『社会的なものの発明――政治的熱情の凋落をめぐる試論』ジャック・ドンズロ著、真島一郎訳解説、インスクリプト、2020年1月、本体4,200円、四六判上製420頁、ISBN978-4-900997-74-5
『騒音の文明史――ノイズ都市論』原克著、東洋書林、2020年1月、本体3,800円、四六判上製432頁、ISBN978-4-99721-827-7
『自然宗教をめぐる対話』デイヴィッド・ヒューム著、犬塚元訳、岩波文庫、2020年1月、本体780円、文庫判226頁、ISBN978-4-00-336197-9
『怪物――ブッツァーティ短篇集Ⅲ』ディーノ・ブッツァーティ著、長野徹訳、東宣出版、2020年1月、本体2,200円、四六判変形並製259頁、ISBN978-4-88588-100-8
★『社会的なものの発明』はフランスの社会学者ドンズロ(Jacques Donzelot, 1943-)の主著のひとつ『L'invention du social : essai sur le déclin des passions politiques』(Fayard, 1984; Seuil, 1994)の全訳。巻頭には本書の「アウトラインが簡潔に予告された」講演論考だという1982年の「社会の動員」(La mobilisation de la société)がフランス語原稿から訳出され、巻末には注を併せて100頁強の「ドンズロの問いをひらくために――訳者解説に代えて」が置かれています。訳者の言葉を借りると本書は「フランスで「福祉国家」の名により展開した一連の統治実践をめぐる思想史的考察として、すでに古典の位置を占めている。〔…〕福祉国家体制の基層にあたる社会的なものが〔…〕統治戦略としていかに発明されたかを、本書は解き明かす」ものです。
★ドンズロの訳書はこれでようやく3冊目。ドゥルーズによるあとがき「社会的なものの上昇」が付された『家族に介入する社会――近代家族と国家の管理装置』(原著1977年;宇波彰訳、新曜社、1991年)は品切、『都市が壊れるとき――郊外の危機に対応できるのはどのような政治か』(原著2006年;宇城輝人訳、人文書院、2012年)は現在も新刊書店で入手可能です。前者はそろそろ文庫化されても良い頃でしょう。
★『騒音の文明史』は帯文に曰く「大都会の交響楽を聴く、耳へのまなざし〔…〕無数のメディアに表出した庶民の織りなす音風景の小譚を〔…〕縦横無尽に博捜する、ノイズ三都物語「東京篇」」とのこと。著者の原克(はら・かつみ:1954-:早稲田大学教育学部教授)さんは巻頭の「はじめに」で本書の狙いをこう端的に書いておられます、「騒音の歴史を通して日本の近代をあぶりだす」(2頁)と。全10章の章題を列記すると「都市の周縁の音世界」「寺の鐘と教会の鐘の政治学」「太鼓と木魚の社会秩序」「拍子木と自由の観念」「精神という神話とモダンタイムズ」「プライバシーの音響学」「騒音と静寂の権力論」「都市の交響楽」「サイレンと国家イデオロギー」「ラジオと時代の突端性」。本書に続く「ベルリン篇」や「ニューヨーク篇」は今後の課題、とのことです。
★『自然宗教をめぐる対話』はヒュームの死去より3年後に出版された『Dialogues concerning Natural Religion』(1779年)の全訳。凡例によれば初版本を底本としつつ、スコットランド国立図書館所蔵の草稿や、現代の各版の校訂・補注を参考にして、テキストの正本と意味を確定した、とのことです。巻末の訳者解説で本書は「ヒュームの理論的成果のエッセンスを集約しているばかりか、その実践的意図もはっきりと伝えるテキストであり、ヒュームの思想世界をわかりやすい伝えてくれる」と評価されています。岩波文庫でのヒュームは『人性論』全4巻、『市民の国について』上下巻に続く7冊目。その現代的再評価の割には文庫化が少ないです。
★『怪物』は未邦訳短篇集を謳った「ブッツァーティ短篇集」の第3弾。収録された18篇の題名は書名のリンク先でご確認いただけます。表題作「怪物」は屋根裏部屋での怪異目撃をめぐる話。心の内面へと下っていく筆致から滲む不穏な空気感はブッツァーティらしい独特のもの。同短篇集は第1巻『魔法にかかった男』2017年12月刊、第2巻『現代の地獄への旅』2018年12月刊、そして今回の第3巻で当初の計画を完遂したとのことですが、訳者あとがきによればまだまだ数冊分の未訳短篇が残っているとのこと。ぜひ続巻を期待したいです。
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