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注目新刊:ギールケ『歴史法学論集』全2巻、マンデヴィル『蜂の寓話』新訳、ほか

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★購入していたものの言及できていなかったここ約2か月分の単行本と文庫本を最近の新刊と一緒に列記します。


『歴史法学論文集 第二巻』オットー・フォン・ギールケ著、庄子良男訳、信山社、2019年12月、本体15,000円、A5変判上製580頁、ISBN978-4-7972-2789-5
『歴史法学論文集 第一巻』オットー・フォン・ギールケ著、庄子良男訳、信山社、2019年9月、本体15,000円、A5変判上製550頁、ISBN978-4-7972-2788-8
『占星術とユング心理学――ユング思想の起源としての占星術と魔術』リズ・グリーン著、鏡リュウジ監訳、上原ゆうこ訳、原書房、2019年12月、本体4,000円、4-6判上製420頁、ISBN978-4-562-05709-2
『新訳 蜂の寓話――私悪は公益なり』バーナード・マンデヴィル著、鈴木信雄訳、日本経済評論社、2019年11月、本体5,500円、A5判上製386頁、ISBN978-4-8188-2548-2
『大衆の強奪――全体主義政治宣伝の心理学』セルゲイ・チャコティン著、佐藤卓己訳、創元社:叢書パルマコン、2019年11月、本体3,500円、A5判並製312頁、ISBN978-4-422-20293-8
『われらみな食人種――レヴィ=ストロース随想集』クロード・レヴィ=ストロース著、渡辺公三監訳、泉克典訳、創元社、2019年11月、本体2,200円、四六判並製256頁、ISBN978-4-422-39001-7
『7つの階級――英国階級調査報告』マイク・サヴィジ著、舩山むつみ訳、東洋経済新報社、2019年11月、本体2,800円、四六判上製416頁、ISBN978-4-492-22385-7
『デリダのエクリチュール』ジャック・デリダ/トーマス・アスホイヤー/フランソワ・デブリクス/ヨッヘン・ヘーリッシュ/ウーヴェ・C・シュタイナー著、仲正昌樹訳、明月堂書店、2019年11月、本体2,000円、四六判上製224頁、ISBN978-4-903145-67-9
『ゴシック・カルチャー入門』後藤護著、eleking books(Pヴァイン)、2019年11月、本体2,700円、46判上製272頁、ISBN978-4-909483-45-4
『くろは おうさま』メネナ・コティン文、ロサナ・ファリア絵、うのかずみ訳、サウザンブックス社、2019年年11月、本体3,500円、297mmx210mm、24頁、ISBN978-4-909125-14-9



★特筆しておきたいのは2点。まず『歴史法学論文集』はドイツの法学者ギールケ(Otto von Gierke, 1841-1921)の、基礎法や公法に関する1871年から1919年までの高名な論文や講演録、全23篇を2巻本にまとめたもの。第1巻には1871年から1883年までの7篇、第2巻には1883年から1919年までの16編が収められています。2冊で3万円以上しますが、これは外せない基本文献です。訳者の庄子良男さんはギールケの『ドイツ団体法論』第1巻を全4分冊で完訳されています(信山社、2014~2015年)。


★もう1点は、イギリスの思想家マンデヴィル(Bernard de Mandeville, 1670-1733)の主著『蜂の寓話』(1714年)の久しぶりの新訳。直近の既訳には泉谷治訳(法政大学出版局、1985年)があります。泉さんは1729年の続篇もお訳しになっています(『続・蜂の寓話――私悪すなわち公益』法政大学出版局、1993年)。底本は今回の新訳も泉訳も、F・B・ケイ編のオックスフォード大学出版の正続2巻本(1924年)です。古典の新訳を喜びたいです。


★このほかの書目についても少しずつ補足しておきます。『占星術とユング心理学』はイギリス在住のユング派分析家で占星術研究者のグリーン(Liz Greene, 1946-)の最新著『Jung's Studies in Astrology: Prophecy, Magic, and the Qualities of Time』(Routledge, 2018)の全訳。かのソヌ・シャムダサーニさんが序文を寄せておられます。未訳ですが、グリーンは本書と一緒にユング『赤の書』の読解本を出版しています。


★『大衆の強奪』は創元社の新シリーズ「叢書パルマコン」の第1回配本。『The Rape of the Masses: The Psychilogy of Totalitarian Political Propaganda』(George Routledge & Sons, 1940)の全訳。越境の知識人チャコティン(Sergei Chakhotin, 1883-1973)による名著の、1940年(『大衆は動く』霞ヶ関書房)以来の新訳。


★『われらみな食人種』は『Nous sommes tous des cannibales』(Seuil, 2013)の全訳。イタリアの日刊紙「ラ・レプブリカ」に1989年から2000年にかけて発表された16の時評と、1952年の論考「火あぶりにされたサンタクロース」を一冊にしたもの。サンタ論には、中沢新一訳の単行本があります(角川書店、2016年)。


★『7つの階級』は『Social Class in the 21st Century』(Pelican Books, 2015)の訳書。英国の社会学者サヴィジ(Michael Savage, 1959-)が8人の研究者と一緒にまとめたものです。謝辞によればサヴィジ自身は特に第1章「階級の境界線はどこか――中流階級と労働者階級の違い」、第3章「高尚な文化資本と新興文化資本」、第5章「新しい階級社会――資本の相互作用」、第9章「頂上からの眺め――こんにちのエリート」を担当したとのこと。既訳の共著書に『文化・階級・卓越化』(磯直樹ほか訳、青弓社、2017年)があります。


★『デリダのエクリチュール』は、ドイツの「ツァイト」誌1998年3月5日付第11号に掲載されたトーマス・アスホイヤーによるデリダへのインタヴュー「知識人・資本主義・歓待の法」を中心に編まれた一冊。かつて『情況』誌に掲載されたことがあるデブリクス、ヘーリッシュ、ウーヴェ・シュタイナーらの論考を併載。


★『ゴシック・カルチャー入門』はポスト高山宏の新鋭、後藤護(ごとう・まもる:1988-)さんの単独著第一作。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。たった五ヶ月でこれだけの情報量の単行本を上梓できるというのは只者ではない。私が買った某書店では文芸書売場ゴシック文学棚で扱っていましたが、この本は人文書の日本の若手の思想家・批評家の棚でもちゃんと扱うべきで、例えば木澤佐登志(きざわ・さとし:1988-)さんの著書の近くに置いてもいいはずだと思います。


★『くろは おうさま』は『El libro negro de los colores』(Ediciones Tecolote, 2006)の訳書。クラウドファンディングで翻訳出版が実現した点字絵本です。黒い本文紙に銀色で文字を刷り、点字とイラストは透明UVインクの盛上げ印刷(厚盛印刷とも)で、指で触れて読むものです。日本語版のデザインは桂川潤さんが担当されています。絵本で税別3500円は高い、とお感じになる方もおられるかもしれませんが、いえいえ、これはかなりお金のかかる部類の造本ですから、品切にならないうちに買っておくべきです。鑑賞用と保存用とプレゼント用、というように何冊も買いたくなるはずです。


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★次に注目の文庫本を列記します。師走の多忙につき、先月創刊された法蔵館文庫にのみコメントします。


『オールド・ファッション――普通の会話』江藤淳/蓮實重彦著、講談社文芸文庫、2019年12月、本体1,700円、240頁、ISBN978-4-06-518080-8
『ヒューマニズム考――人間であること』渡辺一夫著、講談社文芸文庫、2019年11月、本体1,500円、256頁、ISBN978-4-06-517755-6
『今昔物語集 天竺篇 全現代語訳』国東文麿訳、講談社学術文庫、2019年11月、本体2,110円、696頁、ISBN978-4-06-517870-6
『説苑』劉向著、池田秀三訳注、講談社学術文庫、2019年11月、本体1,310円、384頁、ISBN978-4-06-517917-8
『増補 いざなぎ流 祭文と儀礼』斎藤英喜著、法蔵館文庫、2019年11月、本体1,500円、524頁、ISBN978-4-8318-2601-5
『仏性とは何か』高崎直道著、法蔵館文庫、本体1,200円、320頁、ISBN978-4-8318-2602-2
『老年の豊かさについて』キケロ著、八木誠一/八木綾子訳、法蔵館文庫、2019年11月、本体800円、208頁、ISBN978-4-8318-2603-9
『方法序説・情念論』デカルト著、野田又夫訳、中公文庫、2019年11月、本体1,100円、360頁、ISBN978-4-12-206804-9
『ムハンマドのことば――ハディース』小杉泰編訳、岩波文庫、2019年11月、本体1,620円、702頁、ISBN978-4-00-338241-7
『中世思想原典集成 精選7 中世後期の神秘思想』上智大学中世思想研究所編訳監修、平凡社ライブラリー、2019年11月、本体2,400円、B6変判並製638頁、ISBN978-4-582-76889-3
『溺れるものと救われるもの』プリーモ・レーヴィ著、竹山博英訳、朝日文庫、2019年11月、本体840円、304頁、ISBN978-4-02-261995-2
『憲政の本義、その有終の美』吉野作造著、山田博雄訳、光文社古典新訳文庫、2019年11月、本体1,080円、ISBN978-4-334-75414-3
『温泉まんが』山田英生編、ちくま文庫、2019年10月、本体780円、352頁、ISBN978-4-480-43631-3



★創業400年を迎えたという法蔵館さんが文庫レーベルを2019年11月に創刊されたことに驚きを禁じえません。確かに専門書版元と言えども、自社のコンテンツを文庫化したいという欲望はもっていますが、文庫や新書は参入の敷居が出版社にとっては高いので、実現はたいてい難しいのです。そこを思い切って突破された法蔵館さんに同業者として喝采を送りたいです。創刊は3点。いずれも売れていると聞きます。次回配本は1月15日頃、佐藤弘夫『アマテラスの変貌―― 中世神仏交渉史の視座』と、寺田透『正法眼蔵を読む』と聞いています。


★無責任に願望だけ言えば、個人的には弊社でも文庫はやりたいのです。ヤーコプ・ベーメや、シオランやツェランの文庫化に挑戦したいです。先日ツイッターで「シオラン文庫化希望」というつぶやきを見た時には「同好の士がいる」と小躍りしました。他社文庫では手掛けられていない書目をどんどんやりたいですし、古いコンテンツもちゃんと掘り起こしたいです。佐藤春夫訳『毛皮を著たヴィーナス』とか、バブーフ『平等の教義』石川三四郎訳とか、ジューヴ『ボードレールの墓』道躰章弘訳とか、フェレンツィ『タラッサ』小島俊明訳とか。


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