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注目新刊タウシグ『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』水声社、ほか

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『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』マイケル・タウシグ著、金子遊・井上里・水野友美子訳、水声社、2016年3月、本体3,800円、四六判上製392頁、ISBN978-4-8010-0160-2
『「ちゃぶ台返し」のススメ――運命を変えるための5つのステップ』ジャック・アタリ著、橘明美訳、飛鳥新社、2016年3月、本体1,500円、4-6判並製192頁、ISBN978-4-86410-465-4
『新版 アリストテレス全集(10)動物論三篇』岩波書店、2016年3月、本体5,400円、A5判上製函入400頁、ISBN978-4-00-092780-2
『ゲンロン2 慰霊の空間』東浩紀編、ゲンロン、2016年4月、本体2,400円、A5判並製316+24頁、ISBN978-4-907188-15-3
『キェルケゴールの日記――哲学と信仰のあいだ』セーレン・キェルケゴール著、鈴木祐丞編訳、講談社、2016年4月、本体1,900円、四六判上製288頁、ISBN:978-4-06-219519-5
『増補 G8サミット体制とはなにか』栗原康著、以文社、2016年4月、本体2,200円、四六判並製184頁、ISBN 978-4-7531-0331-7

★『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』は発売済。「叢書人類学の転回」の第3回配本です。著者のマイケル・タウシグ(Michael Taussig, 1940-)は、オーストラリア生まれの文化人類学者で、現在、コロンビア大学教授を務めています。名前は日本でも知られているものの、訳書は今回の新刊は初めてのものになります。原書は、Walter Benjamin's Grave (University of Chicago Press, 2006)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文はこうです。「ゴンゾー人類学者による、ビートニク小説のようにも読める民族誌的試論集。ベンヤミンが没したフランスと国境を接するスペインの町ポルトボウについてのエッセイにはじまり、コロンビアの農民詩、悪魔との契約、〈海〉が消えていったいきさつ、シャーマンの身体の特質、宗教や道徳上の侵犯、ニューヨーク市警察の横暴、〈花〉と〈暴力〉との関係、について刺激的に語る」。ゴンゾー(gonzo)とは「常軌を逸した」「風変わりな」「極端に主観的な」を意味する形容詞。これはことタウシグを評する上では否定的な言葉ではありません。訳者の金子さんは巻末の「マイケル・タウシグの人類学と思想」でこう述べています。「事象に対して客観的であることができるという姿勢自体を疑い、みずからを記述対象のなかへ深く沈潜させて、むしろ一人称で書くことでその本質をつかみとろうとする」(378頁)と。「文化人類学の学究的な姿勢にゆさぶりをかけ、読書界に清新な風をおくりこんできた」と金子さんはタウシグを評価しています。「実際には、理解することよりも、考え違いをすることのほうが世界を広げてくれる。そのようなものを抱えながら、他者と長い時間をすごす遭遇としてフィールドワークはあるのだ」(12頁)とタウシグは本書の冒頭付近で書いています。「わたしたちは、なじみのないすべての未知のものを裸にしてしまう。大学のゼミの教室における基本ルールのように、その場で誰が力をにぎっているのかを示すのだ。わたしたちはあいまいさも、慣習に逆らうようなことも許容しない。〔・・・〕ここにあるもっとも大きな不幸とは、どれだけ既知と思われているものが不思議さを秘めているかを、その作業によって忘れてしまうことだ」(13頁)。「現実性〔リアリティ〕というものが、純粋な思考によってつくられた調和にうまく吸収される類のものであればよかったのだが。現実性というのもは、一度しか渡ることのできない、あの有名な川〔ルビコン川〕のようなものではない。その川に足を踏み入れるということは、混とんとした世界の存在に自分の身を浸すことはもちろんのこと、法が順守され、法が破壊され、その両方によってさらに混乱した、不安定と矛盾の光り輝く波に乗ることをも意味している」(15頁)。本書をはじめ「叢書人類学の転回」は人文書の縦割り分類を見直し再編成するように促す、一連の重要な成果です。真面目に追求すればするほど、私たちは従来の分類作業からズレていかざるをえないことに気づきます。やっかいで楽しい冒険が人文書の未来を待ち受けています。

★水声社さんではタウシグについては本書に続き、1993年作『模倣と他者性』が井村俊義さんの訳で近刊予定だそうです。また、『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』の刊行を記念し、以下のトークイベントが来月開催される予定とのことです。

◎管啓次郎×金子遊「マイケル・タウシグの人類学と思想」

日時:2016年05月17日(火)19:30~
会場:ジュンク堂書店池袋本店(東京都豊島区南池袋2-15-5)
料金:1000円(1ドリンク付)※当日、会場の4F喫茶受付でお支払いください。
お問い合わせ・ご予約:ジュンク堂書店池袋本店 TEL03-5956-6111

内容:マイケル・タウシグはコロンビア大学人類学教室の教授で、英語圏では知らない人のいない人類学者=移動するエッセイストです。大胆にフィクション批評を導入したその哲学的なエッセイは、まるでビートニク小説のようにも読めると評判です。タウシグの著書が日本語に翻訳されるのは、本書が初めてとなります。「文化人類学の巨人」の魅力を存分に味わっていただくため、管啓次郎さん(詩人・比較文学)と、本書の訳者のひとりである金子遊さん(映像作家・民族誌学)のトークイベントを開催します。

★『「ちゃぶ台返し」のススメ』は発売済。アタリの訳書の中では突出してユニークな邦題になっていますが、原書はDevenir soi (Fayard, 2014)で、直訳すれば「自分になる」です。直訳のままでも良かった気がしますが、いかにも人文書といったイメージが先行してしまうのを避けたのでしょう。帯に載っているアタリの顔写真はいかにもちゃぶ台をひっくり返しそうな、偏屈なオヤジで、帯文は「アタリ初の自己啓発本!」と謳われています。しかし、本書は自己啓発の手前に鋭利な世界情勢分析を置いており、微温的な「幸せになろう」「金持ちになろう」等々のメッセージにうんざりしている読者の目を惹くでしょう。「今、世界は危険な状態にあり」(10頁)、「あらゆるところで悪が優勢になり」「至るところで暴力がまたり通」る(21頁)と分析するアタリは、自分で自分の人生を選びとり、運命を変えるための方途をこの「自分になる」ことと表現します。「結局のところ、国家は無力だろう。国家は国民が期待するサービスを徐々に提供できなくなり、国民の安全を保障することさえできなくなるだろう」(25頁)というアタリの予言は現代人にとって深刻な真実味を帯びています。「資本主義は、生命を確実なものにしたいという要求がどういうとき人々のなかに生まれるかを予測して、あなたの安全を守ります、死からも守りますと呼びかけることにとって、実のところ人々の自由意思を奪おうとしている〔・・・〕。こうした動きに警戒せず、本当の意味での〈自分になる〉ことのほうが負けてしまったら、〔・・・〕お仕着せの自己管理でコントロールされ、徐々に人工器官で全身を覆われてゆき、やがてはロボットになるだろう。つまり、一個の物と化してすべてを〈甘受〉しながら、ただひたすらエネルギーと修理を〈要求〉し続けるだけのロボットになってしまう」(194-195頁)。「その後は開発する人材も資源もなくなって、資本主義自体が消滅するしかなくなってしまう」(195頁)。この本は現実を追認する凡百の「自己啓発本」への実に強力な解毒薬となっていると思います。確かにその意味ではこれ以上の「ちゃぶ台返し」はありません。

★『新版 アリストテレス全集(10)動物論三篇』は発売済。「動物の諸部分について」濱岡剛訳、「動物の運動について」永井龍男訳、「動物の進行について」永井龍男訳、の3編を収録しています。旧全集版ではいずれも島崎三郎訳で「動物部分論」(第8巻所収、1969年)、「動物運動論」(第9巻所収、1969年)、「動物進行論」(第9巻所収、1969年)として分載されていました。既訳書には『動物部分論・動物運動論・動物進行論』(坂下浩司訳、西洋古典叢書/京都大学学術出版会、2005年)があります。ちなみに旧全集の第9巻に併載されていた「動物発生論」は新全集では第11巻として刊行される予定です。なお、今回の第10巻「動物論三篇」に付属している「月報14」には、藤田祐樹さんによる「物事を丁寧に考えるということ」が掲載されています。次回配本は少し間が空いて10月末予定、第18巻「弁論術・詩学」とのことです。

★『ゲンロン2』は発売済。メイン特集は「慰霊の空間」、小特集は「現代日本の批評II」です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「現代日本の批評Ⅱ」では、前号に続き、市川真人・大澤聡・福嶋亮大・東浩紀の四氏による共同討議「平成批評の諸問題 1989-2001」が掲載されているほか、市川真人さんによる興味深い基調報告「一九八九年の地殻変動」や、大澤聡さんによる年表「現代日本の批評1989-2001」が併録されています。千葉雅也さんと東浩紀の対談「神は偶然にやってくる――思弁的実在論の展開について」は、売行良好と聞くメイヤスー『有限性の後で』(人文書院、2016年1月)の位置づけを知りたい書店員さんは注も含めて必読かと思われます。

★『キェルケゴールの日記』は発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。デンマーク語の最新版原典全集(SKS)28巻のうち9巻を占めるという膨大な日記の中から、「キルケゴール自身のキリスト教信仰のあり方をめぐる内容の項目を選定、邦訳するとともに、その内容の理解おために必要と思われる解説を付したもの」(はじめに)とのことです。1837~1855年までの日記から選ばれており、その中心を成す1848年の宗教的転機については第二部で扱われています。「拭い去りがたい罪の存在に直面し続け、どうしようもない罪意識に思い悩む一人の弱い男が、キリスト教が差し出す罪の赦しを自分が信じるとはどのようなことかをめぐって思いを深め、その果てに一つの確信を有するに至り、そしてその信仰をおのれの生を賭けて表現しようとする、思索と苦闘の内面史である」(同)とも編訳者は綴っておられます。編訳者の鈴木祐丞(すずき・ゆうすけ:1978-)さんは現在、秋田県立大学助教をおつとめで、一昨年に著書『キェルケゴールの信仰と哲学』(ミネルヴァ書房、2014年)を上梓されています。

★『増補 G8サミット体制とはなにか』はまもなく発売(アマゾンでの記載では4月25日)。先月上梓された鮮烈な伊藤野枝伝『村に火をつけ、白痴になれ』(岩波書店、2016年3月)がアマゾンの「女性史」カテゴリでベストセラー1位を獲得し、今のりにのっている栗原さんのデビュー作が『G8サミット体制とはなにか』(以文社、2008年)です。今回の増補版では巻末に補遺として「負債経済の台頭」という書き下ろしが追加されています(171-182頁)。折しも伊勢志摩サミットが来月開催される予定(5月26日~27日)で、世界中から各国のリーダーが集結するとともに、各国のアクティヴィストも日本にやってきます。前著は洞爺湖サミットをきっかけに出版されていますが、今度は伊勢志摩サミットです。今度も政府は「テロ警戒中」という大義名分の看板を掲げることでしょう。本書には「サミット体制をもっとよく知るための文献案内」(165-167頁)が掲載されています。書店さんでミニコーナーを作るのに適した点数の文献(18点)が紹介されています。反グローバリズムの関連書を足せばそれなりの規模のフェアにも拡張できると思います。サミット関連の会合は、志摩市のほか、仙台市、軽井沢町、つくば市、新潟市、富山市、神戸市、倉敷市、広島市、高松市、北九州市でも行われますから、これらの都市の本屋さんは仕掛け甲斐があるかもしれません。

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