いの向かうところ、留まるところではどこでも、忠実で寡黙な橋に出会うのである。それらはまるで、心や目や足の前に現れるものすべてを結びつけ、和解させ、繋ぎ合わせて、分割や敵対や別離がないようにするという永遠の、飽くことなき人間の願望のようなものだ。〔…〕つまるところ、われわれの人生が示すあらゆるもの――思考、努力、視線、微笑、言葉、溜息――、それらすべては彼岸を求め、目的地として彼岸を目指し、彼岸にあってようやく真の意味を獲得する。すべてはなにかを、無秩序、死、あるいは無意味といったものを、克服して乗り越えなくてはならない。なぜなら、すべては渡し場であり、両端が無限の彼方にかすむ橋でって、これに比べれば地上の橋は〔…〕曖昧な象徴でしかない」(アンドリッチ「橋」10~11頁)。

『〈敵〉と呼ばれても』ジョージ・タケイ/ジャスティン・アイジンガー/スティーヴン・スコット著、ハーモニー・ベッカー画、青柳伸子訳、作品社、2020年10月、本体2,000円、B5判並製208頁、ISBN978-4-86182-826-3
『ラスト・タイクーン』F・スコット・フィッツジェラルド著、上岡伸雄編訳、作品社、2020年10月、本体2,800円、46判上製412頁、ISBN978-4-86182-827-0

★作品社さんの10月新刊より2点。『〈敵〉と呼ばれても』は、米国の日系俳優ジョージ・タケイさんが体験した「第二次世界大戦中に3年間を過ごした日系人強制収容所での日々」(帯文より)とその後の半生を簡潔に描いたグラフィック・ノヴェル。原書は『They Called Us Enemy』(IDW Publiching, 2019)です。日系人の困難な歩みは読んでいてつらいですが、タケイさんが「日本版のためのあとがき」に書いた言葉を忘れずにいたいと思います。「1940年代に私たちが耐え忍んだのと同様の偏見やヒステリー状態が、世界のいたるところで、これまで発言を抑えられてきた人々の自由や生活の手段を脅かしつづけているのです」(207頁)。タケイさん自身による関連動画を下段に貼り付けておきます。



★『ラスト・タイクーン』は、フィッツジェラルドの遺作である表題作を、未完成原稿に忠実なブルッコリ版(ケンブリッジ大学出版、1993年)を底本にウィルソン版(1941年)を参照しつつ訳出し、短編作4篇と書簡24通を併録したもの。「最晩年のフィッツジェラルドを知る最良の一冊、日本オリジナル編集」(帯文より)。短編集のうち「監督のお気に入り」「最後のキス」「体温」は初訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

『世界の他化――ラディカルな美学のために』ボヤン・マンチェフ著、横田祐美子/井岡詩子訳、法政大学出版局、2020年10月、本体3,700円、四六判上製316頁、ISBN978-4-588-01115-3
『サン=ジョン・ペルスと中国――〈アジアからの手紙〉と『遠征』』恒川邦夫著、法政大学出版局、2020年10月、本体4,600円、四六判上製496頁、ISBN978-4-588-49038-5

★法政大学出版局さんの10月新刊より2点。『世界の他化』は、ブルガリアの哲学者マンチェフ(Boyan Manchev, 1970-)さんの著書『L'Altération du monde : Pour une esthétique radicale』(Lignes, 2009)の全訳に、著者による書き下ろしの序文「世界の他化──力動的存在論のために」(1~16頁)を訳出して加えたもの。「本書の使命は変形そのものとしての世界という考えを――世界が悪化=変質してしまった時代に、とりわけ世界の変形という考えが衰退した時代に――肯定すること、つまりは世界の悪化=変質に抗して、他化としての世界と言う考え方を肯定することにあった」(2頁)。「世界の解放された物質の変容だけが、世界の他化を、言い換えれば存在論的革命を保証する。ラディカルな、様態の、変形する唯物論、これこそが私たちの使命なのだ。以上が『世界の他化』のプロレゴーメナ的賭け金である」(16頁)。

★『サン=ジョン・ペルスと中国』は、フランスの外交官で「近代カリブ海文学の父と見なされた」(帯文より)ノーベル賞詩人のサン=ジョン・ペルス(Saint-John Perse, 1887-1975;本名アレクシ・レジェ〔Alexis Leger〕)の「とくに中国時代の手紙や初期詩篇を紹介」(同)した研究書です。第二章「〈アジアからの手紙〉──中国時代のアレクシ・レジェ」は晩年の創作であるという一連の手紙の翻訳であり、第三章は代表作『遠征』(1924年)の新訳です。附録には初期詩篇『讃』と、中期詩篇『王達の栄光』が訳載されています。サン=ジョン・ペルス作品集としても貴重な一冊ではないでしょうか。

『ケブラ・ナガスト――聖櫃の将来とエチオピアの栄光』蔀勇造訳注、東洋文庫、2020年10月、本体3,800円、B6変判函入上製512頁、ISBN978-4-582-80904-6
『過激派の時代』北井一夫著、平凡社、2020年10月、本体3,200円、A5判並製224頁、ISBN978-4-582-27833-0
『〈戦後文学〉の現在形』紅野謙介/内藤千珠子/成田龍一編、平凡社、2020年10月、4-6判上製472頁、ISBN978-4-582-83850-3

★平凡社さんの10月新刊より3点。『ケブラ・ナガスト』は東洋文庫の第904巻。帯文に曰く「聖書のソロモンとシェバの女王のくだりの変奏に発する物語。聖櫃の自国への迎え入れを語り、新たなイスラエルとしてのエチオピアの栄光を誇る。第一人者による適訳、綿密な注釈で読む。ラスタファリ運動の聖典」。表題のケブラ・ナガストとは「王達の栄光」の意。「古代のアクスム王国で使用された古典エチオピア語」(凡例より)であるゲエズ語原典の、カール・ベツォルトによる校訂本(1905年)より全訳したという労作です。東洋文庫次回配本は2021年2月予定、『集蓼編』とのこと。

★『過激派の時代』は「札幌宮の森美術館」(改築中、2021年8月再開館予定)の記念事業として編まれた写真集。巻頭に置かれた同館評議員の静間順二さんによる挨拶文「札幌宮の森美術館の北井一夫作品」によれば「1964年から1968年にかけて、若き日の北井一夫氏が日本の学生たちの反戦運動、三里塚闘争、日大闘争を撮り続けた作品群を網羅しているのが、この『過激派の時代』です」と。東大全共闘の元代表で科学史家の山本義隆(やまもと・よしたか、1941-)さんは「『過激派の時代』に寄せて」と題した5頁にわたるテクストを寄稿されており、「貴重なフォト・ドキュメント〔…〕日本の民衆の歴史の失われてはならない記憶であり記録として残されなければならない」と記しておられます。遠い日の記憶という以上に、どの頁からも熱気が立ち昇り、血しぶきが噴き出してくるような、今なお生々しい、活きいきとした息吹の写真群です。

★『〈戦後文学〉の現在形』は「「戦後文学」というフレームを解体しながら、文学の現在形を創出することを目指して編まれた一冊」(5頁)であり、「「戦後」をめぐる歴史的想像力を媒介に、現在を起点として戦後文学の系譜を創造する」(同)試み。戦後をⅠ期(1945~1970年:戦後文学の時代)、Ⅱ期(1971~1989年:ポスト戦後の時代)、Ⅲ期(1990~2020年:記憶をめぐる闘争の時代)に分け、坂口安吾『戦争と一人の女』から多和田葉子『地球にちりばめられて』まで全60作品を37名の研究者が読み解きます。60作はそれぞれ書誌情報、作者紹介、内容紹介の基本データも掲出しており、巻末には関連年表もあるので、書店さんで現代日本文学の棚を歴史に沿って再構築されたい場合は、参考文献として役に立つのではないでしょうか。

『ウイルスとは何か――コロナを機に新しい社会を切り拓く』中村桂子/村上陽一郎/西垣通著、藤原書店、2020年10月、本体2,000円、B6変判上製232頁、ISBN978-4-86578-285-1
『新型コロナ「正しく恐れる」』西村秀一著、井上亮編、藤原書店、2020年10月、本体1,800円、A5判並製224頁、ISBN978-4-86578-284-4
『海から見た歴史〈増補新版〉――ブローデル『地中海』を読む』川勝平太編、網野善彦/石井米雄/I・ウォーラーステイン/川勝平太/鈴木董/二宮宏之/浜下武志/家島彦一/山内昌之著、藤原書店、2020年10月、本体3,300円、四六判上製368頁、ISBN978-4-86578-289-9

★藤原書店さんの10月新刊は3点。『ウイルスとは何か』は帯文に曰く「生命誌、科学史、情報学の各分野の第一線による緊急徹底討論」。2部構成で、第Ⅰ部「ウイルスと人間」では、中村桂子、村上陽一郎、西垣通の各氏による問題提起と質疑応答が行われます。第Ⅱ部「どういう社会を目指すのか」は3氏によるディスカッションです。巻頭の特記によれば「本書は、2020年7月22日、藤原書店催合庵で行われた座談会の記録である。司会・藤原良雄編集長」とのことです。

★『新型コロナ「正しく恐れる」』は、国立病院機構仙台医療センターのウイルスセンター長の西村秀一(にしむら・ひでかず、1955-)さんのインタヴューをまとめたもの。編者の井上亮さんは「まえがき」で西村さんをこう紹介しておられます。「同氏は35年のキャリアを持つウイルス学者だが、いま一般に励行されている「正義」に疑義を呈しているめずらしい専門家である。疫学的な「正義」一辺倒の専門家が多いなか、それによって社会が被る損失(とくに社会的弱者への影響)を問題視する数少ない医学者でもある」(3頁)。約10時間に及んだというインタヴューが実施されたのは今年7月下旬から8月上旬にかけて。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★『海から見た歴史〈増補新版〉』は、ブローデル『地中海』をめぐる日本の歴史家によるシンポジウムの記録として1996年に刊行されたものの増補新版。編者の川勝平太さんによる「新版への序――歴史観革命」と「『地中海』とは何か」、「続・エピローグ――海洋アジアと近代世界システム」が新たに追加されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。なお藤原書店さんは今年2020年に創立30周年を迎えられており、本書はその記念企画のひとつであるとのことです。


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