『現代思想2020年6月号 特集:汎心論――21世紀の心の哲学』青土社、2020年5月、本体1,500円、A5判並製238頁、ISBN978-4-7917-1398-1
『小説版 韓国・フェミニズム・日本』チョ・ナムジュ/松田青子/デュナ/西加奈子/ハン・ガン/イ・ラン/小山田浩子/高山羽根子/深緑野分/星野智幸著、河出書房新社、2020年5月、46変形判並製320頁、ISBN978-4-309-02883-5
『五輪と戦後――上演としての東京オリンピック』吉見俊哉著、河出書房新社、2020年4月、本体2,600円、46判上製368頁、ISBN978-4-309-25405-0
『法制度における男性差別――合法化されるミサンドリー』ポール・ナサンソン/キャサリン・K・ヤング著、久米泰介訳、作品社、2020年5月、本体3,600円、46判上製495頁、ISBN978-4-86182-797-6
『科学の人種主義とたたかう――人種概念の起源から最新のゲノム科学まで』アンジェラ・サイニー著、東郷えりか訳、作品社、2020年5月、本体2,700円、46判並製400頁、ISBN978-4-86182-810-2
『小説 夏の速度』四方田犬彦著、作品社、2020年5月、本体1,800円、46判上製162頁、ISBN978-4-86182-809-6
『黒田勝雄写真集 最後の湯田マタギ』黒田勝雄著、藤原書店、2020年5月、本体2,800円、B5判上製144頁、ISBN978-4-86578-271-4
『金時鐘コレクション(X)真の連帯への問いかけ――「朝鮮人の人間としての復元」ほか 講演集Ⅰ』金時鐘著、中村一成解説、細見和之解題、藤原書店、2020年5月、本体3,600円、四六変上製392頁+口絵2頁、ISBN978-4-86578-266-0
『内田義彦の学問』山田鋭夫著、藤原書店、2020年5月、本体3,300円、四六判上製384頁、ISBN978-4-86578-273-8
『評伝 関寛斎 1830-1912――極寒の地に一身を捧げた老医』合田一道著、藤原書店、2020年5月、本体2,800円、四六上製328頁、ISBN978-4-86578-272-1
★『現代思想2020年6月号 特集:汎心論』は巻頭に永井均さんへのインタビュー「いま心を哲学する」(聞き手=飯盛元章、8~26頁)が置かれ、「現代汎心論の震源地」と銘打って3篇の海外論考が訳出されていることを特記しておきます。デイヴィッド・ジョン・チャーマーズ「組合せ問題(抄)――汎心論のとり組むべき課題」(山口尚訳、27~54頁;"The Combination Preblem for Panpsychism", in: Panpsychism: contemporary perspectives, edited by G. Brüntrup and L. Jaskolla, Oxford University Press, 2016)、ゲレイン・ストローソン「実在論的な一元論――なぜ物理主義は汎心論を含意するのか」(大厩諒訳、55~85頁;"Realistic Monism: Why Physicalism Entails Panpsychism" in: Journal of Consciousness Studies, Vol. 13, No.19-11, 2006)、イアン・ハミルトン・グラント「あらゆる事物は考える――汎心論と自然の形而上学」(中島新訳、86~109頁;""All things think: Panpsychism and the metaphysics of nature", in: Mind that Abides: Panpsychism in the New Millennium, John Benjamins Publishing, 2009)。
★デイヴィッド・ジョン・チャーマーズ (チャルマーズとも:David John Chalmers, 1966-)は、オーストラリアの哲学者でオーストラリア国立大学哲学教授、同校意識研究センターのディレクター。訳書に『意識する心――脳と精神の根本理論を求めて』(林一訳、白揚社、2001年)、『意識の諸相』(上下巻、太田紘史ほか訳、春秋社、2016年)などがあります。ゲレイン・ストローソン(ギャレンとも:Galen Strawson, 1952-)は、イギリスの哲学者P・F・ストローソン(Peter Frederick Strawson, 1919-2006)の長男でテキサス大学オースティン校哲学科教授。イアン・ハミルトン・グラント(Iain Hamilton Grant, 1963-)は、イギリスの哲学者で、西イングランド大学ブリストル校上級講師。
★河出書房新社さんの4~5月新刊より2点。特記したいのは『小説版 韓国・フェミニズム・日本』。帯文に曰く「「文藝」86年ぶり3刷の2019年秋季号特集小説がパワーアップ。日韓最前線、12人の作家たちが響きあう」。12篇のうち、チョ・ナムジュ「離婚の妖精」小山内園子/すんみ訳、デュナ「追憶虫」斎藤真理子訳、の2篇が初邦訳。松田青子「桑原さんの赤色」は書き下ろし。なお、今月作品社から刊行された四方田犬彦さんの小説『夏の速度』は1980年に書き下ろされたもの。1979年の夏、朴正煕軍事政権下のソウルで主人公の日本人が体験した出来事が綴られています。わずかな修正を加えてついに出版。この2冊、さらに藤原書店さんの新刊『金時鐘コレクション(X)』を隣同士に置いて下さる書店員さんがいらっしゃると良いのですが。
★作品社さんの5月新刊より3点。特記しておきたいのは『Legalizing Misandry: From Public Shame to Systemic Discrimination Against Men』(McGill-Queen's University Press, 2006)の抄訳『法制度における男性差別』。訳者あとがきによれば割愛したのは第1章(マクマーティン児童性的虐待事件)、第8章(セクシュアルハラスメントの法律)、付録2~5および7~13とのこと。そのかわり、巻頭にはネイサンソンによる日本語版序文「より広がり続ける男性蔑視〔ミサンドリー〕――「レイプカルチャー」から「#Me Too」へ」が収められています。「男性全体に対する敵意の津波は、アンデンティティハラスメントに達している。これは男性にとって、女性にとってのセクシュアルハラスメントと機能的に同等であると私は示唆する」(8頁)。「自分たちが潜在的なレイピストである――そして法律からそのように扱われるのに値する――と信じるようになった男性が、健全なアイデンティティを持てる確率は極めて低い。男性は悪の加害者階級であるという考えを言行ともに押し進めている全ての女性は、つまり簡単に言えば、男性をハラスメントしている」(8~9頁)。本書に先行するナサンソン/ヤングの共著には『広がるミサンドリー――ポピュラーカルチャー、メディアにおける男性差別』(原著2001年; 久米泰介訳、彩流社、2016年)があります。
★藤原書店さんの5月新刊は4点。特記しておきたいのは、岩手県西和賀郡湯田町(現:西和賀町)に20年間通い、シシ(熊)獲りを続けてきたマタギたちの生活、家族、風習を丁寧に記録した写真集『最後の湯田マタギ』。「見た瞬間から強く感動しました」との瀬戸内寂聴さんの推薦文が目を惹きます。黒田さんは巻末の「みちのく湯田撮影二十一年」でこう綴っておられます。「製造会社に勤務していた私は、湯田への撮影行を休日と有給休暇、時には盛岡市雫石にある関連会社への出張のおりも日程を調整して活用した。雫石から湯之沢まではバス一本で来られる。/この本に収めた写真は1977年から97年までの撮影となっている。つまり、39歳から59歳までの21年間の作品である。98年1月の定年退職後も3回ほど湯田を尋ねたが、生活環境の変化に加え、ちょうどフィルムからデジタルへの移行時にも重なり、結局、撮影は途絶えた。〔…〕40年の時空を超えて、この人たちの記録を残さなければ申し訳ないとの思いが募った」(140~141頁)。なお黒田さんは藤原書店の雑誌「兜太」の写真担当をお務めです。
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