ルソー『化学教程』第十一回:第一部第一編「物体の諸要素とそれらの構成について」第一章「物質の原質について」(続き)
34 私たちがスイギン土terre mercurielleと呼ぶ第三の原質に関して言えば、それは依然としてまったく知られておらず、多くの人びとはその存在を認めていない。以下は、ベッヒャーが伝えるその原質についての知識である。
35 先の二つの原質〔ガラス化土と燃素土すなわちフロギストン〕と混ぜ合わされることで、第三の原質はこれらの三つ原質からできる物質の種類を決定する。このような第三の原質が存在するということを人びとは疑うことができない。というのも、鉱物界の生成について限って言えば、私たちが明らかにするように、半透明の石は第一と第二の土から形成されていることは確かであり(1)、不透明の石に関して言えば、その不透明さ、形状、そして石の状態を生み出す第三の土がその石の中には必ずや存在しなければならないからである(2)。[A:24]金属についても〔スイギン土がその種類を決定するということは〕同じである。なぜなら、金属が先の二種類の土から受け取った色彩と可融性に加えて、第三の原質からしか引き出せないような展性と金属的光沢をも金属は有しているからである。類比関係から、同様の原質はその他の二つの界〔動物界、植物界〕の中にも存在するはずである。事実、不揮発性のエンが結晶化の中でとる規則的な形状はいったい何に由来するというのか。また揮発性のエンの植物の形状はいったい何に由来するというのか。ニガヨモギやモミの木材(3)に見られるように、揮発性のエンは植物の形状をときおりきわめて明瞭に呈する。この第三の土は俗に言う水銀の混合物の中にそれなりの量が含まれており、そのために何人かの化学者たちはこの土に水銀という名称を性急にも当ててしまった。この第三の土はむしろスイギン土と呼ぶべきである。というのも第一に、[C:79]第三の土を含む[F:32]あらゆる物体から液体の水銀を抽出できるということは誤りであるからだ。そもそも、水銀というもの自体が他の原質から成るひとつの混合物ではないだろうか? こうして、強い揮発性を有する(4)という理由でだけで、実に不適切にも、この第三の土は水銀と呼ばれるようになってしまったのである。第三の土は揮発性を有するがゆえに、例えば〔すでにこの土を含んでいる〕何らかの金属にこの土を余分に結合させてみると、この金属は揮発性および流動性という水銀の形態を有するようになる。そして火の助けを借りて金属を凝固することでしか、その金属を再び硬化させることはもはやできないのである。ベッヒャーは、この土がヘルモントやパラケルススの有名なアルカエストalcahest(5)以外の何ものでもないという意見に与しており、あたかも自分がよく知っているものであるかのようにこの液体について語っている。そのアルカエストが持つ強い浸透力pénétration〔という性質〕に魅せられたベッヒャーは、うかつにもこの性質を確かめようと骨を折ることになったのである。上記の化学者たちの主張では、このアルカエストが普遍溶媒dissolvant universelであると知られている。しかしながら、ベッヒャーはこの普遍溶媒と通常の溶媒dissolvants ordinairesを区別した。なぜならば、〔普遍溶媒である〕アルカエストはひとつの物体の部分を分割し、それらを[A:25]把握できないほど細かくすることしかしないのに対して、後者の通常の溶媒は溶解した物体と結合するからである。こうして、この〔普遍溶媒に浸した〕諸部分はその自然の状態état naturel〔=静止〕(6)にしておくと時間とともに沈殿する。もっとも重い部分から沈殿してゆき、そしてもっとも軽いものが沈殿する。これは合金を分離する方法である。というのも、例えば金は他の金属よりも先に沈殿するからである。
続きは・・・特設サイトで公開中。
↧
ルソー『化学教程』連載第11回
↧