★まず先月発売の新刊でこれまで言及できていなかった新刊の中で特に注目している本を以下に列記します。
◎2017年5月刊行
02日『哲学としての美学――“美しい”とはどういうことか』ギュンター・ペルトナー著、渋谷治美監訳、中野裕考+中村美智太郎+馬場智一+大森万智子訳、晃洋書房
12日『ラテン語を読む――キケロー「スキーピオーの夢」』山下太郎著、ベレ出版、2017年5月、本体2,900円、A5判並製368頁、ISBN978-4-86064-510-6
12日『シャルリ・エブド事件を読み解く――世界の自由思想家たちがフランス版9・11を問う』ケヴィン バレット編著、板垣雄三訳、第三書館
14日『観念に到来する神について』新装版、エマニュエル・レヴィナス著、内田樹訳、国文社
15日『最後の人間からの手紙――ネオテニーと愛、そしてヒトの運命について』ダニ=ロベール・デュフール著、福井和美訳、書肆心水
22日『自己意識と他性――現象学的探究』ダン・ザハヴィ著、中村拓也訳、法政大学出版局
24日『キリスト教教父著作集(2/Ⅱ)エイレナイオス(2)異端反駁(Ⅱ)』エイレナイオス著、大貫隆訳、教文館
25日『ニーベルンゲンの歌』岡﨑忠弘訳、鳥影社
26日『ミルトン・エリクソンの催眠の経験――変性状態への治療的アプローチ』ミルトン・H・エリクソン/アーネスト・L・ロッシ著、横井勝美訳、金剛出版
26日『私たちのなかの私――承認論研究』アクセル・ホネット著、日暮雅夫+三崎和志+出口剛司+庄司信+宮本真也訳、法政大学出版局
27日『本棚の歴史』新装復刊版、ヘンリー・ペトロスキー著、池田栄一訳、白水社
30日『ボディ・スタディーズ――性、人種、階級、エイジング、健康/病の身体学への招待』マーゴ・デメッロ著、田中洋美監訳、兼子歩+齋藤圭介+竹﨑一真+平野邦輔訳、晃洋書房
★山下太郎『ラテン語を読む』はキケローの著作『国家について』の最終巻である「スキーピオーの夢」のラテン語原文、全文訳(直訳調)、現代語訳を掲出するだけでなく、原文を文章のまとまりごとに分け、それぞれの訳文を示した上で構成する一語ずつすべてについても語義と文法の解説を加え、さらに復習用の逐語訳を付す、という体裁の本です。原文は10頁強を占めるに過ぎませんが、じっくりと原典に向き合うことができ、独習者向けの親切な一冊です。著者の山下さんは東京、名古屋、京都を中心にラテン語講習会を精力的に続けられています。
★次に今月刊行済の新刊で未言及のものから注目書をピックアップします。これらのいくつかはあらためて後日触れるつもりです。
◎2017年6月
08日『西洋の没落(Ⅰ)(Ⅱ)』シュペングラー著、村松正俊訳、2017年6月、本体1,800円/1,600円、新書判並製384頁/288頁、ISBN978-4-12-160174-2/ISBN978-4-12-160175-9
09日『プラトーン著作集 第10巻書簡集・雑編 第1分冊 エピノミス/書簡集』水崎博明訳、櫂歌書房
09日『プラトーン著作集 第10巻書簡集・雑編 第2分冊 雑編』水崎博明訳、櫂歌書房
09日『フランス・ルネサンス文学集(3)旅と日常と』宮下志朗+伊藤進+平野隆文編訳、斎藤広信+篠田勝英+高橋薫訳、白水社
11日『新訳ベルクソン全集(7)思考と動くもの』竹内信夫訳、白水社
12日『ハイデガー『存在と時間』を読む』サイモン・クリッチリー/ライナー・シュールマン著、スティーヴン・レヴィン編、串田純一訳、法政大学出版局
13日『道徳哲学史』バルベラック著、門亜樹子訳、京都大学学術出版会 (近代社会思想コレクション20)
★さらに、これから月内に発売予定の注目新刊も掲出しておきます。今月は見逃せない重要作が続々と登場します。
15日『終わりなき対話(Ⅱ)限界-経験』モーリス・ブランショ著、湯浅博雄+上田和彦+岩野卓司+大森晋輔+西山達也+西山雄二訳、筑摩書房
21日『精神の革命――ラディカルな啓蒙主義者と現代民主主義の知的起源』ジョナサン・イスラエル著、森村敏己訳、みすず書房
22日『ミシェル・フーコー講義集成(3)処罰社会 コレージュ・ド・フランス講義1972-1973年度』八幡恵一訳、筑摩書房
28日『キマイラの原理――記憶の人類学』カルロ・セヴェーリ著、水野千依訳、白水社
29日『死刑Ⅰ(ジャック・デリダ講義録)』高桑和巳訳、白水社
30日『ラディカル無神論――デリダと生の時間』マーティン・ヘグルンド著、吉松覚+島田貴史+松田智裕訳、法政大学出版局
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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『セレンゲティ・ルール――生命はいかに調節されるか』ショーン・B・キャロル著、高橋洋訳、紀伊國屋書店、2017年6月、本体2,200円、46判上製346頁、ISBN978-4-314-01147-1
『斎藤昌三 書痴の肖像』川村伸秀著、晶文社、2017年6月、本体5,500円、A5判上製504頁+カラー口絵8頁、ISBN978-4-7949-6964-4
★キャロル『セレンゲティ・ルール』はまもなく発売(15日頃)。原書は『The Serengeti Rules: The Quest to Discover How Life Works and Why It Matters』(Princeton University Press, 2016;書名のリンク先で著者の動画もご覧になれます)です。著者のショーン・B・キャロル(Sean B. Carroll, 1960-)はウィスコンシン大学マディソン校教授で、エボデボ(進化発生生物学)の第一人者。単独著の既訳書に『シマウマの縞 蝶の模様――エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』(渡辺政隆+経塚淳子訳、光文社、2007年)、共著では『DNAから解き明かされる形づくりと進化の不思議』(Jennifer K.GrenierおよびScott D.Weatherbeeとの共著、上野直人+野地澄晴監訳、羊土社、2003年)があります。
★今回翻訳された『セレンゲティ・ルール』は彼の最新著。「さまざまな種類の分子や細胞の数を調節する分子レベルのルールが存在するのと同じように、一定の区域で生息可能な動植物の個体数を調節するルールが存在する」(18~19頁)ことを発見した著者は、この生態系レベルのルールをタンザニアのセレンゲティ国立公園にちなんで「セレンゲティ・ルール」と呼んでいます。訳者の高橋さんは巻末の訳者あとがきでこう指摘されています。「生態系の破壊は、言うまでもなく今日の大問題の一つであり、本書を読めば、生命や生態系の基盤となる調節の論理を無視した人間の営みによって予期せぬ破局が引き起こされ得るという環境倫理の問題を、具体例を通じて十分に理解できるはずである」(298頁)。地球の行く末を真剣に案じている読者は本書から大きな示唆を得られるはずです。
★著者はこう述べています。「もっとも差し迫った課題とは、私たちが住む世界の健康が蝕まれていることを、そして他の生物はもちろん、人間の生活をも支えている地球の生態系が、それによっていかなる影響を受けているかを理解することなのだ。〔・・・〕20世紀の標語が「医療による生活向上」であったとすれば、21世紀の標語は「環境保全による生活向上」というものになろう」(274頁)。さらにこうも述べます。「本書を執筆した同期の一つは、長期的な見通しを必要とし、不可能とすら思えるほど複雑で困難な挑戦であっても、これまで何度も克服されてきたという事実を示したかったことである。〔・・・〕メンドータ湖、イエローストーン、ゴンゴローザにおける成果は、特定の種の再生、生息環境の改善、さらには荒廃した生態系の再生すら可能であることを示す。今こそ私たちは態度を改めるべきだ」(276頁)。
★川村伸秀『斎藤昌三 書痴の肖像』は発売済。カバーソデ紹介文に曰く「大正・昭和の書物文化興隆期に、奇抜な造本で書物愛好家たち垂涎の書籍を作り上げたことで知られている書物展望社。その社主であり、自らも編集者・書誌学者・蔵票研究家・民俗学者・俳人・郷土史家と多彩な顔を持っていた斎藤昌三(1887-1961)の足跡を丹念に調べ直し、その人物像と同時代の作家・学者・画家・趣味人たちとの交友とを鮮やかに描き出した画期的な労作。今では貴重な傑作装幀本の数々をカラー頁を設けて紹介。詳細な年譜・著作目録も付す」と。カバーにはさらに仕掛けもあって、裏返しても使えるものとなっています(店頭にて現物をご確認いただくことをお薦めします)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。カラーグラビア「ゲテ装本・書物展望社本、少雨荘の本」はただただその美しさにため息が出ます。
★類書には八木福次郎『書痴斎藤昌三と書物展望社』(平凡社、2006年)があります。また、晶文社さんでは出版人列伝として近年では、カルロ・フェルトリネッリ『フェルトリネッリ――イタリアの革命的出版社』(麻生九美訳、晶文社、2011年、ISBN978-4-7949-6756-5)も刊行されており、話題を呼びました。さらに同社では国内の出版人や書店員の様々な自伝的著作を出されていることも周知の通りかと思います。なお、晶文社さんの近刊書として、松岡正剛×ドミニク・チェン『謎床――思考が発酵する編集術』(晶文社、2017年7月上旬発売、本体1,700円、四六判並製360頁、ISBN978-4-7949-6965-1)が予告されています。たいへん楽しみです。
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