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注目新刊:『アルトー後期集成』全三巻完結、ほか

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アルトー後期集成 II
アントナン・アルトー著 宇野邦一・鈴木創士監修 管啓次郎・大原宣久訳
河出書房新社 2016年3月 本体5,000円 46判上製472頁 ISBN978-4-309-70532-3

帯文より:われわれの生を救出するためにアントナン・アルトーが帰ってくる。ユーモアとやさしさ、激情と悪意、陽気さと悲痛なみじめさ、笑いと沈黙。絶叫・・・とともに。その思考を凝縮させた奇跡的な後期テクスト群をはじめて集成。生前のアルトーが「本」として構想していた最後の作品にして〈残酷の演劇〉の極限的な実践でもあった「アルトーのすべての作品のうち、もっとも電撃的であり、彼自身がもっともさらされた作品」=『手先と責苦』を全訳。世界でも稀有の集成、10年めに完結。

★発売済。第I巻(宇野邦一・岡本健訳、2007年3月)、第III巻(鈴木創士・荒井潔・佐々木泰幸訳、2007年6月)に続く全三巻完結配本となる第II巻です。帯文にある通り刊行10年目にしての完結。アマゾン・ジャパンの書誌情報では発売日が2007年7月20日となっていますが、これはその昔の登録のままになっていると見え、いずれ版元さんが修正するものと思われますが、当初の予定では10年前に完結させたかっただろうことが窺えます。このたび刊行された第II巻に収録されているのは、帯文にある通りアルトーが生前に著書として構想していた最後の作品『手先と責苦 Suppôts et Suppliciations』です。ガリマール版『アントナン・アルトー著作集』第14巻(2分冊、ポール・テヴナン編、1978年)と、同じくガリマールのポエジー叢書版(エヴリン・グロスマン編、2006年)が参照されていることが窺えます。

★『手先と責苦』は「断片化 Fragmentations」「書簡 Lettres」「言礫 Interjections」の三部構成。1947年2月に執筆されたと思しい序文にはこう書かれています。「第一部は息せき切っておこなわれる、文化の再検討のごときもの。かたちをなす以前に台無しにされてしまった一文化のあらゆるトーテム群を横断してゆく、身体のアブラカダブラ的な騎行だ。/第二部では、この騎行を企てて苦しむ身体が、その身をさらけだす。/その人間がまぎれもなく人間であり霊などではないということが、よくわかってもらえるだろう。/第三部にいたると、もはや問題にならない。/文化も。/生も。/問題となるのはただ、人間の身体が呼吸をはじめる以前に窒息してしまう、創造以前から〔アンクレー〕の忌々しい地獄、/思考の縁のみならず、感情の縁でもある地獄だ」(10-11頁)。また、序文の後段にはこんな言葉も書きつけられています。「現代人は疲れきっていて、自分の理想など深く掘り下げてみるまでもなく、自分が欲するのはたださしだされた生をがぶ飲みすることだけなのだということがわかる。そうすれば、正気を失い、ついにはそれでくたばるばかり」(11-12頁)。

★管さんは訳者あとがきでこうしたためられています。「われわれのアルトー体験は文字を介するしかなく、そこで改めて、文字という不思議な記号の作用を考える必要が出てくるのかもしれない。文字とは、いつまでもおとなしく死んでいるものではないのだから。〔・・・〕こうして文字を手がかりに、アルトーが瞬時によみがえることを、われわれは経験するだろう。翻訳された書物とは一個の反響箱でしかなく、いかにもはかない装置だが、そこにも彼はやってくる、いや、生じるだろう。生起するだろう」(467—468頁)。甦るもの、レヴェナントとしての書物。常に異なる肉体へと憑依し続けるものとしての作品。アルトーは「言礫」に収められた「[叩きのめし、一発くれてやること]」で次のように書きます。「それでもやはり私が語るのは、言葉が性交を望んでくるから。普遍的な姦淫は止むことがなく、考えずにすませることを私に忘れさせる」(247頁)。

★このほか、直近では以下の新刊との出会いがありました。

『村に火をつけ、白痴になれ――伊藤野枝伝』栗原康著、岩波書店、2016年3月、本体1,800円、四六判並製192頁、ISBN978-4-00-002231-6
『天使とは何か――キューピッド、キリスト、悪魔』岡田温司著、中公新書、2016年3月、本体780円、新書判232頁、ISBN978-4-12-102369-8
『知能はもっと上げられる――能力アップ、なにが本当に効く方法か』ダン・ハーリー著、渡会圭子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2016年3月、本体2,000円、46判並製360頁、ISBN978-4-7726-9550-3

★『村に火をつけ、白痴になれ』は発売済。『大杉栄伝――永遠のアナキズム』(夜光社、2013年)と対になる鮮烈な伝記が誕生しました。伊藤野枝や大杉栄が憑依したかのような内面吐露はところどころ太宰治の「駆け込み訴え」を彷彿とさせ、リズムのいい文体で一気に読ませます。人物描写の妙に加えて、自著のフレーズを滑り込ませる(例えば76頁、辻潤のくだり)など、栗原節の魅力はますます進化しています。まさかこんなにも「自由な」本が天下の「お堅い」岩波書店から出るとは。栗原さんが書く言葉の根っこには「肯定の思想」があります。それは、現代人を惨めに縛る様々な自己規制から読む者を開放し、大きな「諾」で包もうとする力です。光に影が寄り添うように、肯定は否定を伴います。本書は新たな毀誉褒貶を惹起する爆弾となることでしょう。目次と著者メッセージ、編集者コメントなどは特設頁にてご覧いただけます。

★『天使とは何か』は発売済。「異教の神々――天使とキューピッド」「天からの使者として――天使とキリスト」「歌え、奏でよ――天使と聖人」「堕ちた天使のゆくえ――天使と悪魔」「天使は死なない――天使と近代人」の全五章。本書の狙いについて岡田さんは「はじめに」でこう述べています。「隠れた天使や異端的とされてきた天使を現代に救い出す試み」(ii頁)。前者「隠れた天使」については第II章で、天使としてのキリスト像の系譜として論じられており、「神学的にも図像学的にも今後のさらなる解明が望まれるきわめて興味深いテーマ」だと指摘されています。後者「異端の天使」すなわち堕天使については第IV章で取り上げられ、「他者(他の信仰や宗教や神話)における天使(的存在)を「悪魔」呼ばわりしてきた」「隠れた歴史」に迫りつつ、「自由と抵抗、そして本能的なものの解放と創造的エネルギーのシンボル」としての側面にも言及されています。

★『知能はもっと上げられる』は発売済。原書は、Smarter: The New Science of Building Brain Power (Avery, 2013)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者のダン・ハーリー(Dan Hurley)はアメリカの科学ジャーナリスト。本書が本邦初訳となります。『進化しすぎた脳』などの著書で高名な池谷裕二さんは本書を「どうすれば知能が上げられるかを科学者に取材し、著者自ら効果的な方法を試した体当たり的検証録」と評価されています。さらに著者はこうも言っています、「本書は大きな変化の渦中にある知能研究という分野についての本だ」と。作業記憶、流動性知能、長期記憶、結晶性知能、そして様々なトレーニングや脳の活性化に良いもの、良いことをめぐって、科学、医学、ビジネスの諸領域と最新動向を紹介してくれます。近年ますます研究が進み、軍事面からも注目されているという知能研究の面白さを知ることができます。


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