『全体主義の克服』マルクス・ガブリエル/中島隆博著、集英社新書、2020年8月、本体860円、253頁、ISBN978-4-08-721132-0
『コロナ後の世界を語る――現代の知性たちの視線』養老孟司/ユヴァル・ノア・ハラリ/福岡伸一/ブレイディみかこ/イアン・ブレマー/磯野真穂/伊藤隆敏/大澤真幸/荻上チキ/ 角幡唯介/鎌田實/五味太郎/斎藤環/坂本龍一/ジャレド・ダイアモンド/東畑開人/中島岳志/藤原辰史/藻谷浩介/山本太郎/柚木麻子/横尾忠則著、朝日新聞社編、朝日新書、2020年8月、本体790円、208頁、ISBN978-4-02-295094-9
『近代心理学の歴史――ETHレクチャー 第1巻 1933-1934』C・G・ユング著、E・ファルツェーダー編、河合俊雄監修、猪股剛/小木曽由佳/宮澤淳滋/鹿野友章訳、創元社、2020年8月、本体3,800円、A5並製360頁、ISBN978-4-422-11733-1
『テレビジョン――テクノロジーと文化の形成』レイモンド・ウィリアムズ著、木村茂雄/山田雄三訳、ミネルヴァ書房、2020年7月、本体3,500円、4-6判上製290頁、ISBN978-4-623-08848-5
『来訪神事典』平辰彦著、新紀元社、2020年8月、本体3,000円、A5判並製304頁、ISBN978-4-7753-1834-8
『エレホン』サミュエル・バトラー著、武藤浩史訳、新潮社、2020年7月、本体2200円、四六判上製319頁、ISBN978-4-10-507151-6
★『全体主義の克服』は2019年9月、2日間にわたってガブリエルさんと中島さんが英語で対話したものの一部を翻訳し活字化したものとのこと。巻頭の「はじめに」に中島さんの「哲学の使命」とガブリエルさんの「精神の毒にワクチンを」が置かれ、そこから対話が全7章に整理されて収録されています。巻末の「おわりに」では中島さんによる「「一なる全体」に抗するために」が配されています。書名のリンク先では、章立ての確認と、第一章「全体主義を解剖する」の冒頭7頁の立ち読みができます。ガブリエルさんの本格的な対談本は、日本では本書が初めてです。
★『コロナ後の世界を語る』は「朝日新聞デジタル」で4月末に開設された「コロナ後の世界を語る――現代の知性たちの視線」の一部を新書としてまとめたもの。先月から今月にかけて新書で刊行された類書には、『変質する世界――ウィズコロナの経済と社会』PHP新書、『コロナ後の世界』文春新書、『コロナ後の世界を生きる――私たちの提言』岩波新書、などがあります。養老さんやダイアモンドさん、藤原さん、藻谷さんらは類書でも寄稿されていますが、それはやむを得ません。類書すべてを比べ読みする楽しみというのもあります。養老さんの言う自立と不要不急の話が個人的には非常に印象的でした。
★『近代心理学の歴史』は、「ETH(エーテーハー)レクチャー」の第1巻(1933-1934年)。帯文に曰く「専門家にではなく一般の聴衆に、新たな時代に向かう心理学について語りかけたシリーズ第1巻」と。ETHとはEidgenössische Technische Hochschule、すなわちスイス連邦工科大学のこと。そのチューリッヒ校で行われた講義につき、完成原稿が存在していないために何人かのノートを照合して決定稿を作成しつつあるシリーズで、複雑な著作権事情により現時点では英訳のみの出版となっているそうです。原著は『History of Modern Psychology』(Princeton University Press, 2019)。第1巻では16講を収録。かのジョン・ロックフェラー(John Davison Rockefeller Sr., 1839-1937)に対する人物評や彼とのやりとりが第15講の末尾で紹介されますが、実に興味深いです。
★『テレビジョン』は、英国のマルクス主義理論家レイモンド・ウィリアムズ(Raymond Henry Williams, 1921-1988)の『Television: Technology and Cultural form』(Fontana, 1974; 2nd edition, Routledge, 1990)の全訳。子息のエデリンによる「第二版への序文」と註釈も訳出されています。カルチュラル・スタディーズの古典であり、訳者によれば「ウィリアムズの唯一まとまったテレビ論」(229頁)。テレビは民主主義実現への長い革命の道具でもあり、市民の日常を浸食する反革命の道具でもある(223~224頁参照)との本書の分析は、今なお傾聴に値します。
★『来訪神事典』は「時を定めて人々を訪れ、幸いを与えて災厄を祓う神」(5頁)をめぐり、「日本及び世界各国の仮面・仮装の来訪神行事の開催時期、起源・伝承、仮装の姿、仮面の形態、素材、地域の信仰、風土、行事の内容を理解する上で必要な用語について解説」(27頁)したもの。ユネスコ無形文化遺産である国内の10の行事が中心的に扱われています。甑島のトシドン、男鹿のナマハゲ、能登のアマメハギ、宮古島のパーントゥ、遊佐のアマハゲ、米川の水かぶり、見島のカセドリ、吉浜のスネカ、薩摩硫黄島のメンドン、悪石島のボゼ。
★『エレホン』は19世紀英国の作家サミュエル・バトラー(Samuel Butler, 1835-1902)の小説『Erewhon』(1872年)の新訳。理想郷に見えた未知の国が実はディストピアだったことを描いて、英国社会の風刺画とした名作です。既訳には、山本政喜訳『エレホン――山脈を越えて』(岩波文庫、1952年)、富川昭義訳『エレホン――連峰の彼方に』(清文堂、1975年;『概説『エレホン』『エレホン再遊記』』所収、勁草出版サービスセンター発行、勁草書房発売、1992年)、石原文雄訳『エレホン――倒錯したユートピア』(音羽書房、1979年)など。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『BLACK LIVES MATTER――黒人たちの叛乱は何を問うのか』河出書房新社編集部編、河出書房新社、2020年8月、本体1,800円、A5判並製208頁、ISBN978-4-309-24973-5
『政治の展覧会:世界大戦と前衛芸術』引込線/放射線パブリケーションズ企画制作、EOS ART BOOKS発行、2020年8月、本体1,500円、A5判並製160頁、ISBN978-4-9907403-1-3
『ねむらない樹 vol.5』書肆侃侃房、2020年8月、本体1,300円、A5判並製176頁、ISBN978-4-86385-408-6
★『BLACK LIVES MATTER』はまもなく発売となる緊急出版のアンソロジー。前半部は、マニュエル・ヤン「ブラック・ライヴズ・マターとは何か」に始まり、アンジェラ・デイヴィス、中村隆之、酒井隆史、木澤佐登志ら16名の各氏による14本の論考で構成。後半部は、高祖岩三郎+マット・ピーターソンの2氏監修による「蜂起するアメリカ――連続インタヴュー&現地報告」であり、4本のインタヴュー(マット・ピーターソン/シュリン・ロドリゲス/マリア・ヘロン/イドリス・アツ・ロビンソン)と7本の現地報告から成ります。圧倒的な熱量です。
★『政治の展覧会:世界大戦と前衛芸術』は、アートプロジェクト「引込線/放射線」から派生した批評誌「政治の展覧会」の第一弾。企画・制作が引込線/放射線パブリケーションズで、EOS ART BOOKSが発行、ツバメ出版流通の扱いです。目次詳細と内容見本は書名のリンク先をご覧ください。2本の翻訳(マリネッティ「未来派文学技術宣言+未来派文学技術宣言補遺」池野絢子訳、リシツキー「生産における芸術家」関貴尚訳)を含むテクスト9本と、図版と解説で誌上展示される19本の作品カタログがフルカラーで掲載された、意欲的な試みです。
★短歌ムック『ねむらない樹』の第5号は「リニューアル号」と銘打たれています。編集委員体制から編集人体制に移行したようです。メイン特集は短歌の私性を問う「短歌における「わたし」とは何か?」。山内志朗さんが「内臓と鬼火と星空と――短歌における〈私〉ということ」と題した論考を寄せているのが新鮮です。第2特集は「学生短歌会からはじまった」で学生短歌会アンソロジーを収録。第3特集は「くどうれいん/工藤玲音」で新作エッセイ、短歌、俳句、対談を掲載。詳細は誌名のリンク先でご覧いただけます。次号は来年2月刊行予定。