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注目新刊:『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[10]中国学・地質学・普遍学』、ほか

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『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[10]中国学・地質学・普遍学』G・W・ライプニッツ著、山下正男/谷本勉/小林道夫/松田毅訳、工作舎、2019年1月、本体8,500円、A5判上製336頁+手稿8頁、ISBN978-4-87502-501-6
『現代物理学における決定論と非決定論――因果問題についての歴史的・体系的研究【改訳新版】』エルンスト・カッシーラー著、山本義隆訳、みすず書房、2019年1月、本体6,000円、A5判上製392頁、ISBN978-4-622-08736-6
『現代思想2019年2月号 特集:「男性学」の現在――〈男〉というジェンダーのゆくえ』青土社、2019年1月、本体1400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1376-9
『サンデル教授、中国哲学に出会う』マイケル・サンデル/ポール・ダンブロージョ編著、鬼澤忍訳、2019年1月、本体2,700円、判頁、ISBN978-4-15209832-0
『親鸞の言葉』吉本隆明著、中公文庫、2019年1月、本体900円、288頁、ISBN978-4-12-206683-0
『ホモ・ルーデンス』ホイジンガ著、高橋英夫訳、中公文庫、2019年1月、本体1,200円、536頁、ISBN978-4-12-206685-4
『ファースト・マン』上下巻、ジェイムズ・R・ハンセン著、日暮雅通/水谷淳訳、河出文庫、2019年1月、本体各780円、408/392頁、ISBN978-4-309-46486-2/978-4-309-46487-9



★『ライプニッツ著作集 第I期 新装版[10]中国学・地質学・普遍学』は、新装版第Ⅰ期の第3回配本。「中国自然神学論」「プロトガイア」「普遍学の基礎と範例」など十篇を収録しています。各論考の題名は書名のリンク先でご確認いただけます。ライプニッツの中国理解はイエズス会宣教師たちとの文通に助けられたものでありながら、宣教師たちのキリスト教中心主義的な分析の不十分さを見ぬいていたようです。山下正男さんは解説でライプニッツの中国論を「東と西の思想の巨人が対等の力量でぶつかった稀に見る歴史的事件」と評しています。「プロトガイア」は訳者の谷本勉さんによれば「一王家の歴史の序章というよりは、「地球の初源の特徴と自然の中に残された古代の歴史の痕跡についての論説」(シャイト版の副題)であり、地球起源論を含む非常に地質学的な書」。普遍学論文六篇については、小林道夫さんによる解説「ライプニッツの夢――百科全書の構想と普遍学」によれば、「最初の四篇は百科全書のプランを提示するものであり、他の2篇は普遍学の起源や価値あるいはその論理的原理を要約して述べている」と。


★「百科全書あるいは普遍学のための予備知識」にはこう書かれています。「「知恵」は幸福の学問である。/「真の教養」は、「知恵」を準備するもの、あるいは、それが可能であるかぎり、幸福のために役立つ諸知識の体系である。/「幸福」は持続する喜びの状態である。「喜び」は何らかの完全性を考えることから生じる心の「情念」である。もしその考えが正しいとすると、喜びが持続するものに高まる。/したがって、完全性を増大させ、保存するために貢献するものなら、何でも、幸福のために役立つのである。/それゆえ、われわれは、「人間」の完全性がいかなるもののうちにあり、また、その諸原因が何であるかを知らなくてはならない。/しかし、われわれの完全性は、ちょうど、ある優れた段階の健康がそうであるように、「病気」や不完全性――身体の働きを妨げたり、損なったりするあらゆるもの――のような諸活動を、われわれが、できるだけ容易に引き受けうることのうちにある。/したがって、自らのうちで最大限に働くわれわれの本質を、および、われわれの成長を促したり、完成させたりもすれば、また、妨げたり、損ないもしうる他の事物の本質を、われわれが普遍的に認識しなければならない点に、人々は同意するだろう。そして、それゆえに、「人間」は一種の「普遍的学問」を努力して得なくてはならないことになる」(212頁)。


★百科全書構想と普遍的記号法の完成を生涯追い求めたというライプニッツの興味深い足跡は、工作舎さんの既刊書、エイトン『ライプニッツの普遍計画』や佐々木能章『ライプニッツ術』などで窺うことができます。ちなみに工作舎さんでは来月、フランセス・イエイツの『薔薇十字の覚醒』を新装復刊するとのことです。



★『現代物理学における決定論と非決定論』は『Determinismus und Indeterminismus in der modernen Physik : Historische und systematische Studien zum Kausalproblem』の翻訳。巻末の「訳者あとがきと解説」によれば、本書はまず1936年にスウェーデンのイエーテボリ大学の紀要に公表され、翌年にスウェーデンで書籍化(イエーテボリ版)。その後1972年に西ドイツの出版社から『アインシュタインの相対性理論』と合本で刊行されています(ダルムシュタット版)。「カッシーラーが生前に眼を通すことができたのは、イエーテボリ版だけ」。訳者の山本さんがかつて1994年に学術書房の「科学史研究叢書」で翻訳刊行したのはダルムシュタット版とのことで、「イエーテボリ版とくらべてダルムシュタット版が明らかに不正確であることが判明した」ため、「全面的にイエーテボリ版に依拠して訳し直」したとのことです。帯文に曰く「1936年に執筆された本書は、量子力学的世界の哲学的基礎付けを試み、科学と哲学を架橋した画期作であり、カッシラーの生涯の哲学的問題意識のすべての要素の結接点に位置する」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


★『現代思想2019年2月号 特集:「男性学」の現在』は、編集人が栗原一樹さんから「ユリイカ」編集部の樫田祐一郎さんに交代となって初めての号となります。編集後記では特に交代についての言及や説明はなし。目次詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。版元紹介文にはこうあります。「さまざまな社会状況の変化を受け、いま再び「男性学」が注目を集めている。男性が男性として抱える困難を真摯に見つめ直しつつ、しかしフェミニズムに対する不毛なアンチに陥る危険を注意深く避けながら、男性性のあり方を批判的かつポジティヴに思考する途はあるか。本特集ではセクシュアリティやコミュニケーション、教育、労働、福祉といった多様な観点から「男」なるものの来し方と行く末を思考する」と。まさに「現代/現在」と向き合う、意欲的な特集号だと思います。3月号の特集は「引退・卒業・定年」とのことで、八年間にわたる栗原体制との違いの萌芽がかいまみえるような印象です。栗原さん時代の「現代思想」誌を振り返るブックフェアやイベントがあっても良いような気がするのですが、どこかでおやりになるのでしょうか。



★『サンデル教授、中国哲学に出会う』は『Encountering China: Michael Sandel and Chinese Philosophy』(Harvard University Press, 2018)の訳書。巻末にある編者二名による原著謝辞には、2016年3月に開催された国際会議「マイケル・サンデルと中国哲学」が本書の端緒となった、と記されています。帯文はこうです。「気鋭の研究者9名の論考にサンデルが応答する、正義論の新展開。ハーバード大学の超人気教授は、孔子、孟子、荘子ら古の哲人といかに対話するか?」。日本人にとっても必読文献となりそうです。版元サイトに掲出されていないようなので、目次を以下に転記しておきます。



はしがき 中国、マイケル・サンデルと出会う |エヴァン・オスノス(Evan Osnos)
Ⅰ 正義、調和、共同体
 第一章 調和なき共同体?――マイケル・サンデルへの儒教的批評 |李晨阳([Li Chenyang)
 第二章 個人、家族、共同体、さらにその先へ――『これからの「正義」の話をしよう』におけるいくつかのテーマに関する儒教的考察 |白彤東(Bai Tongdong)
 第三章 美徳としての正義、美徳に基づく正義、美徳の正義――マイケル・サンデルの正義の概念に対する儒教的修正 |黄勇(Huang Yong)
Ⅱ 市民の徳と道徳教育
 第四章 市民道徳に関するサンデルの考え方 |朱慧玲(Zhu Huiling)
 第五章 儒教から見たサンデルの『民主政の不満』 |陳来(Chen Lai)
Ⅲ 多元主義と完全性――サンデルと道家思想の伝統
 第六章 ジェンダー、道徳的不一致、自由――中国というコンテクストにおけるサンデルの共通善の政治 |ロビン・R・ワン(Robin R. Wang)
 第七章 満足、真のそぶり、完全さ――サンデルの『完全な人間を目指さなくてもよい理由』と道家思想 |ポール・ダンブロージョ(Paul J. D'Ambrosio)
Ⅳ 人間の概念――サンデルと儒教的伝統
 第八章 儒教倫理における「人間」を理論化する |ロジャー・T・エイムズ(Roger T. Ames)
 第九章 道徳的主体なき道徳性についてどう考えるべきか |ヘンリー・ローズモント・ジュニア(Henry Rosemont Jr.)
 第一〇章 儒教の役割倫理に対するあるサンデル派の応答 |ポール・ダンブロージョ
Ⅴ マイケル・サンデルによる応答
 第一一章 中国哲学から学ぶ |マイケル・サンデル(Michael J. Sandel)
謝辞
参考文献

執筆者一覧


★『親鸞の言葉』は文庫版オリジナル編集。「親鸞における言葉」(『[思想読本]親鸞』所収、法蔵館、1982年)と、「歎異抄」「書簡」「教行信証」より吉本さんが編訳した「親鸞の言葉」(原題「現代語訳親鸞著作集(抄)」、前掲書所収)、そして鮎川信夫、佐藤正英、中沢新一の各氏と対談した「親鸞をめぐる三つの対話」の三部構成です。巻末エッセイとして、先ごろ亡くなった梅原猛さんによる「吉本隆明の思い出」(「東京新聞」2012年3月26日付夕刊掲載)が付されています。三本の対話はそれぞれ次の通り。鮎川さんとの対談は「『歎異抄』の現在性」(『現代思想』1979年6月号所収)、佐藤さんとの対談は「親鸞の〈信〉と〈不信〉」(『現代思想』1985年6月号所収)、中沢さんとの対話は「『最後の親鸞』からはじまりの宗教へ」(『中央公論』2008年1月号所収)。


★「歎異抄」からの現代語訳をひとつ引用します。「善人でさえもなお往生を遂げることができます。まして悪人ならばなおさらのことです。それなのに、世間のひとはいつも云っています。悪人でさえなお往生できる、まして善人ならばなおさらのことだというように。この言い方は、ちょっとかんがえると理路がとおっているようにみえますけれども、他力による本願の主旨にそむいています。そのわけは、自力で全を作(な)そうとする人は、どうしても他力を頼みにする心が欠けているので、阿弥陀如来の本願の対象にはなりません。けれども、自力が頼むこころをおもいかえして、如来の他力におすがりすれば、真実の浄土に往生を遂げることができます」(48頁)。続きはぜひ現物をご確認下さい。


★また「教行信証」の現代語訳より。「「横に跳び超える」とは、すなわち本願が成就されるただひとつある真実の円満な真の教えであって、つまり真宗がこれである。〔…〕阿弥陀仏のおおきな本願によって得られる清浄な真実の浄土に生まれるには、人の身分や位階の差はかかわりない。わずか一念するちょっとの間に、速やかにはやく無上の正真のさとりの道を得る。それだから、「横超(おうちょう)」というのである」(101頁)。


★『ホモ・ルーデンス』は、1973年の中公文庫版の改版。中公文庫プレミアム「知の回廊」の最新刊です。巻末の編集付記によれば「同文庫33刷(2015年11月刊)を底本とし、旧版の巻末にあった原注、訳者注は各章末に移した」とのこと。また、新たな収録作として堀米庸三(ほりごめ・ようぞう:1913-1975:西洋中世史)さんとマリウス・B・ジャンセン(1923-2000:日本史)さんとの対談「ホモ・ルーデンスの哲学」(初出:「中央公論」昭和42年9月号)が収められています。底本は1956年のドイツ語版で、1955年英語版、1949年イタリア語版、1958年のオランダ語全集版、1951年フランス語版にも「随時目を通して、より正確を期した」とあります。中公文庫プレミアム「知の回廊」では昨年11月に『中世の秋』上下巻が再刊されています。また、『ホモ・ルーデンス』は、昨年3月に講談社学術文庫より里見元一郎さんによる河出書房新社版「ホイジンガ選集」第一巻(1971年;新装版1989年)が文庫化されています。


★『ファースト・マン』は『First Man: The Life of Neil A. Armstrong』(初版、Simon & Schuster, 2005;改訂版、2006年;増補改訂版、2018年)の訳書。2007年にソフトバンク・クリエイティブから刊行された単行本は改訂版が底本で、今回の文庫は増補改訂版(新版)が底本とのことです。訳者あとがきによれば、この最新版では「全体的に内容が整理され、また旧版出版以降の出来事、とくにアームストロング最晩年のエピソードが大幅に加筆されている。これを新たに訳しなおすとともに、固有名詞や技術用語などの訳語を一部手直ししたのが〔…〕この文庫版である」とのことです。医師でエッセイストの向井万起男さんが文庫版解説を書いておられます。本書を原作とした同名映画が、かの『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督、ライアン・ゴズリング主演で来月2月8日から全国ロードショーとのことです。



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