『プラトーン著作集 第十巻(書簡集・雑編)第一分冊 エピノミス/書簡集』水崎博明訳、櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年6月、本体2,800円、46判上製311頁、ISBN978-4-434-23448-4
『プラトーン著作集 第十巻(書簡集・雑編)第二分冊 雑編』水崎博明訳、櫂歌書房発行、星雲社発売、2017年6月、本体2,800円、46判上製290頁、ISBN978-4-434-23449-1
『アメリカ人はどうしてああなのか』テリー・イーグルトン著、大橋洋一/吉岡範武訳、河出文庫、2017年7月、本体850円、文庫判296頁、ISBN978-4-309-46449-7
『僕らの社会主義』國分功一郎/山崎亮著、ちくま新書、2017年7月、本体800円、新書判240頁、ISBN978-4-480-06973-3
★『プラトーン著作集 第十巻』第一分冊「エピノミス/書簡集」は、『エピノミス(法律後篇)或いは哲学者』と『書簡集』の翻訳、読解、注釈を収録し、巻頭に「第十巻 前書き」を排しています。『書簡集』は全13通で、宛名を列記すると以下の通りになります。
『第一書簡』ディオニュシオス二世に
『第二書簡』ディオニュシオス二世に
『第三書簡』ディオニュシオス二世に
『第四書簡』ディオーンに
『第五書簡』ペルディッカスに
『第六書簡』ヘルメイアース・エラストス・コリスコスに
『第七書簡』ディオーンの身内並びに同志の諸君に
『第八書簡』ディオーンの身内並びに同志の諸君に
『第九書簡』アルキュタースに
『第十書簡』アリストドーロスに
『第十一書簡』ラーオダーマスに
『第十二書簡』アルキュタースに
『第十三書簡』ディオニュシオス二世に
★周知の通り『エピノミス』や書簡の一部は偽作であると疑われていますが、書簡のうちもっとも長編で内容的にも重要視されている『第七書簡』は「ほぼ真作であることは間違いないだろう」(xi頁)とされています。水崎訳『プラトーン著作集』は、1000坪以上の巨大書店で哲学思想棚を持っており、西洋古典にも場所を割いている書店ならば、在庫しておくのが妥当ではないかと私は思っていますが、あまり店頭で見かけることがないのはもったいないことです。
★第二分冊「雑編」は『定義集』『正しいものについて』『徳について』『デーモドコス』『シーシュポス』『エリュクシアース』『アクシオコス』の翻訳、読解、注釈を収録し、巻末には「第十巻 後書き」と「『プラトーン著作集』全十巻の後書き」が付されています。第一分冊の前書きによれば「『定義集』を除き〔・・・〕ほぼ決定的に偽書だと見ることが伝統的な常識」(x頁)とあります。水崎訳『プラトーン著作集』は全十巻二七分冊で、今回の第十巻二分冊を終えた今、残すところ未刊は第八巻三分冊『国家/クレイトポーン』と第九巻三分冊『法律/ミーノース』のみとなります。プラトンの個人全訳という前代未聞の偉業へと突き進まれる水崎先生のご健康をお祈りするばかりです。
★『アメリカ人はどうしてああなのか』は2014年に河出ブックスより刊行された『アメリカ的、イギリス的』の改題文庫化。原著は『Across the Pond: An Englishman's View of America〔大西洋の対岸から:ある英国人のアメリカ観〕』(Norton, 2013)です。新たに「文庫版への訳者あとがき」が付されていますが、訳文については「不備を正す程度にとどめ」たとのことです。ソリマチアキラさんによるカヴァー挿画ではかの国の現職大統領と思しき人物が描かれています。訳者が指摘している通り、本書にも就任前の彼について二度言及があります。「戯画が現実になった」ことに訳者は注意を喚起しています。今こそ読み返したい一冊です。
◎文庫で読めるイーグルトンの訳書
『アメリカ人はどうしてああなのか』大橋洋一/吉岡範武訳、河出文庫、2017年
『文学とは何か――現代批評理論への招待』上下巻、大橋洋一訳、岩波文庫、2014年8~9月
『シェイクスピア――言語・欲望・貨幣』大橋洋一訳、平凡社ライブラリー、2013年
『イデオロギーとは何か』大橋洋一訳、平凡社ライブラリー、1999年
★なお、河出書房新社さんでは今月下旬(7月26日)発売で、ヤニス・クセナキス『音楽と建築』(高橋悠治編訳)を刊行するとのことです。同書はもともと全音楽譜出版社から1975年に 出版されたもの。版元サイトでは「伝説の名著、ついに新訳で復活。高度な数学的知識を用いて論じられる音楽と建築のテクノロジカルな創造的関係性――コンピュータを用いた現代の表現、そのすべての始原がここに」と紹介されています。編訳者は変わっていませんから、新訳というのが全面改訳なのか増補分があってそれらが新訳なのかはまだ分かりません。
★ちなみに「ちくま学芸文庫」のツイッターアカウントの7月3日の投稿によれば「【単行本情報】ギリシア系作曲家ヤニス・クセナキスの理論的主著『形式化された音楽』(Formalized Music)の邦訳を刊行します!! 野々村禎彦監訳、冨永星訳、発売は今秋予定。刊行日や価格、装丁など詳細は決まり次第お知らせいたします」とのこと。こうした機会にオリヴィエ・ルヴォ=ダロン『クセナキスのポリトープ』(高橋悠治訳、朝日出版社、1978年)も再刊されてほしいところですが、高望みでしょうか。
★『僕らの社会主義』は哲学者とコミュニティデザインの専門家による異色対談。國分さんは「普通に考えたらあまり接点はない。でも僕らを結びつけたものがありました。それがウィリアム・モリスらの名前を通じて知られるイギリスの初期社会主義の思想です」(13頁)と発言されています。さらに続けてこうも仰っています。「21世紀の現在、社会の状況は19世紀に近づいてしまっています。労働者の権利が骨抜きにされ、貧困と格差が大きな問題になっている。19世紀は社会的なものが大きくせりだした時代でした。もっと具体的に言うと、人々が貧困と格差、そして労働者の権利という問題に直面した。その中で、多くの人の努力によってさまざまな権利が獲得されていった。ところがそれがいまや無きものにされつつある。まさしく温故知新の気持ちで19世紀の社会主義に目を向けるべきじゃないか。その活動はいまこそ見直されるべきではないかというのが我々の共通の問題意識ですね」(同)。
★山崎さんはこう答えておられます。「これまではラスキンやモリスのイギリス社会主義のことを語る相手が僕の周りにほとんどいなかったのです。モリスについて語っても、アーツ・アンド・クラフツ運動からバウハウス、モダンデザイン、ポストモダンという流れで語ってしまい、彼が実現しようとしていた地域社会について語ることはほとんどなかった。それを語ろうとすると、どうしてもモリスが社会主義者になったことについて触れなければならない。その途端「社会主義はちょっとね」という表情をされる。でも、國分さんと対談させてもらって、社会主義にもいくつか種類があって、十把一からげで社会主義を否定してしまうのは、そのなかに埋もれている大切な宝が見つけられないことになるんじゃないか。そんな気がしました」(14頁)。「時代が僕らを引き寄せたみたいな感じ」(14頁)と國分さんが応じるこの対談は社会主義への生理的嫌悪感自体が時代遅れだと気づかせてくれる、啓発的な一書です。
★なお来月のちくま新書新刊には、8月3日発売で合田正人『入門ユダヤ思想』(本体860円、272頁、ISBN978-4-480-06979-5)などが予告されています。
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★続いて、人文書院さんからまもなく発売となる新刊3点をご紹介します。
『核の恐怖全史――核イメージは現実政治にいかなる影響を与えたか』スペンサー・R・ワート著、山本昭宏訳、2017年7月、本体6,800円、A5判上製432頁、ISBN978-4-409-24114-1
『無意識の心理 新装版』C・G・ユング著、高橋義孝訳、人文書院、2017年7月、本体2,200円、4-6判上製200頁、ISBN978-4-409-33053-1
『自我と無意識の関係 新装版』C・G・ユング著、野田倬訳、人文書院、2017年7月、本体2,200円、4-6判上製216頁、ISBN978-4-409-33054-8
★『核の恐怖全史』の原書は『The Rise of Nuclear Fear』(Harvard University Press, 2012)で、1988年に同じくHUPから刊行された『NUclear Fear: A History of Images』の改訂版とのことで、訳者あとがきによれば「前著は1980年代までの分析で終わっていたのに対し、改訂版では福島における原発災害以後までを射程に入れつつ、本の分量は前著よりもコンパクトになっている」とのことです。目次詳細は書名のリンク先でご覧下さい。リンク先では「はじめに」と「第1章」がPDFで立ち読みできます。核をめぐる表象の変遷を追った現代の古典です。著者のワート(Spencer R. Weart, 1942-)はアメリカの科学史家で、複数の訳書があります。ひとつ前の訳書が2005年の『温暖化の“発見”とは何か』(増田耕一/熊井ひろ美訳、みすず書房、現在品切)だったので、久しぶりの翻訳紹介になります。訳者の山本昭宏(やまもと・あきひろ:1984-)さんは神戸市外国語大学准教授で、5年前に人文書院より『核エネルギー言説の戦後史1945~1960』でデビューされ、その後『核と日本人』(中公新書、2015年)や『教養としての戦後〈平和論〉』(イースト・プレス、2016年)などを上梓されている、注目の若手です。
★『無意識の心理 新装版』『自我と無意識の関係 新装版』はユングの単行本の再刊。いずれも同社の「ユング・コレクション」には入っていない書目で、両書ともユング心理学の入門編として読むことができます。『無意識の心理』はもともと『人生の午後三時』という訳題で1956年に新潮社から出版されたものが、「若干の字句の訂正」のうえ、人文書院から1977年に再刊されたもの。底本は『Über die Psychologie des Unbewußten』の1948年版(初版は1916年)です。『自我と無意識の関係』は1982年に初版を刊行。原著『Die Beziehungen zwischen dem Ich und dem Unbewußten』は1933年刊行です。新装版2点の装丁は間村俊一さんが担当。美しい本へと生まれ変わっています。
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★最後に、平凡社さんからまもなく発売となる新刊本6点を列記します。
『金澤翔子 伝説のダウン症の書家』金澤翔子=書、金澤泰子=文、平凡社、2017年7月、本体1,389円、B5変判120頁、ISBN978-4-582-20887-0
『プレミアム アトラス 世界地図帳 新訂第3版』平凡社編、平凡社、2017年7月、本体1,500円、A4判並製184頁、ISBN978-4-582-41733-3
『プレミアム アトラス 日本地図帳 新訂第3版』平凡社編、平凡社、2017年7月、本体1,500円、A4判並製184頁、ISBN978-4-582-41732-6
『園芸の達人――本草学者・岩崎灌園』平野恵著、平凡社、2017年7月、本体1,000円、A5判並製120頁、ISBN978-4-582-36448-4
『和算への誘い――数学を楽しんだ江戸時代』上野健爾著、平凡社、本体1,000円、A5判並製92頁、ISBN978-4-582-364477
『江戸の博物学――島津重豪と南西諸島の本草学』高津孝著、平凡社、本体1,000円、A5判並製112頁、ISBN978-4-582-36446-0
★『金澤翔子 伝説のダウン症の書家』は、2017年9月23日から9月30日まで上野の森美術館で開催される予定の「ダウン症の書家 金澤翔子書展」の公式図録で、展覧会に先駆けて販売されます。NHK大河ドラマ「平清盛」の題字を手掛けた彼女はもはや全国的な著名人と言うべきでしょうし、複数冊ある作品集や、いわき市の金澤翔子美術館、さらにお母様の泰子さんの数々の著書などに接したことのある方も多いかと想像します。知らなかった、という方はぜひ一切の予習なしに作品をご覧になることをお薦めします。「伝説」「ダウン症」「書の神様が降りた」といった言葉も無視して構わないと思います。大げさに言うのではなく、私はただただ圧倒され、胸が熱くなりました。どの書も素晴らしいですが、巻頭の「龍翔鳳舞」はまさに龍が天翔け、鳳凰が舞うのを目の当たりにする思いがしますし、10歳、20歳、30歳の「般若心経」の変遷は実に味わい深いです。原寸サイズで見たくなる素晴らしい作品集です。
★『プレミアム アトラス 世界地図帳 新訂第3版』『プレミアム アトラス 日本地図帳 新訂第3版』は、2008年版(初版)、2014年新版(第2版)に続く新訂版(第3版)。オールカラーで美しい地図帳です。平凡社さんではポケットアトラス、ベーシックアトラス、ワイドアトラスなど各種を制作されているほか、より詳細な日本地図が必要な方には『県別日本地図帳』があります。30冊の注文から表紙への名入れサービスを行っているとのことです。
★『江戸の博物学』『和算への誘い』『園芸の達人』は、ブックレット「書物をひらく」シリーズの第6巻~第8巻。新書よりも内容が簡潔で、図版が多いのが特徴です。それぞれの主要目次を列記しておきます。第6巻『江戸の博物学』は「一、薩摩の博物学と島津重豪」「二、琉球への視線」「三、大名趣味としての鳥飼い」。第7巻『和算への誘い』は「一、和算が始まる前」「二、和算の基礎を作った『塵劫記』」「三、日本独自の数学を作った関孝和」「四、円周率」「五、庶民に拡がった和算」「おわりに――和算から洋算へ」。第8巻『園芸の達人』は「一、きっかけは百科事典『古今要覧稿』」「二、日本で初めての彩色植物図鑑『本草図譜』「三、ロングセラーの園芸ハンドブック『草木育種』」「四、江戸の自然誌『武江産物志』と採薬記」「五、園芸ダイヤリー『種藝年中行事』」「おわりに――『自筆雑記』、『茶席挿花集』など」。
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