『フロイト全集(別巻)総索引、年表、主要術語訳語対照表ほか』高田珠樹/須藤訓任/新宮一成/道籏泰三編、岩波書店、2020年2月、本体8,000円、A5判上製22+453頁、ISBN978-4-00-092683-6
『ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究――出来事、運命愛、そして永久革命』鹿野祐嗣著、岩波書店、2020年2月、本体7,500円、A5判上製12+601+147頁、ISBN978-4-00-061392-7
『マルク・リシール現象学入門――サシャ・カールソンとの対話から』マルク・リシール/サシャ・カールソン著、澤田哲生監訳、ナカニシヤ出版、2020年2月、本体3,600円、A5反並製392頁、ISBN978-4-7795-1427-2
『食の歴史――人類はこれまで何を食べてきたのか』ジャック・アタリ著、林昌宏訳、プレジデント社、2020年2月、本体2,700円、四六判上製392頁、ISBN978-4-8334-2361-8
『言葉と物――人文科学の考古学〈新装版〉』ミシェル・フーコー著、渡辺一民/佐々木明訳、新潮社、2020年2月、本体4,700円、四六判上製459+59頁、ISBN978-4-10-506708-3
★『フロイト全集(別巻)』は最終回配本で、本巻22+別巻1の計23冊が完結したことになります。別巻には月報はなし。2006年11月に刊行が開始され、本巻が完結したのが2012年5月。早いものであれから約8年が経過したわけです。別巻出版までの苦難の道のりについては高田珠樹さんが「まえがき」で言及されています。本巻のうち半分の11点がすでに版元品切ですが、全集は基本的に予約出版ですからいずれ将来的に全巻を再発売する時までは重版されないことが予想されます。
★『ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究』は、鹿野祐嗣(しかの・ゆうじ:1988-)さんの2016年の博士論文を加筆修正したもの。博論当時の主査は藤本一勇さん、副査は鈴木泉さん、立木康介さん、江川隆男さん、村井翔さん。目次は書名のリンク先でご確認いただけます。また序文と序論第1節の一部を立ち読みすることができます。「われわれが絶えず訴えていくことになるもの、それはいわば「ドゥルーズに帰れ」というメッセージに他ならない」(xi頁)。
★『マルク・リシール現象学入門』は『L'Écart et le Rien. Conversation avec Sacha Carlson』(Millon, 2015)の全訳。帯文に曰く「フランス現象学最後の巨星が、自身の哲学の全貌を噛み砕いて語る、哲学の愉悦を濃縮した大対談録」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。序論「軌跡――伝記的な標点をいくつか」は戦後フランスの現代思想を彩った群像をめぐる同時代的証言を含むもので興味深いです。ベルギー出身の現象学者リシール(Marc Richir, 1943-2015)の単独著の既訳にはわずかに『身体――内面性についての試論』(和田渡/川瀬雅也/加国尚志訳、ナカニシヤ出版、2001年)があるだけですが、今回の魅力的な対談本をきっかけに再発見されると良いと思います。
★『食の歴史』は『Histoires de l'alimentation. De quoi manger est-il le nom ?』(Fayard, 2019)の全訳。目次詳細は書名のリンク先で公開されています。「われわれが人類のサバイバル、そして人間らしい満ち足りた自然な暮らしを望むのなら、これまでの世代の食生活、彼らが食に費やした時間、彼らが食と関連づけた社会的なつながり、彼らが食に費やした金、食の上に築かれ、そして食によって滅びた権力を探究してみるべきだろう。/食が全員にとって、快楽、分かち合い、想像、喜び、自己超越の源泉にならなければならない。また、食を地球と生命を救う手段にする必要がある」(はじめに、22頁)。アタリによる数々の歴史研究はこんにち注目されている「グローバル・ヒストリー」とも交差するものではないかと思います。
★『言葉と物〈新装版〉』は函入本からカバー装へのスイッチ。世間的には新訳や改訳が期待されていた節があるものの、その実現は簡単ではなかったということなのでしょう。また、函はお金が掛かるので、軽装にしたということかと想像します。改版を出すなら文庫化を、という期待もあったでしょうけれども、なにせ本文だけでも四六判2段組450頁超の大著ですから、現状では文庫化も難しかったということかと。巻末の広告によれば、『狂気の歴史』『監獄の誕生』(ともに田村淑訳)も今年、新装版が出るようです。
★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『HAPAX 12 香港、ファシズム』HAPAX編、夜光社、2020年3月、本体1,500円、四六判変形並製208頁、ISBN978-4-906944-19-4
『現代思想2020年3月号 特集=気候変動』青土社、2020年2月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1395-0
★ここ最近の人文社会系雑誌で特に注目したいのは、まもなく発売となる『HAPAX 12 香港、ファシズム』です。第1特集「香港」と第2特集「ファシズム」、そして寄稿が3本。版元紹介文に曰く「新たな「ファシズム」の到来は新たな蜂起の到来と並行する。〔…〕〈特集1〉での香港をめぐる一連のレポートは、〈特集2〉の「ファシズム」をめぐる諸考察と表裏をなしているはずだ」。収録作品は以下の通り。
〈特集1 香港〉
香港から放たれた矢/香港蜂起の教え|KID
香港2019――鏡の国の大衆運動あるいは漂移する遊行|Shiu
蜂起の三ヶ月|(CRIMETHINC)
龍脈のピクニック|KID
〈特集2 ファシズム〉
ネオリベラリズムと反復の地獄――ノンセクト的戦争機械のために|酒井隆史インタビュー
ファシズム5・0|友常勉
幼年期への退却|混世博戯党
「文明の死」とファシズム|鼠研究会
セリーヌとファシズム――戦いのあとの風景|原智広
偽ファシズム、あるいは「神化」の失敗について|ウルトラプルースト
〈寄稿〉
よどみと流れ|山本さつき
祈りのアナーキー|彫真悟
アナーキー原理としての「他力」|守中高明
『独裁者ティラノ・バンデラス――灼熱の地の小説』バリェ゠インクラン著、大楠栄三訳、幻戯書房、2020年2月、本体4,200円、四六変形判ソフト上製456頁、ISBN978-4-86488-193-7
『もう一つ上の日本史――『日本国紀』読書ノート:古代~近世篇』浮世博史著、幻戯書房、2020年2月、本体2,400円、四六判並製448頁、ISBN978-4-86488-191-3
★幻戯書房さんの2月新刊で注目したいのは「ルリユール叢書」の最新刊、スペインの作家バリェ゠インクラン(Ramón María del Valle-Inclán, 1866-1936)による1926年の小説『独裁者ティラノ・バンデラス――灼熱の地の小説』の初訳です。帯文に曰く「独自の小説技法「エスペルペント」で描き出した、いびつで歪んだグロテスクな現実世界――ガルシア゠マルケス、フエンテスら世界文学者に継承される〈独裁者小説〉の先駆的作品」。帯表4に載せられた賛辞の中にはウナムーノによるこんな言葉もあります。「バリェ゠インクランの言語は個性的だ、ゆえに普遍的な言語を生み出した。個性にまさる普遍などないのだから」。なおバリェ゠インクランの作品の既訳書には『ソナタ』四部作があります(『春のソナタ』『夏のソナタ』『秋のソナタ』『冬のソナタ』吉田彩子訳、西和書林、1986~1988年)。
『源氏物語=反復と模倣』熊野純彦著、作品社、2020年2月、本体2,400円、46判上製120頁、ISBN978-4-86182-779-2
『生命の〈系統樹〉はからみあう――ゲノムに刻まれたまったく新しい進化史』デイヴィッド・クォメン著、的場知之訳、作品社、2020年2月、本体3,600円、A5判並製448頁、ISBN978-4-86182-796-9
『いかにアメリカ海兵隊は、最強となったのか――「軍の頭脳」の誕生とその改革者たち』阿部亮子著、作品社、2020年2月、本体2,700円、四六判上製352頁、ISBN978-4-86182-794-5
★作品社さんの2月新刊で特筆しておきたいのは、熊野純彦さんがカントの三批判書の個人新訳を手掛けているさなかに読んでいたという「源氏物語」をめぐる2篇のテクストを1冊にまとめた『源氏物語=反復と模倣』。「反復と模倣――源氏物語・回帰する時間の悲劇によせて」(初出:『季刊日本思想史』第80号、ぺりかん者、2012年)と「源氏物語・小考――和辻・小林、宣長」(初出:『図書』2018年12月号、岩波書店)を収録。前者は「高校生のときから親しんできた源氏物語をめぐって、まとまった文章を書く最初の機会となった」と「あとがき」で振り返っておられます。
『世界の悲惨 Ⅲ』ピエール・ブルデュー編、荒井文雄/櫻本陽一監訳、藤原書店、2020年2月、本体4,800円、A5判並製464頁、ISBN978-4-86578-257-8
『公共論の再構築――時間・空間・主体』中谷真憲/東郷和彦編、藤原書店、2020年2月、本体3,800円、A5判上製344頁、ISBN978-4-86578-254-7
『近代家族の誕生――天皇制・キリスト教・慈善事業』大石茜著、藤原書店、2020年2月、本体2,900円、四六判上製272頁、ISBN978-4-86578-260-8
『大地よ!――アイヌの母神・宇梶静江自伝』宇梶静江著、藤原書店、2020年2月、本体2,700円、四六判上製448頁、ISBN978-4-86578-261-5
★藤原書店さんの2月新刊で特筆しておきたいのは、ブルデュー編『世界の悲惨』全三分冊の完結。第Ⅲ分冊では、第Ⅵ部「遺産相続の矛盾」、第Ⅶ部「理解するとは」、ブルデューによる「あとがき」などを収録。帯文に曰く「国民戦線の活動家、失業中の女優、物理学研究社などの語りに加え、社会学者としての「聞き取り」を成立させるための方法論を明かす」と。
『文化大革命――人民の歴史 1962-1976(上)』フランク・ディケーター著、谷川真一監訳、今西康子訳、人文書院、2020年2月、本体3,000円、4-6判並製280頁、ISBN978-4-409-51082-7
『文化大革命――人民の歴史 1962-1976(下)』フランク・ディケーター著、谷川真一監訳、今西康子訳、人文書院、2020年2月、本体3,000円、4-6判並製246頁、ISBN978-4-409-51083-4
『博物館と文化財の危機』岩城卓二/高木博志編、人文書院、2020年2月、本体2,300円、4-6判並製194頁、ISBN978-4-409-24131-8
『現代経済思想史講義』根井雅弘著、人文書院、2020年2月、本体1,800円、4-6判並製190頁、ISBN978-4-409-24130-1
『家事労働の国際社会学――ディーセント・ワークを求めて』伊藤るり編著、定松文/小ヶ谷千穂/平野恵子/大橋史恵/巣内尚子/中力えり/宮崎理枝/篠崎香子/小井土彰宏/森千香子著、人文書院、2020年2月、本体6,300円、A5判上製392頁、ISBN978-4-409-24132-5
★人文書院さんの2月新刊で特に注目したいのはまもなく発売となる、香港大学教授のディケーター(Frank Dikötter, 1961-)による『文化大革命』上下巻。原著は2016年刊。監訳者の谷川さんによれば「毛沢東時代の中国についての三部作の最後の一作」。三部作の第一部は『毛沢東の大飢饉――史上最も悲惨で破壊的な人災 1958-1962』(原著2010年;中川治子訳、草思社、2011年;草思社文庫、2019年)。未訳の第二部は2013年刊の『解放の悲劇――中国革命史 1945-1957』。
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