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注目新刊:「知泉学術叢書」が創刊、ほか

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★まずは単行本の新刊から。


『キリスト教と古典文化――アウグストゥスからアウグスティヌスに至る思想と活動の研究』C・N・コックレン著、金子晴勇訳、知泉学術叢書:知泉書館、2018年2月、本体7,200円、新書判上製926頁、ISBN978-4-86285-268-7
『デカルト 数学・自然学論集』(山田弘明/中澤聡/池田真治/武田裕紀/三浦伸夫/但馬亨訳・解説、フレデリック・ド・ビュゾン序、法政大学出版局、2018年2月、本体4,500円、A5判上製388頁、ISBN978-4-588-15090-6
『誰が世界を支配しているのか?』ノーム・チョムスキー著、大地舜/榊原美奈子訳、双葉社、2018年2月、本体1,600円、四六判並製384頁、ISBN978-4-575-31341-3
『情報経済の鉄則――ネットワーク型経済を生き抜くための戦略ガイド』カール・シャピロ/ハル・ヴァリアン著、大野一訳、日経BPクラシックス:日経BP社、2018年2月、本体3,000円、4-6変判上製656頁、ISBN978-4-8222-5557-2
『肉食行為の研究』野林厚志編、平凡社、2018年3月、本体4,600円、A5判上製496頁、ISBN978-4-582-83770-4
『〈原作〉の記号学――日本文芸の映画的次元』中村三春著、七月社、2018年2月、本体3,200円、四六判上製288頁、ISBN978-4-909544-01-8



★コックレン『キリスト教と古典文化』は、『Christianity and Classical Culture』(1939)の全訳。難解をもって鳴る古典的名著の待望の訳書です。目次詳細は書名のリンク先をご確認ください。「知泉学術叢書」の第一弾であり、この叢書は「研究基盤として役立つ、一次文献と基本的な二次文献の翻訳シリーズ」とのこと。続刊予定にイェーガー『パイデイア――ギリシアにおける人間形成』(上巻、曽田長人訳)、パラマス『東方教会の精髄 人間の神化論攷――聖なるヘシュカストたちのための弁護』(大森正樹訳)、トレル『聖トマス・アクィナス――人と作品』(保井亮人訳)などが予告されています。特に『パイデイア』は待ち遠しいですね。


★『デカルト 数学・自然学論集』は昨年の『デカルト 医学論集』(山田弘明/安西なつめ/澤井直/坂井建雄/香川知晶/竹田扇訳、アニー・ビトボル=エスペリエス序、法政大学出版局、2017年3月)に続く、貴重な論文集。最新の原典校訂テキストをふまえた「幾何学・代数学・力学分野での科学者デカルトの寄与を一望できる貴重な一冊」(帯文)。共訳者の山田さんは昨年、『デカルト ユトレヒト紛争書簡集(1642-1645)』(山田弘明/持田辰郎/倉田隆訳、知泉書館、2017年12月)も上梓されており、近年のデカルトの新訳と初訳を継続的に牽引されているその功績には大なるものがあると言うべきはないでしょうか。


★チョムスキー『誰が世界を支配しているのか?』は英米語圏でベストセラーになっていると聞く『Who Rules the World?』の翻訳。原書では2016年にハードカバーが出て、2017年にペーパーバックが発売されています。全23章で、訳書では巻頭に「日本の読者の皆様へ」、巻末に「あとがき 2017年版によせて」を収録。誰が世界を支配しているのかを問うことは「どんな原則や価値観が世界を支配しているのか」(367頁)を問うことでもあるとチョムスキーは示唆します。昨今、トランプ政権の内幕を暴いた『炎と怒り』が日本でもついに翻訳されましたが、チョムスキー本の方が共和党批判においては辛辣です。


★シャピロ/ヴァリアン『情報経済の鉄則』は『Information Rules: A Strategic Guide to the Network Economy』(Harvard Business Press, 1999)の新訳。既訳は『「ネットワーク経済」の法則――アトム型産業からビット型産業へ…変革期を生き抜く72の指針』(千本倖生監訳、宮本喜一訳、IDGコミュニケーションズ、1999年)でした。新訳の帯文は以下の通り。「Googleを世界一にした経済学者で同社チーフエコノミスト、ハル・ヴァリアンらが1999年に刊行した不朽の名著」。目次詳細は照明のリンク先をご覧ください。「本書の鉄則に従えば、成功の確率が格段に高まる」というジェフ・ベゾスの言葉が帯の背に刷られていて非常に説得的です。


★野林厚志編『肉食行為の研究』はまもなく発売。「人類学を中心に、人文・自然科学の枠を超えた研究者たちが、人間の肉食をめぐる問題群を全方位的に考え抜いた、前代未聞にして画期的な共同研究の成果」(帯文より)と。「肉食行為の文化誌」「肉食行為の人類史」「肉食行為のイメージ」「肉食行為のグローバリズム」の四部構成で16本の論考を収録。あとがきによれば、編者が代表者となって実施した国立民族学博物館共同研究(平成24~26年度)における研究発表をもとに、各執筆者が課題に沿って執筆したものとのことです。食(行為)の研究はいまもっとも重要な分野のひとつではないでしょうか。人文書売場でもちゃんとした位置付けが必要だと感じます。


★中村三春『〈原作〉の記号学』は昨年末創業されたひとり学術出版社「七月社」(しちがつしゃ)さんの書籍第二弾で、映画論です。「文芸原作を持つ第二次テクストとしての映画を理論的また分析的に研究したもの」(10頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者の中村三春(なかむら・みはる:1958-)さんは北海道大学大学院文学研究科教授で、ご専門は日本近代文学・比較文学・表象文化論専攻。近年の編書に『映画と文学――交響する想像力』(森話社、2016年)があります。この本の編集担当がほかならぬ七月社を起業したNさんです。


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★続いて文庫新刊より。


『政治の約束』ハンナ・アレント著、ジェローム・コーン編、高橋勇夫訳、ちくま学芸文庫、2018年3月、本体1,400円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-09849-8
『人間とはなにか――脳が明かす「人間らしさ」の起源』上下巻、マイケル・S・ガザニガ著、柴田裕之訳、ちくま学芸文庫、2018年3月、本体各1,300円、文庫判384頁/368頁、ISBN978-4-480-09851/978-4-480-09852-8
『増補 ハーバーマス――コミュニケーション的行為』中岡成文著、ちくま学芸文庫、2018年3月、本体1,300円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-09853-5
『現代語訳 三河物語』大久保彦左衛門著、小林賢章訳、ちくま学芸文庫、2018年3月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-09844-3
『ホームズと推理小説の時代』中尾真理著、ちくま学芸文庫、2018年3月、本体1,200円、文庫判352頁、ISBN978-4-480-09847-4
『わが思索のあと』アラン著、森有正訳、長谷川宏解説、中公文庫、2018年2月、本体1,200円、文庫判408頁、ISBN978-4-12-206547-5
『君主論 新版』マキアヴェリ著、池田廉訳、佐藤優解説、中公文庫、2018年2月、本体800円、文庫判272頁、ISBN978-4-12-206546-8
『怠惰の美徳』梅崎春生著、荻原魚雷編、中公文庫、2018年2月、本体900円、文庫判312頁、ISBN978-4-12-206540-6


★ちくま学芸文庫のまもなく発売となる今月新刊は5点。アレント『政治の約束』は『The Promise of Politics』(Shocken Books, 2005)の全訳で、訳書単行本は2008年に筑摩書房より刊行。文庫化にあたり、訳者解説によれば「訳文に少々手を入れた。いくつかの訂正箇所もあったが、大半は文章を読みやすくする作業であった」とのことです。後段には「多数の訳文の修正のみならず、無数の句読点の取捨や語尾の変更」ともあります。同じくコーンの編書『責任と判断』(中山元訳、2007年;ちくま学芸文庫、2016年)も文庫化されているので、筑摩書房のアレントの単行本はすべて文庫化されたことになります。


★ガザニガ『人間とはなにか』上下巻は、2010年にインターシフトより刊行された『人間らしさとはなにか?――人間のユニークさを明かす科学の最前線』の改題分冊文庫化。原書は『Human: The Science Behind What Makes Us Unique』(Ecco, 2008)です。帯文に曰く「ピンカー、ラマチャンドラン絶賛」と。特に本書の最終章「肉体など必要か?」は人間が科学技術によって変容を被りうる近未来についての考察を簡潔にまとめており興味深いです。


★中岡成文『増補 ハーバーマス』は1993年に講談社の「現代思想の冒険者たち」シリーズで刊行され、その後2003年に同シリーズのセレクト版として再刊された単行本の増補文庫化で、終章「対話は世界を変えられるのか――その後のハーバーマス」(291~331頁)が書き下ろしで追加されています。「対話が支える相互理解は可能か? 理性を信じる思想」という帯文は対話よりも圧力を選ぶ、恐怖と不信に絡めとられた現代政治への直球の提言として響きます。


★『現代語訳 三河物語』は、教育社より1980年に刊行された『三河物語』上下巻の改訳文庫化。「徳川家九代の歴史を今に伝える重要古典〔・・・〕当時の俗語で書かれた難解な原文を、読みやすい現代語訳で送る」(カヴァー紹介文より)と。「忠誠」を精神のよりどころに戦国時代を生き抜いた老武者のひたむきな生きざまと考え方に心奪われるだろう、と訳者は「はじめに」で書いています。


★中尾真理『ホームズと推理小説の時代』は書き下ろし。目次を列記しておきます。
前書き
第一部 『ストランド・マガジン』とシャーロック・ホームズ
 第一章 シャーロック・ホームズ登場
 第二章 ホームズの引退
 第三章 観察と推理――シャーロック・ホームズの先輩たち
第二部 推理小説の黄金時代(イギリスの場合)
 第一章 シャーロック・ホームズのライヴァル(同時代人)たち
 第二章 G・K・チェスタトンとE・C・ベントリー
 第三章 アガサ・クリスティ
 第四章 ドロシー・L・セイヤーズ
 第五章 A・A・ミルンとロナルド・A・ノックス
第三部 推理小説の黄金時代(アメリカの場合)
 第一章 S・S・ヴァン・ダイン
 第二章 エラリー・クイーン
 第三章 ジョン・ディクスン・カー
 第四章 アール・スタンリー・ガードナー
 第五章 レックス・スタウト
第四部 推理小説の黄金時代の余波
 第一章 黄金時代の余波
第五部 推理小説の黄金時代(日本の場合)
 第一章 日本の近代化と推理小説
附録1 千駄ヶ谷のシャーロック・ホームズ
附録2 人はなぜ推理小説を読むのか
参考文献
あとがき


★続いて中公文庫。「古典作品の歴史的な翻訳に光を当てる精選シリーズ」である中公文庫プレミアムの最新刊はアラン『わが思索のあと』。「円熟期を迎えた著者が師〔ラニョー〕との出会いからプラトン、ヘーゲルなどの哲学、第一次大戦の従軍体験、さらに唯物論、宗教まで繊細な筆致で綴る。稀有な思想的自伝全34章」(カヴァー裏紹介文より)。思索社より1949年に刊行された単行本の文庫化で原書は『Histoire de mes pensées』(Gallimard, 1936)です。文庫化にあたり新字新仮名遣いを採用し、固有名詞の表記を改め、誤植を修正し、新たな人名索引を付したとのことです。長谷川宏さんによる解説「過去の経験を思想化すること」が付されています。同シリーズではエリオット『荒地/文化の定義のための覚書』(深瀬基寛訳)が続刊予定となっています。


★マキアヴェリ『君主論 新版』は1995年に中公文庫で刊行された新訳版の新組再刊と見て良いかと思います。このかん、中公クラシックスでも2001年に刊行されており、訳者解説末尾の文献案内に新訳版以降の文献も加わっているのは2001年版からでしたでしょうか。いずれにせよ、「世界の名著」から数えて5度目の再刊となるロングセラーです。巻末には佐藤優さんによる解説が新たに付されています。独裁化の危険に抗する「愚行権」(幸福追求権)の重要性について語る佐藤さんの筆致が印象的です。


★梅崎春生『怠惰の美徳』は荻原魚雷さんが選んだ随筆と短編小説をまとめたもの。発売後早くも反響続々で、今年の再評価本として記憶に残るだろう一冊。「やる気がなくてもなんとかやっています」という帯文が無性に可笑しいです。表題作はその脱力感がよく表れている一篇。「私自身にしても、ナマケモノといわれるより、閑人といわれる方が気持ちがいい。私は「閑暇の美徳」という文章を書くべきであったようだ」(17頁)。あくせく働いて自分がどこを目指しているのか、目指したいのかが分からなくなっている現代の読者もまた、働かされることによって失った自由な自律的時間である「閑暇」を取り戻すべく、怠惰という力を見直すべきなのかもしれません。ラッセルの名著『怠惰への讃歌』(平凡社ライブラリー、2009年)やラファルグ『怠ける権利』(平凡社ライブラリー、2008年)とともに噛みしめたい一冊です。


★さらに言えば國分功一郎さん『暇と退屈の哲学』(増補新版、太田出版、2015年)や、スヴェンセン『働くことの哲学』(紀伊國屋書店、2016年)、カイヨワ『遊びと人間』(講談社学術文庫、1990年)、チクセントミハイ『フロー体験 喜びの現象学』(世界思想社、1996年)、ボイル『無銭経済宣言』(紀伊國屋書店、2017年)、フレイレ『希望の教育学』(太郎次郎社、2001年)、イリイチ『脱学校の社会』(東京創元社、1977年)、ブラック『労働廃絶論――ボブ・ブラック小論集』(アナキズム叢書、2015年)なども思い浮かびます。今月は講談社学術文庫でホイジンガの『ホモ・ルーデンス』の新訳がまもなく発売となりますし、政府が謳う「働き方改革」を考え直す上でこれらの読書が良いきっかけになるかもしれないと思います。


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