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注目新刊:水声社よりデスコラ『自然と文化を越えて』、クラストル『政治人類学研究』が発売

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『自然と文化を越えて』フィリップ・デスコラ著、小林徹訳、水声社、2020年1月、本体4,500円、四六判上製637頁、ISBN978-4-8010-0467-2
『政治人類学研究』ピエール・クラストル著、原毅彦訳、水声社、2020年1月、本体4,000円、A5判上製314頁、ISBN9978-4-8010-0468-9
『ゲーテとドイツ精神史――講義・講演集より』エルンスト・カッシーラー著、田中亮平/森淑仁編訳、知泉書館、2020年1月、本体5,000円、新書判上製472頁、ISBN978-4-86285-308-0
『本を売る技術』矢部潤子著、本の雑誌社、2020年1月、本体1,600円、四六判並製240頁、ISBN978-4-86011-438-1
『形を読む――生物の形態をめぐって』養老孟司著、講談社学術文庫、2020年1月、本体960円、232頁、ISBN978-4-06-518546-9
『荀子』湯浅邦弘著、角川ソフィア文庫、2020年1月、本体840円、208頁、ISBN978-4-04-400546-7
『哲学の起源』柄谷行人著、岩波現代文庫、2020年1月、本体1,220円、272頁、ISBN978-4-00-600413-2
『養生訓』貝原益軒著、松田道雄訳、中公文庫、2020年1月、本体880円、280頁、ISBN978-4-12-206818-6



★『自然と文化を越えて』は叢書「人類学の転回」の第14弾。フランスの人類学者デスコラ(Philippe Descola, 1949-)の主著『Par-delà la nature et la culture』(Gallimard, 2005)の待望の翻訳であり、デスコラの単独著の初訳本となります。「人類学の最近の潮流における根本的な変化――お望みならパラダイム・シフトと言ってもよい――を提供している」と、かのサーリンズが英訳版の「緒言」で書いていることが訳者あとがきで紹介されています。2段組で本文と注と文献一覧を併せると600頁を超える大冊です。


★デスコラはこう書きます。「人類学は素晴らしい挑戦に直面しているのだ。すなわち、人間主義〔ヒューマニズム〕という擦り切れた形式と共に消え去るか、あるいは形態変化して、まさに人間〔アントロポス〕意外のもの、つまり人間と結びついているのに今のところ周辺的役割に遠ざけられている存在者の集合体を、まるごと研究対象に含めるような仕方で、自らの領域や諸々の道具について再考するかである。あるいは、もっと慣例的な言葉を使うならば、文化の人類学を自然の人類学によって裏打ちせねばならない。自然の人類学は、このような周辺的存在者たちの領分と、人間が現働化している世界に開かれている。自然の人類学を用いて、人間は自らを対象化するのである」(序、21頁)。


★この言葉は叢書「人類学の転回」全体を象徴するものでもあり、新実在論を含む、脱人間中心主義の人文学(ポスト・ヒューマニティーズ)の基軸を示すものでもあります。デスコラの本書はその中心で、文化のコードを揺るがす強烈な磁場を発生させ、新世界への視野を拓いています。


★『政治人類学研究』は叢書「言語の政治」の第23弾。『Recherches d'anthropologie politique』(Seuil, 1980)の全訳で、フランスの人類学者クラストル(Pierre Clastres, 1934-1977)による論考12篇をまとめたものです。同叢書では『国家に抗する社会――政治人類学研究』(渡辺公三訳、水声社、1989年)に次ぐ2冊目。副題が今回の新刊の正題と同じですが、別々の書籍です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。第11章「暴力の考古学――未開社会における戦争」は、原著が単行本としても刊行されていたこともあり、既訳が2003年に出版されています(毬藻充訳、現代企画室)。



★『ゲーテとドイツ精神史』は「知泉学術選書」の第11弾。カッシーラー遺稿集でゲーテを論じた講義や講演を収めた第10巻と第11巻から主要なものを訳出したもの。第Ⅰ部「ゲーテと精神史のための論集」と第Ⅱ部「ゲーテ講義集」の2部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「カッシーラーの哲学の基軸が通説とは違い、カントよりむしろゲーテにあったことが本書を通して明らかにされる」(カバー表4紹介文より)。なお、知泉書館さんでは2006年に森淑仁編訳『カッシーラー ゲーテ論集』を出版されています。



★『本を売る技術』は「WEB本の雑誌」で連載されたものに書き下ろしを加えたもの。全7講から成り、本の雑誌社営業部の杉江由次さんとの対談形式で綴られています。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。「これまでマニュアル化不可能、口承・口伝、見て盗む、あるいは独学で行なわれてきた書店員の多岐にわたる仕事が、今はじめて具体的・論理的に語られる」(帯裏紹介文より)。矢部潤子さんは出版業界人なら知らぬ人はいないヴェテラン書店員。実務概論としてだけでなく、書店人の職能の証言としても後世に残るだろう貴重な一冊です。


★『形を読む』は1986年に培風館より単行された単行本に加筆修正を施し、文庫版まえがきを付したもの。「この本は、私が研究生活で考えたことの大部分を含んでいる」(3頁)。『唯脳論』『バカの壁』、近作の新書『遺言』までがこのまえがきで言及されています。だとすれば、養老さんの思考の螺旋階段を下ったその基底は形態学にある、と言えるのかもしれません。


★そのほか文庫を一挙におさらいしておくと、『荀子』は「ビギナーズ・クラシックス 中国の古典」の一冊。現代語訳、書き下し分、返り点付き原文、解説、コラムで構成。「性悪説にもとづく「礼治」の教え」(帯文より)の現代性に再注目したい必読古典。『哲学の起源』は2012年11月に刊行された単行本の文庫化。もともとは月刊誌「新潮」に連載されたもの。新たに「岩波現代文庫版あとがき」が加えられています。ジジェクの推薦文が帯に刻まれています。『養生訓』は中公文庫プレミアム「知の回廊」の一冊。1977年の中公文庫の改版で、新たに巻末エッセイとして玄侑宗久さんによる「自愛の作法」が加えられています。


★続いてここ一、二か月で重版が掛かった既刊書を2点挙げます。


『新しい哲学の教科書――現代実在論入門』岩内章太郎著、講談社選書メチエ、2019年10月、本体1,800円、四六判並製288頁、ISBN978-4-06-517394-7
『戦争プロパガンダ10の法則』アンヌ・モレリ著、永田千奈訳、草思社文庫、2015年5月、本体800円、208頁、ISBN978-4-7942-2106-3



★『新しい哲学の教科書』は昨年10月刊行で12月に2刷が出ています。メイヤスー、ハーマン、チャールズ・テイラーとヒューバート・ドレイファス、ガブリエルの思想を、それぞれ一章を割いて解説したもの。副題にある通り、ここしばらく注目を浴び続けている「現代実在論」の関連書籍を書棚でまとめたい場合は中核にできる入門書です。「思弁的実在論、多元的実在論、新しい実在論の中心的な考え方を可能なかぎり簡明に提示」し、「現代の実存感覚に光を当てることで、「実在論」の意義を「実存論」的に取り出す」(「まえがき」3頁)ことを目的とした一冊。


★『戦争プロパガンダ10の法則』は2002年3月刊の単行本が2015年2月に文庫化され、5年後の2020年1月に3刷となっています。フランス語の原著『Principes élémentaires de propagande de guerre』は2001年に刊行。イギリスの貴族出身の政治家でポンソンビー男爵(Arthur Augustus William Harry Ponsonby, 1871-1946)の名著『戦時の嘘』(Falsehood in War-Time, Allen and Unwin1928)が分析した10個のウソを1章ごとに敷衍して論じたもの。曰く「われわれは戦争をしたくはない:We do not want war」「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ:The opposite party alone is guilty of war」「敵の指導者は悪魔のような人間だ:The enemy is inherently evil and resembles the devil」「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う:We defend a noble cause, not our own interests」「われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる:The enemy commits atrocities on purpose; our mishaps are involuntar」「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている:The enemy uses forbidden weapons」「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大:We suffer small losses, those of the enemy are enormous」「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」「われわれの大義は神聖なものである:Recognized artists and intellectuals back our cause」「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である:Our cause is sacred」(訳文はモレリ本からで英語原文はポンソンビーのもの)。昔も今もこうした狡猾な言説は変わらないようです。


★なお、ポンソンビーの著書には古い訳書があります。『戦時の嘘――大戦中の各国を翔け回つた嘘のとりどり』(永田進訳、東晃社、1942年)です。一方、ネット書店に書誌情報が今なお残っている『戦時の嘘――戦争プロパガンダが始まった』(東中野修道監修、エドワーズ博美訳、草思社、2015年7月)というのは国会図書館などには登録されておらず、幽霊なのかもしれません。


★続いてちくま学芸文庫の2月新刊4点を列記します。


『企業・市場・法』ロナルド・H・コース著、宮澤健一/後藤晃/藤垣芳文訳、ちくま学芸文庫、2020年2月、本体1,400円、400頁、ISBN978-4-480-09961-7
『折口信夫伝――その思想と学問』岡野弘彦著、ちくま学芸文庫、2020年2月、本体1,600円、514頁、ISBN978-4-480-09963-1
『パワー・エリート』C・ライト・ミルズ著、鵜飼信成/綿貫譲治訳、ちくま学芸文庫、2020年2月、本体1,900円、736頁、ISBN978-4-480-09967-9
『数学と文化』赤攝也著、ちくま学芸文庫、2020年2月、本体1,100円、240頁、ISBN978-4-480-09970-9


★『企業・市場・法』は1992年に東洋経済新報社から刊行された単行本の文庫化。原著は『The Firm, the Market, and the Law』(University of Chicago Press, 1988)。新たに加えられた、共訳者の後藤晃さんによる「ちくま学芸文庫版『企業・市場・法』刊行に寄せて」には「後藤、藤垣の二名で全面的に訳を見直し、修正を加えた。今回の改訂はかなり大幅なものとなっている」とのことです。帯文に曰く「経済を支える「制度」に注目し、現代経済学の礎となった名著」と。


★『折口信夫伝』は2000年に中央公論新社より刊行された単行本の文庫化。もともとは「中央公論」誌上で96年から98年にかけて零細されたもの。巻末特記によれば「文庫化にあたっては、明らかな誤りは訂正し、ルビを加えた」とのことです。帯文に曰く「最後の弟子が描き切る折口の学問と内なる真実」。著者の岡野弘彦(おかの・ひろひこ:1924-)さんは歌人でいらっしゃいます。巻末には文庫判あとがきと、「師と共にありし、若き日――文庫版に寄せて」5首が新たに配されています。


★『パワー・エリート』は、1969年に東京大学出版会より上下巻で刊行されたものの合冊文庫化。原著『The Power Elite』は1956年刊。企業大富豪、政界幹部、軍上層部から成る権力エリート層による大衆支配を綿密に分析した名著。文庫判解説として巻末に伊奈正人さんによる「C・ライト・ミルズと格差社会」が加わっています。伊奈さんはこう本書を評価します。「『パワー・エリート』はなにより、集中した権力の制御不能を直視することを、公衆に訴えた書物である」(713頁)。


★『数学と文化』は1988年に筑摩書房より刊行された単行本の文庫化。もともとは放送大学で著者が行なった、「数学とは何か」をめぐる講義「数学と人間生活」のテキストに「いくらかの手を加えてできたもの」(まえがき、5頁)。「数の形成」から「数学と社会」まで全15章。巻末には逝去される前日にご執筆になったという「文庫化に際して」が新たに付されています。

★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。


『野蛮の言説』中村隆之著、春陽堂、2020年2月、本体2,600円、四六版並製356頁、ISBN978-4-394-19501-6
『離人小説集』鈴木創士著、幻戯書房、2020年2月、本体2,900円、四六判上製248頁、ISBN978-4-86488-190-6
『ねむらない樹 vol.4』書肆侃侃房、2020年2月、本体1,500円、A5判並製216頁、ISBN978-4-86385-389-8



★『野蛮の言説』は「春陽堂ライブラリー」の第2弾(第1弾は昨年10月発売の、真銅正宏『匂いと香りの文学誌』)。「21世紀以降、〈文明〉は失墜し、〈野蛮〉と呼びうる状況がむしろ常態化しているように思われます」(まえがき、3頁)。「他者の蔑視や排除という、なるべく避けておきたい人間の負の側面にあえて焦点を当てて考える必要があるのではないか」(同4頁)。主要目次や、帯に載っているブレイディみかこさんの推薦文は、書名のリンク先でご確認いただけます。



★『離人小説集』は「著者初の書き下ろし小説集」「〈分身〉としての世界文学史」(帯文より)。収録作品は以下の7篇です。「既視:芥川龍之介と内田百閒」「丘の上の義足:アルチュール・ランボー」「ガス燈ソナタ:稲垣足穂」「無人の劇場:フェルナンド・ペソア」「アデマの冬:原一馬」「風の狂馬:アントナン・アルトー」「天井の井戸:小野篁」。なお、原一馬は詳細不明の作家。鈴木さんと同年生まれ。カヴァー絵と挿絵は二階堂はなさんによるもの。


★『ねむらない樹 vol.4』は特集1が「第2回笹井宏之賞発表!」、特集2が「短歌とジェンダー」。後者の中核となる座談会「短歌とジェンダー」は川野芽生、黒瀬珂瀾、山階基、佐藤弓生の4氏によるもの。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。なお4号の刊行を記念して、2月21日(金)20時より、下北沢の本屋B&Bにて、大森静佳×佐藤弓生×染野太朗×千葉聡×寺井龍哉×東直子の6氏による「編集委員全員集合!「ねむらない樹」の作り方」が開催されます。



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