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注目新刊:中村隆之編訳『ダヴィッド・ジョップ詩集』夜光社、ほか

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『新記号論――脳とメディアが出会うとき』石田英敬/東浩紀著、ゲンロン、2019年3月、本体2,800円、四六判並製450頁、ISBN978-4-907188-30-6
『いつもそばには本があった。』國分功一郎/互盛央著、講談社選書メチエ、2019年3月、本体900円、四六判並製128頁、ISBN978-4-06-515012-2
『日本を解き放つ』小林康夫/中島隆博著、東京大学出版会、2019年1月、本体3,200円、四六判並製424頁、ISBN978-4-13-013097-4
『創造と狂気の歴史――プラトンからドゥルーズまで』松本卓也著、講談社選書メチエ、2019年3月、本体2,150円、四六判並製384頁、ISBN978-4-06-515011-5
『大人から見た子ども』モーリス・メルロ=ポンティ著、滝浦静雄/木田元/鯨岡峻訳、みすず書房、2019年3月、本体3,800円、四六判上製304頁、ISBN978-4-622-08783-0
『アルゴナウティカ』アポロニオス・ロディオス著、堀川宏訳、西洋古典叢書:京都大学学術出版会、2019年3月、本体3,900円、四六変判上製432頁、ISBN978-4-8140-0174-3
『社会学用語図鑑――人物と用語でたどる社会学の全体像』田中正人編著、香月孝史著、プレジデント社、2019年3月、本体1,800円、A5判並製296頁、ISBN978-4-8334-2311-3


★年度末の忙しさで一冊ずつ掘り下げる時間に乏しいため、いくつかにまとめてごく簡単にコメントします。まず最初に、ここ約一月半の間に優れた対談本が連続している件です。小林康夫/中島隆博『日本を解き放つ』と、石田英敬/東浩紀『新記号論』、そして対談ではありませんが、二人のやりとりを収めた國分功一郎/互盛央『いつもそばには本があった。』も加えておきたいと思います。最前線の星々の交流と邂逅は美しく刺激的です。東大閥かあ、などという表面的な括りは脇に置いて楽しむ方がいいですが、東大生協書籍部でこの3冊がどんな動きをするのかについては一営業マンとしてとても興味が沸きます。


★次に『創造と狂気の歴史』と『大人から見た子ども』。前者は「「創造と狂気」という問題が西洋思想史のなかでどのように扱われてきたのかを〔…プラトンからドゥルーズまで〕様々な哲学者や思想家の議論をもとに追いかけていきます。そうすることによって、これまでの世界で「クリエイティヴ」であるとされていたのがどのような人々であるのかを理解できるようになるでしょう。さらには、現代において「クリエイティヴ」であるための条件がどのようなものであるのかを理解できるようになるかもしれません」(4~5頁)。後者はカヴァー裏紹介文に曰く「1949年から1951年にかけてメルロ=ポンティがソルボンヌ大学の児童心理学と教育学の講座で行なった一連の講義の要録、およびそれに関連するテクスト4編を収録」。この2冊とも、AIによる分析や判断が社会を覆っていくただなかにおいて「人間とは何か」を考える上で示唆的です。


★最後に『アルゴナウティカ』と『社会学用語図鑑』。前者は古代ギリシアの叙事詩の新訳であり、後者はベストセラー『哲学用語図鑑』『続・哲学用語図鑑』に続く図解本です。一見、まったく別の本ですが、かたや神話世界の、かたや学知の世界の、それぞれ英雄たちが活躍する様を堪能できるという意味ではどちらも素晴らしい本です。詩が喚起するものと、イラストが喚起するものは、想像力と視覚認識の差はあれともに映像的なのですね。この2冊が書店さんの店頭で隣り合わせになることはないと思いますけれども、群舞の壮麗さは特筆すべきではあります。


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★続いてここ最近の文庫新刊から注目書を列記します。


『詩学』アリストテレス著、三浦洋訳、光文社古典新訳文庫、2019年3月、本体1,140円、413頁、ISBN978-4-334-75397-9
『ソヴィエト旅行記』ジッド著、國分俊宏訳、光文社古典新訳文庫、2019年3月、本体1,100円、350頁、ISBN978-4-334-75396-2
『技術とは何だろうか 三つの講演』マルティン・ハイデガー著、森一郎編訳、講談社学術文庫、2019年3月、本体720円、176頁、ISBN978-4-06-515010-8
『孟子 全訳注』宇野精一訳、講談社学術文庫、2019年3月、本体1,690円、504頁、ISBN978-4-06-514311-7
『花のことば辞典 四季を愉しむ』倉嶋厚監修、宇田川眞人編著、講談社学術文庫、2019年3月、本体1,110円、288頁、ISBN978-4-06-514684-2
『悩ましい国語辞典』神永曉著、角川ソフィア文庫、2019年2月、本体1,080円、432頁、ISBN978-4-04-400348-7


★光文社古典新訳文庫の3月新刊は2点。アリストテレス『詩学』は「2000年間クリエーターたちの必読書である「ストーリー創作」の原点」という帯文が秀逸です。訳注だけでなく、本書の半分の分量を占める長編の訳者解説も充実。この解説には作者不明の写本ながら『詩学』と類似した内容をもつ「コワスラン論考」の全訳も含まれています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ジッド『ソヴィエト旅行記』は表題作とその続編『ソヴィエト旅行記修正』の久しぶりの新訳です。これもまた帯文が秀逸。「「楽園」は/看板倒れの/ディストピア。自らも熱烈に支持した理想国家への失望を、作家として誠実につづった紀行文」。今月の2点は何はともあれ即買いでした。


★講談社学術文庫の3月新刊から3点。ハイデガー『技術とは何だろうか』は文庫オリジナル新訳。1954年刊『講演と論文』より「物」「建てること、住むこと、考えること」「技術とは何だろうか」の3講演を収録。なお森さんはブレーメン講演版「物」もかつてお訳しになっておられます(創文社版『ハイデッガー全集』第79巻所収、2003年)。この版と『講演と論文』版との異同は今回の新訳文庫に訳注として掲載されています。『孟子 全訳注』は奥付前の特記によれば、1973年に集英社より刊行された『全釈漢文大系 第二巻 孟子』から抜粋し文庫化したもの。学術文庫での「孟子」の訳書はかの高額古書、穂積重遠『新訳孟子』(1980年)以来の久しぶりのものです(貝塚茂樹さんによる解説書は2004年に文庫化されています)。高額になっている学術文庫はぜひ復刊するかPODに加えていただければと念願しています。『花のことば辞典』は文庫オリジナルの書き下ろし。2014年刊『雨のことば辞典』、2016年刊『風と雲のことば辞典』に続く3部作の第3作。


★角川ソフィア文庫の2月新刊から1点。『悩ましい国語辞典』は2015年に時事通信出版局から刊行された単行本の文庫化。著者の神永曉(かみなが・さとる:1956-)さんは辞書編集のエキスパートでありベテラン。本書を読んでいると「まじか」やら「だよね」やらの連続で、改めて日本語と向き合う良い経験になります。知は細部にあり。一篇ずつは短いので短時間の移動中の読書に最適です。


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★また、最近では以下の新刊との出逢いがありました。


『ダヴィッド・ジョップ詩集』中村隆之編訳、夜光社、2019年3月、本体1,200円、四六判変形96頁、ISBN978-4-906944-17-0
『ジョルジョ・ヴァザーリと美術家の顕彰――16世紀後半フィレンツェにおける記憶のパトロネージ』古川萌著、中央公論新社、2019年3月、本体4,500円、A5判上製304頁、ISBN978-4-12-005181-4
『オーロラの日本史――古典籍・古文書にみる記録』岩橋清美/片岡龍峰著、平凡社、2019年3月、本体1,000円、A5判並製88頁、ISBN978-4-582-36458-3
『御簾の下からこぼれ出る装束――王朝物語絵と女性の空間』赤澤真理著、平凡社、2019年3月、本体1,000円、A5判並製120頁、ISBN978-4-582-36459-0
『日本思想史の可能性』大隅和雄/大山誠一/長谷川宏/増尾伸一郎/吉田一彦著、平凡社、2019年3月、本体4,200円、4-6判上製512頁、ISBN9784582703597
『音楽劇の歴史――オペラ・オペレッタ・ミュージカル』重木昭信著、平凡社、2019年3月、本体4,800円、4-6判上製408頁、ISBN978-4-582-21973-9



★『ダヴィッド・ジョップ詩集』は夜光社さんのシリーズ「民衆詩叢書」の第2弾でまもなく発売。フランス生まれの黒人詩人ジョップ(David Diop, 1927-1960;ディオップとも)の著作から詩作品22篇と散文4篇を選び一冊にまとめたものです。詩人でセネガル共和国初代大統領のサンゴールによるジョップの紹介文と、編訳者の中村さんによるジョップ小伝が付されています。ジョップ(ディオップ)の詩はこれまでに、登坂雅志さんの翻訳による『ブラックアフリカ詩集』(彌生書房、1987年)や『アフリカ詩集』(花神社、2010年)などに数編が訳出されたことがあります。今回の夜光社版詩集から、個人的に印象に残る、義兄のアリウンに宛てた美しく力強い詩篇「確信」を以下に引きます。


いくつもの殺人で肥えて太り
死体の数で自分たちの支配の段階を測っている連中に
私は言う 日々と人々が
太陽と星々が
諸地域の人民の同胞愛のリズムを描くと
私は言う 心と頭が
戦いのまっすぐな線のうちで合流すると
そして どこかで夏が生まれないような
日々などないと
私は言う 強い勢力の暴風雨が
忍耐を売る商人どもを粉砕するだろうと
そして 人々の体と調和する季節は
幸福の身振りが作り直されるのを見るだろうと。


★『ジョルジョ・ヴァザーリと美術家の顕彰』は京都大学大学院人間・環境学研究科へ2017年に提出された博士論文を加筆修正し再構成したもの。16世紀イタリアの画家であり建築家のヴァザーリ(Giorgio Vasari: 1511-1574)による『美術家列伝』(正式には『もっとも卓越せる画家・彫刻家・建築家列伝』)をひもときつつ、「美術史の父」としてのヴァザーリ像を捉え直す試みです。「本書では、ヴァザーリがコジモ一世・デ・メディチのもとおこなった諸活動をあらためて検討し、彼が打ち立てた「美術史」の根底にある儀礼的側面を浮かび上がらせる。特に着目するのは、「美術家を顕彰する」という行為である。〔…〕ヴァザーリ自身の関心と文化的背景の詳細な検討を通して、亡くなった美術家をしかるべきやり方で埋葬し、追悼するという行為が、一種のパトロネージと化していたことが理解されるだろう」(12~13頁)。


★「ヴァザーリはその活動を通して、メディチ家の面々が、美術家に作品を注文する一般的なパトロネージ以外にも、美術家自身の顕彰によって歴史にその記憶を刻み込む「記憶のパトロネージ」をおこなっていたことを強調した。実践しているのはヴァザーリ自身であっても、その出資者としてかならずメディチ家の名前を挙げ、彼らの営みに注意をうながしているのである。つまり、ヴァザーリの諸活動における「記憶のパトロネージ」実践は、16世紀フィレンツェの文化的・社会的・政治的事情が複雑に絡み合う、きわめて重要な結節点にほかならない」(13頁)。本書の主要目次を以下に転記しておきます。
序論
Ⅰ 『美術家列伝』と美術家の死
 第1章 テクストによる墓碑
 第2章 記憶のパトロネージ
Ⅱ アカデミア・デル・ディセーニョと美術家の顕彰
 第1章 ミケランジェロの死
 第2章 「画家の礼拝堂」とアカデミア
Ⅲ ヴァザーリと作品の保存・展示
 第1章 「カリオペの書斎」と歴史性
 第2章 「素描集」と聖なるものの巡礼
結論
あとがき
付録 アントン・フランチェスコ・ドーニ『大理石』抄訳
参考文献


★『オーロラの日本史』と『御簾の下からこぼれ出る装束』は平凡社さんのシリーズ「ブックレット〈書物をひらく〉」の第18巻と第19巻。前者は『日本書紀』や『明月記』をはじめとする数々の古典籍で言及されあるいは絵画史料に描かれててきた、飛鳥時代から江戸時代に至る低緯度オーロラの記録を追うもの。後者は王朝物語絵に描かれた「打出(うちいで)」を分析する内容。「打出」とは中世において、晴れやかな行事で女性の装束をすだれの下からはみださせて見せる、邸宅の空間演出方法のこと。低緯度オーロラにせよ打出にせよ、歴史とその記録への興味は尽きません。


★『日本思想史の可能性』は、大隅和雄、大山誠一、長谷川宏、増尾伸一郎、吉田一彦の5氏による「日本思想史の会」での長年の議論を出発点にして編まれた論文集。増尾さんは2014年7月にお亡くなりになっており、各章末の座談会には参加しておられません。また、増尾さんによる補論は他の論考と違って書き下ろしではなく、2007年に発表された論考の再録です。巻末のあとがきは増尾さん以外の4氏がそれぞれお書きになっています。目次は以下の通り。


はじめに|吉田一彦
序章 日本思想の外来と固有
 西洋の近代思想と日本思想史|長谷川宏
 日本をいつに求めるか――日本的思想の歴史的形成について|吉田一彦
 座談会
第Ⅰ章 天皇制の成立とその政治思想
 天皇制とは何か|大山誠一
 座談会
第Ⅱ章 思想における「日本的なるもの」
 思想における「日本的なるもの」をめぐって|長谷川宏
 座談会
第Ⅲ章 仏教徒日本思想史
 アジアの中の日本仏教の思想――仏教史は日本史より大きい|吉田一彦
 座談会
第Ⅳ章 中世の歴史書と天皇観
 『愚管抄』の天皇論|大隅和雄
 座談会
終章 天皇制は外来か固有か
 日本の思想をどう語るか|大隅和雄
 天皇制の本質|大山誠一
補論 説話の伝播と仏教経典
 説話の伝播と仏教経典――高木敏雄と南方熊楠の方法をめぐって|増尾伸一郎 
 付記|吉田一彦
あとがき|大隅和雄/大山誠一/長谷川宏/吉田一彦


★『音楽劇の歴史』はオペラ(17世紀以降)、オペレッタ(19世紀以降)、ミュージカル(20世紀以降)など、現代に至る音楽劇の変化を通史として記述したもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「ルネサンス、フランス革命、第一次世界大戦、ヴェトナム戦争などの出来事を通じて、社会だけでなく音楽劇も大きく変わった。本書の狙いは、その変化がなぜ起こったのかを考えることだ。そのため、芸術にとどまらず、政治、経済、社会制度、風俗、技術についても広範に言及」した(12頁)、とあります。
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