夢と幽霊の書
アンドルー・ラング著、ないとうふみこ訳
作品社、2017年8月、本体2,400円、四六判上製304頁、ISBN978-4-86182-650-4
帯文より:ルイス・キャロル、コナン・ドイルらが所属した心霊現象研究協会の会長による幽霊譚の古典、ロンドン留学中の夏目漱石が愛読し短篇「琴のそら音」の着想を得た名著、120年の時を越えて、待望の本邦初訳!
目次:
はじめに
第一章 夢
第二章 夢と幻視
第三章 水晶玉による幻視
第四章 幻覚
第五章 生き霊
第六章 死者の幽霊
第七章 目的を持って現れた霊
第八章 幽霊
第九章 幽霊と幽霊屋敷
第一〇章 近世の幽霊屋敷
第一一章 さらなる幽霊屋敷
第一二章 大昔の幽霊
第一三章 アイスランドの幽霊
第一四章 さまざまなおばけ
原註
訳註
訳者あとがき
一二〇年の時を経てあらわれた幻の本(吉田篤弘)
★原書は1897年に刊行された『The Book og Dreams and Ghosts』で、1899年の第2版の前書きも訳出されています。「〔民話・説話・童話の〕蒐集家と語り部としてのラングの力がフルに発揮された、怪異にまつわる古今東西の実話集」(訳者あとがき)です。全14章に75篇を収めています。晩夏の暑気払いに味読したい一冊です。
★アンドルー・ラング(Andrew Lang, 1844-1912)はスコットランドの詩人・小説家・文芸批評家。先に引いた訳者あとがきでないとうさんはラングについて「日本では、『あおいろの童話集』をはじめとする色名のついた童話集の編纂者として最もよく知られている。また童話以外でも、『書斎』(生田耕作訳、白水社)、『書物と愛書家』(不破有理訳、図書出版社)といった、書物へのマニアックな愛を語るすぐれた随筆が紹介されている。だが、ラングの業績は、これだけではとうてい網羅できないほど多岐にわたっている」と記し、さらに詳しい経歴を紹介しています。特に本作との関係では心霊現象研究協会に1882年の設立当初から会員として所属し、逝去する前年には会長も務めたとのことです。
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★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。
『戦う姫、働く少女』河野真太郎著、堀之内出版;POSSE叢書003、2017年7月、本体1,800円、四六判並製240頁頁、ISBN978-4-906708-98-7
『明治・大正期の科学思想史』金森修編、勁草書房、2017年8月、本体7,000円、A5判上製472頁、ISBN978-4-326-10261-7
『エドワード・ヤン――再考/再見』フィルムアート社編集部編、蓮實重彦ほか著、フィルムアート、2017年8月、本体3,000円、A5判並製472頁、ISBN 978-4-8459-1641-2
『パリに終わりはこない』エンリーケ・ビラ=マタス著、木村榮一訳、河出書房新社、2017年8月、本体2,400円、46変形判304頁、ISBN978-4-309-20731-5
『定版 見るなの禁止――日本語臨床の深層』北山修著、岩崎学術出版社、2017年8月、本体3,700円、A5判上製304頁、ISBN978-4-7533-1121-7
『臨床心理学 増刊第9号 みんなの当事者研究』熊谷晋一郎編、金剛出版、2017年8月、本体2,400円、B5判並製200頁、ISBN978-4-7724-1571-2
『はじめてまなぶ行動療法』三田村仰著、金剛出版、2017年8月、本体3,200円、A5判並製336頁、ISBNISBN978-4-7724-1571-2
『古都の占領――生活史からみる京都 1945‐1952』西川祐子著、平凡社、2017年8月、本体3,800円、4-6判上製516頁、ISBN978-4-582-45451-2
『故郷』李箕永著、大村益夫訳、平凡社;朝鮮近代文学選集8、2017年8月、本体3,500円、4-6判上製552頁、ISBN978-4-582-30240-0
『国民再統合の政治――福祉国家とリベラル・ナショナリズムの間』新川敏光編、ナカニシヤ出版、2017年8月、本体3,600円、A5判上製310頁、ISBN978-4-7795-1190-5
『功利主義の逆襲』若松良樹編、ナカニシヤ出版、2017年8月、本体3,500円、A5判上製272頁、ISBN978-4-7795-1189-9
『講義 政治思想と文学』堀田新五郎/森川輝一編、ナカニシヤ出版、2017年8月、本体4,000円、4-6版並製400頁、ISBN978-4-7795-1191-2
★『戦う姫、働く少女』は『〈田舎と都会〉の系譜学――二〇世紀イギリスと「文化」の地図』(ミネルヴァ書房、2013年)に続く、河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-;一橋大学大学院商学研究科准教授)さんの単独著第二作。『POSSE』誌で2014年から2015年にかけて連載された「文化と労働」を加筆修正したものです。発売後目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ジブリやディズニーなど映画作品から現代の女性像を読み解く話題作で、発売1ヶ月で早くも重版とのことです。著者が最終的に取りつかれたアイデアだという「連帯とは他者の欲望や願望を受け取ることであり、その願望はそれが他者のものであるがゆえにより強いものになる」(236頁)という言葉が印象的です。刊行記念トークイベント「戦闘美少女はなぜ働くのか」が来月9月7日19時から、Readin'Writin'(銀座線・田原町徒歩3分)にて行われます。参加費500円当日現金精算、定員20名要予約です。
★『明治・大正期の科学思想史』は科学思想史研究の第一人者、金森修(かなもり・おさむ:1954-2016)さんの編書三部作である『昭和前期の科学思想史』2011年、『昭和後期の科学思想史』2016年、に続く完結編論文集です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。奥村大介さんによる巻末附記によれば、三部作にさらに遡る編著書『科学思想史』2010年、と合わせて四冊で「勁草・科学思想史」シリーズと括っておられます。今回刊行された遺作には金森さんの序論やあとがき、さらに「疾病の統治――明治の〈生政治〉」と仮題を付された論攷が掲載予定だったものの、逝去によって叶わなかったことが説明され、さらに論攷の内容構想についても言及されています。
★『エドワード・ヤン――再考/再見』は台湾の映画監督で、今年生誕70年を迎えるエドワード・ヤン(楊徳昌:1947-2007)をめぐる論文集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。現在、1991年の作品『牯嶺街〔クーリンチェ〕少年殺人事件』の4Kレストア・デジタルリマスター3時間56分版が都下では下高井戸シネマで9月1日(金)まで上映されています(2K変換上映)。その他劇場情報はこちらでこちらをご覧ください。また同作品と『台北ストーリー』(1985年)のブルーレイとDVDが11月2日に発売となるとのことです。今回の論集では同作品をめぐる論考を丹生谷貴志さんがお書きになっているほか、監督のインタビュー2本「映画はまだ若い」(聞き手=坂本安美)と「人生のもう半分を映す窓」(聞き手=野崎歓)のほか、監督と四方田犬彦さんの対談「JAMMING WITH EDWARD」が収められています。巻末にはフィルモグラフィ、バイオグラフィ、関連図書が配されています。
★『パリに終わりはこない』は『París no se acaba nunca』(Barcelona: Anagrama, 2003)の翻訳。帯文に曰く「現代文学の再前衛『バートルビーと仲間たち』以後の代表作。暴走するアイロニー、パリのスペイン人。〈ヘミングウェイそっくりさんコンテスト〉最下位の「私」がデュラスの屋根裏部屋での青春を回想? 講演? 小説?する」と。訳者あとがきではこう説明されています。「彼の小説は自伝的要素が織り込まれたフィクションで、自らも自身の作品を《自伝的フィクション》autoficciónと呼んでいる〔・・・〕。〔・・・『パリに~』は〕1974年からパリで2年間文学修行した時のことがさまざまなエピソードや引用をまじえながら語られている」と。バルセロナの作家ビラ=マタス(Enrique Vila-Matas, 1948-)の既訳小説2点はいずれも今回と同じく木村榮一さんによって訳されています。『バートルビーと仲間たち』(新潮社、2008年)、『ポータブル文学小史』(平凡社、2011年)。『パリに~』はこれらに続く3点目となります。
★『定版 見るなの禁止』はまもなく発売。1993年に刊行された『北山修著作集:日本語臨床の深層』第1巻をもとに再編集された決定版。それぞれの目次を比べてみても旧版とは異なっていることが分かりますが、より詳しくは、旧版の各章が今回の定版でどのように変更されているのかを記してある、291頁の旧版目次をご確認ください。「見るなの禁止」というのは、見てはいけないという禁止であり、「動物が人間の姿で嫁に来るけれども、正体を見られて去る」という形式を持つ「異類婚姻説話」に見られるものです。定版で新たに加えられた工藤晋平さんによる解説にはこうあります。見るなの禁止とは「対象の二面性に急激に直面し、幻滅することを防ぐ設定である」(282頁)。「対象の二面性に直面した時の、嫌悪感、罪悪感、環境の失敗を噛みしめる、抑うつポジションでのワークスルーが、見るなの禁止を巡る課題である。それがはかなく消えゆく媒介的対象をはさんで間を置く移行の作業に他ならないことを、北山は説いている」(285頁)。工藤さんはこのテーマをめぐる北山さんの歩みを「長い旅をみているよう」だ(281頁)と評しておられます。
★『臨床心理学 増刊第9号 みんなの当事者研究』と『はじめてまなぶ行動療法』は金剛出版さんの今月新刊です。前者は『臨床心理学』誌の増刊号で、國分功一郎さんと編者の熊谷晋一郎による対談「来たるべき当事者研究」をはじめ、河野哲也さん、村上靖彦さん、上野千鶴子さん、坂口恭平さんほか、多数の論考を収録した必読号です。『はじめてまなぶ行動療法』は版元紹介文に曰く「「パブロフの犬」の実験から認知行動療法、臨床行動分析、DBT、ACT、マインドフルネスまで、行動療法の基礎と最新のムーブメントをていねいに解説する研究者・実践家必読の行動療法入門ガイド」であり、「はじめて読んでもよくわかる,行動療法の歴史・原理・応用・哲学を学べる教科書」と。巻末に充実した「用語解説・定義」と300冊強の引用文献一覧あり。
★『古都の占領』と『故郷』は平凡社さんの今月新刊。『古都の占領』は帯文に曰く「1952年の講和条約発効までは休戦期であり、戦争状態はつづいていた――国は忘却に躍起となり、人々は故意に忘れたいと願った占領の事実から戦争そのものの構造を問う」という、非常に興味深い力作です。『故郷』はシリーズ「朝鮮近代文学選集」の第8巻で、版元紹介文の文言を借りると「朝鮮プロレタリア文学を代表する作家」である李箕永(イ・ギヨン:1895~1984)の最高傑作。日本統治下の荒廃する農村に生きる小作人の群像を描いたものとのことです。
★『国民再統合の政治』『功利主義の逆襲』『講義 政治思想と文学』はナカニシヤ出版さんが今月刊行されたアンソロジー。収録作品詳細は書名のリンク先をご覧ください。『国民再統合の政治』は帯文によれば「各国で移民問題が深刻化し排外主義が台頭するなか、新たな統合の枠組みとして、リベラル・ナショナリズムが提唱されている。国民統合戦略の以降のなかで、福祉国家の弱体化、極右政党の台頭、多文化主義の実態を、各国の事例をもとに分析する」論集。『功利主義の逆襲』は「反直観論法は成功しているか」「功利主義の動学」「功利主義的な統治とは何か」の三部構成による論文集で、『法哲学年報2011』(日本法哲学会による2011年の「功利主義ルネッサンス」と題した学術大会の成果をまとめたもの)の続編とのことです。『講義 政治思想と文学』は、カミュ、シェストフ、ディドロ、バーク、ヴェイユ、フロベール、メルヴィルらの作品を「政治と文学」という視点から読み解く7本の論考に加え、作家の平野啓一郎さんによる特別講義「『仮面の告白』論」(『新潮』2015年2月号に掲載された同題の三島由紀夫論に加筆修正したもの)と、京都大学名誉教授の小野紀明さんによる最終講義「戦後日本の精神史――三島由紀夫と平野啓一郎」を併載しています。
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