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注目新刊:ちくま学芸文庫2019年11月新刊5点、ほか

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★まもなく発売(11月7日)となるちくま学芸文庫の11月新刊5点を列記します。


『法の原理――自然法と政治的な法の原理』トマス・ホッブズ著、高野清弘訳、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,600円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-09952-5
『ドゥルーズ――解けない問いを生きる【増補新版】』檜垣立哉著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,100円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-09958-7
『釈尊の生涯』高楠順次郎著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,100円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09955-6
『日本の神話』筑紫申真著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,200円、文庫判304頁、ISBN978-4-480-09957-0
『河童の日本史』中村禎理著、ちくま学芸文庫、2019年11月、本体1,600円、文庫判480頁、ISBN978-4-480-09959-4


★『法の原理』は、2016年に行路社より刊行された単行本の文庫化。1889年のテニエス版からの翻訳。訳者の高野清弘(たかの・きよひろ:1947-2017)さんは一昨年逝去されており、文庫化にあたって巻末解説は成蹊大学名誉教授の加藤節さんが「高野清弘氏のホッブズ研究に寄せて」と題した一文を寄せておられます。加藤さんが数々のジョン・ロックの訳書を上梓されてきたことは周知の通り。解説では戦後日本におけるホッブズ研究の変遷に触れておられます。ちくま学芸文庫でホッブズの訳書が刊行されるのは今回が初めて。


★親本が刊行された同じ年に岩波文庫より田中浩/重森臣広/新井明訳『法の原理――人間の本性と政治体』も出版されているものの、現在品切。アマゾンのマケプレなどで新本が高値になっていますが、どうしても急ぎで岩波文庫版が欲しいという方はhontoでの同書の店舗検索結果をご覧ください。複数の文教堂に在庫がまだあることになっています。岩波文庫や岩波現代文庫は実際、文教堂に在庫が残っていることがままあり、穴場です。



★『ドゥルーズ【増補新版】』は、日本放送出版協会(現:NHK出版)のシリーズ「哲学のエッセンス」を第一部とし、文庫化にあたって第二部を新たに書き下ろしたもの。親本は今も電子書籍が購入できるので、追加された第二部の方の主要目次を以下に列記しておきます。Ⅰ「マイノリティとテクノロジー」、Ⅱ「自然について――『千のプラトー』」、Ⅲ「マイナーサイエンス/マイナーテクノロジー」、Ⅳ「金属と治金術師」、Ⅴ「徒党集団――マイノリティの存在様態」、Ⅵ「マイノリティと政治」、結論「生命の政治倫理学へ」。巻末の文庫版あとがきにはこう書かれています。「やはり私には、ドゥルーズのポジティヴィストとしてのありようを強調し、そこで生命の新しさを希求するひととして描きだすことこそが重要におもえたのである。この主題がテクノロジーやマイノリティに連関することはいうまでもない。あくまでもポジティヴであることは、新しさを生み出す仕組みとしてのテクノロジーと、それ自身としての新しさの萌芽であるともいえるマイノリティにおいて、一層輝きを放つものでもあるからだ」(263頁)。檜垣立哉(ひがき・たつや:1964-)さんによる本書以外のドゥルーズ論には『ドゥルーズ入門』(ちくま新書、2009年)や、『瞬間と永遠――ジル・ドゥルーズの時間論』(岩波書店、2010年)があります。


★『釈尊の生涯』は大雄閣より1936年に刊行された単行本の文庫化。かつては教育新潮社版『高楠順次郎全集』第5巻(1979年)に収録されたこともあります。文庫化にあたり、巻末には武蔵野大学教授で仏教学がご専門の石上和敬さんによる文庫版解説「高楠順次郎の生涯及び本書の企図」が加えられています。石上さんは本書の特徴を2点挙げておられます。「人間釈尊の姿を描き出すことに注力し」「神々の登場や神通力のような超人的能力の描写を極力そぎ落としていること」、そして「一般読者への教化という側面を重視し」「重要エピソードごとに、インドの仏教彫刻の写真や当時の仏教画家たちの挿画をふんだんに掲載し」たり、「釈尊の教説の要諦などを列挙している」と。高楠順次郎(たかくす・じゅんじろう:1866-1945)さんは仏教学者。近年では『仏教の根本思想』(1931年)と『仏教の真髄(抄録)』(1940年)を一冊にまとめた『インド思想から仏教へ――仏教の根本思想とその真髄』が書肆心水から2017年に刊行されています。


★『日本の神話』は河出書房新社より1964年に刊行された単行本の文庫化。文庫版解説「海から来る神に日本神話の原像を見る試み」は、北海道大学教授で日本古典文化論を講じておられる金沢英之さんがお書きになっています。「本書は内容的にも前著『アマテラスの誕生』で示された方法と結論を受けつぎ、展開したものとなっている」と解説されています。筑紫申真(つくし・のぶざね:1920-1973)さんは、在野の民俗学者。主著の『アマテラスの誕生』(角川新書、1962年;秀英出版、1971年;講談社学術文庫、2002年)はロングセラーとして知られています。


★『河童の日本史』は、1996年に日本エディタースクール出版部より刊行された単行本の文庫化。巻末に小松和彦さんによる「文庫解説」が付されています。曰く「本書は、近世の関連文献を広く渉猟し、今日の河童のイメージがいかにして形成されたかを徹底的に考察した労作で、「日本史」と題されているが、正確には「近世における河童イメージの形成・変遷史」というべき内容となっている。20年以上も前の作品でありながら、現在でもまったく新鮮さを失っていない」と。中村禎理(なかむら・ていり:1932-2014)さんは生物史家。ご専門は科学史、民俗生物学で、ちくま学芸文庫では2013年に『生物学の歴史』が刊行されています。


★このほか最近では以下の新刊に注目しています。


『全品現代語訳 大日経・金剛頂経』大角修訳・解説、角川ソフィア文庫、2019年10月、本体1,160円、文庫判416頁、ISBN978-4-04-400481-1
『最後の錬金術師 カリオストロ伯爵』イアン・マカルマン著、藤田真利子訳、草思社文庫、2019年10月、本体1,200円、文庫判408頁、ISBN978-4-7942-2417-0
『とはずがたり』後深草院二条著、佐々木和歌子訳、光文社古典新訳文庫、2019年10月、本体1,160円、文庫判488頁、ISBN978-4-334-75411-2
『龍蜂集』泉鏡花著、澁澤龍彦編、山尾悠子解説、小村雪岱装釘装画、国書刊行会、2019年10月、本体8,800円、菊判上製函入504頁、ISBN978-4-336-06545-2
『サテン オパール 白い錬金術――ジョイス・マンスール詩集』松本完治訳、山下陽子挿画、エディション・イレーヌ、2019年5月、本体3,250円、A5変形判函入384頁(挿画4点)、ISBN978-4-9909157-5-9



★『全品現代語訳 大日経・金剛頂経』は、2018年3月刊『全品現代語訳 法華経』、2018年10月刊『全文現代語訳 浄土三部経』に続く、大角修(おおかど・おさむ:1949-)さんによる現代語訳仏典第3弾。第一部は善無畏訳「大毘盧遮那成仏神変加持経」を「大正新脩大蔵経テキストデータベース」の漢文より読み下し、現代語訳に改めたもの。第二部は不空訳「金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経」を同データベース漢文より読み下して現代語訳。「ただし、意味のとりにくい箇所はチベット版、サンスクリット版により適宜、語句を補足した」と特記されています。語注、図版、コラム多数。巻末には伝法や仏事、印契等を説く「密教の小事典」も付いています。「真言密教の根本経典全品を、一冊で読む・知る・学ぶ」と帯文に謳われています。


★『最後の錬金術師 カリオストロ伯爵』は2004年刊単行本の文庫化。原書は『The Last Alchemist: Count Cagliostro, Master of Magic in the Age of Reason』(Harper, 2003)です。主要目次は以下の通り。プロローグ「バルサモの家」、1「フリーメイソン」、2「降霊術師」、3「シャーマン」、4「コプト」、5「預言者」、6「回春剤」、7「異端」、エピローグ「不死」。新たに「文庫版あとがき」が追加されています。著者のマカルマン(Iain McCalman, 1947-)はオーストラリアの歴史家で、シドニー大学歴史学特任教授。カリオストロ伯爵の紹介書では、種村季弘さんのロングセラー『山師カリオストロの大冒険』(中央公論社、1978年;中公文庫、1985年;河出文庫、1998年;岩波現代文庫、2003年)が有名です。


★『とはずがたり』佐々木和歌子さん訳は、文庫では次田香澄さんによる全訳注本(上下巻、講談社学術文庫、1987年)や、瀬戸内晴美さんによる現代語訳(新潮文庫、1988年)以来となる新訳かと思います。帯文に曰く「14歳で後宮へ、院の寵愛、貴族との情事、そして出家……。宮廷のアイドルの「死ぬばかりに悲しき」物語」と。「スピード感を損なわないように〔…〕歯切れよく訳したつもり」という今回の現代語訳は、瑞々しい文体で活きいきと物語を蘇らせています。なお、いがらしゆみこさんによる漫画版が中公文庫の「マンガ日本の古典」シリーズの一冊(2000年)として現在も入手可能です。


★『龍蜂集』は国書刊行会さんによる鏡花没後80年記念出版である「澁澤龍彦 泉鏡花セレクション」全4巻の第1回配本(第Ⅰ巻)。版元さんのウェブサイト上で公開されている内容見本PDFによれば、「澁澤龍彦の生前、1970年代前半に企画されながらも、惜しくも実現を見ずに終った幻の選集が、半世紀の歳月を経てついに刊行。/我が国における最高最大の幻想作家・泉鏡花の膨大多彩な作品群から、澁澤龍彦ならではの鑑識眼が選び抜いた、小説・戯曲約50篇を4巻で構成。/各巻の解説は、鏡花作品をこよなく愛し、2018年には泉鏡花文学賞を受賞した山尾悠子が担当。各巻に、解説者が特に選んだ一作品も増補追加する。/各巻の装釘は、名匠・小村雪岱の鏡花本4冊をあたうかぎり再現した。表紙や本扉はもちろんのこと、見返しも雪岱描き下ろしの絵を用いた、美麗な豪華愛蔵版」。菊判上製貼函入本の圧倒的存在感は、出版不況を吹き飛ばすかのような威容です。小村雪岱の装釘と装画を最大限に活かした造本設計は柳川貴代さんによるもの。


★第Ⅰ巻『龍蜂集(りゅうほうしゅう)』では「春昼」「山吹」「酸漿」「蛇くひ」など、全21篇を収録。詳細は書名のリンク先か先述の内容見本をご覧ください。新字体旧仮名遣い総ルビは、これがもし活版印刷だったならとつい妄想してしまいますが、そればかりは高望みが過ぎるでしょうか。付属の月報1には、作家の谷崎由依さんによる「胚胎されるもののかたち」と、日本文学研究者の田中励儀さんによる「澁澤・三島・鏡花・柳田」が掲載されています。続刊予定は2020年1月に第Ⅱ巻『銀燭集(ぎんしょくしゅう)』です。3か月ごとの配本予定で、第Ⅲ巻『新柳集(しんりゅうしゅう)』、第Ⅳ巻『雨談集(うだんしゅう)』と続きます。


★美麗な造本と言えば、今春刊行された既刊書ではありますが、京都の出版社エディション・イレーヌさんの函入本『サテン オパール 白い錬金術――ジョイス・マンスール詩集』に言及しておきたいです。真っ白い縦長の函に真っ白い帯、書籍本体は表紙が山下陽子さんによる黒を基調としたモノクロ作品をあしらい、銀箔の欧文表記が施されています。白と黒の対比が実に美しい一冊です。『叫び』1953年、『裂け目』1955年、『猛禽』1960年、『白い方形』1965年、の4つの詩集に収められた全323編から半数強となる172篇を精選して訳出したもの。巻末に訳者解説「死と愛とエロスの深淵に――ジョイス・マンスールの人と生涯」を配し、解説の前後には12頁にわたる著者の写真が収められています。


★この本の特装本限定30部が、2019年12月上旬刊行予定だと聞いています。造本設計は普及版と同じく佐野裕哉さんによるもので、訳者画家署名・記番入、予定価格5万円程度とのことです。仕様は、染め布クロス装函(本繻子の布[タンタンピース]使用)+箔押し、版画一葉入(イタリア製[ファブリアーノ・ロサスピーナ]紙使用)フォリオケース入、等と聞いています。詳細は版元名のリンク先(新刊書籍案内での本書紹介の最下段)をご覧ください。


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