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注目新刊:エーベンシュタイン『死の美術大全』河出書房新社、ほか

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a0018105_01094673.jpg★まずはまもなく発売となる注目新刊2点。


『死の美術大全――8000年のメメント・モリ』ジョアンナ・エーベンシュタイン編著、北川玲訳、河出書房新社、2018年10月、本体6,000円、A4変形判上製368頁、ISBN978-4-309-25590-3
『ロールズを読む』井上彰編、ナカニシヤ出版、2018年10月、本体3,800円、A5判上製364頁、ISBN978-4-7795-1330-5



★エーベンシュタイン『死の美術大全』は、『Death: A Graveside Companion』(Thames & Hudson, 2017)の日本語版。死を題材にした古今東西の貴重な絵画や版画や写真や彫刻等々を1000点以上を掲載した大判のヴィジュアル大全で、美麗なカラー図版が満載です。「死の技術」「死を吟味する」「死を記憶する」「死の擬人化」「死を象徴化する」「娯楽としての死」「死後の世界」の全7章で、折々に挟み込まれている論考はすべて銅色で刷られています。なんという美しさ。なんという贅沢。大判の厚い本にもかかわらずたったの税別6000円というのですからすごいです。いくら中国で印刷されているからとはいえ、またいくらこれまで同社のリチャード・バーネットの『描かれた~』シリーズ(『描かれた病』『描かれた手術』『描かれた歯痛』)が好評だからとはいえ、やはり、この値段はお得です。とにかく最初から最後までほとんどガイコツまみれ。壮麗ですらあります。エーベンシュタインは「はじめに」でこう書いています。「死は美と対立するものではないと私たちの祖先が考え表現してきたさまざまな形に接することで、祖先が深く理解していた考えを再発見できるかもしれない――死を身近にとどめ、避けられないものだと受け入れることによって、心豊かで充実した人生を送ることができるという、逆説めいた考えを」(16頁)。


★ちなみに同書の編集担当者Yさんは、8月末に刊行されたドニー・アイカー『死に山――世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』を手掛けてもいます。『死に山』は売れ行き好調ですでに3刷に達したのだとか。それにしてもディアトロフ峠事件は同じく8月に刊行された松閣オルタさんの『オカルト・クロニクル』(洋泉社)でも「ロシア史上最も不可解な謎の事件」として大きく扱われていましたし、かつては映画化されたこともありました(「ディアトロフ・インシデント」2013年:映画作品としてはB級)。人気なのですね。



★『ロールズを読む』は、「ロールズ正義論の方法と射程」と「ロールズ正義論への様々なアプローチ」の2部構成で13本の論考を収録した論集です。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。編者の井上さんによる巻頭の「序」によれば、「本書は、ロールズ正義論にみられる規範理論と経験科学との接点を重視しつつ、ロールズが古典的主題と向き合うなかで、どのような思想を展開したのかについて明らかにするプロジェクトである」(iii頁)とのこと。また、「これまでのロールズ正義論に関する議論にはない側面」として以下の3つの特色を挙げておられます。曰く「『正義論』第三部の議論に注目して、ロールズ正義論の特徴や変遷を明らかにする論考」(宮本雅也、若松良樹、小泉義之の三氏の各論文)や、「否定的に評価されることが多かった後期ロールズの政治的リベラリズムに光を当てる論考」(宮本雅也、田中成明、齋藤純一の三氏の各論文)、「ロールズ正義論の応用局面に注目する論考」(木山幸輔、額賀淑郎、角崎洋平、井上彰の四氏の各論文)と。


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★続いて発売済新刊より注目書を列記します。


『〈新装版〉シェリング著作集 第4a巻 自由の哲学』藤田正勝編、文屋秋栄、2018年9月、本体4,000円、A5判上製306頁、ISBN978-4-906806-05-8
『〈新装版〉シェリング著作集 第4b巻 歴史の哲学』藤田正勝/山口和子編、文屋秋栄、2018年9月、本体4,000円、A5判上製258頁、ISBN978-4-906806-06-5
『ディアローグ デュラス/ゴダール全対話』福島勲訳、読書人、2018年10月、本体2,800円、四六判並製203+10頁、ISBN978-4-924671-34-8
『三文オペラ』ベルトルト・ブレヒト著、大岡淳訳、共和国、2018年10月、本体2,000円、菊変型判上製224頁、ISBN978-4-907986-49-0
『制作へ』上妻世海著、オーバーキャスト/ÉKRITS、2018年10月、本体3,200円、A5判変形並製320頁、ISBN978-4-909501-01-1
『詩の約束』四方田犬彦著、作品社、2018年10月、本体2,800円、46判上製332頁、ISBN978-4-86182-720-4
『北海道小清水 「オホーツクの村」ものがたり』竹田津実著、平凡社、2018年10月、本体1,700円、4-6判並製224頁、ISBN978-4-582-52736-0
『戦争と文明』トインビー著、山本新/山口光朔訳、中公クラシックス、2018年10月、本体2,400円、新書判288頁、ISBN978-4-12-160181-0
『不平等の再検討――潜在能力と自由』アマルティア・セン著、池本幸生/野上裕生/佐藤仁訳、岩波現代文庫、2018年10月、本体1,480円、432頁、ISBN978-4-00-600393-7
『中世都市――社会経済史的試論』アンリ・ピレンヌ著、佐々木克巳訳、講談社学術文庫、2018年10月、本体1,280円、368頁、ISBN978-4-06-513161-9



★『〈新装版〉シェリング著作集』は、京都の「燈影舎」から途中まで出版されていたものが、今般、同じく京都の人文書版元「文屋秋栄(ふみやしゅうえい)」から新装版として刊行し直されることになったものです。扱い取次が鍬谷書店のみのためか、書店の店頭で購入できたのはようやく最近になってからのことでした。文屋秋栄は2011年に設立。先月『〈新装版〉シェリング著作集』の第4a巻『自由の哲学』と第4b巻『歴史の哲学』を刊行するとともに、大橋良介さんの『京都「哲学の道」を歩く』も発売しています。おそらくISBNや国会図書館のデータから推定すると、同社の出版第1弾は2013年3月の写真集『久安寺四季のいろどり――関西花の寺第十二番』(國司禎相監修、ISBNの書名記号は00)で、続く出版物が今回の『〈新装版〉シェリング著作集』と大橋さんのご本だと思われます。前者の書名記号が第4a巻が05、第4b巻が06ということは、書名記号01から08は同著作集全5巻8冊に振られるのでしょう。大橋さんの単著は17番であり、少し間が空いているのが気になります。


★奥付前の特記によれば『〈新装版〉シェリング著作集』は、燈影舎版『シェリング著作集』(既刊:1b『自然哲学』2009年9月、3『同一哲学と芸術哲学』2006年3月、4a『自由の哲学』2011年4月、5b『啓示の哲学』2007年10月)の構想を受け継ぎ、既刊巻へは改訂を加え、未刊巻を新刊として発行するもの。第4a巻『自由の哲学』は2011年の燈影舎版を底本とし、新装版刊行にあたり加筆修正を行ったものであり、第4b巻『歴史の哲学』は燈影舎では刊行されていなかったので今回初めての発売となります。2点の目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。『自由の哲学』はシェリングの代表作『人間的自由の本質』を含むために燈影舎版ではいち早く品切になり、古書でも入手が困難になっていましたので、再スタートとなる第1回配本で再刊されるのは非常にありがたいですし、同時に未刊だった『歴史の哲学』(「諸世界時代 第一巻 過去」の第一草稿と第二草稿を収録)が発売されたのも嬉しいです。


★燈影舎版はかつて刊行当時にアマゾンでマケプレに高額出品されることが多く面倒だったのですが、文屋秋栄版は今のところ在庫はないようです。hontoでは普通に購入できますし、ジュンク堂や丸善の主要店舗で販売されています。たとえ今後マケプレに高額出品されても通常の値段でhontoや本屋さんから購入した方がいいです。


★デュラス/ゴダール『ディアローグ』は、『DIALOGUES. Introduction, notes et postface de Cyril Béghin』(Post-éditions, 2014)の全訳。20世紀フランスを代表する作家と映画監督が交わした、1979年、1980年、1987年の合計3回の対談に、編者のシリル・ベジャンが詳細な註を付し、補遺としてゴダールからデュラスに宛てられた手紙を収録した一冊です。巻末には人名索引と、二氏の作品名索引があります。帯には蓮實重彦さんによる推薦文が。「この真摯で滑稽な言葉のやりとりを読まずにおく理由など、存在するはずもない」と。実際にこの二人の対話には惹き込まれます。個人的に特に興味深かったのは、幾度となく浮かんでは沈むサルトルの影です。ベジャンが指摘する通り、デュラスにとってサルトルとの関係は複雑なのでしょう。また、ゴダールが『愛人』の映画化をデュラスに打診して失敗したことをめぐるエピソードにもある種の複雑さを感じました。字面だけでは想像しきれませんが、いささか騒々しいやりとりになる場面もあったと思われます。本書は好調に売れているそうです。おそらくは今後も長く参照されることになるのでしょう。



★ブレヒト『三文オペラ』は演出家であり劇作家、批評家の大岡淳(おおおか・じゅん:1970-)さんによる新訳。編集を担当された共和国の下平尾代表は、投げ込みの「共和国急使」第25号の「地上五階より」で「じつに流麗でわかりやすい。研究者ではこうはならなかっただろう、という魅力が本書にはあふれている」とお書きになっています。凡例によれば「劇中の歌詞は、すべてクルト・ヴァイルの作曲したメロディにあてはまるよう訳されている」とのことです。解説として、ブレヒト自身による「『三文オペラ』へのコメント」、平井玄さんによる「世界がブレヒトに近づく」、大熊ワタルさんによる「『三文オペラ』と二人のクルト・ヴァイル」が収録されています。なお、本書のカヴァーはリバーシブルになっていて、非常に楽しいです。今回の最新訳は「東京芸術祭2018」の『野外劇 三文オペラ』に採用されています。入手しやすい既訳書には、岩波文庫版(岩淵達治訳)と光文社古典新訳文庫(谷川道子訳)があります。本書と併せ三作を比べ読みするといっそう楽しめるかもしれません。


★『制作へ』は、キュレーターであり批評家の上妻世海(こうづま・せかい:1989-)さんの単独著第一弾。ここ2年間に各媒体で発表され、執筆された論考13本を収録。そのうち8本はウェブで閲覧することができますが、本書はモノとしての魅力的な肉体も有しており、購読不可避です。小口まで真っ赤な装丁と紺色で刷られた横組の本文のスタイリッシュさは書店の売場で異彩を放っています。帯には落合陽一さんと、文化人類学者の奥野克巳さんが推薦文を寄せておられ、それらは目次詳細や関連イベント情報と一緒に書名のリンク先でご確認いただけます。落合さんは上妻さんと哲学者の清水高志さんとの共著『脱近代宣言』を水声社から先般上梓したばかり。奥野さんは今春、亜紀書房より上梓された『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』が話題を呼んでいます。書店さんでは芸術書売場で置かれることが多いのだろうと思いますが、私は某書店の人文書売場で入手しました。実際にしばしば人文書、とりわけ哲学や批評への参照がなされているので、人文書売場で扱うのも妥当だと思います。おそらくは紀伊國屋じんぶん大賞でもランクインしてくるのではないでしょうか。


★四方田犬彦『詩の約束』は集英社の月刊文芸誌『すばる』の2016年10月号から2018年3月号まで連載された「死の約束」全18回をまとめたもの。巻末には、中国語版『四方田犬彦詩集』(台北、黒眼晴文化事業、2018年)の序文として執筆された「わが詩的註釈」が併録されています。「後書き」にはこう書かれています。「本書を執筆する契機となったのは、2015年になされたアドニス師との邂逅であった。わたしたちは台北の詩歌節に招かれ、親しく語り合った。彼はいった。詩とは言葉との約束なのだ。ひとつの発語を開かれたものにすることで、言葉全体を複数の筋目のあるものに変えていかなければならない。シリアの亡命詩人から与えられたこの公案を自分なりに受け止め、自分なりに読み解くことから、この書物は書き始められた」(330頁)。本書で言及されている詩や詩論の出典は巻末に「引用文献」としてまとめられています。


★『北海道小清水 「オホーツクの村」ものがたり』は、かの名作映画「キタキツネ物語」の企画・動物監督をつとめた獣医師であり、写真家・文筆家として活躍されている竹田津実(たけたづ・みのる:1937-)さんが、1978年から約40年にわたり参加してこられた「財団法人小清水自然と語る会」での自然保護運動の活動史を綴ったものです。同会が建設した自然豊かなサンクチュアリ「オホーツクの村」(網走駅からJR釧網線浜小清水駅下車、徒歩30分)をめぐる1975年から2014年までの記録であり、柔らかな筆致で村の自然やそれに関わる群像が紹介されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書には「原点 獣医と農民とキタキツネと」と題して、写真集『跳べ、キタキツネ』(1978年)の本文「キタキツネの里」と、自然雑誌「アニマ」創刊号(1973年4月)に著者が寄稿した「仔別れののち、F18は口ハッパで死んだ」が併載されています。F18は創刊号の表紙を飾った雌のキタキツネ。密猟者が仕掛けた口(くち)ハッパという、肉で包んだ爆薬の犠牲となって亡くなるまでの、著者との交流が綴られています。



★トインビー『戦争と文明』は1959年に社会思想社から刊行された単行本の文庫化。訳者序によれば、原著は1951年の『War and Civilization』で、『歴史の研究』から戦争にかんする部分を集めたもので、主要な部分は同書第4巻の「軍国主義の自殺性」と題する一章とのことです。再刊にあたり、三枝守隆さんによる解説「A・J・トインビーの「戦争の比較文明学」」が巻頭に付されています。三枝さんのご説明を引くと「文明が、自身を破壊する「戦争する文明」へと、どのようにして変化してきたか。これは本書のテーマである」(5頁)。再び訳者序に帰ると「トインビーの主眼点は、文明の「挫折」であって、戦争ではなかった。ところが、文明がなぜ「挫折」するかという問題を解明しようとすれば、どうしても挫折の原因の一つがミリタリズムだということを究明していかなければならなかった」(3頁)。それゆえ本書は「挫折論の範囲内での戦争論、あるいは挫折の原因の一つとしてのミリタリズム論である」(4頁)と。『歴史の研究』はかつて全25巻で全訳が刊行されていましたが、現在は新本では入手できません。


★セン『不平等の再検討』は1999年に岩波書店より刊行された単行本の文庫化。原著は『Inequality Reexamined』(Oxford University Press, 1992)です。共訳者の池本さんによる「現代日本の不平等についての議論とセンの不平等論――「現代文庫版訳者あとがき」にかえて」が新たに付されているほか、参考文献が改訂されています。巻末の特記によれば、この論考は単行本刊行後の動向を踏まえたもの。「本書はセンの不平等論や潜在能力アプローチの手軽な入門書として〔…〕広く読まれ、多くの人から「潜在能力とは何か」「それをどう応用すべきか」などについて質問をいただいてきた。ここでは〔…〕それらの質問に答えるために、1990年代の日本で交わされた不平等の議論に即して解説してみたい」(299頁)とあります。文庫本で読めるセンの著書には『経済学と倫理学』(ちくま学芸文庫、2016年12月)、『貧困と飢饉』(岩波現代文庫、2017年7月)、『グローバリゼーションと人間の安全保障』(ちくま学芸文庫、2017年9月)があります。


★ピレンヌ『中世都市』は1970年に創文社より刊行された単行本の文庫化。原書は1927年にブリュッセルで公刊された『Les villes du moyen âge. Essai d'histoire économique et sociale』。巻末の編集部による特記には、文庫化にあたり「いくつかの地名について現代の慣用表記に直し、漢字・送り仮名についても、若干の変更を加えました」とのことです。解説は大月康弘さんがお書きになっています。書き出しはこうです。「ピレンヌは今も生きている。本書を手にして改めてそう感じた。/なんとみずみずしく「中世都市」の来歴を描いてみせたことだろうか。「中世都市」誕生までの骨太にして明瞭なストーリー。都市誕生後の内部構造分析、そこに生きた人びとの息づかいまでが身近に感じられてくるというものではないだろうか」(328頁)。歴史学者として高名なピレンヌですが、著書が文庫化されるのは初めてのことです。


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