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注目文庫新刊、新書、既刊書、近刊書など:ちくま学芸文庫、ほか

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『グローバル・シティ――ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』サスキア・サッセン著、伊豫谷登士翁監訳、大井由紀/髙橋華生子訳、ちくま学芸文庫、2018年2月、本体1,900円、768頁、ISBN978-4-480-09842-9
『専制国家史論――中国史から世界史へ』足立啓二著、ちくま学芸文庫、2018年2月、本体1,200円、320頁、ISBN978-4-480-09843-6
『紀貫之』大岡信著、ちくま学芸文庫、2018年2月、本体1,100円、288頁、ISBN978-4-480-09845-0
『草莽論――その精神史的自己検証』村上一郎著、ちくま学芸文庫、2018年2月、本体1,200円、336頁、ISBN978-4-480-09846-7
『リヴァイアサン2』ホッブズ著、角田安正訳、光文社古典新訳文庫、2018年2月、本体1,160円、392頁、ISBN978-4-334-75731-9
『闘争領域の拡大』ミシェル・ウエルベック著、中村佳子訳、河出文庫、2018年2月、本体880円、216頁、ISBN978-4-309-46462-6
『世界の未来――ギャンブル化する民主主義、帝国化する資本』エマニュエル・トッド/ ピエール・ロザンヴァロン/ヴォルフガング・シュトレーク/ジェームズ・ホリフィールド著、朝日新書、2018年2月、本体778円、200頁、ISBN978-4-02-273752-6
『マルクス 資本論の哲学』熊野純彦著、岩波新書、2018年1月、本体880円、288頁、ISBN978-4-00-431696-1
『メイキング・オブ・勉強の哲学』千葉雅也著、文藝春秋、2018年1月、本体1,200円、四六判上製208頁、ISBN978-4-16-390787-1
『古代文芸論集』ロンギノス/ディオニュシオス著、戸高和弘/木曽明子訳、京都大学学術出版会、2018年1月、本体4,600円、四六変上製580頁、ISBN978-4-8140-0097-5
『赤の書[図版版]』C・G・ユング著、創元社、2018年1月、本体5,000円、A5判並製224頁、ISBN978-4-422-11675-4



★まずちくま学芸文庫の2月新刊から4点。『グローバル・シティ』はサッセンの初の文庫化。原書は2001年の第二版で訳書親本は2008年刊。文庫化にあたり、監訳者と訳者の大井さんの連名による新たな訳者あとがきが付されています。足立啓二『専制国家史論』の親本は1998年に柏書房より刊行。「文庫版あとがき」によれば、「再版に際しての修正は、文字の誤りなど表記の訂正にとどめた。ただし参照の便宜を考え、雑誌類に掲載された論文が著書に収録されている場合は、注に書名を併記するよう努めた」とのことです。大岡信『紀貫之』は、ちくま文庫(1989年)からのスイッチ。巻末には堀江敏幸さんによる解説「水底という「鏡」に映す自画像」が収められています。村上一郎『草莽論』は大和書房より1972年に刊行された単行本の文庫化で、国文社版『村上一郎著作集(3)思想論Ⅰ』(1977年)を適宜参照したとのことです。巻末に桶谷秀昭さんによる「村上一郎『草莽論』解説」が付されています。昨秋文庫化された『幕末――非命の維新者』(中公文庫)とともにひもとくのが良いかと思います。


★ホッブズ『リヴァイアサン2』は第二部「国家について」の新訳。同書には第三部、第四部までありますが、今回の新訳は第二部までで完結。『闘争領域の拡大』はウエルベックの処女小説(1994年)であり、訳本は2004年に角川書店より刊行。文庫化にあたり加筆修正され「文庫版訳者あとがき」が付されています。


★『世界の未来』の未来は、朝日新聞が昨年行った識者4名へのインタヴューを1冊にまとめたもの。エマニュエル・トッド「世界の未来――私たちはどこに行くのか」、ピエール・ロザンヴァロン「民主主義の希望――ポピュリズムと21世紀の民主主義」、ヴォルフガング・シュトレーク「資本主義の限界――グローバリゼーションと国際国家システムの危機」、ジェームズ・ホリフィールド「分断の克服――移民政策に失敗した国は、21世紀の負け組になる」を収録。


★熊野純彦『マルクス 資本論の哲学』は、2013年の大著『マルクス資本論の思考』に続くマルクス読解書。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。リンク先では本書の「まえがき――世界革命と世界革命とのあいだで」を立ち読みすることができます。


★千葉雅也『メイキング・オブ・勉強の哲学』は売上6万部を突破したという『勉強の哲学』の続編。メイキングが1冊になるというのは人文書では異例のことかと思いますが、本書の発売によって『勉強の哲学』の売れ行きがさらに伸びているとも耳にしています。『メイキング』第四章「欠如のページをめくること」において、「頭のなかで考えがこんがらがっている状態というのは、考えに対して距離がなくなり、近づきすぎている状態ではないでしょうか。とすればその解消とは、考えに対して距離をとることです」(143頁)と千葉さんは書きます。「不安の時代に対処するセルフヘルプのひとつの方法」を提示する本書は学生だけでなくビジネスマンにも訴求するのではないでしょうか。


★『古代文芸論集』は、ロンギノス「崇高について」(戸高和弘訳)と、ディオニュシオスの6篇の修辞学論をまとめたもの。6篇というのは「模倣論」木曽明子訳、「トゥキュディデス論」木曽明子訳、「デイナルコス論」木曽明子訳、「アンマイオスへの第一書簡」戸高和弘訳、「ポンペイオス・ゲミノスへの書簡」戸高和弘訳、「アンマイオスへの第二書簡」戸高和弘訳。「崇高について」の末尾で論じられる当時の社会情勢はどこか現代世界が抱える問題群と似ている気がします。


★ユング『赤の書[図版版]』は、テキスト版(2014年)と対になるものです。2010年に刊行された大判の元版は4万円を超える本ですが、テキスト版と図版版は両方買っても1万円ちょっとです。図版版はそれ自体が魔術的な物質性を備えており、たとえ文字が読めなくても、立ち昇ってくる息吹が見る者にインスピレーションを与えると思います。オールカラーでとても美しいです。


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★最近では以下の新刊との出会いがありました。


『資本主義リアリズム』マーク・フィッシャー著、セバスチャン・ブロイ/河南瑠莉訳、堀之内出版、2018年2月、本体2,000円、四六判並製212頁、ISBN978-4-909237-35-4
『私はすでに死んでいる――ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』アニル・アナンサスワーミー著、藤井留美訳、紀伊國屋書店、2018年2月、本体2,200円、46判上製352頁、ISBN978-4-314-01156-3
『お隣りのイスラーム――日本に暮らすムスリムに会いにいく』森まゆみ著、紀伊國屋書店、2018年2月、本体1,700円、46判並製292頁、ISBN978-4-314-01155-6
『ゲームの規則Ⅲ 縫糸』ミシェル・レリス著、千葉文夫訳、平凡社、2018年2月、本体3,600円、4-6判上製384頁、ISBN978-4-582-33325-1
『古代中国の社――土地神信仰成立史』エドゥアール・シャヴァンヌ著、菊地章太訳注、東洋文庫(平凡社)、2018年2月、本体3,100円、B6変判上製函入294頁、ISBN978-4-582-80887-2
『裁判の原点――社会を動かす法学入門』大屋雄裕著、河出ブックス(河出書房新社)、2018年1月、本体1,500円、B6判並製248頁、ISBN978-4-309-62509-6



★フィッシャー『資本主義リアリズム』は発売済。『Capitalist Realism: Is there no alternative?』(Zero Books, 2009)の完訳にしてフィッシャーの初訳本です。訳者によれば「マークの考える「資本主義リアリズム」は端的にいえば、ネオリベラル資本主義が唯一の持続可能な政治経済システムであると了解し、その地平の彼方を求める、いや想像することさえもが不可能になってしまった、つまるところは「この道しかない」ということが謎の常識と化してしまった世界を指し示している。こうした「現実主義」に疑問符をつけることが本書の出発点である」。帯にはジジェクの言葉が載っています。「「はっきり言わせてもらおう。たまらなく読みやすいこのフィッシャーの著書ほど、われわれの苦境を的確に捉えた分析はない」。フィッシャーは1年ほど前に逝去。「どんな希望も、どんな前向きな状態でさえも危険な錯覚だと信じてしまう」(19頁)リアリズムなるものに抗するための、燃え上がる紙つぶてです。


★アナンサスワーミー『私はすでに死んでいる』はまもなく発売。『The Man Who Wasn't There: Investigations into the Strange New Science of the Self』(Dutton, 2015)の翻訳。帯文に曰く「あっけなく崩壊する自己とは何なのか。「自分は死んでいる」と思いこむコタール症候群、自分の身体の一部を切断したくてたまらなくなる身体完全同一性障害、何ごとにも感情がわかず現実感を持てない離人症――当事者や研究者へのインタビューをはじめドッペルゲンガー実験や違法手術の現場も取材し、不思議な病の実相と自己意識の謎に、神経科学の視点から迫る」。著者はインド系アメリカ人の科学ジャーナリストで。英『ニューサイエンティスト』誌の編集コンサルタントを務めておられます。『宇宙を解く壮大な10の実験』(松浦俊輔訳、河出書房新社、2010年)に続く2冊目の訳書です。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。解説は昨夏に『私家版 精神医学事典』(河出書房新社、2017年8月)を上梓された精神科医の春日武彦さんがお書きになっておられます。


★森まゆみ『お隣りのイスラーム』はまもなく発売。副題にある通り、様々な国から日本に来て活躍しているイスラム教徒13人に取材し、その肉声から豊かなイスラム文化をかいま見せる好著。インドネシア人の舞踏家、バングラデシュ人のハラルフード店店主、シリア人のアレッポ石鹸販売会社代表、ウイグル料理店オーナー、等々、登場する人物のお名前と出身国は書名のリンク先でご覧になれます。日々の報道によって陰惨な事件の側面ばかりが目に入ってくる昨今、こうした人肌の温かみを感じさせる本が生まれたことを喜びたいです。


★レリス『ゲームの規則Ⅲ 縫糸』はまもなく発売。『La Règle du jeu, III. Fibrilles』(Gallimard, 1966)の翻訳。訳者あとがきに曰く「執筆期間は1955年11月から1965年9月までの10年間に及び、完成までにかなり長い年月を要しているのは『ゲームの規則』のほかの巻にも共通する点だが、とくにこの第Ⅲ巻の場合は、執筆を始めて一年半後に著者自身が自殺未遂事件を引き起こしたこともあって、その前後の紆余曲折をそのまま反映したものになっている」と。レリスはこう書いています。「バルビツール睡眠薬の壜の中身を嚥み込んだ瞬間ははっきり覚えていたが、そのあとの展開についての記憶はなんとも頼りない。わかっていたのは、この行為に及んだあとカンヌ行きの列車に飛び乗って、ピカソとその伴侶ジャクリーヌに会いにゆこうとしたのは、二人に別れを告げるためであり、また自分の胸のうちを明かして」云々(136頁)と。最終巻である第Ⅳ巻『囁音』(谷昌親訳)も今月末に発売予定とのことです。


★シャヴァンヌ『古代中国の社』は発売済。東洋文庫第887番。1900年にパリで開催された第一回国際宗教史会議で発表された「古代中国の宗教における土地神」を大幅増補し改題した1910年の決定稿「Le dieu du sol dans la Chine antique」を訳出したもの。原書では『泰山』の補遺として納められていますが、同じ訳者によるその抄訳(菊地章太訳、アシアーナ叢書:勉誠出版、2001年)では訳出されていませんでした。訳者解説によれば「土地神としての社の崇拝は、先祖をまつる宗廟の崇拝とならんで、古代における国家祭祀の中心的位置を占めてきた。その実態を解明した本論文は中国宗教史の黎明期に照明をあてたものとして評判が高い」と。東洋文庫の次回配本は月内にもう一点、柳本芸『漢京識略――近世末ソウルの街案内』(吉田光男訳註)が発売されるようです。



★大屋雄裕『裁判の原点』は発売済。序文「裁判は正義の実現手段ではない」に曰く「本書では、裁判という制度をその現実の姿において描き出すこと、立法・行政のような他の国家機能との関係でそれがどのような特徴と権限を与えられており、どのような制約の下にあるかを位置付けることによって、たとえば社会を動かすためにあり得る選択肢の一つとして何をそこに期待すべきなのかという議論を試みたい。それは同時に、裁判が本来そのようなものであることを予定されている姿、いわば裁判の原点を確認することにもなるだろう」(4~5頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。章題はすべて「~ではない」もしくは「~はない」と畳みかけており、一般的な幻想や期待、印象といったものが再審されています。「自分が正しいと考える意見に賛同する人を獲得し、その実現を図るという機能的な意味での政治を考えたとき、その中心的な舞台はやはり制度的な政治なのだ、立法活動と議会であって裁判と裁判所ではないのだということを、あらためて正面から考えるべきではないでしょうか」(205頁)という著者の指摘は至極真っ当だと感じます。


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