『世界最古の物語――バビロニア・ハッティ・カナアン』Th・H・ガスター著、矢島文夫訳、東洋文庫884、2017年9月、B6変型判上製函入322頁、ISBN978-4-582-80884-1
『絵ときSF もしもの世界 復刻版』日下実男著、復刊ドットコム、2017年9月、本体3,700円、B6判上製218頁、ISBN978-4-8354-5526-6
『1990年代論』大澤聡編著、河出ブックス、2017年9月、本体1,800円、B6判並製336頁、ISBN978-4-309-62506-5
『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』千葉雅也著、河出文庫、2017年9月、本体1,000円、480頁、ISBN978-4-309-41562-8
『吉本隆明全集13[1972-1976]』吉本隆明著、晶文社、2017年9月、本体6,800円、A5判変型上製706頁、ISBN978-4-7949-7113-5
★ガスター『世界最古の物語』は東洋文庫第884弾。現代教養文庫版(1973年、社会思想社)の再刊です。訳者は2006年に死去されており、巻末の著者紹介「セオドア・ヘルツル・ガスター」は池田裕さんが執筆されています。本書はエリアーデの序文(仏訳版より)のほか、副題にある三地域の古い神話や説話を収録しています。ハッティというのはヒッタイトのこと。こうした基本書の復刊は見逃せません。東洋文庫の次回配本は11月、『漢京識略』とのことです。
★『絵ときSF もしもの世界 復刻版』は学研「ジュニアチャンピオンコース」の復刊第2弾。親本は1973年刊行。税別3700円とお高いですが、ど真ん中世代である40代後半から50代前半の大人にとっては思い出を買う値段として考えれば安いものです。巻頭カラー劇画「生きていた石像」(画=田中善之助)のインパクトといい、数々の「もしも」の恐ろしさやワクワク感といい、人知を超えたものへの感性をくすぐられた70年代サブカルチャーの「昭和遺産」とも言うべきものを感じます。続刊が楽しみです。
★『1990年代論』は大澤さんの説明によれば「1990年代の日本社会を多角的に検討したアンソロジー」で「社会問題編」と「文化状況編」の二部構成。10本ずつの論考とエッセイで「政治や社会、運動、宗教から、マンガやアニメ、ゲーム、音楽にいたるまで、実に多岐にわたる合計20のジャンルの考察」を読むことができます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「巻頭にはノンジャンルの総合的な共同討議を、各パートの締めくくりにはインタビューを掲載」し、巻末には年表とブックガイドが配されています。
★『動きすぎてはいけない』は2013年に刊行された千葉さんのデビュー作の待望の文庫化です。文庫化にあたり巻末に、大阪大学特任助教の小倉拓也さんによる「文庫版解説 読解の手引」(456~475頁)が付されています。帯文はこうです「接続過剰〔つながりすぎ〕の世界に風穴を開ける「切断の哲学」」と。「世界の本当の姿は〔・・・〕渾然一体のめちゃくちゃではない。切断された、区別された、分離された、複数のめちゃくちゃによるコラージュである。世界には、いたるところに、非意味的切断が走っている」(68頁)。
★『吉本隆明全集13[1972-1976]』はまもなく発売。第Ⅱ期の第2回配本で通算では第14回配本。帯文に曰く「はじめて海外の文学者たちを論じた『書物の解体学』、長くその資質にひかれて論じてきた「島尾敏雄」のほか、1972年から1976年の間に発表された詩や散文を収録」と。単行本未収録は二篇とのことで、巻末解題に「本全集にはじめて収録された」とある、「高村光太郎の存在」(筑摩書房版『高村光太郎全集』第二刷内容見本;『吉本隆明資料集93』にも収録)と、第12巻の補遺「掛率増加のお知らせ」(『試行』取扱書店向け文書、1972年)のことかと思われます。付属の「月報14」は、宇佐美斉「並みの下の思想を」、橋爪大三郎「気配りのひとの気骨」、ハルノ宵子「党派ぎらい」を掲載。「父に刷り込まれたのは、「群れるな。ひとりが一番強い」なのだ」というハルノさんの証言が印象的です。次回配本は12月、第14巻とのことです。
★先月刊行の単行本の中からいくつか振り返ります。
『全体主義の起原(1)反ユダヤ主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、みすず書房、本体4,500円、四六判上製360頁、ISBN978-4-622-08625-3
『全体主義の起原(2)帝国主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大島通義/大島かおり訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六版上製424頁、ISBN978-4-622-08626-0
『全体主義の起原(3)全体主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎/大島かおり/矢野久美子訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六判上製512頁、ISBN978-4-622-08627-7
『エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、山田正行解説、みすず書房、2017年8月、本体4,400円、四六判上製488頁、ISBN978-4-622-08628-4
『アイヒマン調書――ホロコーストを可能にした男』ヨッヘン・フォン・ラング編、小俣和一郎訳、岩波現代文庫、2017年8月、本体1,460円、448頁、ISBN978-4-00-600367-8
『日本の科学 近代への道しるべ』山田慶兒著、藤原書店、2017年8月、本体4,600円、A5判上製312頁、ISBN978-4-86578-136-6
★アーレントの代表作でありロングセラーである二著四冊が、判型をA5判並製から四六判上製に変更し、訳文を見直した新版として刊行されました。まず『全体主義の起原』は、最新の研究成果を踏まえて全文の見直し作業に取り組まれたのは山田正行さんで、新たに訳出された「初版まえがき」(1951年)と「新版への解説」を矢野久美子さんが担当されています。『エルサレムのアイヒマン』も全文見直しを山田さんが担当され、さらに「新版への解説」や年譜作成も手掛けておられるとのことです。この二作については版元さんのウェブサイトで「新版刊行にあたって」という挨拶文が公開されています。二作とも旧版はフランクル『夜と霧』の場合のように販売を今後も継続するわけではないようなので、対照用に旧版を買っておくなら今のうちに店頭をチェックされた方が良いです。また、岩波現代文庫では同月に、アイヒマンへの長編インタヴューである『アイヒマン調書』が文庫化されており、この機会にあらためて併読しておきたいところです。
★『日本の科学』は、科学史家の山田慶兒(やまだ・けいじ:1932-:京都大学名誉教授)さんによる論文や講演をまとめたもの。「受容史だけではない日本の科学史へのまなざし」(帯文より)のもと、日本独自の近代科学の特殊性をたどった論文集です。一九九四年から二〇〇六年までに執筆され、あるいは発表されたもののほか、未発表や書き下ろしも含まれています。目次を以下に列記しておきます。▼が英文のみ発表済だったもの、▲が未発表、◆が書き下ろしです。
はじめに ◆
Ⅰ 二つの展望
十八、九世紀の日本と近代科学・技術 ▼
日本と中国、知的位相の逆転のもたらしたもの ▲
Ⅱ 科学の出発
飛鳥の天文学的時空――キトラ『天文図』
日本医学事始――『医心方』
Ⅲ 科学の日本化
医学において古学とはなんであったか――山脇東洋
反科学としての古方派医学――香川修庵・吉益東洞
現代日本において学問はいかにして可能か――富永仲基
Ⅳ 科学の変容
中国の「洋学」と日本――『天経或問』
幕府天文方と十七、八世紀フランス天文学――『ラランデ暦書管見』
見ることと見えたもの――『欧米回覧実記』他
〈補論〉浅井周伯養志堂の医学講義――松岡玄達の受講ノート ◆
あとがき ◆
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『絵ときSF もしもの世界 復刻版』日下実男著、復刊ドットコム、2017年9月、本体3,700円、B6判上製218頁、ISBN978-4-8354-5526-6
『1990年代論』大澤聡編著、河出ブックス、2017年9月、本体1,800円、B6判並製336頁、ISBN978-4-309-62506-5
『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』千葉雅也著、河出文庫、2017年9月、本体1,000円、480頁、ISBN978-4-309-41562-8
『吉本隆明全集13[1972-1976]』吉本隆明著、晶文社、2017年9月、本体6,800円、A5判変型上製706頁、ISBN978-4-7949-7113-5
★ガスター『世界最古の物語』は東洋文庫第884弾。現代教養文庫版(1973年、社会思想社)の再刊です。訳者は2006年に死去されており、巻末の著者紹介「セオドア・ヘルツル・ガスター」は池田裕さんが執筆されています。本書はエリアーデの序文(仏訳版より)のほか、副題にある三地域の古い神話や説話を収録しています。ハッティというのはヒッタイトのこと。こうした基本書の復刊は見逃せません。東洋文庫の次回配本は11月、『漢京識略』とのことです。
★『絵ときSF もしもの世界 復刻版』は学研「ジュニアチャンピオンコース」の復刊第2弾。親本は1973年刊行。税別3700円とお高いですが、ど真ん中世代である40代後半から50代前半の大人にとっては思い出を買う値段として考えれば安いものです。巻頭カラー劇画「生きていた石像」(画=田中善之助)のインパクトといい、数々の「もしも」の恐ろしさやワクワク感といい、人知を超えたものへの感性をくすぐられた70年代サブカルチャーの「昭和遺産」とも言うべきものを感じます。続刊が楽しみです。
★『1990年代論』は大澤さんの説明によれば「1990年代の日本社会を多角的に検討したアンソロジー」で「社会問題編」と「文化状況編」の二部構成。10本ずつの論考とエッセイで「政治や社会、運動、宗教から、マンガやアニメ、ゲーム、音楽にいたるまで、実に多岐にわたる合計20のジャンルの考察」を読むことができます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「巻頭にはノンジャンルの総合的な共同討議を、各パートの締めくくりにはインタビューを掲載」し、巻末には年表とブックガイドが配されています。
★『動きすぎてはいけない』は2013年に刊行された千葉さんのデビュー作の待望の文庫化です。文庫化にあたり巻末に、大阪大学特任助教の小倉拓也さんによる「文庫版解説 読解の手引」(456~475頁)が付されています。帯文はこうです「接続過剰〔つながりすぎ〕の世界に風穴を開ける「切断の哲学」」と。「世界の本当の姿は〔・・・〕渾然一体のめちゃくちゃではない。切断された、区別された、分離された、複数のめちゃくちゃによるコラージュである。世界には、いたるところに、非意味的切断が走っている」(68頁)。
★『吉本隆明全集13[1972-1976]』はまもなく発売。第Ⅱ期の第2回配本で通算では第14回配本。帯文に曰く「はじめて海外の文学者たちを論じた『書物の解体学』、長くその資質にひかれて論じてきた「島尾敏雄」のほか、1972年から1976年の間に発表された詩や散文を収録」と。単行本未収録は二篇とのことで、巻末解題に「本全集にはじめて収録された」とある、「高村光太郎の存在」(筑摩書房版『高村光太郎全集』第二刷内容見本;『吉本隆明資料集93』にも収録)と、第12巻の補遺「掛率増加のお知らせ」(『試行』取扱書店向け文書、1972年)のことかと思われます。付属の「月報14」は、宇佐美斉「並みの下の思想を」、橋爪大三郎「気配りのひとの気骨」、ハルノ宵子「党派ぎらい」を掲載。「父に刷り込まれたのは、「群れるな。ひとりが一番強い」なのだ」というハルノさんの証言が印象的です。次回配本は12月、第14巻とのことです。
★先月刊行の単行本の中からいくつか振り返ります。
『全体主義の起原(1)反ユダヤ主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、みすず書房、本体4,500円、四六判上製360頁、ISBN978-4-622-08625-3
『全体主義の起原(2)帝国主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大島通義/大島かおり訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六版上製424頁、ISBN978-4-622-08626-0
『全体主義の起原(3)全体主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎/大島かおり/矢野久美子訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六判上製512頁、ISBN978-4-622-08627-7
『エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、山田正行解説、みすず書房、2017年8月、本体4,400円、四六判上製488頁、ISBN978-4-622-08628-4
『アイヒマン調書――ホロコーストを可能にした男』ヨッヘン・フォン・ラング編、小俣和一郎訳、岩波現代文庫、2017年8月、本体1,460円、448頁、ISBN978-4-00-600367-8
『日本の科学 近代への道しるべ』山田慶兒著、藤原書店、2017年8月、本体4,600円、A5判上製312頁、ISBN978-4-86578-136-6
★アーレントの代表作でありロングセラーである二著四冊が、判型をA5判並製から四六判上製に変更し、訳文を見直した新版として刊行されました。まず『全体主義の起原』は、最新の研究成果を踏まえて全文の見直し作業に取り組まれたのは山田正行さんで、新たに訳出された「初版まえがき」(1951年)と「新版への解説」を矢野久美子さんが担当されています。『エルサレムのアイヒマン』も全文見直しを山田さんが担当され、さらに「新版への解説」や年譜作成も手掛けておられるとのことです。この二作については版元さんのウェブサイトで「新版刊行にあたって」という挨拶文が公開されています。二作とも旧版はフランクル『夜と霧』の場合のように販売を今後も継続するわけではないようなので、対照用に旧版を買っておくなら今のうちに店頭をチェックされた方が良いです。また、岩波現代文庫では同月に、アイヒマンへの長編インタヴューである『アイヒマン調書』が文庫化されており、この機会にあらためて併読しておきたいところです。
★『日本の科学』は、科学史家の山田慶兒(やまだ・けいじ:1932-:京都大学名誉教授)さんによる論文や講演をまとめたもの。「受容史だけではない日本の科学史へのまなざし」(帯文より)のもと、日本独自の近代科学の特殊性をたどった論文集です。一九九四年から二〇〇六年までに執筆され、あるいは発表されたもののほか、未発表や書き下ろしも含まれています。目次を以下に列記しておきます。▼が英文のみ発表済だったもの、▲が未発表、◆が書き下ろしです。
はじめに ◆
Ⅰ 二つの展望
十八、九世紀の日本と近代科学・技術 ▼
日本と中国、知的位相の逆転のもたらしたもの ▲
Ⅱ 科学の出発
飛鳥の天文学的時空――キトラ『天文図』
日本医学事始――『医心方』
Ⅲ 科学の日本化
医学において古学とはなんであったか――山脇東洋
反科学としての古方派医学――香川修庵・吉益東洞
現代日本において学問はいかにして可能か――富永仲基
Ⅳ 科学の変容
中国の「洋学」と日本――『天経或問』
幕府天文方と十七、八世紀フランス天文学――『ラランデ暦書管見』
見ることと見えたもの――『欧米回覧実記』他
〈補論〉浅井周伯養志堂の医学講義――松岡玄達の受講ノート ◆
あとがき ◆
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