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注目の新書・文庫新刊(2016年2月~4月)

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★単行本を優先したためにここしばらく言及できずにいた新書や文庫をまとめてご紹介します。

『憲法の無意識』柄谷行人著、岩波新書、2016年4月、本体760円、208頁、ISBN978-4-00-431600-8
『現代思想史入門』船木亨著、ちくま新書、2016年4月、本体1,300円、576頁、ISBN978-4-480-06882-8
『中国4.0――暴発する中華帝国』エドワード・ルトワック著、奥山真司訳、文春新書、2016年3月、本体780円、208頁、ISBN978-4-16-661063-1

★『憲法の無意識』は昨今盛んに問われている改憲の是非をじっくり考える上で欠かせない新刊です。目次詳細はこちらをご覧ください。自主憲法を謳うことの内実や、九条の意義について歴史を遡りつつ解き明かしておられます。「私は憲法九条が日本から消えてしまうことは決してないと思います。たとえ策動によって日本が戦争に突入するようなことになったとしても、そのあげくに憲法九条をとりもどすことになるだけです。高い代償を支払って、ですが」(「あとがき」、198頁)と柄谷さんは書きます。日本だけでなく世界の情勢がますます不安定化しつつあるこんにち、柄谷さんのこの言葉は予言的に響きます。

★『現代思想史入門』は束幅約25ミリの分厚い入門書です。ちくま新書では時折こうした分厚い新書が出ますね。書名には「現代思想」という言葉が入っていますが、20世紀以降の現代の思想家にのみ特化した入門書ではなく、現代思想をかたちづくるものの前史(19世紀後半)も簡潔に説明してくれます。主題は「生命」「精神」「歴史」「情報」「暴力」の五つ。巻末には人名・書名索引があります。「これらの五つの層のそれぞれに見いだされるのは、社会状況と人間行動の捉えがたさ、混沌と冥さであるが、それらを重ねあわせてみることによって、この一五〇年の現代思想の重畳した諸地層のさまと、それぞれのよってきた由来や経路を捉えることくらいはできるだろう」(23頁)と舟木さんは仰っています。「人間の脱人間化」や「世界の脱中心化」(406頁)が進行する渦中における思想家たちの格闘を見つめ直すきっかけとなる労作です。

★『中国4.0』は、大手シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)の上級顧問であるエドワード・ルトワック(Edward N. Luttwak, 1942-)さんが2015年10月に来日した折に、「国際地政学研究所」上席研究員の奥山真司(おくやま・まさし:1972-)さんが6回にわたってインタヴューしたものを翻訳しまとめたオリジナル本です。カバーソデ紹介文に曰く「2000年以降、「平和的台頭」(中国1.0)路線を採ってきた中国は、2009年頃「対外強硬」(中国2.0)にシフトし、2014年秋以降、「選択的攻撃」(中国3.0)に転換した。来たる「中国4.0」は? 危険な隣国の真実を世界最強の戦略家が明らかにする」と。第5章「中国軍が尖閣に上陸したら?――封じ込め政策」にはこうあります。「他国の島をとって基地を建設してしまうような中国に対抗するには、島を占拠されても、誰にも相談せずに迅速に奪還できるメカニズムが不可欠である。国家が領土を守るには、そういう覚悟が必要なのだ。それ以外の選択肢は存在しない。/ここで肝に銘じておくべきなのは、「ああ、危機が発生してしまった。まずアメリカや国連に相談しよう」などと言っていたら、島はもう戻ってこないということだ。ウクライナがそのようにしてクリミア半島を失ったことは記憶に新しい」(152頁)。目下の不安な情勢ではこうした冷徹な見解は実に《リアル》な響きがあります。

★ルトワックさんの邦訳第一作『クーデター入門――その攻防の技術』(遠藤浩訳、徳間書店、1970年)は日本で近年再び話題となっているためか古書価が高騰しています。文春学藝ライブラリーあたりで復刊してもらえるといいのですが・・・。

★続いて文庫の紹介です。

『ゴシック美術形式論』ウィルヘルム・ヴォリンガー著、中野勇訳、文春学藝ライブラリー、2016年2月、本体1,210円、304頁、ISBN978-4-16-813060-1
『ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領』アンドレス・ダンサ+エルネスト・トゥルボヴィッツ著、大橋美帆訳、角川文庫、2016年3月、本体760円、336頁、ISBN978-4-04-104327-1
『教科書名短篇 人間の情景』中央公論新社編、中公文庫、2016年4月、本体700円、240頁、ISBN978-4-12-206246-7
『教科書名短篇 少年時代』中央公論新社編、中公文庫、2016年4月、本体700円、240頁、ISBN978-4-12-206247-4
『暦物語』ブレヒト著、丘沢静也訳、光文社古典新訳文庫、2016年2月、本体960円、316頁、ISBN978-4-334-75325-2
『失われた世界』アーサー・コナン・ドイル著、伏見威蕃訳、光文社古典新訳文庫、2016年3月、本体920円、442頁、ISBN978-4-334-75328-3
『日本語と事務革命』梅棹忠夫著、講談社学術文庫、2015年12月、本体900円、264頁、ISBN978-4-06-292338-5
『きのふはけふの物語 全訳注』宮尾與男訳注、講談社学術文庫、2016年2月、本体1,650円、608頁、ISBN978-4-06-292349-1
『日本古代呪術――陰陽五行と日本原始信仰』吉野裕子著、講談社学術文庫、2016年4月、本体1,050円、320頁、ISBN978-4-06-292359-0
『時間論 他二篇』九鬼周造著、小浜善信編、岩波文庫、2016年2月、本体1,020円、416頁、ISBN978-4-00-331464-7
『ヘーゲルからニーチェへ――十九世紀思想における革命的断絶(下)』レーヴィット著、三島憲一訳、岩波文庫、2016年2月、本体1,200円、496頁、ISBN978-4-00-336933-3
『法の原理――人間の本性と政治体』ホッブズ著、田中浩・重森臣広・新井明訳、岩波文庫、2016年4月、本体1,010円、400頁、ISBN978-4-00-340047-0
『生物学のすすめ』ジョン・メイナード=スミス著、木村武二訳、ちくま学芸文庫、2016年2月、本体1,000円、240頁、ISBN978-4-480-09717-0
『市場の倫理 統治の倫理』ジェイン・ジェイコブズ著、香西泰訳、ちくま学芸文庫、2016年2月、本体1,500円、464頁、ISBN978-4-480-09716-3
『無量寿経』阿満利麿注解、ちくま学芸文庫、2016年2月、本体1,500円、512頁、ISBN978-4-480-09713-2
『共産主義黒書〈ソ連篇〉』ステファヌ・クルトワ+ニコラ・ヴェルト著、外川継男訳、ちくま学芸文庫、2016年3月、本体1,700円、640頁、ISBN978-4-480-09723-1
『アミオ訳 孫子[漢文・和訳完全対照版]』守屋淳監訳・注解、臼井真紀訳、ちくま学芸文庫、2016年4月、本体1,200円、336頁、ISBN978-4-480-09726-2

★『ゴシック美術形式論』は、Formprobleme der Gotik (Piper, 1911)の翻訳です。今回文庫化された中野勇訳は、座右宝刊行会(1944年)版を阿部公正さんが校訂した岩崎美術社版(1968年)を底本とし、巻末に石岡良治さんによる解説「ヴォリンガーの「ゴシック」とその現在」が併載されています(265—301頁)。文庫で読めるヴォリンガーの著書と言えば、『抽象と感情移入』(草薙正夫訳、岩波文庫、1953年)がありますが、1999年の復刊以来、版が途絶えている状況です。この機会に復刊されてもいいような気がするのですが、岩波さんはこうした機会を逃すことは今まであまりなかったですから、きっと遠からず復刊して下さることでしょう。

★『ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領』は『悪役ーー世界でいちばん貧しい大統領の本音』(汐文社、2015年10月)に加筆修正が加えられ、文庫化されたもの。来日のタイミングで刊行されたためか、発売直後にたちまち売り切れて、先月下旬にはすでに3刷に達していました。私自身、当時は本屋さんを5軒以上回っても見つけられず、驚いたものです。本書はムヒカさんを19年間にわたって取材したルポルタージュです。手っ取り早くムヒカさんの高名なスピーチに当たりたい読者は本書ではなくほかのムックを入手される方がいいでしょうけれども、ムヒカさんの生きざまをじっくり読みたい方には本書が向いていると思います。ムヒカさんの言葉に接するとき、私はイヴァン・イリイチの思想との近さを思います。ムヒカさんの本の隣にマララ・ユスフザイさんや、セヴァン・カリス=スズキさん、ワンガリ・マータイさんの本、あるいは『世界がもし100人の村だったら』や『ハチドリのひとしずく』などを置くのは間違いなく良い選択ですが、そこにほかのオルタナティヴな思想家たちも並べると幅が広がると思います。イリイリのほかに、ドネラ・H・メドウズ、ノーム・チョムスキー、スーザン・ジョージ、ナオミ・クラインといった人々です。

★続いて中公文庫。『教科書名短篇』は「人間の情景」と「少年時代」の二冊。それぞれ12編ずつ中学教科書から厳選されています。「人間の情景」では司馬遼太郎「無名の人」「ある情熱」、森鴎外「最後の一句」「高瀬舟」、山本周五郎「鼓くらべ」「内蔵允留守」、菊池寛「形」、武田泰淳「信念」、遠藤周作「ヴェロニカ」、吉村昭「前野良沢」、梅崎春生「赤帯の話」、野坂昭如「凧になったお母さん」を収録。「少年時代」では。ヘッセ「少年の日の思い出」高橋健二訳、永井龍男「胡桃割り」、井上靖「晩夏」、長谷川四郎「子どもたち」、安岡章太郎「サアカスの馬」、吉行淳之介「童謡」、竹西寛子「神馬」、山川方夫「夏の葬列」、三浦哲郎「盆土産」、柏原兵三「幼年時代」、阿部昭「あこがれ」、魯迅「故郷」竹内好訳、を収録。いずれも短篇ですが余韻を残す名作揃いです。中学時代を思い出す方もおられるかもしれません。読み切りやすいので通勤通学などの移動時間向きかと思います。

★次に光文社古典新訳文庫。ブレヒトは『暦物語』で5点目。既訳には矢川澄子訳(現代思潮社、1963年)や、『ベルトルト・ブレヒトの仕事(5)ブレヒトの小説』(河出書房新社、1972年/2007年)収録の岩淵達治訳がありました。収録作のひとつ「異端者の外套」はジョルダーノ・ブルーノが登場する有名な作品です。ドイルは古典新訳文庫初登場。兄弟分の光文社文庫では『新訳シャーロック・ホームズ全集』全9巻(日暮雅通訳、2006~2008年)が刊行されているのは周知の通り。古典新訳文庫の今月新刊はまもなく発売で、ヴォルテール『寛容論』斉藤悦則訳と、ポー『アッシャー家の崩壊/黄金虫』小川高義訳とのことです。

★講談社学術文庫。梅棹忠夫『日本語と事務革命』は昨年末の新刊ですが、先月の新刊、安田敏朗『漢字廃止の思想史』(平凡社、2016年4月)でも言及されており、再び注目されそうです。近世初期の笑話集『きのふはけふの物語 全訳注』は文庫オリジナル。凡例に曰く「全二百三十四話の原文に現代語訳、語注、鑑賞を付す。本書ははじめて『きのふはけふの物語』を一冊本に収めるものである」とのことです。訳注者の宮尾與男さんは同じく講談社学術文庫で』『醒酔笑 全訳注』を2014年に上梓されています。『日本古代呪術』の親本は大和書房より1975年に刊行された増補版。巻末解説「悔しくてたまらない理由」は小長谷有紀さんがお書きになっておられます。悔しいと思っていらっしゃるのは解説者ではなく吉野さんご自身なのですが、何を悔しがっておられるのかは現物をお手に取ってみてください。

★岩波文庫。九鬼周造『時間論 他二篇』は「時間論」「時間の問題――ベルクソンとハイデッガー」「文学の形而上学」の三篇を収録。底本は岩波書店版『九鬼周造全集』第一巻、第三巻、第四巻(1981年刊)所収の各テクストです。「時間論」は1928年にフランスで九鬼がフランス語で発表した二つの講演「時間の観念と東洋における時間の反復」「日本芸術における「無限」の表現」をまとめたもので、編者の小浜さんがお訳しになられています。「時間の問題」はフランス講演の翌年である1929年に発表された論文で、「文学の形而上学」は『文芸論』(岩波書店、1941年)からの一篇。巻末には長文の編者解説「永遠回帰という思想――九鬼周造の時間論」(327—405頁)が添えられています。レーヴィット『ヘーゲルからニーチェへ(下)』は、上巻(2015年12月)に続く完結編。原著第二版(1950年)刊行の折に初版本(1941年)から削除された第二部のエルンスト・ユンガー論は、下巻の付録「初版との異同」に収録されています。巻末にはさらに、年表、邦訳文献一覧、人名注、人名索引などが配されています。『法の原理』は1640年に執筆されたホッブズの最初の政治学書The Elements of Law: natural & Politicです。底本は1927年にケンブリッジ大学出版より刊行された版。同書は『哲学原論〔Elements of Philosophy〕』や『リヴァイアサン』に先立つ論考で、今回が初訳となります。巻末には田中浩さんによる解説「ホッブズ「政治学」の近代的性格」が付されています。

★最後にちくま学芸文庫です。『生物学のすすめ』の親本は紀伊国屋書店より1990年刊。『市場の倫理 統治の倫理』はどうにも古書価が高かった日経ビジネス人文庫版(2003年)からの待望のスイッチ。巻末には以下のような特記があります。「訳者の著作権管理者の許可を得たうえで、植木直子氏の協力により訳語を改訂した箇所がある」と。訳者の香西泰(こうさい・ゆたか:1933-)さんは日本経済研究センター名誉顧問でいらっしゃいます。『無量寿経』は文庫オリジナルの書き下ろし。明治学院大学名誉教授の阿満利麿(あま・としまろ:1939-)さんによる労作です。凡例に曰く「テキストは、真宗大谷派の『真宗聖典』所収の『仏説無量寿経』を使用した。ただし、読み下し文については、読みにくい箇所にかぎって、他の刊行本の読み下し文を使用した。〔・・・〕漢文の区切り方については一部、『真宗聖典』に従っていない箇所がある」とのことです。『共産主義黒書〈ソ連篇〉』の親本は恵雅堂出版より2001年刊。同書は単行本では続編「犯罪・テロル・抑圧〈コミンテルン・アジア篇〉」(ステファヌ・クルトワ+ジャン=ルイ・パネ+ジャン=ルイ・マルゴラン著、高橋武智訳、恵雅堂出版、2006年)が出ていましたので、順当に考えれば続編も文庫化して下さるものと想像します。『アミオ訳 孫子[漢文・和訳完全対照版]』は文庫オリジナル。漢文、一般的な日本語訳、ジャン=ジョセフ=マリ・アミオ(1718—1793)による仏訳からの日本語訳、解説を積み重ねていく構成になっています。巻末には監訳・注解を担当された守屋淳さんによる「アミオ小伝」と、航空自衛官の伊藤大輔さんによる論考「ナポレオン・ボナパルトは、『孫子』を読んだのか?」が掲載されています。伊藤さんの論考にはグリフィス版『孫子』への重要な論及がありますので、グリフィス版を読まれた方にはご一読をお薦めします。

★まもなく発売となる今月のちくま学芸文庫の新刊には、パウル・クレー『造形思考』上下巻や、ルーマンの『自己言及性について』などが登場。今月もマストバイです。


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